どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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スワルダニ編 2000/9/11 ~ 9/13
第五章


 

 ハンター協会本部、個人所有の一室。

 

 ゴンからの電話を切ったネテロは渋々といった様子で、違う人物に電話をかけた。

 

「……パリスか?」

『ネテロさん、珍しいじゃないですか! ボクに直接電話なんて』

「うむ……

 緊急でお主に知らせたいことがあってな」

『ネテロさん直々にですか。どんな用件です?』

 

 しばし沈黙するネテロ。

 

 パリストンは、ひたすらネテロ元会長を邪魔したり妨害したり茶々を入れたりするのが大好きな奇人だ。思いつく限りの嫌がらせ、特にその場限りのいらんことをポンポーンと放ってくる。

 ネテロも退屈するよりは面白いものをと考え、パリストンを副会長としたが……

 

 アイシャにまで目をつけてきたのは、正直不愉快だった。単にちょっかいを出してくるだけなら良い退屈しのぎと歓迎したが、会長を辞めた後までアイシャとの勝負を邪魔するなら話は別だ。今までは適当に流していたが、そろそろ灸を据えるべきかと考えている。

 

「……お主じゃろ。

 あのポスターを作りおったのは?」

『え? ポスター? なんのことですか?』

「……しらばっくれんでよい。

 お主ぐらいじゃろうが。選挙ポスターなどという名目で人を動かし、ハンターサイトに上げることができるやつなんぞ」

『へ?

 ……あー、もしかしてアレですか。アイシャさんの!

 いやー誰でしょうね、あんな酷いことするの。……まさか』

「そうやって、ワシがやったかもと他の連中に思わせるのも目的じゃろ?

 まぁ単なるアイシャへの嫌がらせなんじゃろうが……」

『いやいやいや、ボクは』

「黙って聞け。

 よいか。いま、お主を狙ってアイシャがこっちに向かっておる。

 さっさと行方をくらませ。当分姿を見せるな」

『え? その──』

「黙って聞けと言っておる!

 あのポスターを作ったのがお主じゃと確信して、アイシャがお主を殺しに来ると言っておるんじゃ! さっさと消えぃ!」

『へぇー。

 いや、そこまでムチャなことをする子には見えませんでしたけど』

「……ワシが病院送りにされた件、忘れたか?」

『……。

 アレはアイシャさんも同時期に入院されていたようでしたし、痛み分けだったのかなと思ってるんですけど』

 

「ふん。どっちが勝ったとも言えん勝負よ。

 ──百を超えて繰り出したワシの【百式観音】を凌ぎおった娘に、お主は命を狙われておると言っておる。

 意味が分かるか、パリスよ」

 

『……』

 

 ネテロもあまり情報を渡したくなかったが、仕方ない。おそらくパリストンを退かせるのに、必要な身銭だ。

 

「証拠はないから大丈夫、と考えておるじゃろう。

 そう甘い話ではないぞ。あやつにそこまでの自制心はない。

 ……仮に、証拠不十分でアイシャがお主に危害を加えたとしよう」

 

 軽く血管を浮かせるネテロ。

 

「あやつを守る為、リィーナ=ロックベルトとアイザック=ネテロが、総力をあげ証拠を洗い出してみせようぞ。

 ワシら2人を敵に回して……貴様、逃げ切れると思うなよ」

 

『ネテロ会長……!

 本気でボクの相手をしてくれるんですかっ!?』

「何を喜んどるか。それにワシはもう会長ではない。

 ……ワシだけの問題ならと思っておったが、アイシャを巻き込むなら話は別じゃ。

 なんならワシが今から殺しに行くぞ」

『……。

 いえ、それには及びません。会長が本気なのはよく分かりました。

 今回は分が悪いようなので、ボクはすぐに姿を消します』

「フン」

『足が付くといけないので、黙って行きます。

 他の十二支んのみんなによろしく』

「……ワシがそんなこと吹聴したら、お主を逃がしたのがワシじゃと、アイシャにバレるじゃろうが。程度の低いヒッカケをしよる。さっさと行けぃ」

『……アイシャさんのこと、ずいぶん気にかけられてるんですね』

「あやつは生涯最高の好敵手よ。

 ケツの青い貴様なんぞの手に負えんわ」

『アッハハハッ!

