どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第三十九章

 

 まず充分な明かりを確保する為、携帯ガスコンロにボンベをセットして、火を点ける。場にいる全員がほっとする気配。夜の野外だと、こんなちょっとした明かりが有り難いんだよな。……まぁここは建物が周りにあるけど、照明が何もないところだし。

 

「そういえば、この建物に照明とか何もないわけ?」

 

 メレオロンが尋ねてくる。ウラヌスが考えているので、私は『ないです』という言葉を飲みこむ。回答は彼に任せて、私は食事の支度を進めよう。

 

「設定上だろうけど、この村は以前ヒトが住んでた廃村みたいだな。

 建物の中を覗いても誰も居ないんだけど、そのワリには小奇麗だったりする。

 で、照明は形だけ置いてある。いじっても点かない」

「やっぱり?」

「残念でした。ま、仮に照明が生きてたとしても、家屋の明かりは遠くからでも目立つし、やめといた方がいいよ」

 

 他のプレイヤーを警戒するなら、そうだろうな。このコンロの火に気がつくところまで近づいてきたら、多分ウラヌスか私が気づけるだろうし。食べ物の匂いは……どうかな。風下から来られたらキツイかも。

 

「ウラヌス、いちおう風下の方を警戒してくださいね」

「大丈夫。やってるよ」

 

 そんなことを話しながら、ウラヌスのリュックから取り出した鍋に取っ手を付け、鍋にペットボトルの水を入れ、コンロの火にかける。

 

 お湯が沸くのを待つ間、私達は12個あるおにぎりの配分をどうするかで協議していた。

 おにぎりの具は、梅・鰹・昆布・ツナ・タラコ・鮭。各2個ずつだ。

 そして4人だから、1人頭3個である。

 血で血を洗う争い──になるわけないけど。ただ、お互いに好き嫌いがよく分からないからな。どれを取ったものか。

 

「どうしてこんな揉めそうなセット買ったの?」

 

 腕を組んだメレオロンの疑念に、ウラヌスも嫌そうな顔で、

 

「いや、俺が買ってる場にオマエも居ただろ。

 ダメなら止めろよ、その時に」

「ウラヌスのことだから、考えがあるんだろうなって思ってました」

 

 にこやかに放つシームの辛辣な一言。むずがゆそうな表情のウラヌス。

 

「……とは、限らないじゃないか。確認してくれよ念の為……

 いやまぁ考えなしに買っちゃいないけどさ」

 

 私は軽く笑みを零しつつ、

 

「フリーポケットの猶予的にも、妥当な選択だと思いますけどね。

 あれ? ウラヌス迷いなく買ってるけど、みんなに確認しなくていいのかなぁ? とは思いましたけど」

 

 私が芝居がかった調子でそう言うと、首を折ってヘコむウラヌス。

 

 その場で確認しなかった点では私も同罪なんだけどね。私は別にいいんだよ。おにぎり好きだし、どの具でも食べられるしな。

 

 ウラヌスは垂れた頭を持ち直し、ひとしきり悩んでみせた後、

 

「じゃあ……

 年齢の若い順で1個ずつ好きなの取っていこう。1巡したらまた若い順に取っていく」

「それは別にいいけど。

 肝心の、年齢若い順は?」

 

 尋ねたメレオロンを、ウラヌスは指差す。

 

「最初はメレオロン。次シーム、その後アイシャ」

「へっ!?

 ……多分、一番歳くってるのアタシじゃないの?」

 

 あー、なるほどね。転生前込みだとそうなるか。

 でもメレオロンの言う基準だと私なんだよなぁ。一番歳いってるの……

 

「いーや。オマエはまだ生まれて1年経ってないだろ。

 シームは普通に年齢通り。で、その次アイシャ。最後は俺。順当だろ?」

「……

 なんだろ、こういう時にそんな扱い受けるの、なんか面白くない」

「オマエが俺のこと、好き勝手に男扱い女扱いしてんのも同じじゃないか。

 自分がされて嫌ならやめてくれよ」

「あー……

 いや、いいわ。アタシ1歳未満でちゅ。ばぶばぶ」

「オマエ、そこまでして俺のこと……

 いや、うん。分かった好きにしろよ。さっさと選べ、この大きな赤ん坊め」

「ばぶばぶっ。ばぶーっ」

「うるせぇ。はよ取れ」

 

