どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百六十六章

 

「すごい……」

 

 その一言とともに感嘆の息を洩らすゴン。

 

 ゲンスルー達やクラピカとの戦いもそうだったが、暗殺術や電気を駆使するキルア──ゴンが太刀打ちする手段を思いつかないでいる相手を、桜がここまで完封して見せるとは想像もつかなかった。

 

 アイシャもキルアを圧倒して見せるが、それとはまた別種の畏敬(い けい)をゴンは抱いていた。

 

「でも全然参考にならないよね……」

「あ、うん……」

 

 シームの言葉にも素直にうなずくゴン。あれを見たからと言って、何か対策が思いつくかと言えばそうでもない。むしろキルアの少ない弱点が補強されていくのを眺めただけだ。

 

「いけませんよ、2人とも。

 もちろんあの通りにできる必要はありませんが、自分が戦うならどうするか、ちゃんと考えないと」

「う、うん。

 でもちょっと思いつかないよ……」

 

 ゴンの反応に渋い表情をするアイシャ。──言いたいことは分かるが、諦めるのが少し早いのは減点だった。

 

「いや……

 アンタ、そんな偉そうなこと言ってるけどさ。

 アレをどう参考にしたらいいのよ?

 アタシ、どっちが相手でもぜんっぜん勝てる気がしないんだけど」

「……」

 

 忌憚(き たん)のないメレオロンの言葉に沈黙するアイシャを見つめ、ゴンは申し訳なさそうに、

 

「前にどうやったらオレがキルアに勝てるか聞いた時、今まで通り修行するしかないって答えだったもんね……」

「あー、アイシャならそう言いそうよねぇ……

 当然相手も修行するっていう前提が抜けてるけど」

「だよね……

 桜の話だと、キルアもまだまだ強くなりそうだったし。

 オレ、追いつけるかな……」

 

 そのやりとりを聞いて眉間にシワを寄せるが、アイシャも上手い返しが思いつかない。

 

「桜なら、オレにもああやって教えてくれるかな……

 あっ、ゴメン!」

 

 思わず零れたゴンの本音に、アイシャはしばし瞑目した後、首を横に振る。

 

「謝る必要はありませんよ、ゴン。

 私に遠慮せず、機会があれば尋ねてみてください。

 桜なら、良い修行方法が思いついたらきっとゴンにも教えてくれますよ。

 思いつくかどうかまでは分かりませんが……」

 

 少し不安そうな顔で、アイシャは桜の後ろ姿を見つめた。

 

 

 

 

 

 力ない足取りでリィーナ達の元へ戻ってくるキルア。

 

「キル……」

「ごめん、兄貴……

 オレ、あいつに勝てる気がしねーよ。色んな意味で」

「お疲れ様です、キルアさん。

 ……やはりあの子は、あなたの速度にも匹敵する速さで動けるようですね」

 

 リィーナの言葉に、首を横に振るキルア。

 

「多分オレ以上だよ……

 電気で反射速度を上げてる感じでもないし、一体何すりゃあんなに動けんだか……」

「アイシャみたいに、オーラで加速してるんじゃないか?」

 

 ミルキの回答に、キルアは難しい顔をし、

 

「だとしたら、アイツはアイシャよりオーラ量が上ってことになりかねない……

 アイツ、アイシャより速いんだぞ。

 まぁ念の系統が分かんないし、肉体の強化うんぬんもあるから一概には言えないけど」

「あの子は特定の系統を持たないそうです。

 本人は無系統と称していましたが」

「無系統?

 得意も不得意もないってこと?」

「ええ、本人が言うにはですが」

「無系統なんて有り得るのか?」

「私も、あの子以外の事例を知りませんから何とも……

 後天的に特質系へと変化したり、能力で一時的に変化することなら有り得ますが」

「あー……

 クラピカとか、オレがゴレイヌに喰らったやつか……

 だったら、アイツも能力で系統変えてるんじゃねーの?」

「かもしれませんね。

 ただ得意不得意は以前手合わせした限り、特になさそうでしたが」

「つーかアイツ、今ここでもメチャクチャ色々やってるもんな……

 確かに苦手がありそうな感じがしねーよ。

 アイシャですら、具現化まではやってなかったのに……」

 

 腕を組んで考え込むキルア。

 

「……冷静になると、あんなに手の内晒しまくって何考えてんだって思ったんだけどさ。

 あいつ、どんだけお人好しなんだよ?

