どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

34 / 300
 
 
 
 バーンナッコォε≡c⌒っ.ω.)っ



 全国数百万人(当社予想)のアイシャファンの皆さま、長らくお待たせ致しました。

 舞台はグリードアイランド。
 旅団員3人と別れた後のアントキバ直前へと戻ります。







アントキバ編 2000/9/15
第二十九章


 

 歩を進めていくと、街並みがじりじりと視界の中で大きくなっていく。

 

 シソの木から歩いてきた場合の順路だろう、街路樹の立ち並ぶ大通りが目につく。ここまで来れば、4人とも迷わずそちらへと足を向ける。

 

「ねぇ?

 アタシ達、街の中ではフード被ってた方がいい?」

 

 後ろのメレオロンがそう尋ねてきて、私とウラヌスは顔を見合わせる。

 ウラヌスは少し悩んだ後、

 

「……とりあえず被ってた方がいいかな。

 プレイヤーがどれぐらいゲーム内に居るか分からないけど、わざわざ目立つメリットはないだろうし。

 気にしなくていいと判断したら、別に被らなくていいよ。ただ、今のアントキバはじき月例大会が始まるから絶対プレイヤーは居るだろうけど」

 

 それに私も首肯する。

 

「ええ。特にジャンケン大会であれば、誰にでもチャンスがありますからね。

 接触を避けたいといった理由がなければ、ここにプレイヤーは集まると思います。……大会に参加するかどうかは分かりませんけど」

 

 私はゴンとキルアの話を思い出す。どうも他プレイヤーに『わざわざ大会に出るなんてマヌケのやること』と言われて憤慨したらしい。……目立つからなぁ。分からない話でもない。

 

 ウラヌスには、奪われないようにする策があるみたいだけど。

 

「まずは月例大会の内容確認かな……

 アイシャ、もうちょっとだけゴハン我慢してね」

 

「あ、はい。

 ……大丈夫ですよ」

 

 オナカすいたなぁ。なんか、ずいぶん待たされてる気がする。なんでだろ?

 

 

 

 入口辺りから、あちこち貼り紙がされているのが見える。街路樹にまでペタペタ貼ってあった。

 その街路樹に括りつけられた幕には、『ようこそアントキバへ!』と書かれている。

 ようやく……到着したよ。懸賞都市アントキバに。私は気分を晴らすように「んー」と伸びをし、

 

「ここまで来るのに、ずいぶん時間かかりましたねぇ……」

「え? アイシャ結構寝てたじゃん」

 

 シームの指摘に、びくっとする。……あ、はい。そうでした。

 

「えっと……皆さんすいません。

 私のせいで、ここまで来るのが遅くなってしまって……」

 

 そう言うと、ウラヌスは不思議そうに首を傾げ、

 

「なんでだろ……

 俺も謝らなきゃいけない気がする」

「へ? なんでウラヌスが謝るんですか?」

「なんでだろ……」

 

 

 

 おそらくは月例大会の情報が手に入るところまで、まっすぐ歩いていくウラヌス。私は少し遅れて、懸賞の貼り紙だらけな街並みをきょろきょろ眺めて歩く。

 

 そんな私を、ウラヌスはちらりと見てきた。

 

「ん? なんです?」

「いや……

 ああ、アイシャ。あれだよ、月例大会行事表は」

 

 ウラヌスが差す指の先に、ちょっとした建物くらいの高さがある看板が立っている。

 

「ねぇねぇ、2人とも……

 アレに近づくの? なんか人いっぱい居ない?」

 

 メレオロンが、不安そうに小声で聞いてくる。

 

「ああ、アレはNPC──ゲームのキャラクターだから大丈夫だよ。

 念で具現化した人形で、人だかりを演出してるだけだから。

 まぁプレイヤーが混じってることもあるけどね」

 

 ウラヌスがそう話す。……うん。少なくともあの看板の前に居るのはそうかも。気配が薄く、念能力者は居なさそうだ。オーラが感じ取れない今の私でも、それくらいは分かる。

 

