ぶすーっとした顔で先頭を歩くウラヌス。姫、姫様、お姫様ーとからかい続けた結果、ついに
私達3人はお互いビミョーな顔をして、彼の少し後ろを付いていく。
皮肉なことに、後ろから見た彼の姿は完全にお姫様なんだよな……。桜の乱れ咲くこの街並みに、ウラヌスの揺らす桜色の後ろ髪はとても似合っていた。振袖とかを着たら完璧じゃないかな。言えば余計に口利いてくれなくなりそうだから、言わないけど。
「ねーぇ、姫様ぁ。
デパート見当たんないんだけど、どこにあんのー?」
一計を案じ、意味のあることを尋ねるメレオロン。……ヒメ呼ばわりをやめてないけど。
ウラヌスは振り向きもせず、斜め前にある一つの建物を指差す。
「……ここは平屋建ての木造建築がほとんどで、他の都市みたいな高いデパートはない。その代わり、低いけど面積の広いショッピングセンターがある。そこでもデパートと同じモノが売ってる。あとヒメ言うな」
抑揚のない声で一息に言い切り、手を降ろすウラヌス。
「……おねーちゃんさぁ」
「みなまで言うな、シーム。分かってるわよ。
だからこそ、ここではああ言うべきなのよ」
メレオロンは空気読みの活かし方を間違えてると思うんだ……全力でいじる方に極振りしすぎだろう。何がそこまでさせるんだ。
にしても、ウラヌスも
まぁ本人が嫌がってるのに、ひたすら姫様姫様とからかって可愛い美しいとか言い続けた私達が悪いんだけどね……すっかり機嫌そこねちゃったよ。
はー。仕方ない……
「ちょっとお話ししてきますから、静かに様子を見ていてください。
……あと、もう姫とは呼ばないであげてくださいね」
「はーい」
「分かったけど……んー」
名残惜しげにされても困る。あのウラヌスが、まともにコミュニケーションしなくなるくらい嫌がってるんだぞ。ヘタしたら今後に支障が出る。
私は歩を早め、ウラヌスの横に並ぶ。
「お話、いいですか?」
「……うん。なに?」
顔も向けてくれない。多分に疑わしげな声。……まいったな。キッカケ私だもんな。
「その……
姫なんて呼んで、ごめんなさい。そんなに嫌がるとは思わなかったんで」
「……」
頬をふくらませた横顔を見せてくる。……申し訳ないけど、そのほっぺたツンツンして『ぷにぷに姫ー』とかしたくなる。そんな顔したら、自分がどういう目で見られるか絶対分かってないな、この人。
「その、ですね……
ウラヌスの髪の色、あるじゃないですか。
私達の目には髪の色と周りの桜が一緒に見えて、よく似合ってるなって思うわけですよ。
だから、姫って呼ぶとしっくり来ちゃったわけでして」
「……。
………………」
いくらか表情が和らいで、口許が緩む。やっぱりそうか。髪の毛のこと、褒められると喜ぶんだ。可愛い顔するなぁ。
じっと見ていると、顔を逸らして息を吐くウラヌス。
「好きにすればいいよ……
もうじき着くよ。そこの路地を曲がった先だったと思う」
細い路地の先、複雑に枝分かれした道の、不自然な位置に植えられた桜の木へ向かっていくウラヌス。ちょうど舞い散った花びらを、迎え入れるように掌を据え、乗せてみせた。
『317:二度桜』
ランクH カード化限度枚数∞
高い桜の木に 一重咲いた後に八重咲く
珍しい淡紅の花びら
「へぇ……」
確かに一重と八重が混ざった咲き方してる。二度桜、か。
「もう1枚取っといてね。
さて、あと2種類か。こっちだったっけな」
あまり迷いもなく歩き出すウラヌス。花びらを取ろうと待ち構える私に、メレオロンが小声で囁いてくる。
「……アイシャ。
アイツ機嫌直ったみたいだけど、もう大丈夫?」
