どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百五十九章

 

「あーもう、ムカつくぅーッ!!」

 

 ──今まさに俺が言おうとしたことを先に言われ、面食らう。

 

 旅館の泊まり部屋に帰ってきた途端、後ろに転がりながらメレオロンがそう言ってきた。あー……3人でド○ポンやってたのか。ご愁傷様。

 

「くっそぉー。

 おや? お帰りー。遅かったじゃん」

「ん、んー……

 ただいま」

「ちょっと聞いてよウラヌス、シームったらさぁー」

「メレオロン、そんなどうでもいいこと報告しなくていいです。

 ……ウラヌス、妙に遅かったですけど何かありましたか?

 顔色も良くないですし」

「ウラヌス、何かあったの?」

 

 おぉう。誤魔化すヒマもねーよ、まいったな。

 

「どうでもよくないわよー」

 

 メレオロンはともかく、心配そうに見てくるアイシャとシームに、俺は慌てて手を振り、

 

「いやいや。

 とりあえず、お昼食べに行こ。な、メレオロン?」

「おー!

 はい、ゲームやめやめ! クソつまんね!」

「あっ!?

 おねーちゃん、なんで消すの!」

「もー。

 ズルいですよ、メレオロン」

「うるせー! さっさとメシメシッ!」

「ははは……」

 

 平和だなぁ。……言いにくいよ。なんて話そ。

 

 とりあえずまだ時間はあるからいいけど……呑気にメシ食えるのもこれで最後かもな。あーやだやだ。

 

 

 

 すっかり当たり前になった、料亭での昼食。

 

 美味しいんだけどなぁ。悩んでると、どうも味まで悪くなったように感じるよ。実際、俺の体調が良くないんだろうけど。

 

 3人とも直接聞いては来ないけど、俺が気分を損ねてる理由を知りたがってる。全く、次から次へと勘弁してほしいよ。

 

 とりあえずリィーナさん達には、アイシャと一度話し合うから待ってくれと言ってある──今日中に返答すると約束して。そもそも無事に帰すって約束だったからな。

 

 密林の調査どころじゃなくなったので、ベルには予定が変わったから延期させてくれと伝えた。……さて、どうすっかなぁ。

 

 料理に満足し、箸を置いて一服していると、アイシャが小首を傾げながら、

 

「ウラヌス。

 そろそろ何があったのか教えてください」

「ん……

 じゃあ話すよ」

 

 アイシャのことだから、薄々気づいてるだろうけどね……

 

 

 

 

 

 ウラヌスの語った話は、多少は予想できていたとは言え、どうにも申し訳ない気持ちにしかなれない内容だった。

 

 遂にリィーナ達が来てしまったか……。いや、それだけならまだよかったんだけど。

 

 まんまとパリストンの思惑通りに動かされて、その動機が相変わらず私の性転換を阻止したいだもんな……ヒドすぎるだろ。リィーナ、オマエほんとに私の弟子か?

 

「本当に申し訳ないです……」

「いや、アイシャが悪いわけじゃないからさ」

「いえ……

 ウラヌスにとって、リィーナの主張は不快極まりないでしょうから……」

「んー」

 

 ウラヌスにだけはそれを言ってほしくなかった。……ただでさえ彼は、そういうことで苦しんできたんだから。桜のことも考えれば、ここで彼を揺さぶるような真似は絶対してほしくない。

 

「私の仲間に関することですから、その件は私が預かります。

 ウラヌス達は何も心配しないでください」

「俺は、それをさせたくないんだよ」

 

 分かってるけどね。じゃなきゃリィーナと交渉決裂するまで話し合わなかっただろうし。

 

 リィーナは私に会うまで帰らないと言い、ウラヌスは私には会わせないと返し。結局はその平行線だったようだ。リィーナも、感情的に私の性転換を容認できないから、ゆえに引けないんだろう。……しつこいな、あの子も。なんでそこまでイヤがるんだ、くそっ!

 

「でも、アイシャが前みたいにやっつけちゃうのが一番いいんじゃないの?」

 

 気楽に言ってくるメレオロン。私もそう思うんだけど……

 

「だから、それで逆にアイシャが負けたり大怪我したらどうなるよ?

