どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第六十七章

 

 昨日と同じ珈琲店。

 

 木造で落ち着いた雰囲気のレトロな店。今日は4人とも同じテーブルを囲み、コーヒーだけ頼んでいた。

 

「別にカウンター席、座ってもよかったのに」

 

 メレオロンが言ってくる。……私もそうしたかったけどさ。

 

「そうするとお話ししにくいじゃないですか。

 ……あんまり聞かれていいことでもないですし」

 

 まぁ昨日の話題もそうだけどね。周囲にプレイヤーの気配がないのは分かってるけど。それでも声量は落としておきたい。

 

「昨日はアイシャと話してたけど、今日聞きたいのはメレオロンだろ?」

「まぁそうだけどさ」

 

 メレオロンは、一番モタリケさんのこと嫌ってたけど、ウラヌスとのやりとりで関心を持ったみたいだ。私もワリと気になってる。

 

 ちなみに『浮遊石』の入った袋は、メレオロンの傍らに置いたリュックに紐を括りつけ、どこにも行かないようにしてあった。

 メレオロンはその袋を指差しながら、

 

「そういえば、これって取る前は宙に浮かんでたのよね?

 同じ場所にぷかぷかって」

「ソレのことか? そうだよ」

「なんで、もっと上まで飛んでいかないの?」

 

 あ、ホントだ。言われてみれば、ずっと同じ場所に浮かんでるのってヘンだな。

 

「うーん……理屈は俺にもよく分からんな。重さと浮力が釣り合ってるわけでもなさそうだったし。

 風にも流されず、ピタッと同じ場所に固定されてる感じだったよ。だから『浮遊石』の力で浮かんでたわけじゃないんだと思う。

 今こうやって浮かんでるのとは違う状態だったな」

 

 見ると、ふわふわ浮いたり沈んだり揺れ続けているのが分かる。安定しているとは言いがたいな。

 

「そもそも、普段から似たようなモン見てるだろ?」

「へ? なんのことよ?」

「ブック」

 

 バインダーを出すウラヌス。あー、そういえばそうだ。バインダーってこんな感じで、何の支えもないのに揺れもせず浮いてたな。ていうかウラヌス、そういうのサラっと結びつけて考えられるの、ホントすごいな……

 

 シームは改めて不思議そうにバインダーを眺め、

 

「ウラヌス、これってどうやって浮いてるの?」

「……それが分かったら、浮遊石が固定されてた理屈も分かりそうなもんだけどな。

 ゲームのシステムでこうなってるんだろうけど」

「それじゃ答えになってないわよ」

「まーな。でも何かの能力だろうとしか俺には言えないよ。……ブック」

 

 そっか、ウラヌスにも分かんないのか。いったい何だろうな。彼は能力って言ったけど、私は神字の力じゃないかなと思ってる。今の私にも見えるから、このバインダーもオーラそのものではないんだろう。少なくとも物理的に具現化しているはずだ。

 

 というか、このグリードアイランドは島全体がうっすらオーラで覆われてる気配がするんだよな……実際に確かめたわけじゃないけど。島の外側と直接比較しないと分からないからね。

 

 あ、そうだ。気になったから、ついでに聞いてみよう。

 

「ウラヌス、私からもちょっと聞きたいことが」

「う、うん。

 ……なんか俺、答えてばっかだな」

「ふふ、先生よろしくお願いしますね」

「やめて先生とかやめて」

「はいはい。

 で、質問なんですけど、スペルを他のプレイヤーに対して使った時に光が出るじゃないですか?」

「うん……使ったプレイヤーからは飛んでいかなくなったけど、光自体は今も出てるね」

「今の私にも見えるわけですよ」

「うん?

