どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百五十八章

 

 再度レオリオに促され、ゴンが渋々包囲から外れる。俺はリィーナさんへ向き直り、

 

「さて、話の続きだ。

 その匿名の情報源について、調べはついたのか?」

「……いえ」

「だよね。先に答えを言っとくけど、パリストンだよ。

 アイシャの居所調査を妨害してたのも、おそらく同じだ」

「あの副会長めが……!!

 ……いえ、なぜそうだと断言できるのですか? 何か証拠でも?」

「いちおうツッコむけど、アイツもう副会長じゃないだろ? どうでもいいけど。

 ネテロも、あんた達みたいに俺達のところへ来たんだよ。

 別件で来てたんだけど、そっちの情報源もパリストンだったらしい。

 アイシャに目をつけたみたいで、仲のいい人間と衝突させようとしてるんだろうな」

「なんと……

 それでネテロ会長──ではありませんね、ネテロのクソジジイはどうしたのですか?」

「あ、うん。

 2度撃退して諦めさせた。こっちにはアイシャがいるしな」

 

 周囲から概ね納得するような反応。……みんなアイシャの強さは承知済みか。知ってんのかな、前世のこと。ついでにクソジジイ呼ばわりも慣れた反応なのに吹きそうなんだが。

 

「で、あんた達もまんまと乗せられてここへ来たわけだ。

 アイシャと仲違いでもしたいのか?」

「そんなわけではありません」

「じゃあ、なんで戦力引き連れてここまで来たんだよ?

 ホントにみんな、アイシャのことを心配してここへ来たのか?

 安否確認だけなら少人数でもいいだろうが」

「……少人数では、捜索に支障が出る可能性がありましたから。

 バインダーに載っているアイシャさんのライトは、無点灯のままでしたし……」

「同じアカウントを使うわけないわな?

 あんた達、どんだけアイシャに警戒されてるか分かってんのか?」

 

 ……あっぶね。そりゃそうだよ、気がつくべきだったな。アイシャがジンからメモリーカードをもらってて良かったぁ……

 

「本当に、アイシャさんは無事なんですね?」

「無事だよ。『交信』で話すまでなら許可してもいい。

 けど会わせるのはダメだ。アイシャを妨害しに来た連中をこのままにもしておけない。

 今すぐゲームから出て行ってほしいね」

「この目で無事を確認するまでは、出て行くわけには参りません」

「で、その後は?

 ……まぁ何より、これをハッキリさせとくべきか。

 

 ────なぜアイシャの性転換を妨害する?」

 

「……」

 

 周囲の反応は様々だ。初耳ってわけじゃなさそうだけど……

 

「リィーナさん。あんたが首謀者だな?」

「……そのような呼称は不愉快ですが、あなたから見ればそうでしょうね」

「アイシャの無事を確認しようとするところまではいいさ。

 でもアイシャは、あんた達が探しに来て、妨害することまで確信していた。だからこそ消息を絶ったんだ。ゴンが必死で抵抗した理由も同じだろ?

 で、あんたがここまでしてアイシャの目的を妨害する理由はなんだ?」

「……」

 

 歯切れが悪いな。らしくないというか。

 

「俺達も遊びで来てるんじゃないんだ。

 それこそ命懸けでクリアを目指してるのに、面白半分で邪魔するなら容赦しないぞ」

「面白半分などではありません!」

「面白半分じゃないなら、理由はなんだ?」

「……」

 

 おいおい……そこハッキリしないと話が進まないじゃないか。どうすんだよ。

 

 ざわつく包囲の中から、ビスケさんが進み出た。リィーナさんへと近づき、

 

「リィーナ。もう正直に言ってしまいなさいな。

 このままだと、まとまるモノもまとまらないわよ?」

「ビスケ……

 ですが、極めて個人的なことですので」

「あーもぅ、メンドくさい子ね」

「ビスケさん、ひさしぶり。

 パワフル元気そうでなにより」

「変な枕コトバを付けるんじゃないわさ!

 まーアンタは、チビっちゃく可愛らしくなったわね。元から可愛いのに卑怯だわよ」

 

 何が卑怯なんだ。えらい歳食ってるくせに、その見た目こそ卑怯だろうに。

 

「ビスケさん、なんでアイシャの妨害をするんだ?」

「んー。

 あたしとしても、なんかアイシャが男になるってのは抵抗あるのよね」

「……そんな理由?」

「あれだけ美人なのに、もったいないわさ」

「そうです、その通りですとも!」

 

 勢い込んで賛同するリィーナさんを、ジロリと睨みつけて黙らせる。

 

「別に減るもんじゃなし、女に戻れなくなるわけでもないだろ?

