どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 執筆BGM:FFⅥ『炭坑都市○ルシェ』w







トラリア編 2000/9/17
第五十四章


 

 ひとときの空の旅を終え、ガラリと変わった目前の景色を見る。

 

 山間に(ひら)かれた岩地に立ち並ぶ、無骨な石造りの建物。街のあちこちから、蒸気がもくもく噴き上げている。

 

 うぅむ……かつて私が長年住んだ炭鉱の町も、ここまでじゃなかったかな。何かここは脚色されてるというか、それっぽい雰囲気すぎるというか。かえって生活感が薄い。

 

 鼻を利かせても、ニオイがそれっぽくない。まぁ炭鉱じゃないってのもあるかもだけど、あちこち掘り返してるはずなのに、空気があまり汚れてない。熱気はそれなりにあるけど。

 

 私達4人は、一歩も踏み出さずにその都市の外観を眺めている。

 

「……アレね。

 エリルとオータニアって、いい街だったのね」

 

 ぽつりとつぶやくメレオロン。そりゃそうだろう。その2つの街は景観の整えられ方がハンパじゃなかった。ここは真逆で、誇張してわざと印象を悪くしてるんだろう。

 

 ウラヌスは肩をすくめ、

 

「比較しちゃダメだわな。

 ここはこういう街。出稼ぎに来たとでも思えばいいさ」

 

 ……出稼ぎにたとえられると、その。色々思い出して楽しめない。……うん。

 

 

 

 ともあれ、鉱山都市トラリアの観光を始める私達。

 

 街の中を行き来するゲームキャラ達も、いかにも鉱夫な方々が多い。こういうところは、懐かしいというか、懐かしすぎるというか。まぁ忘れられないしな。

 

 メレオロンとシームは、いつもの茶色いツナギにフードをかぶった姿だ。言っちゃ悪いけど、雰囲気にマッチしてる。私は若干浮き気味だな。ウラヌスは完全に浮いちゃってる。なんか時々どこかを見上げてるし、ふわふわ感がすごい。

 

 この街は、あまり商業的な場所ではないからか店舗が少ないけど、ないわけじゃない。飲食店や衣服屋、ちょっと似つかわしくないデパートも遠目に映る。

 とはいえ、やはり鉱山主体の街だからか、いかにもな雰囲気のお店が多い。工具屋とか金物屋とか武器屋とか防具屋とか。……こういう金属を取り扱う店は、私の住んでいた町にはあまり無かったかな。あそこは炭鉱だったから、当然と言えば当然だけど。

 

 

 

 原石屋。露店のガラスケースに並んだ、取れたてのような無骨な石の数々。中には石の一部がキラキラと光るものもあるけど、加工していない原石の大半はただの石ころにしか見えない代物だ。

 関心ありげに眺めるメレオロン。首を捻るシーム。

 

「ウラヌスは、こういうの好きなんですか?」

 

 腕を組んで少し離れて眺めていたウラヌスは、尋ねる私を見やり、

 

「んー。嫌いじゃないよ。

 ことさら好きってわけでもないけど」

「そうなんですか。

 ……部屋に宝石の本があったんで、好きなのかなって思ったんですけど」

 

 なぜかウラヌスの膝が折れそうになる。あ……そっか。あの本棚のことは話題にしない方がいいか。

 

「っぐ……

 まあ、そりゃ、ね。人並みには興味あるよ。

 ただ知識として、かな。装飾品として興味があるかはビミョー」

 

 なるほど。……そういうところは、女の子というより男の子だよな、ウラヌスって。

 

 かくいう私も、装飾品の宝石なんかはサッパリ興味がない。……ない。私を着飾ろうとする輩が押し付けてくるが、『い・り・ま・せん!』と拒否している。男が女が以前に、私を着せ替え人形にするなと言いたい。

 

 メレオロンが私を振り返り、

 

「アイシャこそ、こういうのって興味ないの?」

 

 んー。どう答えたものか。

 

「……私もウラヌスと同じですね。

 関心はあっても、手にしたい身に着けたいとまでは思いません」

「そう?

 あんた達こそ、似合いそうなのにもったいない」

 

 シームは、並ぶ原石と後ろの私達を交互に見て、

 

「でもこんな石じゃなくて、ちゃんとしたネックレスとか指輪の方が似合いそうじゃん」

「もちろん、そのつもりで言ってるわよ?

