どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 前章の続き、ヨークシンで幻影旅団が暗殺の手から逃れ、無事護送される時のお話。

 ヨークシン裏話はこれでエピローグです。……が、エピローグは外伝五章まで続きます。なげぇよ……







外伝三章

 

 へたりこんでるうちに、暗殺一家は俺が意識を払う範囲から居なくなった。

 

 念の為、警戒網を広げて様子を見る。……戻ってくる気配は、ない。マフィアの気配もしないな。

 

 終息したか……。そう判断してよさそうだ。

 

 ムダにマフィアから目を付けられても嫌なので、ゾルディックの去った戦場跡から俺も離脱した。

 

 

 

 目的地へまっすぐ向かうつもりだったが、だんだん痛みと疲労感が強まってきたので、視界に入ったドラッグストアへ進路変更。躊躇なく飛び込む。

 

「いらっしゃ──」

 

 勢いよく入店した俺の姿を見た、店員の挨拶が途切れる。……まぁ何があったんだって感じだよな。かなり汚れてるし、少なからず血に(まみ)れてる。

 その視線を気にしないフリして受け流し、手早くカゴに薬品やら布巾やらを放り込む。

 欲しいモノを物色し終えて、とっととレジへ。

 

「……あの、お客様。お怪我されているようですが、大丈夫ですか?」

「ああ、はい。ちょっと転んだだけなんで。

 でも急いでくれると助かります」

 

 さっきの店員に定番の言い訳をして、会計を促す。この街で色々騒動が起こってるのは知ってるだろうし、俺が構わないでほしそうな素振りを見せたので、それ以上何も言わず会計をする店員。

 

 商品代金を支払い、そそくさと退店する。あー、はずかし……

 

 人目がないところで跳躍。適当なビルの屋上に跳び乗り、簡易治療を始める。

 

 皮膚や髪、ワンピースについた汚れと血は、湿らせた布で軽く拭っておく。あぁもう。特に髪、マジで勘弁してくれ。ちゃんとケアしないと……くぅぅ。

 

 あちこち骨にヒビが入っている箇所は、神字で治療を開始する。すぐには治らないが、重傷でもないから、休めば腫れや痛みぐらいは治まるだろう。まぁ応急処置だ。一晩寝てオーラが回復したら、ちゃんと治そう。

 

 買ってきた色んな栄養剤を開ける。……全然足りないけど、いくらかマシになってきた。ようやく「ふぅー」と一息吐く。

 

 あー……しんど。

 

 と、ぼさっとしててもいけない。あっちを見届けないと。

 予定していた合流ポイントに向けて、屋上から屋上へと跳び移り始めた。

 

 

 

 見覚えのある黒スーツ姿を、街の端にある雑居ビルの屋上に見つけ、俺は迷わずそこへ跳び移った。

 タン、と着地し。

 

「よ、ノヴ。護送車は?」

 

 黙って、ノヴは親指で差し示す。

 

 ヨークシンシティの郊外から少し離れた上空に、ハンター協会の飛行船が滞空している。……どうやら無事に乗船できたようだ。

 

 はぁー、と息を吐く。ひとまず作戦成功と。

 

「キミの到着を待っていた。撤収するぞ」

「オーケー。頼むわ」

 

 告げると、トプンと足下から水へ沈むように降下する。

 

 すぐ白い部屋の床へ着地。ノヴも同様に天井から降りてくる。

 カツカツと心地よい靴音を立て、壁に一枚貼りついた扉へと歩いていくノヴ。その後を付いていきながら、殺風景にも映るこの空間を何となく関心を持って見回す俺。

 

「……何度も来ているだろう。

 なにか面白いモノでもあるのか?」

 

「んー?

 そりゃ前と同じとかだったら、俺も興味もたないよー。

 でも結構いじってるだろ?」

 

 立ち止まり、合わせて歩を止めた俺へと振り向くノヴ。

 

「どうしてそう思う?」

 

 試してるのか、興味本位なのか。クールを装い(よそお )ながら意外に気弱なこの男に、俺は冗談混じりに「チッチッチ」と人差し指を振って見せ、

 

「魔法使いをナメてもらっちゃ困るよ、キミィ。

 コスト軽減の為に、天井も壁も床も同じ建材を用いてるだろ?

