諸々の準備──作戦会議に下見、それぞれ必要な練習を行い、お店で買ったパンなどで軽く腹ごしらえして、いよいよ月例大会本番を迎えた。
やや強い日差しが降り注ぐ中。月例大会の会場に集まった大勢に混じる、私とウラヌス。周囲の喧騒に紛れながら、
「……周りはどうですか?」
「参加プレイヤーはほとんど居ないみたい。観衆の方には玉石混交で結構居るけど」
「大丈夫ですかね?」
「正直言って、俺達が警戒に値するほどの実力者は見当たらないね。
このまま作戦決行するけど、油断しないでいこう」
「はい」
──私とその護衛を兼ねたウラヌスは、ジャンケン大会を無敗のまま勝ち上がっていく。何事もなく準決勝まで勝ち進み。
準決勝1回戦。まず私が相手プレイヤーに5勝完封で勝利。
準決勝2回戦。ゲームキャラを相手に、ウラヌスは適度に勝利を混ぜつつも、5敗して『脱落』する。
そして決勝戦。
スタジアムで、ほぼゲームキャラの観衆と歓声に包まれながら、やってることは2人で単なるジャンケンというギャップに内心首を傾げる。最初500組以上で一斉にジャンケンを始めた時は、なかなか壮絶だったけど。
しかし……目立つなぁ。プレイヤー名もバレバレだし、これじゃ奪ってくれと言ってるようなもんだよ。防御スペルもないのに、無策で参加するなんて有り得ないな。
途中までは2本先取だったけど、準々決勝からは壇上に上がっての5本先取制になる。
いちいち審判が「レディーゴー!」と言うのを待って、1回ずつジャンケンするので、テンポが悪いんだよな。あいこだってあるし……別にいいけど。あっさり終わってもアレだし。
「ジャンケン、ポン!」
ゲームキャラだと、手を振り下ろす最中にもう出す手の形になっちゃってるんだよね。これがプレイヤー相手ならフェイントも警戒するんだけど、まぁー歯応えない。さっきのプレイヤーも
……ま、いっか。普段使っちゃズルいけどコレは勝負だ。どうせ次のジャンケン大会に私が参加することもないだろう。ゴン達の時もやってたんだろうし、バレても問題ない。
「おおおおおおおおッッ!!」
一際大きな歓声が上がる。ぼんやり考え事してるうちに、結局全部勝ってた。
「優勝決定ーッ!!
アイシャ選手、おめでとうーッ!!」
紙ふぶきが降り注ぐ中、なんとなく手を上げ「どうもどうも」してみる。……ぼさっとしててもノリ悪いし。これが周り全部ゲームキャラならバカみたいだけど、プレイヤーの視線が結構集まってるからな。なので気楽に喜んでるフリをしておく。
ここまでは作戦通り。ウラヌスは他のプレイヤーの露払いをして、実際は私が優勝する。決勝までにウラヌスはわざと負ける。
「おめでとう!