 本人達に着飾ろうって意思がないんだから、どうしようもないけど」

 

 私とウラヌスは、顔を見合わせる。だいたい似たようなことを考えてるのは分かった。

 

 ……そんなこと言われても、ねえ。

 

 

 

 デパートやトレードショップの位置をとりあえず把握し、都市の中央辺りにある坑道へ繋がる通りを進んでいく。

 

 建築物がより工業的な雰囲気に変化し、岩肌が目立つようになる。地面の凹凸(おうとつ)が増え、足元もジャリッジャリッと砂を噛んだ音を立てていた。

 

 ウラヌスが足を止める。……朝日に照らされながら、なぜか空をしばらく見上げている。その後、同じように足を止めた私達へ目を向け、

 

「さて、こっからは坑道か鉱山しかないよ。

 観光としては、ここまでが限界。進むならゲーム攻略が前提になる。ま、情報収集だけして終わりってのも含むけど」

 

 私達3人が黙ってウラヌスを見返していると、彼は言葉を続ける。

 

「説明だけしとくよ。もちろんゲームクリア前の情報だけどね。

 この鉱山都市トラリアには、3枚の指定ポケットカードがある。

 『闇のヒスイ』。

 『浮遊石』。

 『ブループラネット』。

 闇のヒスイは、夜にしか入れない『魔の坑道』にある。入ると途中でいくつか分岐路があるんだけど、正解の道の最奥まで行くと落ちてる。

 浮遊石は、この都市上空のどこかにある。

 ブループラネットは、一番大きな鉱山の地底奥深くまで行き、そこに設置された祭壇にNo.173からNo.181までの宝石9種をアイテム状態で捧げると入手できる。

 後は金稼ぎ用の汎用坑道かな。ひたすら原石とか鉱石が拾える坑道がいくつもある。

 ここのイベントは、ざっとこんな感じなんだけど」

 

 なるほど。ブループラネットは最終的にここで取れるわけか。闇のヒスイもまぁ分かる。

 

「浮遊石って、どこにあるの?」

 

 シームが尋ねる。……だよね。上空のどこかって意味分かんないよ。──え? まさか浮遊石って……

 

 ウラヌスが呆れたように空を指差し、

 

「そのまんまの意味だよ。

 浮遊石だからね。この都市のどっかに浮いてる。

 太陽の光を浴びると、浮遊石は文字通り空に浮かび上がるんだよ。

 反対に日没、つまり陽の光が消えるとそのうち落っこちる。

 ……で、こっからが厄介なんだけど。

 落ちた浮遊石を拾いあげてもダメなんだ。それだとタダの石になる。地面へ落ちる前に入手する必要がある。

 だから入手方法としては、日中浮かんでる時に飛んで掴み取るか、日没まで待ち構えて落下してきたところを地面接触前にキャッチするか、どっちかになる」

 

「……。それって」

 

 私が顔をしかめて聞くと、ウラヌスは1つ頷き、

 

「どっちにしても、浮かんでる浮遊石を見つけないことには始まらない。

 ただ、小さい上に1日1個しか浮かんでないんだよな。

 しかも100mくらいの高さに浮かんでるし、ちょっとやそっとじゃ発見できない。

 ……発見できたとしても、肝心の入手も困難。ランクSに相応しいかな」

 

「どうやって取んのよ、そんなの……」

 

 メレオロンの疑問も、もっともだろう。100m上空かぁ……『円』とオーラ放出で何とかなるとは思うけど。いずれにしろ、今は手が出せないか。

 

 ウラヌスが「ふぅ」と息をつき、

 

「心配しなくても、俺が取ってくるよ」

 

 ん? ……へ?

 

「俺がここで足を止めたのは、もう見つけたからだよ。

 真上じゃないけど、この位置から取れるトコに浮かんでる」

「……見つけたんですか」

 

 いやいや、ランクSだよ? なんでそんなアッサリ見つける? その上、手軽に取ってこようとする?

 私の言葉に、ウラヌスは自身の目を指差し、

 

「探してたからね。

 都市の入口から、ちょいちょい空を見上げてたよ。

 入手方法が変わってないようで助かった。……その前に。ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを出現させる。開いたページからカードを取り出し、

 

「──『名簿/リスト』オン。80」

 

 

 

 現在 80「浮遊石」を

 所有しているプレイヤーは

 0人

 所有枚数は

 0枚

 

 

 

「ん、昨日調べた時と同じだな。まだ入手ゼロ。

 これは幸先(さいさき)いいかも」

 

 私達が、じーっとウラヌスを見る。……飛べるのか、この人。おかしな木登り披露してくれた時も驚かされたけど。

 

 ウラヌスが私達の視線に、微妙な表情で応える。

 

「まぁ……

 いつまでも隠しておけないよな。

 とはいえ、オーラは無駄遣いしたくないから節約するけど」

 

 周囲を警戒するウラヌス。どうやら他のプレイヤーに見られたくないようだ。

 

「ちょっと離れててくれる?

