どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第七十章

 

 機嫌を直させたいのか、ぶすっとした顔で歩いてるウラヌスの隣でシームが話しかけている。

 

「ねぇねぇ、ウラヌス。

 さっきの宝石って、3つやんなきゃいけないイベントにカウントされるの?」

「んー……知らないなぁ。

 前にあの宝石見つけたの、不思議ヶ池のイベント挑戦中だったんだよ。

 だから3イベントにカウントされるか分かんないんだよな」

「そっか……

 じゃあ指定ポケット以外のイベント、2つやんないといけないかもね」

「だな」

 

 そして私の隣には、分かりやすいくらい『しょぼん』としてるメレオロン。

 

「うぅ……」

「……まあ、あなたもそう落ち込まず。

 ウラヌスが気難しいのは、今に始まったことじゃないんですから」

 

 なんとなく、私とシームの立ち位置は逆ではないかと思う。……でもさっきのシーム、ウラヌスより怒ってたしな。やれやれ。

 それはウラヌスも分かってるのか、シームに対し邪険な態度は見せてない。ああやって怒ってくれたのを、内心喜んでるのかもな。

 

「だって、あんなに気にしてるなんて思わなかったんだもん……」

「……」

 

 余計な一言自体は、メレオロンの不注意だと思うけど……私もあんなに気にしてるとは思わなかったな。気分転換してほしいところだけど、それにもお金かかっちゃうだろうし。

 なにか手頃なものは──おっ。よさげなのがあったぞ。

 

「2人ともー!

 冷たいものでも食べませんか?」

 

 やや離れ気味に先行していたウラヌス達に、声をかける。

 振り向く2人に、私はある店を指差した。

 

 

 

「──うんまぁー!

 なにこれ、ほんとにアイス?」

 

 練りこまれたクリームを口に入れて、もにゅもにゅしながら感嘆を洩らすメレオロン。メロン味を食べるメレオロン。……うん、審議中。

 

「すっごい濃いねー、これ。

 こんなアイス食べたことない」

 

 シームがグレープ味のクリームをぱくぱく食べながら、やはりそう言ってくる。そっかそっか、2人ともこういうのは初めてか。

 

「厳密にはアイスじゃなくて、ジェラートだな。

 アイスクリームより空気が少ないから、溶けたキャラメルみたいな感じだろ?」

「へぇー。ホントだね」

「シーム、ちょっと食べ比べしない?」

「いーよー。

 おねーちゃんのメロンも美味しそうだね♪」

 

 よかったよかった。みんな機嫌直ったよ。一緒に食べるって大事だね。

 私はコーヒー味のジェラートをいただいている。味もいいけど、香ばしさもなかなかだ。ウラヌスはオレンジ味だな。ストロベリーとか似合いそうだけどね。

 

「アイシャも来たことあるんでしょ?」

 

 ウラヌスが尋ねてくる。私は首を傾げ、

 

「いえ、ここは初めてですけど?」

「あ、ううん。現実でこういうところ」

 

 ああ、そっちの話か。……ということは。

 

「ウラヌスもあるんですね」

「うん。

 ……アイシャ、あの舟のこと何て言うか知ってる?」

 

 親指で河を行き交う舟を差すウラヌス。確か……

 

「ゴンドラ、ですよね?」

「その通り。

 どう考えても、ここってあの街だもんね」

 

 やっぱりウラヌスも同じ結論か。世界的に有名な観光地だからな。

 

「アレですか?

 飛行船で行ったことあるとか」

「いやー。

 あの島って、飛行船発着場は一般開放されてないんだよ。狭いからだと思うけど。

 ライセンスで無理やり停められる気もするけど、空輸の邪魔しても悪いからね。だから飛行船で近くまで飛んで、後は船。たまには海の船旅も悪くないもんだよ」

「なるほど……」

「いいわねぇ、アンタ達……

 色んなところ旅行できて。

 アタシ達も行ってみたいんだけど」

 

 そうつぶやくメレオロンを、シームは物思わしげに見る。

 

「ん? 行きたいんだったら連れてってやるよ」

 

 何気なく言うウラヌス。けど、目が真剣だな。

 

「……ホントに?」

「もちろん」

「ぼくも?」

「そんなの当たり前だろ?」

「……約束だよ。ウラヌス」

「大げさだな、シームは。

 絶対連れてってやるって。

 ……ジェラートさっさと食べちゃいな。溶けるぞ」

「うん……」

 

 あ、やばい。なんか泣きそう。仲良すぎだよ、3人とも……

 

 

 

 水路にかかる石橋の上から河の流れを鑑賞した後、ウラヌスの案内で小さな聖堂に来た。無造作にドアを開けて入っていくウラヌス。……こういうのってゲームでは普通だけど、何か抵抗あるな、やっぱり。

 聖堂というより集会場のような室内の奥、宗教的な礼服を着たおじさんへ、ウラヌスは話しかける。

 

「こんにちは。

 なんか困りごとない?」

「おお、でしたらぜひ頼みたいことが!

