「あーもう、ムカつくぅーッ!!」
──今まさに俺が言おうとしたことを先に言われ、面食らう。
旅館の泊まり部屋に帰ってきた途端、後ろに転がりながらメレオロンがそう言ってきた。あー……3人でド○ポンやってたのか。ご愁傷様。
「くっそぉー。
おや? お帰りー。遅かったじゃん」
「ん、んー……
ただいま」
「ちょっと聞いてよウラヌス、シームったらさぁー」
「メレオロン、そんなどうでもいいこと報告しなくていいです。
……ウラヌス、妙に遅かったですけど何かありましたか?
顔色も良くないですし」
「ウラヌス、何かあったの?」
おぉう。誤魔化すヒマもねーよ、まいったな。
「どうでもよくないわよー」
メレオロンはともかく、心配そうに見てくるアイシャとシームに、俺は慌てて手を振り、
「いやいや。
とりあえず、お昼食べに行こ。な、メレオロン?」
「おー!
はい、ゲームやめやめ! クソつまんね!」
「あっ!?
おねーちゃん、なんで消すの!」
「もー。
ズルいですよ、メレオロン」
「うるせー! さっさとメシメシッ!」
「ははは……」
平和だなぁ。……言いにくいよ。なんて話そ。
とりあえずまだ時間はあるからいいけど……呑気にメシ食えるのもこれで最後かもな。あーやだやだ。
すっかり当たり前になった、料亭での昼食。
美味しいんだけどなぁ。悩んでると、どうも味まで悪くなったように感じるよ。実際、俺の体調が良くないんだろうけど。
3人とも直接聞いては来ないけど、俺が気分を損ねてる理由を知りたがってる。全く、次から次へと勘弁してほしいよ。
とりあえずリィーナさん達には、アイシャと一度話し合うから待ってくれと言ってある──今日中に返答すると約束して。そもそも無事に帰すって約束だったからな。
密林の調査どころじゃなくなったので、ベルには予定が変わったから延期させてくれと伝えた。……さて、どうすっかなぁ。
料理に満足し、箸を置いて一服していると、アイシャが小首を傾げながら、
「ウラヌス。
そろそろ何があったのか教えてください」
「ん……
じゃあ話すよ」
アイシャのことだから、薄々気づいてるだろうけどね……
ウラヌスの語った話は、多少は予想できていたとは言え、どうにも申し訳ない気持ちにしかなれない内容だった。
遂にリィーナ達が来てしまったか……。いや、それだけならまだよかったんだけど。
まんまとパリストンの思惑通りに動かされて、その動機が相変わらず私の性転換を阻止したいだもんな……ヒドすぎるだろ。リィーナ、オマエほんとに私の弟子か?
「本当に申し訳ないです……」
「いや、アイシャが悪いわけじゃないからさ」
「いえ……
ウラヌスにとって、リィーナの主張は不快極まりないでしょうから……」
「んー」
ウラヌスにだけはそれを言ってほしくなかった。……ただでさえ彼は、そういうことで苦しんできたんだから。桜のことも考えれば、ここで彼を揺さぶるような真似は絶対してほしくない。
「私の仲間に関することですから、その件は私が預かります。
ウラヌス達は何も心配しないでください」
「俺は、それをさせたくないんだよ」
分かってるけどね。じゃなきゃリィーナと交渉決裂するまで話し合わなかっただろうし。
リィーナは私に会うまで帰らないと言い、ウラヌスは私には会わせないと返し。結局はその平行線だったようだ。リィーナも、感情的に私の性転換を容認できないから、ゆえに引けないんだろう。……しつこいな、あの子も。なんでそこまでイヤがるんだ、くそっ!
「でも、アイシャが前みたいにやっつけちゃうのが一番いいんじゃないの?」
気楽に言ってくるメレオロン。私もそう思うんだけど……
「だから、それで逆にアイシャが負けたり大怪我したらどうなるよ?
