どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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ブンゼン編 2000/9/19
第七十六章


 

「くぁ……

 ふわああああ、ぁ。……んーぅ」

 

 思うさまアクビをして、大きく伸びをする。もー朝かぁ……

 上半身を起こし、お隣の布団を見る。……まだ寝てるな。寝息聞こえるし。

 時間は……もうじき7時か。起こさないとダメっぽいなー。

 布団から出て、髪を手櫛で整えながら、ウラヌスのそばまで近づく。

 

「……」

 

 なんかちょっと疲労感のある顔だな。相変わらず可愛らしい寝顔だけど。

 

「ウラヌス。起きてください。もう朝ですよ」

 

 布団の上から身体を揺する。

 

「んぅー……だーれぇ……

 ……──わぁっ!? アイシャ!」

 

「ワッ!?

 ……えっ? どうしたんですか、急に?」

 

 なんだなんだ、イキナリ驚いて。こっちが驚いたよ……

 

「え、えっ、あれ……えっ?

 あ……いや、ううん。

 ゴメン、びっくりしただけ。すんごい寝ぼけてた……」

 

 はぁ。ウラヌスが寝ぼけたとか、珍しいこともあったもんだ。……いや、でもないか。お姉さんと勘違いしたことあったもんな。

 

「……なんか変な夢でも見ました?」

「えっ!?

 いや、ううん、なんも見てないよ!」

 

 あ、図星だな。絶対へんな夢見てた時の反応だ、コレ。

 

「へぇー、そうですか。

 まだ眠そうですし、二度寝して夢の続きでも見ます?」

「ちょっ、いやいや、だから見てないってば!」

 

 何をそんなに慌ててるのか。ふーむ、気になるな……

 

 

 

「おねーちゃんが借りた映画、結構面白くてさぁ。

 時間的に最後まで見れなかったから、今日続き見たいな」

「んー。

 まぁ今日もここに泊まるつもりだし、別にいいけどな」

 

 朝食のサバをつっつきながら、シームとウラヌスの会話に耳を傾ける。

 そういえば、ここってビデオ借りて見れるんだっけ。ちょっと気になるな。

 ……気になると言えば。

 

「そういえばウラヌス、今日は何の夢見てたんですか?」

「えっとね。

 ──はぁぁっ!?」

 

 ちっ、気づいたか……でも夢見てたのは確定だな。ぷぷ。

 

「なになに、ウラヌス?

 何の夢見てたの?」

 

 シームが興味津々で尋ねる。プライベートなことだし、ホントは聞くべきじゃないけど、どうも反応としては……

 

「なんか起き抜けに私の顔を見て、やけに驚いてたんですよ。

 だからもしかして、私の夢でも見てたのかなーって」

「ほほーぅ?」

「へぇー?」

 

 黙ってナイフとフォークでサバを召し上がってたメレオロンが、関心ありげな声を出す。シームも、より前のめりになってウラヌスの顔を覗き込む。

 

「み、みてない。

 俺は何もみてないよ、うん」

 

 箸をカチカチカチカチッと鳴らすウラヌス。動揺しまくってるよ……

 

 

 

 その後いくら追及しても頑として答えなかったウラヌスはさておき、朝食を摂り終えた私達はいつも通り着替えを兼ねたお風呂に入る。

 朝は時間がもったいないから、メレオロンと入らざるを得ない。……けどまぁ、ここのところはちょっかい出してこないし、別にいいんだけどね。

 

「アイツ、どんな夢見てたのかしらねー?」

 

 湯船から問いかけてくるメレオロン。私は髪を洗うのにどうしても時間がかかるので、たいてい彼女が先に湯船へ浸かる。

 

「さぁ……

 アレだけ言わないんですから、都合が悪い内容なんでしょうけど」

「でしょうねぇ。

 別に何の夢見てたかってだけだし、話していいようなことなら、アイツ話すもんねぇ。

 あー、気になる気になる」

 

 うーん……でも教えてはくれなさそうだしな、あの様子だと。

 

 

 

 湯船に浸かり、息を長く吐き、筋肉を揉み解す。さてさて、今日はどこへ行くんだろう。

 

「……手持ち無沙汰なのよね」

「え?」

 

 メレオロンが独り言のようにつぶやき、私は首を傾げる。

 

「……最近シームって、夜に猫と遊んでるじゃない?

