第六十九章
ウラヌスがマメにカード整理をする傍ら、軽い雑談に興じる私達。
そうこうしてるうちに、『浮遊石』の入ってる袋はもうピクリとも動かなくなっていた。
「ん。もういいだろうし、そろそろ行こっか」
ウラヌスが重い袋から普通の袋に『浮遊石』を移し変え、リュックに詰める。
「その袋はどうするんです?」
「これ? もちろん捨ててく。観光の邪魔だしさ。
こっちも数時間で効果は切れちゃうからね」
そう言って、店内のゴミ箱に投げ込むウラヌス。ゴスッと音がした。うーむ……仮にも神字が書かれた物を、こんなぞんざいに扱っていいんだろうか。感覚が麻痺してくるな。
トラリアの街の入口まで移動する私達。
既に色々あったけど、今日観光する場所がこれから決まるな。なんだかんだで、どこへ行けるのか楽しみだったりする。
「んじゃ、追加で手に入れた『漂流』で俺が飛んでくるよ。
どこ行くかの相談は戻ってきた後で」
そしてウラヌスはまた『漂流』で移動した。
周囲を警戒しながら、私達は黙りこんで彼の帰りを待っている。
「……アイシャ。ちょっといい?」
「なんです?」
メレオロンが窺うように話しかけてくる。なんか嫌な予感がするな。
「さっき話してた、アンタが弟子じゃないかとか言ってた件、実際のところどうなの?」
メレオロンも気になったのか。さて、どう返したものかな……
「……少なくとも、ウラヌスが話していた人の弟子なんかじゃありませんよ」
それは本当のことだしな、うん。
「んー……
じゃあ、アンタがムチャクチャ強い理由は結局なんなのよ?」
「そんなこと聞かれましても……」
「まぁ肉体の強さとかオーラ量は別にいいわ。基本、親からもらったモノなんだし。
でも技術は違うでしょ? 後から身に付けるしかないんだから。それなのにアンタの歳ぐらいで、どうやってあんな……」
「1に修行、2に修行、3・4に修行、5に修行ですよ。
当たり前じゃないですか」
「あ、はい……もういいです」
ヤブ蛇だと思ったのか、口を噤むメレオロン。ふぅ、なんとか誤魔化せた……
ウラヌスがスペルで移動してから2分近く経ち、ザッとウラヌスが戻ってきた。
「お待たせ。
さて、どこ行くか相談なんだけど……ちょっと状況整理してもいいかな?」
「なに? 改まって」
尋ねるメレオロン。あれかな。行ける場所が一気に増えたから、混乱しないようにかな。
「今日だけで『漂流』を8枚使ってる。
昨日までに、俺は行けるけどまだ全員で行ってない都市は2つ。
つまり、いま単純に10択なんだ。どこへ行くか、ちゃんと考える必要がある」
ふむ……
「ちなみに全部で25あるうち、俺もまだ今回行ってない都市が9つある。
それに関しては、また行けるようになってから説明するよ。いっぺんに説明されても、混乱するだろうし。
まずおさらいとして、これまでに俺達が行った都市は6つ。
最初に行って何度も立ち寄る、懸賞都市アントキバ。
スペルカードショップでおなじみ、魔法都市マサドラ。
綺麗な桜が印象的な常春の地、桜花都市エリル。
心地よい秋の景色、日々の拠点にもしてる千秋都市オータニア。
今いる宝石鉱石の採掘場、鉱山都市トラリア。
夜の街並みが美しい、礼拝都市ルビキュータ。
……今んトコ、これらが『再来』でいつでも行ける都市だな」
「アンタ、観光業界の回し者?」
メレオロンがまたアレなツッコミをする。ウラヌスは複雑な顔をし、
「お前は何を言ってるんだ」
「褒めてるのよ?」
「うるせーよ。
忘れてそうなヤツがいるから、分かりやすく説明してやってんのに……」
「それはご親切にどーも」
「……んで、今から言うのが観光に行くかどうかって都市な。
こっからはちゃんと聞いてくれよ。
特に目ぼしい観光資源もイベントもない、城下都市リーメイロ。
1から10まで危険がいっぱい、廃墟都市ムドラ。
新鮮な魚介類ならここ、びっくりするくらいイベントに乏しい漁業都市ソウフラビ」
う……
「美術芸術知識の宝庫、芸術都市ブンゼン。
たぶん俺達には縁が薄い呑兵衛の街、酒蔵都市バルカン。
街並みもイベントもまさにファンタジーゲームの具現化、幻想都市ファンタズム。
賭博遊び場闘技場と退廃的なイベント満載、賭博都市ドリアス。
徹頭徹尾美食と飽食の街、飽食都市グルセル。
爽やかな水の都、水路都市キャナリア。
キャナリアの姉妹都市で地底湖そばの最も深い街、湖底都市アクエリア。
──以上、10都市の紹介終わり。どこ行きたい?」
んー……
「もう一回言ってくれる?」
私とシームも思っているであろうことを、メレオロンが代弁した。
顔を引きつらせるウラヌス。
「お、お前……」
「アンタは分かってるからいいけど、アタシ達は知らないんだからしょうがないでしょ。
はい、もう一回」
「……えぇっと……特に目ぼしい観光資源も──」
ウラヌスが律儀にリピートする。うんうん、申し訳ないけど助かるな。
「──最も深い町、湖底都市アクエリア。
以上! で、どこ行くの?」
あ、ちょっと怒ってはる。
「繰り返しの説明、ありがとうございます。
ちょっと質問いいですか?」
「う、うん。なに?」
「観光は好みでいいと思うんですけど、ゲーム攻略的に優先したい場所ってあります?
