どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第六章

 

「────ギャーッッハッハッハッハッハッハッハッッ!!」

 

 まるまる貸切にした、一流とも噂されるおでん屋の座敷で、ネテロが爆笑しながら足をじたばたさせて転げ回っていた。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ……ちっきしょうぅぅぅ、ちっきしょおぉぉぉぉ……!」

 

 頭をかかえて悶え苦しむアイシャ。

 

「ぎゃーはっはっはっはっ!! くっそおもしれぇ!!

 あの! 武神様が! こんなジジイに!

 

 ──生理不順の相、談ッ!!

 

 ばっかじゃねぇぇぇぇぇの!?」

 

「ぎゃあああああああああッッッ!!」

 

 地獄絵図だった。

 

「そんなことはない。お前と戦うのに問題はないはずだ(キリッ

 ……ぶはーっ! ギャハハハハッ、笑い死にしそうじゃあああぁぁぁぁッ!!」

 

「ぐぎゃあああああーーーー!!」

 

 アイシャのライフポイント(精神)はもうゼロよっ!!

 

 

 

 

 

 人生最大級の恥ずかしい目に遭い、びくびく痙攣するアイシャ。

 仰向けで、まっかっかになってだらんと伸びきってる少女を見ながら、ネテロは口許をぷぷっと必死で押さえつつ、

 

 これが、かの武神リュウショウとかマジ吹くんじゃがのぅ……

 

 思うだけにする。もし口に出そうものなら確実に粉々(物理)にされる未来しか見えない。

 

 

 

 

 

 せっかくシャワーを浴びて着替えたのに、結局汗まみれの、髪の毛けちょんけちょんになったアイシャが、座布団の上に正座でぷるぷるうつむいている。

 テーブル越しに、向かいであぐらをかいたネテロが、

 

「ま、まぁなんじゃな。真面目な話、っぷ」

「……笑い終わってから話してください……」

 

 ネテロが口許を腕で押さえて、たんまタンマと手を振っている。

 

「いや、すまんすまん。笑っちゃいかんな」

「笑えよこんちきしょー」

「も、も、もうやめい。話ができんでわないか」

「ぐぅぅぅぅ」

「まあ、アレじゃ。まだ大して話を聞いとらんから、よぉ分からんのじゃが」

「……」

「普通の治療や薬でどうにかならん原因かもしれんから、そういう能力者に調べてほしいっちゅー話でええんじゃな?」

「……えぇ」

「うむ……じゃが難儀な話かもしれんな。

 ……っぷ」

「わたしもう帰っていいですか……」

「待てい。気持ちは分かるが、待てぃ。

 時間が解決するものならいいが、悪化したら手に負えんようなるかもしれんぞ?」

「……だからって、あなたに相談聞いてもらう必要なんかないじゃないですか」

「いやいやいや。お主、ゴンのこと恨んどりゃせんか?

 あやつ思いのほか、頭が回っとるぞ。

 お主は、念能力による治療を受け付けん身体なんじゃろ? ヘタすりゃ、診察型の能力まで弾きよる。……つーことは、真っ当な医療技術、合わせて念に関する卓抜した知識が必要かもしれん。

 原因不明の調査ほど、難しい診療はあるまいよ。

 ワシに相談せにゃ、お主は誰に相談するんじゃ。風間流か?」

「それは……」

 

 そっちに相談すると、すっごいおおごとになりそうだからヤだ。ぜったい、ヤダ。

 

「まぁお主らが相談できる中で考えりゃ、ワシが一番マシじゃろうよ」

「……

 そんなこと言ってあなた、私が狂い死にしそうなくらい、はずかしめたじゃないですか……」

「人聞きの悪いことを。

 ……くっ、はっは。あんなに爆笑したのは何十年ぶりかもしれんなぁ、くっくっ」

「ぐぎぎぃ……」

「だいたい、お主の説明の仕方にも問題がある。

 かいつまんで説明せんと、ちゃんとイチから話してみぃ。

 その中に原因があるかもしれんじゃろうが」

「それは……」

 

 そうすると、ゴンとしたあの話を洗いざらいすることになる。

 おそらく、それ以上の話も。

 

「時間がかかる話か?

