どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第八章

 

 時々言われることではあるし、念能力者なら誰もが実感することではある。

 

 オーラとは、生命エネルギーであると。

 

 ゆえに、全身の精孔が開くことによってオーラが体外へと放出され、それをそのままにしておけば衰弱して死に至ることもある。

 

「生命エネルギーっていうのは、まぁ、説明いる?」

 

 ウラヌスさんが尋ねてくるので、少し逡巡した後、

 

「言葉通りだと思いますけど……

 でも、オーラ=生命エネルギー、ですよね?」

「じゃあ、オーラを操る(すべ)を『念能力』と呼ぶ理由は?」

 

 ぅ……

 

 うーん……かつて6年も瞑想して念能力に目覚めた私としては、あんまり適当に流していい話題じゃないな。

 

「えっと……

 オーラを感じ取ったり、オーラを思い通りにしたりできるから、念能力……

 ですよね?」

 

 ……の、はず。改めて聞かれると、ちょっと自信ないけど。

 

「大体合ってる。

 言ってみれば、オーラを制御する力が精神エネルギーだ。いわゆる固有能力開発の際、上限として問題になるメモリは、この精神エネルギー量に起因する」

 

 お。それは面白い説かも。確かに人によっては、メモリ仕事してないしなぁ……

 

「いちおう言っとくけど、これは俺の目が生命エネルギーと精神エネルギーを感知できるから、自分なりに調べてみたことでしかない。

 大体、オーラのことを生命エネルギーと言ったり、精神エネルギーと言ったり、ヒトによってブレブレだしな。まぁ俺のも、話半分に聞いて欲しい。

 ……で、死者の念ってあるだろ?」

「死後に強まる念ですね」

「念能力者が死亡する際、練り上げられた精神力が、死に瀕した現状を打破しようと自己生存機能を発揮する……ことがある」

 

 ふむ。それはつまり、死後ではなく死ぬ直前ってことか。

 でもその考え方だと、母さんの念獣に当てはまらない気がするな……。母さんが死んで何日も経ってから、私のところに現れたし。

 

「死んだ後だと、死者の念って発現しないものなんですか?」

「んー……

 死の定義にもよるかなぁ。完全に死んでたら、俺は無理だと思うんだけど。

 まず前提として。

 厳密に、人が死ぬっていうのは生命力が0になることじゃないんだ。

 ……甦生が、不可能な状態に陥ることを言う。

 だからヒトは死んでも、即生命力が0になるわけじゃない。

 オーラっていうのはそもそも、生命力のみ精神力のみの構造じゃない。生命力精神力が練り合わさり、意思による制御を可能としたエネルギー体、それがオーラだ」

 

「……」

 

「で、生命維持が困難になり、生命力が著しく減衰すると、自己生存機能が精神力を限界まで増幅し、身体機能をオーラで増強、もしくは自分以外の生命力へ取り憑こうとして、オーラが移動する。

 その結果、死者が自力で甦生したり、増幅した死者の念が特定の生者を害するといった現象が発生する」

 

 

 

 ……もしそうだったとしたら、母さんの場合は……

 

 死んだ母さんのオーラが、死者の念となって私に憑いて……

 

 私が流星街で危機に陥って、それがきっかけで母さんの死者の念が念獣を生み出した、ってことか……

 

 うーん……。そういうの、研究してる人の話って聞かないもんなぁ。いたとしても秘匿してるんだろうけど。命に関わることだしな……

 

 ん? ウラヌスさん、いいんだろうか。それが本当だとしたら、ものすごく貴重な情報だけど。どれだけ価値のあること教えてるか、分かってるのかな?

