アイシャとウラヌスが並んで歩く中、後ろでボソボソ話し合う2人。
「……2人とも、また朝食だって。よく食べるよね」
「アイシャは元々アレだし、ウラヌスはさっきので疲れたんでしょうし、仕方ないんじゃない?」
「うん。……ぼくらはどうする?」
「……食べた方がいいかも。今日も修行キツイわよ、きっと。
もしかしたらこの後、ゲーム攻略ですぐキツイかもしれないし」
「そうだね……
ちょっとでも栄養とった方がいいかもね」
前を歩いて何やら話している2人の後ろ姿を眺め、
「それにしても、あの2人って仲いいわよね。
さっきもアイシャがお願いしたから、ウラヌスも聞いてくれたんだろうし」
「ぼくをダシにしてるんだろうなとは思ったけどね。
確かにウラヌスの能力は教えてほしいけどさ」
「ゲーム3日目でこれだから、1ヵ月もしたらかなり進展するんじゃない?」
軽く笑いながらそう言った姉を、ジト目で見る弟。
「……なに?」
「ぼくは、あの2人そういう目で見ない方がいいと思って。よく分かんないけど」
「まぁアンタには分かんないでしょうけど。……ハタから見てて、すっごいヤキモキするのよ、あの2人」
「そりゃ……普通の人だったらそうかもだけど。
でもあの2人、なんか普通じゃないからさ。
おねーちゃんがへんなことして仲悪くなったら、ぼく怒るよ」
「う……うん。
それは気をつける……」
「いい薫りですねぇ……
あまり期待はしてなかったんですけど、思ったより良かったです」
「うん。ここのは美味しいよね。
珈琲は味より薫りだと思うんだ」
「そうですよねぇ」
ワリとシャレた店内で、優雅に珈琲を楽しむ2人。わざわざカウンター席に並んで座るアイシャとウラヌスを、後ろのテーブル席から眺めるメレオロンとシーム。
サラダをフォークでつつきながら、メレオロンはボンヤリとそちらを眺め続け、
「ほんっとアレよね……
あの2人、普通じゃないっていうか。
見てよ、あの幸せそうに珈琲堪能してるアイシャ。綺麗な足、すらっと組んじゃってさ。美人すぎるでしょ。なんなのアレ、どっかのモデルさん? お持ち帰りしていい?」
「なにボクに聞いてんのさ、おねーちゃん?」
「ウラヌスもウラヌスよ。仕草がふわっふわしてて、小動物レベル高すぎじゃない?
後ろからぎゅっとして撫で撫でしたくて仕方ないんだけど。……ここって、お持ち帰りオッケーだっけ?」
「……あの2人は商品に含まないよ」
熱々のバタートーストを頬張るアイシャ。ウラヌスは野菜たっぷりのサンドイッチを、もきゅもきゅ齧ってる。……何か後ろでボソボソ言ってるのは2人とも分かっているが、無視していた。どうせロクなこと話してないだろうとアタリをつけて。
トーストを平らげ、珈琲を口に含んで薫りを充分に楽しんだ後、
「はぁー。
……ウラヌス」
かちゃりと、ソーサーにカップを戻す。
「なに?」
「聞きそびれそうなんで、今のうちに聞いておこうかと思って。
……幻影旅団のこと、どうして治療してあげたんですか?」
沈黙を返すウラヌス。まだ残っているサンドイッチをなぜか見つめている。
「……モノのついでだよ。ネテロのやつが、護送手伝えって言ってきてさ。
話を聞いたら、あいつエラく大雑把な護送計画立ててたんだよ。
だから俺が計画練り直して、護送車を偽装したりとか色々──」
あ、あれー? それ、手伝いってレベルか?
むしろメインで動いちゃってるじゃないか。……ていうかウラヌス、まだ未成年だぞ。プロハンターとして扱うにしたって限度があるだろ。しかもA級賞金首達の護送なのに、なにさせてんだネテロ。オマエが率先して動かなきゃダメだろ。
「アイシャも知ってるだろうけど、ネテロってああいう性格じゃん?
