どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

56 / 300
第五十一章

 

「どう? つまんない話だったでしょ?」

 

 メレオロンは、掠れた声でそう問いかけた。

 

「…………

 すいませんでした。無理にツライお話をさせてしまって……」

 

 私が謝罪すると、首を横に振るメレオロン。

 

「ううん。話せてスッキリしたわ。

 アリガトね、2人とも。こんな話を聞いてくれて」

 

 ぐすぐすと泣くシームを、メレオロンは抱き寄せて髪をくしゃくしゃと撫でている。

 

 ほとんど話を聞いているだけだったウラヌスは、ヘタするとシームよりもずっと泣いていた。……お姉さんのことを思い出してるのかな。いいな、兄弟姉妹って。

 

 

 

 動く気になれず、いつまでもぼんやりとしている私達。

 

 時折り話したりしてるうち、いよいよ林の中に夕陽が射し込んできた。

 

 ウラヌスがスッと立ち上がり、

 

「うん……

 もういい時間だし、今日は切り上げよう。いいよね、アイシャ?」

「ええ……」

「メレオロンとシームも、中途半端だけど今日は修行終わり。

 あ。ただ2人とも、寝る前にオーラ量増やす修行だけは忘れないでくれよ」

「うん」

「分かってるわ。特にアタシはまだ余力があるもの。

 オーラを使ってから寝るようにするわ」

 

 ちゃんと修行してくれるか不安だったけど、心配するまでもなかったな……

 

 2人とも真面目に修行する動機が十二分にある。これならきっとサボったりとかしないだろう。多少厳しくしても大丈夫かもしれないな。

 ああ、でもウラヌスの修行の話が全然できなかった……。まぁ仕方ない。とてもそんなこと話せる空気じゃなかったし、今日はもう気力がない。

 

 私も立ち上がり──

 

 あ。そういえば、重し着てた。すっかり忘れてたよ。

 私がいそいそ脱ぎ出すと、3人ともギョッとする。……ですよね。私が忘れてたぐらいだし、みんな忘れてたよね。

 

 

 

 ベストとリストバンドを袋に詰め、念の為に土の中へ埋めて隠しておく。

 後片付けを終えた私達は、拠点と定めた修行場に背を向け、オータニアへ。

 

 さぁー。ゴハン! 修行の後は美味しいゴハン! 頭きりかえるぞー。

 

 

 

 約束通り、ウラヌスおすすめの美味しいところ! 訪れたのは食事処『秋の空』。

 

 けっこう本格的な料亭で、私達は個室のお座敷でメニューを眺める。あー、いいニオイするな。部屋全体に美味しい料理のニオイがしみついてるっていうか。

 

 うぅん。しかし、どれもこれもよいお値段しますな。ちょっと緊張してきた。

 

 その、現実ならね。お金もあるし、気が向いたら贅沢くらいするけど。ゲームのお金は貴重だから、あんまり奮発すると首が絞まる。

 

 ウラヌスは申し訳なさそうな顔で私を見て、

 

「アイシャ……

 別にお腹いっぱい食べてくれてもいいけど、出来るだけゴハン粒でお願いするよ。高いのを頼んでもいいけど、それだけでっていうのはちょっと……」

「あ、はい。

 それはもう調整します……」

 

 分かってるさ。ジャポン風の基本だよ、そんなの。ゴハンだけでも結構するけどさ。

 

 どうしよっかなぁ。やっぱりお刺身は欲しいな。お造り2500ジェニーするけどいいかな。……いいよね、ちょっとぐらい。これでゴハン何杯もいけそうだし。

 

 松茸もいいなぁ。でも流石に高いよね。サンマはリーズナブルだな。ぜひ押さえとこう。茄子の生姜焼きも外せないな。茶碗蒸しは絶必。あと──

 

 え。なんでみんな、怯えた目でこっち見んの?

