どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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オータニア編 2000/9/16 ~ 9/17
第四十七章


 

「──『同行/アカンパニー』オン! オータニア!」

 

 ウラヌスがスペルを使用し、浮遊感とともにまた空を飛ぶ。

 

 ああ、うん……慣れるとホント快適だ。スペルで気楽に移動できるのっていいなぁ。

 

 

 

 着地する。

 

 暖かかった空気が、ほんのり冷気を伴った。気温はさほど変わらないはずだけど、少し涼しく感じる。

 耕された土の匂いと、ほどよく茂る草木の芳香。

 目に映る都市の街並みは、エリルに近いかもしれない。高い建物は少なく、紅葉と畑が広がっていた。

 悪く言えば田舎だろう。良く言えば、とてものどかだ。エリルとはまた違ったのんびりした空気が漂っている。

 

 ここが……千秋都市オータニアか。

 

「いい場所ね」

 

 ポツリと言うメレオロン。きょろきょろするシーム。すっかり観光気分のようだ。

 

「さっきまでいた、エリルみたいなところだね」

「うん……春と秋だから表裏の印象だしな」

 

 シームとウラヌスのやりとりに、私は1人頷く。ここもジャポンに近い雰囲気の場所だ。ジャポンの田舎町と言われれば納得してしまいそうになる。

 

 エリルを訪れた時ほどの感動はないけど、私にとっては居心地が良さそうな土地だ。

 

 ウラヌスが腰に手を当て、私達を改めて見やる。

 

「さて、方針を決めないとな」

 

 メレオロンがちょっと不思議そうに首を傾げ、

 

「あれ? アンタ、考えてたんじゃないの?」

 

 それに苦笑で返すウラヌス。

 

「プランはあるよ。

 ただ、どの順番でやろうか決めかねてて。

 お茶飲みながら考えてはいたんだけど、エリルだとどうもな。俺、あの都市は息抜きの場所って感じでさ。考えがまとまらないんだよ」

 

 それは分からなくもない。あのポカポカ陽気で桜を眺めてると、大抵のことはどうでもよくなってくる。

 

「で、オータニアですることなんだけど。

 基本的には、観光とカード集めと修行だな。

 修行に関しちゃ最後にしたい。修行でくたくたに疲れてから、観光やカード集めなんてしたくないだろ?」

 

 メレオロンとシームがうんうんうんと頷く。私は分かりやすく肩をすくめておく。ま、それは私も嫌だもんな。

 

「うん。それじゃ修行は、昼ゴハンの後からってことで。桜茶屋である程度食べたから、すぐには要らないだろうし。

 それまでは、観光とカード集めを一緒にしよう。エリルではバラけて動いたりしたけど、ここは基本的に4人で行動する。

 後いちおう周囲警戒はしてるけど、2人がいま外してるフードは合図したらすぐ被れるようにしてくれ。それまでは外してていいから」

『はーい』

 

 そういえばメレオロンとシーム、全然顔隠さないままだな。私もより警戒しておこう。エリルは気が抜けすぎるのが問題だな。息抜きする分には最高だけどね。また行きたいな。

 

 

 

 でも、まぁ。

 

 少し歩いただけでも分かるけど、ここも充分のどかだ。青い葉も見かけるけど、黄色や赤色に染まった木々がやはり目につく。建物の数自体がエリルよりも少なく、木造建築の質素な造りが多い。……やっぱり木で造った建物はいい。眺めてると落ち着くんだよな。

 

 大小見かける田畑にも、色んな作物が実っている。そばを通りかかった果樹から下がる果物の薫りが、軽く鼻をくすぐる。……取っちゃダメ? ダメだろーなぁ、きっと。

 

「こういうのって、ゲームのアイテムなの?」

 

 シームが畑の作物を指差しながら、ウラヌスに尋ねる。そういえばシーム、ウラヌスにすっかり敬語使わなくなったな。お互い、何かあったんだろうか。……その、銭湯で。

 

