第四十七章
「──『同行/アカンパニー』オン! オータニア!」
ウラヌスがスペルを使用し、浮遊感とともにまた空を飛ぶ。
ああ、うん……慣れるとホント快適だ。スペルで気楽に移動できるのっていいなぁ。
着地する。
暖かかった空気が、ほんのり冷気を伴った。気温はさほど変わらないはずだけど、少し涼しく感じる。
耕された土の匂いと、ほどよく茂る草木の芳香。
目に映る都市の街並みは、エリルに近いかもしれない。高い建物は少なく、紅葉と畑が広がっていた。
悪く言えば田舎だろう。良く言えば、とてものどかだ。エリルとはまた違ったのんびりした空気が漂っている。
ここが……千秋都市オータニアか。
「いい場所ね」
ポツリと言うメレオロン。きょろきょろするシーム。すっかり観光気分のようだ。
「さっきまでいた、エリルみたいなところだね」
「うん……春と秋だから表裏の印象だしな」
シームとウラヌスのやりとりに、私は1人頷く。ここもジャポンに近い雰囲気の場所だ。ジャポンの田舎町と言われれば納得してしまいそうになる。
エリルを訪れた時ほどの感動はないけど、私にとっては居心地が良さそうな土地だ。
ウラヌスが腰に手を当て、私達を改めて見やる。
「さて、方針を決めないとな」
メレオロンがちょっと不思議そうに首を傾げ、
「あれ? アンタ、考えてたんじゃないの?」
それに苦笑で返すウラヌス。
「プランはあるよ。
ただ、どの順番でやろうか決めかねてて。
お茶飲みながら考えてはいたんだけど、エリルだとどうもな。俺、あの都市は息抜きの場所って感じでさ。考えがまとまらないんだよ」
それは分からなくもない。あのポカポカ陽気で桜を眺めてると、大抵のことはどうでもよくなってくる。
「で、オータニアですることなんだけど。
基本的には、観光とカード集めと修行だな。
修行に関しちゃ最後にしたい。修行でくたくたに疲れてから、観光やカード集めなんてしたくないだろ?」
メレオロンとシームがうんうんうんと頷く。私は分かりやすく肩をすくめておく。ま、それは私も嫌だもんな。
「うん。それじゃ修行は、昼ゴハンの後からってことで。桜茶屋である程度食べたから、すぐには要らないだろうし。
それまでは、観光とカード集めを一緒にしよう。エリルではバラけて動いたりしたけど、ここは基本的に4人で行動する。
後いちおう周囲警戒はしてるけど、2人がいま外してるフードは合図したらすぐ被れるようにしてくれ。それまでは外してていいから」
『はーい』
そういえばメレオロンとシーム、全然顔隠さないままだな。私もより警戒しておこう。エリルは気が抜けすぎるのが問題だな。息抜きする分には最高だけどね。また行きたいな。
でも、まぁ。
少し歩いただけでも分かるけど、ここも充分のどかだ。青い葉も見かけるけど、黄色や赤色に染まった木々がやはり目につく。建物の数自体がエリルよりも少なく、木造建築の質素な造りが多い。……やっぱり木で造った建物はいい。眺めてると落ち着くんだよな。
大小見かける田畑にも、色んな作物が実っている。そばを通りかかった果樹から下がる果物の薫りが、軽く鼻をくすぐる。……取っちゃダメ? ダメだろーなぁ、きっと。
「こういうのって、ゲームのアイテムなの?」
シームが畑の作物を指差しながら、ウラヌスに尋ねる。そういえばシーム、ウラヌスにすっかり敬語使わなくなったな。お互い、何かあったんだろうか。……その、銭湯で。
ウラヌスは少し考えた後、
「アイテムではあるよ。
ただし、採っても問題ないという意味ではない」
ああ、やっぱりそうだったか……
「すると、取ったら泥棒扱いされるんですかね?」
私が尋ねると、首肯するウラヌス。
「厳密には泥棒イベントが発生する、かな。
町で無理やりアイテムを取ると、ゲームキャラから泥棒扱いされる。実際そうだしな。
で、その後のプレイヤーの行動で、状況が変わってくる。
逃げ切る。逃げようとして捕まる。謝って、物を返す。謝って、物を割高で買い取る。
ちなみに逃げ切っても、同じ場所に戻ってくると即座に泥棒扱いされる。
ワリには合わないな」
細かいな。……そういえば私がうっかり無銭飲食した時も、警察呼ばれそうだったしな。ここだと、捕まったら畑仕事をやらされるとかありそうだ。
