どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百四十八章

 

 戦いで荒れた大地に、強い風が吹く。

 

 向こうの方であれこれ話し合ってる護衛軍3人を眺めながら、アイシャと桜は先ほどの戦いについて話していた。

 

「にしてもさぁ、アイシャ。ネテロに挑むのと同等は言いすぎじゃない?

 ピトーのこと、完封してたじゃん。あんなんと一緒にされたら、ネテロ涙目だよ?」

「……そうかもしれませんけど」

「ま、殺し合いじゃなきゃ、あの程度のモンかもね。

 元々の技量に差がありすぎるし、そもそもアイシャがオーラ全開にしたら真っ向勝負で殴り合っても勝っちゃいそうだもん」

「爪を立てられたら、流石に無傷は厳しいと思いますけどね……」

「あー、いちおうピトーも爪は引っ込めてたね。

 でもあんだけオーラと速度乗ってたら、拳や蹴りでも怪我はするでしょ。もちろん防御しくじればだけど。

 アイシャってば、危なっかしい防ぎ方するよねー。見てて、ヒヤヒヤしちゃった」

「……」

「オーラ節約してるのは分かるし、防ぐ自信もあるからだろうけどね。

 やっぱ初見じゃないのもあって、アイシャの敵じゃなかったかにゃー?」

「結構本気で戦いはしましたよ?」

「本気で戦っても、楽勝じゃ意味無いにゃ。

 そんなこと言ってアイシャ、ピトーのコトなかなか仕留めようとしなかったでしょ?

 いくらでもチャンスあったじゃん」

「……まぁ」

「つーかピトー、マジで戦略とか何にも考えてないよね。

 1人じゃ勝てないって分かった時点で、さっさと退かないからバカ見るんじゃん。

 ほんと、バカにゃんこ」

「あなたがそれ言います?」

「だいたいアイツ、ニャーニャー鳴くからビミョーに腹立つんだけど。

 キャラかぶってんじゃん、ムカつくー!」

 

 閉口するアイシャ。ピトーも無理やり呼び出された挙げ句に、とんだ言われようである。

 

 

 

 5分が経過し、護衛軍の3人が相談を終えて、アイシャと桜を見やる。

 

「約束の時間ですので、再開していただいて構いませんよ」

 

 プフの呼びかけに、桜は1つ頷き、

 

「特に問題なければすぐ再開するけど、お互い用意はいい?」

「私はいつでも構いません」

「我々も」

「オッケ。5つ数えるから、ゼロで始めて。

 5、4、3……」

 

 アイシャは構えを取らずともすぐ動ける体勢を作り、ユピーが戦闘体勢を取る。あとの護衛軍2人は、ユピーの背後に控える。

 

「2、1、ゼロ!」

 

 桜のゼロ宣言とともに、ユピーが肉体を変異させる。

 

 腕を4本生やす形態変化を僅かな時間で遂げるユピー。が、そんなあからさまな隙を、アイシャが見逃すはずもなかった。

 

 顔面、胸、胴を打撃。元々あった腕の関節を軒並み砕いて、膝も粉砕。ユピーは4本の腕を生やし終えた代償に、満身創痍で大地へ倒れ伏した。

 

 追撃しかけたアイシャだったが、死角から来た腕の一撃を回避する。ユピーは変異して大量の眼を生み出し、倒れたまま視界を確保している。

 

 その一連のやりとりを『あちゃー』という顔で見ている桜。

 

「変化するなら、なんで開始の合図前にしとかないの……

 真面目か」

「がぁぁぁっ……!!」

 

 唸り声を上げるユピーだが、その声音は小さい。変異させた肉体の一部ならともかく、変異前の肉体はユピーの基礎部分であり、破壊されたことによるダメージは計り知れない。ユピーの戦い方をゴン達から聞いていたアイシャが採った戦術は、図らずも最大の効果を上げていた。変異させた肉体に合気が通じにくいことは目に見えていたからだ。

 

 ──だが変異前なら、頭部を破壊されただけで死に至る。通常の生物と変わらない。

 

「ユピー、下がりなさい!