護送も自分1人でやるとかほざいてんのに、ヤバイ時のフォローだけ周りにさせようとして。ふざけんなっつっても、聞きゃしねーし。
結局、アイツの楽しみと計画の確実性両立させるハメになって」
……ビーンズが苦労するわけだよ、今さらだけど。ふざけんなという意見には全面的に同意する。
「で、その計画も副会長のクソ野郎がリークしやがって。
初っ端からボコボコに襲撃されてさ」
ああ、やっぱりそうだったか……。マジで害悪だな、あの野郎。
あいつホントどうにかした方がいいんじゃないか? 嫌がらせなんてレベルじゃないんだけど。黒の書の件もあるし、全くもって許し難いぞ。
「マフィア連中とか、雇われの殺し屋連中はどうとでもなったけど。
しまいにはゾルディックまで来てさ。
……アイシャは、ゾルディック家って知ってる?」
「え、ええ。まぁ」
知ってるも何も、たっぷりどっぷり関わってます……どうしたものか。
「ゾルディック2人に襲撃されて、ネテロが俺にヘルプ飛ばしてきたんだよ。
……俺は絶対イヤだったんだけど、そのとき助けに行けるの俺しかいなかったし」
さりげに顔を逸らしておく。
……や、やべぇ……私がネテロに頼んだ挙げ句、助けに行かなかったせいで、ウラヌスめっちゃ巻き込んでた。
「成り行きで、仕方なく戦うハメになって。
なんとかゼノって爺さんは退けたけど、何でか更に3人増えて、最終的にゾルディック5人とかに追われてさ」
──ひぃッ!? 想像以上にヤバイことなってたッ!!
私もゾルディックの敷地で一戦交えたけど、あの時はまだ遊んでる感じだったんだよな。仕事で挑んでくるあの人達と戦うなんて、負けるとは思わないが、戦いたいとも思わない。どんな絡め手で来るか分かんないからな。
「まあ、なんだかんだでその場は切り抜けたんだけど。
飛行船で護送車ごと運んでる時に、旅団の連中ずいぶん弱ってる感じだったからさ。
こういうサンドイッチ作って、くれてやったんだよ。治療はそのついで」
話は終わりとばかりに、残りのサンドイッチを頬張るウラヌス。
ええと、つまり……
この人は、ネテロの巻き添えで暗殺一家と戦って、その後に殺人集団を気づかい料理をふるまって、治療までしてあげたと。
……。えぇぇ。
「ずいぶん大変だったみたいですけど……
あの幻影旅団に、そんなことしてあげる必要はなかったと思いますよ」
彼らのこれまでの所業を考えれば、本来は牢獄の中ですら生ぬるいだろう。だからこそクラピカもああいった仕打ちで苦しめるという選択をした。私もその判断は支持している。
ウラヌスは、私に疑わしげな目を向け、
「……それを言うなら、クラピカってヤツやアイシャだって、あいつらを殺してないじゃないか。それはなんで?」
「……」
それは……私には答えられない。
ゴンやキルア、それにレオリオさんは、友達だから一緒に戦ってくれた。わざわざ幻影旅団を殺す理由がない。……生かす理由があるかはさておき。
クラピカは、むしろよく
私は……
父さんが殺されたものと思い、彼らを殺すぐらいのつもりで戦いを挑んだ。
言わば、復讐だ。──クラピカと同じ。
結果的に一命を取り留めたとは言え……私が旅団の1人に致命傷を与えた事実が消えてなくなるわけじゃない。……レオリオさんには、いくら感謝しても足りないくらいだ。
「……偶然ですよ。
彼らが強かったから、運よく生き残ったというだけで」
仕方なく、少し嘘を吐く。レオリオさんの治癒能力のことを、私が勝手に話すわけにはいかない。
サンドイッチを食べ終えたウラヌスは、汚れた親指をなめつつ、
「……、そっか。じゃあ俺も気まぐれだよ。
ついでに説教もくれてやったけどね」
「説教?
