どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百六十五章

 

 ──向かい立つキルアと桜。

 

「いいの? 奇襲しなくて。

 正面から来なくても、仲間を狙うフリするとか、色々卑怯な手があるんじゃない?」

「卑怯な手ねぇ……

 つっても、もし間違ってアイツラを巻き込んだらオレ達の負けだろ?」

「負けっていうか、事前の取り決めは無しだねー。

 なんでもアリだと、この勝負の意味がなくなっちゃうもん」

「あー、そうだっけ?

 つうか約束破ってアイシャを怒らせたら、それこそオレ達じゃ手に負えなくなるしな。

 そもそも全く油断してないヤツに、奇襲なんて通じるわけねーだろ」

「ふふーん。じゃあ真っ向勝負するんだ?

 ずいぶん自信あるじゃん」

「いや? クラピカじゃあるまいし、オレは絡め手でもなんでもするぜ。

 じゃないと勝てそうにないからな」

「ふふ、それは楽しみ。期待してるね♪」

「そうやって余裕こいてろ」

 

 毒づいて後ろに跳ぶキルア。桜は言葉通り楽しそうに左右へ揺れている。

 

 桜の様子を窺いながら、やりにくい相手だとキルアは認識する。そもそもキルアの戦闘技術は、こういった1対1よりも集団戦や日常での奇襲に向いている。桜に僅かでも隙が生じないか観察し続けていたが、今の今までそんな機は訪れなかった。

 

 秘密兵器──というほどでもないが、得物も用意してある。アイシャすら知らないから、事前に桜が知るはずもなく不意を衝ける──とキルアは考えていた。

 

 隙が無いなら作ればいいとばかりに、まずは肢曲で幻惑を試みるキルア。

 

 トン、と肩に手を置かれた。背後から。

 

 背筋に悪寒が走る中、視界の内で左右に揺れていた桜の姿が消えた。──すでに先手を打たれていたことに気づくキルア。

 

「悪くないけど、歩法を切り替える前に気配が不自然になるところが甘いかな。

 もうちょっ──」

 

 喋り続ける桜から距離を取るキルア。前方へ走り、振り向きざまキルアは地面を掻き、目眩(め くら)ましを図る。

 

 が、再び桜の姿をキルアは見失った。むしろ土を巻き上げた為に自らの視界まで遮ってしまい、かえって不利になる。

 

 土煙の中──真正面から桜が現れた。いきなり詰め寄られ、ぎょっとして身をのけぞるキルアの胸に、桜は堂々と人差し指を突きつけながら、

 

「もうちょっと暗歩をする時は自然に入らないと。

 切り替えが不自然だと、不意を衝きにくいよ」

「そうか……よ!」

 

 不用意に桜が伸ばした指へ蛇活を放つキルア。指や腕の骨を砕くつもりで放ったキルアだったが、桜は指を伸ばしたまま器用に腕を揺らし、しなるキルアの両腕を完全回避する。

 

 ──こいつ、コレすら避けんのかよ!

 

 アイシャにも見せたことがない暗殺術だったが、まさか初見であっさり見切られるとは思わず、動揺して外した関節を戻すのに手間取るキルア。

 

 が、桜はキルアの両腕をそっと掴み、軽く揺さぶる。そうすることで、キルアの関節を綺麗にハメ直した。

 

「あんまりやりすぎは良くないよ。不用意に外れるクセがつくから」

 

 少し咎めるような口調にムズムズするキルア。まだ家族やアイシャから指摘されたなら分かるが、見るからに年下の相手から言われると、どこか納得がいかない。まるで妹から叱られたような──

 

「チッ……

 やりにくいんだよ、テメェ!」

「ごめんねー♪」

 

 捨て台詞とともに飛び退くキルアへ、桜は追いもせず苦笑を返す。

 

 思考を巡らせるキルア。──おそらく自身のあらゆる暗殺術を用いても、桜に太刀打ちできないだろう。完全に見切られている。動きを読まれているか、暗殺術そのものに精通しているとキルアは判断した。そちらが通じないのであれば──

 

 キルアは【神速/カンムル】を発動した。自分からなかなか仕掛けてこない桜に対し、カウンターには適しているが動きが単調で読まれかねない【疾風迅雷】ではなく、自在に動ける【電光石火】を選択するキルア。

 

 桜の周囲を文字通り電光石火の速さで跳び回り、体勢どころか視線も前から動かさない桜に、キルアは背後から迫る。

 

 キルアの伸ばす手が纏う電撃──【雷掌/イズツシ】を、桜は振り向かないまま後ろへ半歩下がって間合いを詰めながら、あっさり肘で止めた。

 

 止めたどころか、そのまま肘を勢いよく振り切り、キルアの手を弾く。

 

 なにぃッ──!?