 

 ……まぁいいや。面白いし、黙って聞こ聞こ。

 

 

 

 考え込んでいた私の様子に、話を止めてくれていたウラヌスさんは、聞く態勢に戻った私を見て話を再開する。

 

「死者の念はいわゆる精神エネルギー寄りの現象で、これを念能力に置き換えると、魔法じみた特殊な作用を起こすのに適している。

 六系統で言えば、特質・具現・操作が精神エネルギータイプだな。具現は少し生命寄りだけど」

「……

 そうすると、残りの3系統は生命エネルギータイプってことですか?」

「うん。

 やっぱり単純に身体能力を引き上げたり、何かを壊したり治したりが向いてる。

 強化・放出は特に顕著だね。変化は……その中でもやや精神寄りかな。

 メモリ問題は得意系統の遠い近いだけじゃなく、そういう要素も影響してくるってのが俺の持論」

 

 私は腕を組んで、また考え込む。

 

 念は何よりイメージが大事というのは、念能力者なら誰もが知るところ。よって精神をおびやかされると、容易に弱体化が起こる。しょせんイメージなんて形あるものじゃないからな。

 

 それもあって、私は戦闘用の『発』の開発に及び腰なところがある。不安定なものに、必勝は望めないから。

 

 ネテロの『百式観音』が常勝たりうる安定度なのは……なんていうかアイツ頭おかしいからだと思ってるし。

 

 まぁ……メモリの問題がなかったら、もう少し戦術の幅を広げる『発』は欲しかったんだけど。死にスキルが多くて……くぅ。

 

 私が自分の系統を水見式で確認した時は、前世が操作系、今は特質系になっている。

 

「その……」

 

 釣られて言いかけ、私は口を噤んだ。

 

 自分の系統について触れてしまうと、情報が洩れた時かなりマズい。弱点が容易く露呈する。特質系への助言はしてくれるかもしれないが、ウラヌスさんは仲間じゃない。

 

 ウラヌスさんもそれが分かったのか、こちらに対して手の平を振る。

 

「生命力と精神力の多寡は個人差が大きくて、必ずしも六系統のそれと一致しない。

 俺から言えるのは、君はかなり生命力の方が高いってことだ」

 

 ……つまり私の場合、系統と真逆じゃん。……でも長所がない代わり、短所もないってことか。

 

 ともあれ、私の力の大きさを彼が見破った理由はこれで分かった。

 

 確かに【天使のヴェール】はオーラを隠してくれるけど、それ以上のことはできない。そんなの想定できるわけないからね。はぁ……意外に見破られるなぁ。

 

「ちなみに俺は、どれにも属さない」

 

「?」

 

 ……どれにもって。

 

 ウラヌスさんは自分の胸に手を当てながら、

 

「俺は、六系統のどれにも属さない。

 得意不得意がない。最大値が全て70%と言えば分かりやすいかな」

 

 ……ほぉー。そんなの初めて聞いたや。クラピカの【絶対時間/エンペラータイム】は発動中に全系統が100%になるけど、初めからどれにも属さないというのはかなり異質だ。

 

 言うなら、無系統か。

 

「この目のせいかな。

 自分の身体を見ると、生命力と精神力がほぼ同じで、それを意識に含んでたからか……俺は何かに寄ることがなかったんだ」

 

 両の手の平をじっと見つめるウラヌスさん。……多分そうやって自分の力を見てきたんだろうな。

 

 もし彼の持つ目が念能力によるものなら、おそらく【ボス属性】が反応して、私の力を見破らせなかっただろう。つまり、念能力でもない。クラピカの緋の眼に近い感じはするけど。

 

「……その目は、生まれつき、でしたよね?

 念能力に目覚めたのって、いつ頃ですか」

「最初から」

「え?」

「……肉親の言葉を信じるなら、俺は生まれた時からオーラを纏っていたらしい。

 正直、出産前後の赤子に『纏』ができてたなんて、まともじゃないと思うが……」

 

 ぁー、ぅー、ぉー。

 

 ……私とかなり近しい境遇っぽいけど、わたし生まれる前から自我ありましたー、とか言ったら変人扱いされそだなー。アハハー……

 にしても、私以外にもあるのか。そういうことが。赤ん坊が念能力者っていうケース。もしかして転生かな……オーラだけ継承して、記憶は引き継いでないとか、そういうの。

 

「長々と話したけど……

 俺はそういった特殊な体質で、子供の頃から相当オーラ量が多かったんだ。

 で、ヤンチャが過ぎてね……

 里のみんなから疎まれた挙げ句、両親と姉に念で呪いをかけられた」

 