優勝賞品の『真実の剣』です!」
白い布でグルグル巻きにされた、大振りの剣を渡してくるおじさん。この手のイベントだと、こうしてアイテム状態でくれるのか。無駄に凝ってるな。
私が両手を伸ばして受け取ると、剣が煙になってカード化した。
宙に浮かぶカードを、ひょいとキャッチする。
『83:真実の剣』
ランクB カード化限度枚数22
偽りのものを一刀両断にする剣
裁判にも使われ 犯罪者をふるえあがらせた
真実を切ると刃が粉々にくだけちるが
鞘におさめておくと一日で再生する
うん、指定ポケットカード『真実の剣』。確かに。
右手にカードを持ち、観衆の方へと掲げる。笑顔で『いぇーい♪』な雰囲気を演出する。……バカじゃないぞ。バカっぽく浮かれてるように見せる為にだ。ちょっと楽しいけどな。
「ブック」
バインダーを出す。さ、ここからが本当の勝負だ。
ページを開く。
指定ポケットのページ、ではなくフリーポケットのページを。
さっそく『真実の剣』をバインダーに収める──ふりをして、カードを1枚取り出す。
「あらよっと」
────私はカードを、放物線を描くように観衆へ向かって投げた。
周囲のプレイヤーの視線が、私からカードへと一瞬逸れる。おそらく周りからは、私が何故か『真実の剣』を観衆へ放ったように見えただろう──ちなみに投げたのは『石』。
その瞬間、私の背中に手が触れる。──【神の不在証明/パーフェクトプラン】を既に発動させていたメレオロンが、私に【神の共犯者】を発動させる。
これで、意識を逸らした隙に私がどこかへ隠れたように見えたはず。宙にバインダーが残ってるけどね。
手にしたままの『真実の剣』を、フリーポケットに素早く付け外しする。カード化解除までの時間、一分に延長。「ブック」を唱えて即バインダーを消す。
『真実の剣』カードを、今度こそ狙い澄まして真っ直ぐにブン投げた。そのカードを、離れた場所でこちらを見据えたウラヌスが手際よくキャッチ。
カードを手にした瞬間、きびすを返し──ウラヌスは地を蹴りつけ、会場から脱した。
……後は、彼ら次第。
成功を信じ、私はメレオロンと手を繋いで、姿を消したまま会場の外へ向かった。困惑するプレイヤー達をその場に残して。
託されたカードを握り締め、俺は街中を高速で駆け抜ける。会場にまだ大勢のNPCとプレイヤーが集まっているおかげで、かなり道は空いていた。
目標はトレードショップ。歩けば会場から5分はかかるが、この空き具合なら数十秒で着くだろう。
警戒しているが、プレイヤーの姿はない。入手したカードを持ってトレードショップへ駆け込む可能性を、誰も想定していなかったわけだ。まったく、ヌルいやつらだ。
もう一つ危惧したことで、ジャンケン大会の最中にトレードショップのNPCも居なくなるんじゃないか、というのもあったが、シームから連絡がないので杞憂だったようだ。
────たとえ一瞬でも、バインダーにカードを収める気はない。
バインダーへ収めていない、手にしているだけのカードは攻撃スペルの対象にならない。重要なルールだ。1分経てばカード化が解けるし、直接カードを奪われたりするから利用しにくいが。
それでも万一プレイヤーの待ち伏せや、スペルで追尾された時のことを考えれば、手に持って疾走するのが一番安全だ。
トレードショップの建物が見えた。
「──シームッッ!!」
めいっぱい、声を前方へ飛ばす。──トレードショップの中で待ち構えていたシームが、扉を内側から開く。
「あと20秒!!」
言って、急制動。トレードショップの中から手を伸ばすシームに、カードを手渡す。
シームがトレードショップの店員に向かって、受け取ったカードを提示。
「────『真実の剣』1枚、トレードッ!!」
「あいよ。12000000ジェニーね」
宿の一室で、私とメレオロンは2人が無事に帰還することを信じて、待つ。
窓の外を眺めていると、猛スピードで人影が宿の中へ駆け込んできた。
万が一に備えて能力を発動させたメレオロンと手を繋ぎ、私は扉を開ける。
やがて──
本当に急いできたのだろう。少し髪を乱しながら、シームを背負ったウラヌスが部屋の入口に現れた。メレオロンが私の手を離す。
ウラヌスが室内へと入って、扉をきちっと閉め、シームを降ろし。
