色々細工した結果、ウラヌスの指定ポケットカード枠には、複製贋作版の『1:一坪の密林』『2:一坪の海岸線』『3:湧き水の壺』、直接贋作を変身させた『4:美肌温泉』『5:神隠しの洞』『6:酒生みの泉』が入ってる。……無駄がないな。
今のうちにとウラヌスは『解析』残り8枚も使い切り、No.209からNo.216までのテキストをさらさらメモしてる。マメっすわ。
おかげで、私達のフリーポケット枠は100枚以上空きができた。
私達4人は、向かい合ってベッドに2人ずつ座りあうポジションに戻っていた。
ウラヌスは伸びをしながら、
「ま、何はともあれ……まずは観光とシャレこもうかな」
鬼の効率厨様が、ずいぶんまったりな提案をしてくる。調子狂うなぁ。別にいいけど、修行することも忘れないでほしいよ。
「観光は大歓迎だけど、ここには戻ってくるの?
荷物はどうするわけ?」
メレオロンが聞く。ウラヌスは少し考えた後、
「いや。戻ってくるか分からないし、引き払おう。
あんまり同じ場所に長く留まって、誰かに目を付けられても面倒だ。他の都市と比べてプレイヤーが多いはずだから、ここは拠点にしない方がいい。
つーわけで、修行を兼ねてメレオロンとシームにリュックを背負ってもらう。
その状態で観光な。いいよね、アイシャ?」
「ええ、構いませんよ」
『えええぇー!』
「移動中だけだよ。それ以外はリュック降ろしてもいいから。
ただし、絶対に盗られないようにな」
メレオロンは足をバタつかせながら大層不満げに、
「自分達が楽する為に、
「つったって、突発的な事態にお前らじゃ対応しきれないだろ?
アイシャへの『周』だって、使うタイミングは考えたいし。だったらリュック背負うの、お前らしか居ねーじゃん。荷物を盗られないかは俺も気をつけるよ」
……正直言うと、ウラヌスがそうしてくれてホッとする。どうにも彼は自分を追い込みすぎる。重量物を背負ってオーラを余分に消費されたら、私に回せるオーラも減るしな。
「ああ、2人とも。
リュックを背負う時は、基本『絶』でお願いしますね」
私が告げると、絶望の表情を浮かべる2人。……いやいや。あなた達が背負う荷物って、いちおう普通の人も運べるくらいの重量だよ? 町の外へ行くわけでもないのに大げさな。
「ぼく、絶対倒れるぅぅ!」
シームが甘えてくる。うーん……倒れるまで追い込んでこそ修行なんだけど、今は回復させられないしな。
「ずっとじゃなくていいですよ。
キツくなったら『纏』。ある程度回復したら『絶』で。
肉体疲労とオーラ消費を、上手く分散してください。きちんと考えるように」
「俺がこの『目』でちゃんと見てっからな。
2人とも誤魔化しても無駄だぞ」
あはは。言いだしといて何だけど、えげつないですわ。ウラヌスの目、シャレになってない。
「え?
結局、身体とオーラのどっちを鍛えればいいの?」
メレオロンが首を傾げる。
「身体の方を重点的に追い込んでください。出来るだけオーラに頼らないように。
特にメレオロンは」
名指しされると、不機嫌そうに口を噤む彼女。やっぱりな。オーラ量が多すぎるから、いつまでもそれに頼りっきりで身体能力が伸びないんだろう。
「いいですか。念能力者はオーラに頼りすぎる嫌いがあります。
鍛え上げた肉体をオーラで強化してこそ、常人の何十倍何百倍という力を発揮できるんですから。もちろんそれは──」
「あー、ごめんアイシャ。その話、長引く?」
割って入ってくるウラヌス。くっ、これ以上は続けられない流れか……
「えっと……いえ、もういいです」
私が不満げにそう返すと、ウラヌスは苦笑いして、
「ほんとにゴメンね。いや、俺も言われるとちょっとキツくてさ。
まいったなぁ……俺が悪いお手本になってるって分かるんだよね」
昨日ウラヌスはリュックを背負ってるだけでも、オーラを消費してたしな。身体的にもオーラ的にもかなりキツそうだった。
「……。
ウラヌスはそうしないといけないんですよね?」
「不必要にそんなことしないよ。
でも教える側が身をもって示せないってのは、やっぱりマズい気がして」
うっ……それは私にも効くな。現在非念能力者が念について語るのはどうなんだろって。
「そういえば、まだ重しも作ってないしな。
うん、なおさらオーラの無駄遣いはできないね」
それは私にもあんまりオーラ回せないって意味かなぁ。ははー。自爆した……
……いやいやいや。私がオーラに頼ってどうする。しかも人のオーラあてにするとか、どうかしてるぞ。あーダメだ、強制『絶』が思いのほかキツいって改めて分かっちゃった。気を引き締めないと。
「アイシャ。