 歩けば、大体どれぐらいの強度か分かるよ。で、前に歩いた時と違うもん。

 俺が床を踏みつけたとして、そうだな、顕在オーラ20000ぐらいまでは無傷で耐えられるかな。

 無敵に近い【4次元マンション/ハイドアンドシーク】の弱点だもんな。部屋の外郭を直接攻撃されるとヤバイって」

 

 俺の話を聞いた後、ノヴは溜め息を吐きながら眼鏡を軽く上げた。

 

「何を言うかと思えば……

 仮に部屋の一部を壊したところで、脱出などできないぞ。

 周囲は、不安定な空間が広がるだけだ。そこへ飛び込めば、どことも知れぬ場所へ放り出されるからな」

 

 予想通りの言葉を返してきたので、俺は肩をすくめてみせた。

 

「でも、それはノヴも困るわけだろ? コントロールできない部分だから。

 そりゃそうだよな。だってこの部屋って、別空間の中を高速移動させて、出入口は現実空間の座標と一致させてるだけだもんな。だから、出入口以外から出た場合はどこへ放り出されるか、ノヴにも分からない。部屋の高速移動中は特にね。

 障害物のない別空間を高速移動するのは、ワープ理論の基本だからな」

 

「……。

 キミの話は、聞いていると疲れる」

 

 ノヴは首を振って、扉へと向かう。……俺、なんか変なこと言ったっけ?

 

 扉を開くノヴ。その向こうには、揺らめく空気がある。色彩が混じり合い、何とも形容しがたい景色を映す。

 

 ごく自然にそこを進んでくノヴに付いていき、身体の前面にトプンと水のような感触がぶつかった。

 

 視界が開け、小さな寝室の床へ俺は踏み入った。ノヴがこちらを見ている。

 

「ここは?」

 

「キミに宛がわれた休憩室だ。もちろん、あの飛行船の中のな。

 休んでいきたければ休むといい。私がキミの帰還を報告しておく」

 

 確かにクタクタだけどな……

 

「いや、いいよ。

 ちょっと遅くなったし、俺が報告に行く。……ネテロのいるところまで案内だけ頼む」

 

「そうか」

 

 微細な揺れのある床の上を、俺はノヴに連れられ、歩いていった。

 

 

 

 飛行船中央の広い空間。

 

 護送車が中央に停車し、その近くで普段の着物に着替えたネテロが、こちらへと視線を向けていた。……あの衣装のネテロは見てて落ち着くが、なぁんかイラっとすんだよな。えらっそうに。イジりたくなってくる。

 

 ノヴとともに歩いていくと、大儀そうにこちらへ声をかけてきた。

 

「無事に戻って何よりじゃ。

 ご苦労じゃったな、ウラヌスよ」

 

 他人事みたいな口調で、むかーっとくる。

 

「……

 何がご苦労じゃったな、だ。

 普通に死にかけたわ! お前が死ねよ!

 ……言っとくけど、一番ダメージ受けたのはお前の百式だからな」

「私もアレは見ていて、ヒヤッとしましたが……」

 

 ノヴが珍しく援護射撃してくれる。

 

「いやいや、待てぃ。

 一撃目はお主、ちゃんと防いどったじゃろうが」

「ああっ!?

 お前それ結果論だろうが! 相手だけ攻撃しろやノーコンッ!」

「無茶言うでないッ!

 ワシ運転しながら『周』と『円』しつつ、しかもあの速度じゃぞ!

 動いとる敵だけ叩けるわけがないじゃろう」

「んなこと分かってんだよ!

 だから警戒してたんだろうが!

 にしたって、遠慮なく後ろからブッ叩くんじゃねぇよ!」

「……言うても、3人まとめて叩き落とすつもりじゃったしのぅ。

 加減なぞ出来んわ」

「俺はオマエの敵かッ!?

 3人とか勘定に入れてんじゃねぇ!」

「……少し落ち着け」

 

 肩に手を置くノヴの呆れ半分な声に、「ふー、ふー」と息をつきつつ、気を落ち着けていく。

 

 ネテロは困った顔でヒゲをさすり、

 

「……しかもお主、二撃目は完全に撃たせる気じゃったろうが。

 アレでダメージを受けたと言われても、ワシャどうもならんぞ」

「いや、お前もちょっと加減しろよ……

 確かに撃たせたのは俺だけどさ。

 食らわせた爺さんの身体、めっちゃベキベキ言っててビビッたぞ」

「ゼノはあれぐらいじゃ死なんぞ。

 そんなことはお主も分かっとろうが」

「知らねーよ。

 つかそうじゃなくて、俺もそこにいんのに全力で撃ち込むお前がおかしいんだろうが」

「……あの状況で全力攻撃せんのは、まぁノリが悪いと思うての」

「今からノリでグーパンするけど、いいな?

