どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第四章

 

 暗い室内。

 青白いパソコンモニターの明かりだけが、チカチカと室内の主の顔を照らしている。

 

 珍しい桜色の髪。そして珍しくない茶色の瞳。十代半ばぐらいに見える中性的な細身の人物は、左手一つでキーボードをリズムよく叩いている。

 カタカタタンタン、カタカタタンタン、タンタンタンタン!

 ちなみにキーボードは、肝心のケーブルが繋がっていない。何の意味もなく楽器にして遊びながら、右手のマウスクリックのタイミングを待っている。

 

 カチッ──

 

 左ボタンを長く押し、離す。

 更新を実行したパソコンのモニター表示が、パッと切り替わり。

 

「……

 ふはぁぁぁぁー……緊張したぁー」

 

 うなだれる。緊張したと言うワリには、キーボードで遊んでもいたが。

 画面には、オークションサイトの商品落札情報が表示されていた。

 

 

 

 ──商品名:グリードアイランド(ジョイステーション用ゲームソフト※中古・箱説有・ジョイステーション本体付き・空きプレイヤー1のみ)──

 

 ──落札価格:J 2,800,000,000──

 

 

 

 毎回10億ジェニーからスタートし、最終的に20億から40億ジェニーで落札されていた。この数日で出品は7本目。誰かが大量出品したらしく、安く買えないか狙っていたのだが、上手くいかずに競り負け続けていた。

 いつ出品がなくなるか分からず、じりじり値が上がってきていたので、予算がきわどくなるのを承知で無理をしたのだが……危なかった。もう本当に財布が薄い。

 

 

 

 10年以上クリアされなかったグリードアイランドの、初クリア公表から半年────

 

 

 

 実際に命の危険を伴う、ハンター専用ソフト。念能力を持たぬ者にはプレイすらできず、一度ゲームに入れば容易に帰還もできない、ダントツの世界最高難度を誇るゲーム。

 

 指定ポケットカードと呼ばれる100種類のカードを全て揃えれば、ゲームクリアとなる。クリア報酬に高額の懸賞金がかけられながらも、長年クリア達成者が現れなかったのだが……

 

 ついに、誰かがゲームクリアしたらしい。

 

 厳密には、誰それがクリアしたという発表があったわけではない。

 今年の2月下旬、グリードアイランド内でエンディングイベントが発生して、同時期にゲームクリアの懸賞金が取り下げられた。

 

 そして──ゲームへ入ることができなくなった。

 

 情報を集めようにも、全て間が悪かった。自分がゲーム内にいる時、なぜかバッテラ氏からあのロックベルト会長へ懸賞金支払い主変更が行われた。諸々の事情もあり、現実で情報収集していたら、今度はゲームクリアの懸賞金自体が取り下げられた。

 

 つまりゲームクリア者が現れたということだ。……そのせいで、グリードアイランドに入れなくなってしまった。

 

 まぁ入れなくなったと言っても、ゲーム画面には『次回バージョンアップまでしばらくお待ちください』と出ているそうなので、そのうち入れるようになるだろうと思っていた。

 

 他にも問題はあった。──バッテラ氏だ。何があったのか、ロックベルト会長に財産を譲渡し、その中にグリードアイランドのゲームソフト全ても含まれていた。これにより、バッテラ氏のプレイヤーとして雇用されるという選択肢が完全に消えてしまったのだ。

 

 しかも、ロックベルト会長はゲームソフトを引き取らず売却してしまい、100本しか存在しない幻と呼ばれたグリードアイランドのゲームソフトは、大量に市場へと出回ることになった。

 

 今更クリアしても懸賞金はもらえず、現在はゲームにすら入れない。定価58億ジェニーだったグリードアイランドは、オークションでも1億を切るところまで大暴落した。

 

 が……

 

 数日前から、急速に値が回復しだした。

 

 きっかけは分かり切っている。ハンターサイトの有料情報で──グリードアイランドの2ndシーズンが開始、と記載されたからだ。確かな情報だろう。

 

 元々はバッテラ氏がゲームソフトを囲い込みしていたせいで高騰したゲームだ。ゲームクリアの懸賞金もない今、それでも大して値は上がらないだろうとタカをくくっていたが……

 

 チラチラと、ゲームクリアの懸賞金も複数件見かけるようになった。その金額は数億~数十億と、バッテラ氏の500億には遠く及ばない、ささやかなものである。

 