 俺達だってタダじゃ済まないんだぞ。つか、俺がリィーナさんをタダじゃ済まさないよ。

 ゴンのことボコりやがって、俺メチャメチャ頭に来てるんだから」

 

 困ったな……ウラヌスが一番キレてるんだよね。気持ちは分かるけど、私はどうすればいいんだ。

 

「アイシャ。1個確認するよ。

 何としても、性転換はしたい?」

「……

 なんとしても、なんて聞かれると困りますが……

 可能なら成し遂げたいです」

 

 悔いは残したくないからね。

 

「ん。それは分かった。

 メレオロンやシームのこともあるし、リィーナさん達を屈服させるのが一番だと思う」

「であれば、それは私の役目ですよ」

「何度も言わせないで。

 アイシャが100%勝つ保証はないし、怪我したらマズイでしょ?」

 

 うー。でも、だからって……

 

「だから、俺1人で戦う。

 アイシャは、メレオロンとシームを守る。俺が負けるか負けそうになったら援護でいい。それが一番安全だから」

「それだと、あなたが危険じゃないですか……

 言っておきますけど、リィーナ達は──」

「護衛軍2人を撃破するほどの手練れでしょ。

 アイシャが鍛えあげた仲間なんだから、それは分かってるよ」

「え? なにそれ」

 

 メレオロンが護衛軍の単語に反応して、目を丸くする。気になるだろうけどその話は後。今はそれどころじゃないよ。

 

「なら、分かってますよね?

 いくらなんでも、あなた1人では勝てませんよ」

「……そう言うと思った」

 

 諦めをにじませた表情で、ウラヌスはポケットから何か取り出した。

 

 

 

 ────ホルモンクッキーを。

 

 

 

「ウラヌス、待──」

 

 止めようとしたが、一瞬早くウラヌスがクッキーを口にした。しまった……!

 

 咀嚼し、飲み込んだウラヌスのオーラが変化する。きょとんとした顔で、目をパチクリさせ、

 

「にゃ」

 

 ……。また……相談もなく……

 

 確かに桜の力なら、リィーナ達をどうとでもしてみせるだろう。けど……

 

 桜は物思わしげに頭をくるくるさせ、ピタリと止める。

 

「アイシャ」

「……なんです、桜?」

「状況は分かった。

 私が1人で戦うけど、それでいい? 私が負けそうになっても援護しちゃダメ」

「……」

 

 ウラヌスより条件が厳しくなってる……。まぁウラヌスより桜の方が遥かに強いから、援護の必要なんてないとは思うけど。勝つどころかリィーナ達を大怪我させずに完勝することすら可能だろう。

 

 いや、実力うんぬんの問題ではない。私のことなんだから、私がけじめをつけるべきだ。怪我しないように勝つ、それだけだ。

 

「いえ、やはりリィーナ達とは私が戦うべきです。

 私の問題ですから」

「うん。でも、どうやって?」

「え?」

「リィーナのところへ行く方法が、アイシャにはないでしょ?

 こっちが襲撃する可能性を警戒して、リィーナ達はどっかで野営してると思うよ。探すアテがないじゃん。

 島中走り回って、どこかに潜んでるかもしれないリィーナを探すの? 流石に無理じゃない?」

「……」

「私はアイシャを連れてかないよ。リィーナと戦わないって約束してくれない限り。

 できれば、ここに残って2人を守ってほしいもん」

 

 ……ウラヌスと違い、有無を言わせぬ空気を纏う桜。まずいな……うまくコントロールしないと、また暴走しかねないぞ。

 

「桜……」

「にゃ? なに、シーム?」

「ボクも連れてって」

「えっ!?」

「もうやだよ、待ってるだけなのは。

 お願いだから連れていって」

「にゃー……

 だから危ないってばぁ」

「心配なんだもん!

 お願いだから、連れてって!」

「にゃう……」

 

 昨日、私と桜がした特訓のことも気がかりなんだろう。今朝のウラヌスの様子はかなり奇妙に映っただろうしな。ウラヌスもあんな事実を知った後で、動揺を隠せるはずもない。だからこそ、桜にはなってほしくなかった。今回のことでウラヌスは更に不安定になってしまうだろう……

 

 ウラヌスの心が揺れていることに気づいてるから、シームも不安で仕方ないんだと思う。

 

「桜、アタシからもお願い。

 この子は絶対に守るし、人質に取られないよう能力を使ってでも最善は尽くすから」

「……それだと、アイシャも連れてくって確定しちゃうね。

 どうする?」

「……

 2人を連れて行くことは構いません。

 ですから私がリィーナ達と戦い、桜が2人を守って──」

「却下。

 アイシャが2人を守るなら、みんな連れてく。

 でも、アイシャが戦うつもりなら私も行かない。2人が移動スペルで付いて来たら困るから。

 ──どうするかは、アイシャが決めて」

 