 ネテロ会長のそういうところ、大好きです! それじゃ』

 

 ぷつっ。と通話が途絶えた。

 

 ふー、と息を吐くネテロ。

 

「……まったく、面倒なやつらじゃのぅ」

 

 まんざらでもない顔で、ネテロはそうボヤいた。

 

 

 

 

 

 ハンター協会本部、入口ロビー付近。

 

「あー、遅くなっちまったな。

 もうちょっと早く来れたらよかったんだけど……」

 

 桜色の髪を長く伸ばした、白いワンピースを着た人物が一人ぼやく。すでに夜の時間に差し掛かり、ロビーにはヒトけが少ない。

 そのロビー付近にたむろしている数人のプロハンターへ、視線を流しやる。

 

 ……んー。やっぱそうだよな。プロハンター、つってもピンキリなんだよなぁ……

 

 一瞥で大したことない連中だと分かってしまう。

 グリードアイランドで通用するレベルともなれば、中堅に近いクラスの実力がないと、ゲームクリアには近づけない。最後は必ず戦闘によるカードの奪い合いにもなるだろう。実戦的か、攻略適正の高い念を修めていることが望ましいが……

 

 すぐには見つからないかもしれない。実力者は一つの大物を長く追っていることも多い。話を持ちかけるかは別にしても、1人でも多く実力のあるハンターに目を付けておくべきだろう。

 

 そう考えながら、協会内の廊下へ歩を進めようとした時、

 

「ん?」

 

 違和感を覚えた次の瞬間。

 

 文字通り、背筋を凍らせる悪寒が走った──かつて体感したこともないほどの驚異的な何かが、ここに来る。

 

 協会入口から、誰かが入ってきた。

 

 青い運動着を着た……女の子だった。見覚えがあるような無いような……

 何やら髪の毛がピョンピョンはね、服がワリとあちこち破け、おいおい良いのか状態になっている。目は……据わっている。口許は強く引き締められている。

 

 誰がどう見ても激怒しながらノシノシ歩いている少女に、桜髪の人物は視線を外せないまま──

 

「おいおい、デタラメにもほどがあるだろ……」

 

 小声だが、思わず口にしてしまった。

 近くまで来ていた少女はムッとそちらを見やり、

 

「……なんですか。

 私の顔に何か付いてますか?」

 

 ──いちおうだが、町中へ入る前に【天使のヴェール】は発動している。よっていくらアイシャが激怒していようと、たとえ念能力者でもオーラはほぼ感知できない。一般人と見分けがつかないレベルだ。

 

「……いや、ごめん。独り言。

 付いてるって言うなら、髪の毛に葉っぱがくっついてるよ」

「そうですか。……後で払っておきますどうも」

 

 よほど急ぎなのか、そのまま横を通り過ぎて、ノッシノシノシと怪獣のような足取りで廊下の奥へ歩いていった。

 

 ロビーにたむろしていた連中も、彼女の方を見送っていた。その連中に近づいていき、

 

「なあ、あんた達。

 あの子のこと知ってんのか?」

 

 そこにいた3人のプロハンターは『はぁ?』みたいな反応をする。

 

「なんでお前、知らないんだ。

 ……あぁ、投票サボったのか」

 

 投票……? ああ、ひと月前にあった会長総選挙のことか。確かに事情があって投票もできなかったが……

 

「ありゃ13代会長様よ」

 

「……は?」

 

 今度は桜髪の人物が、首を傾げる。

 

「圧倒的得票数で、13代会長に選出されたアイシャって嬢ちゃんさ。

 すぐ辞めちまったがな」

 

 何がなにやらサッパリ分からない。

 確かに、ただものじゃないことは分かるのだが……

 