 ぅ……

 

 そんなめっちゃ重い話をさらっと。

 

「10歳の頃に呪いをかけられて……

 潜在オーラ量の上限が、増えることなく加齢で減り続ける状態に縛られた。

 俺の潜在オーラ量は今45000で……

 20歳を迎えた時点で、ちょうど0になる計算だ。

 0になれば、オーラの元となる生命力と精神力も枯渇した状態になり、死に至る」

 

 ……呪い……オーラ量……20歳で死ぬ……

 

 ウラヌスさんの語る情報を頭で整理し、ようやく一つ結論が出た。

 

「……なるほど。

 それで若返り薬なんですね」

「そういうこと。ちょっと裏技くさいけど……

 俺の年齢に対して念をかけられてるから、俺の予想が間違っていなければ、若返り薬で10歳未満まで若返った時点で、条件を満たせずに消えるはずなんだ」

 

 ちょっと疑問に思ったので、質問してみる。

 

「……でも、歳をとって10歳になったら、また念が条件を満たして再発動する、かも?」

「かもしれない。

 まぁ除念すればいいんだけど、当然除念すれば露見して里から追っ手がかかるだろうし。俺は里から逃げてきたんだけど、もうじき死ぬだろうってことで放置されてるみたい」

「……除念のアテはあるんですか?」

 

 風間流には、かなり腕のいい除念師がいる。バッテラさんの恋人の『病気に見せかけた呪い』を払うぐらいには力がある。いずれにしろ、熟練の除念師は貴重な存在だ。

 

「……

 自力で出来る。神字で時間をかければ、だけど」

「ほんとに、ですか? 除念って……」

「言いたいことは分かるよ。

 除念はグリードアイランドのアイテムにすら多分存在しない、希少能力だからね。

 本当のことを言えば、今は出来ない。オーラ量が全然足りない。

 ……呪いをかけられる前の潜在オーラなら、なんとかなる」

 

 言って俯き加減に、桜色の後ろ髪を一撮み撫でるウラヌスさん。

 

 多分、除念する為に神字の研究をして……できるようになった頃にはオーラが足りなくなってたのかな。もしそうなら可哀想な話だ。

 

 命懸けか……力になってあげたいけど、私じゃ本当に足手まといになる。

 

「今さら言っても仕方ないですけど、前回プレイされてた時に魔女の若返り薬を入手して、使わなかったんですか?」

 

「……

 今さらかな。まさか誰かクリアした途端ゲームに入れなくなるなんて思わなかったもん。時間はまだ充分あると思いこんでたんだ。

 若返り薬を取りはしたんだけど、使わなかったんだ。……もしかしたら1つ使っただけでも呪いを解こうとしてるのがバレたかもしれないし、研究する時間がほしかったから。

 

 ────本音を言えば、俺はグリードアイランドのアイテムを信用していないんだ」

 

 ……ほぅ。

 

 何というか、ホルモンクッキー1つで振り回された私にとっては、身につまされる言葉です……

 

 父さんも死者への往復葉書をきちんと検証してたし、うぅぅ、ちゃんと考えてなかったわたしが恥ずかしい……

 

「よく分からないものを、勝手にこうだろうと思い込んで使う気にはなれない。

 自分で調べて、うん、大丈夫と判断しないと気が済まないタチなんだ。……納得したいだけだって、分かってはいるんだけど。

 ただ、若返り薬は自分の命に関わるから……慎重にもなる」

 

 なるほどねぇ……

 

 この人の念能力やオーラに対する見地も、その考えから来てるんだ。とても年齢相応の認識じゃない……必死に考えてきたんだろう。

 

「……喋りすぎたな。時間をとらせて申し訳ない。

 キミはもうゲームに入りたくないんだろうし、これで切り上げてくれてもいいよ。

 話を聞いてもらえて、ちょっとスッキリした」

 

 

 

 あ……あ。なんか分かっちゃった。

 

 この人、きっと友達いないんだ。だから不利になるようなことまで、私に喋っちゃったんだ。誰にも話せずにいたから……

 

 ……いいのか、私。この人ほっといて、もし死んじゃったら後悔しないか?

