第六十六章
「つか、『宝籤』20枚足らずで指定ポケットなんて、引けるわけないだろー?
アタリを1枚以上引ける確率、考えてみろよ」
「ぅるせー……」
トレードショップの中で不要カードを売りながら、すっかり落ち込んだモタリケさんを言葉でちょこちょこ突っつくウラヌス。……少し可哀想ではあるけどね。無闇にドキドキしちゃったよ。
100枚近くカードを売却して、約8万ジェニー。続けてウラヌスは、貯金を32万ジェニー下ろす。
モタリケさんからバインダーを預かり、カード整理するウラヌス。
「ほれ、報酬。改めろ」
ウラヌスがモタリケさんにバインダーを返す。私達も内容を覗き込む。
『1万J』が20枚、『窃盗』1枚、『再来』2枚、『同行』1枚。
そして最後のページに『交信』1枚。
これって、けっこう大盤振る舞いのような。20万か。私達にとって必要な『同行』まであげてる。これがあれば誰かに襲われた時、逃走しながら助けを求められるからな。そういう緊急時用だろう。
「こ、こんなにいいのか?」
「うん? いらないなら返せよ」
「いやいやいや!
くれたんなら、返せとか言うなよ……」
「ったく。お前も、しょーもないことで呼ぶなよ。
俺達はゲーム攻略で忙しいんだぞ」
「分かったよ……
邪魔して悪かったな」
「せいぜい嫁さんと元気でな」
さらりと告げた一言に、モタリケさんが複雑な表情をする。
その言葉こそが、ウラヌスの言いたかったことなんだろうな……
「……ああ。女房によろしく伝えとくよ」
「じゃあな」
トレードショップから出て、店の前に留まるモタリケさんと別れ、歩き出す私達。私はモタリケさんに軽く会釈する。手を振るモタリケさん。
私達がある程度離れたところで、スペルカードで飛んでいくのが見えた。方角はアントキバ。
『はぁー……』
ウラヌスとメレオロンが揃って溜め息を吐き、ぎょっと顔を見合わせる。私とシームも顔を見合わせ、くすくす笑った。
「な……んん。
悪かったよ、みんな付き合わせて。特にメレオロンは嫌だったろ?」
ウラヌスが尋ねると、メレオロンは何とも言えない顔をする。
「……まぁ最初はね。この間のことも、よっぽど何か言ってやろうかと思ってたけど。
でもアンタ、アイツとずいぶん仲良さそうだったし、邪魔しちゃ悪いかなって」
「んー?
ワリと険悪だった気がするけど。遠慮なく悪口言い合ってたし」
「……私はああいう関係も、友達だと思いますけど?」
確認の意味も込めてそう告げると、ウラヌスは嫌そうな顔1つし、
「いやー。アレは違うよ。
ああいうのは腐れ縁って言うのさ。アイツが友達とか吹く」
きっぱりそう言ってくる。……ウラヌスにとってはそうかもね。モタリケさんが貴重であろう『交信』を使ってきた理由は、多分そういう認識ではなかったからだろうけど。
「アイツの事情、やけに詳しそうね」
メレオロンが話を聞きたそうに言うと、ウラヌスは少し口を噤み、
「別に話したっていいけど……
アイツのこと知っても、仕方ないと思うけどな」
「そりゃねぇ。
でも、あんなどうしようもなさそうな男にアンタが気をかけるのは、それなりに事情を知ってるからでしょ? 興味も湧くじゃない」
私も気になるかな。ああいう人がグリードアイランドへ入って来るのは、かなり特殊な事情じゃないだろうか。……失礼ながら、バッテラさんがあの人をプレイヤーとして雇うとは思えないし。
ウラヌスは考える素振りを見せた後、1つ頷く。
「ま、ここは人も多いから場所を変えよう。
用事もあるし、『再来』でトラリアに行こう」
「……トラリアってどんなトコだっけ?」
メレオロン、すっかり忘れてる模様。
「鉱山都市ですよ」
「ああ、あそこか!