 裏手の水路にある排水口に、怪物が詰まってしまったようで──」

 

 こういうのって、ホント知ってたら楽だよね。それを知識として得る手間暇がアレなんだけど。歩く攻略本様バンザイだよ。

 

 依頼を引き受けた後、一度聖堂を出て、裏手に回り込んだ先にある水路へと歩いていくウラヌス。

 立ち止まる。石畳の途切れた先、水の流れを見下ろしている。一緒に覗き込むと──

 

 んー……なんか水路の底にうぞうぞしてるのが見える。結構深いな。

 

「アレですかね?」

「アレだな」

「なんかいるね」

「え? 見えないのアタシだけ?」

「メレオロン、『凝』をしてください……」

「あ、はい。

 ……なんかオーラは見えたけど」

 

 ていうかシーム、『凝』なしで見えるのか。……水と相性いいのかもしれないな。

 

「でもあんなの、どうやってやっつけるの?

 ウラヌス、潜るの?」

 

 シームが問うと、ウラヌスが嫌そうな顔をする。

 うん、その……ウラヌスが潜っちゃうと、上がってきた時に色々アレな気がする。

 

「なに?

 アンタまたスケスケ披露するの?」

「オマエ、フザケンナヨ」

 

 ぶっと吹く。またっていうのがよく分かんないけど、そうなっちゃうだろうね。きっと。

 

「潜るわけないだろ、ったく……

 まぁそういうイベントもここにはあるけどな。俺はやらない」

「じゃあどうやって倒すのよ」

 

 もっともなメレオロンの疑問に、

 

「わざわざ水に潜って戦闘力下げるなんざ、念能力者のするこっちゃねーよ。

 ……まぁ水中戦が得意なのも稀にいるけどな。

 残念ながら、俺は水中戦向きの念能力は持ってないんだよな」

 

 あ、なるほど。さっき河の上を歩いた能力は、『水上』で戦う為か。ちゃんと使いドコ考えてるな。

 

「つーわけで、こうする」

 

 何か持っているように右手を構えるウラヌス。親指と人差し指に挟まれる形で、長くて太い針のようなモノが出現した。

 おおぉ、私にも見えるってことは具現化したのか。

 

「よっ」

 

 手首のスナップで、かなり勢いよく針を水中へ投げこんだ。

 水路の底に何かが居た辺りで、水中が白く濁る。かなりの精度だな……簡単なことじゃないぞ。

 次々に針を具現化し、水底の怪物を仕留めていくウラヌス。

 6本投げ込んだところで、動きを止めた。

 河の水面に、ぷかぷかとカードが浮かんでくる。

 

「ん。終わったよ」

「はー……

 もう、なんて言ったらいいか分かんない」

 

 メレオロンが感心というより、心底呆れたような声を出す。

 シームは興味津々な様子で、

 

「今のも念能力? 神字使ってなかったけど」

「ああ、まぁ……

 もちろん念能力だけど、今ぐらいのなら『発』と言えるほどじゃないな。神字も使ってない」

 

 うーん。なんだか非効率な気がするんだけどな……

 そう考え込んでると、ウラヌスが私を窺うように小首を傾げ、

 

「どうかしたの、アイシャ?」

「いえ、今のような攻撃をするなら……

 わざわざ針なんて具現化しなくても、オーラを針状に変化させた方が楽じゃないかなと思いまして。少なくとも私ならそうします」

 

 まぁ針状にオーラを変化させて投げるなんて、やったことないけどね。

 私の疑問に、ウラヌスは考える素振りを見せ、

 

「……んにゃ、これで問題ないよ。

 オーラを変化させて投げた方が技術的には簡単だけど、それだと離れるほど威力精度はガタ落ちするでしょ?

 水の抵抗はバカにならないし、それなら具現化したニードルを『周』で強化して投げた方が確実かな。ああいう単純な形状だと、具現化にたいしたオーラいらないし。具現化を解けば、ある程度オーラも還元されるからね」

 

 あっさり否定してみせるウラヌス。ふーむ……

 おそらく一般的な念能力者に対しては私の意見が正しいだろうけど、ウラヌスには当てはまらないな。投擲と具現化の技術を兼ね備えた、異才ならではの発想だ。少なくとも、威力では格段にウラヌスの手法が上だろう。手首だけで投げたのも狙いを悟らせない為か。

 

 つまり──明らかに殺傷目的で修めた技術だ。……手強いな。

 

 ていうか、武器術は使えないとか言ってたのは何だったのか……

 まぁナイフは無理って意味だったかもしれないけど。今のなら手足が届かない相手にも有効だしな。少なくとも、水中に念弾を撃ち込むのは問題があっただろう。排水口や水路まで壊してしまいそうだ。ヘタすれば逃げられてしまう。

 

