どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 護衛軍戦の執筆BGM:世界樹の迷宮Ⅲ『戦乱 それぞれの正義』







第二百四十七章

 

「ちっ。

 テメェの気持ちは分かるから、協力してやるけどよぉ」

「仕方ありませんね……

 我々も今一度、と願っていることです。……忸怩(じくじ )たる思いですが」

「助かるニャ……」

 

 説得を何とか終えて、ほっと一息するピトー。その様子をプフは興味深そうに眺め、

 

「……それにしてもピトー、あなた変わりましたね」

「ニャ?」

「以前はもう少し奔放な性格かと思いましたが……

 やはり彼女との戦いが、あなたを変えましたか?」

「……」

 

 護衛軍の3人は、アイシャと──桜の方を見る。

 

「しかし、まがりなりとも王と渡り合ってみせた彼女は、まだ理解できますが。

 我々を仮初(かりそ )めとは言え、甦らせたあの子供はいったい何者ですか?」

「あんま実感ねぇんだけど、あのガキがオレ達を復活させたんだよな?」

「そうニャ……

 だから今は、あの子がボク達の女王」

「納得いかねぇな……

 ホントにあんなチビが、オレ達より強ぇのか?」

「それを言うなら、彼女もそうでしょう。

 おそらく人類最強の使い手ではあるのでしょうが、決して王を打倒しうるだけの強さは有していなかったはず。……いまだに王が敗れたなどとは信じ難い」

「でも、王の気配はどこにも感じられないニャ……」

『……』

 

 沈黙する3人。プフは首を左右に振り、

 

「敗れた原因があるとすれば、我々が力及ばなかったせいでしょう……

 1対1であれば王が敗れるはずもありませんが、彼女の仲間と結託されては厳しかったやもしれません。王の障害を排除できなかったなど、護衛軍失格です……」

「……なぁ。

 もうやめようぜ、反省は。

 そんなことしたって、オレ達の王は……」

「ええ……

 私が口にしているのは、最早意味の無い懺悔です。

 それだけのこと……」

 

 桜が護衛軍の方へ溜め息を吐いてみせ、手招きする。

 

「駄弁ってるだけなら、そろそろ始めてほしいんだけど?

 私達も忙しいんだから、だらだら長引かせない」

「だってよ。

 どうすんだ?」

「……正直、私は乗り気ではありませんね」

「オレもだ」

「どうせボクから行くことになると思ってたニャ……

 協力してほしいから先陣は引き受けるけど、すぐ戦うことになるからよく観察してね」

「ええ、そちらは引き受けましょう」

「暴れるだけなら、オレの方が適任なんだろうけどな」

「ダメ。

 ……彼女を必要以上に傷つけたら、女王の逆鱗に触れる」

「だからイヤなんだよ……

 七面倒くせぇな」

 

 ピトーが1人、アイシャ達へと歩いて近づく。

 

「ボクから相手する」

「……あんた1人で?

 ホントにアイシャの相手が務まるの?」

 

 アイシャは何とも言えない表情を見せ、

 

「桜、このキメラアントは充分に手強い相手ですよ。

 ネテロに挑むのと同等の心構えが必要です」

「うーん? まぁアイシャがそう言うなら……

 とりあえずルール説明ね」

 

 言って桜は、一瞬で『円』を広げた。

 

「半径1㎞に『円』を展開したから、この中で戦うようにして。

 プフ、ユピー。アンタ達もこの『円』の範囲から外に出ないで。戦ってない時もね。

 あと、吹っ飛ばされるとかで『円』の外に出ちゃうのは仕方ないから、外に出たらすぐ戻ること。相手が外に出たら、戻ってくるまで追撃しないこと。

 他には……アイシャが怪我したら中断、かな」

「怪我にも程度があると思いますが……

 かすり傷でも中断ですか?」

「あー。流石に1日で治っちゃう程度ならいいかな。

 かすり傷とか軽い打ち身とか? そこまで制限すると、ピトー何もできないだろうし」

「……」

「でも大怪我は絶対しちゃダメ、させちゃダメ。

 もちろんピトーとか護衛軍なんか、いくらでもボコっていいけど」

「桜……」

「扱いが悪いニャ」

「いいじゃん、いちおう念獣なんだし。

 と言ってもオーラで成形したってだけで、生身とほぼ変わんないから痛みとか諸々全部あるからね? 真面目にやらないと悲惨なことになるよ」

『……』

 

 桜は少し不機嫌な顔で、アイシャとピトーを見やり、

 

「あんまりやる気なさそうだけど、アイシャはもし大怪我したら強制退島っていう約束、忘れないでね?

