「んじゃ行ってくるねー」
軽い調子で手をひらひら振りながら、アイシャ達の元から離れる桜。
リィーナ達の一団からは3人が出てきた。
ゲンスルー。サブ。バラ。
「やっぱりねー」
「何がだ」
お互い数mほどの距離で立ち止まり、にやにやする桜。不機嫌に返すゲンスルー。
「ゲンスルー達だけで大丈夫?
いっぺんにかかってきた方がいいんじゃないの?」
「……」
「できないよねぇ?
だって私の能力が未知数だし、ヘタしたら一網打尽にされちゃうもん。
かと言って様子見で1人ずつだと、何もできないままボコられるかもしれないし。
3人なら何とか私の能力を引き出しつつ、私を消耗させられるって計算だよね?」
「ベラベラと
「仲良し3人組なら連携もしやすいし、一瞬で3人やられるのは流石になさそうだもんね。
アイシャの時はどうだったか知らないけど?」
あからさまな挑発に、サブとバラが怒りの声を洩らし、ゲンスルーも静かにではあるが青筋を浮かべている。
「ただまぁ捨て駒みたいな扱いで頭来るよね?
何で俺達が鉄砲玉なんだ、って気分じゃないの?」
「このガキ、いい加減に……!」
いきり立つサブを、ゲンスルーが片手を上げて制する。
「いい加減にしろ。
いくら煽ったところで、オレ達からは始められねぇんだよ。
お前がいつまでも無駄口叩いてるから、合図できなくて困ってるだろうが」
顎で桜の背後を指すゲンスルー。その先で、アイシャが合図を出しあぐねている。
「あっ、ゴメン!
アイシャ、気にせずいつでもいいよ!」
振り向いて声をかける桜に、頷くアイシャ。
桜が静かに立ち、ゲンスルーが構える。それより下がって、ゲンスルーの左右に控えるサブとバラ。
「────はじめっ!」
アイシャの合図とともに、オーラを纏うゲンスルー。即座に間合いを詰める。
桜はオーラすら纏っていない様子で、詰め寄ってきたゲンスルーに笑顔を向ける。
その笑顔を不気味に感じつつ、拳を振るうと見せかけ、ゲンスルーは蹴りを放つ。桜はそれを片手で払い、そのままサブへ向かう。
不意を突かれ、慌てて拳を放つサブ。少し身をかがめて避けた桜は、伸びたサブの腕を掴みながら腹に強烈な肘撃ちを入れる。
「ぐぼっ!」
桜に腕を掴まれて威力を流せないサブ。背後から来たゲンスルーの蹴りを見ずに避け、今度はバラへ向かう桜。
両腕を広げ、桜を捕えようとするバラ。逆に懐へ飛び込んでバラの胴体を掴んだ桜は、その身体を勢いよく振り回す。
「おおおぉッ!?」
高速で二回転半させたところで放り、追ってきたゲンスルーへぶつける。軽く吹き飛ばされながらも何とか踏みとどまるゲンスルー。
「ぐっ……すまない、ゲン!」
「いや、いい。
サブは大丈夫か。厳しいなら一度下がれ」
「げほっ、こほっ……
大丈夫だ……まだいける」
追撃せず静かに佇む桜から、距離を取るゲンスルー達。
「あいつ、ナメやがって……!」
「くそ!
オーラも纏ってないのに……まるでアイシャみたいなヤツだ」
「……いや、バラ。アイツはオーラを纏ってやがる。
おそらく『隠』だろう」
サブとバラが、そう話すゲンスルーに目を剥く。
「だがゲン、『凝』でも見えないぞ」
「オレもだ」
「……そうか。
オレには僅かだが見えている。つまりそういうことだろう」
それは端的に、桜とサブ・バラの実力差を示していた。ゲンスルーですらかろうじてというレベルだ。
「ちっ。──オレが化けの皮を剥いでやる!」
「待て、バラッ!」
ゲンスルーの制止も聞かず、桜に襲いかかるバラ。
立ち止まっていた桜の姿を、バラは一瞬で見失った。次の瞬間、全身を桜の連撃が襲う。
「……ッ!!」
捉えられない桜を追うのを諦め、必死で攻撃に耐えるバラ。が、『流』も間に合わないほどに全身を衝撃で揺さぶられ、
「がはっ!」
遂に吐血してバラは片膝を突いた。その前に桜の姿が現れる。
──くそっ、ガキのクセになんて重い攻撃だ……!