 メレオロンも煽り上手いな。ウラヌスいじる為に、なりふり構わなさすぎだろう。

 

「じゃあアタシは……タラコ! こいつぁ譲れねぇ」

「……次、ぼくだよね? じゃあツナ!」

「ほぉー、2人とも選びますね。では……昆布をもらいましょう」

「いや、みんなノリノリじゃねーか。この流れだと俺は鮭しか取れないかな」

 

 1巡終わり、メレオロンに視線が集まる。

 残りは、梅2・鰹2・昆布1・ツナ1・タラコ1・鮭1。

 

「遠慮しないわよ。ツナもらい!」

「じゃあボク、シャケもらうね」

「あー。もう終局図が見えましたね……おかかをいただきます」

「まぁそうだねぇ。昆布にしとく」

 

 2巡終了。残り、梅2・鰹1・タラコ1。

 

「んじゃラスト、カツオね」

「タラコもらいまーす。うひょー」

「やっぱりこうなりましたか……。私は梅でも大丈夫ですけど、ウラヌスは?」

「あ、うん。別に大丈夫だよ。嫌いだったら、これ買ったりしないし」

 

 こういう場で、梅が売れ残るのは宿命だな……。おいしいんだけどね、梅も。

 

 私は山と積まれたアイテムの中からカップラーメンを取り寄せ、

 

「これって1人1個でいいんですよね?

 6個あるから、2個余っちゃいますけど」

 

 私が念の為に確認すると、ウラヌスは頷き、

 

「うん、1個ずつだね。

 ……アイシャ、もしかして2個食べたいの?」

「え?

 いや、そんなことは……もったいないとは思いますけど」

「ご自由に、とでも書いて、空き家の中に置いてくさ。

 ……別にアイシャが3個食べたいなら止めないけどね」

「そんなことは言ってません!」

 

 プー、クスクスと聞こえてくる。

 こいつら……私、完全に食いしん坊だと思われてるな。そこまで意地汚くないぞ、私は。

 ……そりゃ、細長いカップラーメンだから2個くらい食べたいけどさ。

 

 使い捨てのフォークとカップラーメンを手元に4個寄せておき、お湯が沸くのを待つ。携帯用のガスコンロだから時間かかるな。……屋外だから、熱が籠もらず逃げちゃうのもあるか。

 

 前回ゲーム内で野営してた時は、カストロさんがよく火の番をしてくれた。まー、便利でした。本人も修行になるからって気安く引き受けてくれたし。料理に明かりにずいぶん助けられた。

 

 星空を見上げる。……やっぱりいいな、こういう外での食事。なんだかんだでグリードアイランドにいる時、この時間は楽しかったよ。

 

 ゴザがあると便利なんだけどな。大きい敷物ならなんでもいいけど。バスタオルに腰を下ろして、タオルにおにぎりとか置いてるのも、一風変わってて楽しいけどね。

 

 

 

 お湯が沸いたので、ラーメンの蓋を開け、鍋からコップを使ってお湯を注ぎ、3分待つ。

 

 中途半端な時間だからか、誰も何も言わない。……みんな、おなか空いてるだろうしな。そのワリに、誰もおにぎりを先に食べなかったりする。ラーメン待ち。

 

 可愛らしくお姉さん座りしたウラヌスが、ぼぅっと夜空を見上げている。

 

「……」

 

 そのウラヌスを見て、メレオロンとシームがぼそぼそ耳打ちしあってる。

 

「……なに?」

 

 ウラヌスが半眼で2人を見やる。

 

「え? いや別に」

「なんでもないでーす」

 

 2人がクスクス笑ってる。……また良からぬことを話してたな。

 

「どうしたんです? 私にも教えてくださいよ」

 

 2人が顔を見合わせた後、シームが立ち上がって私に耳打ち。

 

「さっきのウラヌス。

 ──ラーメンに恋する乙女?」

「ぶふっ!」

 

 思わず吹き出す。なんで、そんな下らないこと思いつくんだ! あほか!

