どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第七十四章

 

 いつものようにウラヌスがプランをまとめた後、スペルを消化して不要なカードも売却。

 

 お金を下ろして、『再来』でマサドラからオータニアへ戻る。特に相談するでもなく、慣れた宿への道を4人で歩いていく。

 心なしか、シームの足取りが軽い。ふふ、楽しみなんだろうな。

 

 そして──

 

 

 

「うにゃん?」

 

 宿の一室。

 可愛い生き物の上で小首を傾げる、これまた可愛い生き物。ぺかーっと光ってる。

 

「にゃあーッ♥」

 

 手を叩いて大喜びするシーム。にゃーとか言ってるし、ホントにサクラのことが大好きなんだな……今にもウラヌスごと抱きつきそうだよ。

 

 微妙な顔のウラヌスに背中をぽむぽむされて光量を下げたサクラは、桜色のクッションからポンと飛び降り、すたすたシームのところへ歩く。

 

「おいでおいで、さっくらー♪」

「にゃうん」

 

 呼び寄せるように手を叩くシーム。サクラがそばに来ると優しく抱き上げた。サクラもシームに抱きついて、ウラヌスの布団の上でお互いごろごろする。

 

「さっくらー♪ にゃっにゃにゃー」

「にゃーん……」

 

 なでなでしたりスリスリしあう1人と1匹。見事なまでにニャンニャンしてる。めちゃくちゃ仲いいな……。メレオロンも肩をすくめてる。

 

 その光景を眺めて、なんとも困った顔をするウラヌス。

 

「あのさぁ、シーム……」

「なぁにー?」

「にゃーぅ?」

「ええっと……いや、うん。別にいいけどね……」

 

 1人と1匹の発する甘さ加減に気圧されたのか、ウラヌスは諦めたように息を吐き、

 

「……アイシャ。今のうちにお風呂入っとこ」

「ええ」

「ほほぅ」

 

 なんだか聞き捨てならない声をメレオロンが発する。

 

「……なんだ、今の『ほほぅ』は」

「一緒に入るんだと思って」

「いっ!? なわけないだろ! なに言ってんだ、このバカ……」

 

 あー、ウラヌス。そういう反応したら、この変態の思うツボだぞー。

 

 案の定ニヤニヤしだしたメレオロンが楽しそうに、

 

「今の口振りだと、そうとしか取れないわよー?

 アンタの見た目なら、女風呂に入ったって、だーれも不思議に思わないモンねぇ?

 入っちゃえ、入っちゃえ♪」

「ぐっ、だから入るわけねぇっつってんだろ!」

「いいじゃない、アタシとも入ったんだし。

 アイシャと入ったって」

「にゃん」

 

 ん? なんでサクラ、意味深なタイミングで鳴いたの?

 

「アレは! オマエが無理やり!」

「別にお風呂一緒に入ったくらいで、どうこうなったりしないわよ。

 アンタ、気絶してるアイシャの汗ふいてあげたじゃない?

 それに比べたらどうってこと──」

「ぎゃあああああッッッ!!」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆ってぷるぷるするウラヌス。……それでイジるの、やめてくんないかな……私にも効く。。

 

「ほらー。……守ってあげるんでしょ?」

「やめろぉぉぉぉッッッ!!」

 

 ぅぐぐ。ホントやめて……。かなり恥ずかしくなってきた……

 

「ウラヌス、も、もう行きましょ」

「あ、うん」

 

 逃げるように部屋から出ようとすると、

 

「お2人さーん。きっがえー♪」

 

 こんな時ばかり良く気が付く変態に指摘され、私達は慌ててリュックへ駆け戻る。

 顔を赤くしながら荷物をごちゃごちゃ漁る。ああーもうっ、ジョイステ邪魔!

 

「ウラヌス、ちょっとお金ちょーだい♪」

「にゃーにゃ」

「ブック!」

 

 シームとサクラの甘え声に、ウラヌスがブンッとお金カードを投げつける。何とも大変だな……

 

 

 

 やや馴染んできた感もある、宿の公衆浴場。

 男湯と女湯の入口がある前で、どちらともなく立ち止まる私達。

 

『……』

 

 声がかけづらく、だからと言って動き出すキッカケもなく。

 いや、別に一緒に入りたいわけじゃない。ないんだけど……

 ぐぬぬ、メレオロンのやつめ……。ホント余計なこと言ってくれたな。

 

「じゃ、じゃあウラヌス、ごゆっくり……」

「ぅ……ん」

 

 変にうわずった私の声に、消え入るような返事をするウラヌス。

 

 恥ずかしそうに男湯へ入っていくウラヌスの姿を横目に、私は無駄にドキドキしながら女湯の暖簾を潜った。

 

 ふぅー……

 

 目の毒だな。良く分かんないけど……なんでこんなに緊張するんだ。

 

 

 

 そこかしこに漂う檜の薫りを堪能しながら、疲れた筋肉を充分に解し、シャワーで汗を流す。

 潮風を浴びたのが気になるので、いつもより入念に髪の手入れをしておく。まぁ短時間だったし、大丈夫だとは思うけどね。

 のんびりと、1人で入るには大きすぎる浴槽に浸かる。

 

