第四十章
魔法都市マサドラに着いた私達は、まずトレードショップを目指して歩いていた。
「なんだか不思議な景観ね……」
疲労感をにじませた表情で、周囲を見回すメレオロン。
「丸いのがいっぱいあるよね。ふわふわ浮かんでるのもあるし」
シームはちょっとワクワクした様子で、感想を口にする。
ウラヌスはあちこち指を
「マサドラにある大概の構造物は、この球体みたいな形状が散見するね。
どう見てもアンバランスで不自然だから、魔法都市っぽく見せたいが為のデザインだと思う。それ以外の意味はなさそうだし」
「多分そうでしょうね。
建物に入っても、変にくっついてるあの丸い部分には行けなかったりしますから」
私がそう言うと、メレオロンは目をぱちくりさせ、
「そうなの?
なんか魔法っぽいイベントとか、せめてこうなってる説明ってないわけ?」
「私は知らないですね」
「俺も知らないな。魔法都市とは言うけど、この妙な景観とスペルショップがあるくらいしか、そういう要素ないと思う」
「なぁんだ」
肩透かしとばかりにメレオロンが呆れた顔をする。
「明かりからして、念とは関係ない人工の照明だしな。無駄なことはしないってこったろ。
他には魔法使いみたいな格好のNPCが多いくらいか。今は夜だしほとんど見かけないけど」
「ふぅん。ただの雰囲気作りってことね……」
あちこち明かりを目にするけど、ウラヌスの言う通り単なる街灯ばかりだ。こんな時間だと建物の中も暗くなっている。お店などの施設も大半が閉まっていた。都市の大通りに敷き詰められた、このチェスのような白黒の石床も懐かしい。
シームはやはり疲れているらしく、ふらふらと足取りがおぼつかない。まぁ背負ってたリュックがなくなって、ちょっとバランスが取れないのもあるんだろう。
私は今のところ体力を充分温存できている。戦闘やリュックを背負って走るのをいくらこなしたところで、あの程度なら負担のうちにも入らない。
……感謝すべきなんだろう。気絶してる間にケアしてくれたウラヌスのことを。そうでなければ、こんなベストコンディションでゲームを開始することなど出来なかったはずだ。『周』による補助もかなり心強かった。
その彼は、かなり疲労の色が濃い。両肩を落とし、腕もだらんとぶら下げている。早く休ませてあげたいけど、やるべきことが全て片付くまで彼は休もうとしないだろうしな。
────宿に戻ったら、何を言えばいいんだろう。
私が気絶していた最中の件で、今夜話すと約束したけど……
正直、何も言いたくはなかった。責めようも叱りようもない。彼は自分がやったことを充分に理解している。私に怒られる覚悟でしてくれたことを、私が叱責したところで仕方ない。……個人的には恥ずかしいから蒸し返したくないしな。
けれど私が『もういいです。気にしていません』と言っても、きっとダメなんだろう。私があっさり許せば、彼は自分で自分を責めるであろうことが容易に想像がつく。困ったヒトだよ。
ホントにどうしよ……考えがまとまらないぞ。
私達はトレードショップに入り、まずフリーポケットを整理する為、お金カードを全て貯金する──116万ジェニー。
更に怪物カードを売却。『バブルホース』20枚、『マリモッチ』25枚、『メラニントカゲ』12枚。1枚ずつ分けて売らなきゃいけないから時間かかったけど、買取額の合計は57万7000ジェニー。ウラヌスが50枚売り、残り7枚を私が売る。