 

 

 

 ──お食事中──

 

 

 

 暗くなったオータニアの街中を、腹ごなしに散策する私達。

 

 はっはっは。いや、食べた食べた食べたー。秋の実り、どれも美味しかったなぁ。流石ウラヌスおすすめのお店ですわ。

 

 はっはっは。でもお金も飛んでっちゃったぁ。お会計15000ジェニーとか言われて、ウラヌスちょっと涙目。

 

 ……すいませんでした。反省してます。久々の本格的な修行の後で、制御ががが。

 

 それほど明るくない街灯の下を、虫がチラチラと舞っている。

 畑や草むらから、綺麗な虫の音が聴こえてくる。いいね、秋の夜も。さすが千秋都市、しっかり押さえてるよ。

 

「この後、どうするの?」

 

 メレオロンがウラヌスに尋ねる。そういえば決めてなかったね。

 

「とりあえずマサドラかな……スペルを補充しときたいから。

 スペルで移動したら『再来』が残り7枚になるし、そろそろ金の整理もしないとフリーポケットを圧迫してきてる。

 何より『漂流』を手に入れて、次の観光先へ行けるようにしないとな。

 うん……そうするとマサドラで泊まりが妥当か。同じ宿に、他のプレイヤーがいるかもだけど」

 

 ああー、それはちょっとヤダな……

 

「別の都市に宿泊した方がいいんじゃないですか?

 メレオロンとシームは、寝る前にオーラを消費するわけですし」

 

 安全面を考えると、できればマサドラは避けたいんだよね。……色々あって忘れちゃいそうだけど、アントキバの月例大会で目立ったのは、昨日のことなんだし。

 

「うーん。

 充分に移動スペルが確保できてれば、どこで寝泊まりしてもいいけど……

 そうすると候補は4つか。アントキバ、エリル、オータニア、リーメイロ。

 リーメイロは泊まったことないからよく知らないし、3つからかな」

 

 ふむ。私はアントキバしか泊まったことないから、情報がないと判断できないな。

 

「その3つの街で、それぞれ宿の特徴ってあります?」

 

「うーん? ……予算にもよるけど。

 アントキバなら、安けりゃ昨日みたいな泊まれるだけの施設で、高いところだとまんま高級ホテルかな。

 エリルとオータニアは予想がつくだろうけど、ジャポン風の安宿か、高級旅館。旅館はさっきの料亭みたいな感じだし、安宿はもう大きいだけの単なる民家だね。

 アントキバは、この3つの中じゃ他プレイヤーと遭遇しやすいのが難点かな。エリルが一番プレイヤーとの遭遇率が低いだろうね。オータニアは拠点にしてる修行場があるし、宿にチェックインしておけば24時間いつでも休憩に戻れるのが大きいか」

 

 ふむ。……ウラヌスは言わないけど、明日の食事内容も変わるだろうしな。どうしよ。

 彼は少し考え、

 

「多数決で。挙手して。

 まずアントキバに泊まりたいヒトー」

 

 誰も手を上げない。他のプレイヤーは避けたいもんね。ゆっくり休みたいだろうし。

 

「じゃあエリル」

 

 私達は顔を見合わせる。……手は上がらない。考えることは同じか。

 

「うん……じゃあオータニアってことでいいんだね?」

 

 4人の手が上がる。あははは、そうだよねー。ぽんぽんは正直ですわ。ここのゴハン、すっごい美味しかったもん。

 ウラヌスもくすくす笑いながら、

 

「まぁ理にも適ってるから、そうしようか。

 移動スペルを無駄使いしちゃうけど、一度マサドラに行ってからここへ戻ってこよう」

 

 特に目的地も定めず、オータニアを散策する私達。りーん、りーん、という虫の音が、心地よく鼓膜をふるわせる。

 

 

 

 しばし秋夜の散歩を楽しんだ私達は、『再来』でマサドラを訪れた。

 

 まずは、トレードショップでカード整理。売却回数50回を考慮して、シームが1枚ずつカードを売っていく。

 

 3枚入手したうちの『真珠蝗』2枚。余分に取った『狂気のガーネット』1枚。

 あと『ガルガイダー』『幸運の女神像』『神樹の怪鳥』『神樹の番人』も処分する。

 枚数調整で『防壁』2枚を売却。ついでにスペルカードショップへ入ると消えてしまう最終ページの『交信』4枚も売却。

 

 しめて113万5800ジェニー。それを預けて、貯金額は約239万ジェニー。

 そこからウラヌスが11万ジェニーを引き出す。手持ちはこれで44万ジェニー。

 

 ウラヌスはこの44万ジェニーで、スペルカードパックを買うつもりらしいんだけど……

 

 私達のフリーポケットには、お金を除いてカードが63枚入っている。空きが117枚だから、44パックだとプラス132枚で、15枚オーバーしてしまう。

 

 で、ちょうど15枚ある『名簿』を使い切る気だったらしい。

 

「どうせ、またアホみたいに取れるしな」

 

 上限350枚のランクGだから、それはそうだろうね。溜め込む人もいないだろうし。

 

 目ぼしい指定ポケットカードやスペルカードを『名簿』で調べるウラヌス。今のところランクSS入手者はいないようで、ランクSもほぼ取られていないようだ。気になったのは、『離脱』が既に8枚も入手されていたこと。誰かが集めてるのか?

