殺気の籠った鋭いゲンスルーのオーラを目の当たりにし、シームは不安に駆られていた。
「ねぇ、アイシャ。本当に桜、大丈夫なの……?」
許可を出した根拠が分からず、シームはアイシャに問いかける。
「桜のことなら心配いりませんよ。
ゲンスルーさんの能力は知っていますが、おそらくあの子には通じません」
ただ……
自身も不安に思っていたが、アイシャは続く言葉を呑みこんだ。
「……オレにはもう1つ能力がある。
お前の──」
「あー、いいよ。説明しなくて」
桜に遮られ、動揺するゲンスルー。
「テメェ……」
「別に使わせないつもりじゃないよ。必要ないって言ってるの。
アレでしょ。自分の能力について、ある程度説明しないといけないんでしょ?
それって、私がもう理解していると判断すれば『説明は済んでいる』と見なせるんじゃないの?」
「……」
「つまるところ制約と誓約は、自身の認識の問題だからね。
【一握りの火薬】はさっき説明したから、もう1個の方だよね。
──【命の音/カウントダウン】。
使用者が対象に触れながら『
対象者が自身の爆弾を解除するには、使用者の身体に触れながら『
爆弾は時限式で、タイマーがゼロになると爆発する。
殺傷力は【一握りの火薬】の約10倍程度。
爆弾を作動させる条件は、標的の前で自分の能力を説明すること」
桜の説明を聞き、ゲンスルーは「フン」と
「……充分だ。これで条件は満たした」
「条件は、ね」
動き始めようとしたゲンスルーを制する形で、桜が言葉を突き刺す。
「……どういう意味だ」
「いやー。今の雑な説明で、相手に理解させたとかちょっとねー。
制約としては弱っちくない?」
「なんだと?」
「説明に偽りがあっちゃダメだけど、条件を満たした後なら嘘言ってもいいんでしょ?
解除の条件が他にもあるとか」
「……っ!」
「ゲン、やめろ! それ以上、話をするな!」
バラがゲンスルーを引き止める。このまま桜と会話を続ければ、能力そのものの根幹が揺るぎかねない──その不安がバラに声をあげさせた。
「バラ……」
「バラの言う通りだ、条件を満たしたんだから無視して戦えッ!
そいつは危険だッ!」
「だって。どうするー?」
サブの助言を茶化す桜に、苦虫を噛み潰した顔をするゲンスルー。
「……
テメーがその気になれば、オレの攻撃をかわしながらでも説明を続けられるだろうが。
時間の無駄だから、さっさと話せ」
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて♪
ゲンスルーとサブとバラが右手親指を合わせて、3人で『
そうすると、時間切れを待たずに起爆させることができる。
だからもし1人でも欠けちゃったら、強制起爆できなくなるね。それ以前に能力自体が機能不全に陥るかもしれないけど」
「……」
「そもそも、この説明するっていうのがワリといい加減なんだよねー。
全部説明してるわけでもないし、順番が入れ替わってもオッケーみたいな感じだし。
能力についての説明は【命の音】だけじゃなく『全ての能力』が対象で、ゲンスルーの持つ能力全てを教えないといけない。
よってゲンスルーが所有する能力は、相手に説明した【一握りの火薬】と【命の音】の2つのみ。まぁジョイントで【命の音】を作ってる時点で、他の能力を作るメモリの余裕なんてないんだろうけどね。修行が足りないねぇ」
イラついた様子でゲンスルー
「ジョイントで作ったのは、オレ達同士の繋がりを持ちたかったのと、なにより殺傷力を高める為だ。未熟者呼ばわりは心外だな」
「殺傷力が足りない理由こそ修行不足だから、って私は言いたいんだけどねー。
まぁいいや。
で、タイマーは基本6000からスタート。心拍数で爆弾のカウンターが1つずつ減る。内々では対象が【命の音】の名称を知った時点でカウントが始まってて、爆弾が作動──可視化した時点でカウンターが既に進んだ状態にしておくことも可能。
相手に触れながら『
この爆弾は相手の身体に食い込んだ半物質状態で、物理的な除去は困難。除念するか、取り付けられた箇所を切除するか、オーラで防ぎ切るかしないといけない。
まぁ切除は現実的じゃないかな。爆破されたら致命傷になる箇所へ仕掛けるだろうから。
……ここまでは合ってる?」
「答え合わせにまで付き合ってやる義理はねーよ。
勝手に1人でホザいてろ」