「欲しいなら、店でも同じモノを売ってるからそっちを買えばいいだけだよ。
……直接交渉して買えたりもするけどね。別に安くもならないけど」
ふむ。でもなぁ……こうやって実ってるのを、直接欲しいって気持ちもあるんだよね。イヤまあ、泥棒なんだけどさ。
「……つっても、盗まないと取れないアイテムもあるけどね」
そう零すウラヌスの方を見る。別に説明する気もないらしく、彼は紅葉に目を向けてる。なんだろ。
「それは分かったけど、何か良さげなカード取れるイベントはないの?」
尋ねるメレオロン。ウラヌスは半眼でそちらを見返し、
「……もうちょっと、風情を楽しんでからでもいいと思うけどな。
実のトコ、向かってはいるんだけどね。のんびり歩いてるだけで」
周囲の景色は、基本的に田畑と木造の家。お店らしい場所もあるけど、雑貨屋とか服屋とか民宿みたいなところが目立つ。その他、食べ物屋も多い。
ウラヌスの歩く先を見やると、道の向こうはやや開けた場所になっているようだ。
「んー……先客がいるな。
仕方ない、情報収集だけしとくか。
メレオロン、シーム。悪いけどフード被って。この先にプレイヤーがいる」
辿り着いたのは、広場のような場所だった。掛け声が飛び交い、多くのゲームキャラが集まっている。その中心でスポーツをしてるみたいだ。
見た感じ……野球かな。本格的なモノじゃないようだけど。
ゲームキャラが野球してる中に、プレイヤーらしき人が混ざっている。どうにも表情が暗い。木で出来たスコアボードを見ると大差がついていた。4回表で9-1。……逆転は無理だな。
「うん……多分、前と入手方法は同じだな。
見ての通り、ここでやってるのは草野球イベント。
ライバル設定の野球チーム同士が戦ってるんだけど、かなり実力差があって、弱い方のチームに
弱いチームを勝たせることに成功すると、『超一流スポーツ選手の卵』が手に入る」
ああ、このイベントがそうなのか。誰かが話してたけど、地味に難しいイベントらしい。
「野球ねぇ……
これって、プレイヤーは何人でも参加できるの?」
メレオロンが尋ねると、ウラヌスはちょっと難しい顔をし、
「できるけど、何人で参加しても入手カードは1枚。仲間以外と組む意味はないかな。
ちなみに、プレイヤーのポジションはどこでもいいんだけど……
最低でもプレイヤーが投手をやらないと、ゲームキャラじゃバカスカ打たれまくって、勝ち目がない。でも投手1人で勝つのも難しい。捕手もヘボいからあんまり強い投球だと捕球ミスしまくるしな。だから最低でも2人でやんないとキツイ」
うーん。私とウラヌスが参加すれば、勝てるだろうけど。……確実ではないか。
「ちなみに野球やったことある?」
「あるよー」
「アタシはないかな。
シームがやってるのを見たことあるけど、ルールもうろ覚えだし」
「私は……
なくもないですけど、細かいルールを覚えてるか自信がないです」
なんせ最後に野球をした記憶が古すぎる。この草野球独自のルールがあっても困るし。
「そっか。
なら、無理して取らなくてもいいかな。負けてもツマんないし。
経験者がする分にはいいけど、ルール覚えてまでやるほど魅力的じゃない」
「ランクBでしたっけ?」
「うん、卵系はランクB。だから買える。
……そうそう、この弱小チームに野球用品を買い与えたりもできる。そうするとほんのちょっと強くなる。プレイヤーが監督ポジになって、細かく指示与えたりもできるから、野球が好きな人向けのイベントだね」
何となく距離を置いた言い方が気になったので、いちおう聞いてみる。
「ちなみにウラヌスは、野球に詳しいんですか?」
「……。
TVゲームでちょっと遊ぶくらいだよ。ルールは分かってるつもりだけど、自信はないかな。
そもそもスポーツ全般あまり好きじゃないんだ」
ゲーマーだもんね、ウラヌスは。男性向けのスポーツを好む感じはしないな。
彼が気のない表情で歩き出したので、私達も広場の人だかりを迂回して後を付いていく。……あ、12-1になった。参加した人、メッチャしょげてる。