 

 そして、この時間でも相変わらず行列なんて見当たらないスペルカードショップに入り、44パック購入。

 所持していた46枚のスペルカードを合わせて、スペルカード合計178枚。

 

 

 

 『盗視/スティール』5枚

 『透視/フルラスコピー』4枚

 『防壁/ディフェンシブウォール』12枚

 『反射/リフレクション』5枚

 『磁力/マグネティックフォース』1枚

 『掏摸/ピックポケット』4枚

 『窃盗/シーフ』1枚

 『交換/トレード』3枚

 『再来/リターン』20枚

 『擬態/トランスフォーム』1枚

 『複製/クローン』2枚

 『左遷/レルゲイト』4枚

 『初心/デパーチャー』2枚

 『念視/サイトビジョン』2枚

 『漂流/ドリフト』3枚

 『衝突/コリジョン』7枚

 『城門/キャッスルゲート』5枚

 『贋作/フェイク』2枚

 『強奪/ロブ』1枚

 『堕落/コラプション』3枚

 『妥協/コンプロマイズ』1枚

 『看破/ペネトレイト』2枚

 『暗幕/ブラックアウトカーテン』8枚

 『聖水/ホーリーウォーター』2枚

 『追跡/トレース』4枚

 『投石/ストーンスロー』3枚

 『道標/ガイドポスト』9枚

 『解析/アナリシス』10枚

 『宝籤/ロトリー』12枚

 『密着/アドヒージョン』3枚

 『浄化/ピュリファイ』1枚

 『再生/リサイクル』11枚

 『名簿/リスト』9枚

 『同行/アカンパニー』6枚

 『交信/コンタクト』10枚

 

 

 

 また『離脱』が引けてないな。『徴収』もないし……。『堅牢』『神眼』が出ないのは、ランクSだからまだ分かるんだけど。『凶弾』もない……まぁ昨日『聖騎士の首飾り』に変身させたからな。

 

 昨日と同じように、店内のテーブルでカードを広げて、考えるウラヌス。手元にメモを1枚置き、私達のバインダーに入ってるスペルも勘定に入れて、策を練っているようだ。

 

 ウラヌスが手を伸ばし、『強奪』と『堕落』1枚を横に避ける。

 

「それは首飾り用ですか?」

「うん。なかなかランクBのスペルが出ないから、数が確保できないけどね。

 さっさと4つ欲しいんだけどな……」

 

 ふむ。昨日1つ、今日のそれで2つ目なワケだ。最低でも人数分は欲しいもんね。

 

「でもアンタ、ランクBの『真珠蝗』売ったじゃない。

 それに、この『妥協』もランクBみたいだけど?」

 

 メレオロンの指摘に、ウラヌスは少し眉根を寄せ、

 

「つっても『真珠蝗』は80000で売れるから、もったいねーよ。

 『強奪』なんて、売っても10000だぞ?

 『妥協』はランクCのカードが欲しい時に使うかもしれないから、置いときたい。ダブついたら考えるけど、1枚だしな」

「手頃に取れるランクBのカードって、何か無いんですかね?」

 

 私は心当たりがないので尋ねてみると、これもウラヌスは渋い顔。

 

「そういうカードは、売った方が得なことも多いんだよ。急いで首飾りが要るなら話は別だけど。

 結局は、安くて使い道のない『強奪』か『凶弾』を、『堕落』で首飾りにするのが一番効率いい。時間はちょっとかかるけどね」

 

 なるほどね。まぁ首飾りで必死に守りたいカードも無いもんな。

 

「後は『宝籤』で不要なランクBを引くか、だけど……

 アレでランクB以上引ける確率って100回に1回くらいなんだよな」

 

 なかなか出ないのは知ってたけど、そんなに低いのか。

 

「思ったより確率低いんですね……」

「しょせん宝くじだし、そんなもんだよ」

 

 話しながら『宝籤』の束を掴んで、横に避けるウラヌス。

 

 

 

 私達は店の外へ出て、昨日と同じようにスペルを使い始めた。

 