ビッ! と2人とも笑顔で親指を立ててみせる。そんな練習はしてないのに息ぴったりだな。
「1200万ジェニー、ゲェーット!!」
ウラヌスの心底うれしそうな戦果報告に────
「シャアーーーッッ!! アンタ達、ほんっと最っ高ォー!!」
「大・成・功、ですね! やったぁー!」
「マージで上手くいったよ! おぉっっしゃああぁー!!」
「あはははッ、みんなスゴイスゴイ!」
私達は大声でハシャギながら、お互い手を打ち合った。
ンンンンー……ここまで苦労して来ただけに、こういうのスッゴイ楽しい! 年甲斐も無く、思いっきり喜んじゃったよ。
『かんぱーいッ♪』
私達は笑顔でグラスを打ち合う。カチン、カチャン、カチャーン♪ と響き合う音色。
成功を祝して、例の早食い懸賞ができる飲食店で打ち上げをする。これはメレオロンのアイデアだ。昼前の食事を簡単に済ませておき、上手くいけば景気よく贅沢な打ち上げとシャレこむ。
私にとってはちょっとイヤーな場所だけど、そんなのお釣りが来るくらい、今は気分がよかった。ゲーム初日で1200万ジェニーは、とんでもない大躍進だ。これでずいぶん状況が変わってくる。
「あー。ちょっと現実味ねぇや。
ここまでキレーに成功するとは……思ってたけどな!」
ウラヌスが言い方で笑わせにきて、しょーもないのに思わず吹き出してしまう。今なら何言われても笑っちゃいそうだな。あー楽しい。
「でも、ぼくがお金預かってていいんですか?」
ケチャップたっぷりのオムライスを食べながら、シームが尋ねる。まぁちょっと不安か。ほぼ全財産をシームが預かってる状態だもんな。
「ああ、もちろん。
どっちにしろ、店にほとんど預けてるしな。
後で買い物しないといけないし、いちいち名義変えも面倒だから持っててくれ」
今シームのフリーポケットは、45枠全て『10000J』が入っている。アントキバのトレードショップに貯金している金額は1155万ジェニー。
私達の活動資金は、ざっくり言うと1230万ジェニーあることになる。……数時間前まで予算がなくて困ってたのがウソみたいだよ。
「気が早いかもしれないけど、この後どうするの?」
メレオロンがトッピングたっぷりのピザをかじりつつ尋ねる。いいな、私も食べよ。
私が歯応えのある生地と肉厚のチーズを頬張っていると、ウラヌスは口にした飲み物のグラスを置き、
「そーだなー。
今日に限って言えば選択肢は2つ。
アントキバに留まるか、マサドラを目指すか」
「でもここに居たら、まだ真実の剣を持ってると勘違いしてるプレイヤーが襲ってくるんじゃない?」
メレオロンが心配そうに尋ねると、ウラヌスは目を瞑りながら肩をすくめ、
「予め持ってるかどうかも確認せずに襲ってくるプレイヤーなんて、さほど脅威じゃないけどな。返り討ちにしてカードむしってやるよ」
またそれか。ラターザの時みたいに上手くいけばいいけどさ。
「けど、集団で来られたらマズイかもしれませんよ?」
実際ゴン達はそれで奪われたらしいしな。──私がそう指摘してもウラヌスはどこ吹く風で、
「集団なら、誰かが『念視/サイトビジョン』で調べて、すぐ気づくと思うよ。とっくに売っ払ってるって。
優勝したアイシャを会場で見失った時点で、まともな連中ならもう奪うチャンスなんて無いって分かったと思うけどね」
ふーむ……まともな連中ならそうだろうけど。みんながみんな冷静というわけじゃないからな。けっこう目立っちゃったのが気になるんだよね。
とは言え、ウラヌスの目で見た限り警戒に値するプレイヤーは居なかったって話だしな。むしろこっちが、あの場に居たプレイヤー達に今後警戒されるだろうことを気にすべきか。
「ウラヌスは、アントキバにもう少し居たいんですか?」
シームが尋ねると、彼は一つ息を吐く。
「まぁ少しは休まないと、急いでマサドラへ行くのは逆にリスキーかなって」
うーん……やっぱり問題はそっちか。
悩ましいトコではあるんだよな。このまま勢いよくマサドラを目指し、スペルカードを確保すれば一気に行動選択の幅が広がる。何よりスペルカード対策ができるようになる。
でも、なんだかんだでここへ到るまでにみんな消耗してるからな。多分一番元気なのは私だろう。けどその私は、念能力が使えない……
マサドラまでの道のりは、決して安全ではない。消極策を採るなら、今日は無理をせずアントキバで休んだ方がいい。
