どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 メルエム戦の執筆BGM:FFⅥ『死闘』



 個人的に三闘神のイメージを重ねるなら、

 鬼神:メルエム
 魔神:桜
 武神:アイシャ

 こんな感じかなと。……あれ? 女神がいないじゃないですかヤダー()







第二百五十二章

 

 互いに人外と称するしかない膨大なオーラを放ち、2人は向き合っている。

 

 離れた場所で、それでも荒れ狂う両者の暴威を浴びながら、アイシャは2人を見守っていた。自分以外にこの強者同士の闘争に立ち会える者は居ない。一瞬でも目を逸らせば、その間に決着がついてもおかしくないほどの緊迫感。

 

 

 

「……。

 これしかない、と思っていた。貴様を倒すにはな」

 

「……へぇー」

 

数合(すうごう)と拳を交えぬうちに、すぐ悟ったわ。余がどれほど策を弄しようと、技を繰ろうと、全力を出す気配すら見せぬ貴様には届かぬとな」

 

「準備運動だって言ったじゃん? あ、躾がメインだった。

 駄々っ子に言うこと聞かせんのに、全力出してたらアホでしょ」

 

「貴様は紛うことなき阿房(あ ほう)だがな」

 

「ぬっ(ころ)。アリ絶対コロスマン!」

 

「……お主の言動は時折り解釈に苦しむな。

 稚拙に過ぎて、脳が理解を拒む。愚かしさしか伝わってこんぞ?」

 

「うっさぃ!!

 アホにアホって言われたら、怒るに決まってんだろうがッ!」

 

「分かりやすくて助かる。

 だがその言葉、そっくりそのまま返してやろう」

 

「うにゃーッ!!

 そしたら箱詰めでラッピングして、こぶしパンチで返してやるー!!」

 

「……もうよい。貴様と話していると阿房が移る」

 

「」

 

 文字通り絶句する桜。一言一句聞き逃すまいとしていたアイシャも、肩がコケた。

 

 

 

 2人ともが更に近づき、お互いの間合いに入る。立ち止まって、手足を動かす素振りも見せないまま──

 

 

 

 ────ッパアァァァァァンッッ!!

 

 

 

 全く手足を静止した状態から、互いに『尻尾』を撃ち合わせた。あまりの勢いに、発生した衝撃波が大地の砂埃を吹き飛ばし、2本の尻尾が弾かれる。

 

 メルエムはまだ分かる。攻撃にも適した自前の尾だ。だが桜は、わざわざ自分の腰からオーラで具現化した白い尻尾を生やして、メルエムの尾撃に合わせたのだ。

 

 自在に動かせるらしく、桜から生えた尻尾がゆるゆると波打っている。

 

「ちっ。面妖な……!」

 

「オマエにだけは言われたくないにゃーッ!」

 

 ……場違いながら、アイシャはついでに猫耳も生やしてくれないかなぁと思っていた。そうすればリアルキュマニャン爆誕である。きっとシームも大喜びだろう。多分。

 

 パァンッ!! ヂッ!! バチッ!! ゴッ!!

 

 何をこだわっているのか、メルエムと桜は尻尾だけで撃ち合い続けた。見様によっては求愛行動とも取れるが、応酬される威力と速度は達人の居合いを優に凌駕していた。

 

 メルエムは尾撃を放ちながら、分析するように顎へ手を当て、

 

「いい太刀筋だ。急拵え( きゅうごしら )とは思えぬな……

 貴様、魔獣か何かか?」

 

「っせえ!! 誰が魔獣だッ!! にゃんこって言え!」

 

「断る。……化け物め」

 

「だからオマエが言うなぁぁぁッッ!!」

 

 ────ババババババババババババッッッッ!!

 

 尾を乱舞させ、互いを砕かんと尾撃の威力と速度が高まっていく。──やがて。

 

 ビチッ!!

