「どう? つまんない話だったでしょ?」
メレオロンは、掠れた声でそう問いかけた。
「…………
すいませんでした。無理にツライお話をさせてしまって……」
私が謝罪すると、首を横に振るメレオロン。
「ううん。話せてスッキリしたわ。
アリガトね、2人とも。こんな話を聞いてくれて」
ぐすぐすと泣くシームを、メレオロンは抱き寄せて髪をくしゃくしゃと撫でている。
ほとんど話を聞いているだけだったウラヌスは、ヘタするとシームよりもずっと泣いていた。……お姉さんのことを思い出してるのかな。いいな、兄弟姉妹って。
動く気になれず、いつまでもぼんやりとしている私達。
時折り話したりしてるうち、いよいよ林の中に夕陽が射し込んできた。
ウラヌスがスッと立ち上がり、
「うん……
もういい時間だし、今日は切り上げよう。いいよね、アイシャ?」
「ええ……」
「メレオロンとシームも、中途半端だけど今日は修行終わり。
あ。ただ2人とも、寝る前にオーラ量増やす修行だけは忘れないでくれよ」
「うん」
「分かってるわ。特にアタシはまだ余力があるもの。
オーラを使ってから寝るようにするわ」
ちゃんと修行してくれるか不安だったけど、心配するまでもなかったな……
2人とも真面目に修行する動機が十二分にある。これならきっとサボったりとかしないだろう。多少厳しくしても大丈夫かもしれないな。
ああ、でもウラヌスの修行の話が全然できなかった……。まぁ仕方ない。とてもそんなこと話せる空気じゃなかったし、今日はもう気力がない。
私も立ち上がり──
あ。そういえば、重し着てた。すっかり忘れてたよ。
私がいそいそ脱ぎ出すと、3人ともギョッとする。……ですよね。私が忘れてたぐらいだし、みんな忘れてたよね。
ベストとリストバンドを袋に詰め、念の為に土の中へ埋めて隠しておく。
後片付けを終えた私達は、拠点と定めた修行場に背を向け、オータニアへ。
さぁー。ゴハン! 修行の後は美味しいゴハン! 頭きりかえるぞー。
約束通り、ウラヌスおすすめの美味しいところ! 訪れたのは食事処『秋の空』。
けっこう本格的な料亭で、私達は個室のお座敷でメニューを眺める。あー、いいニオイするな。部屋全体に美味しい料理のニオイがしみついてるっていうか。
うぅん。しかし、どれもこれもよいお値段しますな。ちょっと緊張してきた。
その、現実ならね。お金もあるし、気が向いたら贅沢くらいするけど。ゲームのお金は貴重だから、あんまり奮発すると首が絞まる。
ウラヌスは申し訳なさそうな顔で私を見て、
「アイシャ……
別にお腹いっぱい食べてくれてもいいけど、出来るだけゴハン粒でお願いするよ。高いのを頼んでもいいけど、それだけでっていうのはちょっと……」
「あ、はい。
それはもう調整します……」
分かってるさ。ジャポン風の基本だよ、そんなの。ゴハンだけでも結構するけどさ。
どうしよっかなぁ。やっぱりお刺身は欲しいな。お造り2500ジェニーするけどいいかな。……いいよね、ちょっとぐらい。これでゴハン何杯もいけそうだし。
松茸もいいなぁ。でも流石に高いよね。サンマはリーズナブルだな。ぜひ押さえとこう。茄子の生姜焼きも外せないな。茶碗蒸しは絶必。あと──
え。なんでみんな、怯えた目でこっち見んの?