 今もオレ達が相談してるのをああやって待ってやがるし。

 勝つ自信があるからっつっても、限度があるだろ。

 あんなの……」

 

 認めたくはなかったが、キルアは静かにつぶやく。

 

「ゴンも言ってたけど、アイシャよりお人好しじゃねぇか……」

「そうよ。

 アイツはどうしようもないお人好しだわさ。

 昔、直した方がいいって何度も注意したんだけどね……」

「あの子はそれで何度も痛い目に遭ってるのに、結局直りませんでしたからね」

「筋金入りだわさ。

 ……本人も認めてたけど」

「マジかよ……

 あんなバカ、生まれて初めて見た」

 

 遠くから桜が不機嫌そうにキルアを睨みつける。

 

「おっと、おまけに地獄耳かよ」

「それにしても、どうしましょうかね……

 結局、攻略の糸口は掴めないままです。

 我ながら情けない限りですが、誰か作戦は思いつきませんか?」

「そうは言っても、ここで話してたら今みたいに盗み聞きされちゃうわさ。

 バレないように相談したくても筆談じゃね……」

 

 その気になればオーラで文字を作って相談できたが、そんなやりとりでは話すほどには捗らず、そもそも現状ノープランに近い。作戦立案どころではない。

 

「つーか、まだやんの?

 はっきり言って、もう手詰まりじゃね? こっちは後4人しか残ってねぇんだし。

 なのにアイツ、全然バテてねーじゃん。それこそアイシャじゃなきゃ勝てないだろ」

「キル……

 バカなこと言ってないで、お前も他人事じゃないんだから真面目に考えろよ」

「つってもなー。

 これなら最初っから乱戦に持ち込んだ方が、まだ目はあったかもな。

 アイツお人好しだから、必要以上に手加減しただろうし」

「それは今更ですね……

 ミルキさん、どうしますか? 残りのメンバーで一緒に挑んでみますか?」

「んー……

 やっぱキルを失ったのが痛いな……

 やるんだったら、キルがいるうちだったんだよなぁ。クラピカもいれば尚よかった」

「……そう言われてもな」

「オレ達は捨て石になってやったんだから、引き出した情報で何とか頑張れよ。

 オレ、もう知ーらね」

 

 後ろ頭に手を組み、思考放棄の意を示すキルア。ミルキは溜め息を吐く。

 

「元々キルは乗り気じゃなかったし、こんなもんか……

 リィーナさん、当然まだやるよな?」

「当たり前です。

 ……私とミルキさんは、アイシャさんの行方を探し求めてここまで尽力してきたのですから、そう簡単には諦め切れません」

「そうだったな……それは同感だよ。

 あれだけ苦労したんだから、やれるところまでやってみないとな」

「……最初と目的すげ変わってんじゃん。アイシャを見つける為に必死だったはずなのに、なんで性転換阻止するのにムキになってんだか……」

「なんか言ったか、キル?」

「別に。なーんにも」

 

 そのやりとりに「ふぅー……」と息を吐くリィーナ。耳が痛い指摘だったようで、多少やる気を削がれながらも、

 

「念の為に確認しますが、ビスケとカストロさんはどうしますか?

 まだ継戦の意思は残っていますか?」

「あたしは結果よりも、リィーナに付き合ってあげてるのが目的みたいなもんだわさ。

 成否問わず、報酬がいただけるなら何も文句ないわよ。

 まぁあの子にボコられるなんて、もちろんイヤだけどね」

「私も師の指示に従うまでです。

 ……ただ、彼女と手合わせをしたいという気持ちはあれど、流石にまだ勝算があるとは思えませんが……」

 

 リィーナは力なく首を振りながら、

 

「お2人ともありがとうございます。

 ミルキさんともども、最後までよろしくお願いします。

 ……敗戦の将のようなことを言いたくはありませんが、この後のことを考え始めた方が賢明かもしれませんね」

 

 そのやりとりを眺めていたキルアが、考え込む様子で首を傾げる。

 

「どうした、キル?」

「どうかしましたか、キルアさん?」

「いや……

 どうせだったら、アイツがお人好しなことに付け込んだ方がいいんじゃないかなって」

「……たとえば?