 ずっと男になりたいってわけじゃ、アイシャも無いと思うけど」

「そうでしょうねぇ……

 お母さんの件があるわけだし、女として生きるつもりはあると思うわさ」

「だったら、暴力沙汰まで起こして止める意味ってあんの?」

「……あたしはリィーナに協力してあげる、くらいのつもりだったわ。

 アイシャだって、あたし達を倒してでも目的達成する意志はあったわけだし、お互い様だと思うけど?」

 

 アイシャはアイシャで、仲間割れしてまで性転換したかったのか……どっちもどっちと言われりゃそれまでだけど。

 

「アイシャとあんた達の個人的なやりとりで収まるなら、口は挟まないよ。

 でも今回は、俺や他の人間も関わってる。もうあんた達だけの問題じゃ済まないんだ。

 諸々の関係者間で生じる問題を度外視して暴れたら、それこそ後で大問題になるぞ?

 そんなの、アイシャの人間関係を引っ掻き回そうとしてるパリストンの思う壺だろ。

 あいつに付け入る隙を与えるなんて、銀行強盗に金を預けるのと同じじゃないか」

「あー、そういうこと。

 それは確かにマズイわね……」

 

 ビスケさんが悩み出した。ようやく状況の複雑さを理解したらしい。

 

「リィーナさん。

 内輪揉めじゃ済まない、と分かった上でアイシャの妨害をするのか?」

「……

 望むところではありませんね。誰が関わっているかにもよりますが」

 

 そもそも、アイシャがリュウショウだったなら、リィーナさんは一番弟子だったんじゃないのか? 前世のことを知ってるからこそ、アイシャと関わってるんだろうし。

 

 師匠の性転換を全力で妨害とか、マジでイミフなんだけど……。どんな師弟関係だ。

 

「さっきも言ったように、関係がこじれた後、更にパリストンがちょっかいを出してくることも考えられる。

 ネテロにも宣告したけど、いい加減な覚悟で邪魔するなら本気で怒るよ?」

「……いい加減などではありません」

「ああ、そう。

 まぁここまで3日で用意してくるんだから、本気なのは分かったよ。

 でも、前回は阻止に失敗したんだろ?

 アイシャは自分で、ホルモンクッキーが効かないことを確かめたみたいじゃないか。

 それってつまり──」

「そうよ。前はあたし達の完敗だわさ。

 1回は妨害できたんだけど、まさか2ラウンド目があるとは思わなかったのよね……」

 

 ん? まぁ良く分からんけど、結局負けたってことか。つーか1回は妨害成功したのか、すごいな。

 

「で、性懲りもなく、また妨害に来たと。

 バカじゃねーの?」

「……」

「前回と今回が同じメンバーかは知らないけど、集団で挑んでもアイシャ1人に負けたんだろ?

 また同じ目に遭いたいのか?」

「今回は、前回の反省を踏まえております」

「戦ってでも止める意志アリってことだな。

 断言しておくが、俺達は絶対に譲る気はないぞ。

 第一、どう止める気だ?」

「……どう、とは?」

「俺はゲームクリアして、ホルモンクッキーを持ち帰るつもりだ。

 それを研究して、アイシャでも使えるように作り変える。物さえ手元にあれば量産だけならもう出来るしな。

 つまり、ゲームクリアを阻止するか、俺の研究を妨害しないといけないわけだ。

 言ってる意味、分かる?」

「だったら話は簡単じゃない。あんた達のカードを奪っちゃえば──」

「ビスケさん、分かってないだろ?

