どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二十八章

 

 ────二度と遭うことはないだろう、とすら思っていた。

 

 一年前の様々な出来事が頭を過ぎる。

 幻影旅団。かつてA級賞金首だった、少数精鋭の犯罪者集団。

 ヨークシンシティでの二日間にわたる死闘の末、私と仲間達の手により幻影旅団は壊滅した。

 

 そして、クラピカの鎖によって心臓へ楔を撃ち込まれ、多重の掟に縛られて。

 深い檻の中、屈辱に塗れながらも一縷の望み──復讐の機を得る可能性にしがみつき、法の裁きを受けることを余儀なくされていたはずだ。

 

 当然、偶然などではあるまい。何らかの方法で私の居場所を突き止め、ここまでやって来たのだろう。目的は分からないが……

 

 幸いと言うべきか、こちらに歩いてきているのは幻影旅団全員ではなかった。

 

 シャルナーク。

 シズク。

 コルトピ。

 

 3人とも私が直接交戦した相手だ。──旅団においては非戦闘員扱いだったとは言え、シャルナークとシズクは間違いなく一流の使い手だ。しかもシャルナークは、相当に頭が切れる男でもあった。ちょっと可哀想な目には遭わせたが。

 

 私が正常な状態であれば問題にならない相手だけど……今の私では。

 

 クラピカが彼らに定めた掟で、現在も有効なものは確か4つ。

 

 

 

 ──今後一切の念能力の使用を禁ずる。

 

 ──私たちに関する情報の一切を他者に伝えることを禁ずる。

   当然だが筆談だろうが他人の念能力によって情報が漏れた場合もこの法に触れる。

 

 ──他者を傷つける行為を禁ずる。

 

 ──大人しく法の下に裁かれろ。

 

 

 

 念能力の使用を禁じられ、他者を傷つけられない彼らは、本来なんの脅威もない。

 

 但しそれは、彼らが掟を遵守しているからだ。もし掟を破り、命を引き換えにする気があれば、おそらく一度だけ念能力の発動は可能だろう。

 

 そんなことをするとは思えないが……彼らにそういった良識を期待するのは危険すぎる。絶対に、私が念で戦えない状態であることを悟られてはいけない。

 

 仮にバレていたら。命と引き換えに攻撃された時、念なしで切り抜けなければいけない。今の私に出来るだろうか……

 

 それに、もし彼らが除念に成功していたら────

 

 そもそも念能力を使えない彼らが、『練』をしなければ入れないグリードアイランドにいる理由は──……

 

 

 

「……メレオロン、シーム。

 俺達があいつらと接触する少し前に、立ち止まって離れててほしい。

 万が一闘いになったら、メレオロンはアイシャとシームを連れて、何とか逃げてくれ。どこに逃げてもいい。俺は3人の居場所が分かるから、後で合流する」

 

 ウラヌスは俯き加減に口許を手で抑えながら、2人に話しかける。まだ距離はあるけど、読唇を警戒しているのだろう。

 

 私は……彼の指示に異論を挟まなかった。けど納得はしていなかった。ウラヌスも幻影旅団のことを知っているようだが、どう考えても私の招かれざる客だろう。まさかこんな最悪のタイミングで……くそっ!

 

 自分が害されるだけなら、まだ自業自得と納得がいく。でも何の関係もないこの3人が犠牲になったりしたら、私は……

 

「……アイシャはどう思う? 連中がここにいる理由」

 

 ウラヌスに問われるが、正直どう答えていいか分からなかった。

 情報が足りなさ過ぎる。できるだけ深く俯き、口許を前方から隠す。

 

「今の私には判断できません。

 極力情報を与えたくないので、私を守るような素振りはギリギリまで見せずに」

 

「ああ、それはそのつもり。

 ……先に言っとく。俺は連中にかかってる念の掟を知ってる」

 

 ウラヌスの顔を覗く。──普段なら可愛らしいとすら言えるその表情は、今は凛々しく締まっていた。

 

「幻影旅団の護送に、俺はネテロの依頼で付き合ってる。

 キミだったんだね。ネテロに蜘蛛の連行を依頼したのは。

 ……ああ、いま思い出した。そういえばネテロが、電話口でキミの名前を出してた気がするよ」

 

「そうでしたか……

 あの時ウラヌスは、ヨークシンにいたんですね」

 

「俺はネテロと一緒にヨークシンへ来たから、いたと言えるか微妙だけど……

 ネテロ経由で、連中を縛る掟については聞き及んでる」

 