 どうしてもイヤじゃと言うなら無理強(む り じ )いはせんが」

 

 ……。

 まぁ……いいか。恥かきついでだ。

 

「……話すのは構いませんが、時間がかかります」

「ふむ。……ちょいと待っとれ」

 

 ネテロは席を立ち、戸を開けてどこかへ消えた。

 

 1人、取り残された気分になるアイシャ。はぁぁぁぁ、と洩れる息がむなしい。

 

 足音がして、戸を開けてネテロが戻ってきた。

 同じようにしゃがみこんであぐらをかくと、

 

「一時間くらい、メシを持ってくるのを後にさせたわい。

 そんだけありゃ話せるじゃろ」

「……その……

 わたしもうおなかぺこぺこなんですけど」

「水でも飲んどけ。

 ……話しきらんうちにメシなんざ食っても喉通らんぞ。今のお主、見とる限り」

「……」

 

 考えてみれば、前世の私を知っているネテロに、ちゃんと私のことを話していなかった気がする。

 

 分かってくれているものだと、勝手に思い込んで。

 

 ネテロが知っているのは、ネテロから見たリュウショウであり、アイシャなのだ。……特に今の私については、それほど詳しく知らないはずだ。

 

 好敵手ゆえ、弱みを見せるようなことはしたくなかったが……

 なんだかんだで、色々甘えさせてもらっているのは分かってる。

 ちゃんと話さないのは、彼に失礼なのだろう。

 

 ……いやだけど。こいついじるから、すっごいヤだけど。

 

「ほんとに長いですよ。

 ……イチから話すなら、私が前世で念能力を身につけたところからです」

「ほっほぅ。これは興味深いわ。

 まぁお主の念能力について、バラして都合の悪い部分は隠せ。それ以外は聞かせぃ」

「……。では……」

 

 

 

 ──少女説明中──

 

 

 

 話し終えたアイシャは、目が真っ赤になっていた。

 聞き終えたネテロは、どこまでも困惑した表情になっていた。

 

「……ひっく」

「もうええじゃろ。泣かんでも」

「だって……」

「……お主、ほんま豆腐メンタルになったのぅ。どんだけ打たれ弱いんじゃ」

「うぅー……」

 

 こやつ、とんでもなく激動の人生送っとるのぅ……

 

 自分も大概だとは思っていたが、それ以上の波乱万丈である。

 しかもその波乱万丈の大半は、今生の14年間だ。受け止めきれるものではないだろう。

 ただ、今が相当に幸せだと思えているのなら、それは何よりだとは思った。

 ……そういえばこやつ、言うとったな。

 

 ────私は、みんなと出会えて本当に幸せだよ!

 

 この言葉の重み、話を聞いた今ならよく分かる。

 幸せに飢えて飢えて飢え続けて……その果てに得た、溢れんばかりの幸福。

 当たり前の幸せがなかったからこそ、それらに満ちた心の安寧は如何ばかりのものか。

 

「ネテロ……

 お前だって、泣いてるじゃないか……」

「あぁ? うむ……

 いかんな、歳を取ると涙腺がゆるくてのぅ」

「泣いて、くれてるじゃないか……」

「くっくっ。貴重じゃぞ……

 せいぜい拝んでおけ」

「ああああぁぁぁぁ……

 くそっ! 笑えばいいだろぅ……」

「笑うもんかよ……」

「……嘘つくなよ。

 泣きながら、笑ってるじゃないかぁ……」

「そうか……

 なんでじゃろうな」

「あああああああああああっ……!」

 

 

 

 ────しばらく、何の言葉も交わさない時間を過ごした後。

 

 

 

「落ち着きよったか?」

「……。はい」

 

 まだ少し不安定な感じも受けるが、アイシャはいくらか落ち着きを取り戻したようだ。

 

「うむ。……しかし、なんじゃな。

 今のお主を見てると思うんじゃが」

 

 そう前振ると、アイシャがちょっと怪訝そうに首を傾げてみせる。

 

 

 

「……オマエ、本当に武を極める為に転生したの?」

 

 

 

「なッ!?

