どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百六十四章

 

「後で個人的に話したいことがある……いいか?」

「ん。私もまだまだ話し足りないから、後で話そ」

 

 ふらふらと桜の前から立ち去るクラピカ。微笑みながら見送る桜。

 

 戻ってきたクラピカの身体を、レオリオが支える。

 

「おい、クラピカ。大丈夫か?」

「大丈夫だ……大した怪我はしていない。疲れただけだから、治療は不要だ。

 リィーナさん……

 あまり役に立てず、すいませんでした」

「いえ、充分な働きでした。

 それよりクラピカさん……目の色なんですが」

 

 ハッと気づくクラピカ。緋の眼から元に戻っている。

 

 桜の方を見ると、未だその頭上には蜘蛛が乗っていた。なのに目は緋の色に変わらない──元の色のままだ。

 

「おめぇ……」

「ハハ……

 どうやら私は、蜘蛛を見たぐらいなら平気になったのかもしれないな。

 複雑な気分だよ……

 蜘蛛を見て、憎しみを抱かなくなるなんて」

「まあ……それで良かったんじゃねーか?

 同胞のカタキはもう取ったんだしよ」

「怒りが風化することをずっと恐れていたんだがな……不思議な気分だ。

 今は……それでもいいと思える私がいる」

「クラピカさん。

 お約束した通り、例の件は必ず協力いたしますから、今は休んでください」

 

 リィーナの言葉に少し考えた後、クラピカは頭を振る。

 

「……いえ。この程度の働きで、あなたに協力していただくのは忍びない。

 せっかくの申し出でしたが、あの話はなかったことにしていただきたいです」

「……

 あなたがそうしたいとおっしゃるのなら。

 ですが、必要な時が訪れたら私に声をかけてください。いつでも力になります」

「ありがとうございます……」

 

 疲れ切ったのか、クラピカはその場で腰を下ろす。

 

「さて……リィーナさん。

 まず間違いなく、オレの言った通りじゃないかな?」

 

 キルアに口火を切られ、リィーナは苦い顔をしたものの、

 

「その通りでしょうね。

 あの子はあなた達……いえ、私やビスケも含めた全員を鍛えたがっているようです」

「あたしも?

 今更あんなチビっ子に指導されるなんてイヤなんだけど」

「私だって、先生以外に指導されたくありません……

 クラピカさん。お休みのところ申し訳ありませんが、実際に戦ったあなたの意見はどうですか?」

「…………。

 私見ですが、リィーナさんの言っていた『欠点を示唆して、それを克服するよう促す』……

 まさにその通りでした。

 能力の根幹にも関わることなので詳細は伏せますが、恐るべき慧眼だったとだけ……

 あと……まるでアイシャと戦っているような気分でした」

 

 震えを残すクラピカの言葉に、リィーナ達全員に影が差す。そんな中、

 

「まるでアイシャねぇ……

 だとすると、やっぱ気になるよな。

 直接聞いてみるよ」

 

 そう告げ、止める間もなく【電光石火】で、離れていたアイシャ達の元へ現れるキルア。

 

「うわぁッ!?」

 

 やけに驚くゴンに、キルアは笑いかけ、

 

「そうビビるなよ。別に危害を加えやしないさ、オレ達の負けになっちまうし。

 ちょっと直接聞きたいことがあって」

「ふーん」

 

 突然真横から声が聞こえて、ぎょっとするキルア。すぐそこに桜がいた──さっきまで立っていた姿勢のまま。頭上の蜘蛛は既に消えていたが。

 ゴンの驚愕が、自分と同時に桜が一瞬で来たことだと気づき、

 

「お、おまえ……まさか後ろ向きで」

「もしかしてと思っていちおう来たけど、まぁ聞きたいんだったらどうぞ。

 私にお構いにゃくー」

 

 ぶすっとした顔で促され、キルアは内心ドキドキしながらも、

 

「お、ぉぅ……

 えっと……アイシャに聞きたいんだけど」

「私にですか?」

「キルア、すごいねー。戦ってる相手に直接聞いちゃうんだ」

「ゴン、オマエがそれを言うのかよ?

