「うん、じゃあ代わるね。……はい」
ゴンが天使のような、デビラーゴンの笑顔で電話を渡そうとしてくる。
──つか、はいじゃねぇよッ!! アンタ、鬼かぁぁぁぁぁッ!?
さらっとネテロの電話番号をゲットしてるゴンも大概だけど、もうそれどころじゃない。
ここまでされたら、仮にこの電話を受け取らなくてもネテロは必ず私から相談とやらを聞きだそうとするだろう。なら……ここは受け取って、当たり障りの無いことを。
震える手で、差し出されたゴンの携帯電話を受け取る。
落とさないように両手で支えながら、ちょっぴりあったかいゴンの電話を耳に当てる。
「ネテロ、ですか……アイシャです」
『ほ?
どうしよった。なんか声が震えとらんか?』
そうでしょうそうでしょう。私のライフポイントはもうゼロよなのにゴンがフルボッコやめないんだもん。私の息の根が止まるまでやめないんだもん。
「……なんでもありません、気のせいでしょう」
『んんー?
ずいぶん覇気がないのぅ。どうしよった、いつもの威勢は』
だって私のライフ以下同文。
「すいません……
ゴンが突然あなたに電話を繋いでしまって、心の準備が」
『なぁにが心の準備じゃ。そんなタマでもあるまいに。
用が有るなら、さっさと話さんか』
「……」
なかば伏せ気味の私の横から覗き込んでくるゴン。ああ、何か適当に誤魔化したいのに、そんな目で見られたら考えることができなぃ……
「その……」
『なんじゃ』
……ダメだ。もう、何も、思いつかない。
「……
お医者、さんを……紹介してほしくて」
『ほっ。医者!? お主がか。
具合が悪いなら病院に行きゃ……ああ、そっちじゃいかんって話か』
「はい……」
流石この辺りはハンター協会元会長である。私の欲するものが分かったらしい。
『で、どう具合が悪いんじゃ』
「……」
まあ、うん……そりゃそうだ、聞くだろう。
別にネテロの察しが良くても悪くても同じだ。どうしたってコイツには知られることになる。
『……ほれ、ちゃんと話さんか。
お主との戦いに専念する為に、わしゃ会長を辞めたんじゃぞ。
そのお主が具合が悪いだのなんだの、こっちはたまったもんではないぞ』
……
ネテロには借りがある。その借りは、拳を交えることでしか返せないのは分かってる。コイツが望んでるのは何よりそれなんだ。
「……すいません。
ちょっとだけ、待っててください」
『ちょっとだけじゃぞ。わしゃ忙しいんじゃ』
「はい……」
力なく返し、Pi♪ と保留ボタンを押す。
デフォルトの、味気ない保留サウンドが流れる中。
「ゴン……あなた、こうなるのが分かってて」
少年の方を見ると、嬉しそうに頷いてくる。無邪気だなぁ、もう……
「だって、オレ達もアイシャが元気なかったら嫌だけど、一番嫌なのはネテロかなって」
……よく分かってるね。
「それに、ネテロなら絶対知ってるって。そういうのに詳しい人」
……私もその判断は正しいと思う。
私の、このことを、アイツに知られずに済むなら、だけど。
そりゃネテロだったら、すぐ適切な人を見繕ってくれるだろうけどさ……何で爆弾魔に命預けるような真似させるの? アイツこれネタにどんだけ弄ってくるか、想像つかないんだけど。
……。
あきらめるか。もういいや、なるようになれ! 後はどうなっても知らん!
