どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百五十七章

 

 金髪碧眼、端麗な顔立ちの女性が俺のことを不機嫌そうに見つめ、

 

「ずいぶんと汚い挨拶ですね……

 お久しぶりです、ウラヌスさん。見違えたように幼くなりましたね。

 本人かどうか、声を聴くまで自信がありませんでしたよ」

「リ、リィーナさん……

 はは、相変わらずお元気そうで何よりぃ……」

 

 正直このヒト苦手なんだよな。基本的に高圧的だから……そばにいてほしくない。結構世話にもなってるから、面と向かっては言えないけど。

 

「単刀直入にお尋ねします。──アイシャさんはどこですか?」

 

 うへへへ、さいあくぅー。あああぁ……このタイミングで来ちゃったよ。なんなん? 好事魔多しとか言うレベルじゃねぇぞ。どんだけ邪魔が入んだよ、あーもうっ!

 

「えっと……アイシャって誰?

 いったい何のこと?」

「トボけてもムダですよ。

 アイシャさんがあなたとグリードアイランドへ来ていることは、調べがついています」

 

 さて、どうだろなぁ……。ハッタリな気もするし、実際調査されてる気もする。ウソかマコトか、この人ポーカーフェイス上手いからな。

 

「そんなこと言われても、ねぇ」

「……そうですか。

 では、あなたにお話があります。申し訳ありませんが、ご足労願えますか?」

 

 有無を言わせない空気だ。表面上取り繕っちゃいるけど、鬼気迫るオーラを感じる……

 

「話すだけならここでもいいじゃん」

「他人には聞かれたくない話ですので」

「ふぅん。で、どこへ連れてく気?」

「私と一緒にここへ来た、アイシャさんの友人達のところへです。

 ……皆、アイシャさんがずっと行方知れずだったので、とても心配されています。

 彼らの前で、アイシャさんのことについて説明していただきます」

「だから知らないってば」

「構いませんので、彼らにもそう説明してください」

 

 マズイ。流石に誤魔化しきるのは無理だ。

 さりとて、このままアイシャのところにも戻れないな。逃げても移動スペルで追われてオシマイだろう。

 

 戦って勝つ──それ自体は出来るかもしれないけど、泥沼になりかねない。アイシャの友人っつってるしな。アイシャを妨害する、その目的自体を取り除かないと。

 

「そんなこと言って、俺を袋叩きにしてカードを奪うつもりじゃないの?」

「そのようなことは致しません。

 あくまでも望むのは対話だけです。無事に帰れることは私が保証しましょう」

 

 まぁウソではないだろう。このヒト、そういうところは律儀だからな。その後の保証はなさそうだけど。その辺は話の持っていきかた次第か。

 

 うん、考えるだけ時間のムダだな。どうせバインダーの名簿を見られたら即アウトだし、これ以上トボけても意味がない。

 

「ん、いいよ。

 でもちょっとだけ待ってて。引いたスペルカードの整理がまだだから」

「ええ、構いませんとも。私も今から友人達に連絡しますので。

 ──逃げても無駄だと、あなたも分かっているようですし」

 

 うーむ……しっかしリィーナさん、やけに強くなっちゃいないか? 若作りしてるのは知ってたけど、ホントに若々しいぞ? 実際オーラ量もグンと増えてるしな。

 

 ひとまずカード整理を終え、俺は外で待つリィーナさんのところまで歩く。

 

「お待たせ。いつでもどうぞ」

「ええ。

 ──『同行/アカンパニー』オン。ゴン!」

 

 俺が一瞬表情を変えたのを、リィーナさんに見られた。ぐっ……

 

 

 

 飛翔を終えて着地した先は、森の中だった。ここは最初の平原辺りか。

 

「……ゴン」

 

 思わず声をかけずにはいられなかった。

 

 ゴンは、控えめに言ってボコボコにされていた。顔は痣だらけで、服から覗く皮膚にも青痣がある。その周りを、ざっと10人近くが取り囲んでいた。うわー、みんな強ぇな。

 

 でも、今はそれよりも。

 

「リィーナさん。

 話を始める前にゴンを治療させてくれ」

「ええ……

 ゴンさんがそれを望むのであれば」

「別にいいよ、ウラヌス……

 オレが悪いんだ」

「ゴン……」

 

 無理やりアイシャの居所を吐かされたってことか? いや、けど……

 

「──説明しろ。なんでゴンがこんな目に遭ってる?」

 

『……』

 

 揃って沈黙を返す周りの連中。……なんなんだ、気持ち悪いな。自分達がやったんじゃないのか。

 

 リィーナさんも妙に困った顔で、

 

「ウラヌスさん。先に事の経緯を説明させていただけませんか?

