どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百七十章

 

 全身から放たれる闇のオーラに紛れた黒炎──【邪王炎殺煉獄焦】を駆使して桜に全身全霊で挑むカストロ。しかし桜も巧みにカストロの両手以外を弾いたり、オーラの放出で押し返すなどして、攻撃を捌いていく。

 

「ひゃー、怖い怖い!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ほとんど逃げ回ってるだけにも思えるが、飛び散って舞う黒い火の粉は桜の衣服の端にすら触れず、逆にカストロの服や肌を少しずつ焼いている。より諸刃の剣と化した弱点を突かれ、カストロは黒炎を奮いながらも動揺を抑えられなかった。

 

 黒炎の猛攻を高速で掻い潜りながら桜は、

 

「リーチが足りないんだよ。触れさえしなければいいって相手にバレたらこうなっちゃう。

 せっかくの攻撃力をもっと活かすなら、小規模な炎の放射か、炎を中距離まで延伸する攻撃手段の用意をオススメするにゃ」

「……っ!」

「念を会得した後も、拳法の使い手たらんとするのは分かるんだけどね。

 でもヒソカは容赦しないと思うよ」

「まったく……!

 君のような子にこうまで教えられるとはッ!」

 

 勝機が見えないまま、それでも心ゆくまでカストロは力を振り絞って戦い抜き──

 

 5分も経過した頃、黒い火の粉の余韻を散らし、静かにカストロは倒れ伏した。

 

 結局最後までまともにカストロの一撃を喰らわなかった桜は、戦闘態勢を解いた。気を失いながらも、どこか満足気な表情でうつ伏せになったカストロの全身を一瞥した後、

 

「レオリオ、治療お願いしていい!?

 多分火傷してるから!」

「おう、今行くぜ!」

 

 桜に声をかけられ、倒れたカストロの元へ駆け寄るレオリオ。

 

「もうちょっと怪我人続出するかと思ってたんだが、ようやくオレの出番だぜ……

 こいつを外し、あちっ、ち……

 あー、確かにちと熱傷気味だな。もう片方も……やっぱりこっちもか。両手ともだな。

 他には……特にないか。放っといても治りそうな打撲や擦り傷、小さな赤みくらいだ。

 両手にⅠ度熱傷程度なら冷やすだけで大丈夫そうだが、気絶してるしな。やっぱオレが治すべきか。

 と、そうだ。オマエさんは?

 どっか、火傷とか怪我はしてねーのか」

「いやいや、レオリオ。

 私、いま敵対してるんだけど?

 まだ戦ってる相手の治療してどうすんの」

「つっても、オマエこそ仲間みたくオレを呼びつけたじゃねーか。

 どうせもう知ってるんだろうが、オレの能力ですぐ治療させる為だろ?」

「カストロのね。

 気絶したからリタイアだもん。カストロはもう敵じゃないよ」

「……まぁ分かったよ。

 でも気が変わったら声かけろよな。

 向こうの連中も、意地張ってオレの治療断るやつばっかで正直ヒマなんだよ」

「ふふ。

 決着ついたらお願いするかも」

 

 レオリオは、いちおう目に付きにくい場所へカストロを抱えて移動し、治療を開始する。

 

 【掌仙術/ホイミ】でカストロの両手を癒しながら、

 

「マジで無傷だったな、あの子……

 あの状態のカストロを相手にしてそんなの有り得ねーだろ、アイシャ以外に……」

 

 

 

 

 

 ふぅーと気乗りしない心情を隠そうともせずビスケは嘆息し、浮かない顔のリィーナに目を向ける。

 

「残るは私達だけになってしまいましたね……」

「次はあたしの番、でいいんだわね?」

「……よろしくお願い致します」

「あたし、さっきの勝負見てて、ますます自信なくなったんだけど。

 なんか良さげなアドバイスってある? 作戦とか弱点とか」

 

 あまり期待してなさそうな表情で尋ねるビスケに、しばらく考え込んだリィーナは、

 

「……。

 申し訳ありません。何も思いつかないわけではありませんが、やはりニワカ仕込みの策では逆効果になる恐れがありますので……

 武運を祈ります」

「そーよねー。

 アレじゃ、助言なんてしようがないわよね。

 あー、やだやだ。どっか逃げたい」

 

 諦観をにじませながら、ビスケは桜の元へ足取り鈍く向かう。

 

 

 

 

 

「次はビスケ?