「カード、拾わなくてよかったの?」

 

 シームがカードを指差す。ああ、もう結構流されちゃった……どの道、じきに1分経つだろうけど。

 

「どうせ大した金にならないし、いいよ。

 つっても、このイベントもクリアしたところで5万ジェニーだけどな」

 

 

 

 スライム退治の報酬を受け取った後、しばらく街なかの散策を続ける私達。何度も橋を渡っては、色んな区画を見て回る。そうそう、こういう聖堂があちこちにあるんだよね。

 聖堂以外の建物も、もちろん多い。あまり華美な建築物はなく、建物の壁がカラフルにペインティングされてる一画があるくらいだ。1つ1つは珍しいものではないんだけど、縦横無尽に走る水路が雰囲気を上書きしている。

 

「そろそろ、ゴンドラ乗ろっか」

 

 船着場に停泊するうち、大きめの舟を指差し、誘ってくるウラヌス。

 私達は快く了承し、ウラヌスが船頭さんと話す。

 20分、4000ジェニー。

 そうなんだよね……現実でも結構するんだよね。グリードアイランドだと痛い出費だな。

 さいわい何人でも1隻分の料金なので、遠慮なく4人で乗り込む。

 クッションの上に座り込んで、波に揺られる振動を楽しんでいるらしいウラヌスは、

 

「街の南東にある船着場まで」

「あいよ」

 

 そう指定し、ゴンドラは出航した。

 船頭さんが(かい)をこぎ、ゆっくりと揺られ揺られて進み始める。

 ついさっきまで歩いていた石畳を眺める。こうやって地面から離れると、歩いてる時と全く違って見える。

 揺れる地面や街並みを眺めているうちに、街なかを走る細い水路を抜け、街を二分する大きな河へと出た。

 ぐんっと荷重がかかる。

 途端に揺れが大振りになり、流れに乗ったのかゴンドラの速さが増した。

 

「うわぁー、結構速いわねぇ」

「たーのしぃー♪」

 

 姉弟がはしゃいでるのを微笑ましく見守る。のんびり足での散策もいいけど、ゴンドラから見る街の景色はまた格別だな。遠慮なく河の上を吹き抜ける潮風も良い感触だ。

 ウラヌスは終始笑顔で、河の上を飛び交う海鳥を見上げている。そうだね……空もまた違って見える。

 ゴンドラの近くの水面を、海鳥の親子がスィーっと泳いでいく。

 

「みゃあ、みゃあ」

「アハハハ」

 

 その鳴き声に喜ぶシーム。メレオロンとウラヌスが、その様子を見てニコニコしている。

 現実でもこのゴンドラに乗ったんだけど、ここまで楽しくはなかったんだよね。悪くはなかったけど。

 ……あれかな。あの時は1人で乗ったからか。誰かと乗ると、こうも違うんだな。

 こうやって楽しそうな3人を眺めるのが、一番楽しいかも。ふふ。

 

 

 

 さほど時間もかからず、ゴンドラは都市の南東に辿り着いた。

 船着場へと、ガコンと接触する。

 

「もう終わり?」

 

 ぞろぞろと降りた後、ウラヌスに尋ねるシーム。乗ってたの10分ぐらいだしな。確かに物足りない気もする。

 

「そうは言っても、もういい時間だろ?

 そろそろ昼メシ食わないと。また来た時に乗りゃいいさ」

 

 うむ。ゴハンも楽しみだし、そろそろ修行の時間だからな。2人が私を見て、ちょっと微妙そうな顔してるけど、気にしないでおこう。

 

 

 

 ウラヌスおすすめのシーフードが美味しい店へ到着。白い円卓の屋外席に座る私達を、ウェイターが遠目に見ている。

 

「注文が決まったら、この呼び鈴を鳴らせばいい。

 ゆっくり選んでくれていいよ」

 

 テーブル中央に金の呼び鈴が置かれてる。なかなかシャレてるなぁ。ゲームキャラなら確実に来てくれるだろうし。

 テーブルに立てられたメニューを手に取り、眺める。

 うーむ。見事なまでにシーフードがずらり。貼ってある写真の料理がまた美味しそうだ。すごい悩むなぁ……貝のクリームパスタ、シーフードピザ、海老の酒蒸し、魚介のスープ……じゅるり。

 

「ウラヌスの一押しは?」

 

 シームが尋ねる。お、それはちょっと聞きたいな。

 

「そうだなぁ……

 お腹をふくらませたいならシーフードカレーかな。満足度がハンパない。

 トマトとチーズたっぷりトッピングのシーフードピザもいいし、大盛りアサリパスタを頼んで皆でシェアするのもいいかな。俺個人はカニサラダも好き。一風変わったところでヒレスープとか……後は──」

 

 やばっ、どれも食べたいですです。くぅ、悩ましいぞ!

 

 

 

 

 







 くねくね|ε・ω)3日

【挿絵表示】




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