そればっかりは、ウラヌスの方が詳しいでしょうし」
「あー、まぁ……
それは言ってもいいけど、とりあえず観光したい場所を聞きたいかな。
その上で優先順位を言うのは構わないけど。ま、こんだけ行けるようになったら、別にどこからでもいいけどね」
うーん。悩むなぁ……行きたいトコはあるけど、優先したいかどうかは別だしな。後の楽しみがなくなっちゃうわけだし。
「たとえば、取れる日が限られてる指定ポケットのアイテムとかないわけ?
ほら、アントキバの月例みたいな」
メレオロンの質問に、ウラヌスは「んー」と考え、
「今日は特にないかな……
取れる時間帯が限られてるアイテムは多いけど、取れる日が限られてるアイテムは多くない。
アントキバが毎月15日、リーメイロが毎月1日11日21日、スノーフレイが毎月2日12日22日、オータニアが毎月7日17日27日……そんぐらいか。
あと、アクエリアで1週間に1度雨の降る日だけ取れるアイテムがあるけど、さっきは降ってなかったしな。
その辺は、今日行く場所を決めるのには影響しないよ」
「でも、イベント内容が変わってるかもしれないんじゃないの?」
「そりゃそうだけど、知らないしな。
現状では、あらかじめ知ってる情報で計画立てるしかないわけだし。
……あえて言えるとすれば、今日は1つくらいしか行けないよ。朝から色々して時間が経ってるし、2つ行くと修行の時間が削れる」
うむ、それは良くないな。メレオロンとシームが『ぅぇー』とか言ってるけど知らん。
──相談タイム。とりあえず消去法で行きたい場所を絞っていく。
リーメイロは、観光しても楽しくないそうなので却下。
ムドラは危険すぎて却下。
ソウフラビは……あのそのもういいですハイ。知り尽くしたあの街に、観光したい場所なんて1つも残ってない。
バルカンは、お酒を飲めるのがメレオロンだけなので却下。
なので、残り6つから。
ブンゼンは芸術の街。観光には適してるかもしれない。
ファンタズムはゲームチックで古風な街。それなりに楽しいけど危険でもあるらしい。
ドリアスは、そのまんまギャンブルだな。たまには遊ぶのもいいかもしれない。闘技場って言ってたのが気になるけど。指定ポケットカードが集中してるって聞いた覚えあるし。
グルセル……美味しいモノいっぱいあるかなぁ。でもどんなイベントがあるのか、不安だったりする。大食い早食いばっかりならいいけど。ゲテモノとか来たら、私はお手上げだしな。
キャナリアは水路の街。何となくイメージは湧く。これも観光に向いてるかな。
アクエリアは地底湖の街。どんな感じなのか気になる場所ではある。これも観光向きか。
相談してもイマイチまとまらないので、行きたい場所を4人で挙手してみた。
ブンゼン2票。私とウラヌス。
ファンタズム1票。シームだけ。
ドリアス2票。メレオロンとシーム。
グルセル1票。くぅ……
キャナリア4票。あ、ここで決定か。
アクエリア2票。私とシーム。
「ゲーム進行的に、キャナリアから行ってもいいんですか?」
「うん、別にいいと思うよ。
順番はそこまで拘らなくてもいいかな、ここまで来たら。
観光ついでに攻略も進めようかなー、ぐらいのつもりだし。なにより皆に、街を覚えていってほしいんだよ。その為の観光でもある」
「攻略の為に、ですよね?」
「そうだよ。
それに、プレイヤー相手の市街地戦も有り得るからね。いつどこで狙われるか分かったもんじゃない。その為にも、地の利は確保しておきたいから」
「別に移動スペルで逃げればいいんじゃないの?」
メレオロンが首を傾げながら尋ねる。まぁ普通はそうなんだろうけどね。
「それが出来ない状況だってあるさ。
相手が複数なら、バインダー出して悠長に移動スペル使用なんて出来ないかもしれない。こっちが追う場合だって有り得る」
「そうですね。好戦的なプレイヤーなら、当然移動スペルで逃げられた時の対策くらいは考えてるでしょうし。より多く移動スペルを持っているだけでも充分ですからね。