 これも修行の一環なんだから、ちゃんと無傷で終わらせられるよう気合い入れて」

「……はい」

「ピトーも、きっちり成果出せないなら私もご褒美出さないよ?

 アイシャに負けないくらい、気合い入れてね」

「……分かった」

「ん。──はい、始め!」

 

 パンッ! と桜が手を叩く。急な開始の合図に、一瞬固まる2人。

 

 まず動いたのはアイシャだった。近すぎる間合いを外す為、一足飛びに退く。

 

 対してピトーは、アイシャを追わず。その場で身構えてオーラを練り、迎撃体勢を取る。

 

 アイシャも退いた場所で構えを取り──そのまま互いに動かなくなった。

 

 静止したまま約20秒ほどが過ぎ、

 

「あー……こうなっちゃうかぁ。

 アイシャが待ちなのは当然だけど、ピトーも無闇に攻めたらどうなるか分かってるもんねぇ」

 

 腕を組み、難しい表情で首を傾げる桜。

 

 そうは言われても、アイシャはアイシャで実際攻めあぐねていた。攻め気に逸るピトー相手なら如何ようにも隙を衝けたが、今は戸惑う気配を見せており、流れが読み切れない。人間相手ならいざ知らず、仕えるべき主が(あるじ )不在の護衛軍など、アイシャにとっても未知の相手と言わざるを得なかった。

 

 そしてピトーは、相手を大怪我させてはいけないなどという、生前ではまず有り得ない困難な条件を提示されている。守勢であれば反応するだけだが、攻めるとなるとどう動くべきか判断できずにいた。

 

 よって、両者とも身動きが取れない。──相手が動き出すのを待っている。

 

 その2人から目を離さないまま桜は、

 

「──プフッ!!」

 

 突然、渦中の2人ではない見物人を一喝。当のプフは、驚きで目を剥いていた。

 

「……その意味の無い鱗粉、撒くのやめなさい。

 アイシャにも私にも、そんなもん効かないから。それとも、仲間の腹のうちを探るとかそんなことしたいわけ?」

 

 動揺する気配のプフ。困った顔でピトーが、怪訝そうにユピーがそちらを見る。

 

 プフの狙いは単純である。アイシャと桜の精神状態を読み取り、首尾よく交渉しようと考えていた。流石に相手が強力な念の使い手では、鱗粉で催眠状態にすることはできない。よほど衰弱させれば話は別だろうが。今はとにかく、少しでも情報を集めたかったというのが本音だ。

 

 そして、厳密には全く効かないわけでもない。初めから『知っている』桜はともかく、【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】が持つ効果──相手のオーラの流れを把握し、感情や思考を読み取ることを容易とする能力は、ボス属性でも防げない。アイシャが身体から放ったオーラには、ボス属性の効果が及ばない為だ。

 

 が、ボス属性では防げないだけで、天使のヴェールや『絶』なら容易く防げてしまう。本来なら『絶』は麟粉の催眠作用への抵抗を下げてしまう危険も伴うが、催眠に対してはボス属性が任意の『絶』を無視して防御性能を発揮する。──つまり知ってさえいれば、アイシャにも対処可能だった。

 

「ったく……

 魔法使い相手に、ネタが割れた手品を自慢げに見せんじゃないっての。

 ピトー。なんか期待してたかもしんないけど、無駄だからね?

 アイツのやることなすこと、大体分かるから」

「……別に期待してないニャ」

「そう? じゃあ、目の前のことをがんばってね。

 いつまでも様子見してたら困るにゃ」

 

 仮にプフが桜を催眠状態に陥れたとしても、その状態で(な )しうることには限界がある。ヘタをすれば、桜を無力化したその瞬間に自分達は消えてしまうだろう。

 

 ──やるしかない。

 

 死した身であってもなお叶えたい、ただ1つの願いを成就する為、ピトーは困難に挑む覚悟を決める。

 

 その覚悟を見て取り、アイシャも精神を研ぎ澄ませた。かつて到ったあの精神状態へと近づけていく。

 

 空気が張り詰める。そんな中、アイシャが瞬き一つ──

 

