どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

296 / 300
第二百八十一章

 

 ────厄災の力をその身に宿す桜の言葉を真実と認め、静かに息を吐くアイシャ。

 

「昨日の特訓の際に、薄々気づいてはいましたが……

 比較の対象すら存在しない、想像を絶するオーラ量ですね」

「単純計算でアイシャの6.5倍だもんねー」

「……。

 あなたが先ほどまでの戦いの消耗を気にもかけないのは、その膨大なオーラ量が尽きるはずがないという自信があるからですね。

 ……それにしては、少し顔色が悪いようにも見受けますが」

「あー、連日ムチャしてるからかなぁ。

 ま、オーラ量は大丈夫だよ。今のアイシャが削り合いに持ち込んでも、100%押し切れるくらいの差はまだあるから。問題ないない♪」

「……そうでしょうね」

 

 無論、大問題である。【魔王の契約】の防護を突破する手立てが見つからない限りは、桜の膨大すぎるオーラ量が底を突くまで、無傷の桜を相手にひたすら削り続けるしかない。未知の苦痛を与えたネテロのように都合のいい技を、当然アイシャは持ち得ない。

 

 これで技量に差があるなら、まだ勝機はあると言えたが……。アイシャと桜の技量差がオーラ量の差ほど開いているとは思えず、このままでは先にアイシャが力尽きるのは必然だろう。

 

 極めて威力の高い攻撃を放ち続けるしかない──今のアイシャに採れる選択はそれだけだった。

 

「桜、先に周囲へ警告させてください。

 ──ここからは戦いの規模が大きくなりますッ!

 気をつけるつもりですが、巻き込まれたくなければもっと離れてください!」

「みんな、アイシャの言う通りにしてッ!

 今の位置から100歩は下がって!」

 

 ざわついた後、急ぎ戦場から離れていく仲間達。

 

 遠くからシームの泣き声が届き、桜とアイシャは表情を曇らせる。

 

「後でシームに謝らないとね……」

「……」

 

 流石にここからは余興と言えない戦闘になるだろう。いくら心配ないと言ったところで、信じられるわけがない。既にここまでの戦いでもシームは泣きかけていたのだから。

 

「せめて、少しでも早く終わらせましょう……」

「ん……」

 

 相手の動きを待つ消極的な思考は捨て、隙がなければ作る戦術へと切り替える両者。

 

 ──息を潜め、一拍の間を置き、

 

 ガッ!!

 

 桜の指先が光を描き出し、瞬時に詰めたアイシャがその指を掴んで阻止する。が、残る左手の指で神字を描き直す桜。能力自体の発動を妨害する為、桜へオーラを籠めた掌底を叩き込むアイシャ。

 

 直撃して吹っ飛ばされる桜が、宙に浮いたまま言葉を発した。

 

「──【一抱えの火薬樽/リトルフラワーズ】──」

 

 桜の周囲に大小多数の光球が生まれ、追撃しようとしたアイシャへ殺到する。

 

 おそらく防げはするがオーラの損耗を避けたいアイシャは、追撃をやめて全力で光球の群れを回避。その間に桜は着地し、態勢を立て直す。

 

 飛んでいった光球の1つが地面に着弾し、爆発。その爆発に触れた光球が次々誘爆し、大爆発を引き起こした。

 

 激しい爆音と爆風に揺るがされ僅かな隙を作ったアイシャに、桜が正面から迫り、跳躍。

 

 ──【巨人の籠手/ギガースグローブ】──

 

 具現化した巨大な手の平で、アイシャのいた地面を叩く桜。かろうじて逃れはしたが、叩き砕かれた大地が沈み込み、アイシャは態勢を崩す。

 

 沈んだ手を消し、再具現化した巨大な手刀で水平にアイシャを薙ぎ払う桜。合気で返す余地もなく、剛柔織り交ぜた複合防御でダメージを軽減する。

 

 すぐさま態勢を立て直すアイシャ。ゆっくりと歩いてくる桜。

 

 桜が両手の指を動かす──疾駆したアイシャがその指を両手で掴み、(ね )じろうと──

 

「──【石牙塔剣/オベリスク】──」

 