 ウラヌスが『堕落』を1枚使って、『強奪』を『聖騎士の首飾り』に変身。ゲインして、シームが着ているツナギのポケットに入れる。

 私は『追跡』を2枚使用。ウラヌスとメレオロンの居場所が分かるようにする。

 メレオロンは『密着』を3枚使用。3人の指定ポケットを見れるように。

 シームも私と同じように『追跡』を2枚使用。ウラヌスとメレオロンの居場所が分かるようになった。これでお互い居場所が分からないのは私とシームだけだ。それも『追跡』2枚入手すれば解消できる。

 

 そして私達は、3枚ずつ『宝籤』を使用する。

 

 結果は、E2枚、F3枚、G3枚、H4枚。ランクもカード内容もスッカスカでした。はっはっは。

 

『はぁ……』

 

 そろって嘆息しつつ、いらないスペルを処分する為、再びトレードショップへ。

 

 

 

 恒例の1枚ずつ売却を繰り返し、やっと全員がランクBの指定ポケットカードを買えるようになった。

 

「はぁー……メンドくさかった」

 

 最後の1人だったメレオロンが手をパンパン叩いてぼやく。だよね。でもコレでやっと解放されたよ。

 

「……まだアントキバで50回売ってないけどな」

 

 ぼそりとウラヌス。うっ……そうだった。

 

 シームが嫌そうに自身を指差す。こくんと頷くウラヌス。

 私とメレオロンは、シームの肩を左右からポンと叩く。

 

『がんばれ♪』

「めんどくさいぃぃー」

 

 ウラヌスがへらへら笑いながら、

 

「シームは『真実の剣』売っただけだし、後49枚な。

 明日はカードをアントキバで売ってこよう」

「ぎゃーーー」

 

 ゴリさん相手に49回トレードか。私でもイヤだな。

 

 

 

 マサドラでの用事が片付いた私達は、『再来』でオータニアへと戻ってきた。

 ほんのり肌寒く感じる秋の街を、私達はゆるゆると歩いていく。

 

「あー。今日はゆっくり休みたいわー」

 

 メレオロンが肩を回しながら、そう言ってくる。シームもそうだけど、なんだかんだで2人にはリュック背負ってもらってるしな。大事な話も聞いちゃったし、ゆっくり休んでほしいとは思う。

 

「しかし、まだちょっと早いけどな。9時前だし……

 疲れてるなら、さっさと休んでくれた方がいいけど」

「ていうか汗かいたし、着替えたいのよね。

 ひとっ風呂あびて、ビール飲んで『かーっ!』て、アタシはしたいわけよ。

 分かる、お子様たちに?」

『う……』

 

 私とウラヌスの呻きがハモる。それはいいけど、1人で入ってほしい。いや、ほんとに。

 

「ん? つまりアレか?

 風呂に入れる宿がいいってことか?」

 

「そうねぇ。あんまりお風呂入った後に、外を出歩きたくないし。

 そろそろ携帯も充電した方がいいんじゃない? できるトコあるんでしょ?」

「あるけど……

 オータニアだと、旅館ぐらいしか両方あるところはないな」

 

 消極的に言うウラヌス。目を見開く私達。

 

「お? う……

 え、みんな旅館に泊まりたいの?」

 

 この反応を予想してなかったのか、動揺するウラヌスに、

 

「ぜひ泊まりたいです」

「もちろん。決まってンじゃん」

「みんな、旅館に泊まりたいかーっ!?」

 

 メレオロンの呼びかけに、

 

『おーっ!』

 

 メレオロンを含む3人の意気込みが重なった。

 

「……オマエラな」

 

 半眼でツッコミを入れた後、ウラヌスは「へはぁ……」と嘆息する。

 

「わーったよ。

 今日は旅館。ただし二人部屋を2つな。それでいい?」

『しゃーっ!』

 

 ハイタッチするメレオロンとシーム。まー、仲のよろしいことで。

 

「ウラヌス、部屋割りは昨日と同じですかね?」

「うん。

 俺とアイシャ、メレオロンとシームで」

 

 言って、歩き出すウラヌス。ウラヌスが私と一緒で構わないなら、私も異存ないけどね。昨日はアレな話しか出来なかったし。

 

 ともあれ、ウラヌスの後を足取り軽く付いていく私達。

 

 ウラヌスはぽりぽりと頬をかき、

 

「まったく……チームってのも大変だな。

 実入りはいいけど、そのぶん金も飛ぶ飛ぶ」

 

 アハハハ。特に私の食費、結構ワリ食ってますよね。ごめんなさぃ……

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。