 

 友達になったら、きっと他にも色々教えてくれそう。

 いや、でも、そんな損得勘定で友達になっちゃダメだし……大体向こうがこっちをどう思ってるかよく分かんないし……

 

 そもそも力になりたくても、私は本当に足手まといになる可能性が高い……

 

 前回クリアできたのは、ほとんどみんなの力だ。特にリィーナとゲンスルーさん。……チートに等しい活躍ぶりだった。

 

 でも……元ゲーマーの血が騒いでるのも事実だ。あれだけの困難に当たることなんて、私の今後の人生でどれだけあるか。敗色濃い難敵にこそ、全霊を以て臨む事がゲーマーの……いやいや武人の……いやいや、混乱してるぞ私ちょっともちつけ。

 

 えっと……

 

 ホルモンクッキーの研究はしてほしいもんなぁ……。すがるものが他にないなら、希望だけは残しておきたい。彼がダメなら、それはそれで私も諦めがつく。どうせ自力で解決するのはもう無理なんだから。

 

 

 

 私が腕を組んで、あちこち視線を向けながらうんうん考え込んでると。

 

 ウラヌスさんは、そばにあった自分の荷物袋から、あるものを取り出して、テーブルに置いた。

 

「あ……」

 

 オーラに包まれた、ジョイステーション。

 

 プレイヤー2にはメモリーカードが1枚刺さっていて、プレイヤー1にはマルチタップ、マルチタップには4つの穴が開いたままになっている。

 

 彼はそれらを手で示し、

 

「プレイ経験者のキミなら分かると思うけど。

 正真正銘、本物のグリードアイランドだ。俺が所有しているのは、この1本だけ。

 プレイヤー2側はプレイ中で使えないから、この1本でセーブできるプレイ可能人数は4人になってる。

 俺は必ず入るから、残り3人。いまハンターサイトで仲間を募集してる。

 もしキミに参加の意思があるなら、その募集から応募してほしい。

 募集が見当たらなかったり、消えてたりしたら……

 もう仲間を集め終えて、プレイを開始したと考えてほしい」

 

「……すごいですね。ゲーム自体を手に入れたんですか」

 

 ヘタすれば、クリアの懸賞金より高くつくぞ。リィーナはもう処分したって言ってたし。……こっそり数本残してても不思議じゃないけど。

 

「元々はバッテラ氏の依頼で入ってたんだけどね。今はそれができないから……

 ただ、だいぶ高くついたんで、もうハンターを雇う余裕はないんだ」

「……でも仲間を募集されてるんですよね?」

「ああ。

 いちおうクリア報酬の指定ポケットカード山分け、って形で交渉しようと思ってる。

 残りの予算でどれだけの期間プロハンターを雇えるか、ちょっと微妙だから」

 

 かなりしんどそうだなぁ……

 あぁ、力になってあげたいけど、足引っ張る気しかしない。うぅ……

 

 大体、私がまたグリードアイランドに入ったりしたら、みんな=反性転換連合が妨害に来そう。そうなったら足を引っ張るどころの騒ぎじゃない。ゲームクリアまでとなれば、相応の期間拘束は避けられないだろうし……

 

 ──いや。ちょっと待て。

 

 そもそも私、お医者さんに診てもらわなきゃいけないじゃないか!

 

 なんでこんな時に! 巨大キメラアント並みに達成難度高そうなんだけどコレ!

 うぅぅぅぅ、味方少なすぎぃぃっ!!

 

 ぁ……う。……正直に言うか。

 こんなの、どうしようもないよ……

 

「その……ごめんなさい。

 力にはなりたいんですけど、実は私、いま身体の具合が悪くて……

 ちょっと、普通の病院だと分からない原因かもしれなくて」

 

 ウラヌスさんが私の身体をじっと見る。う、アレかな。生命力精神力を見られてるのか。

 

「……キミが嘘をついてるとは思わないんだけど、とりあえず見た感じ異常らしい異常はないよ。俺も医者ほど知識があるわけじゃないから、アテにはならないけど……

 どこが具合悪いか、言える?」

 

 う……

 

「その……えっと……

 ……おなか、です」

 