 

「む?」

 

 メルエムの尾が捕らえられた。桜の尻尾がぐるぐると絡みついている。尾を封じたまま桜は急速に歩み寄り、

 

「──遊びは終わりだ」

 

 顔を右手で掴む桜。メルエムの顔面が馬鹿げた握力で歪んでいく。

 

「ぐ、ぬぁぁぁぁあああッ!? 貴様ァァッ……!!」

 

 掴む桜の片腕を、両腕で掴んで引き剥がそうとするメルエム。

 

「──がはぁッ!?」

 

「腹がお留守」

 

 空いた手で腹部に一撃いれた桜。その体勢から、ふわっと身体を縦回転させ──

 

 桜はメルエムの首に跨っ(またが )た。なんと肩車の体勢に。

 

「な──貴様、何をがぁッ!?」

 

 捻れるメルエムの首。桜が頭部を脚で挟み込み、急激に身体を高速回転──メルエムの肉体も宙へ躍り、そのまま真っ逆さまに大地へと叩きつけられた。

 

「ゴバァッッ!?」

 

 しかもわざわざオーラで大地を強化した上だ。アイシャもやっていたことだが、途轍もない速度で叩きつけたにも関わらず、大地がヒビ割れるだけで済んでいる。尋常ではない硬度まで引き上げたようだ。

 

「ふひひ。何って、フランケンシュタイナーだけど?

 アホには分かんないかなぁ?」

 

 メルエムからタタンと軽い足取りで距離を開け、桜はニヤニヤとしてみせる。

 

 究極の肉体を得たはずのメルエムが、まともに立つことができずフラついている。が、数秒で立ち直った。

 

「……良いのか? 余を仕留める最後の機会だったというのに」

 

「はぁ? オマエ、まだ勝てる気でいんの?

 おもっくそ弱点突かれて今ダンスしてたの、どこのドイツよ?」

 

「もう学んだ。二度目はない」

 

「……。あっきれた」

 

 

 

 

 

 一連の攻防を眺めていたアイシャは、有り得ないモノを見る心地だった。

 

 まるで覚醒したような様子のメルエムが相手では、恐らく一切勝ち目がないだろう──自分には。あのメルエムの速さでは、到底合気を仕掛けることは出来ない。自らが眼前で対峙していれば、反応できないまま一撃で沈むだろう。今は遠くから見ることのみに集中しているから、まだかろうじて動きを追えているだけだ。

 

 合気は精度もさることながら、タイミングがモノを言う──意識を極限まで研ぎ澄ませ、動きを先読みしたからこそ、かつてのメルエム相手に攻撃を返し続けることが出来た。

 

 だが、あれほどの初動速度では最早間に合うまい──もしそれが出来たなら、ネテロの百式観音ですら防ぎ得るのではないかと思えるほどだ。

 

 桜は……『合わせることが出来ている』。あのメルエムの動きに。速さに。──威力に。

 

 完璧に動きを捉えていなければ不可能なことだ。間近では知覚すら出来ないほどの速度だというのに、だ。

 

 

 

 

 

 桜は冷ややかに巨大キメラアントの王を見つめ、

 

「産まれたての浅学な蟻に教えてあげる」

「……何をだ?」

「自分自身のこと」

「む?」

「オマエは自分のことを、何も分かってない。

 あんたは特別優れた生き物じゃない。人間より、他の生物より秀でた選ばれし者である──その認識がただの驕りに過ぎないこと、それを教えてあげる」

「……ほぅ。

 貴様のような愚かしい者が、随分と大言(たいげん)を吐くものだ……

 やれるものならやってみせよ」

「そういうトコな?」

 

 ごく自然に、桜はメルエムへと歩み寄った。一瞬で。

 

 桜が見せる腕の動きに反応し、それを掴もうとするメルエム──意識が逸れた隙に足を払われる。咄嗟に尾を振るうが、桜が片手で掴み取り、力尽くでメルエムを上へ放った。

 

「ぬ──」

 

 空中に放り出されたメルエムは、当然すぐ落ちてくる。そこへ念弾が飛来した。

 

 ゴッ!!

 

 両腕でガードし、念弾をはじくメルエム。落下地点へ移動し、倒立する桜──

 

 がっ!!