Pi♪ と保留ボタンで解除する。
「ネテロ!」
『ぅわっ! なんじゃいきなり!』
「そのっ……! えっと……」
しりすぼんだ。どこいった私の覚悟。
「……」
ゴン、心配そうに見ないで。見られても、どうしようもない。
『……そこじゃ話しにくいことか?』
「……。はい。
というか、電話だと……」
『ああ、まぁそうじゃな。
……お主、今どこから掛けとる?』
改めて視線を向けると、一面に広がる雲の海。
風は相変わらず、吹いたりやんだりを繰り返している。
「……世界樹の頂上ですね」
『なんでそんなとこおるんじゃ。なんでそんなとこから電話なんぞかけてくる』
なんでだろ……もう思い出す気力もない。
「いいじゃないですか、そんなの……
で、あなたは?」
『協会本部じゃ』
「……あなた、会長やめた後も、結局そこにいますよね」
『しゃーねーじゃろーが。十二支んが度々呼びつけるもんじゃから、なかなか離れられんのじゃ。いちいち移動すんのもめんどくせーから、大体ここにおる』
思わず笑みがこぼれる。
「いいじゃないですか、慕われていて」
『はよ独り立ちせんかと、尻を引っぱたいて回っとるトコよ。いつまでもこんなジジイのスネをかじられちゃたまらんわい』
「…………」
私が返事しないでいると、電話越しに鼻を鳴らす音が聞こえる。
『……誰がお主のことを言うとるか。せいぜい甘えられるうちに甘えとけ。
今まで出来んかった分もな』
……。……
私は10歳になるまで、死んだ母の念能力で、愛で育てられた。ずいぶんと長い間母乳を吸ってたんだから、母さんにはむしろ甘えすぎだろう。
今は母さんも、私を許してくれた父さんもいる。そりゃ、もっと父さんに甘えたいけど。でもあんまり甘えようとすると、嫌がるだろうしな……
『……ワシから言っといてやる。
親はな、いつまでも子供が甘えると困るもんじゃが、やっぱり嬉しいもんなんじゃよ。
血を分けとりゃ尚更な』
偉そうに言ってくれる。ネテロと彼ら十二支んを引き合いに出してるんだろうけど。
「なに分かったようなことを言ってるんですか。
あなた、天涯孤独の身でしょうに」
『フン』
「?」
ネテロの反応がよく分からない。なんか色々複雑そうな感じだけど。
『ええから、
言っとくが、お前さんが来る前に医者なんか用意しとかんぞ。
誰を呼びゃいいやらサッパリ分からん』
「ああ、はい。それはもちろん、私がそちらで話してから……。
……ていうか、いいんですか?」
『はっ』
一笑に付すネテロ。なんなんだ。
『直接じゃなく、ゴンの電話で渋々話すくらいじゃからな。よほどのことじゃろうよ。
……これは武神リュウショウからの頼みか?
それともアイシャ嬢ちゃんからの頼みか?』
「……。
わたしの、アイシャからのお願いです」
『──だったらさっさとコッチに来んかッ!! 親からもらった身体は大事にせぃっ!!』
「はいっっ!!」
思わず返事させられた後、ぶちっと電話切られた。……くっそ、してやられた……
ネテロ……
お前、リュウショウからの頼みだって言っても、結局聞いてくれたんだろ? 面倒見のいいクソジジイめ……
大体、親から身体をもらうのは当たり前じゃないか……その身体を病院送りにしたのはどこのどいつだよ……
私が切れた電話を睨みながらブツブツ言ってると、
「アイシャ、ちょっとは元気でた?」
尋ねてくるゴン。……そうだね。どっと疲れたけど。
切れた携帯電話を手渡しながら、
「ゴン、あなた分かってて言ってるでしょ?」
「うん!」
……ネテロが私の家庭事情を妙に知っていたのは、そういう私に関する話をゴンとしたのかもしれない。あまり知られたくなかったことだけど、不思議と嫌な気はしない……
まったく、この子ったら……
感謝しても、し足りないじゃないか……
「あ、あ、あ、ちょっとアイシャ! どっか痛むの!?」
……分かってて言ってるんじゃないだろうな、クッソ……
あー鼻がいたい鼻がいたい。鼻水とかいっぱい出る……
ゴンからもらったハンカチで顔を拭って、ようやく一息つく。
「すん」
鼻をすすり。落ち着いてから、思うこと。
「ゴン。……やっぱり私、行きたくないんですけど」
鼻声で告げる。
「アイシャア……」
すっごい呆れた顔をするゴン。だって行きたくないんだもん……
「ネテロに言われたでしょ? 身体は大事にしろって」
……ええ、言われましたよ。フンだ。
「アイシャ、子供なんかいらないって言ってたけど……
……そんなの、産んでくれたお母さんに申し訳ないと思うよ?」
私の身体が、ぞくぞくぞくっと震え上がる。
ふえぇ? いきなりなに? わたし、ゴンの口からそんなこと言わせちゃったの?
