バーンナッコォε≡c⌒っ.ω.)っ
全国数百万人(当社予想)のアイシャファンの皆さま、長らくお待たせ致しました。
舞台はグリードアイランド。
旅団員3人と別れた後のアントキバ直前へと戻ります。
第二十九章
歩を進めていくと、街並みがじりじりと視界の中で大きくなっていく。
シソの木から歩いてきた場合の順路だろう、街路樹の立ち並ぶ大通りが目につく。ここまで来れば、4人とも迷わずそちらへと足を向ける。
「ねぇ?
アタシ達、街の中ではフード被ってた方がいい?」
後ろのメレオロンがそう尋ねてきて、私とウラヌスは顔を見合わせる。
ウラヌスは少し悩んだ後、
「……とりあえず被ってた方がいいかな。
プレイヤーがどれぐらいゲーム内に居るか分からないけど、わざわざ目立つメリットはないだろうし。
気にしなくていいと判断したら、別に被らなくていいよ。ただ、今のアントキバはじき月例大会が始まるから絶対プレイヤーは居るだろうけど」
それに私も首肯する。
「ええ。特にジャンケン大会であれば、誰にでもチャンスがありますからね。
接触を避けたいといった理由がなければ、ここにプレイヤーは集まると思います。……大会に参加するかどうかは分かりませんけど」
私はゴンとキルアの話を思い出す。どうも他プレイヤーに『わざわざ大会に出るなんてマヌケのやること』と言われて憤慨したらしい。……目立つからなぁ。分からない話でもない。
ウラヌスには、奪われないようにする策があるみたいだけど。
「まずは月例大会の内容確認かな……
アイシャ、もうちょっとだけゴハン我慢してね」
「あ、はい。
……大丈夫ですよ」
オナカすいたなぁ。なんか、ずいぶん待たされてる気がする。なんでだろ?
入口辺りから、あちこち貼り紙がされているのが見える。街路樹にまでペタペタ貼ってあった。
その街路樹に括りつけられた幕には、『ようこそアントキバへ!』と書かれている。
ようやく……到着したよ。懸賞都市アントキバに。私は気分を晴らすように「んー」と伸びをし、
「ここまで来るのに、ずいぶん時間かかりましたねぇ……」
「え? アイシャ結構寝てたじゃん」
シームの指摘に、びくっとする。……あ、はい。そうでした。
「えっと……皆さんすいません。
私のせいで、ここまで来るのが遅くなってしまって……」
そう言うと、ウラヌスは不思議そうに首を傾げ、
「なんでだろ……
俺も謝らなきゃいけない気がする」
「へ? なんでウラヌスが謝るんですか?」
「なんでだろ……」
おそらくは月例大会の情報が手に入るところまで、まっすぐ歩いていくウラヌス。私は少し遅れて、懸賞の貼り紙だらけな街並みをきょろきょろ眺めて歩く。
そんな私を、ウラヌスはちらりと見てきた。
「ん? なんです?」
「いや……
ああ、アイシャ。あれだよ、月例大会行事表は」
ウラヌスが差す指の先に、ちょっとした建物くらいの高さがある看板が立っている。
「ねぇねぇ、2人とも……
アレに近づくの? なんか人いっぱい居ない?」
メレオロンが、不安そうに小声で聞いてくる。
「ああ、アレはNPC──ゲームのキャラクターだから大丈夫だよ。
念で具現化した人形で、人だかりを演出してるだけだから。
まぁプレイヤーが混じってることもあるけどね」
ウラヌスがそう話す。……うん。少なくともあの看板の前に居るのはそうかも。気配が薄く、念能力者は居なさそうだ。オーラが感じ取れない今の私でも、それくらいは分かる。
私達4人は看板の近くまで来る。んー……看板の下の方が、人だかりでよく見えないな。6月と12月なんて全然分かんないぞ。偶数月は指定ポケットカードじゃないからいいけど……
「9月はジャンケン大会……
これは変わってないな、うん。
予想はしてたけど、アントキバの月例大会は種目に変更なしか」
ウラヌスがうなずきながら、そう断言した。
「以前と何も変わってませんでした?」
「俺の記憶違いじゃなければね。3人ともちょっと待ってて」
そう言い残し、ウラヌスは看板の前まで人だかりの中を進んでいく。──しばらくして戻ってきた。
「やっぱり全然変わってなかったよ。
景品も全く同じ」
「ウラヌス……
もしかして、奇数月だけじゃなくて偶数月まで覚えてたんですか?」
私が呆れ半分に尋ねると、ウラヌスは苦笑しながら首肯した。
「指定ポケットじゃないだけで、偶数月も結構景品いいからね。
まぁ無理して取る必要はないんだけどさ。
えっと、ジャンケン大会は13時からだから、まだ5時間くらいあるね。
それまでどうしよっか」
「ごはん……」
私が力なくつぶやくと、
「あー、ゴメン。そうだった。
でも金ないんだよな……なんか手っ取り早く懸賞をクリアして、金を手に入れないと。
スペルカード売ってもいいけど、ちょっともったいないしなぁ」
なんだろ。ゴンとキルアが、アントキバの懸賞でなんか言ってた気がする。確か……
「ウラヌス。
……早食い懸賞ってありませんか?」
「え?