街を進んでいくと、右手に大きな畑が現れた。一面に金色の穂が実り、風でさわさわと揺れている。昼の陽光に照り返され、黄金に輝いてすら見える。
「へぇー。
……これは見事なもんね」
感嘆の声を上げるメレオロン。声もなく、歩きながらも目を離さないシーム。NGLに住んでいた彼らにとって、何か思うところがあるのかもしれない。
「小麦畑ですね。とてもいい景色です」
「うん……ちなみにね。
感動してるトコ悪いんだけど、これが悪夢の光景に変わるイベントがある」
『えっ』
なんだそれ。
「この畑の地主に話しかけると、イナゴが時々大量発生して困ってるって言ってくるんだ。
で、退治を引き受けると、ホントにこの畑一面イナゴが大量発生する」
うわ、見たくないな。でも、それって……
「もしかして『真珠蝗』ですか?」
「アタリ。
大量発生したイナゴの1000匹に1匹ぐらいの割合で『真珠蝗』が混じってる。
……余談だけど、現実のイナゴって大量発生したりしないんだよね」
「そうなんですか?」
「うん。
大量発生して農作物に被害を与えるのは、バッタ。似たようなもんだけどさ。
で、どうする? 引っかけてく?」
……。んー。
メレオロンは嫌そうな顔をしつつ、
「退治って、具体的にどうすんのよ?」
「ああ、退治自体はイナゴを片っ端から叩くなりなんなり、ダメージを与えればカード化するよ。
……ただ数が多い。倒しても後から際限なく湧いてくるんだけど、最終的に5000匹倒すまで終わらない」
「うぁ……」
思わず声が洩れる。やだな、そんなに相手するの。
でもなぁ。そろそろ運動したいんだよね。どうしよっかな。
「……別に危なくないなら、やってもいいけどさ。
大丈夫なの?」
尋ねるシーム。どうだろな。指定ポケットカードだから、危険はありそうだけど。
ウラヌスは少し考え、
「攻撃力は低いし、オーラできっちりガードし続ければ無傷で済むよ。
ただ、シームだと最後まで保たないな。
メレオロンは大丈夫だろうけど……もしかしたら、今着てるツナギがダメになるかも。そういや、まだ着替え買ってなかったな。忘れてた」
「別に、ツナギに拘らなくても、顔と手足さえ隠せれば充分だけどね。
ああでも……
アタシはシッポを隠さないといけないから、ゆったりした服じゃないとダメだけど」
「そうだな。
じゃあ参加できそうなのは、俺とアイシャくらいか。
アイシャはどうする?」
「えっと……
参加するのは構わないんですけども」
「もちろん『周』はするよ。その前提の話」
「それならやります。
基本は、イナゴ退治より『真珠蝗』が見つかるかどうかの勝負なんですよね?」
「もちろん、メインはそっち。
オーラが見えれば発見しやすいけど、出現後すぐ逃げ出すから、きっちり捕獲できるかどうかがカギかな。あ、ちなみに『真珠蝗』は退治しちゃダメ。優しく摘まむこと」
「あ、はい……」
めんどくさいな。まぁ指定ポケットカードだし、それくらいの難度は当然か。
「んじゃま、2人でイベント始めるか。
その前に念の為……ブック」
ウラヌスがバインダーを出し、カードを1枚手にする。
「──『名簿/リスト』オン。52」
あ、そりゃそっか。確かに事前確認は大事だ。
現在 52「真珠蝗」を
所有しているプレイヤーは
8人
所有枚数は
17枚
「うん。結構取られてるけど、カード化上限30に引っかかる心配はないね。
アイシャ、いちおうの確認だけど。『真珠蝗』を1匹取ったら終わりにするか、イナゴを5000匹倒し切るまで続けるか。どっちがいい?」
「んー。あまり時間がかかるようなら途中で切り上げるとして、最初は5000匹退治を目指してもいいんじゃないですかね?」
もしすぐに『真珠蝗』が出て終わったりしたら、運動にならないしな。
「そうくると思ったよ。
おっけ。さっそく地主と話に行こうか」
「うへぇ」
地主の家で依頼を受け、外に出てから再び畑を見て。メレオロンが一言呻いた。
あっちこっち、ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねてるのが見える。……この小麦畑、本当にいい景色だったんだけど、これが初見なら印象変わってたな。
「すごいねー……