なんか前にも聞いた気がするけど、なんであなたがそんなこと言えちゃうわけ?
あ、う。また涙でてきた。ちょっと、たんま。
「お母さんに……」
ふううううう、うぅぅぅぅ……
ダメ、ゴン。それ以上言わないで……!
「……女性として生きていくようにって……言われたんでしょ?」
……あぁ、
あぁぁぁぁぁぁぁー。もうだめー。振り切れたー。
何の迷いもなく、がばっとゴンに抱きつく。もう思いっきり。
「アイシャっ!?」
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ」
号泣としか言えない。どうしてこんな大声で泣いてるのか、ワケがわかんない。
……ゴン、ゴン。
産んだお母さんが分からないあなたに、そんなこと言われたら……
わたしが、どんだけ、しあわせかってわかっちゃうじゃないかぁぁぁぁ……
「あぁぁぁぁああぁー! うわぁぁぁぁぁぁぁー……」
ごめん、ゴン。ごめんね……
今だけ、いまだけあなたの優しさに甘えさせて……
大きくない手が、私の頭をぎこちなく撫でてくる感触に……
わたしは、いつになったら泣きやむのか、ぜんぜん自信がなかった……
…………
暗い……
んんー。あれーここどこだっけ……
「ぉ……おろ?」
気がついたら寝てた。
なんか真っ暗なってた。
……どうも巣の中らしい。
この、頭の下にある、あったかいのは……
あ、ゴンの膝枕か。
……。やらかした。はっずかしぃぃ……
力なく私の頭がコロンと膝から転げ落ちると、うとうとしてたゴンが、ふと目を覚ます。
「あ……
アイシャ? 起きた?」
「……えぇ、まぁ」
見れば分かるでしょうに、なんて軽口たたけない。うー。ひざまくらかぁ……
私が身体を起こし、ひりひりする目をごしごししてると、ゴンは座り込んだまま自分の首元にかけた紐をくいっと伸ばし、
「そういえばアイシャ、首にスイッチつけてないけどどうしたの?」
「え?
……いや。なんか野暮ったいんで、いらないって返しましたけど」
「いちおう受け取った方がよかったと思うよ……
これでアイシャになんかあったら、あのおじさんの責任かもってなっちゃうじゃん」
「えー。だって返しに行くのも面倒だし……
第一、私に何かあるわけないじゃないですか」
「……アイシャ、ここ何mか覚えてる?」
「え?
えーと、せん……1700か、1800でしたっけ?」
「……」
ゴンの目がつめたい。
「ん、その……」
「……」
「……ごめんなさい。油断してました」
「いくらアイシャでも、こんな高いトコで絶対何もないって言い切れるわけないでしょ」
「えー。だってダサかったんだもん……」
「いや、ダサいって……
受け取るだけ受け取っとこうよ、万が一にもさ……」
「だって邪魔そうだったんだもん……」
「……」
「……ごめんなさい!」
ゴンがつめたぃよぅぅぅ。
冷ややかーなゴンの視線から逃れるように、身体を「んー、んっ」と伸ばす。巣の中で立ち上がり、軽く関節をほぐす。様子が変わらない、おっきなタマゴ5つ。結局親鳥どこいったんだ。
あぁー、おなかすーいた。早く降りてごはん食ーべよ。
「……もしかしてアイシャ、今から降りるつもり?」
「ん?
