「さて。なにか面白そうなのは見つかった?」
10分ほど見て回ったところで、ウラヌスが全員を集め、道の真ん中で話を始める。
シームが難しい顔で、
「……ボクはよく分かんないです。
これってゲームのイベントかな……? っていうのもありますし」
「アタシもー。
ていうか、アルバイトみたいなの多すぎない?」
続くメレオロンの苦言に、苦笑いするウラヌス。
「そうだな。リスクなく労働力の提供で金を稼げる点は魅力なんだけど、俺達がやることじゃないし、念能力者がやることでもない。
アレは覚悟なくここへ来ちゃった人間向けの救済策だよ。
ただの仕事、急場をしのぐ為のアルバイトとしてあるんだと思う。
ああいうのも置いとかないと、帰れないプレイヤーとか怪我して戦えなくなったヤツは詰んじゃうからな」
「ああ、そういうこと……なら仕方ないわね」
「……」
割と長いことグリードアイランドしてるのに、うっかりアルバイトしちゃった現在非念能力者な私への皮肉だろうか。……いや、余計なこと考えるのはよそう。
「アイシャは良さげなのあった?」
ウラヌスが尋ねてくるので、私はいくつか思いだしてみるものの、
「……面白そうなのは、なくもないんですけど。
戦ったりとかはアレですし、物探しや人探しも今の私では……
あんまり楽しくはなさそうですから」
「ああ、まぁそっか。んー」
そこまで言った後、ウラヌスは声のトーンを抑える。
「……念能力必要としない懸賞って、時間かかるもんなぁ。
アイシャが参加できるやつで、短時間で済む懸賞はあんまりないかも……」
「すいません……」
「いや、アイシャが悪いわけでもないし、責めてるわけでもないよ。
なんか具合いいのが見つかれば良かったんだけど……なかなか難しいね」
「……」
困ったなぁ。これって今後も出てくる問題だろうしな……こんな調子で私にゲーム攻略なんて出来るのか?
話を聞いていたメレオロンが首を傾げつつ、
「あのさ。そもそも懸賞と仕事って、どうやって見分けるの?
見てても、アレどっちだろ? って結構あったんだけど」
「うん、ボクも分かんなかった」
姉弟の言葉に、ウラヌスは肩をすくめつつ、
「それは簡単。
報酬が、金かアイテムか。アイテムなら懸賞確定。
金はほぼ労働。中には金が報酬の懸賞もなくはないけど、基本それで見分けられる」
「やっぱりそうですよね」
「あ、そういうこと? なんだ簡単じゃないの」
「んー……」
私とメレオロンがうんうん頷く。シームはピンと来ていない様子。仕事を探したことがないと、よく分かんないかもな。
「それなら1つ気になったのがあったんだけど」
メレオロンがそう切り出し、私達の視線を集める。
「なんか病気の彼女をお見舞いしたいから、見舞いに持っていく花を見つくろってほしいっていうのがあって。成功報酬がブローチの」
「あー、アレかぁ……」
知っていたようで、ウラヌスが思い出したらしい顔をする。
「そんなのあるんですか。
花屋さんで買ってくればいいだけなら、簡単そうですけど……」
私の言葉に、「んー」とウラヌスが腕を組んで唸る。
「そう思って、やってみるでしょ。……意外に難しいんだわ。
あれって条件
そのくせ、あれダメこれダメってひたすらダメ出しされて、オマケに持っていった花は毎回取られるから、延々と花代むしられる」
『うわー』
3人の声がハモった。完全に地雷イベントだ……
「例えば彼女は体温が低いから、寒色系の青い花が嫌いとか。
病人は香りに対して耐性が低いから、匂いのキツい花はダメとか。
そんな調子で、20種の花から選んで当たりを探ってく。ピッタリ当てるまで続く。
……ちなみに1種類だけ持っていったりすると、ヒントもくれずに論外って弾かれる。花束じゃないだろって」
『うわー……』
としか言えない。簡単に見せかけて、ほんとヒドイな。
「花屋と正解を確認する彼氏の居場所も、絶妙に往復めんどいしな。
花代は平均1500ジェニー。クリア報酬のクリスタルブローチの売り値は30000ジェニー。だから単純計算で、20種買うまでにアタリ引けなかったら赤字。
後このイベントは、お一人様一回成功で終了。一人で2つ以上取れない」
メレオロンがふと考え、
「じゃあ誰かが正解知ってたら、4つ取って黒字になるんじゃない?
