どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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後日談三章

 

 具合がいくらか良くなったので昼食のパスタを普通にいただき、その後はベッドで昼寝させてもらう。

 

 ふと目を覚ますと、ウラヌスが荷物を抱えて帰ってきたところだった。

 

 私はあくびをしながら起き上がって、そちらへ歩いていき、

 

「お帰りなさい……それは布団ですか?」

「そ。大きいのを持ち込むのは難しいから、薄いヤツだけど。

 まだ上に2セット置いてきてるから、しばらくバタバタしちゃうけどゴメンね」

「いえ、もう眠気は取れたので大丈夫です。

 手伝いましょうか?」

「ううん。アイシャはゆっくりしてて。

 ベル、布団カバーに入れるの手伝ってくれる?」

「はいはーい♪ やっとくー」

「オレもやるから、お前は運ぶのに専念していいぞ。

 運び終わったら休んでてくれ」

「……じゃあ、お言葉に甘えるよ。よろしく頼む」

 

 そう言ってウラヌスは再び外へ。夫婦は荷物を開封して、布団を整え始める。

 

 うーむ。私がここにいてもお邪魔しかしてない……。とはいえ、家に帰るとか言ったら全員反対してきそうだしな。具合さえ悪くなければなぁ。

 

 

 

 往復して荷物を運び終えたウラヌスが座り込んで一息吐き、「シーム」と声をかける。

 

「ウラヌス、お疲れ。なに?」

「雑誌、買ってきたよ。

 新聞屋にも寄ったから、運が良ければゲームのチラシもあるかも」

「わっ、ありがとー!

 新聞も買ってきたの?」

「チラシが欲しかったのもあるけど、時事ネタも仕入れた方がいいかなと思って。

 アイシャは新聞って読む?」

「普段は読まないですけど、今なら読みたいですね」

 

 しばらく現実の情報に触れてなかったからな。知っておくべきことも当然あるだろう。ここだとテレビでニュースも見れないし。

 

「正直知るのが怖いな……」

「今の世界がどうなってるか、長いこと知らなかったもんねー♪」

 

 夫婦が布団を整えながら話す内容に、ウラヌスは首を傾げ、

 

「つっても、そんなに長いことゲームにいたわけじゃないだろ?

 結局何年くらいゲームの中に入ってたんだ?」

「……いま、何年だ? 現実の時間で」

「2000年の10月。つかゲームの中も同じだろ」

「じゃあ……もう4年は経ってるな」

「わたしは3ねーん♪」

「まあまあか。そこまで大きな世界的ニュースはなかったと思うけど。

 終末思想が肩透かしだったことくらいかな」

「例の大予言のこと?

 当然ハズレたってことよね」

「それ。アホみたいに騒いでたのに、鼠1匹出てきやしない。

 にしても、なーんで破滅思考の連中って世界がまるごと終わるのを望むんだろうな?」

「んー……

 生きてても楽しくないけど、だからって自分1人で死ぬのは嫌だからじゃない?」

 

 ベルさんの言葉に、肩をすくめるウラヌス。……必死に生きている彼からすれば、理解できないのも当然か。

 

「カルト宗教的な考えですし、戦争や貧困が蔓延して悲惨な世界だからいっそ滅びた方がいいとか、そういう思考なんじゃないですかね?」

「うーん、それは少し分からなくもないけど……」

「後は……人生でやり残したことは何もないから、世界が終わっても悔いはないとか」

「それは共感できないかなぁ。なら1人で死ねばいいじゃんって話だし」

「……私もそう思います」

「日々に楽しみを見いだせてたら、そんな考えにはならないと思うんだけどね」

 

 ウラヌスが小さな肩をまたすくめると、スススとシームが背後へ回り込み、

 

「ボクは楽しいよ」

「あー……待て待てシーム、揉むな揉むな!

 せっかく買ってきたんだから雑誌読めぁーっ」

 

 シームがウラヌスの肩を揉み始め、揉まれた当人が奇声をあげる。

 

「あ、揉んでる方が気持ちいいやつだ♪」

「なんでやねん」

「うん!」

「うんじゃねぇぇぇー」

 

 そりゃもう、にゃんこのぷにぷに肩なんて揉んでる方がご褒美だもんね。本当に楽しくなってきたのか、シームが肘を当ててぐりぐりしている。

 

「ふぎゃーっ!」

「シーム、気持ちは分かりますけどあまり肘は使わない方がいいですよ。

 効きすぎますから」

「はーい」

「じゃなくて、止めてぇぇぇー」

「シームの後は私がやりますね」

「おぼぼぼぼぼ……」

 