けどまぁ。修行の一環として、マサドラぐらいまで頑張ってほしいかなー、という気はしている。ただ全員の安全を担保してるウラヌスが、かなりキツそうなんだよね。
少なくともメレオロンは、どちらとも付かない顔をしている。シームはまだ余裕あるか。歩くぐらいしか体力使うようなことはしてないし、気力も残ってるだろう。
「……ウラヌスが決めていいですよ」
私はそう告げる。今後の方針もあるだろうし、結局彼に一任しておくのが無難だろう。
「うーん……
やっぱスペルカードは早く欲しいもんなぁ。アレがあると行動範囲も広がるし、取れたスペルによっちゃ大分やれることが増える。
個別に欲しいスペルがあるなら、マサドラに居るプレイヤーと交渉してもいいしなー。金も充分あるから。
しっかし、こっから80キロかぁ……
山賊のこともあるし、どうしたもんかねぇ」
う……
そっか、山賊のところを通過するのか。アレはさっさと済ませた方がいいもんな。
最低でも1人はカードを全て渡さないといけないし、先にスペルカードを大量に買ってしまうと全員のフリーポケットに余裕がなくなる。あの山道を何度も行ったり来たりするのも時間がもったいないから、できればマサドラに行く前が望ましいか。
いや……待てよ。
「でも、今回も同じ条件とは限らないんじゃないですか?」
私が尋ねると、ウラヌスは難しい顔。
「確かにね。
けど、月例大会が全部一緒だったからな……
なんつうか、入手方法が前からシビアなやつは今回変更ないんじゃないかと思ってる」
「と言うと?」
「ほら、仕様変更するなら何か問題があったトコを優先すると思うんだよ。
なんせ、お手軽にあっちもこっちもイジれないだろうからさ。デバッグも必要だし。
で、一番問題になりやすいのは、入手方法が分かってたら簡単に取れるやつかなって。それも高ランクのカード」
「うーん……そうですねぇ。
月例大会は攻略法が分かっていても年に一回しか取れないですから、わざわざ変更する意味はあまり無いかもしれませんね。入手難度もせいぜいB止まりですし」
「そうそう。オリジナルの出回る枚数は一年に一枚だし、ランクBはトレードショップで買えるからね。……買えるかどうかまだ確認してないけど。
それに、今回みたいな街のNPCも大勢参加するイベントなんて、変えようと思ったらどんだけ労力かかるか分かんないからなー。
大掛かりなイベントと、知ってても難しいイベントは、いちいち変えないかもなって」
「奇運アレキサンドライトも、今回変更は無さそうだと予想してるわけですね」
「うん。アレは一組一枚までで、繰り返し取れないし。
ゲームを進めたプレイヤーほど、条件キツくて取れなくなるから。入手方法も広まってなさそうな感じだったし、変更がなくてもカードの出回り具合はそんなに変わらない気がする」
「……嫌がらせみたいなイベントですもんね」
「取り方が分かってても、どうしたらいいか実際いま悩んでるしなぁ」
溜め息混じりに私達が話してると、シームがジュースを飲みつつ、
「上着取られるのも問題だよね」
ぅぐ。
私とウラヌスが一段と顔を暗くする。それも問題だな……うん。
「ま、考えるのは後にしなさい。
今は楽しむ楽しむ♪」
話題を切り出したメレオロンが、気楽に話題を終わらせようとする。うーん……
「追加注文いい?」
シームがメニューを手に聞いてくる。
「ああ、いいよ。
景気よく食べて飲んで、体力気力を充実させてくれ。
英気を養ってこそ打ち上げってもんだ」
ふむ。リーダーもそう言ってるし、遠慮なく私もそうしますか。
色々注文してたくさん食べた後、〆に巨大カレーを注文したら、ものっそ皆にドン引きされた。解せぬ。……おなか減ってたんだもん。
「なんで朝に巨大プリン食べた後、昼に巨大カレー食べれるんだよ……」
ちょっと気分悪そうにウラヌスがボヤボヤ言う。うるさいな。いいじゃないか、食べたかったんだし。ガルガイダーもまた取れたし。
デパートへ買い物に行く道すがら、私だけ除け者にして3人がごちゃごちゃ喋ってる。
「念能力者って、アレぐらい食べるもんなの?」
「いや……
俺も昔は結構食えたけど、少なくともアレはない」
「アレはすごいよねー。しかもトッピングにカツ山盛りとかだよ?