──お食事中──
暗くなったオータニアの街中を、腹ごなしに散策する私達。
はっはっは。いや、食べた食べた食べたー。秋の実り、どれも美味しかったなぁ。流石ウラヌスおすすめのお店ですわ。
はっはっは。でもお金も飛んでっちゃったぁ。お会計15000ジェニーとか言われて、ウラヌスちょっと涙目。
……すいませんでした。反省してます。久々の本格的な修行の後で、制御ががが。
それほど明るくない街灯の下を、虫がチラチラと舞っている。
畑や草むらから、綺麗な虫の音が聴こえてくる。いいね、秋の夜も。さすが千秋都市、しっかり押さえてるよ。
「この後、どうするの?」
メレオロンがウラヌスに尋ねる。そういえば決めてなかったね。
「とりあえずマサドラかな……スペルを補充しときたいから。
スペルで移動したら『再来』が残り7枚になるし、そろそろ金の整理もしないとフリーポケットを圧迫してきてる。
何より『漂流』を手に入れて、次の観光先へ行けるようにしないとな。
うん……そうするとマサドラで泊まりが妥当か。同じ宿に、他のプレイヤーがいるかもだけど」
ああー、それはちょっとヤダな……
「別の都市に宿泊した方がいいんじゃないですか?
メレオロンとシームは、寝る前にオーラを消費するわけですし」
安全面を考えると、できればマサドラは避けたいんだよね。……色々あって忘れちゃいそうだけど、アントキバの月例大会で目立ったのは、昨日のことなんだし。
「うーん。
充分に移動スペルが確保できてれば、どこで寝泊まりしてもいいけど……
そうすると候補は4つか。アントキバ、エリル、オータニア、リーメイロ。
リーメイロは泊まったことないからよく知らないし、3つからかな」
ふむ。私はアントキバしか泊まったことないから、情報がないと判断できないな。
「その3つの街で、それぞれ宿の特徴ってあります?」
「うーん? ……予算にもよるけど。
アントキバなら、安けりゃ昨日みたいな泊まれるだけの施設で、高いところだとまんま高級ホテルかな。
エリルとオータニアは予想がつくだろうけど、ジャポン風の安宿か、高級旅館。旅館はさっきの料亭みたいな感じだし、安宿はもう大きいだけの単なる民家だね。
アントキバは、この3つの中じゃ他プレイヤーと遭遇しやすいのが難点かな。エリルが一番プレイヤーとの遭遇率が低いだろうね。オータニアは拠点にしてる修行場があるし、宿にチェックインしておけば24時間いつでも休憩に戻れるのが大きいか」
ふむ。……ウラヌスは言わないけど、明日の食事内容も変わるだろうしな。どうしよ。
彼は少し考え、
「多数決で。挙手して。
まずアントキバに泊まりたいヒトー」
誰も手を上げない。他のプレイヤーは避けたいもんね。ゆっくり休みたいだろうし。
「じゃあエリル」
私達は顔を見合わせる。……手は上がらない。考えることは同じか。
「うん……じゃあオータニアってことでいいんだね?」
4人の手が上がる。あははは、そうだよねー。ぽんぽんは正直ですわ。ここのゴハン、すっごい美味しかったもん。
ウラヌスもくすくす笑いながら、
「まぁ理にも適ってるから、そうしようか。
移動スペルを無駄使いしちゃうけど、一度マサドラに行ってからここへ戻ってこよう」
特に目的地も定めず、オータニアを散策する私達。りーん、りーん、という虫の音が、心地よく鼓膜をふるわせる。
しばし秋夜の散歩を楽しんだ私達は、『再来』でマサドラを訪れた。
まずは、トレードショップでカード整理。売却回数50回を考慮して、シームが1枚ずつカードを売っていく。
3枚入手したうちの『真珠蝗』2枚。余分に取った『狂気のガーネット』1枚。
あと『ガルガイダー』『幸運の女神像』『神樹の怪鳥』『神樹の番人』も処分する。
枚数調整で『防壁』2枚を売却。ついでにスペルカードショップへ入ると消えてしまう最終ページの『交信』4枚も売却。
しめて113万5800ジェニー。それを預けて、貯金額は約239万ジェニー。
そこからウラヌスが11万ジェニーを引き出す。手持ちはこれで44万ジェニー。
ウラヌスはこの44万ジェニーで、スペルカードパックを買うつもりらしいんだけど……
私達のフリーポケットには、お金を除いてカードが63枚入っている。空きが117枚だから、44パックだとプラス132枚で、15枚オーバーしてしまう。
で、ちょうど15枚ある『名簿』を使い切る気だったらしい。
「どうせ、またアホみたいに取れるしな」
上限350枚のランクGだから、それはそうだろうね。溜め込む人もいないだろうし。
目ぼしい指定ポケットカードやスペルカードを『名簿』で調べるウラヌス。今のところランクSS入手者はいないようで、ランクSもほぼ取られていないようだ。気になったのは、『離脱』が既に8枚も入手されていたこと。誰かが集めてるのか?