うん、まぁあるけど……俺、アレ無理なんだけど」
自信なさげに言うウラヌス。私は覗きこむように顔を近づけ、
「あるんですね?」
「……あるけど。
でも、失敗したら金取られるよ?」
「じゃあ私がやります」
「いや、ちょっと待って。
アレ胃袋の大きさの何倍もの量が出てくるんだけど。
早食いなだけじゃなく、大食いだよ?」
「いけます。大丈夫です。
それくらいヘッチャラです。ゴンでも食べきれたそうですし」
「……アイシャ、なんかヤケになってない?
挑戦するのはいいけど、ダメだった時のこと考えて、まず金を──」
「お・な・か、す・い・て・る・ん、ですッ!!
いいから食べさせなさいッッ!!」
「ハイィィ! ただ今ご案内いたしますッ!!」
なんかウラヌスが、直立不動でそんなこと言ってきた。……ダメだ。いらいらすると、バカなこと言いそうになる。早くオナカを満たそう、うん。
……お金がないってヤダなぁ。
小さな飲食店。猫とフォークとスプーンが並んだ、特徴的な看板のお店に、私は1人で入る。3人はお店の入口で待機。私をガードする為に、他のプレイヤーがお店へ入れないようにしてるんだけど、完全に営業妨害だと思う。ゲームだし別にいいけどさ。
店内に入ると注文を聞かれ、答えないでいると注文をしつこく聞かれるらしく、お金がない現状ではこうするしかない。……3人は大食いなんて無理、とハッキリ答えた。
「解せぬ」
「……ゲセヌ? 何だそりゃ」
「あ、いえ。
こっちの話です……」
注文を待ってる猫の顔した店長さんだか店員さんを横目に、メニューをペラペラめくる。
最後の方に、早食い懸賞と記されたページがあった。これこれ。
……を?
なんか種類あるぞ? ゴン達は巨大パスタって言ってたけど。元からこうだったのか、後から種類が増えたのか。まぁ繰り返し出来るイベントみたいだし、懸賞カードほしさにパスタばっかり頼むのもイヤだもんな。
巨大パスタ、巨大カレー、巨大ラーメン、巨大シチュー、巨大ピラフ、巨大グラタン、とりあえず巨大って付けてるだけか……少しは名前を考えたらどうなんだ。
うーん。どれにしよ……
ん? なにこれ。
めっちゃ気になる。ホントは他のが食べたいけど、すごい見てみたいぞコレ。
私はその名前を指差し、
「この──巨大プリンください」
耳ざとく反応したウラヌスが、背筋をピーンと伸ばし、引きつりまくった顔をした。
「アイシャッ!!
なんでそんなネタに走るのッ!?」
「え?
だって気になるじゃないですか。巨大なプリンですよ?」
「プリンですよ? じゃなくて!
それ早食い懸賞だよ! 気になるとかじゃなくて! もっと真面目に!」
「あーまぁ。
その通りですけど、注文しちゃいましたしー」
「もうやだ、オレなんでこんな心配ばっかしてるのー」
めそめそするウラヌス。頭なでなでするシーム。あははは……色々スマンカッタ。
「30分以内に完食すれば、お代はタダ!!
さらに『ガルガイダー』プレゼント!!