 ──本来ならクラピカの能力について、たとえネテロであっても伝えるべきではない。どこから洩れるか分からない以上、生命線となる情報を秘匿するのは当然のことだ。

 

 だが彼らを縛る掟はかなりシビアでもある。もしネテロに伝えなかったら、彼らの掟を知らない人間との接触で、法の裁きを受けるという掟とそれ以外の掟の板ばさみになり、彼らが望まずして死ぬこともありえるだろう。除念師との接触を禁じてもいない為、絶対ソレを阻止してほしかったのもある。ソレまで掟で縛ってしまうと、安易に死を選びかねなかったしな。

 

 ゆえに私とクラピカで相談し、ネテロには限定的に伝えた。情報不足が理由で、護送に不手際があっても困るからね。

 

 無論ネテロがウラヌスにそれを伝えたのは、必要な処置であったのだろうと信じている。ウラヌスが信頼に足る人間なのは、私にも分かるしな。

 どちらかというと、ウラヌスがネテロとそれほど近しい関係であったことに驚いていた。……まぁアイツ会長だったからね。手練れの神字ハンターと懇意にしていても、不思議はないか。

 

「ネテロと知り合いだったんですね」

 

「ハンター試験で、ちょっとジイさんとごたごたあってね……

 それ以来の腐れ縁だよ。俺の神字を買ってくれる上客だから、邪険にもできなくて」

 

 そうつぶやいた後、ウラヌスが口許を隠していた手を下ろした。そろそろ声が聞こえる距離までお互い近づいている。

 

 私は疑念を押し殺し、目前に迫る狂人達から一切意識を逸らさないようにする。

 

 ウラヌスが背後に合図を送る。後ろの2人が足を止めた。

 

 幻影旅団の3人も、こちらをまっすぐ見据えて歩いてきている。それぞれが無表情で。

 

 ────接触する。

 

 

 

 

 

 少し前。

 

 アントキバを後にした旅団の3人は、足取り重く南へ向かっていた。

 

「はぁ……」

 

 力なく息を吐くシャルナーク。

 

「どうしたの? シャル」

 

 並び歩くシズクが、不思議そうに尋ねる。

 

「どうって……

 こんなところでまたあの子と会わされるなんて、ホント(バチ)でも当たったんじゃないかと思うよ」

 

 シズクは首を傾げるだけで、意図を解さない。

 詳しく説明する気にもなれず、またするわけにもいかず、つくづくうんざりしていた。

 

 捕らえられて一年。紆余曲折あって、久々に娑婆の空気が吸えたのもつかの間。

 何とかして除念師か除念の方法でも見つけられないかと、掟に触れない範囲でグリードアイランド内にて情報集めをしていたのだが……

 

 上から指示が来た。アイシャという少女と顔合わせしろ、と。

 

 ろくに詳しい情報も伝えてこなかったので、同じ名前の別人という可能性もあったが、本来ここは念能力者しか入れない場所だ。別人の可能性は低いだろう。……念も使えない自分達を強引に連れてきて(こ )き使う、ここの連中の神経も分からないが……。何の因果でここまで来て怨敵と顔を合わさねばならないのか。

 

 無論一人きりで牢の中にいるより、圧倒的にマシではある。いかに雇い主には絶対服従とは言え、仲間も連れ立っているこの状況であれば、成し得ることは格段に多い。しかも減刑という見返りすら期待できる。

 

 プロハンターだったおかげで懲役200年程度で済んでいる自分は、うまく減刑を重ねれば人生が終わる前には出所できるかもしれない。……あまりに淡い期待だが。

 

 いずれにしろ、その可能性をゼロにする気はない。他の仲間が減刑で出所できるような懲役年数ではないだけに尚更だ。一部の仲間はその可能性すらなく、死刑執行待ち状態である。団長はプロハンターだが、罪状が重すぎたゆえに相殺できず、死刑執行待ちだった。

 

 本来なら全員が死刑であったとも聞いている。幻影旅団としての罪状を考慮した場合、当然と言えば当然だろう。

 しかし全員が揃って何ら抵抗もせず、大人しく罰を受ける姿勢を見せたことが、自分を含めた一部の団員の減刑に繋がったようだ。悔しいかな、これはクラピカの鎖に縛られたおかげだと認めざるを得ない。もしかしたら、流星街出身者であったことが判決を慎重にさせた可能性もあるが、この辺りは想像の域を出ない。

 

 自分に次いで懲役が少ないのはこの2人だ。シズクは旅団での活動期間が短いおかげ、コルトピは戦闘に参加することがほとんどなかったおかげで。場合によってはこの3人で蜘蛛再生をも視野に入れて動く必要があるだけに、慎重にならざるを得ない。