アレ見てるだけで食欲なくなっちゃう」
……アレアレうるさいな、もう! いつまでイジるんだ!
私は歩を早め、3人の背後から言い募る。
「あのですね。
私なんて大したことありませんよ?
真の大食いは、豚の丸焼き70頭をぺろりといっちゃうんですから」
シームとメレオロンが、『うっ』という顔をする。ウラヌスは──思わしげに私を見た。ん?
「それって……ひょっとしてブハラのこと?」
「あれ?
ウラヌスもブハラさんのこと、ご存知でした?」
「うん、まぁ……ちょっとね」
私は首を傾げる。妙に含みがあるな。
「アイシャが知ってるブハラって、多分ハンター試験のだろ?」
……正直、そんな名前の人が2人もいたらやだな。
「ええ、そうです。ウラヌスも?」
「そ。
アイツ、似たようなお題しか出してないんだな……」
「ちなみにウラヌスの時は?」
「……牛の丸焼き。
オレの大好物とか言ってたけど」
「……私の時もそう言ってましたね」
「アイツ、食用肉の丸焼きなら何でも大好物なんじゃねーか。
あんな
「あははは……」
頭を痛そうに抑えながらウラヌスは、
「つか、そりゃアイツは大食いだよ。念能力使ってんだから」
「あー。やっぱりそうなんですか」
有り得ないもんな、あの量は。
「うん……
アイツ、食えば食うほど強くなるとか謎の信念があって。
食べたハシから、全部オーラになってホントに強くなってくの。……美食ってなんなんだろうね?」
「うわー」
すごいな、そりゃ。でもどっかで聞いたことあるような?
ふと見ると、メレオロンが私へ暗い顔を向けてくる。
ぁ……そっか。食べて強くなるのはキメラアントの特長か……
私も暗い顔をメレオロンに返すと、ウラヌスが不思議そうに見てくる。
「どしたの?」
「あー、いえ。何でもないですよ。
ちなみにその時って、ウラヌスは合格できました?」
「……」
あ、返事がない。
「……アイシャの時、ブハラの他に誰かいた?」
ああぁぁ。これはホンットにほぼ同じ内容だったんだな。
「もしかして、ウラヌスの時もメンチさんいました?」
「やっぱり似たような試験か。
えっと、その……
いちおうメンチの試験自体は合格したよ。色々あったけど」
うん、色々あったんだろうな。あの人、マジでトラブルメーカーだな。
前にもトラブってんのに、なんでまた試験官任せたんだ? ネテロ、ちゃんと選べよ。
「メンチさん、どんな試験でした?」
「んー……
おっと、デパート着いちゃったな。その話は宿に戻ってからにしよ」
メレオロンが、デパートの建物を複雑そうに見上げつつ、
「あのさ。
デパートに来たのはいいけど、もうマサドラ目指すの?