これでウラヌスは、ランクBの指定ポケットカードを購入できるようになった。
マサドラで売る為に取っておいた『ガルガイダー』も私が売り、+30000ジェニー。全てお店に預けて、貯金額は176万7000ジェニー。
残ったフリーポケットのカードを、私のバインダーに全て集める。
『たずね犬』『島の地図』『防壁』『追跡』、くわえて『密着』2枚、最終ページに入れたままの『盗視』。
これでフリー枠は全員合わせて174枚分、空きが出来た。
お店からお金を出し入れして、ウラヌスのバインダーに『10000J』45枚、私に『10000J』13枚。ウラヌス名義の貯金額118万7000ジェニー。
ようやく準備が整い、私達はいよいよスペルカードショップへ向かう。
ちなみにこの辺のやりくりは、ぜーんぶウラヌス1人で考えてる。疲れてるだろうに、よくやるよ……
スペルカードショップ前には、誰もいなかった。遠目に見ても、NPC以外誰もいない。思わず立ち止まり、呆然と立ち尽くす私とウラヌス。
はぁ……。いや、楽だからいいけどさ。味気ないというか、張り合いがないというか。時間帯が時間帯だからかもしれないけど、いつ来ても行列ができてた頃を知る身としてはなんだかなぁ。あの苦労はなんだったのか。
「全然プレイヤーいませんね……」
「そうだね……
かもしれないなとは思ってたけど」
釈然としない表情で返すウラヌス。彼も苦労しただろうからな、スペルカード買うのに。けど、こうなってる予想もついてたのか。
「やっぱり再開して間もないからですかね?」
「端的に言えば、そうなるかな。
夜遅い時間ってことを加味しても、マサドラの街中やトレードショップにプレイヤーがほぼいないなんて、今までならちょっと考えられないからね。
アントキバも月例大会の日だってのに、そんなにいなかったし。
となると、今ゲームに入ってるプレイヤーはまだまだ少ないのかもしれない。もちろん活発に動く連中は、って意味だけど」
「前はそんなにすごかったの?」
メレオロンが割って入ってくる。私達2人は彼女に目を向けながら、
「そりゃもう、すごいなんてモンじゃなかったですよ」
「時期にもよるけど、ヒドイ時は昼夜問わず店の前にずらーっと行列が出来てたからな。
街の中だってこんなもんじゃなかったさ。トレードショップもワリと待たされたし」
「そうですよね」
「アンタ達、苦労したのねー」
「ええ……」
「まぁな……」
「ちなみにもし行列ができてたら、どうするつもりだったの?」
「正直めんどくさいことになってたと思う。
スムーズにスペルカードを入手できればって俺がアントキバで言ったのは、マサドラですぐ買えない可能性があるのも分かってたからだよ。
こんなクタクタな状態じゃ、強い念能力者が行列に並んでたらヘタに近づけなかったし、そうでなくてもメレオロンが行列に並ぶのはマズイからな」
「……それはアタシも気にしてた」
確かに。目深にフードを被ってるとは言え、メレオロンが他プレイヤーのそばに長時間いるのは避けるべきだな。人間じゃないことを見破られる可能性はゼロじゃないからね。
「流石にプレイヤー密度が高いマサドラに泊まりたくないし、最悪ある程度回復するまで野宿してたかもな。
ま、そんなことせずに済んで助かったよ」
最悪か……私はマサドラ近辺で野宿するのが当たり前だったわけですが。
「それは分かったけど、なんでここで立ち話なんかしてるの?