……なんであんなトコ行くの?」
綺麗さっぱり忘れてるな。別にいいけど。
「ウラヌス、アレを取りに行くんですよね?」
「うん。アイシャは覚えてたんだね」
「そりゃもう。早く独占してほしいですから」
「え? アレって何よ?」
「……おねーちゃんさぁ」
ほとほと呆れた声を出すシームに、狼狽するメレオロン。
「えぇぇ? 分かんないのアタシだけ?」
「アレだけ劇的な取り方されたら、忘れる方が難しいですよ」
私がそう言うと、ウラヌスがちょっと眉をひそめる。
メレオロンが腕を組んで「うーん?」と考え込む中、
「モタリケの話は、コーヒー飲みながらでもするさ。
さっさと行くよ」
「あっ、珈琲屋! それは覚えてるわ」
なんでだ。
『再来』でトラリアへと飛び、昨日と同じように入口から散策しだす私達。ウラヌスは時折り空を見上げている。
「そういえばさ」
「うん?」
空を見上げていたウラヌスが、メレオロンの声に振り向く。
「ここって、アレキサンドライトも取れるの?」
「原石か? 取れると思うよ。
俺が取ったわけじゃないけど、カードが存在するのは知ってる」
「えーっと……
そっちは別に良くて。……指定ポケットの方は、いつ取りに行くんだろって」
「お?
……あ! 奇運の方か。
そういや聖騎士取ったのに、行ってないな」
あー、そういえば。『奇運アレキサンドライト』のこと、すっかり忘れてたよ。
「……ま。どっかのタイミングで、ついでに取りゃいいさ。
アレを独占するヤツはまず居ないだろうし」
「アンタがそう言うなら、別にいいけど……」
「短時間でパッと取れるやつは、後回しの方がいいんだよ。アレなら独占される可能性も低いし。
指定ポケットカード所有種類数は、トレードショップのランキングで誰でも確認できるしな。早い段階であんまりたくさん取ると、ランキングで目立ってマークされちまう」
「そうなのっ!?」
「あれ、言ってなかったっけ?
所有種類数ランキングってのがあって、上位30位まで各プレイヤーの名前とそれぞれの指定ポケットカードの所有種類数が聞けるんだよ。……金いるけど。
まぁ俺達4人いるし、分散して持つようにしとけば大丈夫だろうけどね。
一気に集めるのは、1ヵ月後からでもいいくらいさ」
ふむ。100種もあるし、限度枚数の問題もあるから、急いで集めたくなるのが人情だけど、それはそれでマズイのか。
ウラヌスが攻略を急がずに情報収集してたりするのは、それもあるのかな。
街中を10分ほど進んだところで立ち止まり、「見つけた」と言うウラヌス。大通りから逸れ、出来るだけ目につきにくい場所へ移動する。
「──『名簿/リスト』オン。80」
現在 80「浮遊石」を
所有しているプレイヤーは
1人
所有枚数は
1枚
「っし。まぁ大丈夫だとは思ってたけどな」
「……ねぇウラヌス」
「なに?」
声をかけるシーム。ウラヌスはそちらを向く。
「昨日調べた時、0枚だったんでしょ?
浮遊石がここで1日1つだけしか取れないなら、いま空に浮かんでるみたいだし、誰も持ってないのは当然じゃないの?
『宝籤』で取れる確率も低そうだしさ」
ウラヌスはうんうん頷き、
「シーム、いい質問。
確かに誰も今まで取ってないなら、いちいち『名簿』で調べる必要ないわな」
「……だよね」
「ところが、『名簿』の調査は完璧じゃないんだよな。
ねぇアイシャ?」
おっと。ウラヌス、私に振ってきたよ。
「他のカードに変身させて、隠し持っておける──ですよね?」
「やっぱり、アイシャもそれ気にしてたんだよね。
独占、急かしてたし」
「ええ」
貴重な指定ポケットカードを、『擬態』で『聖水』に変身させて隠し持っておく。前回、私達のカード争奪戦の決め手になった作戦だ。
そうでなくても、レアカードの奪い合いを避ける為に有効な手だろう。今回の場合なら、昨日ウラヌスが『浮遊石』を入手したことに気づいた『浮遊石』を隠し持つプレイヤーが、慌ててカードの変身を解き、そのカードを『複製』で増やして、限度枚数をMAXにしてしまう可能性もあったわけだ。
その辺のことを、メレオロンとシームに説明する。
「へー!」
「頭使ってるのねー、アンタ達……」
2人は感心して聞いてたけど、ウラヌスは渋い顔してる。なんで?