その買い物でしょ、これって」
「あ、うん。
もちろんマサドラ行く準備だけど。
でも、すぐ行くとか行かないとかは関係ないよ。先に買い物だけしておいて、後で行くタイミング決めればいいんだし。カードだから荷物にはならない」
「あー、なるほど」
納得するメレオロン。
私としては、マサドラへ強行したいんだけどな。かなり目立っちゃったし、ほとぼりが冷めるまでアントキバをうろつかない方がいいだろう。……アテの外れたプレイヤーが、逆恨みして襲ってこないとも限らない。本気で恨まれたら、どこに居たって同じだけどね。移動スペルがあるから。その辺はウラヌスだけでなく、私達も警戒している。
デパートの中で、水や食料に日用品などのカードを買い込み。
2枚の展示カードを前にして、ウラヌスは腕を組んで考え込んでいる。
『100:島の地図』
ランクG カード化限度枚数400
島の形だけが示されている地図
実際に行ったり 情報を仕入れることで
中身が自動的にうまっていく魔法の地図
『101:島の地図』
ランクD カード化限度枚数70
街や地名などが細かく記載されている地図
特産情報や おすすめスポット
裏道マップなど お得情報 満載!
「高いわね……」
101番の地図を細目で見据えるメレオロン。うーん……65万ジェニーだもんな。隣にある100番の地図が2万ジェニーだから、比較で余計にそう感じる。
「もったいなくないですか?」
シームが、悩むウラヌスに尋ねる。大分お金に余裕が出来たとは言え、私もこれを買うのは賛同しかねるかな。
「ん?
いや、別にそっちは買わない。……欲しいけど、65万出す価値は流石にない」
おや。ということは、ウラヌスが考えてるのは別のことか。
「手に入れないの?
あったらあったで便利そうだけど」
実のところ、私も興味はあったりする。攻略本を見るようなものだろうけどね。
「あー。101番はもちろん入手する。観光するには便利だし。
いちおう、その地図は見たことあるんだけどな。
クリア前と変化があるかもしれないし、俺も細かい内容は忘れてるから。
……俺が言いたいのは、買わなくても手に入れられるってこと」
『どういうことですか?』
思わず私とシームの声が重なる。メレオロンが面白そうに私達を見る。こっち見んな。
ウラヌスもちょっと顔をニヤけさせつつ、
「後でスペルカードリスト見てみればいいけど。
『堕落/コラプション』があれば、ランクB以上のカードを、ランクD以下のどれでも好きなカードに変身させられる。この101番はランクDだから、それで取っちまえばいい」
あっ、なるほど。それは盲点だった。確かに65万ジェニーもあれば、スペルカード200枚近く買えるもんな。ランクCの『堕落』とランクB1枚程度なら簡単に取れるだろう。
「ま、『堕落』は聖騎士の首飾り優先だから、この地図取るのは後回しだけどな。
……俺が悩んでるのは、この2万ジェニーの地図をいくつ買うかだよ」
「は?
この安い地図、たくさん買うつもりなの?」
不思議そうにメレオロンが問う。
「これって、現在位置も分かる地図だから。
個別に持ってりゃ、
改めて言われると、この地図メチャクチャ便利だな。
……アレ? これって65万の地図より高性能じゃないか? んー……いや、65万の地図でも現在位置は分かるのかな?
「どこでも売ってるから、別に急いで買い揃えなくてもいいんだけどな。
……とりあえず2つ買っとくか」
私達はまた元の宿に戻ってきていた。
今後の方針や荷物の整理、そもそも休憩も必要だ。食べて休んで少しでも早く回復してもらわないと。……私は体力あり余ってるけど。修行したいなぁ。
私とウラヌスの部屋に、メレオロンとシームが荷物を持ってきている。2つのベッドに、お互い向かい合う形で座っていた。
隣に座るウラヌスをちらりと見やると、作戦が無事成功したのと食事を摂ったおかげか、顔色はいい。彼の復調具合で、今後の予定が決まるだろう。
その彼が見返してくる。
「で、アイシャ。
メンチの話ってする?」
「ああ、そうでしたね。
気になるんで、ぜひ聞かせてほしいです」
「そっか。
じゃあ2人とも悪いけど、ちょっと話が終わるまで待っててくれる?」
「別に良いわよ。
ハンター試験の話ってのも面白そうだし」
「ボクもボクも」
「うん。
……ちなみにアイシャの時の試験内容はなんだったの? メンチの方ね」
「えーと。
スシでした」
「……あー、鮨かぁ……
どうせ握り鮨だろ?