 ……ピトー!」

「分かった!」

 

 まだ戦おうと足掻くユピーの肉体を捕まえ、遠くへ撤退するピトー。

 

 プフが立ちはだかっている為、アイシャは離れる2人を追えなかった。──リィーナ達から聞いた限り、自身にとってこの相手が最も難敵だと考えていた。

 

 音速を越えた速さで襲い掛かるプフ。それを凌駕する速度で対応し、アイシャはプフの肉体に触れ──られなかった。手応えなくスリ抜ける。

 

 プフの攻撃も同様に、オーラに満ちたアイシャの体捌きで弾かれる。厳密には弾こうとして分裂した為、互いにダメージを与えられなかったが。

 

「フ……やはりこうなりましたか。

 王にすら通じたあなたの素晴らしい技術も、【蠅の王/ベルゼブブ】には通じません」

「……」

 

 無論リィーナから、その能力の弱点は聞き及んでいる。本体が存在し、その本体に限り、蜂程度のサイズまでしか分裂できない。それを倒せばプフは完全に死滅する。

 

 だが、その状態まで追い込む手段がアイシャにはない。その弱点が知られていることをプフも見抜いている為、迂闊に全身を分裂させようともしない。──このままではプフに煩わされながら、残り2人の相手をすることになるだろう。

 

 睨みあう両者。そこへ詰まらなさそうな顔をした桜が歩いてきた。

 

「……どうかなさいましたか、女王陛下?

 なにかご不満でも?」

「うん。

 アイシャ。プフを倒す方法、思いついてる?」

「……」

 

 苦い表情を浮かべるアイシャ。頭を掻いて溜め息を吐く桜。

 

「困るにゃあ……

 こうやって茶々入れしたくないんだけど。……プフ」

「なんでしょう?」

「──調子のんな」

 

 

 

 ────ブンンッ!! ボッッ!!

 

 

 

 轟音を立て、プフの肉体を凄まじい速度の腕刀で薙ぎ払う桜。警戒していたプフは音を立てて肉体を分解させ、かろうじてその一撃を透かした。

 

 あまりの攻撃速度に、焦りの色を滲ませながらも、

 

「ふふ、無駄です……

 あなたと言え、ど、ガハァッ!?」

 

 吐血するプフ。透かし状態から元に戻した肉体を見ると、抉られたような歪みが生じている。

 

「ば、ばかなッ──!?」

 

 動揺する護衛軍を、滑稽そうに嘲う( あざわら )桜。

 

「ぷークスクス……

 プフぅ? まさかオマエ、自分の能力が『完全物理無効』だなんて思っちゃってた?

 んなわけないでしょー? えぇ?」

「こ、こんなことが……

 一体どうやってッ!?」

 

 問いかけるプフを無視して、一連の流れを信じられないといった目で見るアイシャへ、桜は微笑みかける。

 

「アイシャ、覚えておいてね。

 

 ────物理攻撃が効かないなんて、絶対に有り得ない。

 

 この世に存在するものは、必ず物理攻撃が通じるから。……有効な手が、自分にあるかどうかは別だけどね」

 

 ふぅ、と息を吐く桜。

 

「アイシャ、よく考えてね。

 どうして私の攻撃がこいつに通じたか。──私がアイシャに、何を伝えたいのか」

「桜……」

「んー、もうちょっとヒントいる?

 アイシャ。自分の得意なこと、よーく思い出して。

 その中にプフの能力に通じる力は、本当に無い? ──私は『有る』と思うけれど」

 

 そう言い残し、桜は離れていく。

 

 動揺こそ消えていないものの、復調するプフ。笑みを零し、

 

「辛辣ですね、彼女は……

 あなたにとっては、ずいぶん酷なことを強いられているのではありませんか?」

「……黙っていなさい」

「力尽くで黙らせてみてはどうです?

 あなたに出来るとは思えませんがね」

 

 腕を広げて挑発するプフに、アイシャは自分に出来ることが何か、改めて整理していく。

 

 ──合気に類する技術は、まず通じない。もしあれば、必ずリィーナが見出したはず。打撃も同様。ビスケがほぼ通じないと断言していた。

 

 物理攻撃が通じる──と桜は言っているが、何の工夫もせず打撃を仕掛けたところで、無駄なのは分かり切っている。肉体の分解が間に合わないほどの速度で攻撃すれば(ある)いは──とも思うが、それでも有効なダメージを与えるには到らないだろう。

 

 油断するプフに、アイシャは瞬時に間を詰め、『廻』による打撃を放った。──プフが打撃を透かす部位が、いくらか広範囲になった。が、

 

「無駄ですよ……

 そんな攻撃が通じないことは、あなたもよくご存知のはずです。それだけのこと……」

 

 余裕を取り戻すプフ。虚勢ではなく、実際通じた気配はない。オーラを回転させた打撃でも効かないとなると……

 