このイナゴって、畑の外とか出たりしないの?」
シームが目ざとく気づく。確かにこれだけいたら畑から飛び出てきそうだけど、外には1匹も見当たらないな。
「それは大丈夫だよ。
基本的に畑の中しか飛び回らない。だから畑の外へ追い詰めるようにすると、ちょい楽。
とは言え、『真珠蝗』を発見したいなら中央付近に陣取った方がいいけど」
ウラヌスが私の方を見て、
「アイシャ。『周』するから後ろ向いて」
「はい」
背を向けてしばらく待つ。やがて私の身体を、彼のオーラが包む。
これこれ。本当に助かるんだよな。元のオーラに比べれば全然微弱だけど、強制『絶』状態とは比較にもならない。
軽く身体を動かして、全身にオーラを馴染ませる。今から動きっぱなしになるからな。気合い入れていこう。
ウラヌスも軽く準備運動している。どうにもアンバランスなんだけどね。ワンピースの見た目で運動してる姿って。お姫様が無茶してるっていうか。
メレオロンとシームは……ぼんやり見てるな。まったく。
「2人とも。
今から私達は畑に入るんですから、他プレイヤーの襲撃を警戒してください。
それとフードは被っておいてください。ウラヌスもそれどころじゃないでしょうから」
「あ、うん。分かったわ」
「りょーかい」
リュックを背負って貰ってるから、実際襲撃を受けたらかなりキツイだろう。そうそうないとは思うけど、警戒ぐらいしてもらわないとな。……襲撃されたら、私とウラヌスがすぐ助けに行くけどね。
「じゃあ、始めるよ」
「ええ」
私達はイナゴの飛び交う、黄金の穂の海へと踏み入った。
畑の土壌へ踏み込むと、即座にこちらへイナゴが飛びかかってくる。最小限の動作で、指先をかすめるように弾く。カード化するイナゴ。
見るとウラヌスも、同様に一撃してカード化させている。
『745:蝗』
ランクH カード化限度枚数∞
大繁殖したイナゴ 農作物を食害する
微量ながらオーラを纏うため 多少攻撃力がある
「アイシャ。
今は『真珠蝗』がいないから、遠慮なく攻撃していこう。
カードは売れないから捨てていい」
「ええ、分かりました」
言いながら1匹弾くウラヌスに、私も手刀と踏みつけで3匹片付けながら返答する。
そこそこ広い畑だけど、当然小麦が大量に生い茂っているので、動ける範囲はそこまで大きくない。おそらく、この小麦に触れない方がいいんだろうし。
ウラヌスと少し距離をとり、畑の中央付近を練り歩く。目に付いたイナゴ、飛び込んできたイナゴを、文字通り片っ端から攻撃していく。
素早さは大したことないけど、なんせサイズが小さい。雑な攻撃が当たるはずもなく、精度はもちろん、最短距離で当てないといけない。
体慣らしを兼ねながら、黙々とイナゴを削り続ける。意識が研ぎ澄まされていく感覚が心地いい。修行としては悪くないな。
──徐々に、目に映るイナゴの数が増えてきてる。気のせいかと思ったけど、倒した数以上に増えてるな。
「ウラヌス、イナゴが増えてませんかっ!?」
「増えてるよ!
撃破数が増えるほど、一度にポップする数も増えていく! 頭打ちになった辺りから、『真珠蝗』が出てくるはず!」
やっぱりそうか。1時間の『周』を意識するなら、のんびりしてちゃダメだな。
慣れてきたので動作を早回しする。歩き回りながら、叩き、突き、踏み、弾き、掻き、薙ぎ、捌き、蹴る。ホント、害虫駆除だ。
────開始からおそらく10分ほど経過した。
視界に十数匹程度だったイナゴは、いまや数十匹の数にふくらんでいる。目にも耳にも神経に触るが、構っていられない。当たるに任せ、手足を動かし続ける。
倒すのは簡単だが、問題はカード化した時。白い煙が発生するからヘタな位置で叩くと視界を遮る。特に顔の近くでは影響が大きい。
それを計算に入れつつ、跳び回るイナゴの動きを先読みして効率よく数を削っていく。
ウラヌスの動きが変わった。イナゴに構わず、一直線にどこかへと向かう。足を止め、ゆるりと手を伸ばす動作。
イナゴから意識を切らず見てると、彼がバインダーを出してる。どうやら『真珠蝗』を入手したらしい。バインダーを消し、再びイナゴを倒し始めた。