せっかく誰も並んでないんだし、買いに行こうよ」
シームが見たまま当然のことを言う。……本当に誰もいないんだったら、そうだな。
「中に先客がいるんだよ。そいつが出てくるのを待ってる」
ウラヌスがそう言うと、シームは「え?」と声を出して入口を見る。
「でも入口は開いてるけど」
「閉まってるのは見たことないな。客が中にいても、あの店は閉まったりしない」
「へぇー。
でもそれだと、プレイヤーがいっぱい入ってお店が混雑しないの?」
シームが疑問を投げかける。確かに知らなきゃ先客を待たずに入っちゃうかもな。
ウラヌスは手でお店の方を示しながら、
「そうはならないんだ。暗黙の了解があるからね。
トレードショップの場合だと、中にプレイヤーがいたら、閉まった扉は外から開かなくなる。中からなら開けられる。
スペルカードショップは、お互いトラブりたくないから、マナーとして先客が出るまで入らない。トレードショップのシステムを、みんな自主的にやってるのさ」
「買い物中のトラブルは誰でも嫌ですからね」
私の言葉に頷くウラヌス。特にスペルカードショップは如何にもトラブりそうな場所だ。近寄らず関わらずは、まさに暗黙の了解だな。
「あ、そうだ。
アイシャ、今のうちに『盗視』をフリーポケットに入れ直しといて。店内に入ると1分カウントが始まっちゃうから」
「分かりました。ブック」
「どゆこと?」
今度はメレオロン。理由は想像つくけど確証がないから、ウラヌスに説明を任せる。
「スペルカードショップの中だと、スペルカードは使用不能になるんだ。引いたカードをすぐ店内で使えないようにする為だろうけど。
だから最後のページに『盗視』を入れたままにしてると、店内へ入った途端バインダーから外した判定になって、1分経つと『盗視』は消滅する。バインダーを消しててもダメ。
ややこしいけど、店外から持ち込んだスペルカードはそういう判定になってる。店内でパックから出したカードは、店外に持って出るまでバインダー外でも消えない」
メレオロンは難しい顔をして、
「んー……口で説明されても、よく分かんないんだけど」
やっぱりか。分かりやすく説明できるか、私も自信ないな。
「まぁ後で説明し直すよ。
とにかく店の中じゃスペルカードは使えないんだ」
「うーん……」
「おねーちゃん、ちゃんと理解しなよ」
「え、なによ。アンタ今ので分かったの?」
「ボクは分かったよ。えーっと……
カードパックから出たカードは店内にいるうちは時間制限がなくて、外から持ち込んだカードは店内でも時間制限がある。
しかもスペル使用不可だから、バインダーの最後に入れてた使用待ち『盗視』も、1分たったら消えちゃうってことでしょ?」
「あー。
それで大体わかったけど……」
……シーム、説明うまいな。ウラヌスがちょっとバツの悪そうな顔してる。ウラヌスが説明ヘタなわけじゃないんだけどね。『盗視』の説明を優先したから、分かりにくかっただけで。
少し離れた場所でしばらく待ってると、「ありがとうございましたぁー」の声とともにプレイヤーが出てきた。
つまんなさそうにバインダーを眺めていた青年は、私達4人に気づいてギクッとした後、そそくさ離れていく。入れ替わりで私達は店内に入る。
「……な? 分かりやすいだろ、今のやつ」
メレオロンとシームに向かって、ウラヌスが言う。……特に言及しないけど、やっぱり『離脱』が出なかったんだなってことだろう。
ウラヌスはお店のカウンターへ真っ直ぐ向かう。店内を物色する人の姿もあるんだけど、おそらく賑やかしの為のNPCしかいない。
カウンターにいる女性店員が、営業スマイルで声をかけてきた。そうそうこの人。
「いらっしゃいませ。スペルカードショップへようこそ。
カードパック1袋にスペルカード3枚入りで、カードパック1つ10000ジェニーで販売しています」
ウラヌスは何も言わず、少し待つ。すると店員が更に説明を続けた。
「スペルカードを買う時のルールだけど、袋はお店の中で開けてね。
購入したカードは、バインダーに入れて持ち帰る決まりなの。
入り切らないカードは、店を出たとたんに消えちゃうから、数を考えて買ってね」
「カードパック58袋くれ」
「はい。58万ジェニーになります」
「アイシャ、10000ジェニー13枚くれる? ブック」
「はい。ブック」
ウラヌスが手際よくフリーポケットからお金カードを外していく。私が13枚外し終えて渡そうとした時には、もう片手に45枚束で持っていた。
ウラヌスがお金カード58枚をカウンターに置くと、それを引き取った店員が、代わりにカードパック58袋をカウンターの上に置く。
ウラヌスはカードパックを両手でまとめて掴み取り、
「さって、開けるか」
アゴの先で、店内に設置された丸テーブルを差すウラヌス。
「空き枠ぎりぎりまで買ったんですね」
椅子もない、やや高めの丸テーブルを囲み、ウラヌスが上に袋をまとめ置いたところで、そう告げる。所持金ぜんぶだから、始めからそのつもりだったんだろう。
「ああ、うん。……アレでしょ?