 次の瞬間、ピトーが疾駆。致命傷ばかり狙っていた以前と違い、大地を這うように身を低くし、足を狩る蹴りを放つ。

 アイシャは退いて回避し、即座に詰める。ピトーは下から掬い上げるアッパーを放つと見せかけ、肘撃ちに切り替える。

 その肘を受けながら絡めとり、関節を破壊しようとするアイシャ。投げ飛ばされるのを覚悟で体当たりするピトーを、アイシャは関節を極めたまま大地に叩き伏せる。

 追撃せず離れたアイシャの居た場所を、ピトーのシッポが薙ぐ。不用意に立ち上がらず、地に低く構えるピトー。

 

 お互い一度死闘を繰り広げた相手だ。両者とも手の内を知る者の立ち回りをしている。ただ、受け攻め自在のアイシャに対し、ピトーは攻めあぐねていた。

 

 以前とは明らかに立場が逆なのだ。あの時のアイシャは護衛軍の力量を測る為、戦いを意図的に長引かせていた。対し、ピトーは常に必殺を狙っていた。

 今のピトーは、アイシャを不用意に傷つけてはいけないという枷を付けられ、攻め手を制限されている。逆にアイシャは、いつでもピトーを仕留められる。仮にそうでなくても、両者には埋め難い実力差があり、勝機がほぼないことはピトーも理解していた。

 

 この状況に複雑な顔をする桜。全身から不服そうな気配を漂わせている。『円』越しにそれが伝わり、ピトーの思考を更に追い込んでいく。

 

 脚部をパンプアップさせるピトー。猛烈な速度で飛び掛かってきたピトーをあっさりといなし、大地へ全身を叩き伏せるアイシャ。土中へ埋まるピトー。

 

「がはっ……!」

 

 アイシャは一瞬考え、追撃せずに距離を取る。陥没した地面から這い上がって、構えるピトー。その目に覇気はなく、深い絶望で澱んでいる。

 

「おいおい、ピトー。

 そんなもん見せられても、どう参考にすりゃいいんだ?」

「らしくありませんね……

 勝てないにしても、相手の実力を引き出していただかねば、我々としても見物の甲斐がありませんよ?」

 

 桜は腕組みしたまま溜め息を吐き、

 

「仲間からもダメ出しされてんじゃん、ピトー。

 慎重に頭使って立ち回ってる時は悪くないけど、無理攻めした時にダメージもらってる。

 正面から攻めても勝てないって、ちゃんと分かってる?」

「……っ」

 

 慎重と言うより臆病なピトーの動きは、結果としてアイシャに衝かれる隙を減らしてはいた。アイシャ自身も迂闊に怪我はできない為、傷つくおそれのある無闇な攻撃は控えている。

 

 アイシャが慎重に立ち回ることで、尚更ピトーは攻め手を欠いていた。

 

 ──【黒子舞想/テレプシコーラ】──

 

 能力を発動させるピトー。その僅かな隙に、アイシャはピトーの全身を数撃殴打する。血を吐きながらピトーの肉体は黒子任せに稼動するが──

 

 最大最速をもって放つ攻撃のことごとくが避けられ、大きな動作は柔の技で捻られる。今までにも増して戦いは一方的になっていた。

 

「──くそぉぉッッ! 当たれ、当たれぇぇッ!!」

 

 攻撃する威力・速度・精度をいくら引き上げようと、死後強まる念ですら通じなかったアイシャに通じる道理が無い。むしろ動きは単調になり、何度も弾かれて大地へ度々沈むピトー。

 

「あああああああっっ!!」

 

 矢継ぎ早というより破れかぶれに攻め立てるが、黒子に操られていようとピトーの意識通りの動きでしかなく、アイシャの先読みには到底敵わなかった。

 

 ──見るに見かねてアイシャがトドメを刺そうとした寸前、桜が動いた。

 

 両者の間に割って入り、ピトーの頭を掴んで大地に叩きつける桜。硬度を増した大地で、顔面を潰されるピトー。

 

「ぐがッッ!?」

「桜……!?」

 

 急停止して戸惑うアイシャに、桜は空いた手を振ってみせ、

 

「ごめんアイシャ、ちょっとタンマ。

 ……ピトー、アンタさ。

 アイシャに怪我させちゃいけないってルール、もう忘れてるでしょ? ……ま、いくらやっても掠り傷1つアイシャは負わないだろうけどね。動きが単調すぎる」

「……」

「真っ向勝負じゃ勝てないって、分かってたよね?

 じゃあなんでするの? 私、そんなことお願いした?

 ちゃんと、アイシャの特訓になるようなことをしてよ。分かった?」

「……申し訳、ありません」

「謝らなくていいから、ちゃんと考えて戦って。破れかぶれなんて、もってのほか。

 少しだけ回復させたけど、次はないよ? 無駄なことをしない」

 

 桜はピトーの頭を掴んでいた手を離し、アイシャの方を見る。

 

「ごめんね、アイシャ。不安的中しちゃった。

 今のアイシャがピトーと正面からやりあっても、特訓になんてならないもんね?