 なんで、そんなこと……

 それを疑うなんて、武人リュウショウに対する侮辱ですよ!」

 

 なんじゃろな、このキョドリよう……今度はネテロが首を傾げる。

 

「じゃあって、人生謳歌しとるし」

「それの何が悪いんですか!」

「別に構わんよ。でもの。やっぱり前世のお主を知っとると思うんじゃよ。

 ん? なんか違くねって」

 

 そっぽ向くアイシャ。

 

「あれだけ修行修行修行修行、他全部ほったらかしの修行バカじゃったお主が」

「さりげに前世ディスるのやめてください」

 

「ホントのことじゃろが。別にそれはそれで構わんっちゅっとるんじゃ。

 じゃがの。

 前世のリュウショウと、今のアイシャ嬢ちゃんがうまく結びつかん」

「……」

「詳しい話を聞いたから、よう分かるわ。

 なんかお主、肝心なトコをぼかしとらんか?」

 

 疑わしげなネテロに、アイシャは努めて平静に返す。

 

「そんなことはない」

「そんなことはない(キリッ」

「こいつホントぶん殴りたいぃぃぃ……!!」

 

 よほどネテロのオウム返しが癇に障ったらしく、座敷床をバンバン叩くアイシャ。

 ネテロは笑いをこらえつつ、

 

「どうもいかんな。

 お主がリュウショウのつもりで喋っとるのは分かるんじゃがな。

 一生懸命、口調を思い出して喋っとるようにも聞こえるんじゃよ」

「……」

 

 半分正解である。頭を切り替えないと、あの感覚が戻ってこないのだ。油断するとすぐアイシャに戻る。普段がそっちなんだから、当たり前なのだが。

 

「まぁアレじゃ。手配はしちゃるよ」

「?」

「じゃから医者の手配はしてやる。アテはあるでの。

 ただ今日はもう遅いし、明日いちおうアテには聞いてやるが……

 そいつがイカンかったら、ちと長引くかもしれん」

「どれぐらい待てばいいですか?」

「んー……

 せいぜい3日かの。それ以上は長引くのが確定じゃからな。

 3日こっちに留まることはできるか?」

「……予定にはなかったんで家に連絡しないといけないですけど、3日くらいなら。それ以上は、帰った方がいいんですよね?」

「そうじゃな。

 そん時は、こっちの準備ができたら呼んでやるわい」

「それでお願いします。

 ……では、少し失礼して」

 

 アイシャが席を立つと、

 

「しょん」

「家に連絡しますクソエロジジイ」

 

「……さようか」

 

 ドシドシ歩いて、バン! と開ける。バン! と閉める。

 少しすると、入れ替わりでオデンの鍋が運ばれてきた。

 

 

 

 おでん屋から出て、アイシャは携帯をPiPiPi♪ と操作。しばし耳を傾け、

 

「あ、父さん。…………ごめんなさい、本当は明日帰る予定だったんですけど、ちょっとハンター絡みで用事ができてしまって、今はスワルダニシティです。…………はい、……はい。大体、長くても3日くらいそこにいます。……はい。…………えっ、あぁ良い眺めでしたよ。ゴンと一緒に頂上まで行きました。…………いえいえ、全然危なくなんかは。……はい。……はい。遅くなってしまいますけど、おみやげは買って帰りますから。…………またまた、そんなこと言わずに。買って帰らなかったら不機嫌じゃないですか。…………あははっ、ごめんね父さん。……うん、……ん。母さんにもよろしく言っておいて。……えっ。…………ああ、ごめんなさい母さん。父さんに詳しく話したから色々聞いてね。……うん。……うん。大丈夫、気をつけるから。……うん。……うん。分かった。じゃあそろそろ切るね。……うん。おやすみ、母さん」

 

 Pi♪

 

「……んー、あー」

 

 アイシャは夜風の混じる空気を吸って大きく伸びをした後、

 

「色々あったなぁ。……おなかすいた」

 

 おでん屋の中に戻った。

 

 

 

「あー! もう来てるじゃないですかー!」

 

 座敷に戻ると、ぐつぐつと煮立った鍋がテーブルの真ん中を陣取っていた。

 

「そりゃお主のション」

「墓場が無料! 今すぐ死ね!!」

 

「……冗談の通じんヤツじゃ」

「うっさいセクハラジジイ。ゴハン前に何言ってんだか」

「……じゃあって、前世のお主じゃったら別にンなこと気にせんと」

「あ・な・た・とッ!! 昔交流があった時は、おたがいもう良い歳だったでしょうが!

