どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 桜戦の執筆BGM:スターオーシャン セカンドストーリー『Mighty blow』







第二百八十三章

 

 初手で鋭いオーラの切っ先を放ったアイシャに、同じくオーラ刀で受け逸らす桜。

 

 音速を超えて斬り結び、オーラの粒子が激しく火花のように散る。

 

 十数合の後、オーラの刃を消したアイシャが桜の衣服の袖に薬指を掛け、一瞬下へ引く。反応が遅れた桜の手首を捩り、肘を極める。関節が破壊できずとも極めることまで防げるわけではない──数少ない【魔王の契約】の突破口から、螺旋状に桜を宙へ投げ、自身も跳躍するアイシャ。

 

 浮かぶ桜を上方からオーラ放出と(こう)で押さえ、再度関節を極めたところで、

 

 ──ぬぅっ!?──

 

 身体の自由が効かなくなるアイシャ。オーラの気流に囚われ、ほぼ身動きが取れない。桜が能力を発動したと悟り、『廻』で全身を覆って抵抗する。

 オーラが干渉しあって辺りが乱気流で荒れ狂う──アイシャは逆さまになった桜の顎にかろうじて掌底を叩き込むが、激突寸前に桜は自由な腕一本を地に叩きつけ、爆砕する。

 

 結果、アイシャの『竜巻落とし』が不完全な形で決まり、桜を地へ沈み込ませる。更に桜の『飯綱落とし』も、態勢を整えきれないアイシャを地中へ引きずり込んだ。

 

 桜の爆砕した大地がクッションになり、互いに沈んだ地中で身体を回転させ、

 

 ドオォォォンッッ!!

 

 砕けた土岩をオーラで吹き飛ばし、生まれたクレーターの底で殴打戦を始める2人。

 

「アハハハッ! 能力使うヒマ、全然ないんだけどッ!?」

「使えるものなら使ってみろッ!! 待ってやる義理はないッ!!」

 

 アイシャが勝つつもりなら、桜に能力を使う隙を与えないのが一番だ。『竜巻落とし』すら僅かな隙を突かれて能力を発動されたのだ。休まず攻め立てるのは当然の選択だろう。

 

 桜の膝蹴りを脛で受け、柔を仕掛けるアイシャ。ずるりと足を滑らせた桜の胸に両掌を重ね、

 

 ──浸透双掌──

 

 増幅したオーラ震を受けた桜は、ろくに防げないまでも体内オーラで相殺する。が、

 

 ──浸透双掌──

 

「ちょっ……!?」

 

 ──浸透双掌──

 

 体勢を立て直せない桜に、二度三度と続けて破壊技を放つアイシャ。【魔王の契約】の効果で肉体は無傷とはいえ、このまま喰らい続けるのは危険と感じたか必死の形相で光る指先を躍らせる桜。

 神字を描く指を妨げられたらその隙に逃れる算段だった桜は、アイシャの両手が頭部を左右から挟み込んできたことに目を見開く。アイシャが浮かべた薄い笑みに怯え──

 

 ──浸透掌──

 

 頭部に激しいオーラの振動を叩き込まれ、脳は無事でも思考を遮られる桜。

 

 知らず伸ばした桜の手が、アイシャの胸倉を掴み、

 

「──【魔導砲/マインドブラスト】──」

 

 ゴアアアアァァァァッッ!!

 

 白光──オーラ砲の大きな帯がアイシャの身体を飲み込む。防御の遅れたアイシャは、クレーター外へと激しく吹き飛ばされた。

 

 ──大丈夫か?──

 

 ──邪魔を……するなッ!!──

 

 激昂する桜。身動きの取れない危地を救われたことは分かっているが、それでも横槍を入れられて面白いはずがなかった。そんなことより桜はアイシャの負傷が気懸かりだった。

 

 ──上半身の衣服がなかば破けながらも、大きな負傷はしていない様子のアイシャが、ゆっくりと歩き戻ってくる。

 

 安堵とともに、安否確認の言葉を呑み込む桜。心配されることなどアイシャは望まないだろうし、そもそもアイシャからすれば桜のやったこと──心配する方がおかしい。

 

 ──お前が想像しているほど相手は弱くない──

 

 ──うっさいわ、ボケ。にしたって威力デカすぎだろうが、程度考えろよ──

 

 頭へ響く声に、キレ気味に毒づく桜。

 そもそも知識にはあったが、この戦いで一切使う気はなかった能力である。破壊力だけならネテロの【零の掌】にも近く、もしアイシャがまともに喰らっていたら、下手すれば死んでいたかもしれない。

 

 当のアイシャは、実のところ見た目にさほど傷ついていないだけで、激しく痛んでいた。先読みをしくじったからこそ衣服が破けたのだ。オーラでかろうじて防御して軽減したに過ぎない。加えて潜在オーラも激減している。

