どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

277 / 300
第二百六十二章

 

『──爆弾魔(ボマー)、捕まえた』

 

 互いに掌を合わせて、宣言する桜とゲンスルー。両者に取り付けられた爆弾がオーラとなって霧散する。

 

「はぁー……。

 もうゴメンだ、オマエと戦うのは」

「ふふ、お疲れ♪」

「……ちっ。なんでテメーが労う(ねぎら )んだよ」

 

 毒づきながらも、まんざらでもない顔で背を向け、軽くふらついたところを駆け寄ったサブとバラに支えられ、リィーナの元へ歩み去るゲンスルー。

 

「先生、力及ばず申し訳ありません……」

 

 ゲンスルーの謝罪を受けて、リィーナは首を横に振る。

 

「あなたの全力、拝見させていただきました。ご苦労様です。

 ……能力を身に付けた経緯については思うところもありますが、どれだけの修行を経てあれほどの実力を備えるに到ったか、想像に難くありません。

 これからも私の下で修行に励み、健全な肉体と精神を養ってください」

「……イエス、マム」

 

 リィーナのセリフの最後でややヘコんだゲンスルーはさておき、

 

「サブさんとバラさんは、前回アイシャさんと戦った時に比べれば良くなっていますが、まだまだ粗削りな感は否めません。

 ゲンスルーさんの足枷になりたくなければ、よりいっそう修行に取り組んでください」

『はい……』

「ともあれ、3人ともお疲れ様でした。

 離れたところで休んでいただいて結構です。

 ただし、いちおうこの場には留まっていてください」

 

 リィーナ達の集まりからゲンスルー達3人が離れ、残ったメンバーで相談が始まる。

 

「さて、次は誰が行くかですが……」

「あー。ちょっといいかな?」

「どうしました、レオリオさん?」

「どうも怪我人が山ほど出そうな気配だからよ。

 オレは戦うメンバーから外れといた方がいいかなって。

 ……アイシャを止めたい気持ちはあるんだが、正直あのレベルのバトルについていける気がしなくてな。

 下手に戦って動けなくなっちまうより、オレは治療に専念した方がみんなも心置きなく戦えるだろ?」

「それはその通りでしょうね……

 元々レオリオさんの参加は私からお願いしたわけではありませんし、そうされたいのであれば私は引き止めません」

「オーケー。じゃあまずアイツラを診てくるよ」

 

 言って、負傷したゲンスルー達の方へ歩いていくレオリオ。

 

 ところが少し会話をしただけで、レオリオはすぐ戻ってきた。

 

「どうされたんですか?」

「大したことないからイラネって。

 そんなわけねーと思うんだが、意地を張りたいみたいだから、バカらしくて放ってきた。

 ま、あんだけ元気なら大丈夫だろ」

 

 というわけで怪我したゲンスルー達を容赦なく放置して、話を再開する。

 

「さて、ゲンスルーさん達には申し訳ないですが、あの子の実力を充分に引き出せたとは到底言えません。

 なので次もどなたか1人、若しくは少人数で挑んでもらいたいのですが……」

「本当にそれでいいのか?

 さっきの戦いを見た限りでは、かなりの実力者みたいだが、戦力が削れたらより勝算がなくなるかもしれないぞ」

 

 ミルキの当然の指摘に、リィーナは渋面を作りつつ、

 

「ですが、このまま残る全員で挑むとしても、有効な作戦を立てられません。

 アイシャさんとの戦いを想定して講じた対策が、戦い方の読めないあの子に通じるとも思えませんし、何とかして攻略の糸口を掴まないことには……」

「アイツがどれだけ強いか分からないが、乱戦に持ち込んだ方がまだいいんじゃないか?

