どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第五十章

 

 多めに買ってある食料を、私に負けず劣らずの勢いで平らげていく姉弟。ふふふ、早速エネルギーを欲する状態になってるな。

 

「晩は晩で旨いモン食いに行くんだから、ほどほどにしとけよ?

 あとまぁアイシャも」

『ふぁーい』

「分かってますよ……」

 

 水分もたっぷり取って、その辺に寝転がる姉弟。おっと、ヘタしたら寝ちゃうかもな。それは困る。

 

「あー、2人とも。

 休憩は構わないんですけど、念についての基礎知識をどれぐらい理解してるか、今から確かめさせてほしいんですが」

「えぇー……?

 くったくたなのに、いったい何させる気よ……?」

「大したことはしませんよ。

 今から私が念の基本的な説明をしますから、その後で2人が理解できてるか簡単な質疑応答をするだけです」

「うーん、まぁ大事な話よね……

 ほら、シーム。起きなさい」

「うー……」

 

 しんどそうにしてるけど、顔色は悪くないんだよな。ウラヌスの方をちらりと見る。

 

「……大丈夫だと思うよ。喋るくらいならだけど」

 

 それで充分。別に念の実践をさせるわけじゃないからね。……私の目には映らないし。

 

 

 

 修行場の中央に4人で固まったまま、その辺で拾った木の棒を使って説明を始める。

 まずは念を知らない相手に話すレベルで、基本的なことをおさらいする。

 

「──これが念能力の基礎と呼ばれる、『纏』『絶』『練』『発』の四大行です」

 

 私の説明に、頷いたり相槌を打ったりしていたメレオロンとシーム。さて、簡単に説明したけど、ホントに理解できてるかな?

 

「では質問です。メレオロン、『纏』とはなんですか?」

「垂れ流しになってるオーラを、自分の身体に留める技術でしょ?

 これができなきゃ念能力者じゃないわよ」

「その通りですけど、もう少し詳しく」

「あー。そうね……

 たとえば『練』で放出したオーラを身体に留めるのも『纏』よね。

 シームもそれはできてるでしょ?」

「うん」

「ではシーム、『練』とはなんですか?」

「がんばってたくさんオーラを出すこと」

 

 んー、まぁいっか。間違いではないしな。出来てる人間に今さら聞くことでもない。

 

「『絶』についてはあなた達は充分出来ていますから、改めては聞かないでおきます。

 最後に『発』とはなんですか?」

「え、ぼくが答えるの?」

「別にどちらが答えても構いませんよ」

「でもボク、できないし……

 お姉ちゃんがやってる、ああいうのだよね?」

「いわゆる固有能力のことよ。

 アタシの【神の不在証明/パーフェクトプラン】、アイシャの【ボス属性】もそう。

 あとウラヌスの……」

「【巨人の籠手/ギガースグローブ】のことか?」

「そうそう、ああいうのね。

 明らかに特殊な、誰にでもできるわけじゃない力のことよ」

「ボクにもできるかなぁ……」

「いずれシームも何らかの能力を身に付けられますよ。

 その為にも、基礎をしっかり修めてください」

「はーい……」

 

 ふむ、ひとまず四大行は理解できてるな。では──

 

 

 

 続けて、6系統や念の応用についても説明をしてみた。

 同じように頷き、相槌を打つ2人。完璧に受け答えも出来てる。……あれ?

 私は溜め息を吐いて腕を組み、

 

「2人とも、念の知識を充分持ってるじゃないですか。

 一体どこで念について知りました?」

 

 私の態度を、気を悪くしたものと取り違えたのかバツの悪い顔をする2人。いやまぁ、無駄な説明させられた気がして、実際ちょっと気分よくないけども。

 

「ぼくは、おねーちゃんに教えてもらった。

 ……助けてもらった後に」

 

 シームはそうかもね。何となく念のつたなさから伝わってくる。オーラ量は念の初心者とは到底比べ物にならないくらいあるけど。

 メレオロンは、難しく暗い顔をしている。

 

 これは……古傷に触れてるな。どうしようか。

 

「話さなきゃ、ダメ?」

 

「……

 ダメということはありませんが、教え方に影響が出るかもしれません」

 

 少し卑怯な言い草ではあるけど、話したくないならそのつもりでいてほしいとは思う。やっぱり情報がないとコチラとしてもやりづらい。

 

「そっか。……教えてもらう立場上、ワガママは言えないかな。

 シーム、2人に話してもいい? 昔のこと」

 

 姉の問いかけに少し考え、コクンと頷くシーム。

 