俺達だってタダじゃ済まないんだぞ。つか、俺がリィーナさんをタダじゃ済まさないよ。
ゴンのことボコりやがって、俺メチャメチャ頭に来てるんだから」
困ったな……ウラヌスが一番キレてるんだよね。気持ちは分かるけど、私はどうすればいいんだ。
「アイシャ。1個確認するよ。
何としても、性転換はしたい?」
「……
なんとしても、なんて聞かれると困りますが……
可能なら成し遂げたいです」
悔いは残したくないからね。
「ん。それは分かった。
メレオロンやシームのこともあるし、リィーナさん達を屈服させるのが一番だと思う」
「であれば、それは私の役目ですよ」
「何度も言わせないで。
アイシャが100%勝つ保証はないし、怪我したらマズイでしょ?」
うー。でも、だからって……
「だから、俺1人で戦う。
アイシャは、メレオロンとシームを守る。俺が負けるか負けそうになったら援護でいい。それが一番安全だから」
「それだと、あなたが危険じゃないですか……
言っておきますけど、リィーナ達は──」
「護衛軍2人を撃破するほどの手練れでしょ。
アイシャが鍛えあげた仲間なんだから、それは分かってるよ」
「え? なにそれ」
メレオロンが護衛軍の単語に反応して、目を丸くする。気になるだろうけどその話は後。今はそれどころじゃないよ。
「なら、分かってますよね?
いくらなんでも、あなた1人では勝てませんよ」
「……そう言うと思った」
諦めをにじませた表情で、ウラヌスはポケットから何か取り出した。
────ホルモンクッキーを。
「ウラヌス、待──」
止めようとしたが、一瞬早くウラヌスがクッキーを口にした。しまった……!
咀嚼し、飲み込んだウラヌスのオーラが変化する。きょとんとした顔で、目をパチクリさせ、
「にゃ」
……。また……相談もなく……
確かに桜の力なら、リィーナ達をどうとでもしてみせるだろう。けど……
桜は物思わしげに頭をくるくるさせ、ピタリと止める。
「アイシャ」
「……なんです、桜?」
「状況は分かった。
私が1人で戦うけど、それでいい? 私が負けそうになっても援護しちゃダメ」
「……」
ウラヌスより条件が厳しくなってる……。まぁウラヌスより桜の方が遥かに強いから、援護の必要なんてないとは思うけど。勝つどころかリィーナ達を大怪我させずに完勝することすら可能だろう。
いや、実力うんぬんの問題ではない。私のことなんだから、私がけじめをつけるべきだ。怪我しないように勝つ、それだけだ。
「いえ、やはりリィーナ達とは私が戦うべきです。
私の問題ですから」
「うん。でも、どうやって?」
「え?」
「リィーナのところへ行く方法が、アイシャにはないでしょ?
こっちが襲撃する可能性を警戒して、リィーナ達はどっかで野営してると思うよ。探すアテがないじゃん。
島中走り回って、どこかに潜んでるかもしれないリィーナを探すの? 流石に無理じゃない?」
「……」
「私はアイシャを連れてかないよ。リィーナと戦わないって約束してくれない限り。
できれば、ここに残って2人を守ってほしいもん」
……ウラヌスと違い、有無を言わせぬ空気を纏う桜。まずいな……うまくコントロールしないと、また暴走しかねないぞ。
「桜……」
「にゃ? なに、シーム?」
「ボクも連れてって」
「えっ!?」
「もうやだよ、待ってるだけなのは。
お願いだから連れていって」
「にゃー……
だから危ないってばぁ」
「心配なんだもん!