「俺はあんまりいい手だとは思わないけどな。
誰かがやってる可能性は警戒するけど」
んー。それって……
「なんとなーく、アイシャも分かってるんじゃない?」
「えっと……
バレてたら対策されるってことですか?」
「まぁそれもあるけど。
大体『擬態』なんて数取れないし、もったいないよ。『堕落』でいいと思うけどね」
「いえ……
それだと『聖水』に変身させられないですし」
「俺なら『聖水』は、『名簿』で枚数警戒しておく。念を入れるなら『擬態』もだけど。
『聖水』は唯一フリーポケットでも奪取を防げるカードだし、あきらかに『徴収』対策だもん。ゲーム終盤で急に所有枚数が増減したら──」
あ、確かに。それで警戒されて、作戦が露見した可能性もあるな……
もし『名簿』で調べて怪しまれた後、私達全員のバインダーを『念視』で調べられたりしてたら……バレるな。完全に。
「でもその、急にじゃないですよ?
ある程度時間をかけて──」
ウラヌスは首を横に振り、
「それだと、より大きなリスクが発生する。
もし自分達がカードを変身させて隠し持ってる間に限度枚数を一杯にされたら、変身を解けなくなるじゃん。そしたら最悪、貴重なカードが1枚パー。
俺なら危なっかしくてやりたくないね」
あ、あれー? 言われてみれば……そりゃそうだよ。貴重なカードを変身させてたし、その可能性は低くなかった気がする。
ゲ、ゲ、ゲンスルーさん、結構危ない作戦だったみたいですけど? 今さらヒヤーっとしたよ。
ああ、ウラヌスが敵じゃなくてホントに良かった……
この人、怖すぎるよ。一度聞いただけで、あっさり作戦の急所に気づいちゃった。
「よく気づきますね、そういうの……」
「んー。
気づかなかったツェズゲラとハメ組がアホなだけだよ。
ハガクシとトクハロネは、アイシャ達からの交渉受けなかったんだろ?」
「え、ええ」
「じゃあ警戒されたのかもねぇ。
連中も、似たようなことしてたんじゃない?」
うっわぁ。頭脳戦ハンパねー。
グリードアイランドにいる海千山千の
「そういうリスキーな踏み込みも、クリアするには必要だろうけどね。
現に俺はクリアできてないわけだし」
「……きっと、今度はクリアできますよ」
「だといいけどねぇ。
ま、とにかく『浮遊石』増やすか。アイシャ、バインダー出して。
『複製』使うから、『浮遊石』預かってほしい」
「あ、はい。ブック」
ウラヌスから『浮遊石』カードを預かり、指定ポケットに入れる。
「アイシャ、『真珠蝗』を外してフリーに」
おおっと危ない。うっかり入れたままなの忘れてた。『複製』は対象ランダムだからな。指定ポケットに違うカード入れてたらマズイ。
「じゃ、バインダー消して」
「はい。ブック」
「ん? なんでわざわざ消すの?」
私達のやりとりに、メレオロンが疑問を挟む。
「『複製』は近距離通常スペルだから。
アイシャの手持ちスペルに『城門』があるから、バインダーを出したままだと反応して15秒ペカる。……なんかイヤじゃん?」
はぁー。そういうの、逐一見逃さないなぁ。今のは私も分かったけどさ。
「なんかさぁ。そこまで考えるの、アンタしんどくない?