スペルで逃げれば大丈夫、なんて高をくくっていいことなんか1つもありませんよ?」
「はいはい、分かったわよ……
アタシが悪ぅございました」
「ま、そういうこったな。
いずれにしても、知識は武器であり防具だ。可能な限りガッチリ固めておきたい」
真面目な顔でウラヌスが言うと、重みが違うな……。言い方はゲームチックだけど。
「ていうのは建前。
観光、楽しんでくれればいいよ」
一転、ニコっと笑顔で語る彼。
う、うん……やっぱゲーマーだな。
「──『同行/アカンパニー』オン! キャナリアへ!」
ウラヌスが導く空の旅を終え、着地する。
潮の薫り。
視界の左手には河がある。それなりに大きい、幅のある河だ。そしてその河が──
目前にある街の中央を走り、街並みを見事に二分していた。
ああ……知ってる。実は予想していた光景でもある。
あるんだよな。現実のヨルビアン大陸にも、この独特な街並みで有名な観光地が。私も一度、旅行で立ち寄ったことがある。
その都市をモデルにしたんだろう──陽の光を浴びて、水面がキラキラと輝いている。水上を小舟が何隻も行き交っていた。
メレオロンとシームは、これ以上ないくらいポカーンと河と街並みを眺めている。ふふ、そうだよね。初めて見た時はそんなふうになるかも。しかも、移動スペルでいきなりこの風景だしな。
街の外へ目をやる。うん、見事なまでに海だ。遠くの方に岸が見える。
つまり、ここは小島の都市だ。やっぱりモデルはあの街なんだろう。
改めて街を見る。ここまで河川の両側にピタッと寄り添う街並みは稀だろう。川沿いの街自体はいくらでもあるけど、これはいくらなんでも極端すぎる。完全に河と街が一体化している。私の予想通りなら、街の内側ほどその傾向は顕著なはずだ。
────これが、水路都市キャナリアか。
メレオロンとシームの反応を見て気を良くしたのか、水面から照り返す光で桜色を映えさせるウラヌスは、楽しげに街へと右手を伸ばし、
「それじゃ、観光とシャレこむよ。
舟にも乗るからね。イベントはまぁ、やってもやらなくてもいいや」
ありゃりゃ。これは本格的に観光モードだなぁ……
白を基調にした石造りの建築物が立ち並び、すっかり湿った石畳の上を歩いていく。
道の左側は、河の水面がさざめいている。河と言っても淡水ではなく、海に直結してるから完全に海水の河だ。その上をゆるりゆるりと舟が航行している。プレイヤーはいないみたいだけどね。賑わってるように見えて、実は全部ゲームキャラだったりするんだろう。
リズミカルな音楽を掻き鳴らす一団を横目に、食事を提供するお店から漂ういい薫りに鼻をひくつかせる。これは貝の煮込みかな……美味しそう。お金と時間に余裕があったら、食べ歩くんだけど。
後ろ手に軽い足取りで先導するウラヌスを、3人とも後から付いていく。
『……』
誰も彼の横に行こうとしない。理由は分かるけど。
白いワンピースと桜色の髪を潮風に揺らし、元気そうに歩くウラヌスは……うん。この街並みと合わせて、絵になるな。
……なんだろ。もしかしたらモタリケさん、本当にウラヌスを絵のモデルにしたかっただけかも。エリルの桜並木をほわほわ歩く姿もよかったけど、キャナリアの水路に沿ってウキウキ気分で歩く姿も悪くない。
また、この河もいいんだよな。ほとんど海みたいなものだから、水面が絶えず波打ち、穏やかに波の音を奏でる。潮風で髪が傷むかもしれないけど、まぁ長居しなければ大丈夫だろう。そんなこと言ったら、修行で汗もかけないしな。
これまた、青々とした天気なのも最高だ。海鳥が何羽か飛び交い、鳴き声を響かせてる。さっきまで鬱屈した
私のかたわらで、視線をあちこちに彷徨わせる2人へ目を向け、
「2人とも楽しんでます?」
尋ねてみる。シームは笑顔で頷き、
「すごいね、この街。どうやって作ったんだろ?」
「アイシャもここ初めてじゃないの?