お願いだから、連れてって!」
「にゃう……」
昨日、私と桜がした特訓のことも気がかりなんだろう。今朝のウラヌスの様子はかなり奇妙に映っただろうしな。ウラヌスもあんな事実を知った後で、動揺を隠せるはずもない。だからこそ、桜にはなってほしくなかった。今回のことでウラヌスは更に不安定になってしまうだろう……
ウラヌスの心が揺れていることに気づいてるから、シームも不安で仕方ないんだと思う。
「桜、アタシからもお願い。
この子は絶対に守るし、人質に取られないよう能力を使ってでも最善は尽くすから」
「……それだと、アイシャも連れてくって確定しちゃうね。
どうする?」
「……
2人を連れて行くことは構いません。
ですから私がリィーナ達と戦い、桜が2人を守って──」
「却下。
アイシャが2人を守るなら、みんな連れてく。
でも、アイシャが戦うつもりなら私も行かない。2人が移動スペルで付いて来たら困るから。
──どうするかは、アイシャが決めて」
つまり私がリィーナ達とは戦わないと約束しない限り、状況は動かない、か。このまま何もしなければ、リィーナはいずれこちらへ来てしまうだろう。穏便に済まない可能性がある以上、それは危険だしな……不意を打たれたら2人の身の安全を保障できない。もし人質に取られたら詰みになりかねない。
たっぷり1分ほどかけて悩んだ後、
「……
やむを得ません。
桜、これが最後です。──リィーナ達のこと、お願いできますか?」
「にゃ! まっかせて!」
とにかく今はゲームクリアが最優先だ。……リィーナへの折檻はクリアした後にしよう、うむ。……アイツラ覚えてろよ。
前回、ツェズゲラ組との決戦の舞台にもなった、城下町リーメイロ南部にある山岳地帯。
昼過ぎ、リィーナに『交信』で連絡が入った。相談した結果を伝えるから、全員で来てほしいと。
おそらく戦いになるだろうと全員心構えをした上で、リィーナは『同行』でウラヌスに向かって飛んだ。
ウラヌス──実際には桜を取り囲む形で着地するリィーナ達11人。
が、一瞬で包囲は瓦解した。猛烈な怒気を浴びせられ、全員がそこから距離を取る。
そこには、静かに佇むアイシャがいた。その後ろにも2人控えているが。
当のアイシャは、名状しがたい複雑な感情に苛まれていた。
ずっと自分を探してくれていたことを喜ぶ気持ち──
今まで心配をかけていたことを申し訳なく思う気持ち──
ゲームクリアを目前にして妨害に来たことを赦せない気持ち──
『アイシャッ!!』
複数人がアイシャの名を呼ぶ。アイシャはここ一番の忍耐を発揮し、口を開いた。
「お久しぶりです、みなさん。
……ですが、いまここへやってきたことを赦すつもりはありません」
たじろぐ数人。怯えながらもキルアが踏みとどまり、
「どうしたんだよ……
なにがあったんだよ、アイシャ!」
「別に何もありませんよ。
ただ、怒っているだけです。ここまでして、私の邪魔をしたいんですか?」
「い、いや……
無事なら良かったけど……
黙って居なくなるから、また何かあったんじゃないかって心配したんだぞ!」
「……すいませんでした。
そのことについては、改めて謝罪しようと思います。
ですがそのことと、私の邪魔をすることは別の話です。
キルア、あなたはどちらの味方ですか?」
「ぅ……」
「私か、リィーナか。答えてください、キルア。
キルアだけではありません。あなた達も」
リィーナ側にいる全員がお互い顔を見合わせる。
「オレはアイシャの味方だよ。
ごめんね、キルア」
「ゴン……
いや、オマエはそう答えるべきだよな。オレは……どうすっかな」
キルアは、アイシャとリィーナを交互に見て、悩ましげにしている。
悩むキルアの肩を、ミルキがポンと叩いた。
「兄貴……」
「キル、頼む。オレに力を貸してくれ。お前のスピードがないとアイシャに対して勝算はかなり低くなっちまう。
それにどうしても、アイシャが男になるなんてオレはイヤなんだ。
オマエだって、ホントはイヤなんだろ?」
「まぁ……な」
「そうだぜ、キルア!
アイシャが男になるなんて、やっぱりオレは認められねー!