ていうか、ウラヌスはクリアしたんじゃないの?」
「……したよ。前回俺一人だから、10000ジェニーくらい赤字だったけどな。
でも、今も同じ条件でクリアできるって保証はないぞ?
同じなら、俺の知ってる8種類持ってけばクリアできるけど」
シームが首を傾げ、
「試してみないんですか?」
「……。
正解の花は、微妙に高いのが多くて。確か全部で14000ジェニーくらいかかる。
で、今の予算は27000ジェニー。
……試したくない理由、分かってくれる?」
私は「あー」と頬をかく。自分で稼いだお金だから、ちょっとヤダなぁ。
「それは失敗した時、痛すぎますね……」
「ついでに言えば、他のプレイヤーと同じ答えとは限らないしな……
俺一人じゃそういうの確かめられないし、他にあのイベント成功させたヤツ見つけられなかったから、その情報持ってないんだよ」
「……やめておきましょう」
私がそう言うと、3人とも頷いた。
ウラヌスは改めて私達を見回し、
「みんな、他にこれっていう懸賞はない感じ?」
「私はありませんね」
「アタシも、さっきのがダメなら全滅だわ」
「ボクもなかったです」
「おっけ。
んじゃま、俺のオススメやってみますかね」
言って、ウラヌスは懸賞の貼られた壁に向かって歩く。私達も付いていく。
「これ。
うまくいけば30分で済む」
懸賞の貼り紙を、こちらを向きながら親指で差す。
アントキバに出没する怪盗ブラックから、挑戦状が届いた! 警察連中は何度もヤツを逃がしていて頼りにならない。捕獲してくれれば30000ジェニーを────
メレオロンと私が『んー?』と訝しむ。これって……
「報酬がお金なんだけど」
「もしかしてバトルになるんじゃないんですか?
それにしては微妙な報酬ですけど……」
ていうか怪盗ブラックってなんだ。ネーミングセンス息してないぞ……
指摘する私達に、苦笑しながらウラヌスは、
「例外パターンだな。
これはれっきとした懸賞だけど、報酬は金。労働じゃなくて実際ガチバトルするやつ。
何度でもやれるイベントなんだけど、成功すると同じ日はもうできない」
それを聞いても、私とメレオロンは首を傾げる。割には合わなさそうなんだけどな。
シームが小さく手を上げ、
「バトルって、敵と戦うってことでいいんですよね?」
「ん。そうだよ」
「敵と戦った時、何かアイテムって手に入るんですか?」
なぜかウラヌスが回答を迷っているので、私が口を挟む。
「怪物や敵を倒すと、その相手がカード化しますね。
それを売ってお金を稼ぎます」
説明した私に、シームは窺うような目を向け、
「えっと、そうじゃなくて……
倒した後、なんかレアアイテムとか落とさないのかなって」
んん?
あったっけな、そんなの……。シームの言いたいことは分かるんだけど。普通のゲームだとそういうのは良くあるしな。でも私の知る限り、ここでそんなことは一度もなかったはず……
私が考えていると、ウラヌスは笑顔を見せていた。お?
「シーム、正解。
俺もこのイベント、なんか妙だなと思って調べてみたんだよ。
で、条件を満たすと敵がアイテム落とした。魔剣を入手できる隠しイベントだったってオチ」
「へぇー。すごいですね……」
感嘆の声を上げるシーム。あるんだ、そんなの。魔剣か……いかにもゲームチックだな。
「ちなみに魔剣を入手すると、もうこのイベント自体できなくなる。
でも、ま。見返りは充分あるし、元々何度もやりたいような楽なイベントじゃないから、大して惜しくないかな。
というわけで早速挑戦する。
アイシャはどう? 参加する?」
「え?」
バトルイベントに参加? ……いきなり言われても。
「私も戦うんですか?」
「まさか。
戦ってるところを見学する? って意味で聞いてる」
「んんー……
見学だけでも危険じゃないですか?」
「そうだなぁ……
離れて見てる分には大丈夫だと思うけど。
基本的に俺1人で対処するし、危なくなったらメレオロンとシームに守ってもらいつつ退避で。修行の一環にはなるんじゃない?」
「んー……」
多分、危険ではある。念能力を甘く見てはいけない。相手の実力を知らない以上、私も大丈夫なんて軽々には言えないしな。
ただウラヌスの言いたいことも分かる。念なしでどこまで対処できるかは、間違いなく私の修行になるし、何より私を守るのはメレオロンとシームにとってもいい修行だろう。……なんか腑に落ちないけど。
一つだけ分かってるのは──
ここで安全策を採れば、前回と同じ流れになるってことか。……そっちの方が、余計に足引っ張りそうなんだよな。
メレオロンが私の方をちらりと見ながら、
「ちなみにアイシャが断ったら、どうするの?」
「俺1人でさっさと戦いだけ済ませてくるよ。
3人はその間、別の場所で待機。どっちにしてもアイシャの護衛はしてもらわないと」
はー。……だよなぁ。そうなると私の為に、姉弟が戦いを見学する機会まで奪っちゃうわけだ。もう選択の余地ないじゃないか……
「……分かりました。私も参加します。
3人とも、よろしくお願いしますね?」
「あいあいさー!」
「お姫様の為とあれば!」
シームとメレオロンが敬礼しつつ、おかしな了承の仕方をする。
「シーム。
女性に対しては『サー』じゃありませんよ」
「え?
