どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 討伐隊戦の執筆BGM:FFⅣ『The Dreadful Fight』







第二百四十章

 

「──魔法使いに、3度も同じ技が通じると思った?

 2人は、ぜったいに渡さない」

 

 

 

「……承知した。ならば力尽くで奪うま──」

 

 

 

 言い終える前、ネテロが祈る。その背に巨大な観音像が現れ、側面から迫る掌底が桜を叩く軌跡が、かろうじて網膜に残った。

 

 

 

 ガンンッッッッ!!

 

 

 

 ──その一撃を、桜は右の腕刀で完全に受け止めきっていた。掌底を止めた姿勢のまま、ビクともしない。

 

 

 

『なぁッッッ!?』

 

 数人の驚愕する声が重なる──私も含めて。……有り得ない光景だ。不可避の速攻に、それも初撃に防御が間に合うなど、私も想像すらしたことがない。

 

「……貴様、なにをしよった?」

「えー?

 それ聞いちゃう? 教え──」

 

 今度は桜が言い終える前に、再度百式観音が手刀で上から斬り下ろさんとする。

 

 

 

 びちッッッ──ざぅッッ!!

 

 

 

 後から響く音。遥か音速を越えるはずの手刀が、桜の真横に振り下ろされていた。何の意味もなく、岩場を切り裂いている。

 

 桜は、手刀を弾いたような腕の形のまま、場に留まっていた。

 

「……」

 

 間に合っている、のだろう。二度も続けば偶然ではない。策でもなんでもなく、今の桜なら防ぎうる速さということか……? そんなバカなッ!?

 

 百式観音を破られたはずのネテロは、シワを深くしながら怪訝な顔を隠そうともしない。

 

「やはり何かしておるな……」

「んにゃー。

 私が話してる最中に攻撃しといて、なに言ってっかなー?

 教えてあげてもいいけどって、私言お──」

 

 

 

 ゴッッッ!!

 

 

 

 左右から挟むように迫り来る掌打を、桜は両肘を突き出して食い止めた。

 

 ──待て。今のは私の目でも攻撃を捉えられたぞ。……ネテロが手を抜いた? そんなことは有り得ない。かつての戦いで、ただの一度も百式観音の攻撃を目視できたことなどなかった。厳密には見えないこともなかったが、加速した意識に映る本当に刹那の動きだ。オーラの流れを操ることのみ可能な、ごく僅かな時間。だが今のは──

 

「んにゃさ。

 聞く気がないなら、聞くのやめてくんない?」

「……」

 

 今度はネテロも言葉を発しなかった。ネテロにとっても、かつてない経験なのだろう。

 

「そろそろ、こっちから行くよー」

 

 桜が前方にゆるりと一歩を踏み出そうとした瞬間──

 

 正面から迫った掌底を、合わせるように桜が手を突き出し、ズンッッ!! と受け止めた。揺れたのはむしろ観音像の方だ。桜は一歩も退いていない。

 

「──まさかっ!?」

 

 いや、今の攻防で確信した。どうやってるかまでは分からないが、桜はおそらく──

 

 バァンッ! ガツッッ! ドンッ!

 

 ネテロが更に百式観音で3連撃する。間も感じさせないほどの速さで繰り出したはずの攻撃を、桜は全て捌き切った。

 

「無駄無駄ー。

 おじーちゃん、トボケて同じこと繰り返してんじゃないよー?

 効かないってのが、まーだ分かんないの?」

「偽るでないわ。

 効かんのなら防ぐ必要もあるまい」

「いやまぁ、殴られて面白いわけないし?

 防御が間に合ってんだから、無駄撃ちだって言ってるだけで」

「ただ防いでおるわけではあるまい?

 ──ワシの攻撃が、僅かに遅らされているようじゃな」

 

 桜が小さく口笛を吹く。やはりそうか……! それで私の目でも捉えられたんだ。

 

「すごーい。もう見破ったんだ?」

「見くびりおってからに……

 いつものような能力発動の素振りすら見せんと、いったいどんな手品を使いおった?」

 

 楽しげに桜は身体を傾げながら、

 

「んふー。いいよ、ご褒美に教えてあげる。

 

 ──【多角斥力波/マルチリバウンド】。

 

 特異点に過剰な速度で迫る圧力を、真逆の向きへ反発する。ま、簡単に言えばだけど。細かい理屈は教えない。めんどいし」

 

 ……は? なんだ、その能力は。そんなことが可能なのか? 念能力も万能じゃない。仮に可能だとしても、能力の強さに比例してオーラの消耗や制約も強まるものだ。そんな能力、実現するのに一体どれほどの──

 

「ふむ……

 それで攻撃が届くまでの時間を稼ぎ、威力も削いでおったわけか。

 よほどの能力と見受けるが、それではワシよりお主のオーラが尽きる方が早かろうて」

「ん?