 まぁ相手に聞いちまうのは、オマエの専売特許じゃないさ。

 オレもアイシャだから聞きに来たんだしな。今はアイシャと直接バトってないし」

「私が正直に答えるとは限りませんよ?」

「反応を見れれば充分だよ。答えてくれりゃ儲けモンだけど」

 

 肩をすくめるアイシャ。もちろん油断はしていない──自分はさておき、メレオロンかシームを一瞬で人質に取られることも有り得る。……ゴンのことは、人質に向かない性格なのであまり心配していない。

 

「で、何を聞きたいんです?」

「んー……

 やっぱ、本人に聞くのは勇気がいるな……」

 

 ちらりと桜を見るキルア。桜は小首を傾げる。

 

「なんですか、もったいぶって」

「えっと……

 アイシャは、今回の勝負をコイツに一任したわけじゃん?」

「そうですね」

「ぶっちゃけアイシャが戦ってたら、余裕でオレ達に勝てただろ?」

「余裕で戦うつもりなんてありませんが、おそらくそうでしょうね」

「……シャクに触るけど、それは認めるよ。前回のこともあるし。

 でも、今回はなんでコイツに任せたのか気になって。

 勝てるとは限らないじゃん」

 

 アイシャは頬をぽりぽりかく。説明していいものか、そもそもあまり説明したくないなとも思っている。

 

「別にいいんじゃない? 話しちゃって」

 

 背を向けたまま桜がそう言ってきたので、アイシャは嘆息し、

 

「この子に提案されたんです。

 私とリィーナ達は戦うべきじゃないって。

 ……パリストンの狙いは、私達を仲間割れさせることでしょうから、仲違いを誘発するようなことは避けるべきだと」

「うーん……動機としては弱くね?

 だって、前回も直接戦ったわけじゃん。パリストンの思惑が見え透いてるなら、それを警戒すりゃいいだけだと思うけど」

 

 キルアの指摘はもっともだった。あらかじめ警戒すれば思惑通りになる可能性は低く、そもそも代理戦争を桜にお願いしている現状自体、対立関係を払拭できていない。

 

「念の為だよ、念の為。

 些細な諍い(いさか )が、後々の禍根に繋がるなんて良くあることだから」

「オメーに聞いてねぇよ。

 言いたいことは分かるけど、それじゃ動機が弱いっつってんだろ」

「うにゃー」

 

 不機嫌に鳴く桜はさておき、アイシャは少し躊躇った後、

 

「……桜は、私が戦うのを嫌がっているからです。

 私を怪我させたくないからと」

「怪我? アイシャが?」

「ええ。前回、あなた達の勝利条件は何でしたか?」

「あの時は……

 アイシャのホルモンクッキーを何とかすれば良かったよな」

「そうです。

 でも、今回私が戦っていればどうなりましたか?」

「あ……」

「私自身をどうにかする必要がありますよね。

 流石にあなた達全員を相手にして、私も無傷で済むとは思えません」

「そ、それはお互い様じゃん……」

「いえ、違います。

 ──私には【ボス属性】がありますから」

「……! そういうことか」

「怪我をしてもレオリオさんでは治せませんし、『大天使の息吹』でも無理です。

 キルアの言う通り、怪我をすること自体はお互い様なんですが……

 私が大怪我をして治療の為に島から離脱せざるを得なくなるのを、桜は嫌がっているんです」

「……アイシャが居ないと、攻略できなくなるからか?」

「いえ……

 おそらく私が居なくてもゲームクリアは可能でしょう。

 ただ、ここまで来て途中離脱は私もしたくありませんが」

「それは分かるけどよ……

 でもコイツが負けたら、アイシャは性転換を今度こそ諦めるわけだろ?」

「そういう約束ですからね」

「なんか勝利を疑ってない感じだけど、コイツそんなに強いのか?

 ……いや、回りくどい聞き方やめるよ。

 

 アイシャとコイツ、どっちが強いんだ?」

 

 無表情で反応しない桜。困った顔で言葉に詰まるアイシャ。

 

「……分かりません。桜は私と、組手もしてくれませんから」

「はあ?

 アイシャ、ここでも修行してたんだろ? なら一緒にいたコイツと組手ぐらい絶対するだろ。

 いや、ちょっと待て。

 コイツの名前ってウラヌスじゃないのか? 桜とか呼ぶ時あるし、いったいどっちなんだよ」

「キルア。

 男の子の時はウラヌス、女の子の時は桜だって」

「ゴン、オメーなに言ってんだ?

 男の時、女の時って……」

「ホルモンクッキーをキルアも食べましたよね?

 ホルモンクッキーが効いてる時、今の女の子の状態が桜。元の男の子の状態がウラヌスです」

「な、なんだよそれ……

 その名前を変えることに意味あんのかよ」

「キルアとキル子ちゃんのようなものですよ」

「やめろ、オマエ!