 その間、アタシ暇でさ」

「あー」

 

 うんうん、サクラにシームを取られちゃってるわけだ。その時は、私とウラヌスも部屋空けてるしな。

 

「だから昨日、ビデオ借りて見てたんだけど」

「……ちなみに何の映画見てたんですか?」

「別に大したもんじゃないわよ。

 格闘技の映画。シームは男の子だから楽しんでたけど、アタシはね」

「うん?

 興味ないのに借りて見たんですか?」

「んー……

 なんか参考になるかと思って。……でも、ねぇ」

 

 参考にならなかったわけか。それは仕方ないかな。撮影用に見せる技は実戦のソレとはかけ離れてしまう。指導用に撮影したか、実際の格闘技の試合を撮影したのならともかく、映画のお話に合わせた派手な動きから、あまり見栄えしない実戦的な動きや技を学ぶのは無理があるだろう。役に立つ技術は大体地味だからな。

 

「……この手のこと考えてるアンタって、真面目な顔してるわね」

「へ?」

 

 何を突然。うん? そうなのか……? いや、普段から真面目なつもりなんだけど。

 

 メレオロンは面白がってる様子で私を見ながら、

 

「アンタぐらいの年頃は、そんな難しい顔しないわよ。

 全く、何がどうなってあんなに強くなったのやら」

「……」

 

 改めて不思議がられると、何とも答えにくいんだよな。修行と言っても、もう通じないだろうし。それはゴン達相手に散々思い知らされたことだ。……当たり前だけどね。

 

「ま、それはいいとして。

 何か読む本ないかなーって感じ」

「はぁ。本ですか」

「ちょっとした空き時間の暇つぶしが欲しいのよ」

 

 暇つぶしねぇ。私だったら……

 

「それなら『点』をすればいいじゃないですか」

「……そのテンって、瞑想する方の『点』のこと?

 アタシ、あんまりガラじゃないっていうかさ」

「瞑想と『点』は違いますよ。

 いいですか、瞑想と言うのは──」

「あー。お説ごもっとも」

「まだ何も言ってませんよ……」

「何となく理解してるわよ。

 アタシはちょっとした気休めが欲しいって言ってるの。

 暇さえつぶせたら何でもいいってわけじゃなくて」

 

 むぅ。瞑想や『点』を、程度の低い暇つぶしみたいに言うのヤメてくんないかな……

 

 んー……しかし本か。言われてみれば、グリードアイランドってどんな本があるんだろ。……モタリケさんが『宝籤』で当てた豊胸なんたらは、論外としても。

 

 

 

 朝のオータニアを散策がてら移動する私達。そろそろ慣れてきた風景だけど、やっぱりいいもんだ。毎日色んなところに行ってるから、ここに帰ってくると落ち着くんだよね。

 

 リュックを背負った2人も、余裕をもって風景を楽しんでいるようだ。うんうん、いい傾向だな。もうリュックぐらいじゃ負担にもならないか。

 

 やがて、オータニアの入口に到着する。

 

「今日も俺が『漂流』を使い切って、ここに戻ってくるよ。

 その後、どこ行くか決めよう」

「昨日話してた街も入る?」

 

 シームが尋ねる。もうウラヌスが行ける都市、たくさんあるもんね。

 

「もちろん。

 昨日までに行ってないのが9つで、今日3つ増やすから12択だな」

 

 ずいぶん増えたな。昨日でも迷ったのに、今日はかなり迷っちゃいそうだ。

 

 

 