 ウラヌスは少し考えた後、

 

「アイテムではあるよ。

 ただし、採っても問題ないという意味ではない」

 

 ああ、やっぱりそうだったか……

 

「すると、取ったら泥棒扱いされるんですかね?」

 

 私が尋ねると、首肯するウラヌス。

 

「厳密には泥棒イベントが発生する、かな。

 町で無理やりアイテムを取ると、ゲームキャラから泥棒扱いされる。実際そうだしな。

 で、その後のプレイヤーの行動で、状況が変わってくる。

 逃げ切る。逃げようとして捕まる。謝って、物を返す。謝って、物を割高で買い取る。

 ちなみに逃げ切っても、同じ場所に戻ってくると即座に泥棒扱いされる。

 ワリには合わないな」

 

 細かいな。……そういえば私がうっかり無銭飲食した時も、警察呼ばれそうだったしな。ここだと、捕まったら畑仕事をやらされるとかありそうだ。

 

「欲しいなら、店でも同じモノを売ってるからそっちを買えばいいだけだよ。

 ……直接交渉して買えたりもするけどね。別に安くもならないけど」

 

 ふむ。でもなぁ……こうやって実ってるのを、直接欲しいって気持ちもあるんだよね。イヤまあ、泥棒なんだけどさ。

 

「……つっても、盗まないと取れないアイテムもあるけどね」

 

 そう零すウラヌスの方を見る。別に説明する気もないらしく、彼は紅葉に目を向けてる。なんだろ。

 

「それは分かったけど、何か良さげなカード取れるイベントはないの?」

 

 尋ねるメレオロン。ウラヌスは半眼でそちらを見返し、

 

「……もうちょっと、風情を楽しんでからでもいいと思うけどな。

 実のトコ、向かってはいるんだけどね。のんびり歩いてるだけで」

 

 周囲の景色は、基本的に田畑と木造の家。お店らしい場所もあるけど、雑貨屋とか服屋とか民宿みたいなところが目立つ。その他、食べ物屋も多い。

 

 ウラヌスの歩く先を見やると、道の向こうはやや開けた場所になっているようだ。

 

「んー……先客がいるな。

 仕方ない、情報収集だけしとくか。

 メレオロン、シーム。悪いけどフード被って。この先にプレイヤーがいる」

 

 

 

 辿り着いたのは、広場のような場所だった。掛け声が飛び交い、多くのゲームキャラが集まっている。その中心でスポーツをしてるみたいだ。

 

 見た感じ……野球かな。本格的なモノじゃないようだけど。

 

 ゲームキャラが野球してる中に、プレイヤーらしき人が混ざっている。どうにも表情が暗い。木で出来たスコアボードを見ると大差がついていた。4回表で9-1。……逆転は無理だな。

 

「うん……多分、前と入手方法は同じだな。

 見ての通り、ここでやってるのは草野球イベント。

 ライバル設定の野球チーム同士が戦ってるんだけど、かなり実力差があって、弱い方のチームに助っ人(すけ  と )を頼まれるんだ。

 弱いチームを勝たせることに成功すると、『超一流スポーツ選手の卵』が手に入る」

 

 ああ、このイベントがそうなのか。誰かが話してたけど、地味に難しいイベントらしい。

 

「野球ねぇ……

 これって、プレイヤーは何人でも参加できるの?」

 

 メレオロンが尋ねると、ウラヌスはちょっと難しい顔をし、

 

「できるけど、何人で参加しても入手カードは1枚。仲間以外と組む意味はないかな。

 ちなみに、プレイヤーのポジションはどこでもいいんだけど……

 最低でもプレイヤーが投手をやらないと、ゲームキャラじゃバカスカ打たれまくって、勝ち目がない。でも投手1人で勝つのも難しい。捕手もヘボいからあんまり強い投球だと捕球ミスしまくるしな。だから最低でも2人でやんないとキツイ」

 

 うーん。私とウラヌスが参加すれば、勝てるだろうけど。……確実ではないか。

 