 

 驚愕するキルア。完全にタイミングを合わせてきた桜の速度もだが、アイシャですらも痺れさせて僅かに動きを止められたのに、桜は全くと言っていいほど硬直していなかった。

 

 体勢を崩すキルアへ、更に桜は後ろへ下がって踵で足払い。それを喰らって片足立ちで前のめりになったキルアの顔面──人中へ肘を叩き込む桜。勢いよくパンッ! と鳴る。

 

「ぐあっ!?」

 

 出血こそしていないが、急所への一撃に苦鳴をあげるキルア。かろうじて身を逸らして威力を殺したが、【神速】は解けてしまう。

 

「あ、ゴメン。変なトコ当たっちゃった」

「くそっ……なに謝ってんだ!」

 

 謝罪してくる桜も腹立たしかったが、麻痺して動きを止められると決めてかかっていた自分の甘さにイラだつキルア。その油断が解いてはいけない【神速】を解いてしまったと自覚していたが、何より追撃してこない桜に神経を逆撫でされた。

 

「えっと……大丈夫?」

「──テメェは! いちいち手を止めるんじゃねぇよ!

 やりにくいっつってんだろが! オレをナメてんのか!」

「んー……

 そう言われると、言い返せないんだけど……

 ゴメンとしか」

「だから、謝ってんじゃねぇッ!」

 

 地面を殴るキルア。が、実際には殴っておらず、隠していた『ヨーヨー』2つを地面に叩きつけ、桜に向かう角度で跳ね返した。

 

「おっと」

 

 退いて2つとも片手でキャッチする桜。当然キルアは電撃を──

 

 ヂヂッ!!

 

「がぁッ!?」

 

 ところが、感電したのはキルアの方だった。想定を越える電撃を浴びて、なすすべなく倒れ伏すキルア。

 

「ぐ……

 オレ、以上の電気……だと」

 

「──【破電疾走/ショックライド】。どう? 限界を越えた電撃を浴びた気分は」

 

「て……てめぇ……」

 

 桜は受け止めたヨーヨーを地面に置き、

 

「ご自慢にしてたところ悪いんだけど、こんなの初歩中の初歩。

 オーラを電気に変化させること自体は、実はそんなに難しい技術じゃないんだよ。

 その年齢で身に付けるのはもちろん難しいけど、逆に言えば時間さえかければいいだけだもん」

「……」

「要は帯電できるかどうかにかかってるからね。

 それさえ出来れば、後はオーラを電気に変化させるだけだから。

 その電気をどう扱うかは、センスの見せどころだけど」

「くそ……

 お前、オレがヨーヨーを隠し持ってるのに気づいてたな……」

「ん、知ってた。だから先に電圧を上げた状態にしてからキャッチしたの。

 重心がおかしかったし、ヨーヨーの重さが災いして速度が若干落ちてたでしょ?

 多分攻撃力の低さを補う為の重いヨーヨーなんだろうけど、【神速】とは相性悪いね」

 

 指摘の内容はキルアも理解していたが、桜が一向に麻痺しないのは不可解だった。──【雷掌】の時もそうだったが、さっきキルアが感電した際、確実に桜も電気は流れたはず。なのにキルアが痺れるほどの電流を流し込んでも、桜は感電どころか全身から静電気すら発していない。なぜこうも通じないのか──

 

 アイシャとは違う。だがアイシャとは違う意味で強い。

 

 身をもって認識を改め、キルアは倒れ伏したまま、ありったけの落雷を起こした。

 

 

 

 キルアの意識が加速する──その中で、【鳴神/ナルカミ】の一撃を後ろ歩きで避ける桜を見た。

 

 

 

 なん……だとッ!?

 

 無論、放たれてから避けたのは遅すぎる。落雷の寸前に、降り注ぐ圏内から逃れたのだ。確かにキルアの意思を先読みすればアイシャのように回避は可能だろうが、キルアはその可能性も見越して広範囲を狙ったつもりだった。自分ですら把握しきれない四方へと炸裂した雷撃すら桜は回避してみせた。

 

「な……んで」

 

 顔だけ起こし呆然とするキルアに、焼き焦げた地面を見回しながら腰に手を当てた桜は、

 

「──ステップトリーダ」

「なに……?」

「そもそも大気って絶縁なわけですよ。空気中はほぼ電気が流れないから、雲が多少帯電してもそうそう雷は落ちない。

 で、それでも落雷が発生する時は、最初に大気の絶縁破壊が起こって、その道を辿って大量の電気が流れる。

 その絶縁破壊を起こす、最初の通電がステップトリーダ。

 実際の落雷と念能力で引き起こす雷撃は手順がいくつか違うけど、この最初の放電路を作る部分は同じ。じゃないと離れた相手を狙えないからね」

「……」

「つまり、どこに電気が流れるかは事前に分かるんだよ。

 自然の落雷は意思が介入しないから流石に無理ゲーだけど、人の意思が通った雷撃なら回避できる余地が生まれる」

「だからって……

 そんなもん避けるとか化け物かよ……」

「えー? 化け物呼ばわりは流石にヤダにゃー。

 せめて化け猫にしてほしいにゃー♪」

 

 両手を猫のように握って、にゃーにゃー鳴く桜。

 

 桜に調子を狂わされっぱなしのキルアだったが、ただでさえ小さい戦意がほぼ失せつつあった。そうでなくても、正直もう打つ手がない。

 

「ん? どしたの。

 まだ結構オーラあるじゃん。もう降参すんの?