 湯船で存分に身体を伸ばし、

 

「んんー……

 はぁー」

 

 広い浴場を独り占めできると、どうも気が抜けちゃうな。やっぱり修行の後のお風呂は格別だよ、うん。檜風呂サイコー。んはー。

 

 ……今ウラヌスが、すぐそこでお風呂入ってるのは分かってる。分かってるけど、気にしない。うむ。

 

 

 

 身体が存分に温まったところでお風呂から上がり、脱衣所で着替えていると、出入口にウラヌスの気配があった。待っててくれてるみたいだな。

 それでも髪の毛だけは水気を丁寧に拭き取り、急いで着替え終えて出入口へ行く。

 

 暖簾を潜り、壁に背をもたれさせる彼の姿を認める。

 

「お待たせしました、ウラヌス」

「ううん。俺が勝手に待ってただけだし」

 

 ……ウラヌスが先に戻ると、このタイミングだけ私の守りが手薄になるんだよね。気にしてくれてるわけだ。よっぽどのことがない限り、移動スペルも使えるから大丈夫だとは思うけど。

 

「でも一緒に戻ると、またなにか言われそうですね」

「あー、うん……

 バラけて戻る?」

「それもいいですけど……」

 

 私はチラリと、宿の中にある売店コーナーの方を見る。

 

「せっかくなんで、その前に少し寄ってみません?」

「ん。いいよ」

 

 

 

 洗濯物を従業員に渡し、売店に並ぶ土産品や食べ物を2人で眺める。

 

 土産品はカードではなく、実際のアイテム状態で並べられていた。カード状態のものを眺めても風情に欠けるからだろう。多分、買えばカードになるんだろうけどね。

 陶器やマグカップ、小物入れに貯金箱、よく分からない人形、バッグにシール。子供が喜びそうなおもちゃに、紅葉柄のタオル。実にあるあるといった感じのお土産だな……。買わずに眺めてるだけでも結構楽しいもんだ。

 精緻な細工が施された小物入れを開けてみると、小さく音が鳴り出した。おや、これはオルゴールか……それで5000ジェニーもするんだな。

 

 赤紅葉を模したキーホルダーに触れながらウラヌスは、

 

「こういうのってさ。

 どうして欲しくなっちゃうんだろうね? 別に持って帰ってどうするわけでもなし」

「ふふ。

 こういうのはアレですよ。お土産として誰かにあげる為のものですから。

 後は旅の記念に、ですね」

「ふーん、そんなもんか。

 ……でも、アイシャが欲しいのはこっちだろ?」

 

 ウラヌスが親指で差す先には、焼き物揚げ物のコーナー。

 

「……なんのことです?」

「誤魔化さなくていいよ。

 部屋に戻ったら桜が居て食べづらいだろうし、欲しいなら今買って食べた方がいいよ。お金持ってるの俺だしさ」

 

 うむ、バレたか。

 ちょっと、イヤかなり興味あったんだよね。メレオロンのくれた焼き鳥おいしかったし、他にも色々あるみたいだ。

 

「お風呂に入って、ちょっと小腹が空いちゃいまして」

「よく食べるよね……」

「ええ、食べますとも。

 食べないと成長しませんから」

 

 育ち盛りだからね。修行の後は、お腹がとても空くのだ。

 ウラヌスは少し寂しそうに微笑み、

 

「……うらやましい」

「ウラヌス……」

 

 彼は小さく首を振り、

 

「ごめん、気にしないで。

 さ、なんか食べよ。好きにしてくれていいから」

「あ。ホントですか?

 遠慮しませんよ?」

「前言撤回しよっかなぁ……」

 

 私達は笑い合いながら、美味しそうな匂いの方へと歩いていく。

 

 

 

 ケチャップとマスタードのたっぷりかかったソーセージを手にして、廊下のソファーに並んで座る私とウラヌス。私の膝には、唐揚げと焼きソバも乗っている。更にはフライドポテトも。

 

 垂れないように気をつけながら、アツアツのソーセージにかぶりつく。

 

 んー。肉汁うまーっ。

 

 隣で遠慮がちに先っちょを齧りながらウラヌスは、

 

「あっちち。

 うわ、汁すごいな」

「ほーへふへ」

「……うん、まぁ食べることに集中して」

「ふぁい」

 

 ウラヌスが小っちゃな唇でフーフーしながらちょっとずつ食べるのを好ましく眺めつつ、ケチャップとマスタードの混じったソーセージ肉を咀嚼する。

 

 1本まるごと食べ終え、唇についたケチャップを行儀悪く舌なめずりで拭う。パリッとした良い焼き加減でした。続けてフライドポテトを1本くわえる。もくもく。

 

 塩胡椒の効いた厚切りポテトを半分くらい食べた頃、彼もソーセージを食べ終えた。

 

「美味しかったですか?」

「うん。たまにはこういうのもいいね」

「よかったら、こっちもどうです?」

 

 言って、半分残ったポテトを包みごと差し出す。

 