「ええー。気持ち悪いじゃーん」
吐き捨てつつも、むしろ自身を上回るほど能力を把握している桜に、ゲンスルーは内心恐れを抱いていた。
かつて能力について、絶対服従という理不尽な掟の元に全て吐かされたことはある。
が、当然ここまで詳細な解説をした覚えはない。事前にアイシャから聞いたのだろうとゲンスルーは考えていたが、明らかにそれ以上の領域にまで桜は踏み込んでいる。
「後は威力かな。
基準が分かんないだろうけど、ゲンスルーの潜在オーラ量は99000。これは最大値だから、今はもう少し減ってるね。参考までに、サブが51000、バラが65000ね。
潜在オーラ量に対して、ゲンスルーの顕在オーラ量は約1割の10000。
【一握りの火薬】に費やすオーラ量は20%、2000程度の威力だから、10倍の威力を持つ【命の音】はオーラ量20000程度の殺傷力がある。まぁ言うまでもなく、並みの能力者が防げるレベルじゃないね。一流の能力者でも無傷はムリかな。
【一握りの火薬】と違って遠隔だから、自身を守る為にオーラを割く必要がなく、故にこれだけの威力を持たせられる。
【命の音】で具現化する爆弾は、【一握りの火薬】で用いる火薬と爆薬に加え、高性能軍用爆薬とも言われるTNT──トリニトロトルエンを具現化する。
TNTは鈍感だから、まず火薬爆薬を炸裂させて、その爆破でTNTを誘爆させる」
言葉を切った桜を
「
「うん。これで終わり」
「見もしないで理解したつもりになるなよ。──その身で味わってみろ!」
地を蹴るゲンスルー。フェイントを交えながら、桜の身体に触れようとする──
だが、それらをゆるゆると
「ああ、あと手で触れないといけないね。
【一握りの火薬】みたいに掴む必要こそないけど」
「やかましいッ!」
桜は喋りながらゲンスルーの手を幾度となく回避し、
「ほぉらほら、オーニさーんコッチラー♪」
パンパンと手を叩いて挑発する桜。反撃すらせず、ゲンスルーのフェイントにもまるで引っかからず避け続ける。
「ちぃっ!」
ゲンスルーが地面に手を付け、バンッ!! と爆破した。舞い上がる砂煙。
「おや」
感心するような声音を上げた桜に、ゲンスルーは砂煙に紛れて迫る。
遂に、ガッ! と桜の二の腕を掴むゲンスルー。
「
パァンッ! と音が鳴り響いた。苦鳴を洩らすゲンスルー。
砂煙が晴れると、口の周りを赤くしたゲンスルーが。それに対して、右腕を振り切った態勢で佇む桜。
「いやさぁ。
そうやすやす言えると思う? ゲンスルー。
ここはグリードアイランドだよ? 相手の宣言を妨害するなんて当たり前にやるじゃん。
なんで警戒してなかったの」
どうやらゲンスルーが『
爆弾の作動を妨害されたことより、顔を叩かれた屈辱に震えるゲンスルー。桜のような子供にこんな真似を人前でされれば、冷静で居られるはずもない。
「このガキィィィッ!!」
ゲンスルーは狂ったように全身を駆動させる。単調ながらも激しいオーラを纏った動き。端から見れば触れるだけでもダメージになりかねない鋭さだが、桜はどこ吹く風と言わんばかりに軽やかに身を躍らせる。
2人の戦いを見守っていたアイシャは、ある不安を募らせていた。
ああも長々と能力を説明していたが、普通に考えれば全くの無意味だ。桜に効くはずがないのだから。
ただ──桜が真っ向から勝負する気なら、話は別だ。
直接攻撃力を持つ【一握りの火薬】と違い、【命の音】は相手に取り付ける必要がある。【ボス属性】に近しい性質を持つ【魔王の契約】なら、容易に無効化してみせるだろう。
だが、あの能力は【ボス属性】と違い、任意に防ぐ対象を決めることができる。
それはつまり、桜自身の意思であえて防がないようにもできるということだ。
【一握りの火薬】に対してやってみせたように、桜がなんらかの意図で【命の音】をも真正面から破る気でいるのなら……
まるでイカれたダンスを踊る2人の乱舞は、唐突に終わりを告げた。
防御を棄てて、桜の両肩を掴むゲンスルー。桜も動きを止める。
『──『
遂に、【命の音】が作動した。
────桜とゲンスルー、2人ともに。
「な──にぃッッ!?」
いつの間にか自分の腹部へ付けられた爆弾に驚愕するゲンスルー。
両肩それぞれに爆弾を取り付けられた桜が、呆れた様子でその肩をすくめてみせる。
「あのさぁー。
『条件を満たした』のが自分だけだと思った?