 突如桜の足元から、アイシャに向かって尖った石柱が生えてくる。掴んだ桜の指を放し、尖端が身体へ届く前に石柱を膝で蹴り砕くアイシャ。

 

 砕けた石柱の破片を後方へ高速歩行しながら逃れつつ、桜は神字を描き、

 

(や )(つぶ)せ 閃火(せんか )一刺(ひとさし)――」

 

 遅れて追いすがるアイシャへ指先を向け、

 

「──【雷弾針/ライトニングボルト】──」

 

 避けたところで、指で差す方を少し変えて当ててくる──回避不能と悟ったアイシャは、オーラで全力防御する。飛来した雷閃は、重厚なオーラで減衰しながらも貫通──苦鳴をあげ、痺れて動きを止めるアイシャ。

 

 そこへ桜が追撃のオーラ砲。直撃寸前で痺れを振り払い、横殴りに弾くアイシャ。

 

 2人が動きを止める中──遠くで炸裂したオーラ砲が衝撃を撒き散らす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「…………」

 

 流石に息を切らすアイシャ。多数の能力者を同時に相手した経験はいくらでもある──幻影旅団やキメラアント、修行での組手、ここの怪物もだ。

 それらの戦いでもほぼ汗一つかかずに済ませられるアイシャだが、この戦闘では流石にそうもいかなかった。飛び交う能力の多様さに加え、応酬する威力と速度が桁違いすぎる。とても余力は残せない。

 

「気づいた?」

 

 しばらく動かないままだったが、何かを尋ねる桜。アイシャは呼気を整えながら、

 

「……あなたが神字を書けることをですか? ──おそらく足の指先でも」

 

 ひゅうー♪ と口笛を吹く桜。

 

「当ったりー。

 まぁ何度か手の指を動かさずに、普段使わない能力を使ったりしてたからね。バレてるかなとは思ったけど。

 私は足の自由さえ利けば、地面の中とか靴の中にも神字は描ける。まぁ光は隠せるけど、神字が放つオーラまでは完全には隠せないかな。発動の予兆はかろうじて分かると思う」

「つまり、あなたの能力行使を妨げようと思えば、全ての指の動きを同時に止めなければならない──

 現実的ではありませんね」

「そんなことする暇あったら、攻撃した方が早いもんねー。

 だからあんまり意味ないよって話」

「…………」

 

 そもそも【巨人の籠手】やオーラ砲のように、神字を用いずとも充分破壊力も有効性も高い攻撃を桜は繰り出せる。加えて妨害する機を見透かされているようでは話にならない。

 さりとて自由になどさせれば、距離を取りながら凶悪な能力を延々と発動されかねない。待ち構えるのも論外だ。合気で捌けない能力を使われて終わりだろう。オーラ砲や念弾で撃ち合ったところで、先にオーラが尽きるのも目に見えている。

 

 とにかく矢継ぎ早に攻めて、桜の選択肢を狭める。今はそれぐらいしかアイシャも思いつかなかった。

 

 

 

 流れが変わり、桜は神字による能力を無闇に行使しなくなった。至近距離で能力行使に意識を割けば、アイシャの攻撃を喰らいまくると充分思い知ったからだ。

 2人とも打撃偏重へ移行しているが、待ち構える選択をアイシャができない為、合気を行使する猶予もほとんどない。距離を空ければ、即座に高火力の能力が降り注ぐだろう。

 

 不確定要素が増え、アイシャの先読みも有効性を下げていた。桜に念能力を出し惜しみされれば、当然『観』の深度も落ちる。だが情報を得る為に好き勝手を赦せば、たちまち押し込まれるのは必定。(ひつじょう )

 

 アイシャがギリギリの綱渡りを強いられる一方で、桜もまた悩まされていた。

 

 ──……あんまり有効な能力がないんだけど、どうしようかな……──

 

 桜の【魔王の契約】がアイシャの攻め手を減らしているのと同様、【ボス属性】も桜の攻撃手段を著しく狭めていた。

 