「ちなみに野球やったことある?」

「あるよー」

「アタシはないかな。

 シームがやってるのを見たことあるけど、ルールもうろ覚えだし」

「私は……

 なくもないですけど、細かいルールを覚えてるか自信がないです」

 

 なんせ最後に野球をした記憶が古すぎる。この草野球独自のルールがあっても困るし。

 

「そっか。

 なら、無理して取らなくてもいいかな。負けてもツマんないし。

 経験者がする分にはいいけど、ルール覚えてまでやるほど魅力的じゃない」

「ランクBでしたっけ?」

「うん、卵系はランクB。だから買える。

 ……そうそう、この弱小チームに野球用品を買い与えたりもできる。そうするとほんのちょっと強くなる。プレイヤーが監督ポジになって、細かく指示与えたりもできるから、野球が好きな人向けのイベントだね」

 

 何となく距離を置いた言い方が気になったので、いちおう聞いてみる。

 

「ちなみにウラヌスは、野球に詳しいんですか?」

「……。

 TVゲームでちょっと遊ぶくらいだよ。ルールは分かってるつもりだけど、自信はないかな。

 そもそもスポーツ全般あまり好きじゃないんだ」

 

 ゲーマーだもんね、ウラヌスは。男性向けのスポーツを好む感じはしないな。

 

 彼が気のない表情で歩き出したので、私達も広場の人だかりを迂回して後を付いていく。……あ、12-1になった。参加した人、メッチャしょげてる。

 

 

 

 街を進んでいくと、右手に大きな畑が現れた。一面に金色の穂が実り、風でさわさわと揺れている。昼の陽光に照り返され、黄金に輝いてすら見える。

 

「へぇー。

 ……これは見事なもんね」

 

 感嘆の声を上げるメレオロン。声もなく、歩きながらも目を離さないシーム。NGLに住んでいた彼らにとって、何か思うところがあるのかもしれない。

 

「小麦畑ですね。とてもいい景色です」

「うん……ちなみにね。

 感動してるトコ悪いんだけど、これが悪夢の光景に変わるイベントがある」

『えっ』

 

 なんだそれ。

 

「この畑の地主に話しかけると、イナゴが時々大量発生して困ってるって言ってくるんだ。

 で、退治を引き受けると、ホントにこの畑一面イナゴが大量発生する」

 

 うわ、見たくないな。でも、それって……

 

「もしかして『真珠蝗』ですか?」

「アタリ。

 大量発生したイナゴの1000匹に1匹ぐらいの割合で『真珠蝗』が混じってる。

 ……余談だけど、現実のイナゴって大量発生したりしないんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。

 大量発生して農作物に被害を与えるのは、バッタ。似たようなもんだけどさ。

 で、どうする? 引っかけてく?」

 

 ……。んー。

 

 メレオロンは嫌そうな顔をしつつ、

 

「退治って、具体的にどうすんのよ?」

「ああ、退治自体はイナゴを片っ端から叩くなりなんなり、ダメージを与えればカード化するよ。

 ……ただ数が多い。倒しても後から際限なく湧いてくるんだけど、最終的に5000匹倒すまで終わらない」

「うぁ……」

 

 思わず声が洩れる。やだな、そんなに相手するの。

 

 でもなぁ。そろそろ運動したいんだよね。どうしよっかな。

 

「……別に危なくないなら、やってもいいけどさ。

 大丈夫なの?」

 

 尋ねるシーム。どうだろな。指定ポケットカードだから、危険はありそうだけど。

 ウラヌスは少し考え、

 