 いつまでもこの状態が続くと思ってるわけ?」

「威勢がいいワリに、防戦一方ではないか。

 そこまで言うならさっさとワシのところへ来て、一撃入れてみい?」

「……」

 

 

 

 

 

 ……うっそん。もうバレちった。

 

 桜は内心、舌を巻いていた。かなりとっておきの能力だったのだが、実にしょーもない弱点がある。自分の移動までも妨げるのだ。それに特異点は自分の間近に設置するのだが、設置した後は座標が固定されてしまい、移動もさせられない。場所を変えたいなら、一度消して設置しなおす必要がある。

 

 ゆっくり動く分には問題ない。しかし急速に動きながら設置すれば、特異点から発する斥力による遅延作用が、自分に向かってくる攻撃に対して必ずしも有効に働かない。

 

 防御補助においては優秀だが、攻撃には一切適さない能力である。あくまで防げるのは、離れた場所から放たれた百式観音による自分への攻撃のみ。当然防御するその時は、足も止めざるを得なくなる。

 

「うーん……

 まぁいっか。じゃあ遠慮なく」

 

 桜はネテロへ向かって歩き出す。ネテロも必然的に百式観音を繰り出し、それを妨害。結果──

 

 

 

 ────ががががががががががががががががががががががががッッッッッッ!!

 

 

 

 百式観音があらゆる角度から繰り出す猛攻を桜は完璧に捌き続け、絶え間なく衝撃音と激しい粉塵を周囲へ撒き散らす。

 

 うへ、きっつ──

 

 軽く音を上げかけながら、ほぼ無意識に百式観音を弾き続ける桜。それでもじりじりと足を動かし、ネテロへ間合いを詰める。

 

 ネテロが、後ろへ退がった。舌打ちしそうになる桜。意地を張って、その場に留まってくれれば楽だったのだが、やはりそこまで甘くはない。

 

 一息も入れず百式観音を撃ち出すネテロの表情を見ると、笑っていた。楽しげに。汗をかきながら、両腕を(と )(ど )なく様々な祈りの型へ切り替えながら。

 

 それを見た桜も、思わず貰い笑いする。相手を全力でサンドバッグに出来るのだから、そりゃネテロは楽しいだろう。される方はたまったものではないが。

 

 少しずつ移動速度を上げる桜。ネテロの祈る動きは、元々目の力で捉えていた。しかし祈りの型からどんな攻撃を繰り出されるか、それを今までは充分知り得なかった。だが、これまでの経験と現在進行形の蓄積が実を結び、徐々に攻撃パターンが見え始めている。事前予測によって生まれた、ほんの僅かな防御行動の隙間を縫い、桜は移動速度を速めていた。

 

 桜の前進が速まるにつれ、当然ネテロの後退も同様に速まる。──が、このまま続けば間合いは詰まる一方だ。桜が力尽きない限り、決定打がないのはネテロも同じである。

 

 しかしネテロが力尽きるかと言うと、桜は疑念を抱いていた。ネテロの中に蓄えられたオーラ量──生命力と精神力が数日前より増大している。特に精神力が異常に増えていた。どういう理由かは知れないが、このまま削りあっても埒が明かない可能性を桜は危惧していた。

 

 

 

 

 

 ──マジ、かよッ……!?