「うん、いいよ」

 

 返事を聞いた後、黙りこくるメレオロン。

 私は腕組みを解き、彼女の言葉を待つ。ウラヌスもシームも、一言も発さない。

 

 やがてメレオロンは、ペットボトルの水を口にし、

 

「……アタシが念について知ったのは、生前。

 義父が念能力者でね。その人に教わったの」

 

 そうだったのか……

 

 てっきりキメラアントになってからだと思ってたけど。でもそれだと誰から教わったか分からないしな。私がNGLで戦った連中は、彼女ほどの知識はなさそうだったし。

 

 恐らく知っている者がいたとしても、共有せず秘密にしていたのだろう。メレオロンのように。

 

 彼女は諦めたような顔をし、

 

「アイシャ。

 少し話が長くなるから、座ってくれる?」

 

「ええ。

 ……けど、いいんですか?」

 

 しゃがみこみながら問う。長話ということは、かなりプライベートなことを話すつもりだろう。

 

「そんなこと言われると、決心が揺らぐんだけど?」

 

 苦笑しながら返すメレオロン。いや、だって勢いで話すようなことじゃないよ、多分。

 

「メレオロン。

 俺達にそれを話すのがどういうことか、ホントに分かってるか?」

 

 やや強めに問うウラヌス。

 

「どうもこうも。

 アンタ達こそ聞いてもいいの? 知らない方がいいこともあるわよ」

 

 同じくらいの強い口調で返すメレオロン。……まったく、相手の心配ばっかりですか。どっちもどっちだな。人のこと言えないけど。

 

「そんなもん今さらだろ?

 話すべきと判断したら、ちゃんと話せ」

 

 やや怒った顔で告げるウラヌス。私も怒り顔を作り、

 

「今さらですね。

 NGLで戦った私が、背負えないとでも思ったんですか?」

 

 ウラヌスがちらりと私を見る。こうでも言わないと、自分1人で背負おうとするからな。そんなことはさせません。

 

「……。

 ちょっと待って。話すこと、まとめるから……」

 

 座り込んだまま膝に顔を埋め、半分泣き声で言ってくるメレオロン。

 

 

 

 それなりの時が経ち。

 

 ようやくメレオロンは顔を上げ、重い口を開いた。

 

「話す前に少し確認したいんだけど……

 あなた達、ロカリオ共和国って知ってる?」

 

 ロカリオ共和国。もちろん知っている場所だ。

 

「……ミテネ連邦、NGL東側の隣国ですね」

 

 私が答えると、メレオロンは首肯する。

 

「ええ、そうよ。

 じゃあ、ドーリ市って知ってる?」

 

 ……もちろん。知ってるだけですけどね。

 

「一度だけ行きました。NGLへ入国した時に」

 

「俺はドーリ市までは知らないな。

 ロカリオ共和国は、まぁ分かるけど。ミテネ連邦って特殊な土地柄だし」

 

 メレオロンは一頷きし、

 

「それだけ分かってれば充分よ。話が早くて助かるわ。

 そのロカリオ共和国のドーリ市が、アタシとシームの生まれ故郷よ。

 アンタ達も薄々気づいてたんでしょ? アタシ達がNGL出身じゃないって」

 

「ええ、まぁ……」

 

「お前らバリバリの機械文明人だしな。ゲーム慣れしすぎだろ」

 

「アハハハ……まぁね。

 で、アタシ達はドーリ市で普通に暮らしてたんだけど。

 念自体は、何か気がついたら目覚めてたわ」

 

 ん? 気がついたら?

 

 ウラヌスが1人うなずいてみせ、

 

「たまーにいるらしいな。

 念の知識もなく、無自覚のまま何かのキッカケで目覚める人。

 大抵は本人か周りが異変に気づいて軽く騒ぎになった後、話を聞きつけたハンター協会やら何やらが接触を試みるらしいけど」

 

 ふむ……そうなのか。武術家だと、知らず念能力者と相対して目覚めることもあるし、瞑想なんかの精神集中が昂じて目覚めることもあるとは聞く。

 

 ただ、武術とは関係ない子供の念能力者も、結構いるって話なんだよな。地方ごとに、念能力に目覚める割合が片寄ってるんだろうか。周りに念能力者が多いと、目覚めやすいだろうしな。

 

「アタシはうまい具合に隠してたからね。

 バレたら、何かされそうで怖かったからだけど。透明になれる能力だったし、オーラで身体能力が上がるって言ったって、元々弱かったから。

 ……で、アタシが成人してしばらくしたぐらいかな。

 両親が、事故か事件に巻き込まれて、死んじゃったの」

 