 この場にいる者達でも、アイシャに能力が通じないケースは多い。有効性の高い能力は特殊な効果で相手に干渉することがほとんどだからだ。治療や移動も妨げるほど徹底的な防護──大抵の特殊効果は完封できて当然だろう。

 

 言わずもがな、桜の持つ能力にも特異性を持った効果で相手に直接干渉するものは多い。

 

 ──そりゃ一方的に先読みされるのはキツイわな──

 

 聞こえてきた例の声に歯噛みしそうになる桜。アイシャが長年の戦歴で培った先読みを持つように、桜も【未来視/ラプラス】という先見能力を持つ。数多持つ念能力の中でも秘奥と呼んで差し支えないほど神懸かり的な能力で、本来ならそれで充分渡り合えたはずなのだが……

 

 それすら【ボス属性】はシャットアウトしまう。アイシャ自身に直接働くタイプの能力なので、どれだけ強大な能力であっても無為と化す。よって、桜は一方的に先読みされるしかない。【ボス属性】でも防がれず思考を読み取る【記憶漏洩/メモリーリーク】すら、バレていては慰め程度のものだ。

 

 アイシャの予想通り、距離さえ取れれば桜が行使する能力の選択肢は増える。が、至近距離かつ高速戦闘でも有用な能力など如何に桜と言えど数が絞られる。そもそも熟達した能力自体それほど多くはない──あくまで桜のセンス頼みなところが大きく、どうしても使い慣れない能力だと発動速度や精度に支障を(きた)す。

 

 そして戦術の幅が狭まれば、遠からずアイシャの先読みが息を吹き返す──。まだまだオーラ量で桜が圧倒しているとは言え、アイシャとの戦闘開始前の時点で桜のオーラ量は既に残り1000万を切っているのだ。桜も徐々にだが追い詰められつつあった。

 

 ──厳しいようなら代わろうか?──

 

 ──代わるわけないじゃん。アンタが誰かも分かんないのに……──

 

 当然の如く拒絶する桜。信用するしないもそうだが、代わったところで十全に戦えるか分からず、この激戦でアイシャにうっかり致命傷を与えないよう桜も必死なのに、代理を申し出た相手が同じように配慮してくれるかどうか。そもそも桜は自分で戦いたいのだ。

 

 両者ともあれこれ思索を巡らせながらも、戦闘は継続している。神字補助を要する能力こそ多用していない桜だが、それ以外の能力や念の応用は徒手空拳に織り交ぜて使用している。

 

 桜が天を衝くように伸ばした手刀を振り下ろしながら、【巨人の籠手】を具現化する。アイシャも研ぎ澄ませた薄刃のオーラ刀で迎撃するが、接触した瞬間に巨大な手刀が消え、次の瞬間には更に巨大な掌底がアイシャを突き飛ばす。

 衝撃を軽減しながら念弾を撃ち返すアイシャ。即座に大きな掌が消え失せ、桜は体捌き1つで念弾を回避する。

 

 冴えない戦果に、口の端から細く息を洩らすアイシャ。静かに佇む桜。

 

 桜はサイズを都度変化させて具現化した籠手を駆使し、アイシャへ少しずつダメージを蓄積させていた。これが単に重く固いだけの代物であればアイシャも容易く捌いただろう。が、膨大なオーラ量を籠めて具現化した巨大な手腕は生半可な強度ではなく、アイシャが合気で(い )なそうとしても桜は消去と再具現化で切り抜ける。

 

 大量のオーラを籠めた【巨人の籠手】の連続具現化は当然オーラの激しい損耗を招く。だが攻防が発生する刹那に具現化と消去を切り替える戦術は、異常な重心変動も相まって、アイシャの技巧をもってしても無傷では対処できなかった。

 

 小さな傷とは言え、数が重なれば十全な合気の精度を保つのにいずれ支障が出かねない。そうなれば、オーラの枯渇を待たずアイシャの敗色は濃くなるだろう。

 

 しかし。

 

 ──徐々に効かなくなってきたな──

 

 ──それくらい分かってるよ……──

 

 有効な戦術も、(こす)り続ければいずれ攻略される。アイシャを精神的に追い詰めたせいで、(かえ)って先読みの高精度化を速めていた。(よ )ダメージの減衰が桜の想定より遥かに早い。