 

 怪物同士の激戦を目の当たりにし、ナックルは戦慄していた。

 

 ナックルにとって、ウラヌスはよく見知った相手だった。厳密には古い知り合いであり、ウラヌスが11歳の頃に初めて出会っている。

 

 その時点のウラヌスの潜在オーラ量は、40万程度。ナックルの知る最盛期でそれほどのオーラ量を誇り、以降は年月を経るごとに低くなっていった。

 

 ウラヌス自身から昔は55万あったことをナックルも聞いており、若返っていたことからそれだけのオーラ量は保有しているだろうと覚悟していた。

 

 ──それどころではない。

 

 40万というオーラ量がどれほどのものか知っているはずのナックルにすら、現在の桜のオーラ量はまるで計り知れなかった。直接身体に触れるなどすればまだ分かるだろうが、目視では到底測量できない。桜が一瞬しかオーラを放たず、更に『隠』で見えづらくしており、ナックルにオーラを測らせまいとしているのは明らかだった。

 

 共にいるモラウとノヴが、ウラヌスのオーラ量を聞きたがっているのは分かっていたが、2人にどう伝えればいいかナックルには分からなかった。

 

 ナックルは歯軋りした後、

 

「アイツ……!

 どんなに少なく見積もっても、潜在オーラが100万以上ありますッ!!」

「ナ──ニィィッッ!?」

 

 驚愕するモラウ。表情を険しくしたノヴが、

 

「信じがたいな……

 だが、それが真実なら」

「ええ……

 オレが【天上不知唯我独損/ハコワレ】を入れても、あいつがトぶまでに100ターン近くかかっちまいます……! そんなもん、持つわけがねェ!」

 

 そもそもナックルが頼まれていたのは、まだ未知数であったアイシャのオーラ量測定である。ウラヌスのオーラ量はある程度予想はついていたからだ。

 

 全くの誤算である。そもそも百式観音を捌くような相手にナックルが一撃を入れられるはずもなく、能力も完全にバレている為、容易く対処されるのも目に見えている。

 

 このままいけば、ジリ貧はネテロの方だろう。向こうはまだアイシャを戦力として残し、ネテロでなければそちらも対処できないと討伐隊の面々は聞いていた。

 

 つまり討伐隊の勝機は、ネテロがウラヌスとアイシャ両方と戦い、それをサポートする以外にない。本来なら2人がかりでネテロに挑んで来るであろう想定だったが、全く予測していなかった展開だ。

 

 現状を打破するには──誰かが動かなければならない。

 

 モラウが場から離れた。全員からある程度の距離を置き、手にしたキセルを大きく吸う。大量に煙を吐き出し──

 

 

 

 

 

 その行動を目にした桜が、口の端を笑みに歪めた。

 

 

 

(み )えざる(かみ)獣よ(けもの )

 憤怒(ふんぬ )(もっ)天地(てんち )轟け(とどろ )  破壊(は かい)(きざ)爪牙(そうが )螺旋(ら せん)す──」

 

 

 

 前進を止め、移動に回していた余力を指先に向ける桜。腕一本を使わずに防御しながら空間に神字を刻み──

 

 

 

「──【豪龍/ワール】──」

 

 

 

 ごごごごごごごごごごごごッッッッッ!!

 

 突如モラウの足元から竜巻が発生した。あっという間にモラウの身体を、小型と言えど強烈な風速の竜巻が包み込む。激しく荒れ狂い、ところどころ雷撃すら迸る。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!?」

「ボスッ!!」

 

 モラウが口から出していたオーラを加工した煙──更には手にしたキセルが竜巻に巻き上げられた。吐き出した煙がズタズタに引き千切られ、キセルが上空へと跳ね上げられる。竜巻から強引に脱したモラウが、それを追って飛び上がる。

 

「アイシャ!」

 

 桜の呼びかけに言葉で応えず、アイシャは念弾を放った。

 

 ボゥッッ!!

 

 モラウが追いつくより遥かに速く、攻撃がキセルに着弾。キセルは念弾の威力に一瞬も耐えられず、粉々に砕け散った。

 

「──くそぉッッ!!」

「しゃあっ!」

 

 毒づくモラウ、喜ぶ桜。これで厄介だったモラウの能力を完封した。予め打ち合わせをしていた作戦の1つだった──桜がモラウのキセルを弾き飛ばし、アイシャが破壊する。

 

 着地した途端、倒れ伏すモラウ。竜巻に吹き飛ばされこそしなかったが、見えない刃で全身を切り刻まれ、強引に竜巻から脱出を図ったのも祟り、相当なダメージを受けていた。この戦闘が終わるまでにまともに動けるようになるかも怪しい状態だ。

 