 リィーナと一緒に来なくてよかったの?」

 

 ぬけぬけと言う桜に、ビスケは「はっ」と吐き捨て、

 

「そのつもりなら、カストロが健在のうちに3人でやってたわよ。

 おかげさまで各個撃破されて、全滅間近。

 まんまとアンタのペースに乗せられたわさ」

「そうは言っても、私が戦力を小出しにしてほしいって頼んだわけじゃにゃいしー」

「白々しい。相変わらず小憎たらしいガキんちょね……」

「ビスケにガキとか言われたくないでーす」

「……

 にしてもアンタ、本当に強くなったわね。

 あの全力のカストロが相手じゃ、あたしも自信ないわ」

「力尽きるまで粘るくらいなら出来たんじゃない?」

「それもアリでしょうけど……

 真剣勝負なら、殺すつもりでやってたでしょうね。

 アンタみたいに正面から受けて立つなんて恐ろしい真似、絶対やりたくない」

 

 ニコニコと笑顔で流す桜。それを少々気味悪く感じつつ、

 

「さて……

 ここまで若い連中の奮闘を見せつけられたら、みっともないところは見せられないわね。

 あたしなりに全力で挑ませてもらう」

「全力で、だよね?」

「…………」

「何を確認してるかは分かるでしょ?

 そのままで戦うつもり?」

 

 ビスケは日常の少女然とした姿のままだった。ゴ、もとい、あの姿にはなっていない。

 

「どうしてもそのままで戦いたいなら無理強いはしないけど、面白い結果にはならないと思うよ?」

「あたしにとっては、どっちにしても面白くないでしょうけど……

 命懸けって言うならともかく、この戦いでそこまですべきか悩んでるんだわさ」

 

 桜は不思議そうに小首を傾げ、

 

「そんなにイヤ? あの姿」

「……アンタも知ってるでしょ。

 あたしがどうして見せたくないのかも」

「ビスケが気にするほど悪くないと思うけどにゃー」

「アレを見た感想が悪くないって……皮肉がすぎるわよ。

 アンタに乙女心を理解しろっていうのが無理なのかしらね……」

「いやいや、そーじゃなくてー。

 美的感覚は人によるし、ビスケも全く望んでない姿なわけじゃないでしょ?

 そりゃ普段は隠しておきたいっていうのは、まぁね。けっこう目立つだろうし」

「……」

「人の反応が引っかかるのは分かるけど、それは隠そう隠そうとするからで、見慣れたらイチイチ周りも過剰反応なんてしないよ。

 私はビスケのあの姿、好きになってくれる人がいると思うけどにゃー」

「……こら。

 なんであたしの恋愛相談してるみたいになってるんだわさ」

「あれ?

 何の話だったっけ?」

 

 ビスケは肩でズッこける。話題が逸れすぎてホントに分からなくなったらしい。

 

「えーと……あっ。

 ねぇねぇ! リィーナはどう思う!?

 ビスケって、素顔の方が美人でモテると思わない!?」

 

 桜に突然ムチャぶりされて、顔を引きつらせるリィーナ。

 

 気になるのか、じっとビスケもそちらを見ていると、リィーナは顔を逸らしこそしないものの、目線はあさっての方へ向けた。

 

「……あれ?」

「あれじゃないわさ、大声で余計なこと聞くんじゃない!」

「でもビスケも止めなかったじゃん!」

「いきなりそんなこと聞くなんて思いもしないわよ!

 ああもう、恥ずかしいッ!」

 

 ビスケの元の姿を知らない者はもちろん、知る者ですら何故そんな話をしてるのか困惑していた。昔馴染みの談笑とも取れるが、少なくとも戦う前にする話題ではない。

 

 そんなグダグダな空気を振り払うように、

 

「あーっ、放っておいたら何言い出すか分かりゃしない!