この感情にウソは吐けねーんだ!」
「……わかったよ。
わりぃ、アイシャ。兄貴がオレに頼みごとするなんて、滅多にないからさ」
アイシャは天を仰ぐ。確かに美しい兄弟愛かもしれない。だが、よりによってここで? というのがアイシャの本音だ。レオリオについては、もう何も考える気になれなかった。
「ビスケ、カストロさん。
申し訳ありませんが……」
「分かってるわさ。命懸けになるんだから、報酬は弾んでよ?」
「今回も師の命令により、挑ませていただくよ。
アイシャさん」
「ゲンスルーさん、サブさん、バラさん。
分かってますね?」
『イエス、マム!』
「クラピカさん、あなたの探し物に協力する件、改めてお約束いたします。
師弟で戦わせるのは心苦しいですが……」
「……背に腹は代えられません。
アイシャ、すまないが私もここは譲れないんだ」
はぁー……と息を吐くアイシャ。
「ゴン、こちらへ来てください。
私と一緒に2人を護るのを手伝ってください」
「うん!」
嬉しそうにアイシャのところへ駆けつけるゴン。メレオロンとシームに向かって笑顔を見せ、姉弟も笑顔で返す。
「あなた達に戦う意思があること、充分に理解しました。
──ですが、あなた達の相手は私ではありません」
「にゃん♪」
一鳴きした桜へと、リィーナ達の視線が集中する。
「私がお相手するよ。
リィーナ、勝敗条件と
「どういう意味ですか? ウラヌスさん」
意図が読めず、不可解そうな反応をするリィーナ。
「ただ殲滅戦やっても仕方ないじゃん。ヘタしたら死人が出ちゃうもん。
基本は、負けた方が勝った方の言うことを聞く、でいいと思うけど」
「ルールを決めよう、ということですね」
「その方がお互い後腐れないでしょ? 泥沼になるのだけは絶対避けたいし。
約束を守ると誓えるなら、だけど」
「内容にもよりますが、取り決めが納得いくものであれば、遵守すると誓いましょう」
「ん。私とアイシャもそうする。
でね、私は1人で戦うから。リィーナ達は全員で戦っていいよ」
「は?
なにを言っているのですか?」
「ふふーん。
アイシャと戦うつもりでいたから、私への対策なんて全く出来てないよね?
せめてものハンデかにゃ。アイシャは戦わない。リィーナ達が手を出さない限りね。
私は、単独でリィーナ達全員を叩きのめしたら勝ち。
リィーナ達は、私1人倒せば勝ち。
どう? 呑める?」
「……
アイシャさん、本当によろしいので?」
「ええ、構いませんよ。
そこにいるウラヌス──いえ、桜にあなた達が勝てたなら、私は性転換を諦めます」
「桜?
確か、その名は──」
「にゃんっ。
私が勝ったら、リィーナ達はゲームクリアを妨害しない、アイシャの目的を邪魔しない。
どう?」
「……少し、お時間をいただけますか?」
「いいよー」
軽い足取りで、桜はアイシャ達の方へ行く。リィーナ達は集まって相談を始めた。
「ゴン、その怪我……
本当にごめんなさい」
「いいって、アイシャは気にしないで。
それよりアイシャとの約束、守り切れなくてごめん」
「……充分すぎます。
これまで頑張ってくれたこと、心から感謝していますよ。ゴン」
「アイシャ……」
桜がそんな2人を微笑ましく見つめながら、
「実際1ヵ月以上粘ってたもんね。
結構キツかったでしょ?」
「何度聞かれたか分かんないくらい、アイシャの居所を聞かれたよ。
キルアにだけは話そうかなって、ずっと悩んでたんだ……」
「ゴン、ツライ思いをさせてすいませんでした……」
「いいよ、アイシャは気にしないでってば」
「ところでその怪我、ちゃんと治した方がいいんじゃないの?」
気になっていたようで、メレオロンがゴンの怪我を覗き見ながら尋ねる。
「ううん、これで充分。
ウラヌス……オレはどうしたらいい?」
「本当は今すぐ治してほしいけど、怪我が完治してるかどうかに関係なくゴンも戦っちゃダメ。
アイシャ達を仲違いさせるのがパリストンの狙いだろうから、禍根が残るようなことはしないでね」
「桜……」
表情を曇らせるアイシャ。……言いたいことはアイシャにも分かる。リィーナ達と仲間ではないウラヌス──桜が戦えば、そもそも仲違いには発展しないのだから。
けれどそれは、今回の不利益を全て1人で背負うということに他ならない。
ゴンはアイシャ達を見て困ったような顔で、
「えぇと……ウラヌスっていうか、さくら? っていうか……
まず、なんて呼べばいいんだろ」
「今は桜でいいよ。女に性転換してる時は桜。男に戻ってる時はウラヌス」
簡単に説明する桜に、ますます混乱するゴン。