「攻撃力は低いし、オーラできっちりガードし続ければ無傷で済むよ。

 ただ、シームだと最後まで保たないな。

 メレオロンは大丈夫だろうけど……もしかしたら、今着てるツナギがダメになるかも。そういや、まだ着替え買ってなかったな。忘れてた」

「別に、ツナギに拘らなくても、顔と手足さえ隠せれば充分だけどね。

 ああでも……

 アタシはシッポを隠さないといけないから、ゆったりした服じゃないとダメだけど」

「そうだな。

 じゃあ参加できそうなのは、俺とアイシャくらいか。

 アイシャはどうする?」

「えっと……

 参加するのは構わないんですけども」

「もちろん『周』はするよ。その前提の話」

「それならやります。

 基本は、イナゴ退治より『真珠蝗』が見つかるかどうかの勝負なんですよね?」

「もちろん、メインはそっち。

 オーラが見えれば発見しやすいけど、出現後すぐ逃げ出すから、きっちり捕獲できるかどうかがカギかな。あ、ちなみに『真珠蝗』は退治しちゃダメ。優しく摘まむこと」

「あ、はい……」

 

 めんどくさいな。まぁ指定ポケットカードだし、それくらいの難度は当然か。

 

「んじゃま、2人でイベント始めるか。

 その前に念の為……ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを出し、カードを1枚手にする。

 

「──『名簿/リスト』オン。52」

 

 あ、そりゃそっか。確かに事前確認は大事だ。

 

 

 

 現在 52「真珠蝗」を

 所有しているプレイヤーは

 8人

 所有枚数は

 17枚

 

 

 

「うん。結構取られてるけど、カード化上限30に引っかかる心配はないね。

 アイシャ、いちおうの確認だけど。『真珠蝗』を1匹取ったら終わりにするか、イナゴを5000匹倒し切るまで続けるか。どっちがいい?」

「んー。あまり時間がかかるようなら途中で切り上げるとして、最初は5000匹退治を目指してもいいんじゃないですかね?」

 

 もしすぐに『真珠蝗』が出て終わったりしたら、運動にならないしな。

 

「そうくると思ったよ。

 おっけ。さっそく地主と話に行こうか」

 

 

 

「うへぇ」

 

 地主の家で依頼を受け、外に出てから再び畑を見て。メレオロンが一言呻いた。

 

 あっちこっち、ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねてるのが見える。……この小麦畑、本当にいい景色だったんだけど、これが初見なら印象変わってたな。

 

「すごいねー……

 このイナゴって、畑の外とか出たりしないの?」

 

 シームが目ざとく気づく。確かにこれだけいたら畑から飛び出てきそうだけど、外には1匹も見当たらないな。

 

「それは大丈夫だよ。

 基本的に畑の中しか飛び回らない。だから畑の外へ追い詰めるようにすると、ちょい楽。

 とは言え、『真珠蝗』を発見したいなら中央付近に陣取った方がいいけど」

 

 ウラヌスが私の方を見て、

 

「アイシャ。『周』するから後ろ向いて」

「はい」

 

 背を向けてしばらく待つ。やがて私の身体を、彼のオーラが包む。

 

 これこれ。本当に助かるんだよな。元のオーラに比べれば全然微弱だけど、強制『絶』状態とは比較にもならない。

 軽く身体を動かして、全身にオーラを馴染ませる。今から動きっぱなしになるからな。気合い入れていこう。

 

 ウラヌスも軽く準備運動している。どうにもアンバランスなんだけどね。ワンピースの見た目で運動してる姿って。お姫様が無茶してるっていうか。

 

 メレオロンとシームは……ぼんやり見てるな。まったく。

 

「2人とも。

 今から私達は畑に入るんですから、他プレイヤーの襲撃を警戒してください。

 それとフードは被っておいてください。ウラヌスもそれどころじゃないでしょうから」

「あ、うん。分かったわ」

「りょーかい」

 

 リュックを背負って貰ってるから、実際襲撃を受けたらかなりキツイだろう。そうそうないとは思うけど、警戒ぐらいしてもらわないとな。……襲撃されたら、私とウラヌスがすぐ助けに行くけどね。

 

「じゃあ、始めるよ」

「ええ」

 

 私達はイナゴの飛び交う、黄金の穂の海へと踏み入った。

 

