どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第六十章

 

「ただいまー」

『おかえりー……』

「ちゃんと修行してましたか?」

「してたわよー……」

「うん……」

 

 修行場に戻ってくると、姉弟は疲れきった様子で休憩していた。私が見た限りちゃんとやってたっぽいけど、ウラヌスがさりげなくチェック。私にアイコンタクトで、サボってなかったみたいと知らせてきた。それは何より。ウラヌスの目が便利すぎるな。

 

 なんだかんだで真面目に修行している姉弟に満足しつつ、私も早速修行を再開。全身を鍛えながら、ウラヌスの修行をどうするか検討していた。

 

 まず、オーラ量や身体能力を伸ばす修行はダメ。一切伸びない。

 

 体術の最適化。……これも厳しい。半年経てば衰弱し、最適状態ではなくなってしまう。

 

 念の修行。……いや、いま私オーラ見えませんから。どうしろと。

 

 というか念能力の知識で言えば、ウラヌスって私を越えてるんじゃないか? あの目と神字の相乗で、とんでもない知識量と精度になってそうだけど。

 神字の研究量も尋常じゃなさそうだしな。身体を鍛えられないなら、知識を増やすのは当然だろう。彼も命懸けだ。

 

 ……私が介入する余地どこですか?

 

 風間流? うーん……どうだろなぁ。ウラヌス、我流である程度以上の段階に達してるみたいだしな。歩法に到っては、私と遜色なく渡り合えてるほどだ。時間をかけないと、今より伸ばすのは難しいだろう。でも半年ごとに弱体化が起こるから……

 

 ……。

 

 アレだな。今ひとつウラヌスを鍛える気になれなかったのは、私どっかで気づいてたのかもしれないな。このヒト鍛えるの無理だって。話を聞いてる限り、彼は生きていくことそのものが修行か戦いのような苦行だもんな……

 

 くっ、こんなはずでは。しかし鍛えるのを引き受けた手前、無理だなんて言いたくない……。何とかしないと。

 

 時折りメレオロンとシームの方に目をやっていたウラヌスが腰を上げ、私の方へ歩いてくる。そばで立ち止まり、

 

「アイシャ。

 無理に考えなくていいよ」

「……」

「俺の修行方針で悩んでるんだろ?

 自分でも無理くさいって分かってたのに、キミに変なこと押し付けて後悔してるんだ」

「……。

 そんなこと言わないでくださいよ。もう少し時間をください」

「別に構わないけど……

 アイシャが自分の修行を疎か(おろそ )にするくらいなら、修行のお願いを撤回したい。……あの2人だけで充分だよ」

 

 私、悩むとダメだな……。自分でも分かってることだけど、修行に打ち込めなくなってしまう。雑念を払いたくても、修行することで解消できない事柄だとどうしても気が散りがちになる。

 

「キミが他人を指導するに足る実力者であることは、重々承知してる。

 けれど、俺の状態は度が過ぎてる。

 ……もう7年も付き合ってきた念だ。理解して、今まであらゆる抜け道を探してきた。限界なんだよ、きっと」

「……

 私じゃ力不足ですか?」

「少なくとも武術体術の分野において、アイシャの方が一枚も二枚も上手(うわて )さ。だから俺もお願いしたんだし。

 でも……無理があるだろ、やっぱり?」

 

 ……。

 

 そうなんだよな……

 

 結局、答えは決まってるか。

 

 弱気な目を向ける彼に、私は視線を返す。

 

 

 

「ウラヌス。組手をしましょう」

 

 

 

「……

 俺と、アイシャで?」

「ええ。それしかありません」

「……分かってて言ってるんだよね?」

 

 私は首を横に振る。

 

「無理とか無駄とか、決めつめるのはやめましょう。

 動きを最適化させるところまで詰める必要はないですが……

 それでも、何もしないよりはマシです」

「……

 俺とアイシャが組手をすれば、その分2人の指導が疎かになるよ。それでも?」

「疎かになんかしません。

 あなたも私と組手したぐらいで疎かにしないでください。全部しっかりやりましょう」

 

 メレオロンとシームが、動くのをやめてこちらの話を聞いている。私も修行を続けて、と言うつもりはない。これは修行方針を決める大事な話だ。

 

 ウラヌスはうつむいて、髪をくしゃりとし、

 

「ほんっと、無茶言うよな……

 身になるレベルの組手なんてしたら、影響出ないわけないと思うよ?