「なんでもネテロ元会長を病院送りにしたとかで、相当な実力者らしいぜ。

 胸も相当だけどな」

 

 げらげらげらと下卑た笑いを重ねる3人。

 

「……」

 

 彼女の消えた廊下の奥を、見送る人物。

 

 ──そりゃ、あのエネルギー量なら、なくもない、か。

 

 とりあえず話をしたい候補が1人決まった。

 

 

 

 

 

 ドバァンッ!! とド派手な音を立て、一室の扉が開いた。

 

「……ノックくらい、せぃ」

「ネテロ、パリストンどこですか」

 

 冷静さのカケラもない声音に、ほとほと呆れた様子で振り向くネテロ。

 

「なんでパリストンなんぞ探しとる。ワシに用があったんと違うんか。

 ……つかお主、来んの早すぎやせんか?」

 

 なにやらあちこち酷い有様のアイシャなのだが、漲らせる怒気の凄まじさに、指摘する気が失せる。

 

「パリストンに用事ができました。あなたとの用事は後で。

 ちょっと走ってきました」

「はし……」

 

 まあ、様子を見れば走ってきたのだろうということは分かる。……分かるが、いい加減人類の限界を更新するのはやめてほしい。

 

 阿修羅の化身が返事を待っているようなので、ネテロは内心どきどきしつつ、

 

「ワシもアヤツに用があって探しとったんじゃが、少し前から見当たらんくてな。

 副会長でなくなってから、あっちこっち動いとるようじゃ」

「そうですか。……ネテロ」

「うむ」

「……」

「……なんじゃ。相談があったんと違うんか」

「いえ、その話ではなく……」

 

 露骨に溜め息を吐くネテロ。

 

「なんじゃ、はっきりせんか」

「……。……ぽすたー」

「うぅん?」

「……せ、選挙の時のポスター。……で、分かりませんか?」

 

 ネテロは鬚をさすりながら、斜め上を見上げ、再びアイシャを見る。

 

「お主のやつのことか?」

「う、は、はぃ……」

 

 ネテロは穏やかな笑みを浮かべ、

 

「アレのぅ……

 えらいべっぴんさんに写っとったのぅ。初めは誰かと思うたわ」

「──はっ、はぁ!?

 いきなりなに言ってんですか!」

「うむうむ。

 なかなか大胆なことをしよるわ。全くもって、お主にはモデルの才能がある!」

「な、あ、う?

 ば、バカなこと言って……うぅ、ふ」

 

「……ブタもおだてりゃ木に登る」

 

「ネテェェェェェェェェェロッッッ!!」

 

 思わず自爆コマンドを入力してしまったネテロ。阿修羅面が『怒り』と化した。

 早速ぼかぼか殴りかかってきたので、ネテロは慌ててアイシャの両腕を掴み、

 

「いてぇ! やめんか、少しは落ち着け! 冗談に決まっとろぉが!」

「うぅぅぅぅぅ、今そういうのは絶対ゆるしませんんんん」

「どんだけブチ切れとるんじゃ! 落ち着けと言うに!」

 

 腕を掴まれたアイシャは、ぶるぶるぶるぶる怒りを漲らせつつ、

 

「今ならもれなく3分でこのビルを平らにしてみせますよぉぉ?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。何か地響きしてる気がする。

 ……ワシしぬ。タスケテ!

 自業自得である。

 

 

 

 拮抗状態をしばらく続け、ようやく「はぁぁぁぁー……」と熱を吐くアイシャ。怖々とネテロは両手を離しつつ、

 

「落ち着いたか? いや、スマン。……今のは本当にすまんかった」

 

 はー、はー、とアイシャは息継ぎした後、

 

「……ネテロ」

「ん?」

 

「消してください」

 

 一瞬パリスのことかと思ったが、違う。消してほしいのはポスター画像か。

 

「…………。アレをか?」

「はい」

 

 ネテロは瞑目したまま、鬚をさする。

 

「お主、ハンターサイトから情報を消すのにどれだけ費用がかかるか分かっとるのか?」

「消してください」

「おい」

 