 つまり私がリィーナ達とは戦わないと約束しない限り、状況は動かない、か。このまま何もしなければ、リィーナはいずれこちらへ来てしまうだろう。穏便に済まない可能性がある以上、それは危険だしな……不意を打たれたら2人の身の安全を保障できない。もし人質に取られたら詰みになりかねない。

 

 たっぷり1分ほどかけて悩んだ後、

 

「……

 やむを得ません。

 桜、これが最後です。──リィーナ達のこと、お願いできますか?」

「にゃ! まっかせて!」

 

 とにかく今はゲームクリアが最優先だ。……リィーナへの折檻はクリアした後にしよう、うむ。……アイツラ覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 前回、ツェズゲラ組との決戦の舞台にもなった、城下町リーメイロ南部にある山岳地帯。

 

 昼過ぎ、リィーナに『交信』で連絡が入った。相談した結果を伝えるから、全員で来てほしいと。

 おそらく戦いになるだろうと全員心構えをした上で、リィーナは『同行』でウラヌスに向かって飛んだ。

 

 ウラヌス──実際には桜を取り囲む形で着地するリィーナ達11人。

 

 が、一瞬で包囲は瓦解した。猛烈な怒気を浴びせられ、全員がそこから距離を取る。

 

 そこには、静かに佇むアイシャがいた。その後ろにも2人控えているが。

 

 当のアイシャは、名状しがたい複雑な感情に苛まれていた。

 

 

 

 ずっと自分を探してくれていたことを喜ぶ気持ち──

 

 今まで心配をかけていたことを申し訳なく思う気持ち──

 

 ゲームクリアを目前にして妨害に来たことを赦せない気持ち──

 

 

 

『アイシャッ!!』

 

 複数人がアイシャの名を呼ぶ。アイシャはここ一番の忍耐を発揮し、口を開いた。

 

「お久しぶりです、みなさん。

 ……ですが、いまここへやってきたことを赦すつもりはありません」

 

 たじろぐ数人。怯えながらもキルアが踏みとどまり、

 

「どうしたんだよ……

 なにがあったんだよ、アイシャ!」

「別に何もありませんよ。

 ただ、怒っているだけです。ここまでして、私の邪魔をしたいんですか?」

「い、いや……

 無事なら良かったけど……

 黙って居なくなるから、また何かあったんじゃないかって心配したんだぞ!」

「……すいませんでした。

 そのことについては、改めて謝罪しようと思います。

 ですがそのことと、私の邪魔をすることは別の話です。

 キルア、あなたはどちらの味方ですか?」

「ぅ……」

「私か、リィーナか。答えてください、キルア。

 キルアだけではありません。あなた達も」

 

 リィーナ側にいる全員がお互い顔を見合わせる。

 

「オレはアイシャの味方だよ。

 ごめんね、キルア」

「ゴン……

 いや、オマエはそう答えるべきだよな。オレは……どうすっかな」

 

 キルアは、アイシャとリィーナを交互に見て、悩ましげにしている。

 

 悩むキルアの肩を、ミルキがポンと叩いた。

 

「兄貴……」

「キル、頼む。オレに力を貸してくれ。お前のスピードがないとアイシャに対して勝算はかなり低くなっちまう。

 それにどうしても、アイシャが男になるなんてオレはイヤなんだ。

 オマエだって、ホントはイヤなんだろ?」

「まぁ……な」

「そうだぜ、キルア!

 アイシャが男になるなんて、やっぱりオレは認められねー!

 この感情にウソは吐けねーんだ!」

「……わかったよ。

 わりぃ、アイシャ。兄貴がオレに頼みごとするなんて、滅多にないからさ」

 

 アイシャは天を仰ぐ。確かに美しい兄弟愛かもしれない。だが、よりによってここで? というのがアイシャの本音だ。レオリオについては、もう何も考える気になれなかった。

 

「ビスケ、カストロさん。

 申し訳ありませんが……」

「分かってるわさ。命懸けになるんだから、報酬は弾んでよ?」

「今回も師の命令により、挑ませていただくよ。

 アイシャさん」

「ゲンスルーさん、サブさん、バラさん。

 分かってますね?」

『イエス、マム!』

「クラピカさん、あなたの探し物に協力する件、改めてお約束いたします。

 師弟で戦わせるのは心苦しいですが……」

「……背に腹は代えられません。

 アイシャ、すまないが私もここは譲れないんだ」

 

 はぁー……と息を吐くアイシャ。

 