 あなたが承知しないと、ゴンさんも治療を受け入れないでしょうから」

「……分かった。

 ゴン、ごめんな?」

「ううん。オレは平気だから。

 ……アイシャは、無事?」

 

 俺は少し返答に悩んだ後、

 

「……。

 無事どころか元気に修行してるよ。心配いらないさ」

 

 周囲から安堵する気配が洩れてきた。友人ってのは本当みたいだな。……あれ、ビスケさんとかゲンスルーまでいるぞ?

 

「ゲンスルー、しばらくぶり。

 リィーナさんに鞍替えしたってのは本当だったんだな」

「けっ。

 どうでもいいだろうがよ、そんなことは」

 

 あー、大体聞いてた通りか。ボコられて反省させられてんのか。ぷぷ、可哀想に。

 

 後は……ん? あれってイルミか? いや、違うか。骨格が違うし、雰囲気も柔らかいもんな。でもよく似てるな……。髪を切ったイルミみたいな感じだし、無関係の他人とも思えないが。

 

「ウラヌスさん、説明を始めてもよろしいですか?」

「あ、ごめん。どうぞ」

 

 

 

 そして、リィーナさんの口から説明が始まった。

 

 ──アイシャが消息を絶った9月14日から、約1ヵ月以上もの間。

 

 とにかく方々手を尽くして探したそうだが、アイシャの居所は一切掴めなかったそうだ。それこそ、暗黒大陸にでも行ったのではないかと疑うほどに。

 

 しかし3日前、突然匿名で情報が入ってきた。

 

 プロハンター『アイシャ=コーザ』は、同じくプロハンター『ウラヌス=チェリー』の手引きでグリードアイランドへ入っている──と。

 

 リィーナさん達も、今まで封鎖されていたかの如く情報が入ってこなかったところに、いきなり答えらしきモノが降って湧いた為、虚偽や罠ではないかと疑ったそうだ。

 

 

 

「しかしゴンさんにそれを問い質したところ、不審な反応をしましたからね。

 手荒になってしまいましたが、その情報が真実であることを突き止めました。

 アイシャさんが、グリードアイランドに危険を承知で再度入る理由が思い当たりませんでしたから……完全に盲点でしたよ」

 

 ゴンが俯いている。……この様子だと、俺達のことをバラしたというより、能力で自白させられたっぽいな。

 

 盲点になってしまったのも理解できる。アイシャがグリードアイランドをプレイしようにもボス属性が邪魔するし、操作系が効かないからホルモンクッキーも無効って大前提があるからな。島へ来るのはリスキーなだけで入る理由がない。そのことを知っていれば、グリードアイランドを除外して考えるのは当然だろう。

 

「ですが、神字ハンターであるあなたがいれば話は別です。

 そうですね?」

「んなこと言われてもな」

「この島は随所に神字が用いられています。アイテムも同様でしょう。

 神字のエキスパートであるあなたなら、アイシャさんにも有効なホルモンクッキーへと作り変えることが出来る──違いますか?」

「……」

 

 アイシャのお父さんの実例を知ってれば、その結論に行き着くのは難しくないわな……

 

 でも今のところ、目処が立ってないというのが実情だ。桜に代わっちまってそれどころじゃなくなったからな。ただ、そうバカ正直に答えてやる義理もない。俺の話を信じるかどうかすら怪しいし。

 

 俺は周囲にいる人間のうち、青年というにはまだ幼い顔立ちの金髪少年に目をやり、

 

「アンタがクラピカか?」

「なぜ私の名を?」

「幻影旅団捕縛の件に絡んで、知る機会があってね。ちょいと調べさせてもらった。確かシングルのブラックリストハンターだっけ?