 ……。事故か、事件。

 

「アタシ達には、交通事故に遭ったって連絡が来て。

 ……知ってるかもしれないけど、NGLって表向きは外交してないだけで、裏では結構こそこそ外交してたのよ。当然ロカリオ共和国とも。

 そのコソコソっとやってた外交の運送屋が、ウチの両親だったのね」

 

 それは……とても話の方向性が嫌な感じなんだけど。

 

「連絡を持ってきたのが、NGLに住んでた義父……

 その時はまだお父さんの知人で、時々ウチにも遊びに来てた人だったんだけど。熱心なNGL信者で、アタシもシームもしつこく勧誘されてウザかったのよね」

 

 はは、と懐かしそうに笑うメレオロン。

 

「まぁその人が、両親の葬式の手配もしてくれたんだけど。

 その後、アタシ達これからどうしようって。

 情けない話、私も親べったりで独り立ちなんか出来そうになかったし、シームも学校があったから。

 そしたらその人に、NGLで3人一緒に暮らさないかって誘われて。

 選択肢がなかったのよ……」

 

「……それでNGLに入ったんですか」

 

 私が尋ねると、首肯するメレオロン。

 

「シームの勉強見てくれるって話だったし。アタシもアテなんかなかったから。

 ……いちおう疑いはしたのよ。この人が両親を殺したんじゃないか、とか。何か悪企みしてるんじゃないか、とか。

 で、義父に引き取られた後、透明になる能力で探ってたら、あっさり見破られちゃって。その時に教わったのよ。それは念能力だって」

 

 ふむ……透明になるだけなら『凝』や『円』を使えば見破れるだろうしな。見破るだけなら、他にも色々あるだろうけど。

 

「さっきアイシャがしてくれたのと、大体同じようなことを話してくれたわ。オーラ量を増やす訓練もその頃からしてた。

 NGLって畑仕事ぐらいしかやることないし、基本ヒマだったのね。シームにも内緒にしてたから、義父だけが念能力で相談に乗ってくれる人で。結構色々話してたのよ。

 ──NGLは麻薬を製造密売してる、とか」

 

 う……

 

「メレオロン、あなた知ってたんですか……」

 

「……」

 

「その分だと、アイシャもウラヌスも知ってたみたいね。

 そうよ……

 NGLの教義は隠れ蓑で、上はそういうことしてるって。国の中でも知ってる人は当然いたわ。義父もその1人。表向きの教義で、ワリと地位が高い人だったってのもあるけど。じゃないと国内外を行き来できないだろうし。調べれば分かるからね……ビラ畑で麻薬の原料育ててるっていうのも。

 ……でも義父は、NGLの教義はそれでも間違ってないって言いきってた。

 機械文明は本来の人のあるべき姿じゃない、人は自然に生きるべきだって。

 ……麻薬製造に関しては、何とかしてやめさせたいって時々言ってたわ。両親が死んだ理由も、もしかしたらって話してた。

 それで分かったのは……

 この人は、本当に気のいい、優しい人なんだなって。

 

 ……最期までね、アタシ達を守ってくれた。

 

 後生大事にしてた、NGLの教本を楯にしてまで……」

 

 シームが「ぅ……」と小さく呻く。

 

 多分……

 

 彼女達が人として生きた、最期の記憶なんだろう。

 

 メレオロンは声を震わせて、

 

「襲ってきた化物に、とうさんが倒されて。

 逃げろ、とは言われたんだけど。

 アタシ1人透明になって逃げたら、シームが殺されるなって。だから──」

 

「ぼく、その時寝てたんだけど。

 おとうさんが逃げろって叫んだのが聞こえて、ビックリして起きたの。

 そしたらおねーちゃんが、ぼくのことギュッとして……」

 

「……。

 今でもバカなことしたな、って思ってるんだけど……

 アタシ、きっと逃げられないって思ったのよ。入口に化物がいて、家の外からも叫び声とか唸り声が聞こえてて。

 シームを連れて逃げたら、絶対に逃げ切れない。

 アタシ1人だけ逃げたら、生き延びても1人ぼっちになるって……

 だから……

 

 せめて、一緒に死のうって。

 

 ……NGLの教義にあったのよ。

 自然の中で共に死ねば……来世でも一緒になれるって。

 別にそんなの、信じてたわけじゃないけど……」

 

「あああぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 シームの慟哭。メレオロンのすすり泣く声。

 