 ……であるが、ゲームソフトの値段は釣られる形でじりじりと上がっていった。

 

 これは危ないとばかりに、競りへ参加し、先ほどようやく落札に至ったのだ。

 

 

 

「さぁてと。

 ゲームソフトを手に入れたはいいが、1人じゃなぁ……」

 

 ぎっぎと椅子の背もたれを鳴らし、考え込む。前回プレイ時は、ハメ組のせいでかなり引っ掻き回された。カードを奪われるくらいならまだ対策できたが、スペルの大半を独占されたのがマズかった。アレのせいで、1人ではまともにプレイできない状況に陥った。

 

 やむなく指定ポケットカードの入手方法調査にプレイスタイルを切り替えたが、有効なスペルカードが少ないせいでチンタラやってるうちにこのザマだ。クリアの懸賞金はどうでもいいが、ゲームに入れなくなるのは完全に誤算だった。すっかり、時間をムダにしてしまった。

 

 そう。時間だ。信用できる仲間がいなければ、クリアに時間がかかりすぎる。おそらく1人で集められる限界は、せいぜい指定ポケットカード85種類までだろう。それ以上は、他プレイヤーの妨害が確実に激化する。100種など到底集められる気がしない。

 

 ……いや、それは理想だ。最悪クリアできなくてもいい。ゲームの中で安心して目的を果たせる状況さえ整えば、それでも構わない。残り時間は少ない。背に腹は代えられない。

 

 焦りを感じてはいたが、しかし実力を伴う信用できる仲間──に心当たりはなかった。やむをえないとはいえ、孤独に生きてきたツケだろう。……念能力者の知り合いぐらいはもちろん居るが、誘っても来ないか、こっちから願い下げな間柄ばかりだ。

 

 金でハンターを雇うか? しかし予算がもう2億と少ししかない。何人雇えるか、どの程度の質を雇えるか。そもそも使い切れば自分が困窮してしまう。少しは残さないと。

 

 クリア報酬を山分け、で募集をかけることもできるが、それだとゲームクリアが前提のプレイになる。しかもクリアで入手できるのは、指定ポケットカード3種のみ。となると自分込みで3人だ。正直きびしい。いずれにしろ今回落札したソフトでは、セーブできる限界は4人なのだが。

 

 ────グリードアイランド協力プレイヤー募集、報酬は応相談。採用面接あり。

 

 まぁこんなところか。なんだかんだで、ゲームソフトを所有してるのは大きい。最悪、ゲームを手放すなり売り払うなりしても構わない。それをしても問題ない状況へと持っていければ。

 

 しかし、面接には苦労しそうだ。実力不足は言うに及ばず、報酬にガメつい相手も引き入れられない。第一、念能力を互いに知られることが前提だ。たとえプロハンターでも、そうそう信用できたものではない。

 

「どうしたもんかなー……」

 

 募集はかけておくとしても、自分の足でも有力なハンターを探し、勧誘すべきだろう。……であれば、行く場所は一つしかない。

 

 最も多くのハンターが集う街、ハンター協会本部のあるスワルダニシティだ。

 

 

 

 

 

 昨日は私が持ってきてたジョイステーションで、長々ゴンと夜更かしして、宿で遅めの朝食をつるつるしていた。おいしくつるつるしながら、無茶苦茶ゲームした昨晩のことを思い返す。

 

 ……ぅん。格ゲーはいいけど、ドカ○ンはダメだ。CPUのデビラーマンはいい。まだ倒せる可能性がある。でもデビラーゴン、てめーはダメだ。プレイヤー1人で倒せるわけないだろうふざけんなし!! ……ああ、うん。楽しかったですよ……しばらくド○ポンはしたくないけど。友情保全の為にも。

 

 ずずずーっとスープを飲み干し、どん! と椀を置く。

 

「ぷはぁーっ」

 

 口許を拭う。ゴンも目の前で、もりもりばくばくディナー並の豪勢な朝食を摂っていた。うんうん。良く食べ、良く修行。感心感心。

 

 ──明らかにそのメシの量おかしいだろオマエラ的な目で、周囲の客から視線を浴びているのだが、2人は食事に夢中で頓着しない。

 

「おじさーん。

 ジャンボとんこつ塩ダブルチャーシューメンおかわりー。あ、ネギ多めで」

「んむー! ……ごくん。

 おじさーん! オレにも同じの1つー」

 

 更にもう一段階周りが引く気配。オイあれ大食い大会用のメニューだぞ、どこの大怪獣だよとか言われてるのだが、本人達はどこ吹く風。

 