 私達4人は看板の近くまで来る。んー……看板の下の方が、人だかりでよく見えないな。6月と12月なんて全然分かんないぞ。偶数月は指定ポケットカードじゃないからいいけど……

 

「9月はジャンケン大会……

 これは変わってないな、うん。

 予想はしてたけど、アントキバの月例大会は種目に変更なしか」

 

 ウラヌスがうなずきながら、そう断言した。

 

「以前と何も変わってませんでした?」

「俺の記憶違いじゃなければね。3人ともちょっと待ってて」

 

 そう言い残し、ウラヌスは看板の前まで人だかりの中を進んでいく。──しばらくして戻ってきた。

 

「やっぱり全然変わってなかったよ。

 景品も全く同じ」

「ウラヌス……

 もしかして、奇数月だけじゃなくて偶数月まで覚えてたんですか?」

 

 私が呆れ半分に尋ねると、ウラヌスは苦笑しながら首肯した。

 

「指定ポケットじゃないだけで、偶数月も結構景品いいからね。

 まぁ無理して取る必要はないんだけどさ。

 えっと、ジャンケン大会は13時からだから、まだ5時間くらいあるね。

 それまでどうしよっか」

「ごはん……」

 

 私が力なくつぶやくと、

 

「あー、ゴメン。そうだった。

 でも金ないんだよな……なんか手っ取り早く懸賞をクリアして、金を手に入れないと。

 スペルカード売ってもいいけど、ちょっともったいないしなぁ」

 

 なんだろ。ゴンとキルアが、アントキバの懸賞でなんか言ってた気がする。確か……

 

「ウラヌス。

 ……早食い懸賞ってありませんか?」

「え?

 うん、まぁあるけど……俺、アレ無理なんだけど」

 

 自信なさげに言うウラヌス。私は覗きこむように顔を近づけ、

 

「あるんですね?」

「……あるけど。

 でも、失敗したら金取られるよ?」

「じゃあ私がやります」

「いや、ちょっと待って。

 アレ胃袋の大きさの何倍もの量が出てくるんだけど。

 早食いなだけじゃなく、大食いだよ?」

「いけます。大丈夫です。

 それくらいヘッチャラです。ゴンでも食べきれたそうですし」

「……アイシャ、なんかヤケになってない?

 挑戦するのはいいけど、ダメだった時のこと考えて、まず金を──」

 

「お・な・か、す・い・て・る・ん、ですッ!!

 いいから食べさせなさいッッ!!」

 

「ハイィィ! ただ今ご案内いたしますッ!!」

 

 なんかウラヌスが、直立不動でそんなこと言ってきた。……ダメだ。いらいらすると、バカなこと言いそうになる。早くオナカを満たそう、うん。

 

 ……お金がないってヤダなぁ。

 

 

 

 小さな飲食店。猫とフォークとスプーンが並んだ、特徴的な看板のお店に、私は1人で入る。3人はお店の入口で待機。私をガードする為に、他のプレイヤーがお店へ入れないようにしてるんだけど、完全に営業妨害だと思う。ゲームだし別にいいけどさ。

 

 店内に入ると注文を聞かれ、答えないでいると注文をしつこく聞かれるらしく、お金がない現状ではこうするしかない。……3人は大食いなんて無理、とハッキリ答えた。

 

「解せぬ」

「……ゲセヌ? 何だそりゃ」

「あ、いえ。

 こっちの話です……」

 

 注文を待ってる猫の顔した店長さんだか店員さんを横目に、メニューをペラペラめくる。

 最後の方に、早食い懸賞と記されたページがあった。これこれ。

 

 ……を?