 畑の土壌へ踏み込むと、即座にこちらへイナゴが飛びかかってくる。最小限の動作で、指先をかすめるように弾く。カード化するイナゴ。

 見るとウラヌスも、同様に一撃してカード化させている。

 

 

 

『745:蝗』

 ランクH カード化限度枚数∞

 大繁殖したイナゴ 農作物を食害する

 微量ながらオーラを纏うため 多少攻撃力がある

 

 

 

「アイシャ。

 今は『真珠蝗』がいないから、遠慮なく攻撃していこう。

 カードは売れないから捨てていい」

「ええ、分かりました」

 

 言いながら1匹弾くウラヌスに、私も手刀と踏みつけで3匹片付けながら返答する。

 

 そこそこ広い畑だけど、当然小麦が大量に生い茂っているので、動ける範囲はそこまで大きくない。おそらく、この小麦に触れない方がいいんだろうし。

 

 ウラヌスと少し距離をとり、畑の中央付近を練り歩く。目に付いたイナゴ、飛び込んできたイナゴを、文字通り片っ端から攻撃していく。

 

 素早さは大したことないけど、なんせサイズが小さい。雑な攻撃が当たるはずもなく、精度はもちろん、最短距離で当てないといけない。

 

 体慣らしを兼ねながら、黙々とイナゴを削り続ける。意識が研ぎ澄まされていく感覚が心地いい。修行としては悪くないな。

 

 ──徐々に、目に映るイナゴの数が増えてきてる。気のせいかと思ったけど、倒した数以上に増えてるな。

 

「ウラヌス、イナゴが増えてませんかっ!?」

「増えてるよ!

 撃破数が増えるほど、一度にポップする数も増えていく! 頭打ちになった辺りから、『真珠蝗』が出てくるはず!」

 

 やっぱりそうか。1時間の『周』を意識するなら、のんびりしてちゃダメだな。

 

 慣れてきたので動作を早回しする。歩き回りながら、叩き、突き、踏み、弾き、掻き、薙ぎ、捌き、蹴る。ホント、害虫駆除だ。

 

 

 

 ────開始からおそらく10分ほど経過した。

 

 視界に十数匹程度だったイナゴは、いまや数十匹の数にふくらんでいる。目にも耳にも神経に触るが、構っていられない。当たるに任せ、手足を動かし続ける。

 

 倒すのは簡単だが、問題はカード化した時。白い煙が発生するからヘタな位置で叩くと視界を遮る。特に顔の近くでは影響が大きい。

 それを計算に入れつつ、跳び回るイナゴの動きを先読みして効率よく数を削っていく。

 

 ウラヌスの動きが変わった。イナゴに構わず、一直線にどこかへと向かう。足を止め、ゆるりと手を伸ばす動作。

 イナゴから意識を切らず見てると、彼がバインダーを出してる。どうやら『真珠蝗』を入手したらしい。バインダーを消し、再びイナゴを倒し始めた。

 

 つまり現状で一度に出現するイナゴの数は上限に達したわけか。おそらく『真珠蝗』もまた出てくるんだろう。

 

 ──もう少し早回しできそうだな。急ごう。

 

 

 

 

 

「うわぁー……」

 

 呻くメレオロン。畑で暴れ回る2人と、とんでもない数のイナゴを目の当たりにして、他の言葉も無い。

 揺れる小麦とイナゴの大群に姿を霞ませる2人を、シームは目を細めて注視し、

 

「……2人ともすごいね。

 ずーっと動きっぱなしなんだけど」

 

 ウラヌスは足を止めず、歩きながら腕を振るい続ける。ほぼ目の端に捕らえたイナゴも弾き、身体どころか衣服に一匹たりとも触れさせない。全て迎撃してみせている。

 

 アイシャの動きは攻撃と移動を兼ねていた。蹴りや踏み付けの動作で移動し、間合いのイナゴを腕一振りごとに数匹単位で片付けている。速さも相まって、撃破数は彼女の方が上だろう。

 

「あ」

 