 

 ともあれ、こうして外に出られたことは、旅団全員の脱獄を為しうる千載一遇の機会だ。牢獄では期待できない、類稀な好機。

 

 ……だが。だが、彼女と顔を合わせれば、その機をも潰してしまいかねない。

 

 必ず危険視するだろう。どんな理由であれ、牢の外にいる自分達を。

 そうなれば、今より強い掟で縛り直されるかもしれない。

 

 僅かな希望に(すが)り、屈辱を糧に思考を重ねた一年間の努力が、水泡に帰すかもしれないのだ。それも二度と好機が訪れない形で。そう思えば、気が気でなかった。

 

 遠目にも、こちらへ歩いてくる4人の姿が見える。

 

 先頭を歩く2人には見覚えがある。片方は、やはりあのアイシャだった。忘れるはずもない。もう片方は……また別の意味で忘れるはずもない相手だった。

 

 後ろの2人は、目深にフードを被っている為よく分からない。

 

「シズク。お願いだから迂闊な発言は避けてね」

「なんで?」

 

 相変わらずのピンボケっぷりに気が抜ける。この一年で拍車がかかったようだ。

 

「少しは自分で考えた方がいい」

 

 後ろから付いてきているコルトピが、そうポツリと零す。

 

「えー。考えてるよー」

 

 シズクが何やら言ってるが、不安しか湧いてこない。頭が悪いとは言わないが、平時における考えの足りなさはウボォー並みというアレな子である。本人には絶対言えないが。

 

 ピリッとしてほしいんだけどなぁ……

 

 何しろ命が懸かっているのだ。更には蜘蛛の未来も。

 

 ……自分が頑張るしかないんだろうけど。

 

 表情の分かる距離。向こうは先ほどまで何かコソコソ話していたようだが、それ以上は分からない。こちらも無駄な雑談はやめる。

 

 さぁ。接敵だ。

 

 

 

 

 

 10mほどの相対距離で。

 

 両陣営とも、自然に歩みを止めた。……話をするのに適切ではないが、戦いの間合いとしてはこれ以上詰めたくない距離だ。

 

 戦いたくはないのだが。お互いに。

 

 

 

 

 

 互いに、足も言葉も一歩たりと踏み出せない張り詰めた空気の中。

 

 溜め息とともに、私は距離を歩み詰める。

 

 私が過剰に警戒していることを見破られると、弱体化を悟られるおそれがある。泰然と構えなければいけない。危険な距離だが、3mほど手前まで行って立ち止まり、腕を軽く組んで声を発した。

 

「ご機嫌よう。お久しぶりですね」

 

「キミも、お元気そうで何より」

 

 気負いなく、シャルナークが返してくる。まぁ彼とやりとりすることになるだろうとは予想していた。クロロを除けば、最もリーダーシップを発揮するのは彼だろうしな。……むしろ話し相手としては、クロロより厄介かもしれない。

 後ろから来たウラヌスが横に並び、足を止める。

 

「よ、覚えてるか?」

「キミも久しぶり。相変わらずかな」

「え? だれだっけ?」

 

 私とウラヌスの、肩がコケた。頭を垂れるシャルナーク。

 シズクの発言にコルトピが呆れた口調で、

 

「忘れる?

 フツーそういうこと」

 

「え? いや、こっちの黒い髪の子は覚えてるよ、もちろん。

 でもそっちの……ん? 女の子? あれ、どっかで会った?」

 

 指を差されたウラヌスが乾いた笑いを浮かべ、

 

「こりゃホントに忘れてんな……

 そんなにツラかったのか、この一年」

 

 やや皮肉めいた言葉に、シャルナークはシズクの顔を見つつ、

 

「いや……単に覚えてないだけだと思う。

 関心の無いことは、万事こんな調子だし」

 

 私は私で、毒気の抜けた彼らに少し戸惑っていた。

 

 人格矯正の余地もない狂人集団だと認識していたが……一年の牢獄生活程度でこうなるならば、もしかして矯正が可能だったのか? 今更だけど……

 

 固まっていれば、彼らは蜘蛛として動くだろう。それは疑いようがない。

 しかし……バラけていれば、存外こんなものなのだろうか。気を赦せる相手では決してないが。

 

「オレ達としては、長々と喋りたいわけじゃないんだ。

 さっさと用件を済ませたいんだけど」

 

