まず充分な明かりを確保する為、携帯ガスコンロにボンベをセットして、火を点ける。場にいる全員がほっとする気配。夜の野外だと、こんなちょっとした明かりが有り難いんだよな。……まぁここは建物が周りにあるけど、照明が何もないところだし。
「そういえば、この建物に照明とか何もないわけ?」
メレオロンが尋ねてくる。ウラヌスが考えているので、私は『ないです』という言葉を飲みこむ。回答は彼に任せて、私は食事の支度を進めよう。
「設定上だろうけど、この村は以前ヒトが住んでた廃村みたいだな。
建物の中を覗いても誰も居ないんだけど、そのワリには小奇麗だったりする。
で、照明は形だけ置いてある。いじっても点かない」
「やっぱり?」
「残念でした。ま、仮に照明が生きてたとしても、家屋の明かりは遠くからでも目立つし、やめといた方がいいよ」
他のプレイヤーを警戒するなら、そうだろうな。このコンロの火に気がつくところまで近づいてきたら、多分ウラヌスか私が気づけるだろうし。食べ物の匂いは……どうかな。風下から来られたらキツイかも。
「ウラヌス、いちおう風下の方を警戒してくださいね」
「大丈夫。やってるよ」
そんなことを話しながら、ウラヌスのリュックから取り出した鍋に取っ手を付け、鍋にペットボトルの水を入れ、コンロの火にかける。
お湯が沸くのを待つ間、私達は12個あるおにぎりの配分をどうするかで協議していた。
おにぎりの具は、梅・鰹・昆布・ツナ・タラコ・鮭。各2個ずつだ。
そして4人だから、1人頭3個である。
血で血を洗う争い──になるわけないけど。ただ、お互いに好き嫌いがよく分からないからな。どれを取ったものか。
「どうしてこんな揉めそうなセット買ったの?」
腕を組んだメレオロンの疑念に、ウラヌスも嫌そうな顔で、
「いや、俺が買ってる場にオマエも居ただろ。
ダメなら止めろよ、その時に」
「ウラヌスのことだから、考えがあるんだろうなって思ってました」
にこやかに放つシームの辛辣な一言。むずがゆそうな表情のウラヌス。
「……とは、限らないじゃないか。確認してくれよ念の為……
いやまぁ考えなしに買っちゃいないけどさ」
私は軽く笑みを零しつつ、
「フリーポケットの猶予的にも、妥当な選択だと思いますけどね。
あれ? ウラヌス迷いなく買ってるけど、みんなに確認しなくていいのかなぁ? とは思いましたけど」
私が芝居がかった調子でそう言うと、首を折ってヘコむウラヌス。
その場で確認しなかった点では私も同罪なんだけどね。私は別にいいんだよ。おにぎり好きだし、どの具でも食べられるしな。
ウラヌスは垂れた頭を持ち直し、ひとしきり悩んでみせた後、
「じゃあ……
年齢の若い順で1個ずつ好きなの取っていこう。1巡したらまた若い順に取っていく」
「それは別にいいけど。
肝心の、年齢若い順は?」
尋ねたメレオロンを、ウラヌスは指差す。
「最初はメレオロン。次シーム、その後アイシャ」
「へっ!?