「ゴン、こちらへ来てください。

 私と一緒に2人を護るのを手伝ってください」

「うん!」

 

 嬉しそうにアイシャのところへ駆けつけるゴン。メレオロンとシームに向かって笑顔を見せ、姉弟も笑顔で返す。

 

「あなた達に戦う意思があること、充分に理解しました。

 ──ですが、あなた達の相手は私ではありません」

「にゃん♪」

 

 一鳴きした桜へと、リィーナ達の視線が集中する。

 

「私がお相手するよ。

 リィーナ、勝敗条件と報酬(リワード)を決めたいんだけど」

「どういう意味ですか? ウラヌスさん」

 

 意図が読めず、不可解そうな反応をするリィーナ。

 

「ただ殲滅戦やっても仕方ないじゃん。ヘタしたら死人が出ちゃうもん。

 基本は、負けた方が勝った方の言うことを聞く、でいいと思うけど」

「ルールを決めよう、ということですね」

「その方がお互い後腐れないでしょ? 泥沼になるのだけは絶対避けたいし。

 約束を守ると誓えるなら、だけど」

「内容にもよりますが、取り決めが納得いくものであれば、遵守すると誓いましょう」

「ん。私とアイシャもそうする。

 でね、私は1人で戦うから。リィーナ達は全員で戦っていいよ」

「は?

 なにを言っているのですか?」

「ふふーん。

 アイシャと戦うつもりでいたから、私への対策なんて全く出来てないよね?

 せめてものハンデかにゃ。アイシャは戦わない。リィーナ達が手を出さない限りね。

 私は、単独でリィーナ達全員を叩きのめしたら勝ち。

 リィーナ達は、私1人倒せば勝ち。

 どう? 呑める?」

「……

 アイシャさん、本当によろしいので?」

「ええ、構いませんよ。

 そこにいるウラヌス──いえ、桜にあなた達が勝てたなら、私は性転換を諦めます」

「桜?

 確か、その名は──」

「にゃんっ。

 私が勝ったら、リィーナ達はゲームクリアを妨害しない、アイシャの目的を邪魔しない。

 どう?」

「……少し、お時間をいただけますか?」

「いいよー」

 

 軽い足取りで、桜はアイシャ達の方へ行く。リィーナ達は集まって相談を始めた。

 

「ゴン、その怪我……

 本当にごめんなさい」

「いいって、アイシャは気にしないで。

 それよりアイシャとの約束、守り切れなくてごめん」

「……充分すぎます。

 これまで頑張ってくれたこと、心から感謝していますよ。ゴン」

「アイシャ……」

 

 桜がそんな2人を微笑ましく見つめながら、

 

「実際1ヵ月以上粘ってたもんね。

 結構キツかったでしょ?」

「何度聞かれたか分かんないくらい、アイシャの居所を聞かれたよ。

 キルアにだけは話そうかなって、ずっと悩んでたんだ……」

「ゴン、ツライ思いをさせてすいませんでした……」

「いいよ、アイシャは気にしないでってば」

「ところでその怪我、ちゃんと治した方がいいんじゃないの?」

 

 気になっていたようで、メレオロンがゴンの怪我を覗き見ながら尋ねる。

 

「ううん、これで充分。

 ウラヌス……オレはどうしたらいい?」

「本当は今すぐ治してほしいけど、怪我が完治してるかどうかに関係なくゴンも戦っちゃダメ。

 アイシャ達を仲違いさせるのがパリストンの狙いだろうから、禍根が残るようなことはしないでね」

「桜……」

 

 表情を曇らせるアイシャ。……言いたいことはアイシャにも分かる。リィーナ達と仲間ではないウラヌス──桜が戦えば、そもそも仲違いには発展しないのだから。

 

 けれどそれは、今回の不利益を全て1人で背負うということに他ならない。

 

 ゴンはアイシャ達を見て困ったような顔で、

 

「えぇと……ウラヌスっていうか、さくら? っていうか……

 まず、なんて呼べばいいんだろ」

「今は桜でいいよ。女に性転換してる時は桜。男に戻ってる時はウラヌス」

 

 簡単に説明する桜に、ますます混乱するゴン。

 

「ま、まぁいいや。それじゃ桜。

 オレ、戦いが始まったらホントにどうしたら……」

「メレオロンとシームを守ってあげて。

 リィーナ達も戦闘の意思がない相手を襲ったりしないと思うけど、流れ弾が来たりとか巻き添えにならないとは限らないから。自分自身を守ることも忘れないで。

 あと、メレオロンの能力のことも考慮してね」

「う、うん」

「私が2人を守りますから、ゴンはそこまで気にしなくていいですよ。

 今は自己治癒に専念してください。

 戦いが始まったらそちらに気を向けてほしいですが」

「うん……アイシャがそう言うならそうするよ。

 桜、みんな強いよ? 本当に大丈夫?」

「強いのは知ってる。でも大丈夫。私はもっと強いから」

 