 ほらほら、キル子ちゃんかかっておいでー」

 

 中途半端な挑発だったが、渋々キルアは跳ね起きる。構えこそ取るが、動こうとしない。

 

「んー? やらないの?

 まだ速度極振りで攻撃するとか、試してないんじゃない?」

「どうせそれも通じないんだろ……さっき落雷を避けた時点で分かったよ。

 それにもう充電切れだ……

 オーラがなくなるまでダラダラやれっつーなら、無理矢理やるけど」

「ふぅん。充電切れねぇ」

「……んだよ」

「いや、オーラを電気に変化できるのに、充電切れっておかしくない?

 普通に考えたら、オーラがある限り電力供給できそうなもんだけど」

「……

 外から充電しないと、変化させられねーんだよ」

「全くできないの?」

「ほんのちょっとならいけなくもないけど……

 使い物になるレベルじゃない。かなり充電しないと、大量には発電できない」

「あー。たぶん制約で補っちゃったのかぁ。

 もったいないにゃー……

 手っ取り早く身につける為なんだろうけど、時間さえかければそんなことせずにいけたのにー」

「……どういう意味だよ?」

「さっきも言ったけど、オーラを電気に変化させるのはそんなに難しい技術じゃないよ。

 人は元々体内に電気信号が流れてるから、発電可能な仕組みが備わってるわけで。

 体の表面は静電気が走ってるし、物理的に発電させるだけならいくらでも手段はある」

「そんなんじゃ電力が足りねぇっつってんだろ……!」

「まぁ現実的にはそうだね。攻撃に使えるぐらい賄うには全然足りないと思う。

 じゃあ、これならどうかな?」

 

 言って桜は、上に向けた掌に何かの機械部品を具現化した。

 

「なッ!? それは──」

「発電機。モーターでもいいけど。これもそんな複雑な代物じゃないよ。

 ざっくり言うと、磁場と電線を近づけてオーラでどちらかを回せば電気は生まれるから。

 要は自家発電機を回せばいいだけじゃん。オーラがあるんだからできるでしょ?」

「……」

「多分キルアがオーラを自発的に電気変換できないのは、磁場を作り出せてないからだね。

 電力と磁力は切り離せない関係にあるんだけど、キルアが外部から電気を取り込むのはその電気が持つ電磁力を、オーラから電気に変化させる呼び水に利用してるから。

 放電して磁力が尽きると、いくらオーラを回しても空転するだけで電気は発生しない」

「……っ!」

 

「────つまり今のキルアは、充電切れじゃなくて磁力切れなんだよ」

 

 完全に沈黙するキルア。あまりに自身の状況に当てはまりすぎて、何も言い返せない。

 

 桜は発電機を消し、

 

「戦闘中にこんなの持って充電するのは難しいけど、事前のチャージはこれでいいんじゃないかな。理想は具現化することだけど、とりあえず小型の自家発電機を持ち歩くだけでいいかにゃ。壊されたりすると面倒だから、やっぱり具現化するのが望ましいけど。

 とは言え、帯電もそうだけど、大量に帯磁するのは寿命縮めそうだけどね。

 個人的には、今までみたいに使用控えめな方がいいんじゃないかにゃって思う」

「……電気を浴びるなんて日常茶飯事なんだよ」

「今は平気かもしんにゃいけどー。

 若いうちから無茶すると、歳食ってから苦労するよー?

 身体が持たなくなる時が絶対に来るから、それ以外の戦闘手段も身に付けた方がいい」

「うるせぇっ! 偉そうに講釈垂れやがって!

 何様だ、テメェは!」

 

 思わずキルアが怒鳴りつけると、桜はなぜか悲しそうな顔をして、

 

「ゴメン……えらそうに言って。

 私の言うことなんか気にしなくていいよ」

 

 キルアは歯噛みする。一度大きく身震いしてから、顔を伏せる。

 

「……偉そうは言いすぎた。

 お前の話、かなり参考になったよ」

「うん。参考にしてくれたら嬉しいな。

 どうするかはキルアが決めることだからね」

 

 桜をじっと見つめた後、「はぁぁぁー……」と長い息を吐き、キルアはヨーヨーを拾い上げて両手ごとポケットに突っ込んだ。

 

 あきらめたように天を仰ぎ、

 

「オレの負けだ、負け!

 ……勝てるわけねーだろ、こんなもん」

 

 

 

 

 

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