彼らになにか言ったんですか?」
「うん。あいつらが掟で縛られて、言い返せないのをいいことにね。
──蜘蛛は、もう死んだんだって」
その現場を想像して、血の気が引いた。あの連中相手にそんなことを言ったのか。
「どうしてそんなこと言ったんですか。
もし旅団が脱獄したら──」
「あー、そうだねぇ。ひょっとしたら俺のトコに来るかもねー。アイツラがよっぽど根に持ったか、暇ぶっこいてたらだけど。
でも、その時はその時さ。アイシャやクラピカだってそうじゃないの?」
「い、いえ、それとこれとは話が別ですよ。
私達は理由がありますけど、あなたがわざわざ彼らを挑発する必要なんて無いじゃないですか」
ウラヌスは小さくうつむき、
「……アイツラの生き方さ。どう考えてもメチャクチャだろ?
他人の意思とか生命なんて、どうでもいいって感じで奪ったり殺したりしてるし。……クルタ族の時なんて、相当ムゴイことしたらしいし」
「ウラヌス……
そこまで知っていて、なぜ旅団に気をかけるんですか? 説教の件はともかく、料理や治療してあげるような相手じゃないって知ってたんですよね?」
私が詰めると、彼はやや怒りを覗かせ、
「……
ムカついたからだよ。
ああ、こいつら何も分からずに生きてるんだなって。生まれた時から流星街かどっかで、ロクな目に遭わなかったんだろうさ。奪うのが当たり前、殺すのが当たり前って……
だから、メシ食わせて、ケガ治して、ゲンコツ落として、叱ってやりたかったんだ。
──ちゃんと生きろって」
……。そっか……
グリードアイランドで会った旅団が、少し様子が違ったのは、きっとウラヌスが影響を与えたからか。……そんなことを彼らに正面から言ってのけるのは、ウラヌスぐらいしか居なかっただろうしな。
あの蜘蛛を相手に施そうという気概は、私には持てそうにない。まず間違いなく彼らは拒絶するだろうし、おそらくウラヌスも拒絶されただろう。
それでも彼は、蜘蛛の心を少し動かしてみせた。……かも、だけど。
もしそうなら、更生の余地はあったのかもな。旅団というくくりでは難しくても、あのうちの何人かだけなら。
ただ彼らは、犯してきた罪があまりに重すぎるしな……。仮に更正したくても、そんな環境は誰にも用意できないだろう。リィーナでもおそらく不可能だと思う。
私が物思いに耽っていると、ウラヌスはピン♪ と指で珈琲カップを弾き、
「……マスター、珈琲同じのおかわり」
「あ、私も珈琲おかわりください」
「おーい、こっちも珈琲おかわりちょうだーい」
「ぼくも珈琲おかわりー」
「かしこまりました。少々お待ちを」
気になって、後ろを振り向く。興味ありげにこちらを見ている2人。
「今の話、聞いてました?」
メレオロンはうっすら笑みを浮かべ、
「まぁね。
なんとなくだけど、2人とも優しいんだなって」
「……それはウラヌスに言ってあげてください。私なんて──」
「俺は甘いだけだよ。
……なんつうか、反射でやっちゃうんだよな。後で考えたら、なんであんな馬鹿なことしたんだろって、しょっちゅう思うよ」
……。ウラヌス、反射で人に優しくしちゃうんだ。筋金入りだな……
「さて、この後どうするかって話もしないとね。
坑道で鉱石拾いでもしてみる?」
私と後ろの2人を見回しながら尋ねるウラヌス。私は珈琲を口にし、回答を保留する。
メレオロンとシームは難しい顔。
「……怪物と戦うのよね?」
「そうだな。暗くて狭いところで」
「危なくない?」
「シームは、怪物と戦うのが危なくないと思うか?」
「そうじゃなくてさ。
怪物が強いとか弱いとか、そういう意味で」
「うーん。
強さ的な意味なら、1対1だったらまず問題ないんだけど、敵はよく集団で来るしな。乱戦が怖い。
怪物の方は夜目が利くし」
ふむ。気になるから、いちおう確認しておくか。
「今ウラヌスが言ってるのは、普通の坑道の話ですよね?