楽しくないと思うんだけど」
あ、メレオロンそういうこと言っちゃうんだ。……私も思ってたけど。
ウラヌスは苦笑しながら、
「俺は好きでやってんだよ。
みんなはそこまで考えなくていいさ。楽しくないだろ? そういうのは俺がやっとく」
あっはっは。……これはもうね。申し訳ないというか、なんというか……
「ちょっと待ってよ、ウラヌス。
アレ取ってからの方がいいんじゃない?」
シームが上を指差す。多分そこじゃないだろうけど、ウラヌスが認識する空のどこかに1つ浮かんでるはずだ。アイテムの『浮遊石』が。
「いや、順番はこれで合ってる。
シーム。カード化限度枚数が一杯のアイテムは、入手するとどうなる?」
「……
えっと、カードにならない……?」
「その通り。
じゃあ、そのアイテムをカード化しようと思ったら?」
「えー……
すでにカードになってる分を、解除させる? でいい?」
「YES。
よってカード化限度枚数が一杯のアイテムを、予め入手しておくことには意味がある。ゲイン待ちって言うんだけどな。
ゲイン待ちのアイテムは、カード化する順番が決まってる。入手の早い順に、カード化していくんだ」
うん、ゲンスルーさんも同じこと言ってたな。間違いないだろう。
「私達も前回、『闇のヒスイ』で同じことをしました。
自分達で自力入手して独占、ゲイン待ち対策に10個ほど余分に取りましたよ」
私がそう言うと、ウラヌスはニヤリとし、
「お、やるね。
『闇のヒスイ』なら持ち運び楽だし、いい手だよ。
それと同じだな。『浮遊石』を独占して、カード化しないアイテムも確保、ゲイン待ち対策ができる」
「でも、独占カードを奪われたら意味ないんじゃないの?」
メレオロンの質問に、ウラヌスは頷いてみせる。
「奪われたら、独占が崩れるって意味ならそうだね。
でもカードは奪われるだけじゃなく、ゲインしたり破壊されたりもするから。あくまで用心の1つさ。持っておいて損はないと思うよ」
ウラヌスは空を見上げ、
「ま、とはいえ……
アイシャ達がやったみたいに、たくさん確保まではしなくていいかな。取ってるところ見られたら、俺達が独占してるのすぐバレるし。
とりあえず1個、ゲイン待ち対策で取っとこう。そんで充分かな」
「オリジナルって高く売れるんじゃないの?
そこまではしない?」
あ、そっか。『複製』で増やして、元のオリジナルカードは売ってもいいのか。
尋ねたメレオロンに対し、ウラヌスは悩む素振り。
「どうだろなぁ。独占カードが全部『複製』ってのもな。
もし狙われて『看破』を食らったら、変身が解けて全部ぶっ飛んじまう。ゲイン待ちで1枚カードに戻るけど、それも1分以内にバインダーへ収められない状況だと──」
「全部なくなってしまいますね……」
それはヤダなぁ。……そうだな。オリジナルカードを1枚も持ってないのは、そういう怖さがある。
「予定変更は無しかな。
『複製』で『浮遊石』を6枚増やして、ゲイン待ちの『浮遊石』を1個確保する」
その宣言通り、私達は『浮遊石』7枚を独占し、空を駆けたウラヌスが、『浮遊石』を持って下りてくる。
「よっと」
ふわりと軽快な足取りで着地するウラヌス。その手に紐を掴み、その先にはぷかぷかと袋が浮かんでる。
入手してもカード化しない為、『浮遊石』はヒト1人浮かせるだけの浮力を保ったまま。その対策として、神字で重量の増した小さな布袋を持っていき、それに入れて空から持ち帰ってきた。
これ、結構エゲツないな……アイテム状態のまま入手するの、かなり難しくないか? ウラヌスだからアッサリ入手できたんであって。これが独占できたの思ったより凶悪かもしれない。前回プレイした時にこの状態になってたら、私が飛んで入手し、ミルキが重くして運びやすくする、といった2人がかりでようやくだろう。
布袋を掴み、ぐいっと身体の脇へ押し下げるウラヌス。しばらく大変だな……。浮力がなくなるまで、そうしてないといけない。
「お疲れ様です、ウラヌス。
……もうちょっと袋を重くした方がいいんじゃないですか?」
「うん、まぁ今はそれでもいいんだけど……
これって太陽の光を浴びない状態だと、徐々に浮力が弱まるんだよ。
だから重くしすぎると──」
「……今度は重しになっちゃいますね」
「なんだよね。
大体1時間ぐらい浮力あるし、それまで珈琲店で時間つぶさない?
こんなんじゃ観光もしづらい」
もちろんそれに、誰も異論はなかった。