 確かに今はそれで阻止できるさ。

 でも、諦めずにまたゲームクリアに挑戦することは出来るだろうが。

 俺がやること全てを妨害しない限りは、アイシャに有効なホルモンクッキー製作を阻止することは不可能だって言ってるんだ。

 ──殺してでも、止めるつもりか?」

 

 黙りこくる2人。まったく、だから面白半分で邪魔すんなっつってんのに……

 

「……であれば、アイシャさんを説得します」

「会わせない、と言ったら?」

「探し出すのみです」

 

 どうしたもんかな……俺にも言える話なんだよな。こいつらっつーか、リィーナさんを止めない限り、ケリはつかないんだから。

 

 だったらもう決闘でもなんでもして、どっちか諦めさせるのが一番無難そうだけど……

 

 ただアイシャには戦ってほしくないんだよな……。怪我したらシャレになんねぇもん。出来れば穏便に済ませたいのが本音だ。前回も少しは妨害されたみたいだし、こいつらの実力なら作戦次第でアイシャが大怪我することだって有り得るだろう。

 

「つうか、俺を無事に帰す気があるなら一旦包囲を解いてくれよ。

 いい加減、一触即発の状況で話すのはイヤなんだけど」

「……そうでしたね。申し訳ありません。

 みなさん、戦闘態勢を解いて楽にしていただいて結構です。私達は向こうで話し合いを続けます」

 

 やっぱり聞かれたくない話をしたかったか。俺としてもその方が好都合だしな。

 

 周囲の人間がバラける。歩き出すリィーナさんに、俺とビスケさんが付いていく。

 

「ビスケ、あなたは──」

「あんた達だけじゃ不安だわさ」

「俺は別に構わないよ。

 戦力バランス的にもその方がいいだろうし」

「……仕方ありませんね」

 

 森の中を進み、彼らが見えなくなった辺りでリィーナさんが立ち止まる。

 

「ウラヌスさん。

 あなたはアイシャさんのことを、どれだけご存知なのですか?」

「そんな漠然と聞かれても。

 俺から情報を引き出したいなら、ちゃんと質問してくれよ」

「……」

「まぁ意地が悪いか。いいよ、俺が譲歩する。

 特殊効果を弾く能力のことは知ってるし、そのデメリットも聞いたよ。……アイシャが異常に強い理由も最近知った。これでいい?」

「……そうですね。充分です」

「あんた、そこまでアイシャから聞いたんだ……?」

 

 ビスケさんが不思議そうにしてる。まぁここで1ヵ月以上も一緒にいれば、流石にボス属性は分かるよ。前世のことは別だけど。

 

「昔のアイシャがなんであれ、俺にはどうでもいいことだよ。

 リィーナさんがそこまでアイシャの性転換を邪魔しようとするのは、個人的な感情?」

「その通りです。

 アイシャさんの愛らしい姿が失われるのではないかと……」

「はぁー……

 杞憂だとは思うけど、理解はしたよ。

 で、俺がアイシャに協力しようとする理由も察しはつくだろ?」

「……」

「俺は女になりたい。アイシャは男になりたい。……共感するには充分すぎるよな。

 ホルモンクッキーを持ち帰って、俺はいつでも好きに性転換できるようにしたいんだ。それ自体はアイシャの望みとは別の話。

 つまり、俺の邪魔をする気か? と聞いてる」

「……そんなつもりはありません」

「気のあるなしを聞いといてなんだけど、やるこた同じだわな?

 俺が女になるのを妨害するとか、マジで赦せないんだけど。

 どんだけ苦しんでるか、前に話したよな? それを知ってて邪魔すんのか?」

「でもあんた、女になるだけなら、もうなってみたんじゃないの?

 ゲームの中でも有効でしょ、あれって」

「その通りだよ。

 俺はアイシャと違って、ホルモンクッキーが効くからな」

「じゃあなんで、それで満足しないんだわさ」

「……

 1日だけ女になっても、しゃーねーだろ。俺は女として生きたいんだから」

「あー。

 あんたはどっちかって言うと、自分が男なのがイヤなのね……」

「ほっとけ」

 

 

 

 

 

「ゴン、大丈夫か?」

「平気だよ。

 キルア、気にしなくていいって」

 

 レオリオの医薬品で治療を受けるゴンに、キルアは複雑な表情を浮かべる。

 

「ったく、無茶しやがってよ……

 ゴン、オマエ自己治癒もロクにしてないから、結構悪化しちまってるぞ。

 ちゃんと治療した方が」

「いちち……

 大丈夫だってば。これからはちゃんと治そうとするから」

 

 ぶつぶつ言うレオリオに、ゴンは苦笑いで返す。実際化膿してしまっているので、完治には時間がかかるだろう。

 