 メレオロンが気づく。畑の外に近い位置、腹に幾つも白真珠を抱えたイナゴが出現した。同時、ウラヌスが急速にこちらへ来る。

 ふっと手を伸ばし、そのイナゴを優しい手付きで摘まむ。ボン! と煙になった。そのカードをひょいと投げる。

 

「っと」

 

 シームが慌ててキャッチ。

 

「多分、あと15分かからない」

 

 そう2人に言葉を残し、ウラヌスは畑の中央へイナゴを撃破しつつ戻っていく。

 

 

 

『52:真珠蝗』

 ランクB カード化限度枚数30

 腹に真珠を持つ蝗

 十数年に1度 大発生する

 

 

 

 シームの手にするカードを覗き込みながら、

 

「なんとまぁ、ホントあっさり取ってみせるわねー……

 あの2人だけで、このゲーム楽勝でクリアできんじゃない?」

 

 軽口を叩くメレオロンに、シームは怪訝そうな目を向け、

 

「ブック。

 ……おねーちゃん、ウラヌスけっこう汗かいてたよ。楽勝とか気安く言わないで」

 

 カードを収めながらシビアなことを言う弟に、ぶすっとする姉。

 

「なによ。

 ……ずいぶんアイツのこと心配してるじゃない」

 

「それもあるけど……

 ぼくら、あの2人の修行受けるんだよ。ちゃんと動き見てなきゃ」

 

「あ、はい……」

 

 シームは内心嘆息する。すでに度々アイシャから指導されて、精神集中しないとロクについていけないことを実感していた。本格的な修行はこれから。心構えをしておかないと耐えられそうに無い。

 

 

 

 

 

 ────おそらく畑に入ってから20分以上経った頃。

 

 徐々にイナゴの数が減り出した。いや、急激に減っている。

 

「ウラヌス!」

「ああ! もうポップしない!

 今いるヤツを片付けたらオシマイ!」

 

 なら継戦を考慮する必要はない。溜めた力で更に加速する。数が減ったということは、一度に倒しづらくなるということ。数を倒すのではなく、見逃さずに倒し切ることを意識する。

 

 ウラヌスは移動速度を上げた。広範囲にわたってカバーする気だろう。オーラの見えるウラヌスに任せるべきと判断し、私は視界のイナゴを1匹ずつ狩り続ける。

 

 やがて畑全体を歩き回ったウラヌスが、ゆるりと中央付近に戻ってくる。私の目に映る残りは、黄金の穂に止まり、やや手が届きづらい位置にいる数匹だけ。

 

「アイシャ、その4匹で終わりだよ。

 倒せる?」

「……ええ」

 

 足場をぎゅっと固め。蹴りを放つ。

 

 ────軌道を曲げ、4匹全てを捉えた。穂が揺れ、4つ煙が上がる。

 

「器用なことするなー……

 お疲れさん。アイシャが文句なしのMVPだね」

 

「お疲れ様です。

 ……MVPって言われても、参加したのは2人だけですし」

 

 そう返すと、ウラヌスは苦笑してみせる。

 

「みんなでやっても、アイシャが最優秀だったよ。

 まさかこんなに早く片付くとは思わなかった。完全クリアしようとしたら、数人がかりでも1時間以上かかるイベントだよ?」

 

「……まあ、私は『真珠蝗』を探していませんでしたからね」

 

 すっかり忘れてたとも言う。

 

 そんな話をしながら、畑の外で待つ2人の元へと向かった。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・イナゴ退治イベントリザルト



 アイシャ:イナゴ撃破スコア3759 真珠蝗捕獲スコア0

 ウラヌス:イナゴ撃破スコア1241 真珠蝗捕獲スコア3

 イナゴ撃破スコア:5000匹×20ジェニー=100000ジェニー

 イナゴ殲滅ボーナス:+100000ジェニー

 補足:真珠蝗のトレードショップ売却額は1枚80000ジェニー

 イベントクリアタイム:23分18秒





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