 ゴンは不安げにアイシャの方を見る。

 

「……」

 

 アイシャは沈黙で返す。同じように不安というわけではない。リィーナ達が桜より弱いとは口にしづらく、桜の強さを口で説明もできないからだ。

 

 あれからリィーナ達がどれだけ強くなったのか。アイシャ自身も関心がある。

 

 そのリィーナ達相手に桜がどう立ち回るのか。これもまた興味深い。

 

 仮にどちらが勝ったとしても、アイシャは取り決めに従うつもりでいた。桜が勝ったとしても、それで確実に性転換できるようになるとは限らないが、少なくとも桜が負ければその道は閉ざされる。

 

 ゆえに、今はリィーナ達の成長よりも、桜の勝利を願う気持ちの方が強かった。

 

 皆の不安を払うように、桜は微笑みを浮かべた。

 

「私が戦うところ、よく見ててね。きっと参考になるから」

 

 

 

 

 

 ──相談を終えたのか、集団からリィーナが歩み寄ってくる。それを迎えるように桜が近づく。お互いにある程度の距離で立ち止まり、

 

「話は付いた?」

「ええ。

 そちらはあなた1人。

 こちらはワタクシ、ビスケ、カストロさん、キルアさん、クラピカさん、レオリオさん、ミルキさん、ゲンスルーさん、サブさん、バラさん、この10人で戦います。

 ……本当によろしいんですね?」

「うん。

 こっちにいるアイシャ、ゴン、メレオロン、シームの4人は見届け人。

 戦いには巻き込まないようにしてね。うっかりってこともないようにしてほしいけど、もし故意に狙ったりしたら、取り決めはなしにするから。

 私以外、あなた達には手を出さない」

「……分かりました。

 勝敗は、あなたかこちらの10人全員が、気絶または降参した時点で決着としましょう」

「おっけ。それでいいよ」

「あなたが勝利したら、あなた達のゲームクリアを妨害することはしませんし、アイシャさんの目的も邪魔しません」

「ホントに? 一度アイシャに負けて、それでも性懲りなく邪魔しに来たのに?」

「くっ……

 いえ、以前アイシャさんとそのような取り決めは交わしていませんので」

 

 離れた場所で聞いていたアイシャが首を傾げる。好きにしていい、とか言っていた気がするのだが、微妙に誤魔化されたようだ。

 

「まぁいいや。

 リィーナ達のうち誰か1人でも私に勝ったら、アイシャは性転換を諦める。

 アイテムの効果を私がいじるぐらいしかアテがないみたいだし、私の方からアイシャにクッキーを渡しさえしなければ、それは大丈夫だと思うよ」

「……ホルモンクッキーの研究自体はする、ということですね」

「私が使うからね。だからゲームクリア自体はさせてもらう。

 そこは信用してもらうしかないかな。お互い様だし」

「……いいでしょう。あなたのことですから、約束を破るとも思えませんので。

 ところであなた、随分様子が違うように見受けますが、戦うのに支障はないのですか?

 問題があるなら日を改めてもよろしいですが」

「ううん。私達も急いでるから、すぐ始めよう。

 戦うのに支障があるとしたら、むしろリィーナの方じゃない?」

「どういう意味です?」

「フフン♪ どういう意味だろうね?」

 

 見透かすような目で不敵に笑う桜。やや気圧されるリィーナ。

 

「何のことか分かりませんが、取り決めは以上ですね。

 開始の合図はどうしますか?」

「アイシャに任せようかな。どう?」

「ええ、構いません」

 

 桜は右手を高々と上げてヒラヒラと振り、

 

「アイシャー。

 全員の準備が整ったと判断したら、始めの合図ちょーだーい」

「分かりました!

 皆さん、あと1分ほどしたら合図しますのでそのつもりで!」

 

 リィーナと桜が無言で視線を交錯させた後、互いに背を向ける。仲間の元へ。

 

「さて。あっちはまず誰が来るかなー」

「えっ? あっちは全員でいっぺんに来るんじゃないの?」

 

 ゴンの言葉に、桜は「ふふーん」と面白そうに笑い、

 

「いやぁ? それはどうかなー」

 

 

 

 

 

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