それではスタート!」
「あっはっはっはっはっはッ!!」
メレオロンが私のテーブルに出現したプリンを指差し、爆笑している。
すごいな、これ……
カラメルソースがたっぷりかかった、生クリームとチェリーが乗った、普通のプリン。……サイズ以外は。何だこの量。何人前だよコレ。巨大っていうか、山プリンじゃないか。渦巻くような生クリームの頂点に、普通の大きさのチェリーがぽつんと乗っかってる図は、笑いしか誘わない。
ウラヌスとシームが青ざめた顔で、入口からそれを見てる。
「……ボク、見てるだけで気持ち悪いんだけど」
「シーム、あんなの見ちゃいけません!」
「ウラヌス?
……後でちょっとお話ししましょうか」
軽く威嚇した後、私はスプーンを手に取る。……大きめのスプーンだけど、頼りないな。これ食べてる間に崩れてきたりしないだろうか。有り得るな、ヘタな食べ方したら……
んー。同じ味ばっかりでも飽きてくるだろうし、この山をいかに攻めるか考えないと。
「あっはっはっはっっ!!
アイシャ、めちゃくちゃマジな顔してるッ!! ホンキで食べようとしてるしッ!!
アハハハハハッ!!」
ぐ、ぬ……
メレオロンくん、やめたまえ。気が散るじゃないか。
「ウラヌス、アレどれぐらいあるんだろ……」
「そうだな……
バケツよりも量多そうだし、10リットルはあるんじゃないかな。ざっと100人前?」
「うぇー」
「……3人とも、気が散るんですけど」
見物するのはいいけど、黙っててほしい。これ30分で平らげないといけないんだから。
スプーンを山の中腹に差し込む。……む。けっこう硬いな。意外に崩れないんだろうか。
味は悪くないんだけど、ゆっくり味わって食べると時間が足りなくなるので、オナカが空いてたこともあり、カッカッカッカッとテンポよく口に運ぶ。
咀嚼なんてしてられない。プリンは飲み物です。
「うぇー」
「シーム、ほんと見ない方がいいよ……
俺だって見ててツライのに」
「アーッハッハッハ!」
うっさいなぁ……覚えてろよ、あんた達。言ったこと全部覚えてるからな?
あー……でもちょっと飽きてきたかも。ペースあげよ。
こんもり残った生クリームを全部口に入れ、最後にチェリー
カチャーン! と、勢いよくスプーンを皿に落とした。
パチパチパチパチ、と店員さん達から惜しみない拍手が送られる。
「アイヤー。やられたアル。見事、10分で完食!!
……賞品持ってくるアル」
「あっ、アイスソーダください」
「わかったアル」
「おおおぉおお……
アイシャ、ホントに食べきったわね……
アタシぜったい無理だと思ってたのに」
「ぼくも。
ていうか、あの身体のどこに収まったんだろ……」
「……あ」
3人が相変わらず何やら言ってる。……なんかウラヌスの反応が気になるな。
見ると、ウラヌスが両手で顔を覆ってる。んん、アレ? 私、なんかやらかした?
「お待たせ、アイスソーダアル」
「あ、ども」
甘味で麻痺しかけた口の中を、キンキンに冷えたソーダの酸味で潤す。あー、おいしい。やっぱり同じ味を大量にっていうのはキツイな。せめて次はプリン以外にしよう、うん。
「それと、賞品の『ガルガイダー』アル」
「どもども」
お店の人が差し出してきたカードを、私は手を伸ばし受け取る。
懸賞カードはタダメシのついでくらいのつもりだったけど、貰えるものは貰っておこう。
『1217:ガルガイダー』
ランクF カード化限度枚数185
この島の3大珍味の1つ
外見からは想像できないほど 繊細な味がある 雌の卵には
長寿の効果があると信じられている 煮ても焼いてもうまい
……この魚。
見た目えぐいな。ゲテモノ? アレかな、深海魚かな。最初からカード状態で渡されてよかったよ。アイテム状態のはちょっと触れたくない。生臭そうだし。
とりあえずカードをバインダーに仕舞い、アイスソーダを飲み干す。
「ふぅ」
あんまり皆を待たせてもいけないし、そろそろ行きますか。色々言ってやりたいこともあるしな。
「それじゃ、ご馳走様です」
私が席を立とうとすると、
「アイヤ待つアル」
制止してくる店員さん。……お?
「巨大プリン、確かにタダなった。
でも、他に注文したアイスソーダ有料ね。340ジェニーアル」
あ……
────はあああああああぁぁぁッッッ!? しまったぁぁぁぁぁぁぁッッ!!
