今度こそブンゼンの風変わりな景色を楽しみながら、私達は街の大通りを歩いていく。
隣を歩くウラヌスは、私の方に小首を傾げ、
「アイシャは、見たい美術品とか芸術ってある?」
「そうですねぇ……
ジャポンの物があれば是非。後は……古い美術品を見たいですね」
「アンティークかぁ。
ジャポン関係は流石に少ないけど、アンティークは幅広いからね。
有名な絵画って、だいたい古かったりするけど」
「絵画もいいですが、歴史の感じられる物が特に好きなんですよ」
本音を言えば、歴史の勉強を兼ねてたりする。正直この世界の歴史ってよく分からないからな。……元の世界の薄まった知識と混ざりあって、時々勘違いしそうになる。ワリと似通ってるし。
「ちょっと変化球だけど、たとえば水墨画なんてどう?」
「あ、いいですね。それは興味あります」
「でもさー。このゲーム、始まってから十数年かそこらなんでしょ?
そんなに古い物ってあるの?」
ウラヌスと私の会話に、メレオロンが口を挟む。んん? んー……
「古い美術品に関しては、外から持ち込んだのがそれなりにあると思う。
……まぁメレオロンの言う通り、この島自体に元から歴史的な物があるわけじゃないし、数は限られるか。あっても、古いだけの安物だったり」
うーん。ゲームの元値が58億ジェニーだったことを考えると、このゲームを作るのにも相当お金かけてるだろうけど、お金で簡単に集められる美術品なんて、あんまり面白みもなさそうだしな……
「そもそもこの街にある美術品も、彫刻とか家具は少なかったと思う。飾っておかないと意味ないし、場所を取るからだと思うけど。
だからあんまりかさばらない絵画とか小物、織物に書籍、後は……音楽かな」
「音楽?」
思わず聞き返したけど、言われてみれば音楽も芸術分野か。ちょっと、この街の雰囲気には合わない気もするけど。
「基本的に静かな都市だから、建物の中で防音対策された環境でしか聴けないね。
音楽CDとかカセットも売ってるよ。古風なところでレコードとかね」
「へぇー」
レコードか……懐かしいな。
ふと甦った記憶の曲に思いを馳せていると、ウラヌスは小さく笑みながら、
「ちなみに、歌わないと取れない指定ポケットカードもあるよ」
「えっ」
「なにそれ、どんなの?」
退屈そうにしてたシームが食いついてきた。
「──『超一流ミュージシャンの卵』。
この街にあるライブハウスの1つで、採点システムを使って高得点をキープしつつ合計1時間歌唱しきると入手できる。
用意されてる中から選曲する必要があって、同一曲はタイムカウントされない。
ちなみに結構ゲームキャラがいる前で歌わなきゃいけなくて、平均点が低いと歌唱後にめっちゃブーイング食らう。つか、ヘタすぎると歌ってる最中でも野次られる」
う、うん……要はカラオケで高得点を採りまくれと。
それ、取れない人は絶対に取れないカードだな……私は自信ないや。ちゃんと歌ったのなんて、どれだけ昔のことやら。
「いちおう聞いとくけど、この中で歌うの上手い人」
ウラヌスが尋ねる。3人とも、反応しない。
彼は額をかき、
「やっぱ俺がやるしかないか……」
「歌えるんですか?」
ちょっとどんな曲歌うのか聴いてみたいな。なんか嫌がってるみたいだけど。
「特別上手くはないけど、100点中80点以上採るくらいなら何とか……
1時間も歌うのは面倒だけどね。選曲とか悩むし」
「そのライブハウスって、食事はできるの?」
尋ねるメレオロン。……なんか良からぬこと企んでないか?
「できるけど、頼めるのは飲み物と軽食くらいだよ?
そもそも酒場でもあるしな」
「うん。
じゃあアンタが歌ってる間、アタシ達は食事しましょう。
今日の昼はそれで」
「は──
はぁ? 今日っ!?
い、いやオマエ、オータニアで食べるって話は……」
「ひゅー。
歌ってお昼盛り上げるなんて、ウラヌスやるぅ」
「ちょっ……
シーム、なんか過度な期待してないか? 俺、そんな上手くないって」
「期待してますね♪」
「アイシャまでー……」
姉弟の悪ノリに付き合っちゃったけど、私は歌いたくないしな。乗っからせてもらおう。
「でも、ワリと時間取られると思うよ?
歌ってる時間だけで最低1時間、前奏間奏は地味にカウントされないし、曲選びとかもあるし、80点未満だと当然タイムロスするし……」
「アンタが歌ってる間、退屈してきたら本でも読んでるわよ。
それなら時間つぶしも問題ないでしょ?」
「おぉい」
ひどいなメレオロン。……合理的だけど、ウラヌスかわいそすぎる。
「アイシャ、ちょっと何とかしてよ。
時間取られたら、修行時間も削れちゃうよ?」
「うん? うーん……
指定ポケットならいずれ必要になるカードですし、もう取っちゃってもいいんじゃないですか?