そのつもりですけど? ゴンはまだここにいるんですか?」
ゴンは返事の代わりに立ち上がり、巣のフチへと上がる。私もぴょんと跳ねて、フチへ乗る。
ん。真っ暗。星と月の明かりが雲の海に照り返されて、不思議な感じ。星空もきれいで、なんだかここは別世界。
一晩くらいならいてもいいけど、おなかすいたしなー。
ゴンの膝のあったかさが移った私の頭が、夜風に晒されて心地いい。
……ん? 身体がぷるっと震えた。
あー。これは。ちょーっと、急いで降りないとやばいかなー。まだ大丈夫大丈夫……
私が雲の海を透かすように、下へ視線を向けていると、
「危なくない?」
ゴンが私の顔を見ながら聞いてくる。うーん? ぅーん……
……。
「私はもちろん、ゴンだって全然大丈夫ですよ。
……と、言いたいところですが。
私はともかく、ゴンでは不安ですね」
薄い明かりの中でも、ゴンがムッとしたのが分かる。
「修行を兼ねてここに登ってきてもらったので、夜の闇の中でも無事に降りる修行もしてほしかったのですが……ポロッと落ちたりしたら、シャレにならないですからね。ゴンはやめておきましょう」
「なにそれ。オレだけ朝までここにいろって言うの?」
「いいえ。でも私は今から降ります」
スッとしゃがみこみ、ゴンヘと背を向ける。後ろ髪を前に回しながら、
「負ぶさってください。
私がゴンを背負って、下まで降ります」
……予想はしてたけど、素直に負ぶさっては来ない。何か言いたげにしている。
「どうしました?」
ちらりと視線を肩越しに飛ばすと、
「やっぱりオレも自力で降りるよ」
「意地を張らないで下さい。普段の修行であれば、絶対に死なないよう気をつけることもできますが、ここから転落されたら流石に厳しいです。
……ゴンに降りる力がないとは思ってませんよ。ただ、万一のことがあればミトさんに申し訳が立ちませんから」
ゴンが難しい顔をしてるのが、暗がりでも分かる。ミトさん、ダシに使ってごめんね。私は一刻も早く降りたいのです。ゴンが無事降りてくるまで、待つ余裕は流石にない。
「……アイシャ、約束して。
ここから降りたら、ネテロのところへ行くって」
ちっ。おぼえてたか……
……心配してくれてるんだよね。
「あー、はい。大丈夫ですよ、そのつもりです。
さ、早く負ぶさって」
私が前へ向きなおすと、ゴンが私の首周りにしがみついてきた。おっほ、顔近い近い。
立ち上がる。ゴンが背中にぶらんとくっついた姿勢になる。うん全然いける。ミルキの重しに比べれば、あって無いようなもの。
……とはいかないんだよね。ゴンが掴まってる背中側にはオーラを放出できないから、普通に身体の正面を幹へ向けてしまうと、幹から遠ざかった時に再度接近が難しくなる。そしたら自由落下しかねない。
幹に掴まってゆっくり降りるなら、そこまで危険はない。けど、時間がかかりすぎる。私は急いでるのだ。うむ。
「ゴンー。すっごいスピードで降りるけど、覚悟はいいですかー?」
「もしかしてとは思ってたけど、本気なんだね……」
「ええ、いい修行になります。参考にしてくださいね」
「……分かった。いつでもいいよ」
「それでは」
あいきゃんふらい♪
巣のフチから、ぴょんと外へ飛び降りた。すぐ襲ってくる浮遊感。
手足から一気にオーラを放出。【天使のヴェール】効果圏外へと解き放たれた禍々しいオーラが、私達の身体を真上に向かって押し戻そうとする。
幹から距離6m。放出するオーラの向きを調整して、落下開始5秒で右手右足を幹へと接触させる。
──ヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!
木の幹と、右手右足の接触点から削れるような音。
当然落下は止まらない。が、右手右足のオーラで急制動をかけ、更に左手左足でオーラ放出を続けて、減速をかけ続ける。
かなり落下速度が落ちてきた。制動と放出のオーラを減らし、あえて加速。減速、加速、減速、加速と繰り返し、幹に沿って一定の速度圏内で滑り落ちていく。雲に突入。視界を奪われても、一切ペースは落とさない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────」
「ゴンんんんんんくちとじてぇぇぇぇぇ舌かむよぉぉぉぉぉ────」
すぐ雲を脱出。常に『円』で、落下する先に幹から伸びる障害物がないか確認し続けている。更に『凝』で地上からどれぐらいの高度か目算しながら、滑降していく。
ほとんど自由落下に等しい降下を続け、約1分。500m地点が見えた。
両手足のオーラ量をぐんと上げる。ぎぃぃぃぃぃぃッと減速をかけて。
「──はいっ。おしまい」
トン、と。
木板床の上に足を置く。木登りを開始した建物がある場所だ。
「はぁぁぁぁぁぁ。こわかったぁぁぁー」
しがみついたまま、ゴンが大きく息を吐く。ああぁ、うなじ、そこやめて。ぬくい。今、そういうの困る……
「ゴン、おりて。
それを返して来てください」
彼の首元辺りを指で示す。例のレスキュースイッチだ。
「あ、そっか。アイシャありがとう」
肩の荷が降り、ゴンは扉へとふらふら歩いていく。……この時間、開いてるのかな?