 わ・た・しッ!! 今うら若いお・と・めッ!! じゅう、よん、さい!!」

「そんな力強く言われてものぅ」

 

「────ゴ・ハ・ン・が、まずくなる話はヤメロって言ってンだ、このバカやろうッッ!!」

 

「……すんません」

 

 ジジイへこんだ。

 

「全く、人がおなかちょーぺこぺこでイライラしてんのに……いらいら」

「余裕あんじゃね?」

「ほら、私の分のゴハンよそってくださいよ。レディーファースト」

「……なんじゃいなんじゃい。前世おっさんじいさんのクセに。

 ワシ、ハンター協会の会長じゃぞ……」

「あなたは、元会長。私は、前会長。上も下もないです」

「任期が短すぎるじゃろが」

「じゃあ、あなたの寿命が尽きるまで会長勤めましょうか。あー忙しくて戦えない!」

「マジでやめてくれぃ」

 

 

 

 前半戦。

 

「んふーっ! あーもう、めっちゃくちゃおいしーです!」

「確かにこいつは美味いのぅ……」

「ゴハンが進むーっ!」

「むちゃくちゃ食いよるのぅ……」

 

 

 

 中盤戦。

 

「ちくわチクワちくわー」

「これ独占するなや。ワシにも一本よこせ」

「くらえー」

「ぐわっぷ!? アツアツ押しつけんなや!」

 

 

 

 後半戦。

 

「ネテロ、タマゴはー?」

「……」

「タマゴ入ってないんですけどー。

 わたしまだ食べてないんですけどー。

 タマゴたまごタマゴー」

「……うむ。2つしか入っとらんかったようじゃな残念じゃ」

「ちょおっと、なに自分1人で食べ切ってんですか!

 おでんでタマゴなしとか有り得ないです!」

「お主だって、ちくわ独占したじゃろうに」

「だから一本返したでしょー」

「まだクチひりひりしとるわ! 年寄りを(いた)わらんか!」

「……んーっと、まだコンニャクが残ってますねぇー」

「ちょ、待て。お主それどうする気じゃ……」

 

 ァッ────!!

 

 とりあえず タマゴだけ別に注文しました まる

 

 

 

「あー。食べた食べた食べたー。満足ぅー」

「ワシくちびるメッチャいたい……」

 

 おしぼりで腫れ気味の唇を押さえるネテロ。

 テーブルの上には、タマゴと一緒に注文したお酒とジュースがある。あとは水。お鍋と空の炊飯器はもう片付け済みだ。

 

「タマゴもおいしかったなぁ。もっと頼めばよかった」

「そんなもん、たくさん食うもんではないぞ。他のもん頼んどけ」

「2つ食べたくせにー」

「いや、じゃって、2個しか入っとらんとは思わんかったし」

 

 はーっと息を吐くネテロ。それを「ん?」と見るアイシャ。

 

「……

 こうやっとると、やっぱり昔を思い出すわい」

「……。そうだな」

「アイシャや。

 別に、無理してリュウショウを演じる必要はないぞ」

「……!

 別に無理してなんか」

「お主には悪いが、不自然なんじゃよ。いちいち一拍置いてから喋っとるしの。

 どっちが正しいという話はしとらん。

 頭ん中でパッと出てきた言葉で話せばええじゃろ」

「……そんなこと言われたって、喋りにくい……」

「カッカッカ!」

 

 ぶすっとするアイシャに、ネテロが笑ってみせる。

 

「お主のそれは、クセみたいなもんじゃな。

 まぁええ。好きにせい。……昔に戻させとるワシも悪いしの」

「ネテロ……」

「まあ、あれじゃよ。

 これで昔みたいに、お前さんと酒が飲めりゃ最高なんじゃがな」

「うーん……

 私もそうしたいのは山々なんですけど……」

「お主の歳ではまだちと早いな。身体の方はやたらと成長しとるが」

「胸見ながら言うな」

「そうは言うても、イヤでも視界に入るしの」

「胸に向かって話しかけないで。顔、私の顔見て話して」

「ぇー……」

「えーじゃない」

「……で、お主はいつになったら酒飲むんじゃ?」

「ぅーん……

 父さん母さん、多分ゆるしてくれないと思うんですよねぇ。

 私個人は昔のこともあるし、あなたと飲みたいんだけど」

「……そう言うてくれると嬉しいの。

 別に家で飲んどるわけでもなし、こっそり飲みゃいいじゃろ」

「父さん母さんは裏切れません」

「かーっ! アイシャ嬢ちゃんは両親思いじゃ!