 

「なんだよアイシャまでー」

「あーいえ、なんでもないですハイ」

 

 共犯にされてしまった。こんなの、とても自分の口からリピートできないってば。

 

 

 

 ラーメンが出来上がったので、みんなそれぞれ食事を始める。シーフードヌードルと、おにぎり3つ、ペットボトルの水。……夜食メニューだな。

 

 でも、ゴハンはやっぱりいいなぁ。おなかに溜まる。米サイコー♪

 

 ウラヌスはフォークで麺をくるくるしながら、

 

「アイシャって、こういうの良く食べる?」

「あー。

 最近はあんまり食べないですねぇ。お泊まり会とかする時は食べましたけど」

 

 一人暮らししてた頃はよく食べたけど。でもお金があると、こういうのから遠ざかるんだよね。人と食事する機会が増えると尚更だし。

 

「お泊まり会……

 アイシャって女子会とかしないの?」

 

 尋ねてくるメレオロン。女子会?

 

「なんです、女子会って?」

「えー……

 そのままの意味だけど。女友達で集まってキャッキャウフフ」

 

 なんだ、キャッキャウフフって。いや、イメージは伝わったけど……

 

 ……。

 

 あっるぇー? 私、同世代の女友達もしかして居ない? え、あれ?

 

 なんとなくウラヌスの方を見る。

 意図が伝わってしまったらしく、ラーメンを吹きそうになるウラヌス。

 

「げほっ!

 けほっほ……ちょ、待ってアイシャ。なんで俺を見る?」

「あ、いえ別に。他意はないですよ?」

 

 ……。

 

 居ないな、普通の女友達が。……1人も居ないぞ。見た目だけならビスケなんだけど、アレは違う。普通じゃない。……リィーナ? アレは弟子だ。少なくとも普通じゃない。

 

 いや……そもそも私が普通じゃないよね。はは……

 

 別にいいさ。ゴン達が居るもの。男友達とワイワイガヤガヤ、それが性に合うのさハハ。

 それすら滅多にできないけど……ぐぬぬ。

 

 ……アレか。私の目標に、同世代の女友達ゲットを掲げるか。そうすれば女子会も……女子会って響きに拒否反応あるんだけど、集まってお泊まり会的なことができるのか。

 

 でも、女子会って具体的に何すんだろ。

 

「……メレオロン。女子会、って……」

 

 言いかけて気づいた。それを尋ねるのは、女子会したことないって認めたことになると。あ……うん、手遅れか。私もう聞いたじゃん、女子会とはなんぞと。

 

「女子会って……

 なにするんですか? 具体的に」

「うん?

 あー、そりゃあ……ゴハン一緒に食べに行くのは、アイシャが聞きたいのとはちょっと違うか。

 友達の家とかに集まって、お菓子やジュース持ち寄って、一緒に飲み食いしたり?

 夜遅くまでお喋りし倒して寝泊まりしたりもするから、パジャマパーティーなんて言うこともあるわね」

 

 ふむ。その辺はお泊まり会と大体同じだな。それも楽しそうじゃないか。

 

「趣味の話とか、そこに居ない友達のこと、家族のこととか。

 ……あと、恋バナ?」

 

『ぶっ!?』

 

 私とウラヌスが同時に吹いた。

 

 ……なん……だとっ……!?

 

 恋バナ!? 恋愛話ってことか!? そんなの、お泊まり会じゃ一度も……!

 いや、待て。……私か? 男の中に女が居ると話せないことじゃないのか、そういうのって。

 

 要はお喋りを楽しむ場、ということか。私がゴン達と遊んでるのとは、ちょっと違うんだろうな。にしても恋バナとは……今の私にはあまりに過酷なハードルだぞ……

 

「……お姉ちゃん、その辺にしときなよ。

 アイシャ、なんか大変そうじゃん」

「えー? だってコロコロ顔色変わって面白いしー。

 だいたいアタシ、普通に説明してるだけよ? 何も脚色してないもん」

「余計なこと言ってるじゃん……

 言っとくけど男同士で集まったって、恋バナっていうかエロイ話ぐらいするからね?」

 

 ……。

 あぁ、やっぱりそういうことか。同性同士でしか出来ない話……それなら分かる。

 