内心バラが毒づく。バラは耐久力自慢だ。元々頑強な肉体に、高い『流』の技量。敵の矢面に立ったバラが敵の攻撃を食い止めて、その隙にゲンスルーが敵を爆破するのが得意連携の1つだった。
その頼みのゲンスルーも、離れた位置で足を止めたままだ。桜の連撃に割り込めないと判断したのだろう。実際さっきと同じ結果になっていた可能性が高い。
「バラ、そいつから離れろ!」
「だって。お呼びだよ?
足手まといが前にいたら邪魔で戦えないって」
「黙れっ……!」
「いや、さぁ。
サブもバラも、ゲンスルーの足引っ張ってるじゃん?
ちゃんと連携の稽古してる? なんかチグハグなんだけど」
「このガキッ……!」
「待てサブ。
おい、ウラヌス。いったい何が言いたいんだ」
サブとバラが回復する時間を稼ぐ為、ゲンスルーが桜の話に乗る。その意図を察して、ダメージを和らげることに集中する2人。
庇うようにそばへ来たゲンスルーに頓着せず、桜は1本立てた人差し指をくるくる回しながら、
「んっとね。
ホントは3人とも、チームワークにかなり自信があったんでしょ?
額と服のマーク、ジョイント能力の為に付けてるみたいだし」
「……」
「逆にそのせいで、サブとバラは戦闘用の能力を使えない。
それってメモリが足んないからでしょ? そもそもジョイントって不足を補う為にするもんだからね。やらなくて済むならそれに越したことはない」
「……話が見えないな。
何が言いたいんだ」
本来なら話を長引かせるべきだが、イラついて桜を急かすゲンスルー。乗ったつもりが、桜のペースに乗せられてしまっている。
「能力を持たない2人に合わせて戦ってるから、ゲンスルーが全力で戦う妨げになってる。
以前ならそれでも良かったんだろうね。そんなに強い相手と戦わないし、3人ともそこまで実力差はなかったから。
今はどう? 本格的に鍛え直したらゲンスルーが突出しちゃって、サブとバラの成長がついてこれてないんじゃない?
まあ、と言うよりは今まで2人に合わせてサボってたゲンスルーが本気出して鍛えたら、前は3人で取れてた連携が噛み合わなくなったってトコかな」
顔色を変えるサブとバラ。今その事実に気づいたという顔だ。ゲンスルーは──
「……2人とも一流の使い手だ。
並みの能力者じゃ手も足も出ないほどのな。
確かに修行で強くなりすぎて一時的に連携の齟齬が生じたかもしれないが、そんなもん誤差の範囲だ。すぐにオレ達の怖さを思い知らせてやる」
「そうやって威勢のいいこと言ってるけどー。
ゲンスルーこそ、ホントは分かってるんじゃないの?
サブとバラは、良くても一流止まりだって。
ゲンスルーみたいに超一流にまで届き得る才能は持ち合わせてないって」
「よく知りもしないでほざくな。
テメーにオレ達の何が分かる?」
「じゃあ聞くけど。
──どうしてゲンスルーしか使えない能力をジョイントで開発したの?」
険悪な声音で尋ねる桜に、大きく動揺するゲンスルー。
「おかしいよね?
一流の能力者がジョイントで仲間任せになる能力に協力したりする?
ゲンスルー以外、単独で強敵と戦えないじゃん。いつも一緒にいるわけでもないのに。
サブやバラが死んだらどうするの?」
「……っ」
「そりゃね。
サブとバラが能力を使えないリスクを負ってまで、ゲンスルーの為にジョイント能力を開発したのは、美しい献身に思えるけどさ。
それって強敵の相手を、ゲンスルー1人に投げちゃってるとも言えるよね?
