どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第四十三章

 

 色々細工した結果、ウラヌスの指定ポケットカード枠には、複製贋作版の『1:一坪の密林』『2:一坪の海岸線』『3:湧き水の壺』、直接贋作を変身させた『4:美肌温泉』『5:神隠しの洞』『6:酒生みの泉』が入ってる。……無駄がないな。

 

 今のうちにとウラヌスは『解析』残り8枚も使い切り、No.209からNo.216までのテキストをさらさらメモしてる。マメっすわ。

 

 おかげで、私達のフリーポケット枠は100枚以上空きができた。

 

 私達4人は、向かい合ってベッドに2人ずつ座りあうポジションに戻っていた。

 

 ウラヌスは伸びをしながら、

 

「ま、何はともあれ……まずは観光とシャレこもうかな」

 

 鬼の効率厨様が、ずいぶんまったりな提案をしてくる。調子狂うなぁ。別にいいけど、修行することも忘れないでほしいよ。

 

「観光は大歓迎だけど、ここには戻ってくるの?

 荷物はどうするわけ?」

 

 メレオロンが聞く。ウラヌスは少し考えた後、

 

「いや。戻ってくるか分からないし、引き払おう。

 あんまり同じ場所に長く留まって、誰かに目を付けられても面倒だ。他の都市と比べてプレイヤーが多いはずだから、ここは拠点にしない方がいい。

 つーわけで、修行を兼ねてメレオロンとシームにリュックを背負ってもらう。

 その状態で観光な。いいよね、アイシャ?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

『えええぇー!』

 

「移動中だけだよ。それ以外はリュック降ろしてもいいから。

 ただし、絶対に盗られないようにな」

 

 メレオロンは足をバタつかせながら大層不満げに、

 

「自分達が楽する為に、(てい)よく荷物押し付けてるだけじゃないのー?」

 

「つったって、突発的な事態にお前らじゃ対応しきれないだろ?

 アイシャへの『周』だって、使うタイミングは考えたいし。だったらリュック背負うの、お前らしか居ねーじゃん。荷物を盗られないかは俺も気をつけるよ」

 

 ……正直言うと、ウラヌスがそうしてくれてホッとする。どうにも彼は自分を追い込みすぎる。重量物を背負ってオーラを余分に消費されたら、私に回せるオーラも減るしな。

 

「ああ、2人とも。

 リュックを背負う時は、基本『絶』でお願いしますね」

 

 私が告げると、絶望の表情を浮かべる2人。……いやいや。あなた達が背負う荷物って、いちおう普通の人も運べるくらいの重量だよ? 町の外へ行くわけでもないのに大げさな。

 

「ぼく、絶対倒れるぅぅ!」

 

 シームが甘えてくる。うーん……倒れるまで追い込んでこそ修行なんだけど、今は回復させられないしな。

 

「ずっとじゃなくていいですよ。

 キツくなったら『纏』。ある程度回復したら『絶』で。

 肉体疲労とオーラ消費を、上手く分散してください。きちんと考えるように」

 

「俺がこの『目』でちゃんと見てっからな。

 2人とも誤魔化しても無駄だぞ」

 

 あはは。言いだしといて何だけど、えげつないですわ。ウラヌスの目、シャレになってない。

 

「え?

 結局、身体とオーラのどっちを鍛えればいいの?」

 

 メレオロンが首を傾げる。

 

「身体の方を重点的に追い込んでください。出来るだけオーラに頼らないように。

 特にメレオロンは」

 

 名指しされると、不機嫌そうに口を噤む彼女。やっぱりな。オーラ量が多すぎるから、いつまでもそれに頼りっきりで身体能力が伸びないんだろう。

 

「いいですか。念能力者はオーラに頼りすぎる嫌いがあります。

 鍛え上げた肉体をオーラで強化してこそ、常人の何十倍何百倍という力を発揮できるんですから。もちろんそれは──」

「あー、ごめんアイシャ。その話、長引く?」

 

 割って入ってくるウラヌス。くっ、これ以上は続けられない流れか……

 

「えっと……いえ、もういいです」

 

 私が不満げにそう返すと、ウラヌスは苦笑いして、

 

「ほんとにゴメンね。いや、俺も言われるとちょっとキツくてさ。

 まいったなぁ……俺が悪いお手本になってるって分かるんだよね」

 

 昨日ウラヌスはリュックを背負ってるだけでも、オーラを消費してたしな。身体的にもオーラ的にもかなりキツそうだった。

 

「……。

 ウラヌスはそうしないといけないんですよね?」

 

「不必要にそんなことしないよ。

 でも教える側が身をもって示せないってのは、やっぱりマズい気がして」

 

 うっ……それは私にも効くな。現在非念能力者が念について語るのはどうなんだろって。

 

「そういえば、まだ重しも作ってないしな。

 うん、なおさらオーラの無駄遣いはできないね」

 

 それは私にもあんまりオーラ回せないって意味かなぁ。ははー。自爆した……

 