 移動スペルで飛んでいったウラヌスが、1分ほどして戻ってきた。

 

 着地し、ワンピースの裾がふわりと沈む。……いつも思うけど、こんなひらひらさせて大丈夫なんだろうか。その……うん。

 

 ん? ウラヌス、ちょっと機嫌いいな。

 

「やっと行けたよ、スノーフレイ。

 これで冬の温泉旅行にいつでも行ける」

『おぉーっ!』

 

 あがる歓声。──温泉! いいな、行きたいな。冬の街は寒そうだけど。

 

「ま、楽しみにとっておくのもいいけどね。

 俺としては3日後に行きたいし」

「3日後に何かあるわけ?」

「日にち限定イベントがあるな。

 他のプレイヤーが集まってくるデメリットもあるけど、俺はその日に行きたい」

 

 ふむ。それなら今日の候補から外すべきかな。先の楽しみってのも悪くない。……寒いだろうし。

 

「じゃ、今日行った都市の説明するよ。

 戦乱と砂塵が吹き荒れる地、城塞都市ジャロ。

 さっきこのカッコで行ってとにかく寒かった万年雪国、白雪都市スノーフレイ。

 のどかな高原だけど意外に労働がきつい、牧農都市ハイループ。

 この3つ」

 

 ……砦と高原のイベントは、前に誰かから聞いたかも。少し記憶に引っかかってる。

 

「で、後は昨日の時点で行けるけど、まだ行ってない9つ。今日は名前だけね。

 城下都市リーメイロ。

 廃墟都市ムドラ。

 漁業都市ソウフラビ。

 芸術都市ブンゼン。

 酒蔵都市バルカン。

 幻想都市ファンタズム。

 賭博都市ドリアス。

 飽食都市グルセル。

 湖底都市アクエリア。

 ──さて皆様、本日はどこへ行きたい? 今日も多数決する?」

 

 うーん……どうしようかな。昨日行きたかったのは、ブンゼン、グルセル、アクエリアなんだけど。どうせグルセルはダメだろうし。

 

 高原の……名前忘れた。そこも気になるっちゃ気になるかな。

 

「本って、どっかいい場所ある?」

 

 尋ねるメレオロン。んー……本の街があるって聞いた覚えあるけど、場所は知らないな。

 

 ウラヌスは腕を組み、

 

「本か。ジャンルを問わないなら、蔵書数で圧倒的にブンゼンだな。

 ただなぁ……」

 

 うん? なんか問題あるんだろうか。

 

「別に芸術都市ブンゼンがどうってわけじゃないけど、本は読むのに時間かかるじゃん?

 それが気になる」

 

 あー、なるほどね。観光を楽しんだりゲーム攻略するのと、読書に時間をとられるのは、確かに噛み合わないな。

 

「違う違う。

 アタシだって、わざわざ観光先で本を読みたいわけじゃないわよ。

 普段暇つぶしする用の本を調達したいの」

「んー、そういうことか。

 指定ポケットカードのイベントも多いし、ブンゼンに行くのは構わないんだけど。

 ちなみに行きたい人、挙手」

 

 私とウラヌスに、メレオロンも手を上げる。シームだけ上げてない。

 

「シームは読書しないんですか?」

 

 私が尋ねると、シームはちょっとムズ痒そうな顔をし、

 

「マンガぐらいなら読むけど……」

「漫画もあるけど、ゲーム攻略でその類のは無いかな。ホントにただの娯楽。

 ブンゼンのイベントは地味なんだよね、基本的に。

 芸術都市だから本以外のイベントもあるんだけど、基本的に本探しで街中の本屋を回ることになるから、急いでクリアを目指そうとすると意外にキツイ。

 イベントクリアに必要な本が、他のプレイヤーに買われて売り切れとか、ワリとシビアだし」

 

 売り切れてて探し損か。そういうのはキツイな。人手不足だと何日も足止め食らいそう。

 

「まぁとりあえず行ってみてもいいんじゃないですか?