こういう時って、そう言うもんじゃないの?」
やっぱり知らずにノリで言ってたか……どうでもいいけどさ。
おそらく分かっているのだろうウラヌスは、私達のやりとりに含み笑いをしつつ、
「じゃ、行こうか。
まず依頼主に会って、依頼を受けたら倉庫へゴー。
……前と同じなら、だけど」
懸賞の貼り紙に書かれていた依頼主のところへ赴き、なぜか路地裏みたいな場所に居た男性から依頼を受領。依頼主が説明した、挑戦状に記されていたという倉庫へと向かう。
「ここ。
……前と同じだな」
足を止め、ウラヌスがそうつぶやく。
他の建物に比べ、装飾のない無骨な建造物。入口は大きな両開きの扉で閉ざされている。いかにも倉庫だな。
「扉から中には入らないようにしてね。基本的に怪盗は、倉庫の外に出ようとしないから。
一定時間粘るか、武器を壊したりすると扉から外へ逃げだそうとするんだけど、その時だけ注意してくれれば大丈夫。そもそも逃がす気もないし」
背負った荷物を降ろしながら説明するウラヌスに、私は1つ確認しておく。
「ちなみに武器破壊すると、イベント的にはどうなるんですか?」
「えっと……
最初にディスアームを狙ったら、うっかりアームブレイクさせちゃったんだけど……
次回また普通にイベントは発生する。その時、壊した魔剣も復活してる」
ふむ。……アームブレイクは多分武器破壊のことだと思うけど、ディスアーム?
私達が疑問符を浮かべたのを見て、『あ』という顔をするウラヌス。
「ごめん、うっかり。
説明すると、アームブレイクは武器破壊の意味──なのは、流石に分かるか。
ディスアームは、武装解除の意味。この場合は相手の武器を奪うことかな。
具体的には、武器を持った手を叩く、地面に落とさせる、それを拾う」
「なるほど、拳法における対武器術ですね」
「その通り。よくご存知で。
奪うのが目的じゃなかったり、自分も武器を持ってるなら違う方法もあるけど、今回はそれ」
うむうむ。やっぱりゲーム寄りの説明より、武術の説明の方が分かりやすいな。
というか……
ウラヌスこそよく知ってたよ。マジで文武両道だな。これでぼっちだったとか嘘でしょ。全部1人で調べて覚えたのか? 年齢詐称、本気で疑うぞ?
「行くよ」
疑問に思ってると、ウラヌスはおもむろに扉を開け放った。私は思考を切り替える。
薄暗い倉庫内。入口と明かり取りの窓から射し込む光に照らされた内部は、大小様々なサイズの木箱がパズルのようにあちこち積み上げられている。
ウラヌスが倉庫内へ両足を踏み入れた途端、
「ようこそ、警察の諸君!」
……。
なんというか、鳥肌が立ちそうな言葉が聞こえた。倉庫奥の木箱が高く積み上げられたところに、誰かが立っている。まるでスポットライトのように、窓の光でその人物が照らされていた。
真っ黒な礼服、黒い手袋、黒い帽子、黒い仮面……うわぁ。見てるだけで嫌な身震いがするぞ。
「性懲りもなく私を捕まえに来たのか。
哀れなピエロ共が、また滑稽に慌てふためく様で私を愉しませ──
……おや、キミ達は警察ではないな?
誰かに雇われた猟犬か、はたまた警察の狗か?」
何か質問された気がするけど、ウラヌスを含めて誰も反応しない。多分気のせいだろう。
「名乗らないとは無粋だな……まあ良い。私は誰の挑戦でも受ける!