その
「好き勝手言いやがって……!」
「ゲン! そんなヤツの話を聞くな!」
流石に耐え切れず口を挟んできたサブとバラ。桜は小首を傾げ、
「2人を不完全な能力者にした責任、ゲンスルーはどうやって取るの?」
『ゲンッ!!』
歯軋りするゲンスルー。痛みに耐えるかのように全身を震わせた後、
「……責任もクソもあるか。
オレ達は一心同体、ヤバイ橋を渡る時は3人いっしょだ。
生きるも死ぬも、どんな運命も共にすると決めたんだよ。
オレがテメーをぶっ倒しさえすれば、何の問題もないだろうが」
桜は「ふぅー」と長い息を吐いた後、
「そっか……
じゃあ、それを証明してもらおうかな」
「サブ、バラ!
こいつはオレ1人でやる。手は出すな!」
「うーん。別に3人がかりでもいいのに」
「……間違ってもアイツラをオレの手で傷つけたくない。
しくじるつもりはないが、テメーならやりかねないんでな」
威嚇するように、ボムッ! と左手で爆破を起こすゲンスルー。
「ゲンスルーさん!
使うなとは言いませんが、殺してはいけませんよ!」
遠巻きに眺めていたリィーナからの声に、ビクッとするゲンスルー。桜は苦笑しながら、
「大丈夫。
──アンタのしょぼい火力程度で私は傷つかないよ」
桜の度重なる挑発に、遂にキレたゲンスルーが至近距離から桜の顔面を掴みに行った。
そのゲンスルーの右手を、迅速に動いた桜の左手が真正面から掴み返した。互いに握り合う。
──バカがッ!
ゲンスルーが腹の底で罵倒するのと同時に、能力発動。
ドゥンッッ!!
「ぐあっ!?」
思わぬ爆圧にゲンスルーの手が大きく弾かれた。
弾かれた勢いのまま下がり、自らの手を見るゲンスルー。──僅かに火傷している。
「なん……だと……!」
ふふーん♪ と楽しげに掴み返した掌を向ける桜。そちらは小さく煙が出ているだけで、傷一つ付いていない。
どういうことだっ──!?
どうしてこうなったのか、皆目見当が付かないゲンスルー。オーラ量の加減を間違えて火傷することなど、遠い昔の話だ。能力開発中やまだ未熟だった頃はそんなヘマもしたが、能力が完成してからは実戦でしくじったことなど一度もない。
桜が火傷していないのはまだ理解できる。『凝』で防げば済む話だ。だが、ゲンスルー自身が手を焦がすほどの爆破で、なぜ同じ条件の桜が──
「──……。
テメェ、まさかっ!?」
桜はニヤニヤ笑いを深め、小さな手を結びながら、
「──【一握りの火薬/リトルフラワー】。
オーラで強化した掌を対象に接触させて、火薬と爆薬の混成物を具現化、その疑似密閉空間へ瞬間的に衝撃を加えることで破壊的爆発を起こす。
激しい爆風に加えてガスによる高熱で、対象が生物だった場合
そりゃあ普通にオーラ込めて殴るより、全然威力あるよねぇ? 相手のオーラ防御力を越えれば、だけど」
完全に能力を掌握している桜。それとさっきの現象を照らし合わせて、導かれる答えは1つ。
「真似やがったのかッ……!」
「原理自体は大したもんじゃないからねー。
掌の防御にもオーラ回すから、結局そこまで威力上げらんないし。
掴まなきゃダメな上に、反撃だって食らいやすい。
はっきり言って、弱くない? 使い物にならないよ、これじゃ。
なんでこんな欠陥能力作っちゃったの?」
「……っ!」
ボロカスにけなす桜。神字を駆使して数多の能力を用いることができる桜からすれば、使う価値を見出せない能力だった。
が、本来念能力とは自らの適性に合わせて身に付けるものだ。そうでなければ、大半の場合において十全な能力習熟に到らない。
その能力に如何なる欠点があろうとも、創意工夫して乗り越えるしかないのだ。
ゲンスルーは桜の言葉を否定するように、尚も【一握りの火薬】を仕掛けに行く。
通常の攻撃に加え、隙を見つけて桜を鋭く掴もうとするゲンスルー。それらをゆるりと捌いていく桜。
桜が反撃してこないことに警戒しつつも、危険を承知で無防備な態勢を晒しながら桜の二の腕を掴むゲンスルー。
ドゥンッッ!!