 

 なんか種類あるぞ? ゴン達は巨大パスタって言ってたけど。元からこうだったのか、後から種類が増えたのか。まぁ繰り返し出来るイベントみたいだし、懸賞カードほしさにパスタばっかり頼むのもイヤだもんな。

 

 巨大パスタ、巨大カレー、巨大ラーメン、巨大シチュー、巨大ピラフ、巨大グラタン、とりあえず巨大って付けてるだけか……少しは名前を考えたらどうなんだ。

 

 うーん。どれにしよ……

 

 ん? なにこれ。

 めっちゃ気になる。ホントは他のが食べたいけど、すごい見てみたいぞコレ。

 

 私はその名前を指差し、

 

「この──巨大プリンください」

 

 耳ざとく反応したウラヌスが、背筋をピーンと伸ばし、引きつりまくった顔をした。

 

「アイシャッ!!

 なんでそんなネタに走るのッ!?」

「え?

 だって気になるじゃないですか。巨大なプリンですよ?」

「プリンですよ? じゃなくて!

 それ早食い懸賞だよ! 気になるとかじゃなくて! もっと真面目に!」

「あーまぁ。

 その通りですけど、注文しちゃいましたしー」

「もうやだ、オレなんでこんな心配ばっかしてるのー」

 

 めそめそするウラヌス。頭なでなでするシーム。あははは……色々スマンカッタ。

 

 

 

「30分以内に完食すれば、お代はタダ!!

 さらに『ガルガイダー』プレゼント!!

 それではスタート!」

 

「あっはっはっはっはっはッ!!」

 

 メレオロンが私のテーブルに出現したプリンを指差し、爆笑している。

 

 すごいな、これ……

 

 カラメルソースがたっぷりかかった、生クリームとチェリーが乗った、普通のプリン。……サイズ以外は。何だこの量。何人前だよコレ。巨大っていうか、山プリンじゃないか。渦巻くような生クリームの頂点に、普通の大きさのチェリーがぽつんと乗っかってる図は、笑いしか誘わない。

 

 ウラヌスとシームが青ざめた顔で、入口からそれを見てる。

 

「……ボク、見てるだけで気持ち悪いんだけど」

「シーム、あんなの見ちゃいけません!」

「ウラヌス?

 ……後でちょっとお話ししましょうか」

 

 軽く威嚇した後、私はスプーンを手に取る。……大きめのスプーンだけど、頼りないな。これ食べてる間に崩れてきたりしないだろうか。有り得るな、ヘタな食べ方したら……

 んー。同じ味ばっかりでも飽きてくるだろうし、この山をいかに攻めるか考えないと。

 

「あっはっはっはっっ!!

 アイシャ、めちゃくちゃマジな顔してるッ!! ホンキで食べようとしてるしッ!!

 アハハハハハッ!!」

 

 ぐ、ぬ……

 メレオロンくん、やめたまえ。気が散るじゃないか。

 

「ウラヌス、アレどれぐらいあるんだろ……」

「そうだな……

 バケツよりも量多そうだし、10リットルはあるんじゃないかな。ざっと100人前?」

「うぇー」

「……3人とも、気が散るんですけど」

 

 見物するのはいいけど、黙っててほしい。これ30分で平らげないといけないんだから。

 

 スプーンを山の中腹に差し込む。……む。けっこう硬いな。意外に崩れないんだろうか。

 

 

 

 味は悪くないんだけど、ゆっくり味わって食べると時間が足りなくなるので、オナカが空いてたこともあり、カッカッカッカッとテンポよく口に運ぶ。

 

 咀嚼なんてしてられない。プリンは飲み物です。

 

「うぇー」

「シーム、ほんと見ない方がいいよ……

 俺だって見ててツライのに」

「アーッハッハッハ!」

 

 うっさいなぁ……覚えてろよ、あんた達。言ったこと全部覚えてるからな?

 

 あー……でもちょっと飽きてきたかも。ペースあげよ。

 

 

 

 こんもり残った生クリームを全部口に入れ、最後にチェリー一房(ひとふさ)を頬張り。

 

 カチャーン! と、勢いよくスプーンを皿に落とした。

 

 パチパチパチパチ、と店員さん達から惜しみない拍手が送られる。

 

「アイヤー。やられたアル。見事、10分で完食!!