そして、この時間でも相変わらず行列なんて見当たらないスペルカードショップに入り、44パック購入。
所持していた46枚のスペルカードを合わせて、スペルカード合計178枚。
『盗視/スティール』5枚
『透視/フルラスコピー』4枚
『防壁/ディフェンシブウォール』12枚
『反射/リフレクション』5枚
『磁力/マグネティックフォース』1枚
『掏摸/ピックポケット』4枚
『窃盗/シーフ』1枚
『交換/トレード』3枚
『再来/リターン』20枚
『擬態/トランスフォーム』1枚
『複製/クローン』2枚
『左遷/レルゲイト』4枚
『初心/デパーチャー』2枚
『念視/サイトビジョン』2枚
『漂流/ドリフト』3枚
『衝突/コリジョン』7枚
『城門/キャッスルゲート』5枚
『贋作/フェイク』2枚
『強奪/ロブ』1枚
『堕落/コラプション』3枚
『妥協/コンプロマイズ』1枚
『看破/ペネトレイト』2枚
『暗幕/ブラックアウトカーテン』8枚
『聖水/ホーリーウォーター』2枚
『追跡/トレース』4枚
『投石/ストーンスロー』3枚
『道標/ガイドポスト』9枚
『解析/アナリシス』10枚
『宝籤/ロトリー』12枚
『密着/アドヒージョン』3枚
『浄化/ピュリファイ』1枚
『再生/リサイクル』11枚
『名簿/リスト』9枚
『同行/アカンパニー』6枚
『交信/コンタクト』10枚
また『離脱』が引けてないな。『徴収』もないし……。『堅牢』『神眼』が出ないのは、ランクSだからまだ分かるんだけど。『凶弾』もない……まぁ昨日『聖騎士の首飾り』に変身させたからな。
昨日と同じように、店内のテーブルでカードを広げて、考えるウラヌス。手元にメモを1枚置き、私達のバインダーに入ってるスペルも勘定に入れて、策を練っているようだ。
ウラヌスが手を伸ばし、『強奪』と『堕落』1枚を横に避ける。
「それは首飾り用ですか?」
「うん。なかなかランクBのスペルが出ないから、数が確保できないけどね。
さっさと4つ欲しいんだけどな……」
ふむ。昨日1つ、今日のそれで2つ目なワケだ。最低でも人数分は欲しいもんね。
「でもアンタ、ランクBの『真珠蝗』売ったじゃない。
それに、この『妥協』もランクBみたいだけど?」
メレオロンの指摘に、ウラヌスは少し眉根を寄せ、
「つっても『真珠蝗』は80000で売れるから、もったいねーよ。
『強奪』なんて、売っても10000だぞ?