つまり現状で一度に出現するイナゴの数は上限に達したわけか。おそらく『真珠蝗』もまた出てくるんだろう。
──もう少し早回しできそうだな。急ごう。
「うわぁー……」
呻くメレオロン。畑で暴れ回る2人と、とんでもない数のイナゴを目の当たりにして、他の言葉も無い。
揺れる小麦とイナゴの大群に姿を霞ませる2人を、シームは目を細めて注視し、
「……2人ともすごいね。
ずーっと動きっぱなしなんだけど」
ウラヌスは足を止めず、歩きながら腕を振るい続ける。ほぼ目の端に捕らえたイナゴも弾き、身体どころか衣服に一匹たりとも触れさせない。全て迎撃してみせている。
アイシャの動きは攻撃と移動を兼ねていた。蹴りや踏み付けの動作で移動し、間合いのイナゴを腕一振りごとに数匹単位で片付けている。速さも相まって、撃破数は彼女の方が上だろう。
「あ」
メレオロンが気づく。畑の外に近い位置、腹に幾つも白真珠を抱えたイナゴが出現した。同時、ウラヌスが急速にこちらへ来る。
ふっと手を伸ばし、そのイナゴを優しい手付きで摘まむ。ボン! と煙になった。そのカードをひょいと投げる。
「っと」
シームが慌ててキャッチ。
「多分、あと15分かからない」
そう2人に言葉を残し、ウラヌスは畑の中央へイナゴを撃破しつつ戻っていく。
『52:真珠蝗』
ランクB カード化限度枚数30
腹に真珠を持つ蝗
十数年に1度 大発生する
シームの手にするカードを覗き込みながら、
「なんとまぁ、ホントあっさり取ってみせるわねー……
あの2人だけで、このゲーム楽勝でクリアできんじゃない?」
軽口を叩くメレオロンに、シームは怪訝そうな目を向け、
「ブック。
……おねーちゃん、ウラヌスけっこう汗かいてたよ。楽勝とか気安く言わないで」
カードを収めながらシビアなことを言う弟に、ぶすっとする姉。
「なによ。
……ずいぶんアイツのこと心配してるじゃない」
「それもあるけど……
ぼくら、あの2人の修行受けるんだよ。ちゃんと動き見てなきゃ」
「あ、はい……」
シームは内心嘆息する。すでに度々アイシャから指導されて、精神集中しないとロクについていけないことを実感していた。本格的な修行はこれから。心構えをしておかないと耐えられそうに無い。
────おそらく畑に入ってから20分以上経った頃。
徐々にイナゴの数が減り出した。いや、急激に減っている。
「ウラヌス!」
「ああ! もうポップしない!
今いるヤツを片付けたらオシマイ!」
なら継戦を考慮する必要はない。溜めた力で更に加速する。数が減ったということは、一度に倒しづらくなるということ。数を倒すのではなく、見逃さずに倒し切ることを意識する。
ウラヌスは移動速度を上げた。広範囲にわたってカバーする気だろう。オーラの見えるウラヌスに任せるべきと判断し、私は視界のイナゴを1匹ずつ狩り続ける。
やがて畑全体を歩き回ったウラヌスが、ゆるりと中央付近に戻ってくる。私の目に映る残りは、黄金の穂に止まり、やや手が届きづらい位置にいる数匹だけ。
「アイシャ、その4匹で終わりだよ。
倒せる?」
「……ええ」
足場をぎゅっと固め。蹴りを放つ。
────軌道を曲げ、4匹全てを捉えた。穂が揺れ、4つ煙が上がる。
「器用なことするなー……
お疲れさん。アイシャが文句なしのMVPだね」
「お疲れ様です。
……MVPって言われても、参加したのは2人だけですし」
そう返すと、ウラヌスは苦笑してみせる。
「みんなでやっても、アイシャが最優秀だったよ。
まさかこんなに早く片付くとは思わなかった。完全クリアしようとしたら、数人がかりでも1時間以上かかるイベントだよ?」
「……まあ、私は『真珠蝗』を探していませんでしたからね」
すっかり忘れてたとも言う。
そんな話をしながら、畑の外で待つ2人の元へと向かった。
・イナゴ退治イベントリザルト
アイシャ:イナゴ撃破スコア3759 真珠蝗捕獲スコア0
ウラヌス:イナゴ撃破スコア1241 真珠蝗捕獲スコア3
イナゴ撃破スコア:5000匹×20ジェニー=100000ジェニー
イナゴ殲滅ボーナス:+100000ジェニー
補足:真珠蝗のトレードショップ売却額は1枚80000ジェニー
イベントクリアタイム:23分18秒