普通はあの説明聞いたら、フリーポケットに余裕残さないかってことでしょ?」
「ええ。フリーポケットをぎりぎりまで圧迫するのは良くないでしょうから」
「ううん」
ウラヌスはあっさり笑顔で否定した。おや。
「お金がもったいないならともかく、予算に余裕あるなら溢れちゃっても構わないよ。
というか、この時点で1枚溢れてるけどね。俺が『盗視』1枚ぶん勘定間違えたから」
「……
お店の中じゃスペルを使えませんから、その1枚は外に出たら消えちゃいますよね?」
「うん。つまり消えてもいいってこと。
低ランクのスペルは、売っても1枚1000ジェニーにもならないし、使うアテがないのに取っといても邪魔になるじゃん?
今は店の前が空いてるからアレだけど、カード処分して買いに戻ってを繰り返してると、時間かかるからさ。欲しいスペルカードを早く確保することを優先した方がいい。
……とは言え、俺が1人でプレイしてた時の基準だし、今はそこまでシビアに切り詰めなくてもいいんだろうけどね」
……。ほんとにウラヌス、たった1人でプレイしてたんだな。どんだけ切り詰めてたか、聞いてるだけで寒くなってくる。時間がもったいないからお金もスペルも切り捨てるとか、シビアにもほどがあるよ。ソロプレイってずいぶん大変だったんだな……
カードパックを手に取り、袋を開け始めたウラヌスに1つ尋ねてみる。
「……ウラヌスって、ハメ組がいなかったらゲームクリアできてたんじゃないですか?」
返ってきたのは、小さな苦笑だった。
「どうかな。俺はゲームクリアに近づくこともできなかったから、分からないよ。
アイシャはどう思う? 正直なところ、俺1人でどうにかなったと思う?」
あ、いや。そう言われると、まずソロじゃクリアできないイベントがあったな。
「……ウラヌスは『一坪の海岸線』の取り方、知ってますか?」
「確かNo.2だね。いや、知らないよ。
アイシャは知ってるの?」
「ええ。
私がずっと探してたんですけど、偶然イベントの発生条件が見つかって」
「それはすごいね。
俺も調べたことはあったけどサッパリでさ。SSだから自分1人じゃ無理かなって、一度諦めちゃったよ。それまで誰も見つけてなかったみたいだし」
「簡単に言うと、『同行』でソウフラビに15人以上で飛べばイベントが発生しました」
ウラヌスは驚いて目を見開く。ぽかんと口を開け、
「うわぁー……なにそれ、キッツいわ。
道理でずっと見つからなかったわけだよ。……ノーヒントでどうしろってんだ」
「ですよね……
だからホント偶然なんですよ」
「アイシャが自力で見つけたの?
──いや、無理か。移動スペル効かないんだもんね」
「ええ……私の仲間が見つけてくれました」
「つか、アレってカード化限度枚数3とかじゃなかった? なのに15人も集めろって?」
「……ヒドいですよね」
「つーかエグすぎ。にわかでレイド組むとしても、3チームで15人ってことでしょ?