「ケ、シ、テ」

 

「………………。

 ……う、ぅむ。

 まぁ他ならぬお主の頼みじゃ。やっておこう」

 

 そう言わないと自分が代わりに消されるだろう。確信するネテロ。

 

「……ちょっと待ってください。

 ハンターサイトだけじゃなく、電脳ページからも完全に抹消してください」

「をぉい。」

「確実に、電脳ページに存在しない状態にしてください」

「…………いや、じゃがな。

 確実に消せるというものでもないぞ。モノは画像じゃ。

 検閲するにしても限界が」

「…………」

「……ああぁーもぅ! やっといたるわ! だからいちいち気にすんなや!

 面倒なやつじゃのぅ……」

 

 ようやくアイシャは、深く深く息を吐いた。

 

「……感謝します。ネテロ」

「まったく……

 まぁその話はええじゃろ。で、相談ってなんじゃ」

 

 背筋をただすアイシャ。

 

「えっと……」

「……。

 具合が悪いとか言うとったのぅ。戦うのに支障が出るほどか?」

 

 アイシャはもう一度、大きく息を吐いた。

 表情を据え、胸を張って立ち、

 

「そんなことはない。お前と戦うのに問題はないはずだ」

 

 にやりと笑うネテロ。

 

「ほぅ。言い訳できんが、良いのか」

「武術家同士の戦いで、具合が体調がなんぞ言ってられるか。

 今からだってやれるさ」

「ワシは嫌じゃな。お主と戦うなら、互いに万全を期したいわ。

 ごちゃごちゃ負けた理由なんぞ聞きとうない」

「勝者の弁とは随分余裕だな。

 いつから自分が格上だと思っていた?」

「昔からじゃ。

 お主こそ、勝ち星をきっちり稼いでから吠えんか」

「はっ。

 及び腰で勝負を仕掛けてこれないくせに、どの口がほざく」

「お主が度々病院送りになるからじゃろうが。

 いつならやれるか、お主から言うてこんか」

「……」

「……」

 

 アイシャはポリポリこめかみをかく。

 

「……すいません、ネテロ。

 申し訳ないですが、戦うのはもうちょっと待ってください……」

「始めからそう言わんか。仕方のないヤツじゃ」

 

 そう言いながら、ふっと笑うネテロ。

 話してる限り、体調が悪いのは事実だろうが、戦意は衰えていないようだ。巨大キメラアントの王とあれほどの死闘を繰り広げた相手だ。次に戦う時が楽しみなのは間違いない。

 

「この年で挑戦者か。血沸く血沸く♪」

「へ? チクワちくわ?」

 

 アイシャの頭の中に、なんでかチクワと鉄アレイが乱れ飛ぶイメージが浮かんだ。

 

 ネテロは目を丸くして、毒気の抜けた少女を見やる。

 

「……お主もたいがい食いしん坊じゃの」

「誰が食いしん坊ですかッ!

 ……私ですけど」

「認めるンかい」

「く、食いしん坊かもしれませんけどっ!?」

「あいまいになるのかよ」

 

 くっくっく、と愉快そうにネテロは笑った後、

 

「まぁええ。それじゃメシでも食いに行くか。

 うまいおでんの店があったはずじゃのぅ。どれ、貸切にして、のんびり食うか」

「あ、すっごいお腹すいてるんで、ぜひぜひ」

「話はそこで、でいいんじゃな?」

「……は、はぃ」

「うむ」

 

 ネテロは満足そうに、少女を引き連れて部屋を出て行った。

 

 

 

「あ、先にシャワーと着替えしてけよ」

「はい?」

 

 アイシャの胸辺りを指差すネテロ。

 

「……?

 ────ッッ!!」

「気づいてなかったんかぃ……」

 

 さっき暴れたせいで、破れ目が広がって、軽く下乳が出てる悲惨な状態になっていた。そもそも走ってくる最中に、スポーツブラが全損したことに気づかなかったという……

 

 

 

 

 

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