 思い出させんじゃねーよ!」

「にゃっはっはっはっ」

 

 我慢できずに笑い声を上げる桜。メレオロンやシームまで笑いをこらえ、顔を真っ赤にするキルア。

 

「あーもぅ、おっかしぃ。キルアってば面白いよねー。

 ゴンー。これなら正直に話してたら、キルアをこっちに引き込めてたんじゃない?」

「えー……

 オレ、せっかく我慢してたのにー……」

「ちょっと待てテメーラ。

 なにオレいじくってやがる。オレがこっちに付く前提で盛り上がるんじゃねーよ」

「私がお願いしていれば、キルアは私に協力してくれました?」

「うっ!」

 

 覗き込むアイシャに、思わず呻くキルア。ゆっくり目を伏せた後、

 

「そ、それは分かんねーよ……

 どっちにしたって、ゴンはオレに黙ってたしな。どうせ信用ねぇってことだろ……」

「でもキルア、あんなにアイシャが男になるの嫌がってたじゃん」

「うっせーぞ、ゴン!

 変なタイミングで言うんじゃねぇよ!」

 

 桜がお腹を抱えて笑い出した。

 

 

 

 恥ずかしさに耐えられず、リィーナ達のところへ戻るキルア。

 

「キル、ずいぶん談笑してたみたいだが、何を話してきたんだ?」

「あ、いや、うん……」

「オマエがオレ達を裏切るんじゃないかと、気が気じゃなかったんだぞ?

 相談なく勝手に行きやがって……」

「そ、それは悪かったよ、兄貴。

 ただその、なんつったらいいか……」

 

 とキルアはそこまで言った後、なぜかリィーナ達が目を逸らして肩を震わせてることに気がつく。

 

 ミルキもニヤリとして、

 

「で、何の話をしてきたんだ? キル子ちゃん」

 

「テ・メ・エ・ラ、しっかり聞いてたんじゃねぇかッ!!

 なに聞き耳立ててやがるッ!!」

 

「そう怒るな……

 みんな無事に戻るか心配してたんだぞ、キル子ちゃん……ぷっく」

 

「笑いをこらえながら言うんじゃねぇ、クラピカァッ!!」

 

「え、え? なんでオメーラ笑ってんだ?

 キル子ちゃん?」

 

「レオリオ、なんでテメーは聞いてねぇんだッ!?

 聞き返すんじゃねぇよッ!!」

 

「無茶言うなよ……

 オメーラみたいに聴力強化しても、オレにはあの距離じゃ聞き取れねーぜ。

 で、キル子ちゃんってなんだ?」

 

「オレに聞くんじゃねぇぇぇッッ!!」

 

 一斉にリィーナ達が大笑いした。ちなみに向こうでアイシャと桜も爆笑していた。

 

 

 

 全員の笑いが収まる頃には、すっかりキルアはスネていた。しゃがみこんで、半泣きでぶすーっとしている。

 

「くっそ、やってられるか……」

「キル、悪かったって。

 もうからかわないから、一緒に戦おうぜ」

「イヤだ。オレは1人で戦う。

 兄貴となんか絶っ対、組まない」

「キル……」

「困りましたね……

 どうしますか、ミルキさん?」

「ちょっとオレには説得できそうにないな。

 無理に組んでも、こんな状態じゃ上手く連携できないだろうし」

「ふぅ……仕方ありませんね。

 キルアさん、お1人で戦うのは構いませんから、せめてこちらに付いて戦っていただけませんか?」

「だから裏切るつもりなんかねぇよ……

 元はと言えばアイツラのせいで笑われたようなもんだし」

 

 遠目にアイシャと桜とゴンを睨むキルア。桜だけがニヤニヤと笑みを返す。

 

「むっかつく、あの女……!」

「勝つ必要はありませんから、できるだけ実力を引き出してください。

 特にあの子が、あなたのスピードに対抗できるほどの手段を持ち合わせているかが気になります」

「どうもアイツ、オレと同じくらい動ける気がすんだよな……

 すっげー、やな予感がする」

「オマエの能力も真似られるってことか?」

「そこまでは分かんねーけど……

 兄貴はどう思う? アイツの足運び」

「やっぱりキルも気づいてたか……

 アイツの歩法は、武術家よりもオレ達のソレに近い」

「だよな……

 アイツ、どこで覚えてきたんだよ」

「……

 いずれ分かることでしょうから今お話ししますが、あの子はジャポンの忍の里の生まれです。

 本人は否定していましたが、おそらく忍の技術を高い水準で修めています」

「あー。忍って、ハンゾーとかサイゾーみたいな?」

「ハンゾーという方は存じませんが、サイゾーさんはそうですね」

「そっか……

 ならこっちも遠慮なく技を使わせてもらおうかな」

「当然ですが、殺してはダメですよ?」

「さっきまでの戦いぶりじゃ、殺しても死にそうにねーけど。

 大天使の息吹も確保してある感じだし、大怪我くらいは問題なさそうだけどな」

「レオリオさんもいますから、そのくらいであれば」

「はぁー……

 おっけ。行ってくる」

 

 

 

 

 

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