 オレ達なら相手の戦い方が分からなくても、即興で連携は取れるだろ」

 

 そう提案するミルキに、クラピカが軽く手を上げる。

 

「いや、待ってくれ。

 勝てる勝てないは別にして、我々が同時に動けなくなると彼らを止める者が……」

 

 その場の全員の意識が、離れたゲンスルー達へ向く。

 

「そうですね。

 ……今のゲンスルーさん達なら問題ないかもしれませんが、魔が差すことも有り得ます。ここがグリードアイランドであることも考慮すれば、抑止力は常に保つべきでしょう」

「いっぺんに怪我されると、オレの治療も間に合わないしな。

 各個撃破されるのは痛いだろうが、今のところ他に手はないと思うぜ」

 

 ミルキは不満げだが、反論の材料も見つからないようだった。

 

 

 

 距離を置いて、微笑みながら腕を組んで佇んでいる桜。リィーナ達の相談が終わるのを余裕綽々と(よゆうしゃくしゃく )いった様子で待ち構える。

 

 それを思わしげな顔で眺めるキルア。

 

「──おい、キル。お前も話に参加しろよ」

「ん? ああ、分かったけど……

 でも誰が行ったところで、結果は同じなんじゃないか?」

「どうしてだ?」

「いや、アイツが本気なら、とっくに奇襲かけられてオレ達負けてんじゃねーかなって。

 だってあのアイシャが性転換を賭けた勝負を、アイツ1人に一任してるんだぜ?

 さっきのバトルでもずいぶん余裕かましてやがったし、明らかに並みの実力者じゃないだろ。オレが奇襲警戒してるのも、鼻で笑ってやがるしさ。

 それなのにああやって待ってるのは、別の目的があるからなんじゃねーの?」

「あー……」

 

 今まで話に加わっていなかったビスケが、兄弟の会話に反応する。

 

「あの子、アイシャから話を聞いて、あんた達を鍛えたがってるのかもしれないわね。

 ゲンスルーとの戦いでもそんな感じだったし、あの子は昔っからそういうお節介焼きなところがあるわさ」

「鍛えるというより欠点を示唆(し さ )して、それを克服するよう促すことを良くしていましたね。

 私もそのようなことはしますが、アイシャさんやあの子ほどには欠点を見抜けません」

「あの目がインチキすぎるのよね……手強いのはそれだけじゃないけど」

 

 懐かしむように語るビスケとリィーナ。

 

「アイツも変わり者だよな。……決まらないなら、次はオレが行こうか?」

「待て、キル。

 オマエが消えたら、スピードで引っ掻き回せるヤツが居なくなるだろ。

 それこそ勝ち目がなくなる」

「負ける前提で言うなよ。

 やるからには勝つつもりでやるさ。もちろんオレ1人でな」

「待て待て、やるならせめてオレと一緒に──

 ……おいキル。なんでオマエ、そんなに楽しそうなんだ?」

「アイツと本気でやってみたいんだよ。

 ゴンもアイシャも、面白そうなヤツ見つけてきたじゃん。

 あの2人がやけに気に掛けるから何なんだよと思ってたけど、何か分かった気がする。

 すっげー色々隠し持ってそうだろ?」

「……私の見立てでは、キルアさんはあの子にとって比較的相性の悪い相手だと思います。

 それだけに、今すぐ挑むのは思いとどまってほしいですが……」

「オレがやるにしてももうちょっと手の内を晒してから、って言いたいのは分かるけど、じゃあ誰が行くんだよ?

 ゲンスルー達でもダメだったんだぞ」

「……」

 

 考えがまとまらないのか、黙りこくるリィーナ。──ビスケは傍らの男性を見上げ、

 

「カストロ。アンタもずっと喋ってないけど、何か意見ないわけ?」

「私は師の指示に従うまでです。

 ……個人的には武人として1対1で手合わせしたい気持ちもありますが、今回も厳しいでしょうから」

「すっかりリィーナと連携するのが染みついちゃったわねぇ、アンタ……」

「いずれヒソカと相まみえることを考えると、それではいけないんでしょうけどね」

「アンタも面倒なのと因縁を持ったもんだわね……」

「ですがヒソカと戦っていなければ、黒の書を手にすることも、我が師と巡り会うこともなかったでしょうから」

 