何を重くしたいとかアテはあるの?」
ウラヌスに聞かれたので、以前ミルキがやってくれたことを思い出す。
「えーとですね。
頑丈なベストとか、リストバンドなんてどうですか?」
「……うん、いいと思う。
ベストなら動きを妨げにくいし、重量も均一にかけやすい。
リストバンドも、付け外しすれば調整がしやすいからね」
これはミルキさまさまだな。前回もずいぶん修行が捗って助かったからね。今回も遠慮なくアイデアを借りるとしよう。
「重し作ったりとか本格的に修行へ入るのは、観光と情報集めが終わってからにしよう。
もちろん、全部今日中にする。
観光の前に金を下ろしてこないといけないけど。……あー。あと、たずね犬も。
いい加減、アレもイベント終わらせとこう」
あ。すっかり忘れてた。
「たずね犬のイベントって、どこで受けられるんです?」
「アントキバの入口辺りに懸賞の貼り紙があったはず。前と同じだと思うけど、いちおう場所とか内容が同じか確認しておこうか。
ま、たずね犬が全く同じ場所にいたし、変わんないだろうけど」
ふむ。それはまぁいいか。
「じゃあ、その後は……
観光って、アントキバやマサドラを見て回るんですか?」
「いや。
アントキバは昨日それなりに見たし、別にいいかなって。
マサドラって、見て回りたい?」
「……いえ。
マサドラは前回そこそこ滞在してまして」
「だろうね。
アントキバとマサドラは今後も用があるし、急いで観光しなくていいよ」
「今日観光する場所って決めてるんですか?
まだアントキバとマサドラぐらいしか、移動スペルでは飛べませんけど」
「うん。とにもかくにも、まずはスペルの移動先を増やさないとね。
だから『漂流』を使う」
「……そういえば、それがありましたね」
すっかり忘れてたよ。でも『漂流』って1人でしか飛べないはずだから……
「3枚あるから、まずアントキバの入口に行って、俺が『漂流』で一気に都市3つ回ってくる。すぐ『再来』でアントキバ入口に戻るから、好きな場所に『同行』で全員行ける。
どこを観光するかは『漂流』の風向き次第だね」
そういうの、さらっと答えるなぁ。ソロプレイヤーだったか疑わしいくらい、チームで動く時の判断がスムーズだ。……今さらか。
「後は……そうだな。島の地図、もう1つゲインしとこうか。
俺とメレオロンが、全員に『追跡』かけ終わってるし。2人で地図を持ち歩いてたら、不意のトラブルでバラけた時も対処しやすいだろ。『同行』もまだ余分に確保できてないしな」
相談が一通り終わったので、リュックの荷物整理をしてから、私達は宿を後にする。
身軽に先頭を歩くウラヌスと私の背を、重いリュックを背負ったメレオロンとシームが恨めしげに睨んでるのが分かる。あはは、いいですとも。修行をつける相手から恨まれるなんて慣れっこです。
まずは『たずね犬』のイベントを開始。
懸賞に書いてある場所へ行くと、老夫婦がイベントの詳細を長々説明してくる。それが終わった後、すかさずウラヌスが『たずね犬』カードを渡した。情緒もへったくれもない。即座に老夫婦がお礼を言うイベントが発生し、カードをくれた。
『1309:呪われた幸運の女神像』
ランクD カード化限度枚数79
老夫婦が昔手に入れた
良くないいわれのある 女神像
幸運をもたらすはずが
呪いの効果で 打ち消されている
そのカードを手にしたまま、ウラヌスがポケットに手を入れる。
すると、シュウウウウという音が鳴る。あの時と同じだ。呪いが解けて、カードが変化する。
『1310:幸運の女神像』
ランクB カード化限度枚数25
呪いが解かれた 幸運を招く女神像
昔存在した宗教のご神体で 呪われたことにより
その宗教はなくなってしまったようだ
「えっと、いくらだっけ?」
メレオロン、そういうのはホント抜け目なく聞くよね。いいけどさ。
「70万ジェニー。
盗られることはそうそうないだろうし、次マサドラへ行った時に売るよ」
アントキバのトレードショップで出金し、手持ちを20万ジェニーにする。準備が出来たので、私達は都市の入口に向かう。
「じゃ、行ってくるよ。すぐ戻ってくるから」
ウラヌスがカードを構えてそう告げる。頷く私達。当然、周囲警戒は怠らない。入口は比較的危険地帯だからな。プレイヤーと接触する可能性が高い。
「──『漂流/ドリフト』オン」
ウラヌスが光に包まれ、飛んでいく。あっちは北の方か。さて、どこへ行ったのやら。
1分ほどして、ウラヌスが戻ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい。どうでした?」
ウラヌスは何とも言えない顔。なんだろ?