私も、条件を満たしたわけ。ゲンスルーに、作動した爆弾を取り付ける条件を。
──いつから【命の音】が自分の専売特許だと勘違いしてた?」
「……ッッ!!」
「ジョイントじゃなきゃ、こんな能力作れっこないとでも思った?
別に大した能力じゃないじゃん、こんなの。
正直言って、使いにくいったらありゃしないよ。欠陥、ポンコツ、【一握りの火薬】とおんなじダーメのーりょーく♪
でー、どうするー? ゲンスルーちゃーん♪」
おちょくりながら尋ねる桜。息を荒げて爆弾のカウンターと桜を交互に見るゲンスルー。タイマーの進みは、ゲンスルーの方が早い。
「私に仕掛けた【命の音】は2発分、防ぐのに必要なオーラ量は単純計算で40000。
さて、ゲンスルーに仕掛けた【命の音】はいったいどれぐらいの威力かにゃー?
大事なポンポンが、跡形もなく消し飛ばないといいねぇー?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
吹き出した汗を滴らせ、身構えながら、取るべき策を巡らせるゲンスルー。
だが、冷静さをかろうじて残す頭の片隅で理解はしていた。──ない。そんなものは。ここから逆転する
勝てるはずがないのだから、降参すればいい。これ以上、抗うだけムダだ。リィーナも、降参したゲンスルー達を責めはしないだろう。
が。ゲンスルーには一抹の不安があった。
降参し、桜の【命の音】を解除したとして──赦されるのか?
いったい何を狙って、桜は能力を暴き立てたのか。──懲罰の為ではないのか。
これまでに能力を使って爆破──人を殺めてきた行為を咎めるべく、こんな回りくどい真似をしているのではないか。そして最後には自身の能力をもって──……
「……もういいじゃん」
どこか雰囲気の変わった桜の声に、ゲンスルーは憔悴した顔を向けた。
「こんな人殺ししかできない能力、捨てちゃいなよ。
いらないでしょ、もう」
「……」
「何となく事情は察するよ?
どうして人を殺傷するのに特化した爆破能力を身につけたのか、リスクを承知であえて3人で能力を完成させたのか。
でも、これからもそんな生き方をしていくの?」
「……オマエに、オレタチのなにが分かるッ!!」
拒絶するゲンスルーに、桜は悲しそうに首を横に振る。
「……うん。分かったつもりになってるだけかもね。
けど、自分自身にもその爆弾を付けられて、どう思った?」
「……」
「強すぎる火は、いつか自らの身を焼くよ。
……サブやバラが、爆死するところなんて見たくないでしょ?」
「当たり前だッ!!」
「今、ゲンスルーのことを2人がどんな目で見てると思う?」
「──ッ!」
サブとバラは、ゲンスルー以上に憔悴した表情を見せていた。ゲンスルーは耐え切れず、顔を背ける。
「テメーは……
そんなことを言いたいが為に、こんな真似を……」
「こんな能力なくたって、3人とも充分強いじゃん。
……昔はそうじゃなかったって分かるけどさ。
違う生き方が、今はもうできるでしょ?」
「……」
ゲンスルーは、静かに息を吐く。
「……真っ当に生きろって言うのか」
「まぁどうせ、いま更生の真っ最中じゃん?
私が言うのも余計なお世話なんだろうけどさ。
どうせならこの能力も捨てちゃって、他にもっと有用な能力を身に付けたら?」
「……
簡単に言ってくれる……」
「もしその気になったら、相談して?
多分だけど、私ならジョイント状態を解除して、能力を捨ててある程度メモリ解放してあげられるから。
──ん。とりあえず私の気は済んだから、決着つけよっか」
ようやく桜の意図を理解し。
目を閉じて、ゲンスルーは眼鏡を外した。
「……サブ、バラ。いいか?」
「ああ!」
「充分だ、ゲン!」
坦々とゲンスルーは、自分の心が
「────……降参する。オレ達の負けだ」
ゲンスルーの爆弾は、緩やかに時を刻んでいた。