「ええ……多分。
でも、呼ばないであげてくださいね?」
「まぁそれはいいけど。
……でもさ。姫って呼ばれるの、アイツ照れてるだけで内心喜んでたんじゃない?」
それは私も思わなくはなかったけど……
「だとしても、からかわれて愉快なハズがないでしょうし。
いらない心労はかけないでおきましょう」
私達、なんだかんだで一緒に行動し始めてから、日が浅いもんね。あまり馴れ馴れしくしすぎるのも考え物だろう。
「嫌よ嫌よ、も好きのうち?」
混ざってきたシームの不穏当な発言に、私はメレオロンに疑いの目を向ける。
「え、なんでアタシをそんな目で見るの?」
「……シームにこんなこと吹き込んでるの、アナタだと思うんで」
「いや、ちょっ。
そんなの濡れ衣よ。アタシそんなこと──」
「ううん、おねーちゃんが言ってた。
……ウラヌスって、身体触ったげると、嫌がってても何か楽しそうなんだよね」
一層この変態カメレオンへの目を疑わしげにしつつ、ウラヌスが楽しそうっていうのは理解できなくもなかった。友達同士でジャレるのってホント楽しいもんね。……だからと言って、メレオロンが過剰にボディタッチしてくるのは許容しがたいけど。
ようやく散ってくれた花びらを手にし、カードをバインダーに収める。少し行った先で待つウラヌスへと、私達は小走りで駆け寄っていった。
紛れてチェックしそびれそうな場所に植えられていた『305:大山桜』の樹をウラヌスが
ただ……ひたすら多いな、ここ。ゆうに百本以上はありそうだ。流石に手間だな……
手分けをして、さっきからみんな手当たり次第に調べ続けている。
突風が吹く。地面に落ちた花びらも巻き上げられ、視界が桜色に染まる。わっ、砂煙もひどいな。反射的に顔を手で覆っていると──
ボン!
おっと。たまたま掌に触れた花びらがカード化したか。
『310:幸福』
ランクH カード化限度枚数∞
高い桜の木に 八重で咲く 淡紅の花びら
名の由来は定かではない
んぁ?
…………あっるぇー? これじゃないの?
バインダーを確認する。……うん。取ってないうちの1つだ。これってラッキー?
んん? っていうか──
ダメだよッ! 2枚欲しいのに、たまたま取れたんじゃ場所が分かんないぞ!
くっ、みんな離れたトコにいるな。私が見つけないとダメか。
えっと、高い桜、八重、淡紅……ヒントがあるだけマシだな。どこだー?
少し捜索して、条件に合う桜を見つけた。だからと言って、この樹だという確証はない。同じカードテキストの桜でも、色とか僅かな違いがあったりするからな。
舞い降りる花びらを掌に乗せる。──やった合ってた! 『幸福』みっけ!
「みんなー! 見つけましたよー!」
「おっけ30種コンプ!
じゃ、景品もらいに行くかー」
「あーあ、お花見もこれで終わりかぁ」
「ちぇ、アタシだけじゃん。見つけられなかったの」
口々に不満を言う姉弟。……やだな、せっかく見つけたのにケチつけられてるみたいで。
ウラヌスは2人を見やり、
「別に花見はまた来ればいいさ。スペルでいつでも来れるしな。
メレオロンが見つけられなかったのは、たまたまだよ。そもそも俺が場所を覚えてりゃ済んだ話さ」
そう告げた後、今度は私を見る。口許に笑みを浮かべ、
「なんていうか、アイシャらしいよね」
詳しく説明することなく彼は歩き出す。メレオロンとシームは、意味が分からずに首を傾げる。
……私が『幸福』を見つけたのを、らしいって言いたかったんだろうか。
それを言うなら……私こそ、あなた達の誰かに見つけてほしかった、と言いたい。