「……アイシャって、こんだけ食べて何で太らないの?」

 

 ゴンも人のこと言えないのだが、アイシャは胸を張って一言。

 

「食べたぶんだけ修行します」

「聞いたオレがバカだったね」

 

 解せぬ。

 ゴンの反応に不満を持つも、早くおかわり来ないかなー、と即思考が切り替わる辺り、アレだった。

 

 

 

 超人的な量の朝食を終え。

 

 昼近い時間、観光がてら町の中を散策する2人。

 帰るつもりなので、ゴンとアイシャは荷物を背負っている。もっともアイシャは、家に帰らず協会本部へ行ってねとゴンに釘を刺されてはいたが。

 笑顔で並んで、記念撮影カシャッ。

 その場で現像された、友達との2ショット写真を嬉しそうに見つめるアイシャ。

 

 

 

 露店に並ぶ土産品を楽しげに眺めているアイシャを見つめ、ふとゴンは思い出した。

 

「そういえばさ、アイシャ」

「はい?」

「なんか可愛いアイシャのポスター見つけたんだけど」

「……はい?」

 

 ──ポスター? なにそれ。

 

「選挙の時のやつみたいだったけど」

「……いやいや、選挙ポスターの写真なんて撮ってませんよ?

 演説動画なら撮りましたけど」

 

 第13代会長総選挙で、初回投票結果上位16名の紹介演説を動画撮影するという話は来た。

 それは今も着てる運動着で座りながら軽く話してるのを撮影しただけの、事務的な代物。可愛いだの何だの言われるようなたぐいではない。

 

「そもそもあの選挙で、ポスターなんてどこにも見かけませんでしたよ。

 ハンターしか投票しないのに、選挙ポスターとか意味ないでしょう」

 

「……うん。そっか。

 じゃあ何なんだろうね」

 

「……。

 ゴン、ちょっと待ってください。

 ソレどういうポスターなんですか?」

 

「えっと……

 ちっちゃいけど、オレの携帯にも画像入ってるからちょっと待って……

 うん、これ」

 

 ゴンが手渡した携帯を受け取り、画面に顔を近づける。

 

「……

 えっ。……どゆこと?」

 

 そこには確かに、自分の画像が映っていた。……まったく身に覚えのないありさまで。

 

 字がちまちま書いてあるが、画面が小さいからか判読できるのは『アイシャ・コーザ』という名前と、『ハンター協会をネテロのおもちゃにさせません』とかいう謎フレーズ。

 

 まぁそこまではいい。思うところはあるが、そこまではいい。

 

 キワどい水着きて、ありえないポーズで嬉しそうに撮影されてる自分がいる。……うん、コレだれぞ? これでもかというほど大きな胸元が強調され、谷間にとろぉーんと溶けたアイスが挟まっていた。ついでに背景は砂浜。わたし海で水着なんか着たことないよ?

 

 ……うん、とっても可愛い美少女だとは思うよ。

 

 うん、けどダレやねんこの痴女……

 

 私がぷるぷる震えながら画面を凝視してると、ゴンがなんかすんごいビビビった様子で、

 

「ア、アイシャ……心当たり、ない?」

 

 

 

 あ・あ・あ、あぁ……

 

 

 

 ────あるかアホォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!

 

 

 

 罪の無いゴンに、危うく当たり散らすトコだった。口許を全力で手で塞いで、叫ぶのを止めなきゃいけないほどに。

 

 …………。

 

 思わずゴンの携帯をぺきぺき握りつぶしちゃいそうなほど、殺意の何とかに目覚めそうなんだけどなー。うふふ。

 

「ゴン」

「うんうんうんうん」

 

 携帯を手渡す私の声に含まれるナニカを感じ取ったのか、受け取りながら何度も相槌を打つゴン。やだなー。私、ゴンにはちっとも怒ってないよー。

 

 

 

「これ、ど・こ・で?」

 

 

 

 あははは。自分でも感情抑制できてないの、分かっちゃうなー。

 

「れ、……えっとハンターサイトの有料情報のトコにあったって。

 会長総選挙の裏ポスター、だったっけな?」

 

 いま、なんか誰かの名前言いかけた気がするけど、まぁいいです。聞かなかったことに。

 有料情報? 裏ポスター? 全く意味分かんないんだけど。誰がこんな手の込……

 

 ……あいつか。

 