 ここまでは準備運動だから」

「桜……」

「まぁ本音を言うと、ピトーが悪いんじゃないんだよねぇ。

 問題はあっち。向こうにも文句言ってくる」

 

 親指で、見物を決め込んでいる2人を差す桜。そちらへ歩きながら、

 

「ピトーが追い詰められてんのに、なに傍観してんのバカ2匹。

 さっさと援護しろよ」

「……彼女の凄まじい手練れぶりに、戸惑いましてね。

 やはり我らが王と渡り合ってみせた実力は伊達ではないことを、再認識しましたよ」

「ピトーがボコられてんのは、あいつが弱いからだろうが。

 なんで手助けする必要があるんだ?」

「はぁ? ピトーがこのまま負けたら、次はお前がボコられる番だろうが。

 ユピー、お前アホだろ?」

「あぁッ!? このガ──」

 

 ──ゴガッッ!!

 

 瞬時に動いた桜が、ユピーの頭頂を真上から叩き、全身を大地へねじ伏せた。

 

「ぎぃぃッッ!?」

 

 倒したユピーの後頭部をドンッ!! と踏みつけ、

 

「……まずオマエラは、自分が雑魚だという自覚を持て。

 基本的に相手を見下してるから、こんな攻撃も避けられない。油断、無能、隙だらけ。

 お前だってアイシャの仲間に負けた分際で、なに偉そうにしてんだ?」

「ぐぬっ……!」

「ただ力で戦うしか能がないなんて、地を這う虫ケラ同然だろうが。ばーか。

 プフ、あんたは違うよね? 今どんなにムカついてても、どうすべきか全力で考えてるでしょ?」

「……2人とは違うと言っていただけるのは有り難いですがね。

 とりあえず、ユピーを足蹴(あしげ )にするのはやめていただけませんか?

 女性としても、あまり品がありませんよ」

 

 大人しく足をどける桜。ユピーが即座に襲おうとし、プフがオーラでそれを制止する。

 

「聞き届けていただいて、有り難うございます。

 不躾(ぶしつけ)ながら、もう1つだけ私めのお願いを聞いていただけませんか? 女王様」

「……なに?」

「今から5分ほど作戦会議の時間をいただきたいのです。

 先ほどの戦いを拝見した限り、このまま再開しても、到底彼女には太刀打ちできません。

 我々が(な )(すべ)なく敗れてしまっては、あなたの目的にも差し支えがあるのでは?」

「……5分ね。わかった」

 

 桜が背を向け、アイシャとピトーの元へ戻っていく。腕を振り上げ、大地を砕くユピー。

 

「クソがぁぁッ!! あのガキィィ……!!」

「おやめなさい。

 ……どうやらあなたのパワーでも、彼女には通じないようですね」

「あんなチビが、そんなわけあるかよ……!」

「私にも理屈は分かりませんがね。取り押さえられたあなたが動けなかった以上、そうとしか考えられません。

 本当に彼女、人間なんですかね……?」

 

 アイシャのそばで、ピトーはすでに立ち上がっていた。ただ呼吸は弱々しい。見た目に外傷がないだけで、体内には深刻なダメージが残っている。

 

「ピトー。5分作戦会議するって聞こえてたでしょ?

 もうカウント始めてるから、早く行って」

「……分かったニャ」

 

 一足飛びに2人の下へ行くピトーを見送り、桜はアイシャを見やる。

 

「5分欲しいってお願いされたから、許可しちゃった。

 暖まってきたところで悪いけど、このままじゃ特訓にならないから待ってあげてね?」

「……それは構いませんが。

 けど桜、あなたは一体……」

「私にもよく分かんないの。

 なんか色々知ってるなって。……でもなんで知ってるのか、それはよく分かんない」

「というと、いつどこで知ったとか、記憶にないんですか?」

「うん。なんでだろうね?」

 

 

 

 ──桜の言うことが本当なら、無自覚に様々な知識を持ち合わせていることになるな。だとすれば、ウラヌスのおかしな知識量も同じ理由か?

 

 無自覚に転生した可能性、か。……有り得るな。転生の影響で記憶の大半が失われて、知識としてのみ色々頭に残ってるなんて、いかにも起こりそうだしな。私の場合は、ただ単に忘れちゃってるだけだったりするけど……

 

 

 

 

 

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