 で、その指からブラ下げてる鎖。引っ込めてもらえるか?

 おそらく調査系の能力だろ? ──続けるなら、攻撃しているものと見なす」

 

 表情を強張らせるクラピカ。周囲の連中も少なからず動揺している。

 

 ……まぁダウジングみたく、不自然にブラ下げてたしな。薬指に精神力が集まってたし、幻影旅団の念を封じた器用さを考えれば、何となく察しはつく。視線の動かし方が不自然だから気づいたのもあるけど。少々経験が浅いのかもな。

 

 渋々クラピカが鎖を収めた後、リィーナさんが難しい表情で、

 

「アイシャさんから伺ったのですか?」

 

 その質問に、俺は少し考える。……周りが動揺した理由の1つがそれか。事前にみんな能力をバラされてんじゃないかってことだな。いつかこういう日が来ることは、俺も予想できたわけだし……

 

「さーてねぇ?

 そこのクラピカが迂闊だったと思うべきじゃないの?」

 

 当然、教えてやる義理はない。アイシャの心証が悪くなって申し訳ないが、駆け引きの材料を減らすわけにはいかない。

 

「とりあえず話は済んだよな。

 ゴン、事情は分かったから治療するよ」

「いらないって。

 オレが悪いんだから」

「待ってくれ、ゴン。オマエは何も悪くないだろ?

 アイシャに頼まれて秘密にし続けてくれたんだし、大方クラピカの能力で自白させられたんじゃないのか? その怪我も、能力を使われまいとして抵抗したからだろ」

「……」

「じゃあゴンに何の落ち度もないよ。

 頼むから治療させてくれ」

「いいってば。

 オレはアイシャとの約束を守れなかったんだから」

「ゴン……」

 

 スーツ姿の青年が、周りから1歩前に出て、

 

「あのよ。

 オレは医者の卵で、レオリオって者なんだが。

 ゴンに怪我を治させろって何度も言ったんだけど、そいつ首を縦に振らねぇんだ。

 治してやりてぇのは山々なんだけどよ」

 

 あーもぅ。頑固そうだもんな、ゴンは。参ったなぁ、気になって仕方ないよ。

 

「レオリオさん。

 ゴンの怪我は、見た感じ打撲や擦過傷だけど合ってるかな?」

「まぁな。3日前の怪我なんだが」

「関節は?」

「……取り押さえた時に痛めてるかもしれねぇ。

 診ることもさせてくれないから何ともだが」

「リィーナさん。柔術でゴンを制したのか?」

「……」

「聞くまでもなかったな。多分治すアテがあったから、強めに痛めつけたんだろ。

 まぁだいたい怪我の程度は見当がついたよ」

 

 3日経ってこの容態だと……ゴンは自らを罰する為に自己治癒を妨げてる可能性もある。精神的にもよくないし、それをやめさせないとな。

 

「ゴン。

 治療させないなら、俺は約束を守ろうとしたオマエを傷つけたコイツラを敵と見なすよ。いいな?」

「違うよ、ウラヌス!

 みんなは悪くないっ! みんな……アイシャのことが心配で」

「ふぅん。

 で、アイシャが心配だから、アイシャのことを庇うゴンを傷つけるのはOKなんだ?」

「違うってば!」

「何が違うの?」

「えっ。その……オレ」

「誰も彼も庇おうとするなよ、ゴン。

 今回の主犯は、俺だろ?

 乗り気じゃないアイシャをグリードアイランドへ誘い、本来は効かないはずのホルモンクッキーをアイシャにも効くように出来るかもしれないと唆した。

 そしてアイシャは俺の誘いに乗り、ゴンにコイツラが邪魔しに来ないよう、内密にすることを頼んだ。

 行方知れずのアイシャのことを心配して、何としても聞き出す為に、コイツラはゴンを傷つけた。

 ゴンはそれに抵抗して、いま怪我をしてる。

 この状況を招いた、張本人は誰だ?」

「……」

「発端の俺だよな?

