どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百三十八章

 

 ──話し合いは決着がつかず、ウラヌスはネテロから条件を提示された。

 

 3日やるから結論を出せ、と。

 

 大人しく身柄を引き渡すか、抵抗するか。

 

 なぜ3日なのかと、ウラヌスは訝しんだ。更に援軍を呼ばれる可能性もあるが、自分も時間がほしいと言った手前、拒否はしづらい。なにより、自分自身がどうすべきか結論をまだ出せないでいた。

 

 その為、一旦はネテロの提案を呑まざるを得なかった。

 

 しかし、本当に3日与えるつもりなのか分からない。いきなり襲ってくる可能性もある。

 

 アイシャ達と相談すべきかどうかも考えがまとまらず、旅館で桜を頭に乗せて、延々と悩むウラヌス。部屋に差し込んでくる優しい昼下がりの明かりを浴びても、一向に気分は良くならなかった。

 

「なぁ……桜。

 どうするべきだと思う?」

「うにゃ? にゃう」

「分かんねぇよなぁ……俺にも分かんねぇもん」

「にゃ、にゃ」

「……いや、そうは言ってもさ。

 俺、アイツラと戦いたくねーもん。もうやだよ、疲れた……

 戦うのも、パリストンの目論見通りみたいでイヤだしさ。なんなんだよ、アイツ……」

 

 珍しく桜を抱っこし、布団の上でゴロゴロするウラヌス。

 

「ネテロのやつも、なんなんだよ……

 約束したじゃねーか、もう手は引くって……

 これじゃフリダシに戻ってんじゃねーか。くっそぉ……どうすりゃいいんだよ。

 次やって、勝てる保証なんかねぇし……」

「ふにゃん」

「……なんかオマエ、今日は優しいよな。

 どうしよっかなぁ……

 アイシャを怪我させるわけにはいかないし、準備万端で来られたら俺1人じゃ勝てっこねぇし」

「にゃう? にゃ、にゃ!」

「……いや、そういうわけにもな。

 今回は俺の交渉ミスみたいなもんだしさ。……それに、みんな心配するよ。

 けど……んー……」

 

 うにゃうにゃと、にゃんこ2匹は布団の上で寝転がり続けた。

 

 

 

 

 

 夕方。修行を終えた私達は、攻略に勤しんでいたウラヌス、そしてユリさんと合流して食事。ジェイトサリさん達の協力で、シルバードッグの入手に手乗り人魚が必要らしいということまでは分かったそうだ。ところが手乗り人魚のカードやアイテムを使ってみても、上手くいかなかったらしい。使い方や場所が間違ってるのか、実はフェイク情報なのかで悩まされているとのこと。

 

 ユリさんは何とも困った顔で、

 

「どう思う?」

「難しいですね……

 フェイクだったとしても、そうだと断定できる材料もないですし」

「手乗り人魚を使うってのが良く分かんねぇしな。

 前の時が、金粉少女から出た金粉をドッグフードに混ぜて、街のどっかにいるアタリの牧羊犬に与えりゃいいってもんだったから……」

「そうよね。

 だから、正解の牧羊犬に手乗り人魚を使えばいいんじゃないの?

 って思ったんだけど……」

「んー。前にも金粉って一捻りがあったわけだから、同じように何かいるんだろうな。

 ……歌とか?」

「でもさー。全部の犬に手乗り人魚の歌聴かせるとかもやったのよ?

 ぜんぜん反応なかったけど……」

「……分からん」

「すいません。私にも……」

「やっぱり? 困ったわー……」

 

 そろって溜め息を吐くユリさんとウラヌス。

 

「その様子だと、ウラヌスの人探しも難航しているみたいですね」

「うん……

 こっちは見つかるかどうかってだけの話だけど。でも、もし子供が1人も居ないんじゃ完全に徒労だもんなぁ。

 若返り薬使ってくれる協力者探した方が早いかも」

 

 今日も収穫なしか。修行の方はなかなか手応えあったんだけどな。特にシームが。でも攻略が不調だとね……ウラヌスも妙に元気ないし。

 

 ユリさんがゴロンと寝転がり、ちょこんと正座してるウラヌスの膝を枕にする。

 

「ねぇ桜ー。耳掻きしてー」

「アホか。自分でやれ」

「んふふー。おひざプニプニ。このまま寝ちゃいたいなぁ」

「重いっつうの」

 

 今日はジェイトサリさん達が同席してないから、ユリさん遠慮がないな。多分おじ様、遠慮してくれたんだろうな。

 

「ハイループってさ。

 まんま牧歌的でのんびりした空気だから、忙しくバタバタしてるのがバカらしいのよね。桜と一緒に遊びたいのになぁ」

「まぁそんな焦んなくてもいいさ。何か見落としてもいけないし。

 骨休めに、ハイループでのんびりするのも悪くないけど」

「ホント?」

「余裕があればね。今はまだ無理だよ」

 

 んー。ウラヌス、妙に余裕なさげなのが気になるな。何かあったんだろうか?