 先読みしきれないこともある以上、視界を閉ざし『絶』で感覚を先鋭化して戦うこともできない。一度読みを外せば、それがそのまま致命傷に繋がる。そもそも合気のみに頼る戦術が桜に通じるとも思えない──かつての王より桜は合気の真髄に近いところにいる。たとえ完璧な理合であっても、対抗手を持ち、読まれている相手には無力だ。

 

 互いに呼吸を整え終えた後、両者が念弾を放ち合い、それらが衝突──激しい衝撃波も収まらぬうちに、正面から接触するアイシャと桜。

 速度重視で殴打戦を再開する2人。厳密には桜がアイシャの速さに合わせているのだが、手を抜いているわけではない。桜とメルエムが戦った時とは求められる精度がまるで違う。合気も警戒している為、これ以上速くしたくてもできないのだ。

 

 隙あれば神字を、隙あらば合気をと窺う両者だが、お互いにその隙を見出せない。

 

 ──【魔女の遊歩道/ムーンウォーク】──

 

 思い切って、超高速の後ろ歩きでアイシャから距離を取る桜。アイシャが追走した瞬間、前方へ桜は反転──キルアばりの『肢曲』で多重残像を生み出す。

 真贋の見定めは据え置き、ひとまず手近な残像に攻防一体の柔を放つアイシャ。なんとその残像が避けた──どころか、全ての残像が高速移動し始める。

 

 それらの残像が複雑怪奇な軌道で、指先から放つ光による象形を描く──

 

 ──全て実体、高速で移動しているだけかっ!──

 

 目晦ましではなく残像自体が見せかけとアイシャは見破るが、もう桜の神字は完成した。

 

 最大戦速で桜が接近、飛びついてアイシャの額に自身の額を叩きつける。

 

「ぐぁっ……!」

 

 仰け反るアイシャの首に両腕を回し、唇を重ねる桜──……

 

 

 

 ────【天空の王妃/イセリアクイーン】────

 

 

 

 どくんッ!! と震えるアイシャ。凄まじい脱力感に見舞われて、跳び退いた桜の反動を受け、片膝を突く。

 

「な……にを……?」

 

 身体を震わせるアイシャに、桜は湿った唇を擦りながら艶やかに笑み、

 

「とっておきの回復能力だよ……今までアイシャが受けてきた負傷を治療できるくらいの。

 でもアイシャには、【ボス属性】があるから効かない……

 もし強力な回復能力を打ち消したりしたら、どうなる?」

 

 ……弱みを……突かれた……!!

 

 アイシャの【ボス属性】は相手のオーラ量を上回るからこそ優位性を発揮する──もし総量で上回る敵に力押しで来られたら、むしろ弱点にしかならない。

 

 【ボス属性】の効果でオーラが激減し、反動で全身の震えが治まらないアイシャ。

 

「どう? もう降参する?」

 

 アイシャに残るオーラ量を見抜いているだろう桜が、問いかける。

 

「……みずから、負けを認める気は……ないっ!!」

 

 アイシャは言葉で反駁(はんばく)こそするが、身体は言うことを聞かなかった──数瞬でこれほど大量のオーラを失ったことがない為、激しく衰弱している。

 

 歩み寄ってくる桜。目を閉じ、歯を食い縛り、身体よ動けと念じるアイシャ。

 

 

 

 ──とさっ。と音がした。

 

 

 

 不思議に思い、アイシャは目を開く。

 

 

 

 なぜか前のめりになって、桜が倒れていた。

 

 

 

「…………ぇ…………?」

 

 心底理解できないような、弱々しい声を洩らす桜。

 

「……な……んで……?」

 

 力が入らず、起き上がれない桜。激しく瞬きしながら状況を分析し、

 

「……っ!」

 

 

 

 ────MPが……切れたッッ……!!────

 

 

 

 精神エネルギーがほとんど底を突いていることにようやく気付く桜。激戦に次ぐ激戦で自身の残存オーラを読み違えた──厳密にはきちんと生命力と精神力を分けて管理できていなかったのだ。まだ充分残っているものと勘違いしていた。

 

 生命エネルギーにも言えることだが、精神エネルギーが尽きれば意識を保てなくなる。神字の多用で、桜の想定より消耗が加速度的に増えていたのだ。摩耗していたところに、先ほどの強大な回復能力の行使がトドメを刺した。

 

 当然【魔王の契約】も効力を失っている──持続するような力はもう残っていない。

 

 ──諦めろ。お前の負けだ──

 

 ──……私の……負け……?──

 

 アイシャの方を見る桜。膝を突いていたアイシャは、まだ立ち上がろうと足掻いている。じきに立ってみせるだろうことは容易に想像がついた。

 

 ──まだ……私は……!──

 

 桜も動こうとするが、手足が痺れ切って言うことを聞かない。立ち上がって戦いたいが、痙攣するように藻掻(も が )くだけだ。

 

 周囲からざわめきが聞こえる。決着が近いと判断し、仲間達が距離を詰めてきたようだ。

 