 ……賞品持ってくるアル」

「あっ、アイスソーダください」

「わかったアル」

 

「おおおぉおお……

 アイシャ、ホントに食べきったわね……

 アタシぜったい無理だと思ってたのに」

「ぼくも。

 ていうか、あの身体のどこに収まったんだろ……」

「……あ」

 

 3人が相変わらず何やら言ってる。……なんかウラヌスの反応が気になるな。

 

 見ると、ウラヌスが両手で顔を覆ってる。んん、アレ? 私、なんかやらかした?

 

「お待たせ、アイスソーダアル」

「あ、ども」

 

 甘味で麻痺しかけた口の中を、キンキンに冷えたソーダの酸味で潤す。あー、おいしい。やっぱり同じ味を大量にっていうのはキツイな。せめて次はプリン以外にしよう、うん。

 

「それと、賞品の『ガルガイダー』アル」

「どもども」

 

 お店の人が差し出してきたカードを、私は手を伸ばし受け取る。

 懸賞カードはタダメシのついでくらいのつもりだったけど、貰えるものは貰っておこう。

 

 

 

『1217:ガルガイダー』

 ランクF カード化限度枚数185

 この島の3大珍味の1つ

 外見からは想像できないほど 繊細な味がある 雌の卵には

 長寿の効果があると信じられている 煮ても焼いてもうまい

 

 

 

 ……この魚。

 

 見た目えぐいな。ゲテモノ? アレかな、深海魚かな。最初からカード状態で渡されてよかったよ。アイテム状態のはちょっと触れたくない。生臭そうだし。

 

 とりあえずカードをバインダーに仕舞い、アイスソーダを飲み干す。

 

「ふぅ」

 

 あんまり皆を待たせてもいけないし、そろそろ行きますか。色々言ってやりたいこともあるしな。

 

「それじゃ、ご馳走様です」

 

 私が席を立とうとすると、

 

「アイヤ待つアル」

 

 制止してくる店員さん。……お?

 

「巨大プリン、確かにタダなった。

 でも、他に注文したアイスソーダ有料ね。340ジェニーアル」

 

 あ……

 

 

 

 ────はあああああああぁぁぁッッッ!? しまったぁぁぁぁぁぁぁッッ!!

 

 

 

 ウラヌスを見ると、手で顔を覆ったまま首を左右に振っている。メレオロンとシームは、ぽかーんとしていた。

 

 お店の人が、目をピキーンと光らせ、

 

「340ジェニー! カードで」

 

 催促してくる。

 あー、うん。えっと……

 

「え……エヘ?」

 

 笑顔で誤魔化してみる。

 

「……」

 

 返事がない。

 

 と思ったら、コック服のポケットから携帯を取り出し、

 

「もしもしケーサツあるか?」

「ああああッ!?

 ちょっと待って! ちょっと待ってくださいぃっっっ!!」

「……なにアル」

「こ、この『ガルガイダー』でお支払いとか……ダメ?」

「お金カード以外、受け付けないアル。

 このお店に、お金を貯金してないアルね?」

「……は、はい」

「ケーサツがイヤなら、カラダで払ってもらうアル」

「カ、カラダ!?」

「ついてくるアル」

 

 

 

 

 

 店員に手を引っ張られて、「あーれー」などとちょっと楽しそうにしながら、店の奥へ連行されるアイシャ。

 

 ぐったりうつむくウラヌス。入口に取り残される3人。

 

「……ウラヌス。

 こういう場合って、どうなっちゃうの?」

 

 メレオロンの質問に、ウラヌスは気力で「ぐぐぐ……」と呻きながら頭を持ち上げ、

 

「えっとだな……

 普通お金が足りない時は、売買契約が成立しないからキャンセルされるだけなんだけど。

 ……食事とか宿泊とか、後払いのトコでお金が足りない場合、労働を対価に求められる。

 340ジェニーだから……今回の場合、1時間皿洗いとかだと思うけど」

 

「もし早食い失敗してたら、どうなったんですか?」

 

 シームの質問。ウラヌスは少し考え、

 

「早食い懸賞は、挑戦料1万ジェニーだから……

 丸一日、ここで強制労働だったな」

「うわぁ」

「……それに比べたら、まだよかったんじゃない?