 

 

 

 夕食を終えて、ユリさんと別れ。宿に戻った後、ちょっと2人で話したいことがあるとウラヌスが言ってきたので、桜をシームに預けて、姉弟には隣の部屋へ行ってもらった。

 

「なんです? 改まって」

「うん……

 すっごく言いにくいんだけどさ……」

 

 

 

 ──男の娘説明中──

 

 

 

 昼間にあったことをウラヌスから聞いた私は、「なるほど……」と息を吐いた。

 

「……散々でしたね」

「マジでネテロの野郎、ブッ飛ばしたい。

 いやまぁアイツの良心に付け込んだのはコッチだし、やむにやまれない事情があるのも分かるんだけどさ」

「ネテロが悪いわけではないと思いますよ」

「分かってるって。

 ……どっちかっつうと、パリストンなんかを副会長にしたことにムカついてるし。マジあいつ殺したい」

「パリストンですか……」

「アイシャはどう思う?

 まだ証拠を掴んでないし、推測ではあるけど」

「んー……

 私もパリストンが黒幕ではないかと思います。他に疑うべき人物がいないですし」

「容疑者の筆頭ではあるよね。

 あと疑うとしたらネテロになっちゃうから。

 アイツが副会長になってからンな時間経ってないのに、協会もずいぶん腐っちゃったよ……」

「以前はそこまで酷くなかったんですよね?」

「パリストン自体は、前から酷かったけどね。俺も痛い目に遭わされてるし。

 でも露骨になってきたのは、ここ最近かな……

 まぁともあれ、今はパリストンのアホより討伐隊だよ。どうしようかなって」

「2人の身柄を引き渡すつもりは、ないんですよね?」

「ないよ。

 ただ今回敵対するなら、決闘じゃなくガチの殺し合いになる可能性がある。

 ……特に、2人の命を保障できない」

 

 メレオロンとシームがハントされる、か。向こうの選択肢としては当然あるだろうな。……くそ、NGLのことがずっとチラつくな。

 

「大人しく引き渡せば、直近で死ぬ確率が下げられるのは間違いない。

 ……けど、死なないだけで悲惨なことにはなるかも。シームがそうだったわけだし」

「もう、二度とそんな目には遭わせたくないですね……」

「もちろん。

 残り3日でクリアなんてまず不可能だし、クリア前に逃げるわけにもいかないし……

 ホント困っちゃった。はぁー……」

 

 道理でウラヌスの溜め息が多いわけだよ。残り3日じゃ流石に無理だろうな。

 

 にしてもパリストンか……。水着のポスターの件を抜きにしても、黒の書の前例があるからな。それらの件は、ネテロにちょっかいを出す為にやったと言われれば納得もいく。……でもシームの件は別だ。外道の所業と言わざるを得ず、到底許し難い。

 

「……私も、パリストンはハントしてやりたいですね」

「えッ!? マジ?」

 

 目を丸くするウラヌス。おっと、いらんこと言っちゃったか?

 

「ま、まぁ……

 私も個人的に痛い目に遭わされてまして」

「俺も俺も。

 半分はアイツのせいで、ハンターとしての活動控えたぐらいだもん」

「そうなんですか?」

「……大恥かかされてね。

 そのことは絶対に許さないと思ってる。……アイシャも?」

「……私も許せないとは思っています。今回の件を別にしても」

 

 黒の書が世に出回り続けた一因だからな。そりゃもう絶許だよ。

 

「狩っちゃう? 2人で協力して」

「……犯罪行為は困りますけど、正々堂々ハントできるなら喜んで」

「うん。

 えーと……ハンター十ヶ条、其乃四。

 ハンターたる者、同胞のハンターを標的にしてはいけない。但し甚だ悪質な犯罪行為に及んだ者に於いてはその限りではない──ってのが立ちはだかるからね。

 証拠を掴めるかどうか、難しいところだけど」

 

 ハンター十ヶ条……そんなのあったのか? ……あれ? そういえば私、ビーンズからプロハンターに関する説明、ちゃんとされてない気ががが。

 

「あの……

 話の腰を折ってすいません」

「ん。なに?」

「……ハンター十ヶ条って、なんですか?」

「へ?」

 

 ウラヌスがものっそ目を丸くしてる。……おおぅ。

 

「え? 聞いたことあるよね?

