11時くらいまで茶屋でのんびり過ごした後、私達は桜集めを開始する。
「基本的に花びらは1種類2枚ずつ、1人1枚確保で。
他プレイヤーに狙われたら、迷わず俺目指して『同行』。相手を巻き込んでもいいから。
30分をメドに桜茶屋へ集合。OK?」
「はーい」
「了解、分かったわ。
……逃げる時って、アタシの能力はあんまり使わない方がいいのよね?」
「もちろん。
誰かに注視されてる状態で発動させるのは流石にマズイだろ?」
「まあ、そうね」
3人が相談してるのを黙って眺める。私はウラヌスに付いてくだけだからね。口を挟む余地がない。……ん? そういえば。
「時間はどうやって確認するんですか?」
ウラヌスが私を意外そうに見やり、
「え? 携帯だけど。
あ、もしかしてバッテリーのこと気にしてる?」
「そうですね。
時間確認によく使ってたんで、そのうち切れるんじゃないかなって。
ゲームの外で充電したっきりですよね?」
「バッテリーは予備があるから大丈夫。
神字も描いてあるから、オーラでも充電できるよ。ま、ゲーム内の宿でも充電できるんだけどね」
ホント便利だな神字。ていうか充電できる宿あるのか。……街って、そこそこ電化製品使ってるもんな。そりゃ探せばあるか。
街の奥に向かって歩いていく2人の背を、しばらく見送っているウラヌス。私達の方はプレイヤーの遭遇率が高くなりやすい都市の入口から順に見ていくことにしたんだけど、ウラヌスはなかなか動こうとしない。
「……あの2人も変わったね」
ぽつりとつぶやき。私の方をちらりと見る。
「今までは、ほとんど俺から離れようとしなかったのにさ。
……俺と会うまでは、自分達だけで何とかなってたんだろうし。始めからそうしようと思えば出来たんだろうけど」
それについては、色々と予想できなくもない。……けど、どうだろうな。
「メレオロン達も、2人で生きていく道を模索してるんだと思いますよ」
視線を落とすウラヌス。少し淋しそうに、
「そうかもね。
……別にいいんだけどな。ゲームクリアした後、俺と一緒に暮らしたって」
さらりと難しいことを口にするウラヌス。仮にそうした場合、ウラヌス自身にも苦難が襲いかかるのは避けられないだろう。それが続けば、いずれあの2人は迷惑をかけまいとして、彼の元から出て行く。きっと。
私も、身をもって思い知ったことだ。──この社会は、溶け込めない者に対して冷たい。明るいメレオロンが時折り見せる暗い陰は、彼女が今までどうやって生き延びてきたか、それを物語っている。
多くのキメラアントを殺めた私が、こんなことを考えるのは偽善なんだろうけど……
どうにかしてあげたい。あの2人だけでも。
都市の入口から見逃さないよう丹念に眺めつつ、桜の花びらを集めていく私達。これが意外に難しい。なんせ花びらを手に乗せなきゃいけないからな。いつでも花びらが落ちてくるわけじゃないし、いざ花びらが散り落ちても風に流されたりしたらそれを追うハメになる。
「思ったより大変ですね」
「あんまり観光って感じじゃなくなっちゃうんだよね。集中しないといけないしさ」
ウラヌスは少し不満顔。のんびり観光したかったなら、邪魔しちゃって申し訳ないな。
30分しかないから、時間的な余裕も少ない。割とダブつくのも痛いしな。『大島桜』がやたら被る。カードで答え合わせできるから、正確に桜の見分けがつくようになってきた。
都市の入口、東側から進んできて中央付近の桜茶屋に戻ってくる。今で25分くらいだ。
桜花びらでそこそこ埋まったバインダーを、2人で眺める。
「22種か……
危なかったね。フリー枠かつかつだよ。メレオロン達はどうなったかな?」
「ここで2人を待ちますか?」
「うん。つか、もう俺の目には見えてるしな。
がんばってここまでやり通してもらおう」
「ええ、見える範囲なら安心ですからね」
んー……アレか。私の目にも2人が見えた。桜でも眺めながらのんびり待つとしよう。
……
…………
「ウラヌス。
せっかくなんで、お茶してもいいですか?」
「……まだ食うの?」
「お、お茶だけですよ。
食べるなんて言ってないじゃないですか」
「ふぅん」
ふぅん、て。ひどい、絶対信用してない。ホントにお茶ほしかっただけなのに。なにがいけないんだ分かってるよ私が悪いんだよチクショウ!
ちょっと口を尖らせながら、
「私って、そんな食いしん坊に見えます?」
「え。今さら何言ってんの?」
あああ……ノータイムで、真顔で返しやがった!