この怪盗ブラック、捉えられるものなら捉えてみよ!」
……このやりとり、イベントやるたびに毎回するのか? 地味にこたえるんだけど……一回でお腹いっぱいだよ。
私は扉の前から一歩下がる。私の目前をやや空ける形で、並んでシームとメレオロンが前に立つ。2人から見えない圧力を感じる──『練』をしたのだろう。シームはつたない印象だけど、メレオロンは流石の一言。普段の言動と全く結びつかないのが残念だけど、とても誠実に磨き上げたオーラであることが、今の私にも伝わってくる。
そんなことを考えていると、怪盗とやらが動き出した。近くに積まれた木箱へ跳び移り、そこから──
ダダンッ! ダッダッカッカッカッダッカッ!
あちこち跳び回りだした。木箱の上と床を不規則に、あからさまに翻弄する目的で高速移動する。
対するウラヌスは自然体のまま。桜色の髪と白いワンピースの裾が僅かに揺れている。オーラを纏ってはいるんだろうけど、感じるのはとても静かな流れだ。──射し込む光、躍る漆黒の影とのコントラストで、美しい絵画を見ているような錯覚をおぼえる。
いいな……私も戦いたい。
視界の中で高速移動する怪盗は、怪盗と名乗るだけあってなかなかの速さだ。マサドラ近くの岩石地帯で文字通り跳ね回るマリモッチには劣るが、あちらはまだ規則性があった。こちらは木箱と倉庫内という環境が、動きをより複雑にしている。
ウラヌスが半歩下がりながら、左半身を後ろへ傾げる──同時、怪盗の手刀が過ぎ去り、その腕を掴み取るウラヌス。
即座に腕を引き抜き、再び怪盗は跳躍を開始する。
……
おそらくウラヌスなら避けられただろう。それをしなかったのは私達が扉前に居るから。ウラヌスは扉とあまり距離を開けていない。怪盗の逃走を防ぎ、もし他のプレイヤーから私達が襲撃を受けた時に防戦しやすいように。
怪盗を攻撃しないのは……多分まだ魔剣を使ってきてないからか。あいつ素手だもんな。怪盗を攻撃すると倒してしまい、イベントが終了するからだろう。
目前で繰り広げられる攻防に、メレオロンとシームが落ち着かなさげにしている。──2人ともよく目に焼き付けておいてほしい。今は分からなくても、どれだけ高度なことを彼がしているか、理解できる日が来るだろうから。
幾度か怪盗が接近し、その度にウラヌスは黒い攻撃を掴み、押しとどめ、退ける。
ウラヌスは明らかに時間を稼いでいる。多分そのうち──
怪盗が動きを大きく変え、元いた倉庫奥の木箱が高積みされた場所へ立つ。
「なかなかやるではないか!
よかろう! ならば黒き我が相棒のサビとしてくれよう!
光栄に思うがいい!」
そう言い放ち、怪盗が宣言通り黒く
ここからだ。私も万一に備え、即応できるよう呼吸と重心をより戦闘態勢へ移行する。
怪盗の動きが変化する。今までのように翻弄を狙った大きな動きではなく、攻める為の小刻みなフェイント。視界に残像をチラつかせる。しかも足音がない。
黒い一閃──
突き込まれた漆黒を、ウラヌスは半身を回し避け、流れのままに魔剣を持つ怪盗の手へ、手刀とハイキックを同時に叩き込む。零れる黒い刃。
ウラヌスは怪盗の胴へ両腕を巻きつけ、高速で倉庫奥まで押し込んでいく。ダァン! と木箱との衝突音が響く。
怪盗から視線を外さないまま──軽やかとしか表現できない、寒気が走るほど滑らかな後ろ歩きで私達の目前まで戻り、魔剣を拾い上げる。彼の右手のナイフが、カード化する。
────これまででも最速の動きで突進してきた怪盗を。
ウラヌスの伸ばした左腕が捉え、首元を握り締めたまま遅滞なく床面へと怪盗の身体を叩きつけた。
怪盗の身体が跳ね──次の瞬間、煙とともにカード化する。
ゆるりとした動作で宙にあったカードを摘み、「ブック」を唱え出現したバインダーのページを広げる。パチ、パチンと2枚のカードを収め、
「────『怪盗ブラック』と『エクリプスの魔剣』、ゲットと」
こちらへ小首を傾げつつ、彼は戦いの終わりを告げた。