ソロプレイヤーなんて普通混ぜてもらえないよ、そんなの」
だろうなぁ。私のチームは大所帯だったけど、それでも現実への帰還を条件に協力してくれるプレイヤーを探してきたぐらいだからな。
「その後も、ゲームマスター率いる15人の海賊とスポーツ対決があるんで……」
「ムリムリ。クリアどころか、そのイベントだけでゲームオーバーだよ。
どうせ勝ち抜き戦じゃないんでしょ?」
「そうです。えっと……」
「たぶん星取り戦ってことだよね。ゲームマスター込みの相手に、勝てるヤツ8人か……
勝負内容次第ではあるけど、ちょっとアテが見つからないかも。
まぁそれを聞いてる限りでも、俺1人じゃどうしようもなかったと思うよ」
「誰かと組もうとは思わなかったんですか?」
袋を開ける手を止めるウラヌス。
「……。
交渉できるアテなら、何人かいたけど。組めるようなプレイヤーは1人もいなかった。
……そもそも、誰とも信頼関係を築けなかったのが俺の敗因だな」
言いたいことは分かる。ボス属性の制限を受けなかったとしても、私1人ではグリードアイランドのクリアは叶わなかっただろう。……最初からクリアしたくて入ったわけじゃないけどね。
「前回は、クリア目的で入ったんですか? ウラヌスは」
少し考える表情をした後、彼は袋を開けるのを再開し、
「いや。
クリアも目指しつつ、ゲーム内でアイテム改変の研究してた。
ハメ組が本格的に動き出して、スペルが取りづらくなってからは……
クリアよりも、指定ポケットカードの入手方法を調べ回ってた。持ってると奪われるし、ゲイン待ちでも何でも良いから、とにかく後で一気に収集できるよう情報集め。
1人だと、集団に囲まれてスペルの集中攻撃なんてされたら防ぎようがないしな。
最終的には、戦闘もやむなしのつもりだったけど」
「最終的って……
アンタ、いきなり他のヤツに喧嘩売ってたじゃない」
メレオロンが突っ込みを入れる。アレか、ラターザの件か。
ウラヌスは不機嫌そうな顔で、
「……ラターザとは交渉の余地がない。
アイツと俺は前回の時点で敵対したからな。今後交渉する可能性がある相手と戦うのは、得策じゃないけど。
少なくともアイツはダメ」
「アンタ、アイツと何があったの」
気になるよね。……聞きづらいけど。
「……。いつものことだよ。
元々あいつ交戦的で知られてて、警戒してたんだけど。最初は普通に交渉を持ちかけてきたんだ。
……でも、その普通に交渉してきた理由が、俺のこと女だと思い込んでたってだけで。
そういう連中は当然のごとく、俺が男だと知ると態度を翻す。
大体ロクなこと言われやしないよ」
うぐ。
その辺の理由だろうとは思ってたけど、実際言われると刺さるな。私にも……
「うん、まぁ。
仕方ないんじゃない? アンタ、見た目完全に美少女だし」
「……俺は男です」
「見た目でそうアピールしないじゃん。アンタは」
「……心は女だもん」
「おねーちゃん、もうやめなって」
「面倒くさいわねぇ、アンタも……」
……クチを挟めないな。私にも無関係の話題じゃないから尚更ね。
「いいから袋開けるの手伝ってくれよ。
俺だけじゃ時間かかっちゃう」
さっきからウラヌス、機械的に袋開けてるんだよな……。何が出てくるか楽しみとか、そんなの一切感じさせない。ただただ開けて、出したカードを積んでる。
私も1袋を開けて、中の3枚を取り出す。『再来/リターン』『宝籤/ロトリー』『複製/クローン』だった。ワリと当たりだな。
「ウラヌスは、こういうの開けるのって楽しくないですか?