ウラヌスを見ると、手で顔を覆ったまま首を左右に振っている。メレオロンとシームは、ぽかーんとしていた。
お店の人が、目をピキーンと光らせ、
「340ジェニー! カードで」
催促してくる。
あー、うん。えっと……
「え……エヘ?」
笑顔で誤魔化してみる。
「……」
返事がない。
と思ったら、コック服のポケットから携帯を取り出し、
「もしもしケーサツあるか?」
「ああああッ!?
ちょっと待って! ちょっと待ってくださいぃっっっ!!」
「……なにアル」
「こ、この『ガルガイダー』でお支払いとか……ダメ?」
「お金カード以外、受け付けないアル。
このお店に、お金を貯金してないアルね?」
「……は、はい」
「ケーサツがイヤなら、カラダで払ってもらうアル」
「カ、カラダ!?」
「ついてくるアル」
店員に手を引っ張られて、「あーれー」などとちょっと楽しそうにしながら、店の奥へ連行されるアイシャ。
ぐったりうつむくウラヌス。入口に取り残される3人。
「……ウラヌス。
こういう場合って、どうなっちゃうの?」
メレオロンの質問に、ウラヌスは気力で「ぐぐぐ……」と呻きながら頭を持ち上げ、
「えっとだな……
普通お金が足りない時は、売買契約が成立しないからキャンセルされるだけなんだけど。
……食事とか宿泊とか、後払いのトコでお金が足りない場合、労働を対価に求められる。
340ジェニーだから……今回の場合、1時間皿洗いとかだと思うけど」
「もし早食い失敗してたら、どうなったんですか?」
シームの質問。ウラヌスは少し考え、
「早食い懸賞は、挑戦料1万ジェニーだから……
丸一日、ここで強制労働だったな」
「うわぁ」
「……それに比べたら、まだよかったんじゃない?
ところでカラダで払えとか言われてたけど、ホントに大丈夫なの?」
メレオロンは真面目に尋ねるが、彼女が言うと何やら不審な感じが漂う。
しばしウラヌスは沈黙した後、
「……
そういうお店じゃないから、多分だいじょうぶ」
これが恋愛都市アイアイとかだったらヤバかったかもしれない──と余計な心配をするウラヌス。あの街にはそういうお店もある、らしい。作りこみすぎなゲームである。
念の為、ウラヌスは先ほどから『円』を使ってる。『円』は遮蔽物を貫通できないので、閉めきった部屋に入ったアイシャの動向は分からないが、厨房にいる間は分かる。なんかヤバかったら、アイシャも叫んで逃げ出すくらいするだろう。
「で? ここで1時間待つの?」
「……そうするしかないよ。1人で放っておくわけにもいかないし」
「ええー。ちょっと、最初っからこんな調子で大丈夫なの?」
「うーん……」
頭を掻くウラヌス。──まいった。くだらないことでタイムロスしてしまった。
……が、それでアイシャを責められるかと言うと、やむを得ないとしか結論を出せないウラヌス。他の注文をしてはいけないと、予め初歩的な注意を怠った自身にも責任がある。……まさかグリードアイランド経験者であるアイシャが、こんな初歩的なミスをするとはウラヌスも思わなかったわけだが。
厨房へと通されたアイシャは、他にお客さんも居なかったのに、やたら使用済み食器が溜まったキッチンを眺めつつ、
「えっと……
皿洗いをすればいいんですか? それとも料理とか?」
340ジェニーだし、そんな大したことをやらされはしないだろう──とアイシャは思っているのだが。
「こっちアル」
なぜか更に奥の扉へと案内される。不思議がるアイシャ。
扉の先は、更衣室。
「ん?」
ロッカーが並んでいる。婦人用、と書かれたロッカーを店員は指差し、
「女性は接客アル。
中の衣装に着替えて接客するアル」
「へ? ────はぁっ!?」
「さっさと着替えて仕事するアル。
1時間仕事するまで帰さないアルよ。逃げたらケーサツ呼ぶアル」
「はぁぁぁっっ!?」
ばたん。
外に出て、無情に扉を閉める店員。選択の余地を奪われるアイシャ。
「……
そりゃ、ケーサツに捕まるよりマシかもしれないけど……」
どうにかならないものかと考えはするが、ここから穏便に出ないことには仲間と相談もできない。……ひとまず着替えるしかないようだ。
おそるおそるロッカーに近づき、開く。
「……こ、これは」
腕を組んで考え込んでいたウラヌスは、厨房から店内へ出てきたアイシャに目を向ける。
「んんッ!?」
「あーっ!」
「ほぉ……」
三者三様に反応し。
4人がそろって、首を傾げた。
────どうしてこうなった?