 最低でもライセンス受け取る時に説明あったでしょ?」

「えぇっと、その……

 私、最終試験を受ける前にネテロから直接合格をもらってまして……」

「……

 アイシャ、も?」

 

 ……。ん? アイシャも、ってどういう意味だ?

 

「うそー……俺もそうなんだけど。

 最後まで試験受けずに、ネテロから合格もらった」

「え?

 ──えええっ!? ホントですかっ!?」

「まじマジ。

 まともにやったら合格できないって事前に分かったから、イチかバチかネテロに直談判してさ。オマエと決闘して、勝ったらライセンスよこせって」

「ムチャクチャしますね……」

 

 私と似たような状況ではあるけど、事情はずいぶん違うな。私は逆にネテロから戦いを挑まれた側だし。合格と勝敗は別だったからね。……ん?

 

「もしかしてウラヌス、ネテロに勝ってプロハンターに?」

「……んーにゃ。

 前にも言ったけど、俺の負け。指1本触れられなかった。

 百式観音でボッコボコにされたからね。あんなもん初見じゃ無理だよ……

 でも敢闘賞だっつって、プロハンターにはしてくれたよ。……お情け合格で腹立たしいけど」

「そうでしたか……」

 

 百式観音に対して、初見で太刀打ちできないのは当然だろう。それでも後々に攻略法を見出せるほど戦えたのであれば、確かに敢闘賞ものだ。……私には無理だったからな。

 

「話が逸れたけど、アイシャは誰からランセンスもらったの?」

「……ビーンズさんですけど」

「俺も。

 ……じゃあ悪いのはビーンズじゃんか。俺の時は説明されたよ? 協会の規約とか」

 

 あー……んー……確かにそのタイミングで説明してもらうしかなかったはずだな。でもあの時は私も急いでたし、その辺の確認怠ったからなぁ。

 

「私もバタバタしてまして、聞きそびれてしまいましたね……

 なので、ビーンズさんは悪くないですよ」

「いやぁ?

 あいつ重要なポスト就いてるのに、そんなミスしていい立場じゃないけど?

 ……ライセンスに関する説明、ちゃんとしてもらってる?」

「あ、そっちは大丈夫です。

 手渡ししていただいた時に説明してもらいました」

「んー。ついでに聞くはずなんだけどなぁ、その時に。

 最近は十ヶ条についての説明はしてないのかな?」

「いえ……

 ちょうど私がバタバタしていたのもあって、説明を省かれたのかもしれないですね」

 

 私とネテロが知り合いだと、ビーンズも察しただろうしな。後でネテロから直接伝えるだろうと思ったのかもしれない。

 

「ふぅん……

 まぁいっか。十ヶ条は後で説明するよ。

 にしても俺達、偶然とは思えないぐらい同じことしてるね」

「そうですか?」

 

 私が首を傾げると、ウラヌスは楽しそうにうんうん頷き、

 

「2人とも、ネテロから直接プロ合格もぎとってるじゃん。

 忍者の里を潰したがってるし、パリストンも狩りたがってるし。……あとまぁ、性転換とか?

 やったこと、やろうとしてることが被りまくってるなって」

「まぁ……そうかもしれませんが」

「ふふ。

 こんなムチャやってるのは俺1人だけだと思ってたから、ちょっと嬉しいよ。心強いな。

 アイシャと友達になれて、ホントによかった」

「ふふ、そうですね」

 

 それは否定する余地が無いな。私も友達になれてよかったよ。

 

「パリストンのことは外に出てから考えるとして、まずは討伐隊だね。

 とにかく撃退するしかないんだろうけど、キッツイなぁ……

 知り合いだから、やりづらくて仕方ない」

「その……私もです。

 ノヴさんという方は、私の命の恩人なんですよね。なので……」

「うん、聞いた聞いた。

 ……っていうかアイシャ。NGLで死にかけたって聞いたんだけど?」

 

 責めるような目つきのウラヌスに、私はたじろぎ、

 

「ま、まぁ……

 キメラアントの王は、途轍もなく手強い相手でしたから……」

「じゃなくて、だったら一旦退いて仲間と戦えばいいじゃん。

 逃げられなかったの?」

「……難しい状況ではありましたね。

 仲間は居たんですけど、実力差がありすぎて一騎打ちするしかなかったんで……」

「ネテロも居合わせたみたいだけど?」

 

 ぅ。

 

「その……」

「アイシャのことだから、どーせ1人で戦おうとしたんでしょ? 手を借りようと思えば、借りられたのに。

 だったら、死にかけた俺のこと悪く言えないじゃんか。ズルイ」

「そ、それとこれとは──」

「過ぎたことだ、っつーなら俺の件も同じだよね?