 モラウの吐き出した煙を完全に消し飛ばせたのは、桜にとって嬉しい誤算だった。本来あの竜巻に雷撃を伴う効果はないのだが、ネテロの百式観音が岩場を度々破壊したせいで粉塵が大量に撒き散らされていた。それを竜巻が吸い上げ、粉塵同士の摩擦により生じた雷撃が煙の粒子を吸着したのだ。吸着した煙の粒子は、竜巻の遠心力と雷撃に激しく干渉され、結果モラウのコントロールから離れて霧散してしまった。

 

 先ほどと打って変わり、静かに睨みあう桜とネテロ。

 

 モラウを実質戦闘不能に陥れた桜だったが、足を止めたせいでネテロに距離を取られてしまった。百式観音の射程外にまで逃れても意味がないからだろう、ネテロも足を止めている。百式観音自体も放つのをやめ、変化した戦況を見積もるネテロ。

 

 先ほどの展開に戻す利はネテロにはない。途中で力尽きなかったとしても、百式観音を放てば放つほど、桜は先読みの精度を高めている。このペースでは遠からず詰むだろう。アイシャ相手にその愚を冒したネテロも、それを繰り返すつもりはなかった。ならば──

 

 敢えてネテロは、桜へと跳んだ。思わぬ行動に面食らうものの、その場に留まる桜。

 

 

 

 ──【百式観音 九十九の掌】──

 

 

 

 ネテロの背後に出現した観音像の腕が、一斉に動き出す。繰り出される掌底の嵐。

 

 ──が。それを見た桜が、ネテロへにっこりと微笑んだ。聞こえるはずもない刹那の間だが、ネテロは確かに桜の声を聴いた。

 

 

 

「そりゃ悪い手でしょ、おじーちゃん♪」

 

 

 

 桜は百式観音の掌底を敢えて食らいながら掴み、手の引き戻しに合わせて一緒に翔んだ。

 

 当然だが、百式観音の掌打はそれぞれが重なることはない。乱打の邪魔にならない──つまり腕の軌道が同時に交差することは有り得ないのだ。

 

 それによって、観音自身の腕は【九十九の掌】の安全地帯となり得た。

 

 腕を伝い、一瞬で掌打の爆撃を潜り抜け、観音像の表面を滑る軌道でネテロの真後ろへ回り込む桜。まだ空中にいるネテロが反応するより早く、

 

 ごりりッ。

 

「ぐぁっ──!?」

 

「──王手」

 

 桜はその両肩を掴み、関節を外した。ネテロの体勢が崩れた為か、九十九の掌を放っていた観音像が即座に消え失せる。

 

 空中を落ちる2人。ネテロは新たに百式観音を繰り出せないまま、ただ落下する。桜もネテロの両肩を掴んだまま落下し──

 

 直後、ナックルが決死の形相で飛び込んできた。着地直前を狙われ、そのまま顔に拳を受ける桜。が、頽れ(くずお )たのは腹にカウンターの蹴りを食らったナックルの方だった。血泡を吹いて、悶絶する。

 

「がはぁっっ……!!」

 

 桜は殴られた顔を嫌そうに振りながら、

 

「んもー……あのさぁ、ナックル。

 前から意味ないって言ってんじゃん。初見か格下の相手にしか通じないんだから、その欠陥品。

 518の貸しに対して、2000返しといたからね」

 

 ナックルのハコワレは、自分より弱い相手か、仲間と連携を取ることで本領を発揮する。事実ナックルが格上を相手する場合は、一撃入れた後に相手の攻撃を避け続けるか、一定距離を保って逃げる戦法で勝利を掴んできた。いかにもタイマン上等な外見なのに、実は逃げ足が自慢の男である。

 

「テ……テメェ……!」

「ご自慢の戦歴3000も、雑魚相手じゃなきゃ達成できないもんねぇ」

「5000だ……!」

「やっぱ雑魚狩りしてんじゃん。

 数こなすんじゃなくて、もっと質を──」

「……ウラヌス」

 

 力なく座り込んだ老兵の神妙な声音に、桜は首を傾げる。

 

「ん?

 なに、ネテロ。降参?