 言っとくが『発』でやるぞ」

「やめい。

 まぁ慰謝料ぐらい払ってやるわい。それで許せ」

「……お前さ。

 俺、百式2発食らった上に、ゾルディック3人と戦ったんだぞ。

 それで許せ、で済ますな。

 いつ殺されるか、俺めっちゃビビってたんだぞ」

「うん? なんじゃ。

 それは慰謝料の釣り上げ交渉か?」

 

「オマエの、態度が、気にいらないッッ!!」

 

 地団駄しながら怒鳴りつけると、

 

「う、うむ……

 いや、すまん。恐ろしい目に遭わせてしもうたのは謝る。

 ワシの道楽に付き合わせて、すまんかったな」

「ぐぅぅぅ……

 ……つぅかさ。いつまでも昔の俺みたいな感じで使うなよな……

 俺もう大分ヘタってきてるって言ってるだろ。今だってオーラ底尽きかかってんだぞ。工夫して戦うのにも限度がある……」

「お主のソレも難儀な話じゃのぅ……」

「まだ打開策は見つかってないのか?」

 

 ノヴが尋ねてくる。俺は息を吐きつつ、

 

「どうにかする方法は、ある。

 ……けど時間がかかる。だからあまり妙なことに付き合わせないでくれ。

 今回だって、急に金が入り用になると困るから無理して受けたんだ」

 

 うつむき加減に言うと、ネテロとノヴが顔を見合わせる気配。

 

「うむ……実はじゃな。

 今回、幻影旅団壊滅の報酬として360億用意しとったんじゃが」

 

 ……なんか聞いてるだけで胸焼けしそうな賞金だな。

 

「13人捕縛したと思っとったら、1人少なくての。

 支払う賞金が20億浮いてしまっとるんじゃ」

「……ん?

 それ、どういうこったよ。壊滅させたのに1人少ないて」

「蜘蛛のうち足1本は、仲間のフリをしとったっちゅーことじゃ。

 ソヤツが蜘蛛を裏切ったことが、今回の捕縛劇に繋がったんじゃろな」

「ふむ……

 でも、そいつだってフリとは言え、蜘蛛としての活動はしてたんだろ?

 裏切ったのはいいけど、そいつ自身は放っといていいのか?」

「構わん。

 ……確かにソヤツも重大な犯罪者なんじゃが、プロハンターでもある。

 捕縛こそしとらんが、蜘蛛と同じく掟に縛られたようじゃから問題ないと判断した」

「そうか……

 まぁいいや。

 で、20億浮いてるのがどうしたって?」

「一度予算として組んでしもとるから、戻すのも面倒での。

 護送の任務難度が想定を遥かに越えとったから、これを今回の報酬にしようと思う」

「……またビーンズが文句言いそうだけどな。

 どうせ正式な手続きしてないんだろ?」

「事後承諾させるわい」

「そんで、その愚痴を俺が聞かされるわけだ。

 ……うん。で、内訳は?」

 

 またネテロとノヴが顔を見合わせる。うなずくノヴ。……ん?

 

「ワシラは今回、大して役に立っておらん。

 作戦の立案、及びゾルディックの撃退を担ったお主の功績をたたえ──」

「だが断る」

 

 その先を予想し、俺はネテロの言葉を断ち切った。

 

「……ちょっと待てぃ。最後まで言わせんか」

「言わなくても予想がつくから断ってんだよ。

 何が功績をたたえ、だよ。そういうのヤメロ。

 つか、作戦の立案オレとかバラすな! くそっ」

 

 それを聞いたノヴが眼鏡を直し、

 

「すでに会長から伺っていたよ。

 ……らしくない慎重さだったのが気になってな。

 私のことなどいちいち気にしなくていい」

 

 ……。

 だったら早く、そう言ってくれよ。隠してた俺がアホみたいじゃないか……

 

「お主も面倒なやつじゃのぅ……

 で、じゃ。ワシとノヴは1億ずつで構わん。お主が18億受け取れ」

「いらねーよ。

 ……全部渡すつもりだったのを、ちょっと加減しただけじゃねーか。

 俺の神字依頼なんて1回数千万ぐらいが相場なのに、何で今回のが十数億になるんだ。今の俺の働きにそんな値を付けるな」

「だから危険手当と慰謝料じゃろが。

 お主、殺されるトコだったと自分で言うとったじゃろう」

 

 少し考え、俺は自分の言葉を否定する。

 

「……違う。

 俺はターゲットじゃなかったから、アイツラ本気で殺しには来てなかったよ。

 そうじゃなかったら、流石に俺も逃げてたよ」

「……それは、お主もそうじゃろ?