 俺にだけ『危ないことはもうしない』って約束させといて、それは不公平じゃない?」

「……」

「ゴン達にも叱られたんじゃないの?」

「……。

 叱られました。なので、もう勝手なことはしないって約束しました」

「ん。

 で、俺とはそういうの何もなし?」

「…………」

「ふぅん。俺とアイシャってその程度の仲だったんだ?

 ま、いいや。それならいいです。

 俺が心配してるのなんて、別にどうでもいいんでしょ?」

 

 むくれて、そっぽを向くウラヌス。あぅぅ。

 

「そんなわけないじゃないですか……

 ……分かりましたよ。約束します。あなたに黙って、勝手なことはしません」

「なんか軽いなぁ。

 交換条件出さないと、約束破ってもペナルティなしじゃ意味ないしー」

 

 じゃあ、どうしろって言うんだ。……完全にウラヌスのペースだよ、もー。

 

「こうしよっか。

 アイシャが相談なく勝手に危ないことしたら、俺が1回危ないことしても、あのことは3人にバラさない。どう?」

「え? いや、それは待ってください。

 あなたが危ないことをしてもいいなんて……」

「それぐらいじゃなかったら、アイシャ約束破りそうじゃん。

 約束守る気があるなら、問題ないでしょ?」

「そ、……それはそうですけど」

「キマリだね。

 じゃ、討伐隊について説明するよ。まずアイシャも知ってるノヴの能力だけど、ん?」

 

 ガンガン話を進めようとするウラヌスが、言葉を止める。……隣の2人が動いてるな。こっちに来るっぽい。

 

 トントントン、とノック。

 

「入っていい?」

「ああ、いいよ」

 

 ウラヌスが返事した後、桜を抱えたシーム、付いてメレオロンが入ってくる。

 

「どうしたんです、2人とも?」

「うん……

 桜の元気がなくて」

 

 おや、なんでだろ。確かにシームの腕の中で項垂れてるな。

 

「ウラヌス、どうしてか分かりますか?」

「んー……

 異常はなさそうなんだけどな」

「アタシも大したことなさそうって言ったんだけどね。

 2人で大事な話をしてる最中みたいだし、邪魔しない方がいいんじゃないかって止めたんだけど」

「だって……」

「ふにゃ」

 

 ふむ……

 

「2人にも話した方がいいんじゃないですか?

 回避できないのであれば、早いうちに」

「そうだね……

 引き渡すつもりなんてないから、もう伝えた方がいいか」

「何かあったわけ?

 ……その口ぶりだと、なんとなく予想はつくけど」

「言いにくいんだけどな……

 ネテロのやつが裏切った。仲間を引き連れて、また来やがったよ」

「えっ!?」

「にゃん」

「そんなことだろうと思ったわ。

 何があったの?」

「今から説明するよ。

 知っての通り、俺は今朝から若い人間を探しに行ってたんだけど──」

 

 あれ? 桜、なんだか元気になってる。……ひょっとして桜、2人にも早く伝えた方がいいと、気を利かせてくれたんだろうか。

 

 

 

 

 

 モラウとナックルが様々な事態を想定してゲーム内で状況を整える間、ネテロとノヴは現実へと帰還していた。ネテロ自身が現実でやるべきことがあり、ノヴが速やかな移動に不可欠だからだ。

 現実の港へ戻った後、4次元マンションでスワルダニへと戻る2人。誰も居ない廃屋に現れ、そのままネテロは歩いていこうとする。

 

「ネテロさん、どちらへ?」

 

 足を止めるネテロ。何事か考え、

 

「……今度ばかりは、敗れるわけにはいかんからの。念入りに備えさせてもらう。

 3日後──今日が22日じゃから、25日の朝にまた会おう。場所は追って知らせる。

 念の為、お主はそこに隠してあるゲーム機を回収して、移動させておいてくれんか?」

「分かりました。回収してマンションへ入れておきます。

 増援は必要ですか? 必要なら、そちらも私が手配しますが」

「……いや、必要ない。

 あやつらの返答次第では、藪をつついて竜を出すことにもなりかねんからな。

 ワシらだけで対処した方が、後々のことを考えてもよかろう。じゃからお主も、充分に備えておくことじゃ」

「心得ました。

 ……あまり気は進みませんが」

「ワシもじゃよ。

 パリストン関連は充分警戒しておけ。動きを悟られんようにな」

「はい」

 

 ネテロは、とうの昔に潰れた店舗から外へ出ていく。

 

 ノヴはしばらくその場に留まり、話し合いの場では告げられなかった言葉をクチにした。

 

 

 

「……ウラヌス。

 

 その甘い考えで誰か犠牲になったとしても、キミは耐えられるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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