 ……ああ、そういう意味か。あの光はオーラがそう見えてるわけじゃないってことか」

「ええ。

 光を具現化して、そういう演出っぽく見せてるんだろうなって。

 でないと、オーラが直接見えたら念能力って分かっちゃいますし」

「……、……」

 

 あ、なんかウラヌス考え込みだした。まだ本題じゃないんだけどな。

 

「念能力者しか入れないゲームだから、ハナから念能力か神字って思い込んでたんだよな……

 ふーん……なるほど。

 アレはオーラを光に性質変化させてるから、アイシャにも光として視認できたわけか」

「ええ、おそらくは……」

「なんでスペル使った時に、光が飛んでって当たる演出やめたのか気になってたけど……

 誰かがスペルの光を念能力で対処しちゃって、それで対策入れたのかもね。ふぅん」

「……」

 

 あなたは製作者か。

 

「えっとアイシャ、それで?」

「あ、はい。

 それでウラヌスが神字を書く時って、指先が光ってるじゃないですか?

 今の私でも、その光は見えてるわけですよ」

「ああー……

 よく気づくなぁ、そういうこと」

 

 呆れたように言うウラヌス。……なんていうか、あなたに言われたくないよ。

 

「ま、そこまでバレてるならいいか……

 俺が神字を宙に描く時は、指先にオーラを集めて、それを特殊な発光体に変化させて、それで空間に神字の形をなぞってる。

 高速で描くと、宙に光が残る僅かな時間でも神字が効果を発揮するんだよ」

 

 お、おおおお……

 

 ウラヌス説明できないとか言ってたけど、ちゃんと理屈あるんじゃないか。今の説明で納得いったよ。

 

 ただ、まぁ……

 それが分かっても絶対真似できないな。特殊な発光体がそもそも何なのか分からないし、高速で神字を書くことがまず出来っこない。神字そのものの知識量も相当だろう。

 

「貴重なお話、ありがとうございます」

「うぅん……

 絶対誰にも言わないでね? 俺の生命線なんだし」

「もちろんですよ」

「そろそろモタリケの話、聞きたいんだけどなー」

 

 ぼそっと言うメレオロン。ええぇ……タイミング。

 ウラヌスもすごい不満そうな顔で、

 

「……お前、俺の能力よりモタリケの話の方が聞きたいのか。

 どうでもいいけど」

「深い意味はないわよ。

 はいはいはいはい、モタリケ君の、ちょっといいとこ♪」

「いいトコじゃねーよ。

 アイツが外で犯罪じみたことやってたって話なんだし」

「お待たせいたしました」

 

 ちょうどコーヒーがきたので、冷めないうちに4人とも色々な飲み方をし始める。私とウラヌスはブラック無糖だけどね。

 

「苦くないの?」

 

 メレオロンが私達に尋ねてくる。シームも言わないだけで、表情でそう聞いてきてる。

 

「薫りを楽しんでるんですよ」

「むしろ苦味がエッセンスなんだよ」

「なーによ、2人して(つう)ぶったこと言って」

 

 ツンとスネるメレオロン。そんなこと言われても。

 

 

 

 しばし穏やかな時を過ごした後、コーヒーをいち早く飲み干したウラヌスが、口を開く。

 

「じゃ、そろそろ話そっか。

 アイツが念能力に目覚める少し前からの話なんだけど……」

 

 軽く身構える。長話になりそうだな。

 

「アイツ、元々は何の取り得もないタダの凡人だったらしいんだ。見たまんまだけどね。

 定職にも就かずに、フラフラと仕事を渡り歩いて」

 

 うん? うん……

 

「ある日、酔っ払いとケンカした後、朝まで道ばたで寝転がってたら、いつの間にか念が使えるようになってたんだと」

 

 ……。

 

 ヘタしたら死んでたパターンだな。むしろ生きててラッキーなくらいかもしれない。

 

 この世界じゃ、絶対にないこととも言えないからなぁ……。たかがケンカでも、相手が念能力者ならオーラで攻撃されたはずみで精孔が開いてしまう可能性は充分ある。知識がなければ、オーラを纏っている自覚すらない力自慢がいても不思議じゃないからね。

 

「まぁ念に目覚めたからって、教わってもいない念の使い方が分かるはずもなくて。

 身体能力が上がってることだけはすぐ理解できたから、警備員とか用心棒とかやってたらしい。

 で、高給に目が眩んでマフィアの用心棒なんてしてたら、念能力者と戦うハメになったらしくて。

 全く勝ち目ないことに気づいて慌てて逃げ出したら、そのマフィアから落とし前付けろって追われるハメになって。まーアホだよな」

 