……多分、一番歳くってるのアタシじゃないの?」
あー、なるほどね。転生前込みだとそうなるか。
でもメレオロンの言う基準だと私なんだよなぁ。一番歳いってるの……
「いーや。オマエはまだ生まれて1年経ってないだろ。
シームは普通に年齢通り。で、その次アイシャ。最後は俺。順当だろ?」
「……
なんだろ、こういう時にそんな扱い受けるの、なんか面白くない」
「オマエが俺のこと、好き勝手に男扱い女扱いしてんのも同じじゃないか。
自分がされて嫌ならやめてくれよ」
「あー……
いや、いいわ。アタシ1歳未満でちゅ。ばぶばぶ」
「オマエ、そこまでして俺のこと……
いや、うん。分かった好きにしろよ。さっさと選べ、この大きな赤ん坊め」
「ばぶばぶっ。ばぶーっ」
「うるせぇ。はよ取れ」
メレオロンも煽り上手いな。ウラヌスいじる為に、なりふり構わなさすぎだろう。
「じゃあアタシは……タラコ! こいつぁ譲れねぇ」
「……次、ぼくだよね? じゃあツナ!」
「ほぉー、2人とも選びますね。では……昆布をもらいましょう」
「いや、みんなノリノリじゃねーか。この流れだと俺は鮭しか取れないかな」
1巡終わり、メレオロンに視線が集まる。
残りは、梅2・鰹2・昆布1・ツナ1・タラコ1・鮭1。
「遠慮しないわよ。ツナもらい!」
「じゃあボク、シャケもらうね」
「あー。もう終局図が見えましたね……おかかをいただきます」
「まぁそうだねぇ。昆布にしとく」
2巡終了。残り、梅2・鰹1・タラコ1。
「んじゃラスト、カツオね」
「タラコもらいまーす。うひょー」
「やっぱりこうなりましたか……。私は梅でも大丈夫ですけど、ウラヌスは?」
「あ、うん。別に大丈夫だよ。嫌いだったら、これ買ったりしないし」
こういう場で、梅が売れ残るのは宿命だな……。おいしいんだけどね、梅も。
私は山と積まれたアイテムの中からカップラーメンを取り寄せ、
「これって1人1個でいいんですよね?
6個あるから、2個余っちゃいますけど」
私が念の為に確認すると、ウラヌスは頷き、
「うん、1個ずつだね。
……アイシャ、もしかして2個食べたいの?」
「え?
いや、そんなことは……もったいないとは思いますけど」
「ご自由に、とでも書いて、空き家の中に置いてくさ。
……別にアイシャが3個食べたいなら止めないけどね」
「そんなことは言ってません!」
プー、クスクスと聞こえてくる。
こいつら……私、完全に食いしん坊だと思われてるな。そこまで意地汚くないぞ、私は。
……そりゃ、細長いカップラーメンだから2個くらい食べたいけどさ。
使い捨てのフォークとカップラーメンを手元に4個寄せておき、お湯が沸くのを待つ。携帯用のガスコンロだから時間かかるな。……屋外だから、熱が籠もらず逃げちゃうのもあるか。
前回ゲーム内で野営してた時は、カストロさんがよく火の番をしてくれた。まー、便利でした。本人も修行になるからって気安く引き受けてくれたし。料理に明かりにずいぶん助けられた。
星空を見上げる。……やっぱりいいな、こういう外での食事。なんだかんだでグリードアイランドにいる時、この時間は楽しかったよ。
ゴザがあると便利なんだけどな。大きい敷物ならなんでもいいけど。バスタオルに腰を下ろして、タオルにおにぎりとか置いてるのも、一風変わってて楽しいけどね。
お湯が沸いたので、ラーメンの蓋を開け、鍋からコップを使ってお湯を注ぎ、3分待つ。
中途半端な時間だからか、誰も何も言わない。……みんな、おなか空いてるだろうしな。そのワリに、誰もおにぎりを先に食べなかったりする。ラーメン待ち。
可愛らしくお姉さん座りしたウラヌスが、ぼぅっと夜空を見上げている。
「……」
そのウラヌスを見て、メレオロンとシームがぼそぼそ耳打ちしあってる。
「……なに?」
ウラヌスが半眼で2人を見やる。
「え? いや別に」
「なんでもないでーす」
2人がクスクス笑ってる。……また良からぬことを話してたな。
「どうしたんです? 私にも教えてくださいよ」
2人が顔を見合わせた後、シームが立ち上がって私に耳打ち。
「さっきのウラヌス。
──ラーメンに恋する乙女?」
「ぶふっ!」
思わず吹き出す。なんで、そんな下らないこと思いつくんだ! あほか!