 

 両足で再びメルエムを宙へ蹴り返す。そこへ再度飛来する念弾。

 

 ──こやつ、まだ遊ぶ気か──

 

 その念弾を今度は掌で受け、反射する。桜は面白げな顔をしながら反射した念弾を掴み、更に押し返した。

 

 着弾までの猶予がない為、今度は念弾を防ぐだけのメルエム。その体勢で、またも蹴り上げられた。今度はかなりの高さまで。

 

 ──余を蹴玉(け だま)にするか! 度し難い──

 

 次は蹴り足を掴み、もいでくれると画策するメルエム。が、そうはならなかった。

 

 大小の念弾が、空中にいるメルエムに向かって大量に飛来する。

 

 ──ちぃッ!──

 

 四肢と尾をフル稼働し、念弾を全て弾く。そして見落とした。桜が飛び上がり、自分の上方へ回り込んだのを。

 

 どぅっ。とメルエムの背中に圧力。強靭な肉体が一瞬で真っ直ぐに伸ばされ、頭頂から地へ落下していくメルエム。その背にサーフィンのように乗っている桜。

 

 

 

 ────ズドムッッッ!! ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ……!!

 

 

 

 地面に突き刺さるどころか、土中へと深く沈んでいくメルエム。頭部に凄まじい衝撃を受けながら、身動きが取れない。

 

 墜落寸前で、ふわりと浮いていた桜。地に降り、馬鹿げたほど沈下していくメルエムの作った穴を見下ろしながら、

 

「えーと、なんだっけ? ……なんとかインフェルノ?

 よく覚えてないし、ちょっと違う気がするけど」

 

 ──違う。本家はこんな技ではない。

 

 桜がやったのは、【風の恵み/シルフエッセンス】の空力制御による強引な墜落技だ。

 

「貴様ぁ……

 真剣に戦えっ!!」

 

 穴から這い出てきて、苦言を呈する土塗れのメルエム。

 

「はぁん?

 私は真面目にやってるよ。オマエだろ、ふざけてんのは?」

「なにぃ……!?」

「なにーじゃねぇよ。

 オマエ、私の動きを学習しようとしてんの見え見えなんだよ。バカじゃねーの?

 だから引っ掻き回されて、ものの見事にパニクってる。

 同じコトやってもらえると思ってんのか?」

「……っ」

「ばーか。アイシャの時と同じミスしてる。

 ま、その時はまるっきり初戦だったし、分からなくもないけど。

 それにアイシャの合気、すっごい綺麗だもんね? 私も見とれちゃうもん。柔における究極のお手本だと思うよ。アンタ如きに真似できるかは別にして」

「……」

「そして、勘違いしてる。……多分アイシャも気づいてなかったと思うけど。

 アンタ達の優れた学習能力とやらはな。状況が整うことで、初めて発揮されるんだよ」

「どういうことですか……?」

 

 離れた場所からアイシャが発したつぶやきに、桜は目を向け、

 

「アイシャもよく聞いておいてね?

 巨大キメラアントって、そもそも幼虫で産まれたりしないでしょ。

 アンタ、どう見たって成虫だもんね?」

「……」

「人間でたとえれば、いきなり大人で産まれるようなもん。

 その上、余分な知識がない状態、つまり頭が真っ白な状態で産まれるわけ。大人が突然記憶喪失になった場合なんかが、状態として近いかな?

 大人の脳と最低限の知識を持って、新しくモノを覚えようとするんだから、当然速いに決まってる。渇いた紙が、水を勢いよく吸うのと同じだよ。

 だいたい人間の赤ちゃんだって、ものすごい速さで学習はしてる。けど、すぐには何も出来ないし、先に覚えなきゃいけない基本的なことが多いから、実際の学習速度が傍目に分からないだけ。

 でも、キメラアントは成虫だから即行動に移せる。学習を取捨選択できる。学習成果も即座に発揮できる。そもそも身体能力も高いからね。その分、実行可能なことも多い。

 だから人間と比べて、学習能力が高いように見えるのは当たり前なの。

 ──言ってる意味、分かる?」

 