レアスペル出ないかなーとか」
「……散々開けてると、そんな感覚も失せる。
俺、『堅牢/プリズン』以外は全部引いたことあるしな」
……すごいな、それ。ハメ組がスペル独占する前のことかもしれないけど。1人で一体どんだけ引いたんだ。
元々持ってた5枚のスペルカードを合わせて、スペルカード合計179枚。
『盗視/スティール』4枚
『透視/フルラスコピー』7枚
『防壁/ディフェンシブウォール』11枚
『反射/リフレクション』2枚
『磁力/マグネティックフォース』3枚
『掏摸/ピックポケット』3枚
『窃盗/シーフ』1枚
『交換/トレード』2枚
『再来/リターン』15枚
『擬態/トランスフォーム』1枚
『複製/クローン』3枚
『左遷/レルゲイト』4枚
『初心/デパーチャー』2枚
『念視/サイトビジョン』4枚
『漂流/ドリフト』3枚
『衝突/コリジョン』3枚
『城門/キャッスルゲート』2枚
『贋作/フェイク』3枚
『堕落/コラプション』3枚
『妥協/コンプロマイズ』1枚
『看破/ペネトレイト』3枚
『暗幕/ブラックアウトカーテン』7枚
『聖水/ホーリーウォーター』1枚
『追跡/トレース』4枚
『投石/ストーンスロー』6枚
『凶弾/ショット』1枚
『道標/ガイドポスト』5枚
『解析/アナリシス』15枚
『宝籤/ロトリー』18枚
『密着/アドヒージョン』4枚
『浄化/ピュリファイ』4枚
『再生/リサイクル』7枚
『名簿/リスト』16枚
『同行/アカンパニー』5枚
『交信/コンタクト』6枚
防御スペルがかなり引けるようになってる。やっぱりハメ組は解散しちゃったんだな。ご愁傷様。
「……」
ウラヌスがテーブルに積み並べたカード束を睨み、考え込んでいる。声かけらんないよ、邪魔しちゃ悪いし。
やっぱり『離脱』は出ないか……アレって出にくいのかな?
『再来』と『同行』はかなりの枚数が取れてる。これで今後、移動には困らなさそうだ。
「1枚捨てなきゃいけないのよね?」
メレオロンの質問に、ウラヌスは少しして頷き、
「決めてるよ。『防壁』を捨てる」
「……防御スペルを捨てるんですか?」
私が尋ねると、重ねて首肯するウラヌス。
「うん、いらない。……つっても1枚だけだよ?
『堕落』を引けてるから、『聖騎士の首飾り』がもう手に入る。ハメ組の連中がいないなら、ぶっちゃけ攻撃スペルはそこまで警戒しなくていい」
ふむ。まぁその辺の判断は、彼に任せた方がよさそうだな。
「ところで、この後ってどうします?
トレードショップに行って、またスペルカードを買いに戻りますか?」
腕を組むウラヌス。
「いや……
もうみんな疲れただろ? 俺もだけどさ。
いらないカードを売りにトレードショップへは行くけど、その後は宿に帰ろう。
ただ、カードを整理してフリーポケットは空けとかないとな。
引いたカードを広げられるのは今だけだし、ちょっと考えさせて」
……そう言われてしまえば、返す言葉もない。ウラヌスにばかり考えさせるのも何だし、私も考えてみるか。
色々考えてはみたものの、結局ウラヌスが全ての実行案を立ててしまい、相談を終えて私達は店外へ出る。さいわい、誰も買いには来なかったようだ。
お店からある程度離れた場所で、私達は街灯の下に集まって向かい合う。
「じゃ、始めるよ。
手順を間違えないでくれよ」
ウラヌスの注意に、私達は頷き合う。
『ブック!』
全員がバインダーを出す。
最後のページを開き、4人ともフリーポケットの枠から『交信』を最後のページに入れ直す。バインダーにテキストが表示されても、そのまま放置。この時点で何かがおかしい。ここまで徹底するか。
再び4人で、今度はスペルカードを1枚外し、
『──『暗幕/ブラックアウトカーテン』オン!』
全員が『暗幕』状態になった。ここまではみんな同じ。
メレオロンが『追跡』を3枚使用。まずウラヌスに、次に私へかける。最後にシーム。身体が15秒ピカピカするのは仕方ない……。防御スペルを持たないわけにはいかないし、バインダーを出さないわけにもいけない。