 観光はともかく、ゲーム攻略や防衛にも影響が出るかもしれない。ほんの僅かな成果を求めて、そこまでするの?」

「意味がなかったり、あまりに悪影響が出るようなら、すぐにやめましょう。

 私が言いたいのは、です。

 やる前から無意味と決め付けるのはやめませんか?

 ウラヌスは諦めるのが早すぎます」

 

 ムッとした気配がありありと伝わってくる。表情は平静を保ってるように見えるが、

 

「よくよく考えての判断なんだけど?」

 

 言葉からも、嫌がってる気配が伝わってくる。

 

「考えただけじゃないですか。試してもいないでしょう?」

「効率悪いからね」

「あなたが効率を重視してるのは分かります。

 けど、身動きが取れなくなってる時点で問題あるじゃないですか」

「だって……

 時間が足りないし」

「それはあなたが色々なことに構いすぎるからです。

 本当に効率を重視するなら、私達に……なんでここまでするんですか」

「……」

 

 理由は分かってる。彼は、善人だ。今更疑う余地もない。好意に甘えさせてもらってる立場で、こんな指摘をするのは心苦しい。……けど、それでも言わなければ。

 

「あなたの言う通り、無駄な試みかもしれません。

 けど、試すぐらいのことはしてもいいでしょう?

 ……少しは自分に構ってください」

 

 再び髪をくしゃりとするウラヌス。しばらく動かないまま考え、

 

「はぁー……

 んー……

 ……

 うん……。俺1人の問題として考えてたのが、そもそも間違いなんだよな……」

 

 ウラヌスは顔を上げる。諦めた顔つきで、

 

「いいよ、分かった。

 ……ホントのこと言うと、俺もそれしか手がないと思ってた」

 

 こちらを見返すウラヌスに、私は目をぱちくりさせる。

 

「……なんだ。

 おんなじこと考えてたんじゃないですか」

「まぁね。

 ……迷惑をかける程度が大きくて、言い出せなかったんだよ」

 

 メレオロンが溜め息を吐きながら、こちらに歩いてくる。

 

「アンタさぁ……

 それを言ったら、アタシ達こそ立場ないんだけど?

 迷惑どころか、おんぶに抱っこされっぱなしで、どんだけ足手まといなんだか。

 今さらアンタのかける迷惑なんて、迷惑の範疇にも入らないわよ」

「ウラヌス。

 ……そんなのボク達、迷惑だなんて思わないよ?」

 

 姉弟の言葉に、顔をゆがませるウラヌス。

 

「……だそうですよ。

 いいじゃないですか、少しぐらい」

「まったく……

 ズルイよなぁ、こういうの」

 

 目をこすり、息を吐くウラヌス。

 

「分かったってば。

 改めて、組手の申し出を受けるよ。

 よろしくお願いする」

「こちらこそ。

 ……どういう形式でやります?」

「んー。そうだなぁ……」

 

 

 

 相談した結果、思ったより本格的に行うことになった。

 

 まず、短時間で終わらせる。いつまでもやってると、それこそウラヌスのオーラが切れかねないので、10分から20分程度。長くても30分。

 私は重しを全て外し、ウラヌスに『周』を纏わせてもらう。つまり、前にやった『絶』での組手と異なり、オーラ有りの手合わせだ。

 もちろん、お互い怪我はさせないように。決定打を寸止めし、その時点で仕切り直す。

 さいわい私自身の修行にもなる。今の状態で慣らすのは、私にとって1ヵ月しか意味を為さないことではあるが、半年経つ度に弱っていくウラヌスの苦境に比べれば、そんなの言い訳にもならない。

 

 訓練場中央に向かい立つ私達。これも修行になるだろうと、休憩がてら姉弟には観戦をしてもらう。

 私は出来るだけ平静を保つようにする。どうしてもウラヌスのオーラを纏うと、幾らか高ぶりがあるから、意識して気を静める必要がある。

 それに対し、相対するウラヌスは緊張している様子だった。

 

「……らしくないですね」

「ん?