 ……いやいやいや。私がオーラに頼ってどうする。しかも人のオーラあてにするとか、どうかしてるぞ。あーダメだ、強制『絶』が思いのほかキツいって改めて分かっちゃった。気を引き締めないと。

 

「アイシャ。

 何を重くしたいとかアテはあるの?」

 

 ウラヌスに聞かれたので、以前ミルキがやってくれたことを思い出す。

 

「えーとですね。

 頑丈なベストとか、リストバンドなんてどうですか?」

「……うん、いいと思う。

 ベストなら動きを妨げにくいし、重量も均一にかけやすい。

 リストバンドも、付け外しすれば調整がしやすいからね」

 

 これはミルキさまさまだな。前回もずいぶん修行が捗って助かったからね。今回も遠慮なくアイデアを借りるとしよう。

 

「重し作ったりとか本格的に修行へ入るのは、観光と情報集めが終わってからにしよう。

 もちろん、全部今日中にする。

 観光の前に金を下ろしてこないといけないけど。……あー。あと、たずね犬も。

 いい加減、アレもイベント終わらせとこう」

 

 あ。すっかり忘れてた。

 

「たずね犬のイベントって、どこで受けられるんです?」

「アントキバの入口辺りに懸賞の貼り紙があったはず。前と同じだと思うけど、いちおう場所とか内容が同じか確認しておこうか。

 ま、たずね犬が全く同じ場所にいたし、変わんないだろうけど」

 

 ふむ。それはまぁいいか。

 

「じゃあ、その後は……

 観光って、アントキバやマサドラを見て回るんですか?」

「いや。

 アントキバは昨日それなりに見たし、別にいいかなって。

 マサドラって、見て回りたい?」

「……いえ。

 マサドラは前回そこそこ滞在してまして」

「だろうね。

 アントキバとマサドラは今後も用があるし、急いで観光しなくていいよ」

「今日観光する場所って決めてるんですか?

 まだアントキバとマサドラぐらいしか、移動スペルでは飛べませんけど」

「うん。とにもかくにも、まずはスペルの移動先を増やさないとね。

 だから『漂流』を使う」

「……そういえば、それがありましたね」

 

 すっかり忘れてたよ。でも『漂流』って1人でしか飛べないはずだから……

 

「3枚あるから、まずアントキバの入口に行って、俺が『漂流』で一気に都市3つ回ってくる。すぐ『再来』でアントキバ入口に戻るから、好きな場所に『同行』で全員行ける。

 どこを観光するかは『漂流』の風向き次第だね」

 

 そういうの、さらっと答えるなぁ。ソロプレイヤーだったか疑わしいくらい、チームで動く時の判断がスムーズだ。……今さらか。

 

「後は……そうだな。島の地図、もう1つゲインしとこうか。

 俺とメレオロンが、全員に『追跡』かけ終わってるし。2人で地図を持ち歩いてたら、不意のトラブルでバラけた時も対処しやすいだろ。『同行』もまだ余分に確保できてないしな」

 

 

 

 相談が一通り終わったので、リュックの荷物整理をしてから、私達は宿を後にする。

 

 身軽に先頭を歩くウラヌスと私の背を、重いリュックを背負ったメレオロンとシームが恨めしげに睨んでるのが分かる。あはは、いいですとも。修行をつける相手から恨まれるなんて慣れっこです。

 

 まずは『たずね犬』のイベントを開始。

 懸賞に書いてある場所へ行くと、老夫婦がイベントの詳細を長々説明してくる。それが終わった後、すかさずウラヌスが『たずね犬』カードを渡した。情緒もへったくれもない。即座に老夫婦がお礼を言うイベントが発生し、カードをくれた。

 

 

 

『1309:呪われた幸運の女神像』

 ランクD カード化限度枚数79

 老夫婦が昔手に入れた

 良くないいわれのある 女神像

 幸運をもたらすはずが

 呪いの効果で 打ち消されている

 

 

 

 そのカードを手にしたまま、ウラヌスがポケットに手を入れる。

 

 すると、シュウウウウという音が鳴る。あの時と同じだ。呪いが解けて、カードが変化する。

 

 

 

『1310:幸運の女神像』

 ランクB カード化限度枚数25

 呪いが解かれた 幸運を招く女神像

 昔存在した宗教のご神体で 呪われたことにより

 その宗教はなくなってしまったようだ

 

 

 

「えっと、いくらだっけ?」

 

 メレオロン、そういうのはホント抜け目なく聞くよね。いいけどさ。

 

「70万ジェニー。

 盗られることはそうそうないだろうし、次マサドラへ行った時に売るよ」

 

 アントキバのトレードショップで出金し、手持ちを20万ジェニーにする。準備が出来たので、私達は都市の入口に向かう。

 

 

 

「じゃ、行ってくるよ。すぐ戻ってくるから」

 

 ウラヌスがカードを構えてそう告げる。頷く私達。当然、周囲警戒は怠らない。入口は比較的危険地帯だからな。プレイヤーと接触する可能性が高い。

 

「──『漂流/ドリフト』オン」

 

 ウラヌスが光に包まれ、飛んでいく。あっちは北の方か。さて、どこへ行ったのやら。

 

 

 

 1分ほどして、ウラヌスが戻ってきた。

 

「ただいま」

「お帰りなさい。どうでした?」

 

 ウラヌスは何とも言えない顔。なんだろ?