 ハナからアイシャを誘わなきゃよかったんだ」

「でも……ウラヌスは……」

「……。

 俺の事情は、俺の事情だよ。

 それに巻き込んだ俺の罪が消えるわけじゃない」

「ウラヌスさん、あなたまさか──」

 

 ようやく気づいたらしいリィーナさん。俺は薄笑いを浮かべ、

 

「ああ、除念は済んだよ。アイシャが協力してくれたおかげでね。

 だから今度は、俺がアイシャに報いないといけない。邪魔しないでもらいたいね」

「あなたがアイシャさんに協力する理由はそれですか?

 無事に除念が済んだなら、もうよろしいのでは?」

「何がもうよろしいんだよ。

 利用するだけ利用して、はいサヨナラしろってか?

 ──俺とアイシャは友達なんだ。

 俺の為に尽力してくれたアイシャに対して、その望みを叶える手伝いをすることの何がおかしい?」

「……

 あなたも変わりましたね、ウラヌスさん」

「どうとでも言ってくれ。

 で、自称アイシャの友人は、ゴンを傷つけ、アイシャの妨害をするわけだ。

 俺の知ってる友人関係とずいぶんイメージが違うんだが、誰か言い訳してみろよ」

『……』

 

 気まずそうに沈黙する面々。まぁ自覚があるなら、全然マシだけどな……

 

「──ちょっと待てよ」

 

 ゴンと同じくらいの歳の銀髪少年が、1歩こちらに近づく。

 

「さっきから聞いてりゃ一方的に……

 オレ達に黙って居なくなったのはアイシャの方だぞ?

 ずっと探しててそれでも見つからなくて、ようやく手掛かりが見つかったんだ。

 しかもゴンは知ってて、ずっと黙ってやがって……一言も相談なくよ。

 聞き出す為に、多少荒っぽくなっても仕方ないだろ」

 

 ……なるほどな。

 

「キミの名前は?」

「……キルアだ」

「キルア、その言い分は理解できるよ。

 けど根本的なところが抜けてる。

 ──なぜアイシャは、キミ達に黙って居なくなった?」

「ぅ……」

「心配するな、とゴンに伝言は頼んだだろ。厳密には黙って居なくなったわけじゃない。

 アイシャが居なくなった理由、キミは知ってるんじゃないのか?」

「……」

「ゴンに対して怒るのも、まぁ分からなくはない。

 ただ、それについてはアイシャとゴンの間のやりとりだしな。……他人がどうこう言うこっちゃないと思うんだよ」

「……ゴンとオレは他人じゃねーよ」

「じゃあ、なに?」

「──友達だよ」

 

 そう答えたのはゴンだった。俺は困った目をゴンに向け、

 

「秘密を守ろうとしたゴンを殴るようなヤツが友達なのか?」

「友達でも喧嘩ぐらいするよ。

 キルアは何も悪くないから、怒らないであげて」

 

 何も言わず、うつむくキルア。……まぁ怒っちゃいないけどね。ゴンが許してるんだし。

 

「だったらゴン。繰り返しになるけど、治療させてくれよ。

 この気まずい空気を作ってる一因が自分の怪我だって、ちゃんと理解してるか?

 こう言っちゃなんだけど、意地を張って不仲の原因を作られる方がよっぽど迷惑だよ。

 頼むから、もう心配させないでくれ……」

「……。

 ごめんなさい、ウラヌス。……レオリオ、普通の治療をお願いできる?」

「おっ! やっとかよ!

 って、普通の治療でいいのか?」

「うん。普通の」

 

 んー……。言及こそしてないけど、治療能力持ちかなレオリオは。じゃないと不自然なやりとりだしな。

 

「レオリオさん、治療するならゴンと一緒に少し離れてほしい。

 まだ一触即発の状態だから」

「ウラヌス……」

「心配すんなって、ゴン。念の為だよ。

 あらかじめリィーナさんから、無事に帰すって言質は取ってるからな。

 俺から喧嘩を売らない限り、バトルにはなんないよ」

「……」

「ゴン、行こうぜ」

「うん……

 ウラヌス、本当に気をつけてね?」

「大丈夫だよ。俺こそ心配してるんだから、ちゃんと治療受けてきなって」

 

 ゴンが苦笑する。俺達のやりとりに感化されたのか、少しだけ場の空気が和んでいた。

 

 

 

 

 

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