「なんだよアイシャまでー」
「あーいえ、なんでもないですハイ」
共犯にされてしまった。こんなの、とても自分の口からリピートできないってば。
ラーメンが出来上がったので、みんなそれぞれ食事を始める。シーフードヌードルと、おにぎり3つ、ペットボトルの水。……夜食メニューだな。
でも、ゴハンはやっぱりいいなぁ。おなかに溜まる。米サイコー♪
ウラヌスはフォークで麺をくるくるしながら、
「アイシャって、こういうの良く食べる?」
「あー。
最近はあんまり食べないですねぇ。お泊まり会とかする時は食べましたけど」
一人暮らししてた頃はよく食べたけど。でもお金があると、こういうのから遠ざかるんだよね。人と食事する機会が増えると尚更だし。
「お泊まり会……
アイシャって女子会とかしないの?」
尋ねてくるメレオロン。女子会?
「なんです、女子会って?」
「えー……
そのままの意味だけど。女友達で集まってキャッキャウフフ」
なんだ、キャッキャウフフって。いや、イメージは伝わったけど……
……。
あっるぇー? 私、同世代の女友達もしかして居ない? え、あれ?
なんとなくウラヌスの方を見る。
意図が伝わってしまったらしく、ラーメンを吹きそうになるウラヌス。
「げほっ!
けほっほ……ちょ、待ってアイシャ。なんで俺を見る?」
「あ、いえ別に。他意はないですよ?」
……。
居ないな、普通の女友達が。……1人も居ないぞ。見た目だけならビスケなんだけど、アレは違う。普通じゃない。……リィーナ? アレは弟子だ。少なくとも普通じゃない。
いや……そもそも私が普通じゃないよね。はは……
別にいいさ。ゴン達が居るもの。男友達とワイワイガヤガヤ、それが性に合うのさハハ。
それすら滅多にできないけど……ぐぬぬ。
……アレか。私の目標に、同世代の女友達ゲットを掲げるか。そうすれば女子会も……女子会って響きに拒否反応あるんだけど、集まってお泊まり会的なことができるのか。
でも、女子会って具体的に何すんだろ。
「……メレオロン。女子会、って……」
言いかけて気づいた。それを尋ねるのは、女子会したことないって認めたことになると。あ……うん、手遅れか。私もう聞いたじゃん、女子会とはなんぞと。
「女子会って……
なにするんですか? 具体的に」
「うん?
あー、そりゃあ……ゴハン一緒に食べに行くのは、アイシャが聞きたいのとはちょっと違うか。
友達の家とかに集まって、お菓子やジュース持ち寄って、一緒に飲み食いしたり?
夜遅くまでお喋りし倒して寝泊まりしたりもするから、パジャマパーティーなんて言うこともあるわね」
ふむ。その辺はお泊まり会と大体同じだな。それも楽しそうじゃないか。
「趣味の話とか、そこに居ない友達のこと、家族のこととか。
……あと、恋バナ?」
『ぶっ!?』
私とウラヌスが同時に吹いた。
……なん……だとっ……!?
恋バナ!? 恋愛話ってことか!? そんなの、お泊まり会じゃ一度も……!
いや、待て。……私か? 男の中に女が居ると話せないことじゃないのか、そういうのって。
要はお喋りを楽しむ場、ということか。私がゴン達と遊んでるのとは、ちょっと違うんだろうな。にしても恋バナとは……今の私にはあまりに過酷なハードルだぞ……
「……お姉ちゃん、その辺にしときなよ。
アイシャ、なんか大変そうじゃん」
「えー? だってコロコロ顔色変わって面白いしー。
だいたいアタシ、普通に説明してるだけよ? 何も脚色してないもん」
「余計なこと言ってるじゃん……
言っとくけど男同士で集まったって、恋バナっていうかエロイ話ぐらいするからね?」
……。
あぁ、やっぱりそういうことか。同性同士でしか出来ない話……それなら分かる。
つまりアレか……
私はそういう話もできる、真のお泊まり会に参加したことがないのか……
これは是非とも性転換できたら、ゴン達ともそういう話をしてみたいところ。……私のアレについてとか、そういうんじゃなくて。うん。
一度ゴン達が性転換してくれたけど……違う。アレじゃない。リィーナとビスケが暴走して色々違うことになってた気がする。
──実際の女子会は、えげつない下ネタが飛び交う恐ろしい会合な『一面』もあるので、あまり夢を見るものではない。男子の集まりも同様ではあるが。
「えっとさ……
俺達、ここに泊まらないからな?