 視界の端へ入ってきた桜が、笑みを深くしている。

 

「──っ!」

 

 直感的にアイシャは、プフへと念弾を放った。

 

 頭部へ直撃させたが、それも綺麗に透かされる。

 

「ふふ……それも無駄です」

 

 アイシャは攻撃する部位を毎回変えているのだが、どこにも本体の手応えは無い。──オーラの流れから本体の位置を掴ませるようなヘマをプフがするはずもなく、常に本体の位置を動かせるということが分かっただけだった。

 

 敢えて打撃を繰り出すアイシャ。度重なる迅速な攻撃でプフの全身を半分ほど透かし、

 

「なッ!?」

 

 ──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!

 

 全身を飲み込むほどのオーラ砲を至近距離で放つアイシャ。かわす間もなく、貫かれるプフの全身。

 

 ……が。

 

「ふ、ふふ……驚きましたよ。

 ですが、それも無駄です。あなたのオーラで私を傷つけることはできない」

 

 ──これはプフの虚勢だった。本体とその周辺にオーラを掻き集めて、全力で防御した結果に過ぎない。残りの部位はオーラ砲の勢いで周囲へ拡散し、ほぼ逃れていた。確かにプフのオーラを削りはした。無傷とも言えない。だが、減じたオーラはアイシャの方が上だった。

 

 1対1の戦いであれば、プフのオーラを削り切ってアイシャは勝利できたかもしれない。しかし相手は3人。プフ相手にこうもハイペースにオーラを減らせば、残り2人に対する勝機が薄れる。

 

 トントン、と地面を蹴る桜。アイシャとプフがそちらに意識をやる。

 

 桜は指をピコピコ振りながら、

 

「悪くはないよ、アイシャ。

 でも全身を叩けるほど拡散したオーラじゃ、プフの防御を貫ける密度には到らない。

 そもそも念弾やオーラ砲だと、アイシャも溜めがいるし、着弾まで若干間が空くから、プフが対処する時間ができちゃう。不意を突かないと、攻撃を透かされる展開に変わりはないよ」

「……」

 

 有効手が少ない以上、不意を突こうにも気を逸らす手がほぼない。これならば通じる、という手段を見つけないことには……

 

 思案していたアイシャは、ふと桜の指を見た。意味もなく、やけに指先を躍らせている。

 

 

 

 ──オーラ。密度。指。

 

 

 

 ほとんど思いつきで、アイシャは指先にオーラを集め、それを高速回転させた。

 

 顔色を変えたプフの胸元を、その指先で貫くアイシャ。

 

 指で穿った部位を透かされながらも、オーラが高速旋回して極小単位に分解したプフの細胞を巻き込んでいく──!

 

「お、おぉぉッッ──!?」

 

 ジジッ! と焼き切れるような音。アイシャの指先に凝縮したオーラが『廻』によって高圧力化、遂に【蠅の王/ベルゼブブ】のナノレベル分解性能を超え、その細胞を(そ )いだ。

 

「ばっ……ばかなっ……!」

 

 受けた傷以上の衝撃を受けるプフ。──まさか絡め手なしで【蠅の王/ベルゼブブ】が破られるなどとは、夢にも思わなかったのだろう。その有り得ないことが、今日は二度も起きているわけだが。

 

 桜は心底愉快そうにパンパン膝を叩きながら、

 

「にゃーっはっは!

 ばーか! どんな能力だって大元はオーラなんだから、上回るオーラをぶつけられたら破られるに決まってんじゃん!

 どんなスゴイ力も、所詮は念能力だって覚えとけ!」

 

 ボロクソにけなす桜。つまるところ、桜も同じ手で破ったのだろう。高密度のオーラに巻き込まれれば、分解した細胞に宿る【蠅の王/ベルゼブブ】のオーラごと破壊できるという道理だ。

 

 オーラで他者のオーラに干渉できるのは当然である。帯びる性質が異なるだけで、基本同じモノなのだから。但し、どんなオーラにも干渉できるほどのオーラ密度に到るのは、よほどの水準でないと有り得ないだろうが。

 

「くっ……!」

 

 上空へと逃れるプフ。そこも桜の『円』の範疇な為、ルール違反ではない。アイシャもオーラを放出して追うか悩んだが、思い留まった。

 

 ピトーとユピーが戻ってきた。深手を負ったはずのユピーの肉体が、ほぼ癒えている。

 

 桜が「ヒュゥー♪」と口笛を吹き、

 

「へぇー。ピトー、分かったんだ?