 ウラヌスさんはチラッと視線を外して何事か考えた後、私を見直した。うぅ。

 

「……。

 …………うーん。

 俺の目でまんべんなく見たけど、やっぱり異常はない。

 もし問題が念能力絡みだとしたら、オーラの問題かもしれない。俺の目は体内オーラを詳細に見抜けるわけじゃないから。キミは今オーラを隠してるから尚更だけど」

 

 ……そっか。私のこの禍々しいオーラ、もしかしたら影響与えてるかもしれないのか。だとしたら、それ解決できるんだろうか……

 

「まあ、仕方ないな。

 俺は俺でがんばるから、あんまり気にしないでくれ」

 

 諦めの声。う、いや、ちょっと待って。なんか、なんか言え私。希望が逃げる。

 

「えっと! その……

 私も私でがんばるんで……

 募集に間に合ったら、その、よろしく」

 

 ウラヌスさんはちょっと驚いた後、苦笑いしてみせた。あぅ。

 

「分かったよ。正直、仲間のアテがいなくて困ってるんだ。

 何かヤケに足手まといになること気にしてるみたいだけど、キミの実力なら工夫次第でどうとでもなると思うよ」

 

 ……あぁぁ。やっぱりこの人、友達いないっぽい!

 

 そりゃそうだ、神字の研究とかもうじき死ぬかもしれない状況で友達作る余裕あるはずないよ、そもそも前回1人でプレイしてたって言ってたじゃないか!

 

 男性にしては細身でやわい印象だけど、オーラからかなりの実力者であることが窺える。念の呪縛で減衰してこれなんだ。もしかしたら、一流の使い手かもしれない。……いや、でなければ1人で70種類もカードを揃えられたりしないはず。

 

 ウラヌスさんは荷物袋にジョイステーションを仕舞い込んだ後、席を立った。

 座っている私をそのままに部屋から出て行こうとして、

 

「あー、そうだ。

 少し前にキミをどっかで見た覚えあるの、思い出した」

「はい?」

「えっとアレ……ポスター! 俺、選挙行けなかったんだけど、後でサイトに変な情報が上がってたから、見てみたら君のポスターが──」

 

 ────うごおおおおおおッッ!!

 

 もしかしてあのポスター、プロハンター結構な人数が見てるのッ!? ちょっ何それっ、みんな記憶ぶっとべぇぇぇ!!

 

「……あー……そのぉ……

 なんか、嫌なこと思い出させたみたいで申し訳ない」

 

 顔を押さえてうずくまる私に、謝ってくる彼。ぃやめろぉぉぉっ! もう二度とアレに触れるなぁぁぁぁっ!!

 

 

 

「……つまんないこと、言っていいかな?」

 

 

 

 その声に、私はかろうじて顔を上げた。

 こちらを見ていたウラヌスさんは、私に釣られてか顔を紅くして、

 

「その……

 俺、女性になりたいって言ってたじゃん」

 

「はい……」

 

「で、ホルモンクッキーを食べてみて、念願の女性になった……はずだったんだけど。

 全然、納得いかなかったんだ」

 

「はぁ……」

 

「理由は……まぁ色々あったんだけど……一番は、胸。

 俺が食べても……なんつうの? ……貧乳だったんだよ。ちっとも女らしくなくて」

 

「…………」

 

「だから……うん。

 若返り薬で10歳未満になったら。……その状態で、ホルモンクッキーで性転換して。

 それで女性のまま成長すれば、胸が大きくなって……少しは女らしくなれるのかなって。

 ……その……キミがうらやましい。……じゃ!」

 

 ウラヌスさんは耳までまっかっかにして、さっと部屋を出て行った。

 

 

 

 私は、しばし座ったまま、ぼんやりした後。

 

 この、何か間違った世界に、地団太を踏んだ。

 

 

 

 ……ぅ。

 

 ぅぐぅぅぅぅぅぅっ!! なんたる理不尽っ!! なんたる不条理ッ!!

 

 私、こんなに、胸いらないのにッ!! あの人にこの胸、分けてあげたいぃぃぃぃっっ!!

 

 

 

 

 

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