 

 ──単調さが問題なんだろうが、サイズや形状をもっと可変できないのか?──

 

 ──……無理なんだもん──

 

 籠手はサイズを10段階変えられるが、逆に言えば決まった10サイズしか具現化できない。これが神字で補助を要する能力なら調整も可能だったりするが、【巨人の籠手】は通常の念能力同様、能力内容を定めて修得しているので融通を利かせることなどできない。それ以前に、戦闘の最中に能力の変更や獲得を試みるなど、無謀すぎるにも程がある。

 

 そうして桜が考え事に意識を向けていると、アイシャはその隙に仕掛けてこず、怪訝な顔をした。

 

「……言いたくはありませんが、意識が散漫なようですね。

 攻撃の手を緩めれば、私は負傷の回復にオーラを割く余裕ができます。

 勝負を急かすつもりはありませんが、その不利を差し置いてでも気にするようなことがあるんですか?」

「ううん、ごめん。集中できてなかったのは謝る。

 どうやって勝とうか、ちょっと考え込んでた」

「……」

 

 どことなく誤魔化されたのを感じ取り、アイシャは嘆息する。

 

「先ほどまでのリィーナ達との戦いでも言えることですが……

 あなたほどの力があれば、手段を(えら)ばなければいくらでも勝つことはできるでしょう。

 私を必要以上に傷つけないよう配慮したいのは分かりますが──」

「勝てばいい、なんてことはないよ。

 戦争してるわけじゃないんだから、仮に人質を取ったり大勢でボコって勝ったとしても、自分が強いことの証明にはならないでしょ?」

「……」

「アイシャだって、仲間と組手する時に勝てばいいなんて考え方はしないと思うけど。

 鍛練が目的で組手をするんだから、相手を必要以上に痛めつけず、それでもなお自分が勝つことを目指すでしょ?」

「それはその通りですが……」

「私だって同じだよ。

 アイシャと私のどちらが強いか。力と技と知恵の比べ合い、比武(ひ ぶ )こそが求めるところのハズ。……だと思ってたんだけど、アイシャは違うの?」

「……いえ、違いません。

 あなたが私との手合わせを、組手ではなく負けて失うものがあるこの状況を選んだのは、武人として全力を奮う私との真剣勝負を望んだからでしょう」

「そうだね。負けてもいい、っていうんじゃどうしても手を緩めちゃうから。

 私はアイシャより強いと思ってるけど、実際戦ったらどっちが勝つかなんて結局やってみなきゃ分からない。

 どちらがより戦いにおいて優れているか──それを知りたいから勝負してるの。

 相手を傷つけたくないせいで私が負けるんだとしたら、それは私が弱いってことだよ。アイシャはそんなこと気にせず、本気で戦ってくれればいい。

 私に勝ちたいんでしょ?」

「ええ、勝ちたいです。

 武人としての鍛練、研鑽を重ねた風間流があなたに劣るなどとは思っていません。

 ですからあなたも──」

「ん、アイシャの言いたいことも分かってる。

 勝つ為に全力を出すと、オーラの消費がとんでもないことになるから躊躇してたの。

 けど……そうも言ってられないかな」

 

 桜の意識が指先へ集中していると見抜くアイシャ。ここからは神字による未知の能力が襲ってくる──その認識が危機感を最高水準にまで引き上げる。

 

 これからが桜の真骨頂──そう意識したアイシャはあることに気が付いた。

 

「そういえば、あなたにしては珍しく教えてくれませんでしたが……

 その能力に名前は付けていますか?」

「ああ、神字を描く能力自体の?

 名前は付いてるけど……

 ウラヌスは恥ずかしがって、教えたくなかったみたいだね」

「恥ずかしい……ですか」

「アイシャならその気持ちは分かるかもね。

 ま、せっかくだから教えちゃおっかな」

 

 桜はいたずらっぽく微笑み、

 

 

 

 

 

「────【神々の言語/ディヴァインスペル】────」

 

 

 

 

 

 一瞬後、両の手で恐ろしく長大な神字の群れを宙空へと(つづ)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。