 カストロがキラキラした目でリィーナを見つめていることに、内心溜め息を吐くビスケ。どうにもこうにも、振り向かせるにはずいぶんと骨が折れそうだった。

 

 

 

 相談は紛糾したが、キルア1人で戦うことはミルキが承知せず、リィーナとカストロとビスケは連携をもって最大の戦力となる為、いま消去法で出れるのは1人だけだった。

 

「やはり私が行くしかあるまい……」

 

 諦め口調で歩き出すクラピカ。というより、そうしないとキルアが無理に出ようとするので、次に行かざるを得なかった。リィーナも止めることなく、それを見送る。

 

 クラピカも集団戦では非常に有用な戦力だったが、ゲンスルー達が通じなかった以上、中途半端な戦力をぶつけても意味がない。その点、クラピカは単独でもまだ有効打に成り得る。──少なくともリィーナ達はそう考えていた。

 

 クラピカは立ち止まり、待ち続けていた桜と対峙する。

 

「待たせてすまなかったな」

「うん。まぁ勝手に待ってたのは私だし。

 私の狙いは分かった?」

「……正直に言うと、まだ見えてこない。

 キルアも指摘していたが、君が勝つつもりなら私達が相談しているところを奇襲すれば、いとも容易く我々は瓦解させられただろう。

 勝敗を差し置いてまで、優先すべきことがあるのか?」

「ぜひ予想してほしいかな。

 あの中でも切れ者なんでしょ、クラピカは」

「……彼らと私にそこまでの差はないと思うがな。

 レオリオと一緒にされるのだけは心外だが」

「おい、クラピカてめぇ!」

「にゃっはっは♪ そんなピンポイントに言ってあげなくてもー。

 ……ま、これ以上話す気がないなら始めてもいいけど」

 

 クラピカは返答代わりに、右手人差し指から鎖を具現化する。

 

「ふぅん……オーソドックスだね。

 じゃあ私も」

 

 桜も同じように、右手に巻き付けた鎖を具現化する。平静だった顔色を変えるクラピカ。

 

「それは……ゲンスルーのように私の能力も真似たのか?

 にしては、細部が異なるようだが」

「真似たというより、私も付き合って鎖を具現化しただけ。だから違って当然かにゃ。

 純粋に鎖使いとして手合わせしてあげる」

 

 楽しそうに微笑む桜。

 

 内心面白くはなかったが、油断なくクラピカは構える。現在クラピカが具現化している【打倒する人差し指の鎖/ストライクチェーン】は先端が錘状─(すいじょう )─円錐の形状だが、桜の具現化している鎖の先は分銅──円柱になっていた。クラピカが具現化するいかなる鎖の先端の形状とも違う。

 

 手を振るクラピカ。

 

 鎖が波打ち、地をバチンと打つ。砂煙に紛れて、這うように桜へ迫る鎖。

 右手を軽く振り、俊敏にそれを鎖で払う桜。弾かれたクラピカの鎖は宙で軌道を変え、蛇のように曲がりくねって桜に襲い掛かる。

 

 バババンッ!

 

 三連撃。桜の的確に放った鎖撃が、クラピカの鎖を完全に地へ叩きつけた。その衝撃が伝わり、クラピカの態勢が崩れる。

 

 次の瞬間伸びてきた桜の鎖から、クラピカは何とか身を逸らす。が、その後方で軌道を変えてクラピカを捉えんと鎖がしなる。

 思い切り腰を沈め、鎖に捕縛される寸前で逃れるクラピカ。避けながらも鎖を動かすが、その鎖の先端を踏みつけて止める桜。

 

 クラピカは鎖を踏みつけられたまま硬直する。引き抜くのを諦めて鎖を消すが、それで桜は態勢を崩すこともなく、引き戻した右手の鎖をただ垂らす。隙のなさに、クラピカは歯噛みする。