「ま、まぁいいや。それじゃ桜。
オレ、戦いが始まったらホントにどうしたら……」
「メレオロンとシームを守ってあげて。
リィーナ達も戦闘の意思がない相手を襲ったりしないと思うけど、流れ弾が来たりとか巻き添えにならないとは限らないから。自分自身を守ることも忘れないで。
あと、メレオロンの能力のことも考慮してね」
「う、うん」
「私が2人を守りますから、ゴンはそこまで気にしなくていいですよ。
今は自己治癒に専念してください。
戦いが始まったらそちらに気を向けてほしいですが」
「うん……アイシャがそう言うならそうするよ。
桜、みんな強いよ? 本当に大丈夫?」
「強いのは知ってる。でも大丈夫。私はもっと強いから」
ゴンは不安げにアイシャの方を見る。
「……」
アイシャは沈黙で返す。同じように不安というわけではない。リィーナ達が桜より弱いとは口にしづらく、桜の強さを口で説明もできないからだ。
あれからリィーナ達がどれだけ強くなったのか。アイシャ自身も関心がある。
そのリィーナ達相手に桜がどう立ち回るのか。これもまた興味深い。
仮にどちらが勝ったとしても、アイシャは取り決めに従うつもりでいた。桜が勝ったとしても、それで確実に性転換できるようになるとは限らないが、少なくとも桜が負ければその道は閉ざされる。
ゆえに、今はリィーナ達の成長よりも、桜の勝利を願う気持ちの方が強かった。
皆の不安を払うように、桜は微笑みを浮かべた。
「私が戦うところ、よく見ててね。きっと参考になるから」
──相談を終えたのか、集団からリィーナが歩み寄ってくる。それを迎えるように桜が近づく。お互いにある程度の距離で立ち止まり、
「話は付いた?」
「ええ。
そちらはあなた1人。
こちらはワタクシ、ビスケ、カストロさん、キルアさん、クラピカさん、レオリオさん、ミルキさん、ゲンスルーさん、サブさん、バラさん、この10人で戦います。
……本当によろしいんですね?」
「うん。
こっちにいるアイシャ、ゴン、メレオロン、シームの4人は見届け人。
戦いには巻き込まないようにしてね。うっかりってこともないようにしてほしいけど、もし故意に狙ったりしたら、取り決めはなしにするから。
私以外、あなた達には手を出さない」
「……分かりました。
勝敗は、あなたかこちらの10人全員が、気絶または降参した時点で決着としましょう」
「おっけ。それでいいよ」
「あなたが勝利したら、あなた達のゲームクリアを妨害することはしませんし、アイシャさんの目的も邪魔しません」
「ホントに? 一度アイシャに負けて、それでも性懲りなく邪魔しに来たのに?」
「くっ……
いえ、以前アイシャさんとそのような取り決めは交わしていませんので」
離れた場所で聞いていたアイシャが首を傾げる。好きにしていい、とか言っていた気がするのだが、微妙に誤魔化されたようだ。
「まぁいいや。
リィーナ達のうち誰か1人でも私に勝ったら、アイシャは性転換を諦める。
アイテムの効果を私がいじるぐらいしかアテがないみたいだし、私の方からアイシャにクッキーを渡しさえしなければ、それは大丈夫だと思うよ」
「……ホルモンクッキーの研究自体はする、ということですね」
「私が使うからね。だからゲームクリア自体はさせてもらう。
そこは信用してもらうしかないかな。お互い様だし」
「……いいでしょう。あなたのことですから、約束を破るとも思えませんので。
ところであなた、随分様子が違うように見受けますが、戦うのに支障はないのですか?
問題があるなら日を改めてもよろしいですが」
「ううん。私達も急いでるから、すぐ始めよう。
戦うのに支障があるとしたら、むしろリィーナの方じゃない?」
「どういう意味です?」
「フフン♪ どういう意味だろうね?」
見透かすような目で不敵に笑う桜。やや気圧されるリィーナ。
「何のことか分かりませんが、取り決めは以上ですね。
開始の合図はどうしますか?」
「アイシャに任せようかな。どう?」
「ええ、構いません」
桜は右手を高々と上げてヒラヒラと振り、
「アイシャー。
全員の準備が整ったと判断したら、始めの合図ちょーだーい」
「分かりました!
皆さん、あと1分ほどしたら合図しますのでそのつもりで!」
リィーナと桜が無言で視線を交錯させた後、互いに背を向ける。仲間の元へ。
「さて。あっちはまず誰が来るかなー」
「えっ? あっちは全員でいっぺんに来るんじゃないの?」
ゴンの言葉に、桜は「ふふーん」と面白そうに笑い、
「いやぁ? それはどうかなー」