 アイシャへの数々の声援が、桜の耳にも届く。

 

 

 

「……さくらぁ……立ってぇ……!!」

 

 

 

 それらに混じり、血を吐くようなシームの声が届く。思わず涙が溢れてくる桜。

 

 ──手伝おうか?──

 

 ──黙れ──

 

 差し伸べられた手を払い、桜は土を掴む。それを手掛かりに、少しずつ身体を動かす。

 

 先に──

 

 アイシャが立ち上がった。フラフラと覚束ないが、確かに立っている。

 

「……たて……」

 

 何も疑問に思わず、アイシャはそう声をかける。

 

「私は、立ったぞ……

 お前も立って、決着をつけろッッ……!!」

 

「は、はは……」

 

 乾いた笑いを零し、僅かな精神力と残った生命力を振り絞って、全身に力を籠める桜。

 

 ふっと身体が軽くなり、桜はゆるりと立ち上がった。かろうじて再稼働ラインまで持ち直したのだ。無論、いつ倒れてもおかしくはない──お互いに。

 

 立ったはいいが、2人ともそこから動けない。戦闘継続など、本来なら望めるコンディションではない。

 

 ──が、アイシャは風間流の構えを取った。鳴り響く警鐘──激痛を頭の隅に追いやり、震えを鎮めるアイシャ。

 

「最後の勝負……かな」

 

 そうつぶやいて、残る力で何ができるか考える桜。おそらくアイシャからは仕掛けないだろう。全力のカウンターで仕留めるつもりなのは明らかだ。

 

 大量に精神エネルギーを消費する能力はもう使えない──よって、体術寄りの能力以外有り得ない。だが先読みに全神経を集中させるアイシャに、まともな攻撃はまず通じない。

 

 ──詰めの一手を決める桜。

 

「……いくよ……」

 

 桜が走り出す──待ち構えるアイシャの周囲を。超高速で走るだけでなく、宙を跳び、しゃがみ、滑り、歩き、地を削り──

 

 先ほどのように桜の姿が分裂していた。残像ではない──全てが実体のような存在感。

 

 

 

 ────【力の亡霊/ベクターゴースト】────

 

 

 

 激しい旋回運動に砂塵が巻き上がる。悪化する視界の中、アイシャは瞼を閉ざす──。加速し続ける多重の桜は最早、目で捉えられる速度ではなかった。

 

 現実問題、自身を多重に生み出すような能力があったとしても、衰弱した今の桜が発動させられるわけがない──おそらく実体は1人。しかしその実体の見極めはアイシャにも不可能。

 

 攻撃の気配──それのみに的を絞り、荒れ狂う砂塵のドーム中央で、アイシャは静かに待ち構える。

 

 

 

 ────真正面から気配。手を伸ばし、衣服を掴むアイシャ。そのまま手刀を突き込む。

 

 

 

 気配が消え失せた。手刀で貫かれた衣服だけがそこにある──桜の肉体がどこにもない。あるのは桜の服を着たオーラのみ。

 

 オーラが破裂して桜の服が裂ける──その勢いでアイシャの両腕も左右に弾かれ、更に真正面から全裸の桜が迫りくる──

 

 

 

 ────【力の悪霊/ベクタートラップ】────

 

 

 

 桜の伸ばした指が、アイシャの左胸に吸い込まれる──

 

 

 

 心臓に到達する寸前。突き刺す桜の指が停止した。

 

 

 

 寸止めではない──桜は寸止めのつもりだったが、狙い澄ましたように筋肉が締まり、桜の指撃を途中で食い止めたのだ。当然抜けもしない。

 

「なぁッ──!?」

 

 なぜ分かったのか。今まで桜は命に関わるような攻撃は出来る限り避けてきた。避けるだろうと思わせ、あえて狙いに行った──

 

 

 

「信じていましたよ……」

 

 

 

 アイシャのつぶやきに驚愕する桜。あえて危険な攻撃をするとアイシャに読み切られた──

 

 桜の両胸に両掌を当て、浸透掌を放つアイシャ。

 

 残るオーラで減殺したものの、桜の肺から空気が絞り出され、軽く吹っ飛ぶ──

 

 

 

 どさっ。

 

 

 

 砂塵が消えていく。風に翻弄される桜吹雪のように、桜のオーラも散っていった……

 

 

 

 仰向けに倒れている桜。刺された左胸を押さえながら、息を荒げて立ち続けるアイシャ。

 

 力を振り絞るようにフラフラと、桜は片腕を天に伸ばして、弱々しく左右に振った後。

 

 

 

 パタン、とその手が倒れた。ピクリとも動かない桜。

 

 

 

 それを降参の意と受け取り、アイシャは大きく息を吐いて腰を下ろした。

 

 

 

「ふぅー…………。

 

 まったく……なんという、末恐ろしい子だ…………」

 

 

 

 終戦を察した仲間達が、力の限り戦い抜いたアイシャと桜の元へと駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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