 ああ、ちょっとね。

 怪我させちゃいけないとか、色々気にしてるんだけど。

 ……なんて言うのかな。キミのことが怖いのかもね」

「そんなこと言っても、手は抜きませんよ?」

「もちろん。油断してたら、それこそ怪我するからね。

 短時間と決めたんだし、お互い集中しよう」

 

 風間流の構えを取る。

 

 あの時と同じように、彼は構えない。……彼は本当に流派を持たないのだろうか。けど、あれだけの技術を1人で身につけることはまず不可能だ。少なくとも誰かと戦い、技術を学び取ったはず。

 

 互いに動かない。

 

 ──動いたのは同時。

 

 彼が1歩目の為に足を浮かせ、私は滑るように地を蹴る。縮地を使い続けるうち、ほぼ身体を動かさず移動する感覚が染みついていた。予備動作を極力抑え、最小にして最速の移動を行う。

 浮かせた足を置くウラヌス──元の位置に。不意を打てないことは承知で、ウラヌスが無造作にぶら下げる右腕を──

 

 掴んだ、が掴まれた。私の左手と彼の右手が掴み合う。即時柔を仕掛けるが、どう力を加えても動かない。おそらく事前に目で察知され、正確な反力で無効化されている。

 手打ちの柔で通じないならと、至近距離で胸板目掛け右の肘打ちを放つ。退くウラヌス、その力を利しようとしたが、それでも彼の右手は動かない。

 

 合気の対策を熟知している。関節を極めれば投げられなくもないだろうが、それは怪我では済まない。万一にも関節を砕かれる愚は冒さないとは思うけど……

 

 腕刀、踏み、蹴り、手刀を繰り出すが、全て防がれる。

 

 やはり動きを読まれてる。なら──

 

 ぎりり、と掴んだ右手を締め付ける。彼も握り返してくるが、当然無力化はできない。彼が微かに顔をしかめたところを、動かない手を軸に頭突きを放つ。胸板で止められるが、構わず捻りこむように押し込み、体勢を崩させる。同時に握り合った手も動く。

 

 勢いを殺さず、頭と握りこんだ手でそのまま彼を地へ沈める。跳ね起きようとした彼の鳩尾(みぞおち)へ、一瞬早く右手の親指が触れた。

 

「……まいった」

 

 その言葉を聞き、私は左手を離す。……軽く痺れてるな。握力で競うのはマズそうだ。純粋な筋力なら私が上だろうけど、握力は純粋な腕力だけでは決まらない部分がある。

 

「……シーム、分かった?」

「わかんない」

「そうよね。アタシも分かんない」

 

 聞き覚えのあるやりとりを耳にしながら、私はウラヌスが立ち上がり、パンパンと土を払ってるのを眺める。

 

「目ぇ使ってんのにコレだもんな……

 マジ勘弁してほしい」

「……『流』をしてませんよね?」

「してないよ。

 アイシャも今は無理だし、大体怪我するじゃん?

 おまけに、俺の『流』におかしなところがあっても、誰も指導できないわけだし」

「まぁ……」

 

 そうなんだよな……。念の指導はどうしようもない。元々『流』は相応にリスクのある技術だ。オーラを『凝』で寄せれば、攻撃力はもちろん防御力も片寄る。『流』を用いた組手は、多少の怪我はやむをえない一面がある。擦り傷打ち身程度はまず絶えないだろう。

 

 修行の為と言えど、私達がその手傷を負うワケにはいかない。もちろんウラヌスは治療してくれるだろうけど、アテにすれば彼は当然怒るだろうし、オーラを更にすり減らしてしまう。ゆえに自分の身は、自分で守らなければならない。……それがまた修行の難度を上げてんだよなぁ、もう……

 

 特に開始の合図もなく、私が風間流の構えを再び取った瞬間、ウラヌスがゆらりと歩き出す。幾度入れたか分からないほど微細な重心移動のフェイントを目にし、僅かな崩れを自覚する。見逃さず、両腕を蛇のようにしならせ伸ばすウラヌス──