 それともトドメを刺せとか言っちゃうつもり?」

 

 勝利を確信している様子の桜に、ネテロは背を向けたまま、

 

「くっく。

 ……腕が動かなきゃ、祈れねェとでも?」

 

 ネテロの両肩は外れたままだ。だが桜は、ネテロが祈りの所作を取ったように錯覚した。

 

 錯覚ではなかった。ネテロが心に抱いた祈りは確かに形を成し、観音像が出現する──桜の背後に。

 

 瞬く間に桜の全身を掌衣で包み込む観音。

 

 

 

 ──【百式観音 零の掌】──

 

 

 

 桜はそれに、驚愕しなかった。アイシャから事前に警戒すべき技として聞かされていたのもあるが、百式観音を破ればネテロが意地になって全身全霊の一撃を放つ可能性があることを予測していたからだ。

 

 逆にこれを打ち破れば、ネテロは戦闘不能になり、完全勝利が確定する。耐えるのではなく、破る。その意志を持って、桜は零の掌を迎え撃つ。

 

 対してネテロは、これで桜を仕留めるつもりだった。アイシャに耐えられた経験から、次に使うことがあれば必殺の意を持って放つべしと心に決めていた。武人としての誇りが、自身の最大攻撃に耐え抜かれることを良しとしなかった。

 

 ゆえにネテロは3日近い精神統一により、かつてアイシャへと撃ち放ったそれに倍するオーラを蓄積していた。まさに渾身、全力全開のオーラを──

 

 

 

 ────ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!

 

 

 

 星に見紛うほどの光に換えて、観音像から撃ち放った。

 

 

 

 

 

 ──勝った!

 

 桜は零の掌が放たれる寸前、真に勝利を確信した。ネテロが観音像へ送り込むつもりのオーラ量を読み切ったからだ。これであれば充分に耐えられる上、捻じ伏せられる。事前予測より遥かに大きな威力になるだろうが、それでも問題ないと判断をくだした。

 

 掌衣の中にいた桜の背へ、高密度の光が浴びせられた。

 

 

 

「────がッッッ!?」

 

 

 

 桜の意識が飛びかけた。零の掌の光を背に受けた途端、桜の全身に想像を絶する痛みが走る。違う──予想していたものではない。威力は想定の内だが、桜が浴びてはいけない性質をなぜか零の掌が帯びていたのだ。そんな事態は全くの想定外だった。

 

 絶望的な苦痛に苛まされながら、神字を刻む桜──

 

 

 

 

 

「──桜ッッ!!」

 

 私は桜が観音像の掌衣へ包まれた瞬間、声を上げた。アレは確実にあの危険極まりない技だ。いかに桜といえど無事で済むはずがないと、観音像の口が湛えたオーラで分かった。

 

 止める術もなく、放たれる光の咆哮。掌衣から逃れられぬ桜へと無慈悲に降り注いだ。

 

 傍から見て、かつて自分はあんなものを食らったのかと改めて戦慄した。しかもあの時より格段に威力が向上している。私が耐え抜いてみせたことで、次こそはと更なる修行を積んだのだろう。それを桜に向かって放つなど、私にとっては悪夢でしかなかった。

 

 絶望の光をただ眺めるだけの私は、次の瞬間それこそ信じがたいモノを目撃した──

 

 

 

「────【波動歪曲/マインドストレイン】ッッ────!!」

 

 

 

 ごぅぅぅぅあああああああああああああああああッッッッッッ!!

 

 

 

 膨大な光の奔流が、捻じ曲がった──それも直角にッ!! 何が起きたか分からないが、観音像が放つ咆哮は桜を包んだ掌衣から逸れ、全く関係ない岩盤を大きく穿った。

 

 ネテロが、私も見たことがないような驚愕の表情を浮かべている。

 

 

 

 両掌を左右へ弾き、中から桜が生還した。しかし明らかに苦痛で顔をゆがめ、その場に両膝を突く。

 

 

 

 ……観音像が消えた。見るも無残な姿に変わり果てたネテロが、地面に倒れ伏す。あのような有様で、両肩の関節も外れたままなのだ。無理もないだろう。

 

「桜、ネテロ……!」

 

 私がメレオロンとシームを置いて思わず駆け寄ろうとした瞬間、悪寒が走った。

 

 

 

 ────討伐隊にいた、最後の1人がドコにも居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直感的に振り向いたその先に、弟を庇う姉へ両腕を振るわんとしている男の姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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