 時間を取られたら、今日行くのはブンゼンだけでもいいですし」

「そうだね……

 シーム、どうする?」

「おねーちゃんが本欲しいなら、別に構わないけど……」

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃない。

 それじゃ今日はアタシに付き合ってもらうってことで、ブンゼンでいい?」

「オッケー。

 それじゃスペル使うよ」

 

 

 

「──『同行/アカンパニー』オン。ブンゼン」

 

 

 

 空の旅を終え、変化した景色に目をやる。

 

 巡らせた視界の中に、メレオロンがやけにこっち見てるのが映る。

 

「……? なんですか?」

「えーと、アレよ。

 移動スペルで着地した時に、いっつも上下に揺れてるなあって」

「シーム。

 あなたのおねーちゃん、どつき回していいですか?」

「いいけど、壊れない程度にね」

「やめてヤメテやめて軽いジョークじゃないの、本気の目ぇしないでー!」

「……

 あなたにとっては軽い冗談でも、私には重いんです」

「……でもさぁ。

 それなら、もうちょっと分かりにくくしたら?

 アンタ、揺れるのがよく分かる服ばっか着てるじゃん。イヤでも目につくんだけど」

『……』

 

 3人とも黙る。ウラヌスとシームの目が一瞬泳いだな。

 

 ……いや、うん。メレオロンの言うことも分かるんだ。分かるんだけど、揺れてるのが分かりにくい服って動きにくいんだよ。フィットしない服だから。

 かと言って、両胸が揺れないようにサラシ巻いたりすると、呼吸の妨げになるし……。スポーツブラで防ぎきれないのにどうしろって言うんだ。誰にも相談できないし、したくないし。……母さんにちょっと相談したら、激しい運動自体控えた方がいいとか言うし。

 大体メレオロン、お風呂で散々見てるじゃないか。酷い時は能力まで使って揉んでくるしさ。人がすっごい気にしてるのに……ぶつぶつ。

 

「……えーと、アイシャ?

 とりあえず中に入ろ」

「あ、はい」

 

 ウラヌスが促してくるのに反射で応えて、ブンゼンと書かれた変わったデザインの柱の間を通り抜ける。

 

「ここってあんまり食事が美味しい街じゃないし、お昼はオータニアにしとく?」

「さんせー」

「ぼくもオータニアで食べたい」

「ええ、私もその方がいいです」

 

 そんな会話をしながら、ブンゼンの街並みを眺める。

 

 芸術都市の名を冠するだけあって、建物のデザインは前衛的というか奇抜というか……全体をまとめて見ると、一貫とせず取りとめもない。都市デザイン的には失敗してる気もするな。

 

 現代的な建物もあれば、田舎を通り越して1000年前みたいな草ぶきの建物もあった。

 

 ……。

 

 本当は風変わりな街の景色を楽しみたいんだけど、こっちに歩いてきてるプレイヤーがいて、あまり意識をヨソにやれない。……警戒してる素振りはもちろん見せないけど。

 

 ウラヌスも気づいてるみたいだ。同じく警戒するような気配は見せてない。というか、必要以上に警戒するのもおかしいしな。すれ違うくらいは普通にあるわけだし。

 

「ん?」

 

 ウラヌスが声を出す。気になって、彼と同じ方へ目をやる。

 

 向かいから、なかなか渋い雰囲気のおじ様が歩いてきていた。さきほどから気配を感じ取っているプレイヤーだ。

 

 立ち止まるウラヌス。私達も合わせて立ち止まる。

 

 向かって歩いてきたおじ様も、こちらに気がついた。

 

「おお、ウラヌス! キミも戻ってきたのか」

 

 サングラスを外して、フレンドリーに声をかけてくるおじ様。ウラヌスの顔を見ると、なんとも複雑な表情をしていた。腰に手を当て、

 

 

 

「アンタも来てたのか……ジェイトサリ」

 

 

 

 

 

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