 ワシなんぞ後回し! 妬けるわー!」

「ぐ、ぬ……」

 

 照れ隠しに、コップの液体を呷るアイシャ。

 

 付き合うように、苦笑しながらネテロもコップから飲む。

 

「……む。こりゃ水じゃな」

 

 酒だと思ってクチにしたが、アテが外れたらしい。

 

「お?」

 

 向かいでアイシャが、なんか照れてるにしてはヤケに真っ赤になってる。

 

「む?」

 

 アイシャの手にしてるコップ。……もう中身はないが、水用のコップと違う。

 

「……お主、それ」

 

「ひっく」

 

 

 

 ────未成年者が、酒の席に同席した際のあるある事故をやっちゃったようだ。

 

 

 

 ごごごごごご……

 

 アイシャがゆらりと立ち上がる。

 

 ふらふらと、歩く。

 

「どうした、便所か?」

 

 ネテロの冗談ともつかない言葉にも反応せず、ふらふらとネテロに近づいてくる。

 

 柳葉揺らしで、なぜかネテロの背後に。

 

「おぁ?」

 

 混乱したネテロが振り向くより早く。

 

 

 

 アイシャが、がばーっとネテロの後ろから抱きついた!

 

 

 

「ぬわーっ! ちょっ待っ、おぬしッ!?」

 

 アイシャの こうげき!

 

「ねーてーろー♥」

 

 完全にダメな声色のアイシャ。

 ネテロの後頭部に大変なものが押し付けられてる。

 

「うおぉ、ちょ、おぬし待て! なんか感触おかしい!

 まさか……ブラしとらんのかッ!?」

 

「……だぁって、もう汚れてるのと破けたのしかないんだもぉーん。

 なかなか売ってないのよぉ、このサイズぅー……」

 

 やたらもむもむ押し付けてくるアイシャ。

 

 こうかは ばつぐんだ!

 

「ぎゃあああッ! おぬし、なにしとるか分かっとんのかぁっ!?」

 

「……どいつもこいつも、わたしの胸ばっか見やがってさぁー。元男だからどーでもいいけど、あんまりじろじろ見られても気分よくないわけですよー」

 

 ──ここのところ暴露トークが続いたせいで、カミングアウト癖がついたようである。

 

「ちょ、ちょ……そりゃおぬし、これは見てしまうじゃろ。

 おぬしはもう少し、自分がうら若い女性じゃという自覚をじゃな……」

 

「あー? ねてろ、おまえが言うかー?

 さんざん武神武神といじくりやがって、このやろー。神様じゃねぇっつってんだろぉ。神にもランクがあるんだよー」

 

 こやつ、どんだけストレスためとんじゃっ……!

 

 酒をちょっと口にしただけでコレだから、推して知るべし。最近強敵との戦いもなく、欲求不満がすごいのである。

 元よりアイシャは、黙っていないといけないことが多すぎるのだ。本人的には、むしろ打ち明けてしまいたいことが。それが今世初のアルコールをキッカケにとうとう爆発してしまった。

 

 ぶるぶる震えるネテロに、アイシャは誰にも見せたことがない艶っぽい表情を浮かべて、

 

「……。

 ねーえぇ、ネテロおじさまぁー♥」

 

 今まで聞いたことのない甘ったるいアイシャの声に「ぶほぉっ!?」と吹き出すしかないネテロ。

 

「……ネテロおじさまってばぁ。

 アイシャちゃんとぉー、いっしょにぃー、チョメチョメしよ♥」

 

 チョメチョメ言うなし。

 

「お、お、オマエ……、ホントに酔っ払ってんのかッ!?

 そのキャラおかしいじゃろ!!」

 

 たぶん、どこぞのバカップルの影響だろう……

 

「そんでもってぇー、未成年なんたらで捕まっちゃえぇー♥」

 

「どんだけワシのこと陥れたいんじゃああぁッッ!!」

 

 コレハヒドイ。

 

「お、おのれぇ……下も生えとらん小娘の分際で……」

「ぁー? なんでねてろがそれ知ってんのぉー?」

「……ん?」

「ん?」

 

 ネテロの知識は、1年前のハンター試験でアイシャの水浴びを(偶然)見た時のものだ。

 アイシャの今の言葉は……

 

「あ、うん。ワシャなんも聞いとらんよ。うん」

 

「……おん? へんな、ねてろー」

 

 

 

 ぐぬぬぬ……と唸るネテロ。後頭部からジワジワくる恐るべきパワーと、頭上から注ぐスイーツなサウンドに、容赦なく押し潰されそうなこの状況。抱きついてくる両腕もまた柔らかく、汗ばんで強まった少女の芳香がシャレにならないフェロモンと化していた。

 

 こやつはリュウショウ、こやつはリュウショウ、こやつはリュウショウ……!!