 つまりアレか……

 私はそういう話もできる、真のお泊まり会に参加したことがないのか……

 

 これは是非とも性転換できたら、ゴン達ともそういう話をしてみたいところ。……私のアレについてとか、そういうんじゃなくて。うん。

 

 一度ゴン達が性転換してくれたけど……違う。アレじゃない。リィーナとビスケが暴走して色々違うことになってた気がする。

 

 

 

 

 

 ──実際の女子会は、えげつない下ネタが飛び交う恐ろしい会合な『一面』もあるので、あまり夢を見るものではない。男子の集まりも同様ではあるが。

 

 

 

 

 

「えっとさ……

 俺達、ここに泊まらないからな?

 さっさと食べて出発しなきゃいけないんだから、早く食べてくれよ」

 

 ウラヌスの冷静なツッコミに『はっ!?』とする私達。そうだったよ。雰囲気的にここで寝泊まりするつもりになってたよ。周りも暗いからつい……

 

 思い出したように、ラーメンをずずずーっと啜る。ウラヌスもそうやって食べてるけど、そんな私達をメレオロンは奇妙そうに見てくる。きっと音立てて啜るのはマナーうんぬんって言いたいんだろうけど、ラーメンはこうやって食べるのが一番なんだよ。

 

 

 

 軽食のつもりが存外満足に食事を終え、後片付け。使ったボンベからガスを出しきって空にし、鍋を洗って、開封済みのペットボトルの水は全て捨てる。

 

 ウラヌスの荷物から出した袋に、携帯ガスコンロや未使用品を詰めて『ご自由にどうぞ 2000年9月15日』と書いて、空き家の隅へ置いておき。

 

 空のペットボトルや汚れたタオルなんかは、かさばるのも馬鹿馬鹿しいから、やむなく袋に詰めて『ゴミ』と書いて、同じく空き家の隅へ。仕方ない、運ぶ余裕なんてないしな。

 

「ああやって放置されたゴミって、どうなるんでしょうね?」

 

 私がウラヌスに尋ねると、「んー」と考えた後、

 

「……ゲームのシステムか、スタッフが片付けてるんだと思うけど。

 じゃないと、際限なくゴミとか溜まってくしさ。都市とかでもそうじゃん?」

 

 ふむ……そうかもな。私はスタッフ扱いみたいだけど、まさか片付けろとか言われないよな? 嫌だぞ、そんなの。

 

 ともあれ、後片付けや身支度を一通り終えて、私達は無人の村を後にした。

 

 時刻は20時45分。

 

 

 

 少しでもウラヌスの負担を軽減させる為、複数出現する『スクラッチモール』『1つ目巨人』の手伝いに加えて、背後から襲ってくる『ロッククロウラー』『キラービー群』を私1人で引き受ける。殿の私が戦えば、先駆けるウラヌスが逆走して倒す手間が減らせるからね。

 

 そのおかげか、他人のオーラを纏って戦う感覚に大分慣れてきた。オーラ自体は見えずとも、微細な動きから弱点となる箇所を見抜いて一撃している。今ならランクBくらいの敵までなら、苦労せず倒せるかもな。ランクA以上の敵はどうだろう。実は戦ったことがない。まあ『隠』を『凝』で見破れないから、無理はできないけど……

 

 

 

 シームの残存オーラが常に心許ないこともあり、それなりにスローペースだったけれど。

 

 ────ようやく。

 

 長かった岩石地帯を突破した。

 まばらな草地の向こうに、月明かり星明かりを照り返す暗い湖が見える。

 

 湖沿いを走っている間、シームから私のリュックを返してもらい、自分で背負っていた。ウラヌスに反対されたけど、オーラで守られた上にそこまで甘やかされるのは嫌だと言い張って、なんとか押し通した。荷物を背負ってヘロヘロふらふらなシームの方が、荷物を背負う私よりよっぽど危ういしな。

 

 道中で『周』のオーラが切れたけど、怪物も出てこないのでそのまま駆け抜け────

 

 

 

 ついに、魔法都市マサドラの目前までやって来た。

 

 時刻は23時に差しかかろうとしていた。

 

 

 

 それぞれが疲労と達成感をないまぜにした表情で、町への道を歩いていく。

 

「長かったぁ……」

 

 シームがその言葉に全てを込める。

 

「これ、このゲーム始めた連中、みんなやらされんの?