 脱力して床に沈んでいくウラヌス。マッサージしてやらないと、またすぐに出かけそうだからな。無理やり休ませる為に揉みつくしてくれよう。私も体調悪いから、本格的にはしないけど。

 

 

 

 シームに続いて私も揉みもみしてあげると、狙い通りウラヌスはすっかり溶けてしまい、しばらく出かけようとしなかった。ぼんやりと自分で買ってきた漫画を読んでいる。

 

「ウラヌス、また出かけるんだよね?」

「……ん、まぁね。

 シームは欲しいモノ見つかった?」

「漫画は見つかったけど、ゲームがなかなか決められなくて。

 ほら、ジョイステってさ……」

「あ、古いか。言われてみれば、最新の雑誌やチラシじゃ探しにくいわな。

 取り扱ってる店はまだあるけど、大体中古品だから現物があるか見てこないとダメか」

「……一緒にいっちゃダメ?」

「あ。あー……

 それはどうだろうな」

 

 大抵のお願いなら聞き入れるウラヌスも、これには言葉を濁す。

 

「シーム、困らせちゃダメよ?

 分かってるでしょ、それはマズイって」

 

 チラシを眺めていたメレオロンが窘め(たしな )ると、見るからに落ち込むシーム。

 

「なんとかしてやりたいけど、難しいところだな。

 ゲームの中じゃそれほど人目はないけど、現実だとそうはいかないから……

 少なくとも変装は必須だよ」

 

 ふむ、変装か。グリードアイランドでは有効だったから、いけなくはなさそうだけど。

 

「それって、普通の人のフリするだけじゃなくて、ボクってバレないようにだよね?」

「そういうこと。

 監視カメラを全部避けられないから、映像を検証されてもバレないようにしないと」

 

 あー、それは確かに厳しいな。すぐにはバレなくても、何かあったら芋づる式にバレる可能性があるからね。長丁場で考えると確かにマズイか……

 

「変装するなら、いっそカツラでもかぶっちゃえば?

 髪の毛長くして、女の子の服も着て♪」

「えっ!?」

 

 ベルさんの提案にぎょっとするシーム。……なるほど、性別まで偽ればバレる可能性は低そうだ。年齢を絞らせない為に、身長を分かりにくくするのも手かもな。

 

「いっそのこと、人魚姫に変装すればぁー?」

「おねーちゃん!」

 

 ぷっ。……そうか、人魚姫か。にゃんこ姫と一緒に歩けばもう無敵だな。

 

「ウラヌスもキュマニャンの格好すればいいんじゃないですか?」

「アイシャ!」

 

 怒るウラヌスから顔を逸らすと、メレオロンがケタケタ笑ってる。

 

「ウラヌス……」

「ほら、シーム。こんなバカにされてまで行きたくないだろ?

 俺がちゃんと買ってくるから、こういうゲームが欲しいとか希望を──」

「プニキュマファイブのアニメ見たいからビデオ買ってきて」

「オマエな」

 

 私が堪えきれず笑い出すと、釣られて夫婦まで笑い始めた。

 

「うごごごご……」

 

 

 

 すっかりウラヌスが拗ねてしまい、シームが長々と説得してようやく出かけていった。ほっぺたプクッてふくらませてたけど。ぷぷ。

 

 渋々にゃんこ姫が出かけた後、見るからに楽しみな様子で過ごすシームに、

 

「結局なにを頼んだんですか?」

「んー、色々ー。

 アイシャは頼まなくてよかったの?」

「ええ、まあ。

 私はいま体調が悪いだけで、具合が良くなったら自分で買ってきますし」

 

 というか、私はここに長居するわけじゃないんだから、あんまり色々買うのもね。別に持って帰ればいいんだけど。

 

「おでかけしたかったなー……」

「それは分かりますけどね。ただ、安全には代えられませんから。

 いつか自由に出かけられるようになりますし、今は我慢ですよ」

「うん……」

 

 今はネテロに任せてるけど、その辺りの状況も確認しておかないとな。こちらの動きに支障が出るかもしれないし。ウラヌスとも相談しておこう。

 

 

 

 3度目の買い物から帰ってきたウラヌス。大きいビデオデッキやアニメビデオ、ジョイステの中古ゲーム、漫画などの本をたくさん買ってきてくれた。

 

 疲れたと言って横になり、いつの間にか眠っていたウラヌス。テレビにみんな集まってアニメやゲームでワイワイ楽しんでいる中、何となく気になって私は彼のところへ行く。

 

 すぴょぴょと枕1つで寝息を立てるウラヌスのちっちゃい鼻をつまんでやる。

 

「うにゅ……ふごっ!?」

 

 目をパチクリさせるウラヌス。

 