桜茶屋から北へ真っ直ぐ行ったところにある、大きな仏閣。
大抵こういうところって、建物内は一般人の立ち入り禁止になってるんだけど、そこはゲームだからか入り放題のようだ。うん……いいけど。
講堂にいる坊さんにウラヌスが話しかけ、何や
この桜花寺院は、数百年の歴史があり──
本堂に祭られた
これが我ら祖先から
儂は妻に先立たれ、娘も病弱な身体で──
せめて、この街の桜に包まれて心穏やかに──
渋い声で
そのウラヌスの手はずっと動いてる。バインダーを開いたまま。桜カードのテキストを多分メモってるな。時間を効率よく使うのは彼らしいけど、話の内容と相まってとってもゲンナリする。ぜったい聞き流してるよね……じゃないと書けないだろうし。
「──そういうわけで、この街にある全ての桜を集めてきてくれんか?」
「ああ、いいよ」
「そうか……引き受けてくれるか。有り難い。
では、よろしく頼んだぞ」
話が終わるや
「はい、桜30枚」
「おおっ、有り難い……
ではこれが約束の品だ。儂にはもう必要のないものだ……」
坊さんが懐から布に包まれた物を取り出し、ウラヌスの手に渡す。ボン! とカード化した。
『176:狂気のガーネット』
ランクC カード化限度枚数45
所有している者を狂わせるという
真っ赤な瞳のような柘榴石
精神に作用する特別な効果はないが
そうは思わせない この宝石の魔力は侮れない
ウラヌスは、バインダーに収めたそのカードを私達に見せつつ、
「さて……
もう1枚もらうには、あの話をまた最初から聞かないといけないんだけど」
私達は『うっ』と呻く。
初回ならともかく、また全く同じ話を聞くのはツライ……内容的にも。
「……うん。ジャンケンで決めましょう」
私が提案すると、予想通りメレオロンから異議申し立て。
「アイシャ、アンタね」
「だからイカサマしませんってば。
ちゃんと公平にジャンケンですよ?」
「……あのね。アタシの手。ほら、これ指3本でしょ?
チョキ、チョキがとっても出しにくいの。分かる? その感覚」
「大丈夫ですってば。みんな行きますよー。
はい、最初はグー♪ ジャンケン──」
ウラヌスがスムーズに手を出し、シームが慌てて手を出す。メレオロンは「ちょっ」と言いながら手を出し。
メレオロンが、チョキを出して1人負けした。
「アンタ、ハメたわねっ!!」
「そんなぁ。自滅だと思いますよ?」
「俺も自滅だと思う。オマエあほだろ?」
「おねーちゃん、バッカでー」
「ぎゃあああああッッ!!」
シーム容赦ねー。まぁここぞとばかりに叩かれまくるのは、日頃の行いが悪いからだ。諦めたまえ。
正座待機で坊さんから滔々と語られるメレオロン。半笑いで講堂の外から遠目に眺める私達。……南無南無。イ㌔。
2枚目のガーネットと引き換えに死んだ目をしてるメレオロンを連れて、再び桜茶屋で一服する私達。……お茶だけ。口寂しいけど、私だけ食べ物を頼める空気じゃない。くぅ。
「そういえば、エリルって他に指定ポケットのイベントは無いんですか?」
枝垂れ桜を見上げ、まったりムードのウラヌスに、質問を投げてみる。
「んー。
もちろんあるよ。でもなぁ……
どっちも、エリルの中だけでイベント終わんないんだよね」
「また厳しそうですね」
「さっきのガーネットが絡むブルプラもそうだけど、あちこち行くキャンペーンイベントだからキツいんだよ。片手間に終わるのが1つもない」
「……で、カードは何があるの?」
メレオロンが目を半開きで尋ねる。まだ回復しきってないな。大丈夫か。
「うーん……
言ってもいいけど、俺はやらないぞ?