 策があるなら是非お伺いしたいですが」

「そう言われても、単なる思いつきだしな。具体的には何も。

 アイツが聞いてそうな気もするし、敵の善意をアテにするのも考えモンだよ」

「……」

 

 

 

 

 

 1人で佇む桜のところへ、シームがやってきた。

 

「おりょ? どしたの、シーム。

 危ないから下がってた方がいいよ」

 

 シームは首を振り、

 

「ううん、平気だよ。

 ……桜が守ってくれるでしょ?」

「もー、そんなこと言ってぇ。

 アテにされたら困るけど、そう聞かれたら絶対大丈夫って答えちゃうじゃーん♥」

 

 桜はシームを両手で軽く抱いて、にゃんにゃんと嬉しそうにする。

 

「え、えっとね。

 その……聞きたいことがあって」

「それって今すぐ聞いておきたいこと?」

「うん……

 勝負が付いちゃったら、ボクなんかが何も言えない気がするし」

「あー。

 場の空気っていうか、流れがあるからねー。

 で、何が聞きたいの?

 っていうか、言っときたいことがある感じかにゃ?」

 

 シームが沈黙し、桜はシームを抱くのをやめて、静かに続きを待つ。

 

「どう聞いたらいいか分かんないけど……

 この後、どうする気なのかなって」

「この後って、勝負が付いた後のことだよね?」

「うん。

 たぶん桜が勝つとは思うんだけど……」

「順当に行けばねー。

 リィーナとビスケは数十年来の念の使い手だから、甘く見ちゃいけないとは思うけど」

「そうなの?

 あ、リィーナとビスケって……」

「あっちでまだ戦ってない女の子2人。

 ああ見えて、って言うと私もアレにゃんだけどねー」

「うん……」

「流石にネテロ達を相手にした時よりはマシだと思うから、心配いらないよ。

 シームが心配なのは、私が勝った後どうするつもりかってことだよね?」

「そうだけど……」

「一番いいか分からないけど、無難なのは私達の邪魔はしないって確約をもらって、予定通りゲーム攻略に戻ることかにゃ。

 まぁ向こうがどうするつもりか分からないけど」

「……」

「アイシャのことが心配って言ってたから、このまま私達と合流する気かもしれないね。あんまり嬉しくはないんだけど。帰ってくれたら一番気楽かにゃ。

 後で私と話したいことがあるみたいだし、勝ったとしてもすんなりとはいかないかも」

「あの人達、桜と話したいことがあるの?」

「何人かはそうみたいだね。

 私が色々つついちゃったから、個別に教えてほしいことがあるんじゃないかな。

 頼まれたら断りづらいかにゃー」

「……ゴンも、教えてほしいことがあるみたいだったよ」

「やっぱり?

 もちろんゴンには教えちゃうかにゃー。人気者はツライにゃー♪」

 

 お調子に乗る桜に、シームは怪訝そうな顔で、

 

「でもそれって……

 ウラヌスが、だよね? 桜じゃなくて」

「あっ、う。

 えー……

 そ、それを言われると、私もちょーっと苦しいかにゃー……」

「やっぱり……

 桜、そこまで考えてないんじゃないかなって。

 この後のこと、ウラヌス任せにしちゃっても大丈夫なの?」

「にゃにゃにゃ……

 あー、えと……

 アイシャにフォローお願いしないと、ちょーっとマズイかも。かもかも」

「もう……

 アイシャも何だか心配してたよ?」

「ごめんなさい……」

「桜があっちにも色々気を遣うのって、アイシャとあの人達が後で仲違いしないように、だよね?」

「……」

「あっちもこっちもって欲張りすぎたら、いくらなんでも倒れちゃうよ?