 あの後、ゼノとマハから電話があっての。

 ゼノはお主が手加減しとったことを、ごにょごにょ言うとったわ。

 マハのやつは、久々に面白いものが拝めたとエラく上機嫌だったがな」

 

 ……マハって、あの妖怪爺さんのことかな。俺も高速神字を戦闘に使ったの久々だしな。オーラごそっとむしられて、ヤバすぎるから。……モノにもよるけど。

 

「まあ、そんなことは別によかろう。

 お主は16億。ワシとノヴがそれぞれ2億。それでどうじゃ?」

「……まだ多すぎるだろ?」

「そうか?

 ワシは『周』でそれなりにオーラを使ったが、百式観音3発で済んどるしの。護送車の運転は、むしろ楽しめたから別にええわい。……ノヴはどうじゃ?」

「……私は会長より全然楽でしたからね。

 待機のみの報酬で、1億でも充分ですが」

「それを言うと、こやつが文句言いそうじゃしの。

 ……作戦の立案、ゾルディックとの交戦の他にも、護送車の防護神字埋め込み、更には防護神字の緊急稼動までこなしておるでの。

 危険手当、慰謝料を加味すれば、16億というのはそこまで破格でもないと思うがな」

 

 ……俺の金銭感覚おかしいのか? やっぱり多すぎると思うんだが……

 

 うつむいていると、機械の操作音。

 

「……おい?」

 

「お主のライセンスに16億入金したぞ。話はしまいじゃ。返金は受け付けん」

「いや、押し付けるなよ。

 なんかムカつくんだけど」

「金がいるんじゃろうが。

 後で困らんように受け取っておかんか」

「ほどこされたようで、気分がよくないっつってんだよ」

「やかましーのぉ。

 お主の気分なぞ知るか。年長者の言うことを少しは聞けぃ」

「うわジジイ……

 それ言ったら、皆お前の言うこと聞くしかなくなるじゃねぇか。年齢ふりかざすなよ」

「ワシャ会長じゃぞ?

 ハンター協会で一番エラいんじゃ。

 ……後で困ったからといって、その時は助けてやらんぞ。大人しく受け取らんか」

 

 腕を組んで、溜め息を吐く。はぁ……

 

「分かったよ……。ありがたく頂戴する。

 どうせ返そうとしても受け取らないんだろ……

 その代わり、こいつらを牢屋に放り込むところまでは付き合うからな。

 ここで終わりにして、後で逃げられたとか聞かされたら、たまったもんじゃない」

 

「お主、忙しいんと違うんか。

 ……そうでなくても、かなり身体を痛めてオーラが残っとらんのじゃろ?」

 

 実際には2万近く潜在オーラを残してる。戦闘から緊急離脱もできないほどヘタる気はなかったしな。そこまで無謀じゃない。多分……

 

「戦いさえしなけりゃ平気だよ。

 ……別に牢屋へ入れるまでなら何日もかからないだろ?」

「今から数時間後には、ひとまず収監の手筈を整えておる。

 無論その後に裁判を行い、正式な収容所へ入ってもらうことになるがな」

「んじゃ、収監まで付き合うくらい問題ないさ。

 報酬はもちろん、そこまでを込みでさっきの額だ。

 交渉成立、な?」

「……よかろ。無理はするなよ?」

「へいへい。

 それじゃ2人とも、お疲れさん」

 

 ひらひらと手を振り、俺は休憩室に足を向ける。

 

 

 

 

 

「会長……

 あのままにしておいて大丈夫なのですか?」

 

 ノヴが心配げに尋ねる。ネテロも難しい表情を浮かべる。

 

「……

 助力を求めんのは、あやつの悪いクセじゃ。大概のことは何とかしてしまいよるしの。

 ワシラ大人が上から助けようとしても、拒むのがあやつの中で当たり前になっとる。

 困ったやつじゃ……」

 

 神字のエキスパートであり、稀代の能力者であるウラヌスは、ハンター協会にとっても欠くことのできない貴重な存在である。

 

 だが本人の中ではその意識はないようで、周囲が差し伸べた手を不要と払いのけるのが当然になっていた。ゆえにウラヌスは協会内でも孤立してしまっている。

 

 せめて近しい年齢の者であれば、ああも頑な(かたく )に拒まんかもしれんがな……と、ネテロはヒゲをさすりながら思案した。

 

 

 

 

 

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