 

 右手は弾いたが、左手は弾ききれず衣服を掴まれる。即座にその手首を掴むが、やはり投げられない。この分だと関節を外せる気もしない──そんなことは試しもしないけど。

 

 右腕が私の腰にぐるりと巻きつく。ウラヌスがほぼ密着。こちらの体勢が悪いのもあるけど、いかに力を込めようが動いてくれない。

 触れられもしていない膝が曲がる。

 

「──っ!」

 

 力を入れても抵抗しきれず、腰が地に落ちた。

 

 身体を密着していたウラヌスが、倒れ込んだ私からすぐに離れる。

 

「ふぅー……

 正直、今の体勢から決定打が撃てたか微妙だけど、仕切り直していい?」

 

 ……なんだ、今の技術は。いや、そんなことより……

 

「今のは私の負けで構いませんが、せめて降参するまで待ってほしかったです」

 

 私が苦言を呈すると、なぜかウラヌスは顔を赤くして、

 

「んにゃ……

 そうするとワリと変な体勢が続くじゃん? だからその……」

「あ……はい。

 気を使わせてすいません……。でも私は別に構わないですけどね」

「なぁんだ。寝技しないの?

 くんずほぐれつ」

「……ほら、ああいうバカが見てるし」

「目潰しでもしといた方がいいんでしょうかね?」

「やめて。ホントにお目め潰れます」

 

 

 

 幾度も組手を仕切り直し、いくつか分かったことがある。

 

 1つは、思ったより私はウラヌスの『周』を纏っている状態に慣れていない。身体能力自体は強化されておらず、あくまで防御力向上のみ。それでいてオーラ自体は私の動きに少なからず影響を与えるので、まだまだ感覚的なズレがある。

 

 もう1つは、私とウラヌスの体術には、この条件下だとほぼ差がないということだ。

 彼は目の力を私との組手に用いている。私も特に制限はかけなかった。それで彼が有利かと言うとそうでもなく、彼は私の疲労を加味した身体能力に、自らのオーラによる身体能力強化で互角のパワーになるよう調整しているようだ。私はそんなこと気にせず動けるから、内容は同等なように見えて彼だけ消耗が著しい。

 

 対して私は、これほどの技量を持った相手に怪我させずという条件を課せられている。それは彼も同じだが、意外に私の攻撃手段は相手を傷つけるモノが多い。ゴン達相手でも失神程度のダメージは与えていたのだ。それは……そこまでしないと修行にならなかったからだけど。

 

 私の合気に対処できるウラヌスに、怪我をさせず攻撃しようとすれば手段を極端に制限される。私同様、読みに長けた彼を相手取るにはキツイ条件だった。

 

 

 

 どさっ、と腰を落とすウラヌス。

 

「……ごめん。も、無理」

 

 結局10分と少しで、彼は音をあげた。

 

 最初の頃は、高重量で消耗していた私が押されていたけど、徐々に回復する私に対して疲労を深める彼の動きはかなり悪くなっていった。最後の1本は、くたくたになった彼の動きが読みづらく、却ってやりにくかった。まぁ勝ったけどね。

 

「お疲れ様でした」

「うん、お疲れ……

 なんか疲れてるのは俺だけっぽいけど」

 

 はっはっは、やっぱりバレてたか。短時間でもなかなか充実した組手ではあったけど、疲れきった彼を相手しても仕方ないしな。切り上げ時だったんだろう。

 

「……

 シーム、どれぐらい分かった?」

 

「……

 おねーちゃん、聞くだけムダなこと聞かないでよ」

 

「そうよね……どこをどう参考にすればいいんだか。……どうせなら、あの巨乳をもっとぐねんぐねん活かした寝アダー!! 目が、メガー!!」

 

 またイランこと言おうとしたメレオロンを一撃する。……軽めに叩いたんだけどな。

 

「目なんか突いてませんよ?

 デコピンしただけです」

 

「んぎゃー!! 衝撃だけで両目が痺れたんだけどッ!?

 イタイイタイ!!」

 

 知りません。勝手に転がってなさい。

 

 

 

 

 

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