どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百六十一章

 

 殺気の籠った鋭いゲンスルーのオーラを目の当たりにし、シームは不安に駆られていた。

 

「ねぇ、アイシャ。本当に桜、大丈夫なの……?」

 

 許可を出した根拠が分からず、シームはアイシャに問いかける。

 

「桜のことなら心配いりませんよ。

 ゲンスルーさんの能力は知っていますが、おそらくあの子には通じません」

 

 ただ……

 

 自身も不安に思っていたが、アイシャは続く言葉を呑みこんだ。

 

 

 

 

 

「……オレにはもう1つ能力がある。

 お前の──」

「あー、いいよ。説明しなくて」

 

 桜に遮られ、動揺するゲンスルー。

 

「テメェ……」

「別に使わせないつもりじゃないよ。必要ないって言ってるの。

 アレでしょ。自分の能力について、ある程度説明しないといけないんでしょ?

 それって、私がもう理解していると判断すれば『説明は済んでいる』と見なせるんじゃないの?」

「……」

「つまるところ制約と誓約は、自身の認識の問題だからね。

 【一握りの火薬】はさっき説明したから、もう1個の方だよね。

 ──【命の音/カウントダウン】。

 使用者が対象に触れながら『爆弾魔(ボマー)』と宣言することで爆弾を取り付けられる。

 対象者が自身の爆弾を解除するには、使用者の身体に触れながら『爆弾魔(ボマー)捕まえた』と宣言しなければいけない。

 爆弾は時限式で、タイマーがゼロになると爆発する。

 殺傷力は【一握りの火薬】の約10倍程度。

 爆弾を作動させる条件は、標的の前で自分の能力を説明すること」

 

 桜の説明を聞き、ゲンスルーは「フン」と不貞腐(ふ て くさ)れたように鼻を鳴らす。

 

「……充分だ。これで条件は満たした」

「条件は、ね」

 

 動き始めようとしたゲンスルーを制する形で、桜が言葉を突き刺す。

 

「……どういう意味だ」

「いやー。今の雑な説明で、相手に理解させたとかちょっとねー。

 制約としては弱っちくない?」

「なんだと?」

「説明に偽りがあっちゃダメだけど、条件を満たした後なら嘘言ってもいいんでしょ?

 解除の条件が他にもあるとか」

「……っ!」

「ゲン、やめろ! それ以上、話をするな!」

 

 バラがゲンスルーを引き止める。このまま桜と会話を続ければ、能力そのものの根幹が揺るぎかねない──その不安がバラに声をあげさせた。

 

「バラ……」

「バラの言う通りだ、条件を満たしたんだから無視して戦えッ!

 そいつは危険だッ!」

「だって。どうするー?」

 

 サブの助言を茶化す桜に、苦虫を噛み潰した顔をするゲンスルー。

 

「……

 テメーがその気になれば、オレの攻撃をかわしながらでも説明を続けられるだろうが。

 時間の無駄だから、さっさと話せ」

「うん。じゃあ、お言葉に甘えて♪

 ゲンスルーとサブとバラが右手親指を合わせて、3人で『解放(リリース)』と宣言すること。

 そうすると、時間切れを待たずに起爆させることができる。

 だからもし1人でも欠けちゃったら、強制起爆できなくなるね。それ以前に能力自体が機能不全に陥るかもしれないけど」

「……」

「そもそも、この説明するっていうのがワリといい加減なんだよねー。

 全部説明してるわけでもないし、順番が入れ替わってもオッケーみたいな感じだし。

 能力についての説明は【命の音】だけじゃなく『全ての能力』が対象で、ゲンスルーの持つ能力全てを教えないといけない。

 よってゲンスルーが所有する能力は、相手に説明した【一握りの火薬】と【命の音】の2つのみ。まぁジョイントで【命の音】を作ってる時点で、他の能力を作るメモリの余裕なんてないんだろうけどね。修行が足りないねぇ」

 

 イラついた様子でゲンスルーは眦を( まなじり )吊り上げ、

 

「ジョイントで作ったのは、オレ達同士の繋がりを持ちたかったのと、なにより殺傷力を高める為だ。未熟者呼ばわりは心外だな」

「殺傷力が足りない理由こそ修行不足だから、って私は言いたいんだけどねー。

 まぁいいや。

 で、タイマーは基本6000からスタート。心拍数で爆弾のカウンターが1つずつ減る。内々では対象が【命の音】の名称を知った時点でカウントが始まってて、爆弾が作動──可視化した時点でカウンターが既に進んだ状態にしておくことも可能。

 相手に触れながら『爆弾魔(ボマー)』と宣言すると、厳密には爆弾ではなく座標固定させる為のマーカーが取り付けられる。別に具現化した爆弾は念空間に保管してあって、作動条件を満たした時点でマーカーの座標に爆弾を転移させる。