 別に見てていいから」

 

 言われた通り、私達はウラヌスから距離をとる。バインダーを消し、軽く呼吸を整えるウラヌス。

 

 こちらに背を向けたまま、空の一点を見据え、

 

 

 

暗雲(あんうん)(か )蹄─(ひづめ )─」

 

 

 

 何かをつぶやくと同時、光る指先で『宙空』に何かを描いた。

 

 

 

「──【滑空軍騎/スレイプニル】──」

 

 

 

 ダンッ!

 

 ウラヌスの足が、空中へ一歩踏み出した。足音が鳴り響く。

 

 ダンッ! ダンッ、ダンッ、ダンッダンッダンッダンッダンダンダンダン!!

 

 そのまま空中を駆け上がっていくウラヌス。まるで見えない階段を登るように、身体を斜め上へと加速させる!

 

 ……なんだコレッ!? なにしてんの、この人ッ!? ツッコミが追いつかないぞッ!!

 

 空を駆け上がるという常軌を逸した行為。メレオロンとシームも目を丸くしている。

 

 そりゃ、念だろう。それは分かるけど……

 

 ウラヌス、まさか神字でそれをやったのか? 今どこに書いてた、空中? ──そんな馬鹿な! 空を駆け上がるなんて念能力を神字でやろうとしたら……!

 

 そんな高難度の念能力を途轍もない速度で、何もないところに指で神字を刻印して発動、なんて離れ業、誰が出来るっていうんだ。

 

 そう言えば何かつぶやいてたな……

 

 恐らく発動条件の1つだろう。ひっくるめて『発』と考えた方が自然だ。消費オーラも相当なんだろうけど……

 

 まさかウラヌスは、様々な効果の神字とそれを書く能力を組み合わせることでメモリを無視して際限なく能力を使える、のか?

 

 ……なにそれ。ふざけてんの?

 

 考察してるうちに、うっすらと霧がかって視認しづらいサイズになっているウラヌス。

 

 はぁー、そりゃ隠しとくよね。今までにもウラヌス、神字で色々やって見せてたもんな。治癒能力も持ってるみたいだし、まだまだ隠し玉を持ってそうだ。

 

 ……ウラヌス、グリードアイランドのアイテムなんてホントに要るのか? 自力で全部出来るんじゃないか? たいていのことは。

 まぁそんなわけないか……。昔から出来てたなら、とっくに除念も出来てただろうし。あの卓抜した神字の技量は、今まで彼が積み重ねてきた研究と努力の結晶なんだろう。

 

 ……あの年齢で? また天才っすか。やだなー、みんな見せ付けてくれちゃって。嫉妬していい? いいよね……

 

 せめて、どういう能力なのか知りたいな。もし色んな能力が使えるなら、メモリ問題をどうクリアしたのか本人の口から聞かせてほしいし。でも教えてくれるかな? あんまり見せたくなさそうだったもんなぁ……弱点があるなら尚更教えたがらないだろうし。んー……

 

 ──あ、降りてきたかな? だんだん姿が大きくなってきた。

 

 …………タッタッタッタッタッタッタッタ、ダッダッダッダッダッダ!

 

 しかしこれ何の音だ。足音なのは分かるけど、見えない階段でも作って踏んでる音か? でも、わざわざ見えないようにする意味なんてなさそうだけどな。

 

 ウラヌスが空中を蹴るように、ひゅんッと跳び上がった。

 

 ダンッッッ!!

 

 私達を越えて、地面に着地。……しばらくしゃがみこんだ姿勢のまま。

 

 やがて、ゆっくりと立ち上がる。スッと真顔で振り向き、

 

「……足シビれた」

 

 ずるっとコケるメレオロンとシーム。カッコつけすぎっすわ、全く。私は苦笑しながら、

 

「ふふ、お疲れ様です。……足は大丈夫ですか?」

 

 ウラヌスは渋い顔で足首をくりくり回しながら、

 

「ちょっと急ぎすぎたかなー。誰にも見られたくなかったから、急いだんだけど。

 結構足場が固くて、強く踏みつけると反動で痛いんだよね。

 ……まぁそんなことは別にいっか。いちおう大丈夫だよ」

「それは良かったです。肝心のアイテムは取れました?」

「うん。ブック」

 