『闇のヒスイ』はどうなんですか?」
「……そっちは夜にならないと挑戦できないし、パスしとこう。怪物もキツイから。
ただ普通の坑道でも油断できなくて、怪物が毒で攻撃してくるから無傷で済ませないと面倒なことになる」
「毒ですか……
なにか対策は?」
「解毒剤が売ってるね。それで対処できるはずだよ。
ある程度の念能力者なら、多少毒には抵抗できるんだけど……」
私を窺ってくるウラヌス。ああ、まあねぇ。
「今の私だと、どうなるか分かりませんね。無傷で切り抜けた方がいいでしょう。
あなた達はどうですか?」
「わかんない」
「わかんない」
「俺は基本、毒効かない」
……。
キメラアントの2人が分かんないって返したのに、さらっと毒効かないて。ウラヌス、なんなんだアナタは。
「やっぱ相応のリスクはあるかなぁ。
粘らずに、少し入ってすぐ出たら大丈夫だろうけど。……粘ってると、敵が強くなるんだよね」
「仮に入るとしても、4人で入るんですか?
私とウラヌスだけではなく」
「多分その方がいいかな。
バラけるのもリスクあるし、怪物と戦う役、鉱石を拾う役で分担するとかなり楽。
フリーポケットがすぐ一杯になるくらいカードを拾えるから、パッと金も稼げるよ」
なるほどね。修行にはなりそうだけど。……オーラで敵を捉えられないから、明かりがないと流石に戦えないかな。どうだろ? 試すくらいはした方がいいか?
「私はちょっと挑戦してみたいですけど」
「だってさ。2人は?」
渋い顔する2人。あはは、嫌がってる。
ウラヌスはやけにニヤニヤしながら、
「そっかそっか。2人はイヤか。
いやー残念だなぁ。ちゃんと金稼いだら、今日も旅館泊まろうかと思ってたのに」
『うぐっ!?』
呻く姉弟。大変分かりやすい。つまりやらなかったら、今日泊まるところのグレードを落とすってことだ。なかなかエゲツないっすわ。
「それは残念ですねぇ。
あまり贅沢に慣れてもいけませんし、クリアする為にも節約しないとダメですよね」
「そうだよねぇ。
お金があれば英気を養うのも全然アリなんだけど。いやー、残念無念」
表情を曇らせまくる姉弟。
「ひどくない? この2人」
「ひどいよね。ぼくキライになっちゃいそう」
それを楽しげに眺めながらウラヌスは、
「ひどくて結構ですぅー。
で、答えは?」
2人はぶつくさ言いながらも了承し、みんなで坑道へ入る支度を始めた。
デパートで必要な雑貨を購入。解毒剤も購入して、全員自分のポケットに忍ばせた。
トラリアの安宿を1部屋だけ借り、リュックはそこに置いていく。慣れない場所だし、流石に2人が背負ったまま入るのは危ないだろうと判断して。そりゃそうだよね。
メレオロンとシームが、両腕に懐中電灯を括りつけるという荒っぽいやり方で明かりを確保。私とウラヌスはカードをフリーポケットにぎりぎりまで詰め込み、『同行』などの必要最低限のモノを残してメレオロンとシームのフリーポケットを40枠ずつ空けておく。トレードショップにお金カードも預けた。
────ひと通りの準備を終えて。
私達は、ウラヌスが入った経験があるという、岩壁に開いた坑道の前に立っていた。