 うぅむ……裏の仕事はそれがあるからなぁ。やらなくてホントよかったよ。

 

「別の大陸まで逃げて、行った先の天空闘技場で腕試し金稼ぎと思って挑戦してみたら、数十日かけて200階まで登れたんだと。

 ただ、あそこって目立つだろ? 特に上階まで行くと、試合の録画とか出回るし。

 結局追っ手に見つかって、200階以上で戦う前に天空闘技場からも逃げだしたらしい」

 

 ……。ホントよかった。裏の仕事やってたら、同じ目に遭ってたかもしれない。

 

「流れ流れて、盗賊団の一員になって。

 団長が念能力者で、そいつに念について色々教わったらしい。モタリケのやつ、手先の器用さを買われて、美術品の贋作をやってたんだと。

 実際には団長がそういうのを得意としてて、手伝わされたらしいけど」

 

「贋作? 盗賊団が?」

 

 思わず問い返す。ずいぶんと回りくどいな。

 

「その盗賊団は美術品のすり替えをよくやってたらしくて。

 念能力者がオーラを籠めて作った贋作は、素人目にも雰囲気が良くなって、本物っぽい感じになるんだとさ。

 美術館や金持ち連中も、すり替えに気づかなかったり世間体を気にしてか意外と事件化しにくいんだって。

 アイツもノリノリで作ってたらしいし、ホントに芸術的な才能あったのかもな」

 

 へぇー。そういうもんか……

 

 確かに高級美術の中には、僅かにオーラが込められたものもある。それを逆手にとって、贋作を本物に近づけるわけか。

 

「で、その盗賊団が、家主が行方不明なまんまの空き家から、グリードアイランドを盗み出したらしい。実際には遊べない代物で、捌けなかったんだけど」

「え? どういうことです?」

 

 遊べないグリードアイランドなんてあるのか?

 

「厳密にはソフトじゃなくて、グリードアイランドプレイ中のジョイステーションだね。

 メモリーカード2枚がじかに刺さってて、誰も新しくセーブできないやつ。まるっきり盗品だし、セーブもできないんじゃブラックマーケットでも敬遠されるわな」

「ああ……なるほど」

 

 500億のクリア報酬を目指すのであれば、セーブできないグリードアイランドなんて意味ないもんな。バッテラさんですら欲しがらなさそうだ。

 

「で、モタリケはそれを押し付けられたらしい。

 仕方なしに貰い受けてたんだけど、ある日気づいたのさ。

 片方のメモリーカードが抜けるようになってるって」

「それって……」

「多分、その片方のプレイヤーが港から脱出したんだろうね。

 興味本位でモタリケはゲームに入っちゃって……

 ゲームから出ることもできずに、あの有様らしい」

 

 ふーむ……私が想像した経緯とずいぶん違ったな。犯罪者だなんて言うから、てっきりグリードアイランドのソフトをモタリケさんが盗むか何かしたのかと思ったよ。

 

「つまりモタリケさんは、犯罪行為に手を染めてはいても、何かの罪に問われたわけではないんですかね?」

「発覚してないかもしれないね。だとすれば厳密には犯罪者じゃない。

 何年も経ってるから、今どっかで指名手配されてるかもしれないし、いまだにマフィアから狙われてるかも。全部杞憂で、とっくにほとぼりが冷めてる可能性だってある。

 ……ま、確かめるのも怖くて、ゲームの外に出たくないのさ」

 

「はぁぁぁ……」

 

 メレオロンがフードに手を入れ、髪をがしがし掻く。

 

「……ごめん。聞かなきゃよかった」

「だろ?」

 

 ウラヌスが苦笑で応える。アレだよね。ずいぶん変わっちゃうからな、モタリケさんの印象が。気軽に聞いていいことじゃなかった。

 メニューを手に取るウラヌス。

 

「え? それでハナシ終わり?

 あいつが結婚するまでの流れは?」

「……おい。いまオマエ、聞かなきゃよかったって」

「だって中途半端じゃない。

 その後の事情も知ってるなら話しなさいよ」

 

 まぁそうだよね。せっかくなら、ゲームに入った後の話も聞いてみたい。

 

「せめて、アイツがお嫁さんと出会った時の話とか……」

 

 メレオロンが言うと、ウラヌスが皮肉げに唇の端を釣り上げる。ん?