さっさと食べて出発しなきゃいけないんだから、早く食べてくれよ」
ウラヌスの冷静なツッコミに『はっ!?』とする私達。そうだったよ。雰囲気的にここで寝泊まりするつもりになってたよ。周りも暗いからつい……
思い出したように、ラーメンをずずずーっと啜る。ウラヌスもそうやって食べてるけど、そんな私達をメレオロンは奇妙そうに見てくる。きっと音立てて啜るのはマナーうんぬんって言いたいんだろうけど、ラーメンはこうやって食べるのが一番なんだよ。
軽食のつもりが存外満足に食事を終え、後片付け。使ったボンベからガスを出しきって空にし、鍋を洗って、開封済みのペットボトルの水は全て捨てる。
ウラヌスの荷物から出した袋に、携帯ガスコンロや未使用品を詰めて『ご自由にどうぞ 2000年9月15日』と書いて、空き家の隅へ置いておき。
空のペットボトルや汚れたタオルなんかは、かさばるのも馬鹿馬鹿しいから、やむなく袋に詰めて『ゴミ』と書いて、同じく空き家の隅へ。仕方ない、運ぶ余裕なんてないしな。
「ああやって放置されたゴミって、どうなるんでしょうね?」
私がウラヌスに尋ねると、「んー」と考えた後、
「……ゲームのシステムか、スタッフが片付けてるんだと思うけど。
じゃないと、際限なくゴミとか溜まってくしさ。都市とかでもそうじゃん?」
ふむ……そうかもな。私はスタッフ扱いみたいだけど、まさか片付けろとか言われないよな? 嫌だぞ、そんなの。
ともあれ、後片付けや身支度を一通り終えて、私達は無人の村を後にした。
時刻は20時45分。
少しでもウラヌスの負担を軽減させる為、複数出現する『スクラッチモール』『1つ目巨人』の手伝いに加えて、背後から襲ってくる『ロッククロウラー』『キラービー群』を私1人で引き受ける。殿の私が戦えば、先駆けるウラヌスが逆走して倒す手間が減らせるからね。
そのおかげか、他人のオーラを纏って戦う感覚に大分慣れてきた。オーラ自体は見えずとも、微細な動きから弱点となる箇所を見抜いて一撃している。今ならランクBくらいの敵までなら、苦労せず倒せるかもな。ランクA以上の敵はどうだろう。実は戦ったことがない。まあ『隠』を『凝』で見破れないから、無理はできないけど……
シームの残存オーラが常に心許ないこともあり、それなりにスローペースだったけれど。
────ようやく。
長かった岩石地帯を突破した。
まばらな草地の向こうに、月明かり星明かりを照り返す暗い湖が見える。
湖沿いを走っている間、シームから私のリュックを返してもらい、自分で背負っていた。ウラヌスに反対されたけど、オーラで守られた上にそこまで甘やかされるのは嫌だと言い張って、なんとか押し通した。荷物を背負ってヘロヘロふらふらなシームの方が、荷物を背負う私よりよっぽど危ういしな。
道中で『周』のオーラが切れたけど、怪物も出てこないのでそのまま駆け抜け────
ついに、魔法都市マサドラの目前までやって来た。
時刻は23時に差しかかろうとしていた。
それぞれが疲労と達成感をないまぜにした表情で、町への道を歩いていく。
「長かったぁ……」
シームがその言葉に全てを込める。
「これ、このゲーム始めた連中、みんなやらされんの?