 

「なかなかやるじゃん♪ とても経験が浅いとは思えない鎖捌きだにゃ」

「……そうか。君からは多くを学べそうだな」

 

 

 

 

 

 ────私は、桜とクラピカの戦いを眺めながら、色々と想うことがあった。

 

 私個人としては、桜に負けてもらっては困るのだが、弟子として育て上げたクラピカが鎖捌きで後塵(こうじん)(はい)するのは複雑な気分だった。

 

 とはいえ、いかにクラピカが天才であろうとも、桜相手に分が悪いのは仕方ないのかもしれない。おそらく桜は、ユリさんや里の他の忍者が扱う鎖捌きを昔からずっと見てきたのだろう。もちろん実際に見たのはウラヌスだろうけど。

 

 桜自身が忍者の訓練を受けていないとは言え、あの目で長年観察したことでどれほどの練度に達しているか……鎖で挑まざるを得なかったクラピカには同情を禁じ得ない。

 

 けど、クラピカが鎖の練度で及ばないのはある意味当然か。同じように鎖で戦う相手をおそらくクラピカはほとんど知らないだろう。当然私も自身が扱えないものを教えられるはずがない。むしろ短期間の独学であの領域に到ったクラピカの才こそ凄まじいと言える。

 

 少なくとも鎖1本で戦う限り、クラピカに勝ち目はない。だが、おそらく鎖を増やしたところで──

 

 

 

 

 

 桜を攪乱(かくらん)するには手数が足りないと認識したクラピカは、【導く薬指の鎖/ダウジングチェーン】も具現化する。【打倒する人差し指の鎖】よりは強度で劣るが、ある程度自律して的確に動く分、2本同時に操るのに向いていた。

 

 が、より複雑化したクラピカの2本鎖による乱舞ですら、桜は鎖1本であしらい続けてみせる。

 と言うより、ダウジングによって敵の自律予測を行うはずの【導く薬指の鎖】が有効に機能していない。なぜだ、と焦るクラピカに、

 

「修行不足じゃないかにゃー。あんまりそういう使い方してないんでしょ?」

 

 やはり能力は知られているかと判断するクラピカ。桜の指摘通り、主に攻撃手段として用いるのは【打倒する人差し指の鎖】の方であり、【導く薬指の鎖】で戦うことはあまりない。敵の予測は自身でも行えるし、強化するオーラ量がまだ不十分ゆえ、強度に不安があって使いにくいからだ。破壊されて、いざという時に使えないとマズイ鎖でもある。

 

 だが、戦闘予測の精度があまり高くないのは練度不足と納得できても、こうもまともに機能しないのはクラピカにとって不可解だった。

 

 この状況で有効打になるのは【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】くらいだったが、これも能力が割れている可能性が高く、桜相手に使う機を見出せないでいた。下手に繰り出せば確実に砕かれるのは目に見えている。そうなれば、ほぼ勝機を失う。

 

 ──打ち合い続けた【導く薬指の鎖】にヒビが入っていることに気づいて、慌てて消すクラピカ。再度具現化しようかと考えたが、有効に機能しないと思いとどまる。

 

 乱舞していた鎖を互い止め、視線を交わす桜とクラピカ。

 

「どうする?

 鎖の修行をしたいならともかく、このまま続けても埒が明かないと思うけど」

「……っ!」

 

 言われてハッとするクラピカ。確かに鎖捌きの修練にはもってこいだが、肝心要な桜の攻略が全く進んでいない。続けたところでジリ貧になるだけだ。

 無論、桜もオーラを磨り減らしていくはずである。が、どれだけの潜在オーラ量を保有しているか分からない以上、見通しは暗いと言わざるを得ない。

 

 

 

 手はある。まだ手はあるが、クラピカはそれを実行するのを躊躇していた──

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。