指定ポケットは2枚あって、うち1枚は──」
言葉を切り、私をじっと見るウラヌス。ん? なんだろ、意味深に。
「……1枚は、『死者への往復葉書』。
ランクSのカードだ」
「──っ!」
なんとまぁ。ここだったのか……入手イベントがあったのは。
「ウラヌスは知ってるんですか? 入手方法」
「うん、いちおうね。
クリア前と同じだったらだけど。
ただ今やるのはダメかな。とても効率よくはできない」
「いいから取り方教えなさいよ。
もったいぶらずに」
調子が戻ってきたのか、メレオロンがつついてる。ウラヌスは渋々と、
「簡単に言ってくれるよな、まったく……
えっとね。このエリルで1人のキャラから手紙配達を依頼されるんだ。
宛先に行き方が書いてあって、届けると次の宛先にまた手紙を届けるよう依頼される。
そうやって島のアチコチを、手紙配達させられて……
十数回配達した最後の宛先が、またエリルなんだ。でも戻ってきても、宛先に書かれた名前のキャラがどこにもいない。
それを探し当てると、死者への往復葉書が手に入る」
うわぁー……こうやってイベントの概要知っててもキツそうなのに、知らない状態から調べ出したら結構時間かかっちゃいそうだな。ランクSだし、それも当然か。
「配達先はスペルで飛べないトコも多いから、結構危険な道も抜けなきゃいけない。
何よりカード1枚取るのにかかる時間がいただけない。手強い怪物を退治すれば取れるイベントの方がまだ全然楽だよ」
「そうですね……
知ってても時間短縮が難しいですもんね」
「全く知らなきゃ、聞き込みから始めないといけないから、シャレにならないよ」
やっぱりそうだよな……。ランクSのイベントって、ソウフラビで私がやってたことをするのが前提だもんね。とにかくアレは面倒なんだよ……。1人だと尚更だろう。
「で、もう1枚が『プラキング』。
ランクはAだけど、10日に1枚しか入手チャンスがなくて、他プレイヤーと取り合いになりやすい」
「ふぅん。
どんなの、どんなの?」
興味津々のメレオロン。……なんだろね。この人おねだり上手と言うか。何だかんだで見知らぬウラヌスに助けてもらったわけだし、そのへん上手いのかもな。
シームはお花見しながらも、話の内容に耳は傾けてる。しっかりしてるよ、この2人。
そんな2人のしたたかさに気づいていないわけでもないだろうけど、ウラヌスは律儀に答えてみせる。
「この後に行くオータニアから、このエリルまでのロードレース。
毎月7日・17日・27日に開催されるイベントで、200㎞の道のりを競争して、優勝すれば入手できる。基本的に自転車やバイクに乗ったゲームキャラが参加してくる。
月例大会と同じで、他プレイヤーも参加できるから、その時々で入手難度は変わるな」
「ロードレースですか……
必ず乗り物に乗らないとダメなんですか?」
「いや。徒歩参加OK。
俺が走っても勝てるぐらいだから、アイシャが参加したら楽勝だろうね。もちろん今は無理だけど」
「あー、まぁ……」
「さっきの『死者への往復葉書』だって、アイシャが全力疾走した方が早いかもね。
いくらスペルで移動しても、目的地が直接飛べないトコだと結局手間取るし」
「うーん?
それは流石に、移動スペル使えばウラヌスの方が早い気もしますけど」
「スタミナが保てば、ね。
移動スペルを併用しても、トータルではかなりの距離だったよ。
今の俺じゃ、何時間も全力疾走できない。オーラか身体か、どっちかが音を上げる」
私は表情を少し曇らせ、
「……。
やっぱりコンディション良くなさそうですね。それもかけられた念の作用ですか?」
私の指摘に、「ふぅ」という息で応えるウラヌス。
「うん……それもあるね。昨日の疲れもあるけど。
オーラが減ってきて、前に出来たことがどんどん出来なくなっていくのはツラいよ。
……正直言うと、頭が回らなくなってきたのが一番キツい。考えてるとすぐ疲れるし、記憶力も低下してる」
正直、『え?』と言いたい。身体能力はともかく、頭の回転とか記憶力は常人どころか並みの念能力者の比じゃないと思うけど。いや、私もそのへん詳しくないけど……
ウラヌスは空を見上げ、
「アイシャどころか、メレオロンにも直接の力比べじゃ負けるしな……
このまま弱れば、じきにシームにも負けると思うよ」
「そんな寂しいこと言わないでよ。
治すんでしょ?」
見ると、シームはウラヌスの方に目を向けていた。花を見ている時のように、彼の髪の毛を眺めている。
ウラヌスはしばらく何か考えた後、柔らかく笑ってみせた。
「もちろんさ。
その為に今ここへ来てるんだしな」
「そうそう。
桜のお姫様は、笑顔が似合うって」
「……シーム。
オマエ、まだそのネタ引っ張んの?」
苦笑を浮かべながら、「よっ」と立ち上がるウラヌス。髪を手櫛で整えながら、
「じゃ、みんな。
攻略もひと段落ついたし、そろそろ次の都市に行こっか」