 バインダーを開き、指定ポケットのページを見せるウラヌス。

 

 

 

『80:浮遊石』

 ランクS カード化限度枚数7

 その名の通り 宙に浮く石

 1カラットほどの大きさの石で

 人間1人浮かすことができる

 太陽の光を当てないと浮力を得られない

 

 

 

『おおおぉぉ……』

 

 感嘆の声を上げる姉弟。ウラヌスの目と神字の併用って反則過ぎるな。そりゃ取れるよ。

 っと。これって……

 

「ウラヌス。

 このカードって、独占した方がいいんじゃないですか?」

 

 腕を組んで、少し考えるウラヌス。

 

「そうなんだよね……

 ただ急がなくてもいいよ。今日は俺が取ったから、もう誰も取れないし。今『複製』が5枚分しかないから、独占には足りないしな」

「あ……そうですね」

 

 まぁそっか。でも、出来れば急いだ方がいい気もするけど。

 

「気になるんだったら、明日の朝もトラリアへ取りに来ればいい。

 ……他プレイヤーに今の見せたくないから、状況次第だけど」

「あっ! それですよ、それ!

 なんですか今のはっ!?」

 

 思わず詰め寄る。他人に念能力を軽々しく語るべきじゃないことは重々承知してるけど、今のは聞かずにいられない。デタラメにもホドがある。

 

 ウラヌスはビビり、身を引きながら、

 

「え、えっと……

 やっぱ話さないと、ダメ?

 見せただけでも大盤振る舞いかなー、と思ってるんだけど……」

 

 うーむ……やっぱりダメか。考察はしたものの、その通りか分からないんだよな。

 

「弟子としては、師匠の技を教えてほしいんだけどなぁ」

 

 メレオロンのおねだり声。

 

「そうそう。ぼく念能力を開発しないとだし、参考にしたいなぁ」

 

 シームも乗っかってくる。いいぞ、やれやれ!

 

「ぉ? ぅ……

 その……えっと」

 

 悩んでるな。もう一声か。

 

「……すいません、ウラヌス。

 私、いま念能力を使えないので、どうしてもシームに指導してあげづらいんですよ。

 できれば、念能力開発のお手本を示していただけると……」

 

 私が乞うと、ウラヌスはたじろぎ、

 

「あ、アイシャ……

 それは卑怯だよ……」

 

 ……バレたか。いや、けど確実に効いたはず。ホントのことだしな。

 

「でも、私よりウラヌスの方が、念能力の『発』については詳しいと思いますよ?

 私の知る限り、あなたほどの手練れは見たことがありません」

 

 これはまぁ、お世辞もなくはない。ただ、神字による念能力行使の多彩さにおいては、おそらく他を圧倒しているだろう。まだ見せていない部分を含めて、だけど。

 

 うつむくウラヌス。本気で悩んでるな。そんな簡単に教えられることでもない、か。

 

「……。

 …………わかったよ。教える。

 教えるけど、修行の時ね。こんな往来で話すことじゃない」

 

『しゃーっ!』

 

 パチーンッと両手でハイタッチしあう姉弟。こちらにも求めてきたので、ノリで2人とハイタッチする。

 

「おまえら……」

 

 あはは、申し訳ない。でも、きっとウラヌスは約束を反故(ほ ご )にはしないだろう。ホント、色々申し訳ないな。私こそ何かで埋め合わせしないと。

 

「ま、いいや……

 疲れたし、この後どうするかも含めて、ちょっと相談がてら休憩しよ」

『やったー!』

 

 リュックを背負った2人が喜ぶ。うぅむ、軟弱なヤツラめ。ウラヌスは分かるけど。

 溜め息を吐き、力のない様子で歩き出すウラヌス。今まで来た方へと戻っていく。

 

 私はウラヌスの横に並び歩き、

 

「どこ行くんですか?」

「……喫茶店。

 まだ朝食の時間帯だし、軽いモーニングでも頼んで補給したい」

「あ、私も私も。

 ……ちなみにそこって、珈琲(コーヒー)出ます?」

「うん、むしろ珈琲が売りの店に行くつもりだったし。

 アイシャは珈琲好きなの?」

「ええ」

「そっか。俺も結構好きかな」

 

 お、気が合うな。それなら期待できそうだ。あー……でもここって美味しい珈琲あるのかな? 私が住んでた炭鉱の町だと、匂いが強いお酒の方が流行ってたしなぁ。うーむ……

 

 

 

 

 

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