 あんまりムチャしないでね?」

「はーい……」

 

 

 

 

 

 結局よい考えもまとまらず、もっと情報を引き出さなければ始まらないということで、ミルキが1人で出てきた。

 

 桜から少し離れて立ち、

 

「次はオレが相手だ」

「んにゃ?

 いいの、1人で出てきちゃって? 残りの戦力じゃキツイかもしんないよ」

「……悩みはしたんだがな。

 オレはあの3人と連携しにくいから、情報収集に徹した方がまだ分はあると見た」

「にゃふふ。

 それは光栄だにゃー♪

 私もミルキのことが色々気になってたし、楽しみ楽しみ♪」

「……オレもだ。

 お前には色々聞きたいことがある」

 

 桜は不思議そうに小首を傾げ、

 

「にゃ? たとえば?」

「……

 お前、あの神字ハンターのウラヌス=チェリーなんだよな?」

「うんー。

 いちおーそだよー」

「……いちおうとか、歯切れの悪さが気になるが、まぁいい。

 どうもお前の戦い方を見ていても、オレの知ってるイメージと結びつかなくてな」

「それって、昔のイメージと違うってこと?」

「そうだ。

 オレはお前が編纂(へんさん)した神字の書籍を読んだことがある。

 正直に言うと、感服した。よくこれだけの遺跡を調べてあげて、未発見の神字まで予測図解できたもんだなって。

 アレを読んでから、オレが神字を刻む時の効率は数倍に跳ね上がった」

「おー。

 確かに念能力者が使いやすいようにまとめはしたけど、よく読めたね?

 協会本部に持ち出し厳禁で置いてあるから、念を使えるプロハンターなら誰でも読めるようにはしてあるんだけど」

「オレもライセンスは取ったが、読んだのはそれ以前だな。

 他のプロハンターの伝手(つ て )で、複製本を手に入れた。オレも神字は研究していたからな」

「にゃるほどねー。

 研究家ならアレで捗るかも」

「……で、本当にアレを書いたのはお前なのか?」

「んー?

 疑う理由がよく分かんにゃいけど、そだよ。

 ぶっちゃけ、アレが認められてシングルハンターになったようなモンだもん。

 特に遺跡からも見つかってない未発見の神字まで公表したのはメチャクチャ褒められたにゃー。まぁ逆に商売あがったりにもなったんだけど」

「あれだけノウハウをぶちまけたんだから、それは当然だろ。

 ……なるほど、お人好しなところはイメージ通りではあるか」

「ん?

 なんか変なこと納得してない?」

「こっちの話だ。

 そんなことより、オレが疑う理由はだ。

 ウラヌス=チェリーは、魔法のように神字を扱うと聞いていた。

 さっきまでの戦いぶりを見る限り、確かに魔法の如く様々な能力を使っちゃいる。

 だが、肝心の神字を使っている様子が見られない。

 オマエ、本当に神字を使ってるか?」

「使ってるよ。

 ……まぁどうやって、どのように、までは教えにゃいけど」

 

 そう返されて、ミルキは首を横に振って息を吐く。

 

「フー……

 それについては分かった。これ以上は聞かない。

 むしろ、敵対しているオレの質問に、よくここまで答えたもんだ。

 ……正直、認めたくはないんだが」

「ん?」

 

 ミルキは下げている右手を握りしめ、

 

「誰よりオレこそが、神字に関することでお前に協力を仰ぐべきだったのかもしれないな。

 アイシャの件がなかったら、きっとそうしてたよ。お前に興味を持ってるキルと一緒に、な。

 ……心底、お前を敵に回したことが悔やまれる」

「いやいや、そんなこと言わずにぃ。

 別に今からでもコッチ来ていいよー。

 今なら色々サービスしちゃうにゃーん♪」

 

 甘い声で勧誘しながら猫招きする桜に、ミルキは声に出して苦笑してみせ、

 

「魅力的な申し出だが、そういうわけにもな。

 ──オレにも譲れないものがある」

 

 構えるミルキに、桜は静かに微笑み、

 

「覚悟は受け取ったよ。

 ──その想いには、ちゃんと応えてあげたいな」

 

 

 

 2人は黙って、戦場に佇む。

 

 

 

 

 

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