 

「えっとね。アタリが2つ、ハズレ1つ。

 桜花都市エリル。

 千秋都市オータニア。

 城下都市リーメイロ」

 

 うん? そのラインナップだと……

 

「ハズレって、リーメイロのことですか?」

「そ。

 あんまイベントないし、見どころも城ぐらいだしな。城なら他の都市にもあるし。

 だから今日は、エリルとオータニアに行こう」

「そこって観光しがいあるの?」

 

 メレオロンが尋ねると、ウラヌスは嬉しそうに頷き、

 

「そりゃもう。

 年中、様々な桜が咲くエリル。花見し放題だよ。俺が一番好きな都市かな。

 秋の味覚が満載、オータニア。これがなかなか景色もよくてね。ちょっと素朴だけど、黄色や赤く染まった草木は良い風情だよ。

 さっき見てきて、改めてどっちの都市も良かったよ。みんなと行ってみたいな」

 

 秋の味覚……ほほぅ。思わず口の中にヨダレが溜まってくる。

 

「さて、どっち先に行く?

 エリルかオータニア。後で行く方が、修行の場所になるかな」

 

 私達は、しばし考える。……いやまぁ私は考えるフリ。もう答えは出てる。

 

「私はエリルが先、オータニアは後がいいです」

「ふぅん。

 修行の後にたらふく秋の味覚、かな?」

 

 顔を逸らす。どうせバレると思ってましたよ。いいさいいさ、もう食いしん坊で。

 

「運動の後に美味いメシかぁ……

 そんなこと言われたら、アタシは反対できないかな」

「ぼくも修行の後で、おいしいゴハン!」

 

 そんなこと言っていいのかなー? 修行がキツくて、ゴハンが喉通らないとか言っても知りませんよー? まぁそこまでキツくする気はないけどさ。……最初はね。

 

「決まりだね。

 しっかし、いきなりエリルか……

 もうちょっと後のほうが良かったんだけどな」

 

 ぼやくウラヌスに、私は首を傾げる。

 

「どうしてです?」

「……ま、ここで長話もなんだし。

 今から行くけど、みんな準備いい?」

「バッチこーい!」

「いつでもいいよー」

 

 メレオロンとシームが、リュックをしっかり背負い直す。

 

「私も問題ないです」

「分かった。じゃあ行くよ」

 

 ウラヌスが開いたままのバインダーから、カードを取り出す。

 

「──『同行/アカンパニー』オン! エリル!」

 

 浮遊感とともに、私達は観光へと旅立った。

 

 みんな一緒に飛んでるのが目に映る。いいな……こういう感じ。

 

 

 

 着地するのと同時に。

 

 ふわりと暖かい空気が身体を包む。不思議な香りが鼻をくすぐった。

 

 視界に入る、都市の街並み。高い建物はあまりなく、低い建物が立ち並ぶ中。

 

 本当にたくさんの、桜の樹が植えられていた。一様ではなく、色んな種類が植えられているようだ。花の色も、樹の高さも違う。

 

 朝日に照らされた桜の木々が、穏やかな光をゆらゆらと照り返している。

 

 私達は、しばらくそこで立ち尽くし……

 

 強い風が吹く。

 

 

 

 ────無数の桜花びらが舞い、都市をこれ以上ないほどに彩った。

 

 

 

「うわぁぁー……すごい」

 

 メレオロンが洩らす感嘆を耳にしながら、私はただ目を(みは)っていた。

 

 これは……

 

 不意打ちすぎる。やられた……。私にとって、この風景は刺激的すぎる。

 

 ここまで見事な桜吹雪を見たのは、いつぶりだったか……

 

 やはり記憶に甦るのは、ジャポンにいた頃か。

 前世の──ヘタをすれば100年以上は前じゃないか? 桜自体は色んな土地にあるけど、これほどのモノとなると……

 

 

 

 先生のお墓参り、まだ行けてなかったな……いつかは行かないと。

 

 

 

 同じように綺麗な桜色の髪を風に揺らすウラヌスが、こちらに背を向けて吹雪く景色を眺めていた。感慨深げにしているのが伝わってくる。

 

 私へと振り向いて、少し寂しそうに笑っていた。

 

「……どう?

 いきなりはちょっと、もったいないでしょ」

 

 一番好きな都市、か。……よく分かった。確かにこれじゃあ、いきなりクライマックスかもな。

 

 ウラヌスは都市へと向き直り、

 

「これ以上、観光地らしい観光地もないかな。

 じゃ、みんな行こう。

 

 ……のんびり歩いてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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