「おはようございます。起こしてすいません」

「むぉー。んもー……なんか用?」

「寝るのは構いませんが、ちゃんとベッドか布団で寝た方がいいですよ」

「いや、そういうわけにもいかないし……

 軽く休んでただけで、このあと晩ごはん作らないと」

 

 ウラヌスは上半身を起こし、壁時計を一瞥(いちべつ)して、テレビの周りの人だかりを見る。

 

「まだそんなに時間たってないか……

 アイシャはあっちで遊ばないの?」

「今は4人参加のゲームで、あぶれちゃいまして。

 それに遊ぶのはいつでもできますから」

「みんなと遊ぶのって、意外にいつでもとはいかないと思うけど。

 ……もしかして、体調が悪いから?」

「気にしすぎですよ。普通に過ごす分には平気です」

「でも修行は無理なんでしょ?」

「……それはまあ。激しい運動は厳しいですね」

 

 厳密には動けないほど酷いわけじゃないけど、精彩は欠くだろう。それなら回復を優先すべきだ。今は修行より、問題なく動けるようになることを優先しないと。

 

「怪我のこともあるし、しっかり身体を休めてね。

 今晩はアイシャが好きそうな和食の家庭料理にするから、楽しみにしてて」

 

 ふぅむ。それは実に楽しみだけど……

 

「ウラヌス」

「お、シーム。楽しんでる?」

「うん、すっごい楽しんでるよ。

 ……カラオケがあったけど、あれって」

「あーまぁ、ああいうのもアリかなと思って。

 誰も歌わないなら別にいいけど」

「プニキュマ、歌ってほしーなぁ」

 

 シームなら当然言うだろう要求に、ツツツと視線を逸らすウラヌス。

 

「……ウラヌス。カラオケなんて買ってきたらそう言われるの分かってましたよね?

 実は自分が歌いたいだけなんじゃないですか?」

「いやぁー、べつにぃー……」

 

 説得力ないぞ、コイツ。まったく素直じゃないな。

 

 自分でも自覚があるのか、ウラヌスは慌てた様子で、

 

「ほ、ほら。ベルが好きそうじゃん、ああいうの。

 だからいちおうと思って」

「そのベルさんとお城で競うように歌ってた誰かさんがいたと思うんですけどねぇ?

 私の記憶違いですか?」

「ビ、ビスケのこと?」

「ここにいない人のことじゃないです。

 ここでトボけてるにゃんこのことです」

「ねぇー、うーらーぬーすー」

「ちょちょちょ……

 まじ、マジ今は勘弁して。疲れてるんだって……」

 

 絶対ウソだ。疲れてはいるだろうけど、これから料理する体力はあるんだし、1曲歌うくらい出来るだろうにね。

 

「シーム、アンタの番よー」

「はぁい」

「ちなみに今やってるのは……〇カポン?

 色々ゲーム買ってきたから他にいくらでもあるのに、なんでそれなの?」

 

 さぁ? 私にも分からん。

 

 

 

 そして晩ごはんの時間。テーブルにずらりと並ぶ料理。

 

 オータニアの料亭でよく食べてたような豪勢な和食ではないけど、ウラヌスの予告通りジャポン食というか素朴な和食が並んでいた。

 

「はぁー……

 この葱と豆腐のお味噌汁が本当に美味しいですね……」

「ホント美味しいわねー♪」

「アタシ、これに入ってる大根が好きかな」

「オレも大根が好きだな」

「ボク、お豆腐すきー」

「俺は葱なんだよな。味噌とよく合うっていうか」

「ウラヌスって、スープが得意だったりします?」

「あー。それはそうかもね」

 

 他にも焼き魚とか煮物とか海苔とか納豆があるけど、みんなお味噌汁を絶賛してる。

 

「ご飯とお味噌汁、おかわりしていいですか?」

「うん、いいよ。余分に作ってあるから、好きに食べて」

「アタシも欲しーい」

「遠慮せず、好きなだけ食べればいいさ。

 炊飯器のご飯も、カラにしてくれていいから」

 

 メレオロンも、すっかりお箸でご飯食べるのに慣れたみたいだな。和食も好んで食べるようになったし。

 

「この煮物も美味しいですよ」

「これって変わってるわよね♪

 お芋だと思うんだけど、ジャガイモじゃないの?」

「それは里芋(さといも)の煮っころがしだよ。

 里芋、人参、大根、レンコン、こんにゃく、鶏肉の煮物。

 これならシームも食べられるだろ?」

「うん! すっごく美味しい!」

 

 そう言って、星形の人参をお箸でつまむシーム。こういう細かい工夫がいいんだよな。ウラヌスも鼻歌混じりに包丁で調理してたし。見た目にも楽しいから、野菜でもシームは嫌な気分がしないんだろう。