ずいぶん慣れてる感じだけど」
メレオロンの言葉に、微笑みを返す。
「初めてですよ?
でも、こういう街には来たことがあります」
「って……
ああ! 現実でってこと? あるんだ、こんなトコ」
「ええ、旅行で。
そちらもなかなかいい場所でしたよ。
そこまで行くのに時間かかっちゃうのがアレですけど」
船で行くから、結構日数かかっちゃうんだよね。それも含めて旅行だけどさ。
ただ移動スペルでいきなり来れちゃうと、これはこれで有難みがないかも。……贅沢な悩みかな。レオリオさんのルーラ、やっぱり助かるもんな。
「いいわね……
アタシも旅行したいな。今でも充分楽しいけど」
メレオロンが遠い目をする。うん……叶えてあげたいな、それくらいは。
うまくいくといいんだけどね……色々と。
先行していたウラヌスが足を止め、こちらを眺めている。
少し離れて歩いていた私達と合流し、
「そういえば、お昼ってどうする?
この街で食べてくか、オータニアに戻ってから食べるか」
『あー』
トラリアでもそれなりに食べたし、そもそもお昼にはまだ早いけど、どこで食べるかによって、観光の仕方も変わってくるかな。
「私はシーフードが食べたいです」
「ぼくも!」
「本場のシーフード、味わってみたいわね。
アンタもちろん、いい店知ってるんでしょうね?」
「お?
俺にプレッシャーかけようってか。もちろん知ってるとも。
後で連れてってやるから、楽しみにしとけよ」
『っしゃー!』
ハイタッチする姉弟。ほんと仲良いな。うんうん、よきかな。
30分ほど散策し、そろそろこの街の風景にも、潮の薫りにも慣れてきた頃。
「ここって、指定ポケットカードあったりするの?」
メレオロンが尋ねる。観光に夢中で余り意識してなかったけど、イベントっぽい気配を見かけないんだよな。意外にここってイベントないんだろうか。
「もちろんあるよ。
つっても『湧き水の壺』と『不思議ヶ池』の2つだけな」
「ブループラネットに必要な宝石も取れないんですか?」
私が尋ねると、首を横に振るウラヌス。
「それもここにはないね。
まぁ不思議ヶ池が欲しいんなら、適当にイベントこなさなきゃいけないんだけど……」
「どうして?」
素直に質問するシーム。
「イベントの発生条件が、この街で3つイベントをクリアすることだから。不思議ヶ池のワードで聞き込みすれば分かるけど、信用がない者には頼めないって拒否られるんだわ。
1つは湧き水の壺でいいんだけど、あと2つがなぁ……」
「やっぱり難しいんですかね?」
「なんでもいいんだけど、基本的にあんまりいいイベントがないっていうか。
ほら、ここって思いっきり水場じゃん? そうすると水が絡むイベントばっかりなわけだよ」
「ああ……なるほど」
「水中のスライム退治とか、下水の大ネズミ退治とか。
釣りもあるけど、時間かかるしな」
釣りか……時間かかるのはちょっと困るな。まぁ待つ間に『点』でもすればいいけど。
「水中のスライム退治とか、どうやんのよ?
潜って倒すの? あの岩石地帯に居たようなのを」
あ、そう言われると結構厳しい気がする。水中でも満足に戦える能力者って、あんまり心当たりないし。
「やり方次第かな。
そもそも不思議ヶ池を入手しようと思ったら、街中の排水口にスライムが発生したのを全滅させて回らないといけないしな。……街全域にわたって40箇所も回らないといけないんだぜ?」
『うわぁ……』
それ、私が十全な状態でもヤダな。手間がかかりすぎるよ。少なくとも1人で挑戦するようなもんじゃないな。
「スライムを探すところからしないといけなくて、面倒にもほどがある。
その辺はオーラで探知するか、スケルトンメガネでもいいんだけど……」
「今日は観光だけでもいいと思うよ」
そう言ってシームが、河の方へ目を向ける。何かあるのかなと、釣られて私もそちらを見る。
「まぁ俺も、今日はそれでいいと思う。
ここは夕方とか夜もバツグンに景色いいし、夜ならまた別のイベントも発生する──」
「なにアレ?
なんか浮かんでない?」
シームがウラヌスの説明を遮って、河の一点を指差す。ん?