「ぐぅっ!?」
またも予想外の爆圧で手を弾かれるゲンスルー。態勢を崩して無様に尻餅をつく。
息切れしながら桜の二の腕を見ると、先ほどと同じようにそこからは煙が上がるだけで何も傷ついていなかった。
ゲンスルーはわなわな震えながら、
「て、てめぇ……」
「何したか分かる?
分かるよねぇ。掌以外で【一握りの火薬】をタイミング合わせて使っただけ」
だけ、と言うがそれにどれほどの技量を要するか。
爆破するのを見抜いて同時に能力発動させたことも凄まじいが、そもそもゲンスルーは掌以外で【一握りの火薬】を発動できないのだ。それを桜はいとも容易くやってのけた。
おそらく不可能ではない。今は無理でも、修練すれば出来る可能性はあるだろう。だがゲンスルーがそれをしなかったのは、爆破する際に相手を掴まないと威力が著しく落ちるからだ。オーラで強化した掌で対象を押さえつけ、爆破の威力が逃げないようにしないといけない。
ゲンスルーが掴んだからこそ、桜が使用した【一握りの火薬】は充分な威力を発揮した。無論ゲンスルーも相手に掴まれる状況を想定して、その部位を爆破させれば威力の問題はクリアできる。
が、それには身体の様々な部位で、『凝』と火薬類の具現化を瞬時に行う必要があり、確実に成し得るまでにどれだけの鍛練を要するか想像もつかない。
「ゲンスルーさぁ。
ちゃんと能力を使いこなす気、ある?
この程度でしかない能力を、そんな水準で極めたつもりだったの?
それとも後ろの2人をボコられたら本気出すとか、そういうの?」
「やめろっ!!」
「だったらさっさと本気出してよ。
まだ全力じゃないんでしょ?」
「……っ」
ゲンスルーは後ろを振り返る。心配そうにしているサブとバラの後方で、難しい表情で戦況を見つめるリィーナ。
その様子に桜はうんうん頷き、
「ああ、そういうこと?
じゃあ、こうしよっか。
──リィーナ! ゲンスルーに全力戦闘の許可を出してあげてっ!」
リィーナ達の中で騒めきが起こる。少しの間を置いて、
「本気で言ってるのですか、あなたは!」
「良いから!
このままじゃ全然勝負にならないもん!
私の実力をちょっとでも引き出させたいなら、能力を使う許可を出して!」
ゲンスルーは座り込んだまま深く息を吐き、
「イカれてやがる……」
表情を強張らせて毒づく。それに桜は薄笑いを浮かべ、
「これだけ言われ放題で、全力出せずに負けたんじゃ納得いかないでしょ?
どういう結果にしろ、やれること全部やらなきゃスッキリしないじゃん。
──リィーナ! 絶対大丈夫だから、ゲンスルーの好きにさせてあげてっ!」
リィーナはまだ迷いがある様子で、アイシャへと目を向ける。
「アイシャさん! 本当によろしいのですかっ!?」
その問いかけと、振り返った桜の眼差しを受け、しばしアイシャは逡巡する。
「──桜が望むのであれば、構いません!」
「ありがとね。アイシャ」
そう返し、桜はリィーナを再び見やる。
目を閉じて、長く息を吐くリィーナ。
「…………
ゲンスルーさん!
その戦いにおいてのみ、全ての能力の使用を許可します!
存分に修行の成果を見せなさい!」
「──……イエス、マムッ!」
ゲンスルーは力強く立ち上がり、歯を剥いて凄絶な笑みを覗かせた。
「後悔するなよガキィッ……!!」
桜は笑みを深め、ちょいちょいと手招きし、
「後悔させてごらん? このザマスメガネ」