 

 シームがつまんだニンジンを流れ星のように振っていると、ウラヌスは苦笑いしながら、

 

「遊ぶな遊ぶな」

「んーっ、ニンニン!」

「うん、それニンニンとか言わないからな?」

 

 シームにからかわれて、少し顔を赤くするウラヌス。そうだね、あなたはニャンニャンだもんね。

 

「みりんと醤油の塩梅が絶妙なんですよね。

 これぞ、家庭料理って感じです」

「喜んでもらえてよかったよ」

「大根のカドを削ったり、人参を星形にしたり、細かいというか器用なモンだな。

 ホントお前って、いい嫁さんになれそうだよ」

「大根は煮崩れしにくいよう面取りするのが基本だからな。

 つーかモタリケ、お前は一言多いんだよ。素直に褒めろや」

「うまい」

(ざつ)ッ!」

 

 そんなことを言って笑い合う私達。ふふ、この2人の軽口の応酬にも慣れちゃったよ。ユリさんとも似たような感じだったけど。

 

「にしても、こういうのが好評なら明日は鍋にしようかなー。

 それならシームも野菜食べられるだろうし」

「うん! お鍋大好き!」

 

 ほほぅ、それはいいな。……明日には、お腹の痛みが治まってるといいんだけど。

 

 

 

 楽しい食事を終えて、みんなゲームを遊んだり本を読んだりお風呂に入ったりしている。私は早いめに寝ようかなと新聞を読みながら悩んでいると、

 

「アイシャ、ちょっといい?」

「あ、はい」

 

 お風呂から上がってきたウラヌスに呼ばれて、一緒に脱衣所へ入る。内緒話だな。

 

「混浴のお誘いですか?」

「なんでさ。冗談でもやめてよ」

「ふふ、何かありましたか?」

「えーと……

 俺、買い物へ行ってる時にホームコードの確認してきたんだよ」

 

 ふむ。私もすぐ確認したかったんだけど、ここから町に一度も行ってないからな。多分ホームコードの確認をこの辺りでしない方がいいだろうし。

 

「誰かから連絡ありました?」

「その……色々ね。

 知り合いもだけど、脱出したプレイヤーからの振り込みとか」

「あー」

 

 そういえば、島から脱出させてあげた人達の支払い先はウラヌスの口座にしてたもんな。律儀にすぐ1000万ジェニー支払う人もいたわけだ。

 

「とりあえず急ぎの用がありそうなのは姉貴とノヴなんだけど、誰かと合流するにしても逢うにしても、アイシャの回復を待った方がいいかなと思って、連絡は保留にしてる」

「……すいません」

「ううん。隠れ家も整えないといけなかったから、やることの順番が変わっただけだよ。

 アイシャはホームコードの確認しなくて大丈夫?」

「まぁじきに確認します。

 多分明日か明後日には町へ行けると思うので」

「大丈夫? その……胸の傷とか」

「そっちは大分よくなりましたね。

 もう痛みもほぼありませんし、気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 ほっとする様子のウラヌス。これだけ回復に専念させてもらえれば、そりゃね。

 

「ユリさんは何となく分かりますけど、ノヴさんから連絡があったということは……」

「ネテロに頼んでた件だと思う。

 ゲームから出たら連絡してくれってことだけで、内容までは分からない」

「何か進展があったのかもしれませんね。

 姉弟に関することですから、話を聞かないと今後の方針にも影響が出そうですけど」

「俺も同意見。それは近いうちにしておくよ。

 ……で、姉貴なんだけど。多分ここに来たいって言いそうでさ」

「言いそうですよね……」

「連れてきていいもんかな?」

「……あなたが判断して構いませんよ。

 それなら誰も反対しないと思いますが」

「うーん……アイシャの意見は?」

「あまり無責任なことを言いたくありませんが……

 引き続き、本格的に協力してもらった方がいいと思います」

「……」

「お姉さんと仲良くしたいんですよね?」

「……まぁ」

「なら迷う必要はありませんよ。

 ここにユリさんが来ることへの諸々の不安は分かりますが、ユリさんもそこは配慮してくれるでしょうし」

「……忍の里のこともあるからね」

「あなたが追われる立場であることは変わりませんし、綿密な情報交換は必要でしょう。

 望むなら、リィーナに協力をお願いしてもいいですよ」

「……でも昔、断ったしさぁ」

「今は今ですよ。

 もうあなただけの問題ではありませんし」

「……。選択肢には入れておくよ」

 

 お、言ってみるもんだな。もしリィーナに相談してくれたら、その流れで私も忍の里へ行けるかもしれないからね。

 

 

 

 

 

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