 ところでカラダで払えとか言われてたけど、ホントに大丈夫なの?」

 

 メレオロンは真面目に尋ねるが、彼女が言うと何やら不審な感じが漂う。

 

 しばしウラヌスは沈黙した後、

 

「……

 そういうお店じゃないから、多分だいじょうぶ」

 

 これが恋愛都市アイアイとかだったらヤバかったかもしれない──と余計な心配をするウラヌス。あの街にはそういうお店もある、らしい。作りこみすぎなゲームである。

 

 念の為、ウラヌスは先ほどから『円』を使ってる。『円』は遮蔽物を貫通できないので、閉めきった部屋に入ったアイシャの動向は分からないが、厨房にいる間は分かる。なんかヤバかったら、アイシャも叫んで逃げ出すくらいするだろう。

 

「で? ここで1時間待つの?」

「……そうするしかないよ。1人で放っておくわけにもいかないし」

「ええー。ちょっと、最初っからこんな調子で大丈夫なの?」

「うーん……」

 

 頭を掻くウラヌス。──まいった。くだらないことでタイムロスしてしまった。

 

 ……が、それでアイシャを責められるかと言うと、やむを得ないとしか結論を出せないウラヌス。他の注文をしてはいけないと、予め初歩的な注意を怠った自身にも責任がある。……まさかグリードアイランド経験者であるアイシャが、こんな初歩的なミスをするとはウラヌスも思わなかったわけだが。

 

 

 

 

 

 厨房へと通されたアイシャは、他にお客さんも居なかったのに、やたら使用済み食器が溜まったキッチンを眺めつつ、

 

「えっと……

 皿洗いをすればいいんですか? それとも料理とか?」

 

 340ジェニーだし、そんな大したことをやらされはしないだろう──とアイシャは思っているのだが。

 

「こっちアル」

 

 なぜか更に奥の扉へと案内される。不思議がるアイシャ。

 

 扉の先は、更衣室。

 

「ん?」

 

 ロッカーが並んでいる。婦人用、と書かれたロッカーを店員は指差し、

 

「女性は接客アル。

 中の衣装に着替えて接客するアル」

 

「へ? ────はぁっ!?」

 

「さっさと着替えて仕事するアル。

 1時間仕事するまで帰さないアルよ。逃げたらケーサツ呼ぶアル」

 

「はぁぁぁっっ!?」

 

 ばたん。

 

 外に出て、無情に扉を閉める店員。選択の余地を奪われるアイシャ。

 

「……

 そりゃ、ケーサツに捕まるよりマシかもしれないけど……」

 

 どうにかならないものかと考えはするが、ここから穏便に出ないことには仲間と相談もできない。……ひとまず着替えるしかないようだ。

 

 おそるおそるロッカーに近づき、開く。

 

「……こ、これは」

 

 

 

 

 

 腕を組んで考え込んでいたウラヌスは、厨房から店内へ出てきたアイシャに目を向ける。

 

「んんッ!?」

「あーっ!」

「ほぉ……」

 

 三者三様に反応し。

 

 4人がそろって、首を傾げた。

 

 

 

 ────どうしてこうなった?