そりゃ死ぬわよ、普通に……」
うんざりとメレオロンがぼやく。
ウラヌスは歩きながら、後ろの私達へ視線を向け、
「まだ経験者がいた分、圧倒的にマシさ。
こんなもん1人でロクな実力もなしに挑んだら、初っ端でゲームオーバーだよ」
「そうですね……
仮に怪物から逃げ回るにしても、初見ではそれも困難でしょうし」
恐らく、ふるいにかけてるんだろう。このゲームに挑戦する実力があるかどうか。……かなりホンキで殺しにきてるからな、あの怪物の大群は。
命の危険があるゲーム──と知って入ってきてる以上、それなりにみんな覚悟は決めていたはずだけど。……それは私も例外じゃない。私が受けたハンター試験の時も、大勢の犠牲者が出たみたいだしな。残念だけれど、実力が足りなかったのだから当然の結果だと受け入れるしかない。
ウラヌスは一息つき、
「……まあ、ほとんどの連中は岩石地帯ですぐ引き返してるだろうけどな。アントキバに。
他のプレイヤーと交渉して、マサドラへ連れて行ってもらうのが一番賢明だ」
なるほど……アントキバなら安全にお金を稼げるし、わざわざ危険を省みず岩石地帯を突破しなくてもいいわけか。
「ほら、モタリケって居たじゃん?
メシ屋でアイシャに絡んできたやつ」
「ああ、はい……」
なんだろ、いきなり。あんまり思い出したくないんだけど……
「あいつ、ああ見えて自力でここを単独突破したんだぜ」
「……へぇ。なかなかやりますね」
そうだったんだ。とてもそんな実力があるようには見えなかったけどな。
「一度岩石地帯に入って、アントキバへ逃げ帰った連中が採る行動は、大きく分けて2つ。
諦めてアントキバで暮らす。
何とかしてマサドラへ行く方法を探す。
……行く方法については、怪物に勝てるよう修行したり、一緒に行く仲間を募ったり、スペルカードで連れて行ってもらえないか交渉したり、岩石地帯を迂回するルートを進む為に長旅の準備をしたり……まぁ色々あるわな。
最初はみんな、結構がんばるんだよ。
ゲームの中へ入るまでにも苦労してるしさ」
それは分かる。実はそれこそが難関なんだよな。主にバッテラさんのせいなんだけどさ。
「で、何とかしてマサドラへ着く。スペルカードを買う。
……問題はそっからなんだよ」
私達は歩きながら、黙って彼の話を聞く。ウラヌスは沈黙を挟み、
「次にどうすればいいか、分からなくなる。
スペルカードがないと始まらない。ここまではみんな分かる。
でも、次は?