 シャルナークの告げてきた内容を吟味する。長く接触したいわけじゃないのはコチラも同じだ。……だが聞くべきことは聞いておかないと、後々の不安が大きすぎる。危険ではあるけど……

 

 腕組みを崩さぬまま、視線を強める。

 

「そうはいきません。

 あなた達がこんなところにいる理由を話しなさい」

 

 苦い顔をするシャルナーク。嘘を吐くのが相当ヘタになっているようだ。感情を隠せていない。やはり多少なりと性格が変わってしまったのだろうか。

 

「──スタッフ。これで分かって欲しい」

 

 それを聞いて、いくらか得心する。私と同様に、彼らもスタッフアカウントでログインしているのだ。でなければ、念能力を使えない彼らがここにいる理由が説明できない。

 

 おそらく私もスタッフであるという意図の発言をすると『私たちに関する情報の一切を他者に伝えることを禁ずる』条項に触れる可能性があったから、端的に語ったのだろう。そのことからも、除念は出来ていないと見て間違いなさそうだ。それに除念されていれば、クラピカが気づくはずだしな。

 

 ……しかし困ったな、これ。私と情報をやりとりするのにも、掟が妨げになるぞ。私とシャルナークだけで話すぶんには抵触しないだろうけど、身の安全を考えればウラヌスと離れるわけにもいかない。

 

 自然体で話を聞いていたウラヌスが、

 

「アレかな?

 死刑囚や超長期刑囚が雇われるってヤツ」

 

 私は、そう語る彼の方を見る。

 

「プロハンターが、ハンターライセンスの効力で出来ることの一つだな。

 絶対服従を条件に、重大な罪を犯した服役囚や死刑囚を雇い入れる。このゲームの中に長期間拘束しやすい人材って意味では、おそらく珍しい事例ではないんだろうけど。

 ……ま。にしたって、オマエラを雇うバカは大概だと思うが」

 

 そう、か。確かにそういう話はネテロから聞いたことがある。

 

 でも相手はそこらの重犯罪者じゃない。元A級賞金首の幻影旅団だぞ。誰だ雇ったのは……

 

「あなた達の雇い主は?」

「守秘義務」

 

 当然の答えが返ってきた。くそっ! ……まさかジンじゃあるまいな。一番有り得そうだから困る。

 

 だったら首輪でも着けといてほしい。もちろんゲームマスターが監視を怠っているとは思えないが、牢の中に居てすら安心できない連中を、誰も直接監督してないっていうのは……

 

 色々聞きたいけど、ほとんど突っぱねられそうなんだよなぁ……

 

「あなた達の雇用期間は?」

「知らない。向こうの都合次第」

「あなた達の管理者は?」

「守秘義務」

「……牢の外にいる旅団は、あなた達3人だけですか?」

「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 互いに連絡は取れないし、安否確認すら自由にできない」

「……このゲーム内にいる旅団は、あなた達だけですか?」

「多分ね」

 

 ……。

 

 旅団の現状に関しては、囚われている彼らの元へ、私が足を運ぶべきかもしれないな。一度も確認せず放置してるのは迂闊だった。こういうことが無いとは限らないもんな。

 

 ただ……彼らの掟は私達と密接に関わっている。接触することで、不本意に彼らを死に至らしめる結果へ繋がるのは極力避けたい。

 

 クラピカと相談して、掟を変えた方がいいんだろうか。絶対服従にした方が融通も利くからな。……いや、彼らのことだ。一度鎖を外して再び縛ろうとする隙を衝くことぐらい考えるだろう。さりとて、囚われの身である彼らを一方的に無力化するというのも……

 

 ……まぁ、いま考えることじゃないか。

 

 私は腕組みを解く。

 

「もう聞きたいことはありません。

 用件があるならどうぞ」

 

 そう私が告げると、シャルナークは安心したように一息ついた。

 

「オレ達も、具体的に指示をもらってるわけじゃないんだ。

 キミと接触しろ。

 それ以上のことは聞いてない」

 

 ……?

 

 どういうことだろう。つまり私達が顔を合わせること、お互いに認識させておくことが目的?