 そりゃ死ぬわよ、普通に……」

 

 うんざりとメレオロンがぼやく。

 ウラヌスは歩きながら、後ろの私達へ視線を向け、

 

「まだ経験者がいた分、圧倒的にマシさ。

 こんなもん1人でロクな実力もなしに挑んだら、初っ端でゲームオーバーだよ」

「そうですね……

 仮に怪物から逃げ回るにしても、初見ではそれも困難でしょうし」

 

 恐らく、ふるいにかけてるんだろう。このゲームに挑戦する実力があるかどうか。……かなりホンキで殺しにきてるからな、あの怪物の大群は。

 

 命の危険があるゲーム──と知って入ってきてる以上、それなりにみんな覚悟は決めていたはずだけど。……それは私も例外じゃない。私が受けたハンター試験の時も、大勢の犠牲者が出たみたいだしな。残念だけれど、実力が足りなかったのだから当然の結果だと受け入れるしかない。

 

 ウラヌスは一息つき、

 

「……まあ、ほとんどの連中は岩石地帯ですぐ引き返してるだろうけどな。アントキバに。

 他のプレイヤーと交渉して、マサドラへ連れて行ってもらうのが一番賢明だ」

 

 なるほど……アントキバなら安全にお金を稼げるし、わざわざ危険を省みず岩石地帯を突破しなくてもいいわけか。

 

「ほら、モタリケって居たじゃん?

 メシ屋でアイシャに絡んできたやつ」

「ああ、はい……」

 

 なんだろ、いきなり。あんまり思い出したくないんだけど……

 

「あいつ、ああ見えて自力でここを単独突破したんだぜ」

「……へぇ。なかなかやりますね」

 

 そうだったんだ。とてもそんな実力があるようには見えなかったけどな。

 

「一度岩石地帯に入って、アントキバへ逃げ帰った連中が採る行動は、大きく分けて2つ。

 諦めてアントキバで暮らす。

 何とかしてマサドラへ行く方法を探す。

 ……行く方法については、怪物に勝てるよう修行したり、一緒に行く仲間を募ったり、スペルカードで連れて行ってもらえないか交渉したり、岩石地帯を迂回するルートを進む為に長旅の準備をしたり……まぁ色々あるわな。

 最初はみんな、結構がんばるんだよ。

 ゲームの中へ入るまでにも苦労してるしさ」

 

 それは分かる。実はそれこそが難関なんだよな。主にバッテラさんのせいなんだけどさ。

 

「で、何とかしてマサドラへ着く。スペルカードを買う。

 ……問題はそっからなんだよ」

 

 私達は歩きながら、黙って彼の話を聞く。ウラヌスは沈黙を挟み、

 

「次にどうすればいいか、分からなくなる。

 スペルカードがないと始まらない。ここまではみんな分かる。

 でも、次は?

 このゲームはロクにヒントを与えてくれない。街のNPCに聞き込みしようにも、何を聞いたらいいかも分からないからな。

 取っ掛かりになる情報を得る為に、他のプレイヤーと交渉したり、スペルを使ったり、トレードショップで情報を買ったり……どれも元手がかかる。

 圧倒的に情報が足りないのに、金だけひたすらかかる。働いて稼いでたんじゃ、時間がかかりすぎる。時間をかければ生活費だって(かさ)むしな。

 だから怪物を倒して素早く稼げる実力が無いと、このゲームは確実に詰む。現実へ生還すらさせてくれない。そんなこんなでグダグダしてるうちに──

 身体がなまっちまうんだよ。年月だけ無駄に費やして、戦う力も失う。……ああやってモタリケみたいなのがこのゲーム内に溜まってくのは、当たり前なんだよな」

 

 なるほどね……。なぜ戦えそうもない人がこのゲームに大勢いるのか不思議に思ってたけど、そういう理由だったんだ。

 

 島の外へ出ることすら困難なゲームの、それが現実か。

 

「そういえば……

 現実帰還のアイテムって、やろうと思えば複数取れますよね?」

「いくつか方法はあるね」

「その……

 誰もああいう人達を、現実に帰してあげようとはしないのかなって」

 