 沈黙するメルエム。──理解は当然しているだろうが、人間についての知識が最低限に留まる為、反論の材料がない。

 

「ま、プフが無闇に王様のことを褒めちぎるから、なおさら勘違いしたんだろうけど……

 巨大キメラアントの王ともなれば、過酷な生存競争に産まれた直後から耐えられないとマズイだろうから、耐久力と適応力を極端に引き上げてあるんでしょ。

 そういう個体が生き残っただけだろうけどさ……向こうでは」

「……我々の母が生まれ育った地のことか」

「そ。通称、暗黒大陸。

 女王は人間世界を包むメビウス湖をはるばる漂流して、私達の世界に流れ着いた。

 どういう経緯かは知らないけど、あっちは過酷だったんだろうね」

「……。

 余の肉体は相当に強靭だと自負している。人間と比較すれば過剰だと言わざるを得ないほどにな。

 これだけの肉体を持たねば生きられぬ環境であるなら、貴様の言う通り過酷極まる地であったことは疑いようもない。……逆にこの地は、常世(とこよ )の春のような快適さなのだろう」

「まー、比較すればねぇ。

 で、学習能力が高い理由は他にもある。

 オマエ、身体が頑丈な分、命を懸けた戦いの中で持つべき緊張感が足りてないんだよ。

 だから脳がゆとりを持ってる。そのゆとりを学習へ振り分けやすい。相手の全力攻撃を受けながら、それを学ぶなんて無茶が利く。普通はそんなことしたらすぐ死ぬからね。

 逆に今は余裕がないから、物覚えが良くないってだけの話。私が掻き回してるせいで、何から覚えればいいか分からなくて、すっかり混乱しちゃってるわけ」

 

 

 

 ──……そういうことか、と得心する。

 

 私と戦った時はあれほどまでに高い学習能力を見せていたメルエムが、桜との戦いでは鳴りを潜めていた。なぜだろうと、ずっと思っていたけど……

 

 

 

「要はオマエ、追い詰められるとダメなタイプ。焦って意識散漫なんだよ。岡目八目って言っても、分かんないだろうけど。

 リラックスすることで集中力が高まり、ようやく高い学習能力とやらが十全に機能する。

 わかった? 赤ちゃんアリ」

「……それが貴様の分析か」

「そ。

 そんなの、人間と比較して学習能力が高いとか、前提からしておかしいじゃん?

 人間もアンタも、そこまで大差ないよ。自惚れるな」

 

 

 

 ……流石にそれはどうなんだと言いたいアイシャ。仮に同条件を揃えたとして、やはり勝つのはメルエムだろうという気がする。人間にも存在する、ごく一部の天才を除けば、だが。

 

 

 

「言いたいことは理解した。肝に銘じておこう」

「おや、まじめ。

 先生の言うこと聞いちゃうんだ?」

「貴様は殺すがな」

「……あっそ。

 まぁ私も、アイシャに関することで、オマエには殺意湧いてるけどね。絶対赦さない」

「何のことだ?

 ……あやつを殺そうとしたことをか」

「それはまぁ……お互い様かな。

 じゃなくてー。

 

 ──オマエ、アイシャを(はべ)らせようとしただろ?」

 

 桜の断定的な問いかけに、しばし考え込むメルエム。

 

「……配下になれ、と言った覚えはあるがな」

 

「隣に立つ権利、だよね。

 それってホントに、アンタの配下って意味? 私、すっごい疑ってんだけどにゃー?」

 

「……何が言いたい」

 

「聞きたい?

 

 ────虫の分際で、アイシャに粉かけてんじゃねーよバーカ」

 

「……」

 

 

 

 会話の内容に、思わずフラつきそうになるアイシャ。

 

「なにを言ってるんだ、あの子は……」

 

 額に手を当て、呆れきった顔で声を洩らす。そうは言いながらも、やけに動悸は激しくなっていく。

 

 

 

「……それは嫉妬の類か?」

 

「あ、嫉妬? オマエ、そんな感情も理解できるの?