なんでか無駄にショックを受けて、その場にうずくまる。慌てる気配のウラヌス。
「うわ、アイシャごめん!
え……そこまで気にしてたの?
そんなの気にしなくていいって。ゴハン好きなだけ食べられていいじゃないか」
「気を使うのはやめてください……
いいですよ、どうせ私は暴食女です」
「そこまで言ってないし、思ってないよ。
いや、俺も昔は結構食べてたんだけど、今はそんなに食べなくなってさ。
羨ましいなって思いはするけど」
「…………」
「ごめんってば。もうゴハンのことでからかわないから。
気にしてたんなら、ホントにごめん」
「……。別にいいですよ。
私こそ気にしなきゃいいんです。
そうやって気づかわれるのも、何だかバカバカしいですから」
立ち上がる。もー吹っ切れた。
そうだそうだ。好きに食べて好きなだけ言われればいいんだ。それに慣れちゃえばいい。そしたら、もう何も怖くない──なんてことはないけども。
「お昼、オータニアで美味しいトコに連れてくね」
ぐぅ、エサで釣るみたいに! ……もちろん楽しみにしてますよ、ええ。秋の味覚には勝てません。
数分ほどでメレオロン達が戻ってきた。道中なにも問題なかったようで、私達は不要にダブついた桜カードの整理と状況確認をする。
『301:赤真珠』
『302:嵐山』
『303:渦桜』
『304:大島桜』
『306:霞桜』
『307:菊桜』
『308:金龍桜』
『309:紅華』
『312:静桜』
『313:水晶』
『314:太白』
『315:高嶺桜』
『316:手毬』
『318:白山旗桜』
『319:花笠』
『320:雛菊桜』
『321:紅枝垂』
『322:箒桜』
『323:舞姫』
『324:水玉桜』
『325:緑桜』
『326:明月』
『327:八重紅枝垂』
『328:山桜』
『329:稚木の桜』
『330:鷲の尾』
「26種か。……やっぱこうなるよなー」
305・310・311・317が抜けか。ウラヌスはこうなるって予想してたみたいだな。
「残り4つって難しいんですか?」
「ちょっとしか生えてない希少種だね。
たとえば、ここの桜」
ウラヌスは、店のそばに植えられた枝垂れ桜に目をやる。
「この『紅枝垂』は、俺が前探した時はここにしかなかった。
他に生えてる枝垂れ桜は、『八重紅枝垂』ってやつだったはず。街のメインストリートから外れたトコに、残りの4種類あったはずなんだけど……
さて、どこだっけなー?」
鼻頭をかくウラヌス。
「アンタらしくないわね……
覚えてないの?」
「いま思い出そうとしてるんだよ。
その、桜があった場所は何となく覚えてるけど、ここからどうやって行ったか地理的に記憶してなくて」
……まあ、そこまでしっかり覚えとけ、なんていうのは流石に酷だろう。他にもこんな知識いっぱい詰め込んでるんだろうし。怪物の弱点なんかと違って、命に関わることでもないしな。
「じゃあ、4人でうろうろしてみるしかないわね。
桜の特徴は?」
「えー? ちょっと待って……
高い桜の木、ってぐらいか。あと覚えてない。
あ、しまった……『解析』を少し残しとけばよかった。テキスト見れれば楽だったかもしれないのに」
ん? 確か……
「ウラヌス、メモってないんですか?
前回のプレイで、目ぼしいカードは『解析』で調べたって言ってましたけど」
そう尋ねると、ウラヌスは片目をつぶって痛そうな顔をする。
「うー。ごめん……
桜の連番については細かくメモってない。『解析』はもったいないから使わなかったんだけど、カード30種類集めた後も、書くのメンドくさがった……」
ダメか。じゃあ地道に探すしかないな。
何だか落ち込んでるウラヌス。急に攻略しようと言い出したのは私達だし、準備不足は仕方ないよ。別にウラヌスの落ち度ではない。
元気のない彼の背を、ぽんと叩いてあげる。
「それじゃ、みんなで探しに行きましょう。
覚えてる範囲でいいですから、街の案内お願いできますか?」
きょとんとしているウラヌス。やがて、嬉しそうに私達へ微笑んでみせた。
「うん。行こっか」
4人揃って街の色んな場所を巡っていく。カード探しをしていたおかげで、桜の品種についてみんなそれなりの知識があり、アレは霞桜だとか、やっぱり大島桜が一番多いね、とかそんな会話が弾む。製作者はそこまで予想して桜のカードを集めさせたんだろうか。
「そもそも低い桜の木って、そんなにないわよね」
「そうだなー。
同じ品種でも大小あるし、高い木ってだけじゃ探しようがないな」
「木のそばに目印ってないんですか?