 この爆弾は相手の身体に食い込んだ半物質状態で、物理的な除去は困難。除念するか、取り付けられた箇所を切除するか、オーラで防ぎ切るかしないといけない。

 まぁ切除は現実的じゃないかな。爆破されたら致命傷になる箇所へ仕掛けるだろうから。

 ……ここまでは合ってる?」

「答え合わせにまで付き合ってやる義理はねーよ。

 勝手に1人でホザいてろ」

「ええー。気持ち悪いじゃーん」

 

 吐き捨てつつも、むしろ自身を上回るほど能力を把握している桜に、ゲンスルーは内心恐れを抱いていた。

 

 かつて能力について、絶対服従という理不尽な掟の元に全て吐かされたことはある。

 

 が、当然ここまで詳細な解説をした覚えはない。事前にアイシャから聞いたのだろうとゲンスルーは考えていたが、明らかにそれ以上の領域にまで桜は踏み込んでいる。

 

「後は威力かな。

 基準が分かんないだろうけど、ゲンスルーの潜在オーラ量は99000。これは最大値だから、今はもう少し減ってるね。参考までに、サブが51000、バラが65000ね。

 潜在オーラ量に対して、ゲンスルーの顕在オーラ量は約1割の10000。

 【一握りの火薬】に費やすオーラ量は20%、2000程度の威力だから、10倍の威力を持つ【命の音】はオーラ量20000程度の殺傷力がある。まぁ言うまでもなく、並みの能力者が防げるレベルじゃないね。一流の能力者でも無傷はムリかな。

 【一握りの火薬】と違って遠隔だから、自身を守る為にオーラを割く必要がなく、故にこれだけの威力を持たせられる。

 【命の音】で具現化する爆弾は、【一握りの火薬】で用いる火薬と爆薬に加え、高性能軍用爆薬とも言われるTNT──トリニトロトルエンを具現化する。

 TNTは鈍感だから、まず火薬爆薬を炸裂させて、その爆破でTNTを誘爆させる」

 

 言葉を切った桜を一頻(ひとしき)り眺め、「はぁー……」と深く息を吐くゲンスルー。

 

御託(ご たく)はそれで終わりか?」

「うん。これで終わり」

「見もしないで理解したつもりになるなよ。──その身で味わってみろ!」

 

 地を蹴るゲンスルー。フェイントを交えながら、桜の身体に触れようとする──

 

 だが、それらをゆるゆると(かわ)す桜。惑わすような無駄のある動きで、ゲンスルーを翻弄する。

 

「ああ、あと手で触れないといけないね。

 【一握りの火薬】みたいに掴む必要こそないけど」

「やかましいッ!」

 

 桜は喋りながらゲンスルーの手を幾度となく回避し、

 

「ほぉらほら、オーニさーんコッチラー♪」

 

 パンパンと手を叩いて挑発する桜。反撃すらせず、ゲンスルーのフェイントにもまるで引っかからず避け続ける。

 

「ちぃっ!」

 

 ゲンスルーが地面に手を付け、バンッ!! と爆破した。舞い上がる砂煙。

 

「おや」

 

 感心するような声音を上げた桜に、ゲンスルーは砂煙に紛れて迫る。

 

 遂に、ガッ! と桜の二の腕を掴むゲンスルー。

 

()──」

 

 パァンッ! と音が鳴り響いた。苦鳴を洩らすゲンスルー。

 

 砂煙が晴れると、口の周りを赤くしたゲンスルーが。それに対して、右腕を振り切った態勢で佇む桜。

 

「いやさぁ。

 そうやすやす言えると思う? ゲンスルー。

 ここはグリードアイランドだよ? 相手の宣言を妨害するなんて当たり前にやるじゃん。

 なんで警戒してなかったの」

 

 どうやらゲンスルーが『爆弾魔(ボマー)』と発声する瞬間に、桜が口元を叩いて邪魔したようだ。痛みに動揺して、掴んだ腕も放してしまっている。

 

 爆弾の作動を妨害されたことより、顔を叩かれた屈辱に震えるゲンスルー。桜のような子供にこんな真似を人前でされれば、冷静で居られるはずもない。

 

「このガキィィィッ!!」

 

 ゲンスルーは狂ったように全身を駆動させる。単調ながらも激しいオーラを纏った動き。端から見れば触れるだけでもダメージになりかねない鋭さだが、桜はどこ吹く風と言わんばかりに軽やかに身を躍らせる。

 

 

 

 

 

 2人の戦いを見守っていたアイシャは、ある不安を募らせていた。

 

 ああも長々と能力を説明していたが、普通に考えれば全くの無意味だ。桜に効くはずがないのだから。

 

 ただ──桜が真っ向から勝負する気なら、話は別だ。

 

 直接攻撃力を持つ【一握りの火薬】と違い、【命の音】は相手に取り付ける必要がある。【ボス属性】に近しい性質を持つ【魔王の契約】なら、容易に無効化してみせるだろう。

 

 だが、あの能力は【ボス属性】と違い、任意に防ぐ対象を決めることができる。

 

 それはつまり、桜自身の意思であえて防がないようにもできるということだ。

 

 【一握りの火薬】に対してやってみせたように、桜がなんらかの意図で【命の音】をも真正面から破る気でいるのなら……

 

 

 

 

 

 まるでイカれたダンスを踊る2人の乱舞は、唐突に終わりを告げた。

 

 防御を棄てて、桜の両肩を掴むゲンスルー。桜も動きを止める。

 

『──『爆弾魔(ボマー)』ッッ!!』

 

 遂に、【命の音】が作動した。

 

 

 

 ────桜とゲンスルー、2人ともに。

 

 

 

「な──にぃッッ!?」

 

 いつの間にか自分の腹部へ付けられた爆弾に驚愕するゲンスルー。

 

 両肩それぞれに爆弾を取り付けられた桜が、呆れた様子でその肩をすくめてみせる。

 

「あのさぁー。

 『条件を満たした』のが自分だけだと思った?