「1本もらっていいの?」

「いいえ、残り全部ですよ」

「ん? んー……」

「……

 ウラヌスって、あんまりこういうの食べないんですか?」

「そうだね。

 ……なんていうか、その」

「油モノだし、身体に悪そうですもんね」

「う、うん……

 でも、嫌いなわけじゃないんだ。昔は色々食べてたし。

 もらうね」

 

 包みを受け取って、1本口にするウラヌス。

 私は焼きソバの容器を持ち上げ、片手で割り箸を割って食べ始める。

 

「アイシャって、こういうのも好きなんだね」

「ふぇえ、もぉ」

「あ、うん。食べてて。

 贅沢に慣れてる感じだし、自分で料理もするし、その上でこういうのでも美味しそうに食べてるから、不思議に思って」

 

 私がよく分からずに首を傾げると、ウラヌスはやや慌て気味に、

 

「えっと、普通の女の子ならもうちょっとスイーツ寄りかなぁって気がするんだけど」

「……」

 

 焼きソバをもぐもぐしながら考える。つまりアレかな。なんか食の好みが妙じゃないか、って話か。どうなんだろ。基準がよく分かんないしな。

 

 咀嚼した口の中のモノを飲み込んだ後、

 

「スイーツも好きですよ?」

「それは多分そうなんだろうな、と思ったけど……」

 

 ウラヌスは誤魔化すようにポテトを1本くわえる。

 私は何とはなしに箸で焼きソバをこねこねしながら、

 

「食べるのが好きなんですよ。

 ……私って、あんまり多趣味な人間とは言えないんで」

「キミの年齢なら、むしろ趣味多い方じゃないかなって気もする」

「そうなんですかね?」

「……俺もよく知らないけど」

 

 ふむ。メレオロンがいたら、そのへん答えてくれそうだけどな。……イヤやっぱりやめとこう。女の子はかくあるべし、と変なこと刷り込まれても困る。

 

 ふとももで挟んで支えてる紙コップに入った唐揚げを、1つ箸で摘み取って頬張る。

 うん、これもなかなか……

 唐揚げは割とアタリハズレあるんだけど、これはアタリの部類だな。上質な鶏肉っぽい。も1つ、カリカリかじる。

 残りの焼きソバを行儀悪くかきこみ、もぐもぐもぐ……。どうせウラヌスしか見てないしな。

 

 お上品に、もくもく1本ずつポテトを食べながらウラヌスは、

 

「別に、食べるのが嫌いなわけじゃないんだよ。料理ぐらいするしさ。

 ……でも、なんていうか受け付けなくなっちゃってね。

 食べようと思えば食べられるんだけど」

 

 ……。身体機能が低下してる、って話だったな。つまり消化能力も落ちてるってことか。

 

 私自身、前世で老化による肉体の衰弱を延々と味わったから、分かる。アレはホントにこたえるんだ……だんだん食事すら楽しめなくなるからな。

 念能力者だからマシな方だったんだろうけど、心を静めないと気力を保てないんだよね。

 

 ……ネテロのやつ、マジで化け物だな。

 

 唐揚げをもう1つ箸で摘み、食べようとして……いたずらを思いついた。

 ちょうどポテトを食べ終えたウラヌスが「ふぅ」と吐息して包みを膝に置いたところで、

 

「はい、ウラヌス。あーん」

 

「へ? ──ぶふぁっ!?」

 

 意味を一瞬遅れて理解したウラヌスが、盛大に吹き出す。

 

 箸で摘まんだ唐揚げを、目前に差し出されている。これで分からないはずがないだろう。

 

「い、いやちょっと待ってアイシャ!

 くれるのはいいけど、食べさせるのは……!」

「いいじゃないですか、誰も見てないですし。

 ほら、あーん」

「待っ、ちょっタンマ! お願いやめっ……!」

 

 狼狽しまくるウラヌス。これは面白すぎる。

 口許までズズイと押し付け、

 

「ほらほら、あーん」

「……!」

 

 何か言えば放り込まれると分かってるのだろう。口を噤んで、涙目のウラヌス。

 隙だらけなので、鳩尾を軽く親指で押し込む。

 

「ごぶおっ!?」

 

 開いた口に唐揚げを箸ごと突っ込む。うむ、これ軽く拷問だな。

 箸を抜く。目を白黒させながら、唐揚げを咀嚼するウラヌス。……何だか餌付けしてるみたいだ。

 ウラヌスが頑張って口の中のモノを飲み込み、口許のよだれを拭いながら、

 

「あ、あい、しゃっ──けほっけほ!」

「ふふ、悪ふざけが過ぎちゃいましたね。

 ごめんなさい」

 

 ウラヌスの背中を軽くさすってあげた後、私は残り1つの唐揚げを箸で摘まんで、もぐもぐする。

 いまだ動転した様子で私を見つめるウラヌス。どうしたんだろ。やりすぎちゃったか?

 

「どうしました?」

 

「…………

 ……いや、いや、うん。

 キミが気にしてないなら、別にいぃ……」

 

「はぁ」

 

 しゅううぅ……と煙を噴き出しそうな顔で、うつむくウラヌス。何があったのか。

 

 

 

 

 

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