ゴンが扉を引くと、ぎぃっと扉が開く。中から明かりは見えるから、この時間でも営業しているらしい。
「ぅわ! 坊や、こんな時間に降りてきたのか!?
……登りきったのは知ってたけど、降りてこないから朝までいるもんだと思ってたよ」
「ああ、違う違う。オレは掴まってただけ。降ろしてもらったんだよ」
「ん? 結局レスキュー呼んだのか?」
「呼んでないよ。はい、返すね」
「あ、うん。……おい坊や、どこ行くんだ?」
ゴンが扉から顔を出す。
「アイシャ、入ってこないの?」
ふふー。と私はちょっとイヤらしい笑みを浮かべ、また背を向けてしゃがみこむ。
「……こっから、また落ちるの?」
降りるの? とは聞いてこなかった。まぁ落ちてるようなもんだよねー。あのスピードじゃ。
「早く掴まってください。
じゃないとネテロのとこには行きませんよー」
軽い仕返しでもある。ゴンには感謝してるけど、散々滅多打ちにしてくれたことは根に持ってるからね。ぷんぷん。
「お?
嬢ちゃんも降りて、って何やってんだ? おいおい」
ゴンを背負った状態で、木板床の下へ目をやる。……うん、いけるいける。こっからは幹に勾配がちょびっとついてるし、楽勝らくしょー。
「あらよっと」
「おおおおっ!?」
私が木板床から飛び降りると、頭上からおじさんの声。ごめんね、びっくりさせてー。
さっきと同じ要領で、今度は左手左足を幹に、右手右足を下へ向けて、オーラの制動・放出を試みる。今度は大した距離じゃないから、さっさと降ーりよ。
相当に大地がはっきり見える距離で──
ぽーんと、勢いよく幹を突き放した。
空中に投げ出され、真下へのオーラ放出も止める。自由落下、後100m!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
背中で叫ぶゴンを『周』で護りつつ『堅』! その状態で──
ドぅぅぅんんッッ!!
着地の瞬間──両足で地面を蹴りつけ、前方へ大きく跳ねる!
ざしゃあああぁッ! だぁぁんッ! だんッ! だん、しゅたっ。
何歩か大ジャンプした後、ぴたっと静止した。うん、でけたデケター。ててててー♪ 10点。ぱちぱちぱちぱち。計画通り!