 私の素朴な疑問に、ウラヌスは複雑な表情を浮かべる。

 

「それは……

 俺もアイシャも、しなかったことだからね。それが答えなんじゃないかな」

 

 うっ。

 

 ……まぁそうなんだけど。でも私は、グリードアイランドだと余裕がなさすぎるしな。他人の面倒を見る余力なんてまるでなかった。ウラヌスもそうだろう。でなければ彼なら帰してあげそうだしな。

 

 暗い表情を見せながらウラヌスは、

 

「それについては、別なモノの見方もあってね。してやる義理がないってのは省くけど。

 必ずしも、面倒だから、余裕がないからってだけじゃないんだ。

 ゲーム内に留まるプレイヤーは、なんだかんだでこのゲームで生き残る(すべ)を学んだ連中ばっかりだ。そういった連中を現実に帰したとしよう。

 その後、どうなる?」

 

 ……? ……あ。

 

「もしかして……

 代わりに誰かが、ゲームに入る?」

「そ。

 このゲームに新規の参加プレイヤーが少ない理由は、メモリーカードを差せる空き枠がほとんどないからだよ。メモリーカードがないとクリアできないからね。

 で、ゲームからプレイヤーが出て行けば、そのぶん必ず未挑戦の念能力者が我こそはと挑んでくる。実際、入りたがってる人間は多いみたいだし。空き枠に余裕があれば、実力不足の自覚もなく入ってくる連中も増えるだろうね。

 その結果……あまり明るい未来は見えないかな」

 

 これ……根深いな。解決する気がしないんだけど……

 

「よくて、同じことの繰り返しだな。結局、現実に帰れないプレイヤーが溜まってくる。

 わるけりゃ、ひたすら犠牲者が増える。一体このゲームの中で、どんだけの念能力者が死んだんだか……

 多分、念に無自覚な子供がうっかり入ったとかいう事故もあるだろうし。ゲームソフトってのもよくないんだよな。警戒心が薄まるから」

 

「……

 あの人達をそのままにした方が、結局いいってことですか?」

 

「うん……

 ゲームを運営してる連中がその辺フォローしない限り、俺達じゃどうしようもないかな。連中にその気は無さそうだけど。

 だから、ああいうモタリケみたいなのは……

 言い方は悪いけど、生贄なんだよ。このゲームの。……これ以上犠牲者を出さない為の。

 で、こんな話をした理由なんだけど」

 

 ウラヌスは振り向き、足を止める。

 

 私達も、足を止める。

 

 いよいよ間近に迫った、光を放つ夜の魔法都市を背景に────彼は語る。

 

「この都市には、そんなプレイヤーがたくさんいる。

 現実へ戻るのを諦めたやつはまだいいんだけど……大半は帰りたがってる。

 特にスペルカードショップの近くは、現実に帰還できるスペル『離脱/リーブ』を欲しがってるプレイヤーが山ほどいると思っていい。

 だから……

 迂闊に現実へ戻れる云々(うんぬん)といったことを口にはしないでほしい。

 連中も必死だ。何をしてくるか分からない」

 

「……。分かりました」

 

 私だけが返事する。メレオロンとシームは黙ったままだ。

 

 ウラヌスが都市へと向き直る。

 

「それに付け加えて……

 あんまりそういった連中を、蔑んだ目で見ないでやってくれ。

 ……かわいそうだから」

 

 歩き出すウラヌス。

 

 私達は何も言わず、その後をついていく。

 

 メレオロンが落ち込んだ顔で、私の隣に来る。

 

「アイシャ……

 あのモタリケってやつに、アタシ可哀想なことしたかも。……ウラヌスにも、代わりに言わせちゃったし……」

「……。

 助けてもらった私からは言いづらいですけど……

 本人達の自業自得の面もありますから、あまり同情しすぎるのも良くないと思いますよ。普通に接しましょう」

「……うん。分かった」

 

 前を進むウラヌスの、力なく歩く背中を見つめる。

 

 彼は……

 

 他人の不幸に、とても敏感な人だ。……多分、自らの不幸と長く付き合ってきたから。

 

 どうしたらいいんだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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