 

 ──【玩具修理者/ドクターブライス】を使ったね?」

 

「……」

 

 ピトーが生前には発現に到らなかった能力である。その能力を必要とするキッカケが、ピトーに訪れなかった為だ。──この世界では。

 

 が、プフには【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】の応用で、他者の能力を開発する才がある。それをもって、ピトーの生まれ持った才能とも言えるその治癒能力を開花させたのだ。

 

 いくらか時間はかかったが、それでもユピーの肉体を治療することに成功した。自身に残っていた体内のダメージも癒し終えている。

 

 表情にこそ出さないものの戸惑うアイシャに対し、桜はピトーを親指で示し、

 

「アイシャ。

 ピトーのやつ治療能力を獲得したから、後方支援に回りだすよ。

 つか、特質系のクセに肉弾戦で挑むからバカ見るんだけどね。

 弱っちいんだから、それを自覚して大人しく下がってりゃ充分手強いのにさ」

「……」

 

 特質系に関する罵倒に関しては、アイシャも僅かに顔を(しか)める。自分まで悪く言われたようなものだ。

 

「ゴチャゴチャうるせぇんだよッ!!

 やらせてぇなら邪魔すんじゃねぇッ!!」

 

 回復して威勢よく吼えるユピーに、うへぇという顔をする桜。

 

「はいはい、ゴメン。

 お気になさらず、続きをどーぞ」

 

 ユピーは全身を変異させ、巨大化しながら鞭の如き触腕を大量に生やした。

 

 そばにいたピトーと傷ついたプフが全力で逃れ、周囲へユピーが一斉に触腕を振り回す。

 

 アイシャは、自身に向かってきた触腕を合気でユピーへと跳ね返す。それにも構わず、ひたすら無闇に触腕をブン回し、大地を削り砕きながら暴れ続けるユピー。

 

「ぶへ、ちょ、私を巻き込むな!」

 

 むしろわざと桜にも触腕を向かわせているユピー。ニヤニヤ嗤いながら、

 

「おおっと、すいませんねぇ女王様よぉ!

 そんなトコにいられちゃ邪魔でしてネェェッ!!」

 

 完全に挑発に乗せられてムカついた桜が、指先を光らせる。

 

(と )(ま )(くる)え 妄執の(もうしゅう )(つめ)──」

 

 背筋に走る悪寒に従い、アイシャは全力で後方へ飛び退いた。

 

「──【金剛裂破/スパイラルナイフ】ッ──!!」

 

 

 

 ────ぞんッッ!!

 

 

 

 ユピーの腕が、無数に放たれたオーラの刃によって、全て断ち切られた。1つ残らず、肩口から先端に到るまでバラバラに切り裂かれている。

 

 ボトボトボトッ! と舞っていた触腕が全て地面に落ち、棒立ちになったユピーを──

 

 どむッッ!!

 

「がはァッ!?」

 

 凶悪なボディブローを入れ、背を丸めたユピーの背骨に肘を叩き込んで砕く桜。

 

 悲惨な有様で倒れ込むユピー。唾棄したそうな顔で桜は見下ろし、

 

「……いい加減にしろよ。

 役に立つ気がないなら今すぐ殺すよ?」

「ハッ……

 (や )りゃいいだろ、クソが」

「ピトーに悪いと思わないのか?

 アイシャを傷つけるなって言ってんのに、完全無視した攻撃しやがって……

 本当に、こんな終わり方でいいのか?」

「……」

「オマエの忠誠心って、その程度のもんなんだな。

 そりゃ王の障害も排除できずに、さっさと死んじゃうわけだわ。

 役立たずー。このムシけらー。オマエの王様、敗北者ー」

「……取り消せよ」

「どうでもいいから、ちゃんと真面目にやってくんない?

 その王様を破った憎いあんちくしょーがそこにいるでしょ。一矢報いたいとは思わないわけ?」

「ああ……そうだったな。絶対に赦せねぇ……」

「ん、がんばってね。

 ピトー、回収。腕はプフの分身が全部拾って持ってくから、がんばってくっつけてきて。

 そうしないと細胞が減っちゃって元に戻らないし」

「分かったニャ……」

「……」

「あー。えっと、アイシャごめん。

 タイム」

「……いいですけど」

 

 むしろ桜の方が護衛軍にダメージを与えている有様である。……とはいえ、桜が割って入らないとロクでもない戦いになっていただろう。現状でも充分グダグダではあったが。

 

 

 

 

 

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