「……アぁぁイぃぃシャぁぁぁぁぁ……」
ゴンが後ろから、すっごい恨みがましく呼んでくる。
「到着ですよ、お客さーん」
ちょっと可哀想なので、しゃがみこんで降りやすくしてあげる。震えて離れるゴン。
思ったよりハデな着地になっちゃったな。『堅』をするのがギリギリすぎたか。ゴンに『周』をしなきゃいけないから、ちょっと遅れてしまった。
後ろの方を見ると、最初着地した剥きだしの地面がすっごいえぐれて、山盛り土が飛び散ってた。お、ぉぅ……? ……うん、知らない。きっと最初からああだった。ワタシ、自然破壊シテナイ。
爆心地から目を逸らすと、ゴンはまだ震えが止まらないようだった。
「ああいうことするなら、あらかじめ言ってよぉぉ。
オーラ出してるの分かんないから、むちゃくちゃ怖かったんだけど……」
「……あ、そっか。ごめんなさい」
念能力者は、オーラを纏うことで身体能力を強化できる。あれぐらいの高さからなら、『堅』でノーダメージ着地する自信はあったけど……
私が使用している【天使のヴェール】の効果で、ゴンには私のオーラの動きが見えない。特に最後は、無防備で落下してるように感じただろう。気分はきっと無理心中。……正直すまんかった。
ハンター試験でも、山の谷間から飛び降りたりしたけど、あれは下が河だったからねー。
いちおう問題ないか足首と膝をぐりぐり回しながら、
「それじゃ、私はゴハン食べに行きますけど、ゴンはどうします?」
「えっと……う……」
ふらふらしてるゴン。まだまだ修行が足りませんな。
回復を待ってあげたいのは山々だけど、私そろそろヤバスなんで待ちません。
「平衡感覚がおかしいのは、歩いてたら治りますよ。
……晩ゴハンおごるよ。おごっちゃいますよ。
ていうかゴン、この後ってそのまま帰るつもりなんですか?」
「んー。
オレ、こんな時間までいるつもりなかったしなぁ……」
「あっはっは」
全部、私が悪いね。……ほんとにスマンカッタ。
「じゃあ一泊してく? 私そのつもりだったから、もう宿とってます」
「……このへんって、けっこう観光客多いんでしょ?
オレ、部屋取れるかなぁ……」
「二人部屋」
私の言葉に、ゴンが「ん?」って顔をする。私はピースした指をぴこぴこ振り、
「ゴンの言う通り、なかなか部屋が取れなくって。お値段お高めの二人部屋とりました。
泊まってく?」
「……」
「多分、こんな時間に空いてる部屋ないですよ」
「……アイシャ、狙ってやってる?」
ひひー。と笑ってみせた。
「いやぁ、二人部屋しか空いてないって言われた時に、もしかしたらこういうこともあるかなーとは思ってたけどぉ。狙ってはいなかったですよ?」
じーっと見てくるゴン。いやホントわざとじゃないって。……期待はしてたけど!
「だぁって。
みんなお泊まり会に、私まぜてくんないじゃーん」
「オレとレオリオは、いっつもアイシャも呼びたいって言ってるよ。でも……」
「……キルアとクラピカは反対、と。
ミルキも一緒でしたっけ? 彼は?」
「保留だって」
むぅ。よく分かんないな。
────この辺りは、それぞれ思惑の違いだろう。
キルアとクラピカは、露見した後のリィーナの折檻を恐れている。あとホント、朝まで寝れないからやめてほしい。アイシャは寝ている自分の破壊力(意味深)を分かってない。
ゴンはバレても、害が無いと見なされているのでリィーナには怒られない。普通に熟睡する。アイシャは友達。
レオリオはバレて命が
あ、でもミルキが盗撮成功したら分けて欲しい。
ミルキは誰にも見破られない高々性能盗撮カメラ(数百枚連続撮影可)を、死力をもって鋭意開発中なので、まだ待ってほしい。こだわりの一品が出来そうで出来ない。……一度でもアイシャを呼んだのがバレて、リィーナに強襲○イヤ人されようものなら、次回開催すら危ういから待って欲しい。……盗撮がバレたら、三途の川底で一片も残らず削り下ろされそうだが。レオリオもろとも。
グリードアイランドにも匹敵する欲望の渦巻くお泊まり会だったが、男女同衾の意味を根っこの部分で理解できてないアホの子ゲフンゲフン、もとい14歳のアイシャにとって、誘われないのは単なる仲間外れでしかなかった。つまり『私もお泊まり会に加えろー!』である。心底どうしようもない。
……まぁこんな世界最強の娘を夜襲したって、返り討ち必至だけどね! ゆっくり常在戦場していってね!
宿の方へさりげに足早く歩を進めながら、私とゴンは話を続ける。
「いいなー。
みんな、けっこう集まってわいわいやってるんですよね?」
「オレもうド○ポン飽きたよ……」
まだやってたのか友情破壊ゲーム。
「なんでそればっかりやるの。新しいパーティーゲーム開拓しなさい」
「でもなんかやっちゃうんだよ」
「このドカ○ンどもめ」
完全中毒じゃないか。
……くーっ、うらやましいなぁもうっ!