ブハラが豚とか言ってたなら、海も近くにないとか」
「ええ……
森林公園でした」
「はぁー……アイツ性格悪いの、全っ然直ってないな……
美食ハンターのくせに、美食に飽きてやがるし」
「……。
私の時は、色々あって味の審査になっちゃいまして。
メンチさん、どんなスシを持っていっても、なにかしら理由をつけて合格くれなくて。
そのうち……メンチさんのお腹がいっぱいになってしまって……」
頭痛に耐える表情のウラヌス。うん……
「海以外の鮨ダネなんかで、まともな鮨が素人に握れるわけねーだろ……
アイツはガチでアホか」
「えっと、でもですね。
一度合格者0になっちゃったんですけど。その、やっぱり問題ありってことになって。
次に出たゆで卵のお題は悪くなかったですよ?」
「……それってアレだろ?
メンチが怒られて、その後にだろ? 何一つ褒める要素ないんだけど」
「あははは」
ジャポンを馬鹿にしたり、思い返してみると私もあまりいい印象は持っていない。けど、あの騒動のおかげでネテロに逢えたんだよな。だから私はそこまでメンチさんに悪感情は抱いてない。ゆで卵もおいしかったし。
「それで、ウラヌスの時は?」
「あー。えっと……
俺の時は、ブハラが牛の丸焼きっつったじゃん?」
「ええ」
「試験会場が高原だったんだけど。
……メンチが出したテーマは、ミルクを使ったスープ。
それも山菜とか自然で採れる物をふんだんに使うって条件。具材を合計20種以上だったかな? 調理器具や調味料は用意されてたけど」
「うわぁ……」
難度たっか。山菜って
「……俺も結構がんばったんだけどさ。
歯応えがー味がー匂いがー形がー温度がーって、ひたすらクレームつけられて。
しまいに牛の乳搾りの仕方が悪くてベースのミルクがーって言われた時は、流石に俺もブチキレてさ」
あ、はい……それは怒っていいと思います。それ完全に料理の試験だよ……
「もう他の受験者も完全諦めムードだったし、思いっきり文句言ってやったんだよ。
できるわけねーだろ、いったい何の審査だコレは! って。
そしたら、口答えするなら不合格にするとか言われて。
んで、どうせ不合格になるならって、もう徹底的に罵倒しまくったんだよ」
ぅわー。その場に居なくて良かったと思うレベルで、地獄絵図だな。あのメンチさんを相手に……
「それって、当然メンチさんも怒りましたよね?」
「うん。途中までは口喧嘩で済んでたけど……
しまいに向こうもブチ切れた。包丁振り回して。
で……まぁ。
止めに入ったブハラもろとも、ボコボコにしてやったんだけど」
「ぶはっ!」
思わず吹き出す。何やってんだこの人は。
「あっはっはっは。
……それで? 試験はどうなりました?」
笑いながら尋ねる私に、バツの悪そうな顔でウラヌスは、
「んっと……
会長が来て。俺もメンチも、めちゃくちゃ怒られた。
で、試験内容が悪かったのはメンチも認めたから、やり直しになったんだけど。
俺は試験官に手を出しちゃったし、不合格かなと思ってたら……なんか他の受験者達が、やたら庇い立てしてくれて。……ブハラとメンチに謝ったら、俺も再試験受けられた。
まあ、そんだけの話。終わり終わり!」
ぶすっとスネた表情で言い終えるウラヌス。
他にも気になることはあるけど、話したくなさそうだし別の機会にまた聞いてみよう。……つかネテロ、お前マジで試験官ちゃんと考えろよ。必死で合格目指す受験者を何だと思ってるんだ。少なくともハンターとしての資質を見ない人間を試験官にしてどーする。
トンパさんの件で私も実害こうむったし、一度クギ刺しとくか。……あ、ダメだ。もうネテロ、会長じゃなかった。仕方ない、文句だけ言っとこ。