 理由はいくつか思いつくけど……また曖昧な指示だ。

 

「あれ? そうだっけ?」

 

 間を空けてからの、シズクの一言。

 コルトピが、がっくりと肩を落とす。シャルナークが顔をひきつらせている。

 私とウラヌスは、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 伏せていた理由は分かる。おそらく私の情報に関わってしまい、掟に触れるからだろう。

 けれど、それを説明することもできない。これはちょっと同情してしまう。

 

 

 

 

 

 ────シャルナーク達が指示を受けた内容は、正確にはこうである。

 

『アイシャという名の少女が、スタッフとしてゲームに参加する。

 接触を図り、自分達もスタッフであると伝えろ』

 

 よって、目的はもう達成できている。早く離れさせてくれと、シャルナークは心の中で叫んでいた。

 

 

 

 

 

「……ともかく、オレ達からこれ以上話すことはない。

 さっさと終わりにしてくれ」

 

「……。

 今でも私達に復讐したいと考えていますか?」

 

「……ああ、そうだね」

 

「脱獄したいと考えていますか?」

 

「……考えるくらいはいいんじゃないかな。

 具体的に何も思いつかないけど」

 

「除念できると思っていますか?」

 

「……答えられない」

 

 ふむ……これは私の聞き方が悪いか。

 

「では……

 あなた達から、私に聞きたいことはありますか?」

 

 これは単なる興味本位だ。探りでもあるけど。

 

「……また胸が大きくなったかい?」

「殺しますよ」

 

 こんな状況なのに、ロクなこと言わないなコイツ。私がワリと本気で殺意を向けると、シャルナークはたじろぎ、

 

「ええと、すいません……

 ……髪の毛、ずいぶん長くなってるみたいだね。もう元に戻ったんじゃないかな」

 

 今ちょうど風が吹いているから、なびいている私の髪の長さに気が付いたようだ。その観察眼に私は感心しながら、

 

「あぁ……まだ少し足りませんけど。

 早く元の長さまで伸ばせないか、色々試してるんですよ。大切にしてますので」

「へぇー。

 ちなみに何カップ?」

「シャル……」

 

 懲りないな、この野郎……。ちょっと気を赦したら、すぐコレだ。コルトピも呆れてるじゃないか。あとウラヌス、なんで目を逸らした?

 私は怒気を隠さず、指をパキパキ鳴らしながら、

 

「当ててごらんなさい。

 正解者には洩れなく目潰しをくれてやります。外れても、抽選で関節をいくつか外してあげましょう」

「やめてください」

「ほら、早く答えなさい。あなたの関節が外されるのを待ってますよ」

「ゆるして」

 

 ちなみに当ててしまうと『私たちに関する情報の一切を他者に伝えることを禁ずる』に引っかかる可能性が有るという罠。シャルナークが自覚していれば、だが。

 

 ウラヌスが隣で肩を痙攣させてるので、もうそろそろ潮時だろう。私も気が抜けてきた。

 

「……私からも聞きたいことはありません。

 これで用が済んだなら、さっさと別れましょう」

 

「ああ、そうしてくれると助かる。

 もうキミには会いたくないよ」

 

 シャルナークの言に、私は軽く眉をひそめる。

 

「もう会いたくないのに、復讐はしたいんですか?」

 

「……正直、キミとは会いたくないってのが本音」

 

 ああ、そういうことかと納得する。彼らはクラピカにこそ復讐したいわけだ。掟で縛り、屈辱を味わう直接の原因になったから。

 

 でも、分かっているんだろうか? クラピカに復讐しようとすれば──もしくは復讐を果たせば、必ず私と戦うことになると。

 

「それじゃ」

 

 シャルナークが、脇に避けて南へ歩き始める。それに付いていく2人。

 

 シズクとコルトピが、思わしげに私達の顔を見ながら、すれ違う。

 

 ウラヌスが後ろの2人に手招き。急いで駆け寄ってくるメレオロンとシーム。

 

 

 

 私達は、南へ去りゆく旅団の背を、しばらく見守っていた。

 

 無言で顔を見合わせる。やがて、私は視線を落とした。

 

「……申し訳ないです。彼らを招き寄せたのは私のようです。

 みんなを無用な危険に晒してしまいました……」

 

 私が謝罪すると、ウラヌスは否定するように首を振り、

 

「アイシャ、謝らなくていいよ。

 別にアイシャが望んで遭遇したわけじゃないんだし。そうだろ?」

「そ、それはそうですが……」

「こういうこともあるのが、グリードアイランドの怖いところだよ。

 俺だって因縁のある相手だったし、アイシャだけ悪いなんて言えないよ。……ともかく、何事もなくて良かった。不幸中の幸いだと思おう」

「そうですね……」

 

 再び、去っていった旅団の方を見た後、私達も目的地であるアントキバへと歩き始める。

 

 

 

 

 

 …………彼らはどこへ行くんだろう。

 

 

 

 そんな想いが、ぽつりと浮かんだ。

 

 

 

 

 

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