んー……ちょっと光が強く跳ね返ってる部分があるかも。なんだろ……? 距離あるし、流石に見えないな。
ウラヌスが大きく口を開き、
「あー。
シーム、お前よく見つけたな。
他のプレイヤーは……うん。人目はなさそうだな。ちょっくら拾ってくるわ」
「え?」
多分、何十メートルも離れてるぞ。まさか……
ウラヌスは、ふわりと手を伸ばし、
「
光らせた人差し指を、宙に躍らせる。
おおぉ、ちょっと分かった! 確かに光の軌跡が神字っぽく見えたよ。
「──【波紋舞踏/アプサラステップ】──」
ぴょんっと。
何のためらいもなく、石畳から河へとダイブするウラヌス。
水面に爪先が触れる瞬間──
パシャッと水が跳ね、そこから水上をスゴイ速さで歩き出した。確かに水面には触れているようで、足跡の代わりに水しぶきが跳ね、波紋が広がっている。
まるで氷上を滑るように、河の流れを速やかに踏み歩いていく──
やっべぇな……なんで、そんな訳分かんない能力持ってるの? あの人、歩けない場所なんてないんじゃないか? 樹を垂直に歩くわ、空を斜めに駆け上がるわ……あ、まさか空も歩いてたとか? どんだけだ、それ。
やがて歩いていったウラヌスが、水面近くをひゅっと手先で薙ぐ仕草。目当てのものを拾ったみたいだ。急旋回し、こちらへと歩き戻ってくる。指先にカードを摘まんで。
すぐそこまで戻って来たウラヌスは、ぴょんっとジャンプした。
トン、と石畳の上に着地する。
宙を泳いでいたワンピースの裾と髪の毛が、ふわりと落ち着いた。
「お待たせ」
「アンタ……ホントどこでも行けんのね」
「ウラヌス、水の妖精みたい♪」
「おぉい。
やめてくれよ、また変なあだ名つける気か」
「ふふ。水の上を踊ってるみたいでしたよ」
「いやいやいや……
アイシャまでからかわないでよ。普通に歩いてっただけじゃん」
「アンタの普通はおかしい」
メレオロンの指摘に、うんうん頷くシームと私。
「ぉぐ……
ま、まぁいいや。ブック。
とりあえずシーム、お手柄だったな」
「そういえばウラヌス、結局アレってなんだったの?」
シームの問いかけには答えず、バインダーにカードを収めて、こちらに差し出してくる。どれどれ……
『377:微笑みフローライト』
ランクD カード化限度枚数55
水に浮かべると独りでに流れゆく 淡い青色の輝石
水の精霊が宿ると言われ
流水の中でこそ美しく輝く
ふぅん。良さげなアイテムではあるけど……
「これって、ブルプラとは関係ないんですよね? カードナンバーも違うみたいですし。
それとも何かあるんですか?」
「ううん。多分なんにもないよ。
前に調べてみたけど、ただの換金アイテムかな。
浮遊石みたいに1日1個だけ出現するんだ。この街の水の上にね。
どこに出るか分からないし、わざわざ探そうとしたら大変だと思う」
「で、いくらなの?」
「えーと。
……記憶違いでなければ、21万」
結構なお値段で。見つけて取る労力考えたら、妥当な気もするな。まさにラッキーか。
「これで今日も贅沢できるってわけね」
ニヤニヤしながら言うメレオロンに、ウラヌスはジト目で、
「お前は何もやってないだろ……
つか、稼ぎとしちゃ微妙なんだけど。流石にこれだけじゃな」
「そうねー。
誰かさんが浪費したからねー」
「ぐ」
メレオロンの言葉が、見事にウラヌスへ突き刺さる。アレだな、モタリケさんに報酬を渡しすぎてる件だな。
彼も何か言い返そうとしていたが……くたっと折れてしまった。
「……。分かったよ、俺が悪かった。次のイベント、俺1人でやる。
それでいいだろ」
「あ、ウラヌス。そんな
慌ててフォローするけど、彼は首を横に振る。
「いや、確かに俺が迷惑かけたとしか言いようがないし。
きっちり清算しないと、気持ち悪いからな」
そう言って、ふいっと背を向けてしまった。あーあ。
「ちょっとおねーちゃん! バカ!」
「メレオロン、少しは考えて言ってくださいよ……」
「えええぇ。
アタシ? 今の、アタシが悪いの?」
狼狽しまくるメレオロン。ちょっと可哀想だけど、フォローしてあげない。
全く……ウラヌス真面目なんだから、こうなるに決まってるじゃないか。せっかく機嫌よさそうだったのに。もう。
しっかし、わりとウラヌスって気分屋だよな。まぁ怒ってる顔もプリチーだから、別にいいんだけどね。ふふ。