 でも嫉妬かぁ……ちょっと違うかな。

 私とアイシャはトモダチ、親友だもん。

 で、その親友が無理やりムシケラのお嫁さんにされそうだったとか、普通に赦せるわけないじゃん。

 その結婚、ちょっと待ったー!」

 

「多分に誤解が含まれているようだな……

 だが、敢えて聞いておこう。

 

 ──貴様はアヤツに、好意を持っておるのか?」

 

「あったりまえじゃん!

 私、アイシャのこと、だーいすき♥」

 

 両手を広げて、ぱぁーっと感情を表現する桜。まるでお花畑でよろこぶ子供のように。

 

 

 

 ──最早聞くに堪えず、両手で顔を押さえてイヤイヤと首を振るアイシャ。恥ずかしいにもほどがある。

 

 

 

 疲れたようにメルエムは吐息し、

 

「……そうか。

 貴様がどういう意図で、あやつと余を戦わせようとしたか、それは良く理解できた」

 

「お? じゃあ──」

 

「貴様は何も分かっていない」

 

「あん? どういう意味?」

 

「……語るつもりはない」

 

「またソレー?

 分かってない、話す気もないって、私にどうしろってのさ?」

 

「……」

 

「産まれたばかりの赤ん坊だから、メルちゃんコミュ障なの?

 ばぶばぶっ!」

 

 文字通り音を置き去りにして振るわれた拳を、パンッと弾く桜。即座に桜も蹴り返すが、メルエムは両腕でガードして耐える。その勢いで距離は遠ざかったが。

 

「ったく! 頭にきたらすぐ暴力!

 肉体言語しか知らないのか!

 赤ん坊らしく、泣きわめけば可愛げもあんのに!」

 

「喚いているのは貴様だけだ」

 

「にゃー!!」

 

 

 

 ……それは喚いてるんじゃなくて鳴いてるんだよな、と思うアイシャ。どうでもいいが。

 

 

 

 打撃戦を繰り広げるメルエムと桜。馬鹿げた速度と威力の応酬をアイシャは必死に目で追いながら、やはり疑念を抱いていた。

 

 ──どう考えてもおかしい。あまりにも桜が強すぎる。

 

 同等のオーラであれば、いかに技術巧者の桜と言えど、無傷で済むはずがない。実際にメルエムの攻撃を何度も被弾しているのだ。

 にも関わらず、傷ついた様子が見えない──擦過傷も打撲も、何もだ。衣服すら破けていない。掠めただけで大地が粉砕される破壊力にも関わらず。絶対に有り得ないことだ。

 

 いかに桜の肉体が強靭だったとしても、特殊な能力を持っていたとしても、可能なことだろうか──? それとも実際には傷ついていて、すぐに治している?

 

 答えが出ないまま、徐々に形勢は傷つき続けるメルエム不利へと傾いていく。

 

 

 

「はァッ……はァッ……!」

「なぁんだ。

 パワーアップしてもこの程度? がっかりなんだけど。

 ビビってソンしたぁー。ムカつくわぁ。

 アリンコのクセに大口叩きやがって、ばーか」

「はぁ……はぁ……

 ……。

 かつての余もしていたことだが、ひたすらに他種の生物を見下すのは醜いものだな」

「おぉ? 言ってくれるわー。

 そもそも、今でもやってんじゃねーか」

「余は人間という種を、もう見下してなどおらん。

 そもそも貴様に対しては事実を述べているに過ぎぬ」

「うにゃぁーッ!!

 激オコ、ぷんっぷんっ丸ッ!!」

「……なぜ貴様は、一向に息が上がらぬ?」

「あん?」

「そして、いまだ傷一つ負っておらぬな。

 手傷を負わせた手応えは幾度もあったのだが、ただの一つも傷として残っておらん。

 貴様、如何なる奇術を用いておる?」

「奇術呼ばわりぃー?