 ウラヌスは、メレオロンのように顔を膝に埋めて震えている。

 

 本当に──

 

 今さらのように、強い後悔の波が押し寄せてくる。

 

 なぜ私は自分の直感を信じ、もっと早くNGLへ行かなかったのか。無駄足になっても良かったじゃないか。

 

 ……防げたかもしれないのに。この悲劇を。

 

 あまりに悔しくて、涙が止まらなかった。

 

 

 

 ────気持ちが落ち着くまで、ずいぶんと時間がかかった。

 

 みんな、一言も発さない。

 

 少なくとも私は、この2人を救うと心に決めていた。でないと自分を許せそうにない。2人に話したとしても、きっとメレオロン達は私を責めないだろうしな……

 

 自分自身でケジメをつけないと。

 

 メレオロンが、再び声を絞り出す。

 

「次に目を覚ました時──

 アタシは、別の生き物になってた。

 しばらく頭が薄ボンヤリとして、何となく流されるままに師団長してた。

 生前のことなんか、何にも覚えてなくて。

 でも……オナカが空いても、肉団子を食べる気にはならなくて……」

 

 う……。その肉団子って。

 

「飢えは、畑の野菜とか盗んだり、草や木の実で何とかしのいでたんだけど。まぁそんなことはどうでもいいわね。

 それで……

 1人の師団長が、念に目覚めたのよ。なんか念能力者と戦ったとかで、前世も念能力者だったのを思い出したらしくて。

 その話を聞いて、アタシも思い出したの。ほんの少しだけど、前世のことと、念能力者だったことを。

 まあ、その後は必死だったわ。念の洗礼はこっそりオーラでガードして、念に目覚めたフリ。エサを探しに行くフリして、スキを見て逃げたの」

 

 はぁぁぁ……と長い息を吐くメレオロン。

 

「逃げて逃げて逃げて──

 誰もいない、山奥の寂れた小屋に隠れ住んで。

 近くに人間の町を見つけてからは、能力で身を隠しながら色々と盗んだりして……

 ちょっとずつ……前世のことを思い出していった。

 キメラアントの中に本を抱えたペンギンが居たけど、もしかしてアレはとうさんだったんじゃないか、とか……

 キメラアントの巣に、シームがひょっとしたら居たかもしれないとか……

 こっそり探ったら、キメラアントが討伐されて、ごく一部が保護されたって話を聞いて。

 気になって調べてたの。ひょっとしたら生きてるかもって……

 飛行船に密航して、ハンター協会のある町に行って……探り続けて。

 実験施設にいる、シームを見つけた」

 

 メレオロンは、くしゃりと頭をかく。

 

「正直ほっとした。

 ああ、ちょっとだけ見た目が変わってるけど、シームが生きてたって。

 でも……アタシ、こんなんになっちゃってるでしょ?」

 

 苦笑するメレオロン。落ち込んだ顔のシームが、

 

「……全然信じられなくて。

 大人しくしてたら危害は加えないって言ってたのに、ぼく痛い実験ばっかりされてたし。……こんな姿のおねーちゃんが会いに来て、その……

 おねーちゃんって、信じたくなかった。だから違う、信じないって……」

 

 ……。それはシーム、あなたは悪くないよ。

 

「思い出した生前のこと、この子にたくさん話して。

 まぁ信じざるを得なかったんでしょうね。

 それで何とか、能力を使って2人で逃げたの」

 

 メレオロンから話を続ける気配が消える。……その後、ウラヌスと出会ったってことか。

 

 ウラヌスが小さく口を開く。

 

「シーム。ちょっと聞いていいか?」

 

「うん、なに?」

 

「……。

 シームが念能力に目覚めたのって、いつ?」

 

 難しい顔をするシーム。黙ったままのメレオロン。

 

「多分……

 おねーちゃんが、ギュッとしてくれた時。その時、オーラが初めて出てきたと思う。

 化物が、おねーちゃんに何か突き刺して。ぼくもすぐ刺されて、痺れて眠くなったから、ちゃんと覚えてないけど……」

 

「そっか……」

 

 ……。

 

 なるほどね。多分メレオロンがオーラで守ろうとして、それがキッカケでシームも念に目覚めたのか。神経毒で昏睡したおかげで、オーラの過剰放出を免れたのかもしれない。

 

 その後、メレオロンは死んでしまったけど……

 

 シームは何らかの理由で、半獣人に改造された。そのことと、念に目覚めていたことは無関係ではないのだろう。

 

 

 

 …………メレオロンは、死んでもシームのことを護り抜いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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