 

 リュウショウの顔を思い出し、何とか耐え抜こうとするネテロ。

 今のアイシャの顔を見たり、水浴びの時を思い出したりすると、マッハで理性ヤバイ。

 

 

 

「あーうむ……

 ……おぬし、ワシラは好敵手同士と違うんか。なんで恋人の真似事なんぞしよる」

 

「んー?

 だってぇ、ねてろのことむかつくけど、とっても大好きだしぃー♥」

 

「うおぉい」

 

 恐るべきカミングアウトに戦慄するネテロ。

 

「……だぁって。

 ネテロってば好敵手好敵手言ってるわりに、やたら女の子扱いするしさぁー。

 あんまり優しくされるとー……

 アイシャちゃんとしても、戦う気がなくなっちゃうわけですよぉ」

 

「……。

 アイシャ嬢ちゃんが苦しんどるのは分かっとったからの。

 お主を少しでも楽にしてやりたくて、つい、な」

 

「ハイ。真面目な話、禁止ぃー♥」

 

 後頭部でぽよんぷよんと弾ませるアイシャ。

 

「ぐわぁぁぁぁッ!! ワシの理性が消えていくぅぅぅッ!!」

 

「あっはは。ネテロってば、おっかしぃー。

 元男におっぱい押し付けられて喜んじゃってるぅー♥」

 

 ……コレハヒドイ。むしろ、ご褒美です?

 

 

 

 いつまでも離してもらえず、ネテロは諦めの境地に達していた。

 

 はよ、寝てくれんかのぅ……

 

「むにゃー。うーん」

 

 さっきから眠そうな声を出しているアイシャなのだが、なっかなか寝付こうとしない。そして、ハグもやめない……

 うとうとして目が覚めてを繰り返してるせいで、胸の弾みが妙にリズミカルになってる。

 

 ワシ、こやつの感触、完全に覚えてしもうたわ……

 

 アイシャがシラフに戻った時、このことを忘れているのを切に願う。……覚えてたら、照れ隠しに殺されかねない。自分はもう、死ぬまで忘れそうにないが……

 

 

 

「ねーぇー。ねてろぉー」

「……なんじゃ」

「さっき、ネテロのこと大好きって言ったのぉー。うそーじゃなーいよぉー」

「……さよか。

 ワシャてっきり嫌われとるもんじゃと思っとったがの」

「うーん。そだねー。嫌いなのもホントだよぉー。……えっちなこというしぃー」

「うむ」

「ひゃくしきかんのんで、ころそーとするしぃー」

「……ぅむ」

「アイシャのからだメチャクチャにして、すっごぃむかつくけどさー」

「……人聞きが悪すぎるぞ」

「……。きめらあんとの時に、ね」

「んん?」

「むりして、たすけにきてくれたでしょ?」

「……あぁ。まぁ、の」

「さいしょに、おみまいにきてくれた、でしょ?」

「……うむ」

「……アイシャとたたかうために、かいちょうやめたんでしょ?」

「ああ、ワシの為にな」

「ほんとにぃ?」

「…………なんじゃな。お見通しか。

 そうじゃよ。お主の為にも、じゃよ」

「ふふー。

 ……生まれかわって、よかーった♥」

「そうじゃな……

 お主が生まれ変わってくれて、ワシも嬉しいよ」

 

 

 

「ながいきして、ね? ネテロ」

「……。

 どうしたって、お主よりかは、早よ死ぬぞ」

「やだー。アイシャといっぱいたたかってぇー」

「……そう思うて会長をやめたんじゃよ。

 わしゃそんな長くない。じきに迎えが来よるからの」

「やだってばー。ながいきしてよぉー。ネテロがいなくなったら、アイシャ……」

「……心配せんでも、その頃にゃお主の仲間が手強くなっとろぅよ。まぁお主が一番強くなるじゃろうがな」

「ちがうのー。ネテロにいきててほしーのぉー。だって、アイシャのこと……いちばん、わかって……ふぐっ……うっ」

「……アイシャや。

 ワシが死んで、一番悲しむのはお主かもしれんな……」

「なく。ぜったいいっぱいなく。……あなたのうまれかわりさがすもん……おいてかないでぇ」

「無理な相談じゃ……せめて、今を悔いなく、な?」

「うん。……うん」

 

 

 

「……ネテロ」

「なんじゃ?」

「だいすき、だよ」

「……うむ。ワシも、アイシャのことは好きじゃよ」

「ほんとに? うれしいなぁ……ふふ♥」

「……アイシャや」

「なぁに?」

「……幸せにの」

 

「……。しあわせ、だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 

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