ウラヌスが『堕落』を1枚使用し、ランクBの『凶弾』1枚を、ランクDの『聖騎士の首飾り』に変身させる。メレオロンの『追跡』がウラヌスにかかった後、すぐにゲイン。首飾りをワンピースのポケットにしまう。
続けて『密着』を3枚使用。3人にかけていく。
シームはひたすら『宝籤』を使用。変身させたカードをバインダーに収めて、すぐ次の『宝籤』を取り出す。単純作業だけど、18枚もあるので大変だろう。
私は『贋作』を3枚使用。No.1、2、3のカードに変身させる。その3枚をウラヌスに手渡し、彼は指定ポケットカードのページに収める。……私のやることがもうなくなった。いちおう周囲を警戒しておくか。
ウラヌスとメレオロンも予定通り終えて、シームの『宝籤』消化待ちになる。
「……クズカードばっかり。『宝籤/ロトリー』オン!」
愚痴るシーム。ウラヌスは苦笑し、
「狙ったカードが取れるたぐいじゃないしな。
高ランクが出ないことには、基本ゴミだよ」
「高く売れたりとかしないの?」
メレオロンの質問に、ウラヌスは首を横に振る。
「変身カードは、全部変身前カードと同じ値段でしか売れない。
だから『宝籤』カードは、どんな高ランクに変身しても300ジェニー。
もちろんトレードショップの話であって、プレイヤーと交渉するならまた別だけど」
「この変身は、聖騎士でも解けないんですよね……」
「そりゃあ、出来たら強すぎるっていうかバグだしな。
延々と『宝籤』唱えて聖騎士で戻して、のループが出来ちゃうから」
──結果はD1枚、E3枚、F2枚、G5枚、H7枚。
よりによってランクDは怪物カード、他も換金カードやよく分からない物ばかり……。ゲインする意味もなく、ランクHの雑貨品も悲惨だった。電球や紳士服なんてどうしろというのか。他にも可愛くないぬいぐるみ、謎のドクロアクセサリー……
ま、これが面白いカードでもある。当たりが出たら喜び、ハズレが出たら笑い飛ばせばいい。くじ引きってそういうもんだよね。
ひとまずスペルカードを使い終わった私達は、再びマサドラのトレードショップへ。
不要カードの売却だが、例の50回売却条件を満たす為、面倒でも1枚ずつカードを売る。私が42枚売って指定ポケットカード購入権を得て、シームが22枚売却する。売却合計額は78100ジェニー。
念の為、ウラヌスが『10000J』1枚だけ所有しておき、後は貯金する。えーと、マサドラの交換店に預けた金額は、これで約125万ジェニー。
ウラヌスがその辺まとめて説明してくれるんだけど、だんだん分かんなくなってきたな……
フリーポケットの枠は空き82。ウラヌスが思い切った売り方をしたので、かなり余裕がある。スペル35種あったのに、19種しか残してないもんな。大天使の息吹の為に残すとかしないつもりのようだ。
トレードショップの外へ出た後、
「じゃあ帰るよー。
行き先の唱え間違いには注意。
マサドラじゃないぞ。アントキバ、な」
「はいはい」
「わかってまーす」
「仮に間違っても、慌てずまた唱えればいいですからね」
当然ながら、『再来』と『同行』は分配している。合流するのは難しくない。
「そういえばアイシャって、スペルカードで移動したことある?」
ウラヌスに問われ、
「……あ。
あー……ない、です」
言われてみればそうだな……レオリオさんに運んでもらったことしかない。
私を気の毒そうな目で見てくるウラヌス。
「……よっぽどしっかり守られてたんだね」
喜ぶべきことなんだろうか……。まぁそれをお願いしたのは私だしな。知らないことが多かったのもあるけど。
「俺、だいぶキミに無茶させてる気がするんだけど、ホントに大丈夫?」
「それは大丈夫です。
私は今回ゲームを楽しみに来たんですから。修行にもなって大変助かってます。ええ」
これは本音だ。……一番のサプライズはウラヌスの『周』だな。まさか初日から怪物と戦えるとは思わなかったよ。
前回、みんなと過ごした修行の日々を否定はしないけど──
今回はゲームもしたい。前回と違ってホルモンクッキーをガムシャラに追う必要はないからな。幾分気持ちにゆとりがある。
「ウラヌスこそ大丈夫ですか?