完全無欠に、メイド服である。
白と黒を基調にした、フリフリでスカート丈が短いアレである。首元の赤い蝶リボンがワンポイントな、非常にクラシカルとも言える伝統的な衣装である。……どう考えても、接客衣装としてはオカシイが。
──こういうの、ビスケにも着させられたなぁ……
写真を撮られまくった時の、もやもやした思い出が甦るアイシャ。というか、その時の経験が着こなしを良くしている事実に、釈然としない気分だったりする。
とりあえず入口付近にいる3人へ、アイシャは短い歩幅で近づき、
「えっとですね……
ブック。
誰か、この『ガルガイダー』をトレードショップで──」
換金して支払いを済ませれば解放されるだろう、というつもりで渡そうとするアイシャ。
「……ああ、うん。分かったけど。
期待しない方がいいよ」
受け取りながら渋い顔をするウラヌスに、
「え? どういう意味ですか」
「……まぁすぐに分かるよ。
えっと、メレオロン、シーム。何とか誰も入らないように粘ってくれ。
急いで換金してくる」
すぐさま走っていくウラヌス。
言いつけ通り、入口を塞いだまま目前のアイシャを注視する2人。
「……その。あまりじろじろ見られましても」
「どう思う? シーム」
「どうって言われても」
胸の辺りがやけに強調された衣装なので、そこばかり視線がいく。
「これってどう思う? シーム」
「おねーちゃんは、一体なにを聞いてるの」
メレオロンはわざわざ指を差し、
「もちろんコレについてよ」
「聞かなくたって、分かりきってるじゃん」
「……」
何が分かりきってるのか問い詰めたいが、ロクなことを言われそうにないので聞けないアイシャ。ていうか指を差すなと言いたい。
しばらくして、ウラヌスが戻ってくる。
「はい。行ってごらん」
『607:10000J』
ランクH カード化限度枚数∞
G・Iの最高額の紙幣 カード化を解除した場合の形状は
国際通貨紙幣と全く同じ
(カード状でないとG・Iでは 無価値である)
お金カードを手渡されるアイシャ。猛烈に嫌な予感がしつつも、アレさっきの店員さんドコいったと探す。顔がみんな同じで分からない。
とりあえず適当に1人捕まえて、お金カードを提示しつつ、お支払いうんぬんの話をし。
──やがて悲しそうに、顔を両手で覆うアイシャ。メイド姿と相まって何とも言えない雰囲気を醸し出す。
「やっぱり……」
「ん? あれって、どういうことなの?」
予想通りだったと言わんばかりのウラヌスに、メレオロンが尋ねる。
「……もう労働契約が結ばれてるから、後から払おうとしても解消できないんだよ。
1時間接客、確定」
トボトボと歩いてきて、お金カードを返すアイシャ。受け取り、さっさとバインダーに収めるウラヌス。
「ちきしょう……」
「だから言ったじゃん、期待するなって。
さーて、俺達もメシにすっか。金ならあるし」
「さんせーい」
「ぼく、オナカぺこぺこ」
「……あなた達、ひどくないですか?」
私が稼いだお金なのに、と不満げなアイシャ。
「だぁって、誰かさんは1人だけプリン平らげて満足してるし。
俺達、まだ何も食べてないもーん」
つーん。とするウラヌス。うぐぐ、と呻くアイシャ。概ね自業自得なのでどうしようもない。
ぞろぞろと入ってくる3人。ガタガタ席につく。ウラヌスとメレオロンがドサドサッと荷物を降ろし。
3人は、じーっとアイシャの方を見る。
「──なにしてるアル! 早く接客するアル!」
当然、指示が飛ぶ。にやーっと笑う3人。
こ、こいつらッ……!!
アイシャは3人の席まで歩いていき、羞恥と怒りでぶるぶるぶるっと身を震わせ、
「……ぃ、……いっ…………!
──────ぃらっしゃいませッッッ!!」
見た目だけ可愛い、阿修羅メイドがここに爆誕した。
終了まで残り55分。