このゲームはロクにヒントを与えてくれない。街のNPCに聞き込みしようにも、何を聞いたらいいかも分からないからな。
取っ掛かりになる情報を得る為に、他のプレイヤーと交渉したり、スペルを使ったり、トレードショップで情報を買ったり……どれも元手がかかる。
圧倒的に情報が足りないのに、金だけひたすらかかる。働いて稼いでたんじゃ、時間がかかりすぎる。時間をかければ生活費だって
だから怪物を倒して素早く稼げる実力が無いと、このゲームは確実に詰む。現実へ生還すらさせてくれない。そんなこんなでグダグダしてるうちに──
身体がなまっちまうんだよ。年月だけ無駄に費やして、戦う力も失う。……ああやってモタリケみたいなのがこのゲーム内に溜まってくのは、当たり前なんだよな」
なるほどね……。なぜ戦えそうもない人がこのゲームに大勢いるのか不思議に思ってたけど、そういう理由だったんだ。
島の外へ出ることすら困難なゲームの、それが現実か。
「そういえば……
現実帰還のアイテムって、やろうと思えば複数取れますよね?」
「いくつか方法はあるね」
「その……
誰もああいう人達を、現実に帰してあげようとはしないのかなって」
私の素朴な疑問に、ウラヌスは複雑な表情を浮かべる。
「それは……
俺もアイシャも、しなかったことだからね。それが答えなんじゃないかな」
うっ。
……まぁそうなんだけど。でも私は、グリードアイランドだと余裕がなさすぎるしな。他人の面倒を見る余力なんてまるでなかった。ウラヌスもそうだろう。でなければ彼なら帰してあげそうだしな。
暗い表情を見せながらウラヌスは、
「それについては、別なモノの見方もあってね。してやる義理がないってのは省くけど。
必ずしも、面倒だから、余裕がないからってだけじゃないんだ。
ゲーム内に留まるプレイヤーは、なんだかんだでこのゲームで生き残る
その後、どうなる?」
……? ……あ。
「もしかして……
代わりに誰かが、ゲームに入る?」
「そ。
このゲームに新規の参加プレイヤーが少ない理由は、メモリーカードを差せる空き枠がほとんどないからだよ。メモリーカードがないとクリアできないからね。
で、ゲームからプレイヤーが出て行けば、そのぶん必ず未挑戦の念能力者が我こそはと挑んでくる。実際、入りたがってる人間は多いみたいだし。空き枠に余裕があれば、実力不足の自覚もなく入ってくる連中も増えるだろうね。
その結果……あまり明るい未来は見えないかな」
これ……根深いな。解決する気がしないんだけど……
「よくて、同じことの繰り返しだな。結局、現実に帰れないプレイヤーが溜まってくる。
わるけりゃ、ひたすら犠牲者が増える。一体このゲームの中で、どんだけの念能力者が死んだんだか……
多分、念に無自覚な子供がうっかり入ったとかいう事故もあるだろうし。ゲームソフトってのもよくないんだよな。警戒心が薄まるから」
「……
あの人達をそのままにした方が、結局いいってことですか?」
「うん……
ゲームを運営してる連中がその辺フォローしない限り、俺達じゃどうしようもないかな。連中にその気は無さそうだけど。
だから、ああいうモタリケみたいなのは……
言い方は悪いけど、生贄なんだよ。このゲームの。……これ以上犠牲者を出さない為の。
で、こんな話をした理由なんだけど」
ウラヌスは振り向き、足を止める。
私達も、足を止める。
いよいよ間近に迫った、光を放つ夜の魔法都市を背景に────彼は語る。
「この都市には、そんなプレイヤーがたくさんいる。
現実へ戻るのを諦めたやつはまだいいんだけど……大半は帰りたがってる。
特にスペルカードショップの近くは、現実に帰還できるスペル『離脱/リーブ』を欲しがってるプレイヤーが山ほどいると思っていい。
だから……
迂闊に現実へ戻れる
連中も必死だ。何をしてくるか分からない」
「……。分かりました」
私だけが返事する。メレオロンとシームは黙ったままだ。
ウラヌスが都市へと向き直る。
「それに付け加えて……
あんまりそういった連中を、蔑んだ目で見ないでやってくれ。
……かわいそうだから」
歩き出すウラヌス。
私達は何も言わず、その後をついていく。
メレオロンが落ち込んだ顔で、私の隣に来る。
「アイシャ……
あのモタリケってやつに、アタシ可哀想なことしたかも。……ウラヌスにも、代わりに言わせちゃったし……」
「……。
助けてもらった私からは言いづらいですけど……
本人達の自業自得の面もありますから、あまり同情しすぎるのも良くないと思いますよ。普通に接しましょう」
「……うん。分かった」
前を進むウラヌスの、力なく歩く背中を見つめる。
彼は……
他人の不幸に、とても敏感な人だ。……多分、自らの不幸と長く付き合ってきたから。
どうしたらいいんだろうな……