 やりゃいいんでしょ、やりゃあ!

 覚えてなさいよ、まったく!」

「にゃーん♪ やった、やった!

 ハイハイハイハイ♪ ビスケの、ちょっといいトコ──」

「煽るんじゃないッ!!」

 

 一喝した後、ビスケは怒り混じりに、全身を封じていた力を解除した。

 

 抑え込まれていた肉体が膨張し、成長などという言葉では収まらないほど激変していくビスケ。初見のゲンスルー達は、その異様な光景にぎょっとしていた。

 

 そして──

 

 並みの大男を上回る、高身長で筋骨隆々の大女が現れた。顔つきまで精悍(せいかん)になっている。

 

「おぉー。いつ見てもすごーい」

 

 パチパチパチと拍手する桜。当然周りはシンとしている。シームとゴンは、「うわー」とか「やっぱスゲーよね……」と感嘆の声をあげていたが。

 

 ゴリマッチョになったビスケは、称賛を送る桜を睨みつけながらビキビキ青筋を浮かべ、

 

「あんたねぇ……

 おちょくるのもいい加減にしなさいよ……?」

「バカになんかしてないよ。ホントにすごいと思ったんだもん。

 ていうかさー、やっぱり結構美人じゃない?

 ちゃんと見てくれる人、探せばいると思うけどにゃー」

「…………」

 

 じっと見つめる桜、精悍な顔に戸惑いを浮かべるビスケ。そこまで言われると、流石に面映(おもは )ゆいらしい。

 

「子供服じゃアレだけど、ちゃんと今のスタイルにあった服装に着替えれば、絶対──」

「掘り下げるな! もうその話は終わり!」

「ええー」

「えーじゃない! しつこい!」

 

 パァンッ! と拳で手を打ち鳴らすビスケ。

 

「さぁて……

 こうやって元の姿に戻った以上、あんたにはキチンと責任を取ってもらうからね?」

 

 ゴキゴキと指を鳴らすビスケ。それに対して桜はなぜか妙に怯え、

 

「せ、責任?

 えっと……戦えって意味だよね?」

「……。

 それ以外の意味なんてないわさ」

 

 やや闘志が薄れるビスケ。どうも桜が相手だと調子が狂う。

 

 

 

 

 

 桜とビスケが離れ、ある程度の距離を取った上で改めて向かい合う。

 

 ビスケの堂に入った構えに、アイシャは懐かしげに目を細めながら、

 

「ずいぶん久しぶりに見ましたね……」

 

 そのつぶやきに、シームは疑問を持つ。

 

「ひさしぶりって、あの人がああやって変身するのを見たのが?

 すごいよね、あれって。あれも念能力なんだよね?」

「あ、いえ。

 変身……まぁ変身と言っても差し支えありませんが。念能力なのは間違いないです。

 確かに彼女があの姿になること自体、そこまで頻繁なことではありませんけどね。

 でも私が久しぶりと言ったのは、彼女があの姿のまま心源流拳法の構えを取ったことが、です」

 

 ビスケが普段の子供然とした姿の時であれば、武術の構えを取ることは珍しくなかった。オーラはともかく、肉体の重量が軽すぎる為、技術を用いなければ攻撃力が低いからだ。絡め手を使うことも珍しくない。

 

 だが本来の姿に戻って全力を奮う際は、ただ四肢を振り回すだけで充分な破壊力がある。練り上げたオーラを込めて、ただ相手に叩きつけるだけで通常なら勝ってしまう。肉体を鍛えた練度だけならアイシャをも凌駕している。

 

 本来の肉体で心源流拳法の構えを取るということは、ビスケが紛うことなき全力で戦うことを意味していた。そんな相手は世界でも数えるほどしかいないだろう。

 

「勝てるよね?」

 

 シームの問いにアイシャは少し沈黙した後、

 