相当無理をしてるように見えますけど……あまりキツいようなら、1ヵ月なんて待たず『魔女の若返り薬』を入手して使ってくださいね」
「ああ、まあ……
だいじょうぶ大丈夫。初日だから無理しただけだよ。
明日からは、もうちょっと流す。……と言っても、修行もしないとだけど」
「あははは」
それはもうね。約束したことですし。……いや、て言うかウラヌス、修行必要あるか? この人はむしろ、時間があったら休んでほしいんだけど。日常が修行な感じだし。
「……で、お2人さん。
そろそろ帰らない? 2人で話す時間なら、後でいくらでもあるでしょ」
メレオロンがニヤーと笑いながら言ってくる。くっ、嫌な目付きだな。
もういじられ慣れたのか、ウラヌスは一つ溜め息を吐く。
「ん。じゃあ帰るよ」
バインダーからカードを取り出す。お互い顔を見合わせる。
さて、初のスペルカード移動だ。ちょっと緊張するな。
『──『再来/リターン』オン! アントキバへ!』
浮遊感。
高速で身体が空を翔ける。
下は──流石に暗くて見えない。周りは黒一色の空。うわ、ちょっと怖いな。夜に移動スペルで飛んだらこんなふうになるのか。
いや……レオリオさんに抱き締められてたから、不安を感じなかったのか。
空の旅が終わり、足に再び地面から負荷がかかる。っと、気を抜いちゃダメだな。
見ると、シームがずっこけていた。あーうん……
レオリオさん、ホントにすごいな。スペルカードの移動、きっちり再現できてたんだ。今さらながら、あれほどの才能に嫉妬してしまう。
私の方を不思議そうに見てくるウラヌス。
「アイシャ、どうかしたの?」
ちょっと様子が変に見えちゃったか。うーん……レオリオさんの念能力について、許可なく説明するわけにもいかないしな。
「いえ。
スペルカードで飛ぶのって、いいなと思いまして」
「そっか。
で、シーム大丈夫か?」
「遅いよ、心配するのが! ……大丈夫だけど」
私達が軽く笑っていると、メレオロンが夜空を見上げているのが目に映る。
「どうしたんです? メレオロン」
「ん? んー……
昔のこと、ちょっと思い出してた」
……。昔のこと、か。私もつられて、夜空を見上げてみる。
変わんないな……この空は。ずっと。
アントキバの入口に戻ってきた私達は、宿までの道をのんびりと歩いていく。
人通りは、ほとんどない。月例大会も終わり、ここから引き上げたプレイヤーも多いのだろう。夜中であることも相まって、町は静まり返っていた。
宿の一室。
「メレオロン、長いこと荷物ありがとな」
疲労を感じさせる声で、ウラヌスは彼女を
「ううん。まあ、いい修行になったわ。
……それじゃ2人とも。色々あるだろうけど、しっかり休みなさいよ」
「ごゆっくりぃー」
姉弟がリュック2つを部屋に残し、隣の部屋へ行く。
「……はぁぁぁ。何がごゆっくりぃーだ」
心底疲れたように言うウラヌス。くすくす笑いながら、私は時計を見上げる。
23時50分。長かった一日がもうじき終わろうとしている。
私は腰かけていたベッドから立ち上がり、椅子を持って、ウラヌスのそばへ行く。
ベッドに座ったまま、やや怯えるような表情のウラヌス。その近くに椅子を置き、私は腰かける。
「さて、ウラヌス。
お疲れのところ申し訳ないですけど。例の件について、お話ししましょうか?」
「は、はいっ……」
「……」
この時点で、ウラヌス半泣き状態なんだけど……。えっとコレ、ただのイジメじゃないのか。話をするとかそんな雰囲気じゃないぞ。
「…………」
「…………」
あー、やっぱりこうなったか。言葉が浮かばず、何も言えない。向こうも言ってこない。
お互い頭が回ってないな。特にウラヌス、ずいぶん疲れてるしな……
これ……彼を追及なんてしたら、私にも相当なダメージが返ってきそうだぞ。なにコレ、誰が得するんだ? どうしてこうなった?