 

 

 

 完全無欠に、メイド服である。

 

 白と黒を基調にした、フリフリでスカート丈が短いアレである。首元の赤い蝶リボンがワンポイントな、非常にクラシカルとも言える伝統的な衣装である。……どう考えても、接客衣装としてはオカシイが。

 

 ──こういうの、ビスケにも着させられたなぁ……

 

 写真を撮られまくった時の、もやもやした思い出が甦るアイシャ。というか、その時の経験が着こなしを良くしている事実に、釈然としない気分だったりする。

 

 とりあえず入口付近にいる3人へ、アイシャは短い歩幅で近づき、

 

「えっとですね……

 ブック。

 誰か、この『ガルガイダー』をトレードショップで──」

 

 換金して支払いを済ませれば解放されるだろう、というつもりで渡そうとするアイシャ。

 

「……ああ、うん。分かったけど。

 期待しない方がいいよ」

 

 受け取りながら渋い顔をするウラヌスに、

 

「え? どういう意味ですか」

 

「……まぁすぐに分かるよ。

 えっと、メレオロン、シーム。何とか誰も入らないように粘ってくれ。

 急いで換金してくる」

 

 すぐさま走っていくウラヌス。

 言いつけ通り、入口を塞いだまま目前のアイシャを注視する2人。

 

「……その。あまりじろじろ見られましても」

「どう思う? シーム」

「どうって言われても」

 

 胸の辺りがやけに強調された衣装なので、そこばかり視線がいく。

 

「これってどう思う? シーム」

「おねーちゃんは、一体なにを聞いてるの」

 

 メレオロンはわざわざ指を差し、

 

「もちろんコレについてよ」

「聞かなくたって、分かりきってるじゃん」

「……」

 

 何が分かりきってるのか問い詰めたいが、ロクなことを言われそうにないので聞けないアイシャ。ていうか指を差すなと言いたい。

 

 

 

 しばらくして、ウラヌスが戻ってくる。

 

「はい。行ってごらん」

 

 

 

『607:10000J』

 ランクH カード化限度枚数∞

 G・Iの最高額の紙幣 カード化を解除した場合の形状は

 国際通貨紙幣と全く同じ

 (カード状でないとG・Iでは 無価値である)

 

 

 

 お金カードを手渡されるアイシャ。猛烈に嫌な予感がしつつも、アレさっきの店員さんドコいったと探す。顔がみんな同じで分からない。

 

 とりあえず適当に1人捕まえて、お金カードを提示しつつ、お支払いうんぬんの話をし。

 ──やがて悲しそうに、顔を両手で覆うアイシャ。メイド姿と相まって何とも言えない雰囲気を醸し出す。

 

「やっぱり……」

「ん? あれって、どういうことなの?」

 

 予想通りだったと言わんばかりのウラヌスに、メレオロンが尋ねる。

 

「……もう労働契約が結ばれてるから、後から払おうとしても解消できないんだよ。

 1時間接客、確定」

 

 トボトボと歩いてきて、お金カードを返すアイシャ。受け取り、さっさとバインダーに収めるウラヌス。

 

「ちきしょう……」

「だから言ったじゃん、期待するなって。

 さーて、俺達もメシにすっか。金ならあるし」

「さんせーい」

「ぼく、オナカぺこぺこ」

「……あなた達、ひどくないですか?」

 

 私が稼いだお金なのに、と不満げなアイシャ。

 

「だぁって、誰かさんは1人だけプリン平らげて満足してるし。

 俺達、まだ何も食べてないもーん」

 

 つーん。とするウラヌス。うぐぐ、と呻くアイシャ。概ね自業自得なのでどうしようもない。

 

 ぞろぞろと入ってくる3人。ガタガタ席につく。ウラヌスとメレオロンがドサドサッと荷物を降ろし。

 

 3人は、じーっとアイシャの方を見る。

 

「──なにしてるアル! 早く接客するアル!」

 

 当然、指示が飛ぶ。にやーっと笑う3人。

 

 こ、こいつらッ……!!

 

 アイシャは3人の席まで歩いていき、羞恥と怒りでぶるぶるぶるっと身を震わせ、

 

 

 

「……ぃ、……いっ…………!

 

 ──────ぃらっしゃいませッッッ!!」

 

 

 

 見た目だけ可愛い、阿修羅メイドがここに爆誕した。

 

 終了まで残り55分。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。