 ……そりゃまぁ、タネも仕掛けもございますよ? 当ったり前じゃん」

「やはりな……」

「逆にアンタは、かなりガタきちゃってるね。

 身体のアチコチが軋んでるでしょ? 痛くて苦しいなら、一服する? にゃふふ」

「……なぜだ。

 この肉体の強靭さを考えれば、余の想定より遥かに限界の訪れが早い……

 一体どういうことだ?」

「あー。

 無茶しても大丈夫とか思い込んでたわけ?

 アンタさぁ。生前と全く同じ身体じゃないって、分かってないでしょ?」

「……」

「まぁバカなアンタにも分かるように説明してあげる。

 そもそも今のアンタの肉体は、生前と同じ状態が再現されてるけど、元はオーラなわけ。

 オーラで具現化されてるんだから、生物としての最小構成単位は、細胞ではなくオーラそのもの。

 ──そんな状態で、雑にオーラを放出し続けたらどうなる?

 体内の不足したオーラを補う為に、肉体が徐々に分解されていくに決まってるじゃん。肉体を十全に構成するオーラ量が減ってるんだから、身体のアチコチが機能不全を起こし始める」

「……そういうことか」

「私が最初に用意した肉体のままなら、そんなことにはなりにくかったんだけどね。

 でもアンタ、私から勝手にオーラを奪って、無理やり肉体改造したじゃん?

 しかも調整もしないまま、強引にオーラ全開で身体を動かしてる。ムチャクチャな駆動させっから、全身がオーバーヒートし始めたんだよ。

 ──ヒトから盗み見た設計図で、ドシロートが手ぇ出すから、そうやってバカを見る」

 

 痛烈な侮蔑を込めた指摘に、沈黙するメルエム。恥辱に耐えるように拳を震わせている。

 

「回復できないって私言ったよね? 理解できてなかった?

 何も考えずに大暴れしたツケがそのザマァ。

 念能力のこと、ちぃっとも分かってないよね。この馬鹿アリンコ」

「……学ぶ機会がなかったからな」

「それは同情するけどね。

 アイシャに喧嘩売らず、ケツまくって逃げてりゃ生きる道もあったのに。もしくは頭を下げて、命乞いすれば。

 学習の道に自ら背を向けたのはアンタ。産まれてすぐ王として振る舞わずに雌伏(し ふく)の時を経ようとしなかったアンタが滅びたのは、当然の末路。そこは同情しない」

 

 桜の言葉に歯噛みするアイシャ。……もし命乞いなどされていたら、それでもなお問答無用で命を奪うことができたか、自信は無かった。

 

「同情など元より不要だ。

 ……あの時の余に、そんな(さか)しい道を選択するだけの知性がなかったのは認めよう」

「今更だけどねぇ……

 で、まだやんの?」

「当然だ。

 貴様か余か、どちらかが死滅するまでこの戦いは終わらぬ」

「勝手に決めんな。生殺与奪を握ってもいない分際で。

 でもアンタ、後ひと押しで肉体の障害レベルが危険水域に入るんじゃない?

 沈み出したら、あっと言う間だよー?」

「……なぜ、貴様はそうならない?」

「あ?」

「生物として埒外(らちがい)な力を揮っているのは、貴様とて同じだろう。

 ……あやつが貴様を見る目が、それを裏付けている。なぜ貴様は十全なまま戦い続けることが出来るのだ?」

「……っせぇーな。

 なんで教えてもらえるとか思ってんの。そのまま首傾げて死んどけ」

「そうだ。もう余は長くない……

 ゆえに冥途(めいど )の土産を寄越せ、と言っておる」

「め……

 冥途の土産? んー……」

 

 桜は後ろ頭を掻いて、悩み始めた。ニヤついたり困ったり、コロコロ表情を変えた後、

 

「……

 …………

 あーもー、仕方ないにゃー。冥途の土産に教えてあげる」

「言ってみるものだな……

 有り難く頂戴するとしよう」

「ちぇ。

 バラす気なんてなかったんだけどな……」

 

 桜は手品師がするように両手を広げてみせ、

 

 

 

「────【魔王の契約/デーモントレード】────

 

 

 