桜茶屋みたいに、あのお店の近くとか」
「んー。
他の桜に紛れてたりとか、施設から離れてポツンとあったはずなんだよね。
完全に裏かこうとしてる感じ。その印象が強くて、ちょっと桜探し渋ってたんだけど」
「いいじゃん。
お花見できて楽しいし」
シームは熱心に桜を見上げている。彼なりに思うところはあるんだろう。桜は見る者の心境によって、見え方が随分変わるからな。
「うーん……
この辺だったと思うんだけど」
桜が林立する道の半ばで、ウラヌスが何枚目かのカードをポイ捨てしながら、うめく。
ここってたくさん木があるだけで、意外と種類は少ないみたいだ。諦めそうなところに1本だけ紛れてる嫌なパターンか。あるって分かってるだけマシだな、ホント。
たぶん大島桜だろうと思って取ったら、なんか違った。微妙な品種の違いとか、気配で察知するのは無理だな。せめてオーラが見えればなぁ。
『324:水玉桜』
ランクH カード化限度枚数∞
やや高い桜の木に 一重で咲く 白い花びら
んー……こっちのは……大島桜か。
『304:大島桜』
ランクH カード化限度枚数∞
高い桜の木に 一重で咲く 白い花びら
多くの桜の原種
この木もそうかな。……ちげぇ。やっぱ分からん。
『314:太白』
ランクH カード化限度枚数∞
高い桜の木に 一重で咲く 大きな白い花びら
「あったぁ! やった、見つけたー!」
シームの歓声。林の中にバラけていた私達は、一斉にそちらへ集まる。
「ほらほら、これ!
絶対取ってないやつ!」
「おー、これだわ。間違いなくココの正解カード。
シーム、よく分かったな」
「ホントそうね。アタシ、言われなきゃこんなの気づかないわよ」
「なんか花の咲き方が他とちょっと違ったから、アレ? って思って。
花びらもなかなか落ちないし、気になって粘ってみた」
褒めるウラヌスとメレオロン。きゃっきゃと喜ぶシーム。見ていて微笑ましいな。
『311:咲耶姫』
ランクH カード化限度枚数∞
高い桜の木に 半八重で咲く 白い花びら
神代の姫の名を冠する
その桜を見上げる。ホントだ、ちょっと咲き方違うな。他の桜は、一重咲き、八重咲き、菊咲きのどれかなのに、これだけ混ざった感じになってる。
ちょうど花びらが降ってきたので、2枚目確保の為に私もそれをキャッチしてカードを眺める。
「このシンダイの姫ってどういう意味?」
メレオロンが、シームの手にしたカードテキストを指しながら尋ねる。ウラヌスは少し小首を傾げつつ、
「神代ってのは、神話の時代って意味だったかな。
だから姫とは言ってるけど女神のことだよ。サクヤヒメってのは、ジャポンにある一番高い山の神だったと思う」
「へぇー」
「そろそろバインダーに入れた方がいいよ、1分経っちゃうから」
「はーい」
ふふ、そのお姫様ってウラヌスみたいな人かな。バインダーにカードを収めつつそんな想像をしたら、ちょっと愉快になった。
「ん?
なんで笑ってるの、アイシャ?」
「いえいえ。
それじゃ次の桜を探しに行きましょうか、お姫様」
ややあって、意味を理解したのかギョッとするウラヌス。
「アイシャ!」
「え、なんですか? お姫様」
私が笑いをこらえ切れないでいると、
「あー、なるほど。言われてみれば」
「ヒューヒュー。ウラヌスおっひめっさまー♪」
「シーム、おまえヤメロ!」
本気で嫌がってる。コレは面白いぞ。
「ほらほら、早く次行きましょ。ウラヌス姫♥」
「あ、アイシャ! お願いだからやめてってば!」
涙目で顔をぶんぶん振るウラヌス。
「姫がそんな大声出しちゃハシタナイわよ。
乙女ならもっとおしとやかにしなきゃ」
「メレオロン、テメーが言うなッ!」
「喋ってたら日が暮れちゃうよ、案内してよプニプニ姫ー」
「誰がぷにぷに姫だッ!!」
「ほーら、このへんとか」
脇腹を触れられて、びくーんと反応するウラヌス。
「ひぁっ!? ちょ、触んなって何度も言っただろッ!
オマエの触り方くすぐったいんだよ!」
ウラヌスとシームが、めっちゃジャレてる。銭湯でどんな感じだったか良く分かるなー。