「どちらが勝つかと言えば、おそらく桜でしょう。

 しかし彼女──ビスケも、心源流拳法の使い手としては、あのネテロにも次ぐ実力者。

 桜が相手といえど、ただむざむざ敗れるとも思えません」

 

 言葉を発さず、戦場の2人を真剣に見据えるゴンを一瞥し、アイシャも2人の戦いへと意識を集中した。

 

 

 

 

 

 何の構えも取っていないが、桜に隙は無い──そんなものは期待すらしないビスケは、

 

(は )ッッ!!」

 

 桜へ指向性を持たせた声をぶつけ、ドンッ!! と大地を踏みつけた。

 

 縦横二重の振動を受けた桜は、ふわりとしゃがみ込んでそれらを流した。

 

 一気に踏み込み、低い姿勢の桜の真上から握り拳を振り下ろすビスケ。

 

 すっとビスケの懐へ入り、剛拳を掻い潜る桜。密着する両者。

 

 ドゥッ!!

 

 衝撃音とともにビスケの肉体が大きく後ろへ退いた。桜が『(こう)』を放ち、それを察したビスケが合わせて後ろへ跳んで、威力を殺しながら体勢を維持したのだ。

 

 可愛らしい拳に「ふぅー」と息を吹きかけながら、ビスケへ歩み近づく桜。

 

 正面ではなく微妙にズレて向かいくる桜に対し、その意図を理解したビスケは、獰猛な笑みを浮かべて、右腕に力を溜めた。

 

 間合いに入った桜。微笑んで立ち止まり、小さな右腕を引いて、

 

「1、2の──」

 

『3ッ!!』

 

 両者の右拳が激突する。

 

 ──ゴッッッッ!!

 

 超重量物同士が衝突したかのような大音量。

 

 一瞬後、ビスケの身体が軽く浮き上がった。同時に桜の足元も沈み込んでいる。

 

 すぐ着地するビスケ。震える自身の右腕を一瞥し、桜を見やる。

 

 桜の右手は何の余韻も残していなかった。軽く跳んで、地が削れていない場所に立ち、

 

「ちょっと日和(ひ よ )ったね。今のは『硬』じゃなかった」

 

 指摘する桜の声音に、ビスケは呼吸を整えながら、

 

「あたしがビビったって言いたいの?」

「そっちの意味がないとは言わにゃいけど、様子見したんだなって意味。

 私が拳の撃ち合いを本気でするって、信じ切れなかったんでしょ?」

「……あたしは『硬』のつもりだったわさ」

「ウソ。正確には右腕に『凝』92%。

 残り8%は他の部位を攻撃された時に備えてた」

「……あんたの話術には付き合えないね」

「えー」

 

 不満げな桜を放っておき、ビスケは改めて構え直す。実際、桜のペースに飲まれていた自身を戒めるビスケ。

 

「そういうあんたこそ、どうなってるの?

 その小さな身体にどう力を込めたって、今のあたしと撃ち合えるとは到底思えない」

「……」

「あたしだからこそ分かることよ。

 どんなに頑張ったって、質量が足りなければ威力は著しく落ちる。

 オーラはあくまで掛け算。元が低ければ大した攻撃力にはならない。

 けれど、さっきの手応えは──まともじゃなかった」

「……技術とか?」

「それもあたしに通じる言い訳じゃない。いくらなんでも限度がある」

「んー、まぁ……」

 

 困ったような顔の桜。いま撃ち込めば桜は防げないかもしれないが、ビスケの警戒心は、今の桜から少しでも情報を引き出すことを優先した。

 

「あんまり説明はしたくないかにゃー……

 そういう能力ってことにしといて?」

「……念だから、有り得ないとは言わないけど。

 あんたらしくない、逃げ腰な回答ね」

「にゃー」

 

 桜の言葉は失望するに足る答えだったが、ビスケはそれ以上の追及を諦めた。自分自身どうやって今の肉体を得たか、十全に理解していない。誰かに問われて、念は奥が深いと誤魔化したのは一度や二度ではない。まして今は敵同士だ。

 

 

 

 

 

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