 この念能力は任意発動型。発動中は、私が受けるあらゆる有害作用を、完全無欠に除去する。

 

 衝撃だろうが斬撃だろうが刺突だろうが。燃焼だろうが凍結だろうが電撃だろうが。

 猛毒だろうが幻覚だろうが操作だろうが。疲労だろうが苦痛だろうが病害だろうが。

 

 ──概念攻撃すら、恐らくは通じない。能力発動中の私を傷つけるのは、理論上不可能。

 

 ただまぁ、私が予め防ごうと設定したモノだけね。作用するモノの取捨選択は出来る。じゃないと不便だから。

 

 代償はオーラ。防ぐ度にその強度に応じて、オーラが自動で減る。いじょ!」

 

 

 

「…………」

 

 絶句するアイシャ。性質としてはボス属性に近しいが、過剰なまでの防御性能だ。現にメルエムとの激戦を、完全に無傷で凌いでみせている。

 ただボス属性と違い、認識できないモノを無自覚に防いでくれないのが、弱点と言えば弱点か。それを差し引いても、超絶に過ぎる能力ではあったが。

 

 

 

「……凄まじい能力だな。

 いや、そんなことを可能とする念こそが凄まじいと言うべきか……

 つまり、余の攻撃は無意味ではなかったのだな」

「まぁねー。

 私に攻撃が当たれば、ちゃんとオーラは減ってたよ。ドツキあってる時も、多少はね?

 でもさぁ。私は身体が傷つかないから、いつまでも元気に動けるわけ。

 アンタは違う。身体がボロボロになってく。オーラだけ減る私とは全然違うー」

「……。

 理屈に合わぬな……」

「ん? なにが?」

「それは、貴様の肉体が傷を負わぬ理由でしかないだろう。

 凄まじい防衛機構を持つ念能力を成立たらしめる膨大なオーラ量、何より今の余の可動速度をも凌駕する人外の域にある身体能力、それらの源泉を説明するには到っておらぬ」

「……

 なに、まだおねだりするの? もういいでしょ」

「説明が足りていない、とあやつの目も語っておる」

「……っ」

 

 アイシャの方を見る桜。──無論、敵を目の前にしたまま説明をすべきでないことは、アイシャにも分かっている。分かってはいるが……

 

 それでも、この機を逃せば桜は説明を拒むだろう。だから、否定できなかった。

 

 何よりアイシャは──……

 

 

 

「……アイシャも?

 

 アイシャまで私のこと……人間としては見てくれないの?」

 

 

 

 ショックを受けたように呆然とする桜。

 

 これほど人外と称するしかない力を披露したのだ。疑念を抱くのは当然のこと──そう理屈では分かっていても、心が傷つくのは防げなかった。

 

 

 

「……くそっ。オマエなんか、呼ばなきゃよかった」

 

 その小さなつぶやきに、表情を険しくするメルエム。

 

「ずいぶん身勝手ではないか。自らの都合で産んでおいて」

「オマエなんか産んだ覚えねぇよ……

 女王扱いすんなっ。

 

 ────分かったよッ!! そんなに知りたきゃ教えてやるッッ!!」

 

 

 

 桜を包んでいたオーラが、消えた。

 

 その小さな肉体に搭載されたオーラが性質を(たが)え、妖しく満ち溢れる。

 

 まるで桃源郷──いや、桜の舞い散る並木道のように、オーラの花びらが大気を覆う。春の嵐のごとく──

 

 

 

「────私は人間じゃない。厳密には、違う生物だ」

 

 

 

 凄絶な表情を魅せ、桜は轟然と言い放つ。

 

 

 

「遠く暗黒大陸から来訪し、厄災にも届き得た巨大キメラアントの王に教えてやる。

 

 私を構成する肉体には、貴様と同じ暗黒大陸由来の成分が含まれている」

 

「なにッ……!?」

 

 

 

 

 

「────私は────

 

 人類が内患として抱えてしまった、(いま)だ駆逐できぬ五大厄災が一つ。

 

 

 

 

 

 植物兵器『ブリオン』────……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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