 私も、条件を満たしたわけ。ゲンスルーに、作動した爆弾を取り付ける条件を。

 ──いつから【命の音】が自分の専売特許だと勘違いしてた?」

「……ッッ!!」

「ジョイントじゃなきゃ、こんな能力作れっこないとでも思った?

 別に大した能力じゃないじゃん、こんなの。

 正直言って、使いにくいったらありゃしないよ。欠陥、ポンコツ、【一握りの火薬】とおんなじダーメのーりょーく♪

 でー、どうするー? ゲンスルーちゃーん♪」

 

 おちょくりながら尋ねる桜。息を荒げて爆弾のカウンターと桜を交互に見るゲンスルー。タイマーの進みは、ゲンスルーの方が早い。

 

「私に仕掛けた【命の音】は2発分、防ぐのに必要なオーラ量は単純計算で40000。

 さて、ゲンスルーに仕掛けた【命の音】はいったいどれぐらいの威力かにゃー?

 大事なポンポンが、跡形もなく消し飛ばないといいねぇー?」

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 吹き出した汗を滴らせ、身構えながら、取るべき策を巡らせるゲンスルー。

 

 だが、冷静さをかろうじて残す頭の片隅で理解はしていた。──ない。そんなものは。ここから逆転する(すべ)など、あろうはずもない。

 

 勝てるはずがないのだから、降参すればいい。これ以上、抗うだけムダだ。リィーナも、降参したゲンスルー達を責めはしないだろう。

 

 

 

 が。ゲンスルーには一抹の不安があった。

 

 

 

 降参し、桜の【命の音】を解除したとして──赦されるのか?

 

 

 

 いったい何を狙って、桜は能力を暴き立てたのか。──懲罰の為ではないのか。

 

 これまでに能力を使って爆破──人を殺めてきた行為を咎めるべく、こんな回りくどい真似をしているのではないか。そして最後には自身の能力をもって──……

 

 

 

「……もういいじゃん」

 

 どこか雰囲気の変わった桜の声に、ゲンスルーは憔悴した顔を向けた。

 

「こんな人殺ししかできない能力、捨てちゃいなよ。

 いらないでしょ、もう」

「……」

「何となく事情は察するよ?

 どうして人を殺傷するのに特化した爆破能力を身につけたのか、リスクを承知であえて3人で能力を完成させたのか。

 でも、これからもそんな生き方をしていくの?」

「……オマエに、オレタチのなにが分かるッ!!」

 

 拒絶するゲンスルーに、桜は悲しそうに首を横に振る。

 

「……うん。分かったつもりになってるだけかもね。

 けど、自分自身にもその爆弾を付けられて、どう思った?」

「……」

「強すぎる火は、いつか自らの身を焼くよ。

 ……サブやバラが、爆死するところなんて見たくないでしょ?」

「当たり前だッ!!」

「今、ゲンスルーのことを2人がどんな目で見てると思う?」

「──ッ!」

 

 サブとバラは、ゲンスルー以上に憔悴した表情を見せていた。ゲンスルーは耐え切れず、顔を背ける。

 

「テメーは……

 そんなことを言いたいが為に、こんな真似を……」

「こんな能力なくたって、3人とも充分強いじゃん。

 ……昔はそうじゃなかったって分かるけどさ。

 違う生き方が、今はもうできるでしょ?」

「……」

 

 ゲンスルーは、静かに息を吐く。

 

「……真っ当に生きろって言うのか」

「まぁどうせ、いま更生の真っ最中じゃん?

 私が言うのも余計なお世話なんだろうけどさ。

 どうせならこの能力も捨てちゃって、他にもっと有用な能力を身に付けたら?」

「……

 簡単に言ってくれる……」

「もしその気になったら、相談して?

 多分だけど、私ならジョイント状態を解除して、能力を捨ててある程度メモリ解放してあげられるから。

 ──ん。とりあえず私の気は済んだから、決着つけよっか」

 

 ようやく桜の意図を理解し。

 

 目を閉じて、ゲンスルーは眼鏡を外した。

 

「……サブ、バラ。いいか?」

「ああ!」

「充分だ、ゲン!」

 

 坦々とゲンスルーは、自分の心が(つ )まれてしまったことを自覚した。

 

 

 

「────……降参する。オレ達の負けだ」

 

 

 

 

 

 ゲンスルーの爆弾は、緩やかに時を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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