 恐らくこんな手の込んだ嫌がらせはパリストンぐらいしかするまい。こんなの、自分とネテロ両方に対する嫌がらせとしか思えない。

 

 ……ネテロもちょびっとは疑ったけど、ポスターの中に『ネテロ』と書いてある以上、まさか自分の名前を汚してまでこんなことはしないだろう。……しないだろう。

 

「急ぎの用事ができました。

 ここでお別れしましょう。私は今から『運動』がてら協会本部まで走ってきます」

「は、走ってくの?」

 

 ──いつものように『修行』ではなく『運動』と言う時点で、何かの準備運動の意味にしか取れない。

 

「走った方が早く着きますから。

 ではゴン、さようなら。あなたと話ができてよかったです」

「う、うん。アイシャも相談があったら、いつでも遠慮しないでね。

 オレ達、親友なんだから」

 

 親友という言葉に、アイシャは少しだけニコリとし、

 

「はい、もちろんです。それでは」

「バイバイ、アイシャ!」

 

 背中を向ける少女に、ゴンは手を振る。全身から漂う【天使のヴェール】すら突き破りかねない殺意が、ゴンの身体を微動させ続けた。

 

 

 

 

 

 さすがに、ゴンにも分かる。こういうことをしそうなのはパリストンだと。アイシャも選挙後、彼には警戒した方がいいと知り合いに注意して回っていた。

 

 何とかの波動に目覚めた少女が充分に遠ざかった後、未だに震えの残る身体でネテロにリダイヤルした。

 

「……あ、ネテロ? 何度もゴメン」

『む。

 なんじゃ何かあったのか、ゴン?』

 

 声の調子で異変に気づいたらしい。話が早くて助かる。

 

「ネテロ。

 ……アイシャの選挙ポスターって知ってる?」

『……。あれのことじゃな。

 知っとるよ。……アイシャのやつ、今ごろ気づきおったか』

「うん、ついさっき。

 今、アイシャが世界樹から協会本部へ行くって。メチャクチャ怒ってたよ……

 あれ……

 ネテロが作ったんじゃ、ないよね?」

『……

 なんでワシがあんなもん作らにゃいかんのじゃ。パリスに決まっとろーが。

 それに、じゃ。

 アレをもしワシがやったとして、それがアイシャにバレてみぃ?

 

 ……ワシ粉々にされるじゃろ?』

 

 同意を求められても困る。ゴンは「ぅうー?」と曖昧な声を出しつつ、

 

「その、パ、パリストンさんに、逃げてって」

 

 正直あのアイシャが、いまパリストンと遭遇した時、何をするか考えたくもない。

 

『自業自得じゃと思う、が……

 お主のその様子じゃと、なんか取り返しのつかんことになるかもしれんのぅ……』

「……」

『用件は分かったわい。

 素直に逃げるとも思えんが、警告はしておこう。お主は心配するな』

「うん、ありがとう! ネテロ」

『ほっほっほ。

 ……ワシにもしものことがあったら、香典は弾んでくれぃ』

「ネテロ……」

 

 

 

 

 

 地図を買い、徒歩の最短ルートを割り出し。

 目標、スワルダニシティ。ハンター協会本部。

 

 アイシャは、無表情に靴をトントンと整え、誰もいない自然の平野を前に。

 

 すー。はー。すー。はー。

 

「……うん」

 

 

 

 全 力 全 開 だ !!

 

 

 

 【天使のヴェール】が解除される。空間が軋むような音を立て、(まが)(かみ)とでも称すべき膨大な量の邪念が、アイシャの身のうちから噴き出すッ──!!

 

 

 

「ぶぅッッッッッッ殺すッッッ!!」

 

 

 

 少女の最初の一蹴りが、自然界では有り得ない地響きと爆音を轟かせた。

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 いよいよ舞台はスワルダニシティへ。

 主要人物が集結していく中、
 ハンター協会本部へ人智を超えた速度で迫る、地上最強の生物ッッ!!

 ネテロから電話をもらい、とりあえず裸足で逃げ出すパリストン。
 わし、もののついでに殺されんじゃね? と危惧するネテロ。

 軽く自然を蹂躙しながら襲来する、暗黒の破壊神ッ!!
 この人類存亡を懸けた闘いに、立ち向かうすべは有るのかッ……!?

 スワルダニシティ、崩落までアト10時間────(嘘)



 次回ッッ!!



 ────阿修羅面『怒り』。



 カァーッカッカッカッカーッ!




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