「ゴン、ごめんな……」

「キルアは悪くないよ。オレの方こそゴメン。

 キルアにだけでも教えようか、オレもずっと悩んでたんだけど……」

 

 顔を逸らすキルアに、今度はレオリオが苦笑する。

 

「水臭ぇよな、アイシャもゴンも。

 ちゃんと相談してくれりゃ、こんな大事(おおごと)にはならなかっただろうによ」

「でも、アイシャが男になるの、2人ともイヤなんでしょ?」

『ああ』

 

 息ぴったりに返した2人に、ゴンは思わず閉口し、

 

「……。

 相談できなかったアイシャの気持ちも分かるよ。

 なんとなく恥ずかしかったのもあるんだろうし」

「つーかよ。なんでそこまでしてアイシャも男になりたいんだろうな?

 オレ達と寝泊りしたかっただけなら、もうしたじゃねぇかよ」

「うーん……

 やっぱり強くなるなら男になって、とか」

「だったらオレは尚更反対だな。

 アイシャが筋肉バキバキの男になるとか、絶対見たくないぜ」

「アハハ……それはオレもイヤかな」

 

 2人の話を聞いていたキルアが息を吐き、

 

「そんなことより、なんなんだよ。あのウラヌスってやつ。

 ずいぶんアイシャに肩入れしてんじゃねーか。

 ゴンのことも妙に心配してたし」

「ウラヌスはああいう性格なんだよ。

 困ってるのを見過ごせないっていうか、自分のことより他人のことっていうか」

「……アイシャみたいなやつだな」

「多分アイシャよりお人好しだよ……ウラヌスは」

「ゴンの怪我、やけに治したがってたもんな。

 オマエのこと説得してくれて、ホント助かったぜ」

 

 レオリオが皮肉混じりに言うと、ゴンは頬をかく。

 

「ごめんってば。

 ……オレはオレで、アイシャとの約束を守れなかったのが悔しくてさ」

「頑固なオメーを説得してみせるんだから、アイツもなかなか頑固だよな」

 

 

 

 

 

 腕を組んで黙り込んでいるゲンスルー。ウラヌス達のいる方を、じっと眺めている。

 

「なぁ、ゲン」

「なんだ、サブ?」

「あのウラヌスってやつと知り合いなのか?」

「前に、あいつと交渉したことがある。

 ……オレが【命の音/カウントダウン】を仕込もうとしたのを避けやがった」

「ホントか?」

「その時は偶然かと思ったがな。

 今にして思えば、何か仕掛けるのに気づかれた可能性がある。

 ちっ……ツェズゲラの野郎にも警戒されて失敗したし、星を持ったプロってのは厄介なもんだぜ」

「ツェズゲラはキャリアも長いから、警戒されたのも分かるけどよ。

 あんなガキが気づけるもんか?」

「元々はあそこまでガキじゃない。

 魔女の若返り薬を使ったんだろう」

「……なるほどな」

「それでも、まだ20歳にもなってなかったはずだがな……

 先生とあれだけ口を利けてるんだ。相応の実力者だと見ていいだろう」

「ゲン……

 それだけか?」

「ん?

 それだけって、どういう意味だ? バラ」

「あいつ、さっきゲンのことを見て、ちょっと笑いやがっただろ。

 もしかして以前から気づいてたんじゃないか?

 ゲンがハメ組を裏切るつもりだったのを」

「……アイシャからオレの企みを聞かされただけだと思うが。

 だが、何か違和感ぐらいはあったのかも知れないな。ああ見えて、なかなかしたたかな交渉をするやつだった」

「オレが気にしてるのは、ハメ組の連中でな。

 あいつがハメ組にゲンの計画をバラしたら、面倒なことになりそうだ」

「……今更、あんな連中と関わりあいになるのはゴメンだな。

 だが、敢えてそれを口にすればヤブヘビになるかもしれんぞ」

「うむ……

 なら気にしておくだけが、今は賢明か」

「にしても、またこの島に来ることになるとはな。もうウンザリなんだが。

 こんなところ、さっさとオサラバしたいもんだぜ」

 

 眼鏡の位置を直しながらそうぼやくゲンスルーを、サブが怪訝そうに見る。

 

「……

 早く帰ったら、すぐに先生との修行が再開するぞ」

「しばらくこの島でノンビリするのも悪くねぇな!

 なぁ! サブ、バラ!」

『……まったくだな』

 

 

 

 

 

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