『妥協』はランクCのカードが欲しい時に使うかもしれないから、置いときたい。ダブついたら考えるけど、1枚だしな」
「手頃に取れるランクBのカードって、何か無いんですかね?」
私は心当たりがないので尋ねてみると、これもウラヌスは渋い顔。
「そういうカードは、売った方が得なことも多いんだよ。急いで首飾りが要るなら話は別だけど。
結局は、安くて使い道のない『強奪』か『凶弾』を、『堕落』で首飾りにするのが一番効率いい。時間はちょっとかかるけどね」
なるほどね。まぁ首飾りで必死に守りたいカードも無いもんな。
「後は『宝籤』で不要なランクBを引くか、だけど……
アレでランクB以上引ける確率って100回に1回くらいなんだよな」
なかなか出ないのは知ってたけど、そんなに低いのか。
「思ったより確率低いんですね……」
「しょせん宝くじだし、そんなもんだよ」
話しながら『宝籤』の束を掴んで、横に避けるウラヌス。
私達は店の外へ出て、昨日と同じようにスペルを使い始めた。
ウラヌスが『堕落』を1枚使って、『強奪』を『聖騎士の首飾り』に変身。ゲインして、シームが着ているツナギのポケットに入れる。
私は『追跡』を2枚使用。ウラヌスとメレオロンの居場所が分かるようにする。
メレオロンは『密着』を3枚使用。3人の指定ポケットを見れるように。
シームも私と同じように『追跡』を2枚使用。ウラヌスとメレオロンの居場所が分かるようになった。これでお互い居場所が分からないのは私とシームだけだ。それも『追跡』2枚入手すれば解消できる。
そして私達は、3枚ずつ『宝籤』を使用する。
結果は、E2枚、F3枚、G3枚、H4枚。ランクもカード内容もスッカスカでした。はっはっは。
『はぁ……』
そろって嘆息しつつ、いらないスペルを処分する為、再びトレードショップへ。
恒例の1枚ずつ売却を繰り返し、やっと全員がランクBの指定ポケットカードを買えるようになった。
「はぁー……メンドくさかった」
最後の1人だったメレオロンが手をパンパン叩いてぼやく。だよね。でもコレでやっと解放されたよ。
「……まだアントキバで50回売ってないけどな」
ぼそりとウラヌス。うっ……そうだった。
シームが嫌そうに自身を指差す。こくんと頷くウラヌス。
私とメレオロンは、シームの肩を左右からポンと叩く。
『がんばれ♪』
「めんどくさいぃぃー」
ウラヌスがへらへら笑いながら、
「シームは『真実の剣』売っただけだし、後49枚な。
明日はカードをアントキバで売ってこよう」
「ぎゃーーー」
ゴリさん相手に49回トレードか。私でもイヤだな。
マサドラでの用事が片付いた私達は、『再来』でオータニアへと戻ってきた。
ほんのり肌寒く感じる秋の街を、私達はゆるゆると歩いていく。
「あー。今日はゆっくり休みたいわー」
メレオロンが肩を回しながら、そう言ってくる。シームもそうだけど、なんだかんだで2人にはリュック背負ってもらってるしな。大事な話も聞いちゃったし、ゆっくり休んでほしいとは思う。
「しかし、まだちょっと早いけどな。9時前だし……
疲れてるなら、さっさと休んでくれた方がいいけど」
「ていうか汗かいたし、着替えたいのよね。
ひとっ風呂あびて、ビール飲んで『かーっ!』て、アタシはしたいわけよ。
分かる、お子様たちに?」
『う……』
私とウラヌスの呻きがハモる。それはいいけど、1人で入ってほしい。いや、ほんとに。
「ん? つまりアレか?
風呂に入れる宿がいいってことか?」
「そうねぇ。あんまりお風呂入った後に、外を出歩きたくないし。
そろそろ携帯も充電した方がいいんじゃない? できるトコあるんでしょ?」
「あるけど……
オータニアだと、旅館ぐらいしか両方あるところはないな」
消極的に言うウラヌス。目を見開く私達。
「お? う……
え、みんな旅館に泊まりたいの?」
この反応を予想してなかったのか、動揺するウラヌスに、
「ぜひ泊まりたいです」
「もちろん。決まってンじゃん」
「みんな、旅館に泊まりたいかーっ!?」
メレオロンの呼びかけに、
『おーっ!』
メレオロンを含む3人の意気込みが重なった。
「……オマエラな」
半眼でツッコミを入れた後、ウラヌスは「へはぁ……」と嘆息する。
「わーったよ。
今日は旅館。ただし二人部屋を2つな。それでいい?」
『しゃーっ!』
ハイタッチするメレオロンとシーム。まー、仲のよろしいことで。
「ウラヌス、部屋割りは昨日と同じですかね?」
「うん。
俺とアイシャ、メレオロンとシームで」
言って、歩き出すウラヌス。ウラヌスが私と一緒で構わないなら、私も異存ないけどね。昨日はアレな話しか出来なかったし。
ともあれ、ウラヌスの後を足取り軽く付いていく私達。
ウラヌスはぽりぽりと頬をかき、
「まったく……チームってのも大変だな。
実入りはいいけど、そのぶん金も飛ぶ飛ぶ」
アハハハ。特に私の食費、結構ワリ食ってますよね。ごめんなさぃ……