 

「なんで俺がこんなこと知ってるんだと思う?」

「は? なんでって……」

「ノロケ話として聞かされたからさ」

「……」

 

 惚気話? んん?

 

「──あっ! 分かった!」

 

 シームがパンと手を打ち鳴らす。ウラヌスがメニューの角を向け、答えを促す。

 

「盗賊団の団長と結婚したんだ!」

「ピンポーン♪ シーム、おみごと。やるねぇ」

「やったぁ!」

 

 は? ──ハァァァァァッッ!?

 

「ちなみに今の話、ほぼ嫁さんの方がしたんだよ。

 モタリケもゲームに入って1年くらいして、団長がゲームの中まで追っかけてきた時は、マジでビビったらしいな」

 

 ハハー……それはスゲー。

 

「まぁ嫁さんの方はそれなりの腕だったらしいけど、ドリアスだのグルセルだので金遣い荒かったせいでまともにゲーム進まなくて、あげく腕が鈍って楽隠居してるけどな。

 ……モタリケって、アントキバで絵ェ描いて小銭稼いでるんだぜ。

 あのツラで絵描きとか何の冗談だよ」

「そ、それは言いすぎですよ……」

 

 別に芸術と顔は関係ないしな。……まぁイケメンでないことは認める。

 メレオロンが訝しげな顔をしつつ、

 

「でもアイツ、結婚したのってゲームの中でしょ?」

「そうだよ」

「ゲームの外で会ってたんなら、なんでわざわざ……」

「……結婚もそうだけど、結婚式とか目立つからな。

 盗賊団の団長とその部下が、シャバでそういうのしづらいってのは分かるよ」

「ああ、まぁ……」

「だいたい最初に惚れたのは、嫁さんの方だしな。

 まさかモタリケも、追っかけてくるほど惚れられてるのには気づいてなかったんだろ。ゲームに興味本位で入ったぐらいだし」

 

 ……分からん。話だけ聞いてる分にはサッパリだ。

 

「ずいぶんと大恋愛ねぇ……一方的な感じだけど。

 浮気なんてしたら、アイツ殺されるんじゃない?」

「殺されるな。

 だからアイシャに声かけたことチクるぞって言ったら、ビビりまくったんだよ」

 

 くっく、と笑いながらウラヌスは答える。……ヤなこと思い出したよ、うぅ。

 

「……もしかしてさ。

 アイツ、アンタのこともナンパしたの?」

 

 思いきり顔を引きつらせるウラヌス。お? これは……

 

「へぇー。

 ウラヌス、ナンパされたんだぁ。へぇー」

 

 シームが無邪気な顔して、意味深にそう言う。

 

「ねぇねぇ。

 男が男にナンパされるのって、どんな気持ち?」

 

 ちょ。メレオロンその聞き方ヤメロ。私にまでダメージがぐわぁぁぁ……! ジワジワ来た!

 

「ぁ、ぐ……

 おぉ、おわり。この話おわり! なんか注文しようぜ」

「えぇぇ。ぼく、もっと聞きたいー。

 どんな感じでナンパされたの?」

「食いつくなシーム!」

「えぇー……」

 

「………………

 …………

 ……。街なかで、プレイヤーが絵なんか描いてて、日をまたいで何度も見かけたから、つい気になって声かけたんだよ……

 そしたらなんか、絵のモデルになってほしぃとか言われて……」

 

「それ、完全にナンパの手口だと思うんだけどなー」

 

 メレオロンがスッパリ切り込む。なるほど、巧妙だな……

 

 いやまぁ、多分絵を描いてたのはナンパの為じゃなく、趣味か生活の為なんだろうけど。その場で上手いこと理由をこじつけたんだろう。

 

「ウラヌス、絵のモデルになりたかったんだ。ふーん。

 モデルって、あれ? やっぱり裸?」

 

 またシームが抉りこんでくる。耳まで真っ赤にしたウラヌスが、メニューで顔を隠してぷるぷるしてはる。いじられ耐性ぜんぜん無いな……

 

「なんで……どうしてこうなるの?」

 

 しらない。

 

 

 

 

 

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