「えっとね。アタリが2つ、ハズレ1つ。
桜花都市エリル。
千秋都市オータニア。
城下都市リーメイロ」
うん? そのラインナップだと……
「ハズレって、リーメイロのことですか?」
「そ。
あんまイベントないし、見どころも城ぐらいだしな。城なら他の都市にもあるし。
だから今日は、エリルとオータニアに行こう」
「そこって観光しがいあるの?」
メレオロンが尋ねると、ウラヌスは嬉しそうに頷き、
「そりゃもう。
年中、様々な桜が咲くエリル。花見し放題だよ。俺が一番好きな都市かな。
秋の味覚が満載、オータニア。これがなかなか景色もよくてね。ちょっと素朴だけど、黄色や赤く染まった草木は良い風情だよ。
さっき見てきて、改めてどっちの都市も良かったよ。みんなと行ってみたいな」
秋の味覚……ほほぅ。思わず口の中にヨダレが溜まってくる。
「さて、どっち先に行く?
エリルかオータニア。後で行く方が、修行の場所になるかな」
私達は、しばし考える。……いやまぁ私は考えるフリ。もう答えは出てる。
「私はエリルが先、オータニアは後がいいです」
「ふぅん。
修行の後にたらふく秋の味覚、かな?」
顔を逸らす。どうせバレると思ってましたよ。いいさいいさ、もう食いしん坊で。
「運動の後に美味いメシかぁ……
そんなこと言われたら、アタシは反対できないかな」
「ぼくも修行の後で、おいしいゴハン!」
そんなこと言っていいのかなー? 修行がキツくて、ゴハンが喉通らないとか言っても知りませんよー? まぁそこまでキツくする気はないけどさ。……最初はね。
「決まりだね。
しっかし、いきなりエリルか……
もうちょっと後のほうが良かったんだけどな」
ぼやくウラヌスに、私は首を傾げる。
「どうしてです?」
「……ま、ここで長話もなんだし。
今から行くけど、みんな準備いい?」
「バッチこーい!」
「いつでもいいよー」
メレオロンとシームが、リュックをしっかり背負い直す。
「私も問題ないです」
「分かった。じゃあ行くよ」
ウラヌスが開いたままのバインダーから、カードを取り出す。
「──『同行/アカンパニー』オン! エリル!」
浮遊感とともに、私達は観光へと旅立った。
みんな一緒に飛んでるのが目に映る。いいな……こういう感じ。
着地するのと同時に。
ふわりと暖かい空気が身体を包む。不思議な香りが鼻をくすぐった。
視界に入る、都市の街並み。高い建物はあまりなく、低い建物が立ち並ぶ中。
本当にたくさんの、桜の樹が植えられていた。一様ではなく、色んな種類が植えられているようだ。花の色も、樹の高さも違う。
朝日に照らされた桜の木々が、穏やかな光をゆらゆらと照り返している。
私達は、しばらくそこで立ち尽くし……
強い風が吹く。
────無数の桜花びらが舞い、都市をこれ以上ないほどに彩った。
「うわぁぁー……すごい」
メレオロンが洩らす感嘆を耳にしながら、私はただ目を
これは……
不意打ちすぎる。やられた……。私にとって、この風景は刺激的すぎる。
ここまで見事な桜吹雪を見たのは、いつぶりだったか……
やはり記憶に甦るのは、ジャポンにいた頃か。
前世の──ヘタをすれば100年以上は前じゃないか? 桜自体は色んな土地にあるけど、これほどのモノとなると……
先生のお墓参り、まだ行けてなかったな……いつかは行かないと。
同じように綺麗な桜色の髪を風に揺らすウラヌスが、こちらに背を向けて吹雪く景色を眺めていた。感慨深げにしているのが伝わってくる。
私へと振り向いて、少し寂しそうに笑っていた。
「……どう?
いきなりはちょっと、もったいないでしょ」
一番好きな都市、か。……よく分かった。確かにこれじゃあ、いきなりクライマックスかもな。
ウラヌスは都市へと向き直り、
「これ以上、観光地らしい観光地もないかな。
じゃ、みんな行こう。
……のんびり歩いてね」