早めにイベント始めれば、修行時間削らないように調整できそうですし。
美術鑑賞はまた今度にして、今日は本探しとウラヌスが歌うだけでいいと思いますよ」
青褪めるウラヌス。だってねぇ。私も聴きたいもん。何より歌いたくないから、早めにイベント終わらせて危機回避しておきたい。
「ほら、ウラヌス。
アイシャもこう言ってるし、キリキリ本屋案内してよ。楽しみにしてるわよ」
「俺の胃がキリキリ言ってんだけど……
んな突然決められても心の準備が」
「なーに乙女なこと言ってんのよ。
ああ、心は乙女でしたか」
「うっせーよ。もーやだぁー……」
ふふ。プチ歌手さん、楽しみにしてますよ。
……卵ってことはランクBだと思うけど、どうしても嫌なら買って済ませられるカードなのに、拒否しきれないのがウラヌスらしい。実は歌いたいんだろうか。
ウラヌスの案内で、ブンゼンにある色んな書店を巡る。
大型書店から古本屋まで、置いてある書籍も多種多様。芸術の街だけあって美術関係の本も多いけど、大衆向けの本もたくさんある。しかもカードではなく、本の状態でだ。
「結構助かりますよね。
デパートとかで売ってる本は、カードの状態だから手を出しにくくて」
デパートだと、外で売っている月刊誌や週刊誌もちょこちょこ置いてあるのだが、内容確認できないから買いづらかった。本のサイズすら分からないからな。無駄遣いするのはアレだし、荷物になるのも気になって、結局1冊も買ったことがなかった。
「うん……
立ち読みしてから、買うかどうか決められるもんね」
と、相槌を打ったのはなぜかシームだったりする。古本屋で漫画本コーナーに並んでるのが私達だからなんだけど。
ウラヌスは少し離れたところでファッション誌らしきものを読んでいる。メレオロンも同じ店内にいるようだが、見える範囲にはいない。
ファッション誌の古本ってどうなんだと思うけど、別に流行を追わないならアリかもな。ただまぁ、ずっと同じワンピース着てるウラヌスが読んでるのが何ともだけど……
「ちょっとウラヌス。こっち来て」
「うん? なに」
メレオロンがどこかから来て、ウラヌスをどこかへ連れて行こうとしてる。なんだろ?
「ほらコレ」
「おぉい! なんでそんなもん見せるっ!?」
「いやー、アンタどんな反応するかなぁ? と思って」
「ふっざけんな! オマエみたいなことするヤツ、今まで何人もいたよ!
どいつもこいつも!」
なんか騒がしいな……なにやってんだろ。
「ほらほら、この子とか似てると思わない? ア──」
「あーーッッ!!」
ウラヌスも大声出して、ホントなにやってんだ?
読みかけの漫画を置いて、声の方へ歩いていき、
「2人とも、なに騒いでるんですか?」
『────ギャアアアアアアアッッッ!?』
うおっ、なんでそこまで驚くっ!?
「ななななんでもないわよ!」
「うんうんうん騒いでゴメン!」
んん? なんか慌てて隠そうとしてないか?
「いったい何の本を──」
「なんでもないってホラ早く次の本屋行きましょ!」
「うんうんココあんまりいい本ないから早く次のトコ行こ!」
「え、ええ……」
すごい必死だな……まぁいいけど。
「ほらシーム、アンタも早く行くわよ!」
「えぇー。ボクもうちょっと読みたかったのにー」
「1つの本屋で時間つぶしてたら回りきれないし、サクサク行くぞっ!
ほらシーム!」
「分かったよぅ……」
「オマエ、マジでいい加減にしろよ……」
「悪かったってば。
……さっきの見られてたら、流石にヤバかったわね」
やや入り組んだ通りを移動中、ウラヌスとメレオロンが先頭を歩いて、何やらボソボソ話してる。
シームが怪訝そうな顔で、
「……なんかあの2人、変じゃない?」
「そうですよねぇ……」
でもこういう良く分かんない感じって、今までもちょくちょくあったんだよな……大体分からずじまいなんだけど。
「あんなもん見られてたら、オマエ今度こそブン殴られてたぞ……」
「うん……
他にも修行を無闇にキツくされたりとか、思いっきりオシオキされたでしょうね……
おーこわ」
「マジでやめてくれよ、頼むから……
あの状況だと、俺までトバッチリ受けるだろーが」
「……でーもさ。
さっきの子、かなり似てると思わなかった?」
「……似てたから何だって言うんだ」
「あの本買うとか」
「……ふぅん。で?」
「で? ってアタシに聞かれても……」
「そもそも、俺に何を聞いてるんだ」
「えっと……あ、うん。ゴメン、忘れて」
「……」
途切れ途切れに会話が聞こえてくるけど、さっぱり分かんないな……
大小問わず、本屋を十数軒ほど巡っただろうか。どの本屋でもウラヌスが欠かさずしていたのがメモだ。本を見ながらメモしていたから、何の本があるかチェックしてるんだと思うけど。
気になったので、メモを終えたウラヌスに店内で尋ねてみる。
「何をチェックしてるんですか?」
「ああ、これ?
指定ポケットカードで集めないといけない本がどの店にあるか、最新情報の確認」
「やっぱりそうでしたか。
……手伝った方がいいですか?」
「別にいいよ。
結構、見分けがつきにくいのもあるし」
「そうですか。
……ちなみにどういう本を探してるんですか?」
「えっとね。
民明書房、整形手術本、図鑑、児童書、それ以外の1000ジェニー以上する本」
ん? 初っ端、おかしなこと言わなかったか?
「あの……いま言った中に、妙な本が混ざってませんでした?」
「……多分、民明書房のことだよね。
アイシャは知ってる? このシリーズ」
「えっと、その……知ってると言えば知ってるんですが。
色々眉唾なことが書いてある本として……」
「ん、そだよ。
……俺の部屋にあるの、見たかもしれないけど。
思いっきりネタ本だからね。たまに本気で内容信じてる人がいて、怖いけど」
やっぱりそうなのか……ていうか、そんなのを集めるイベントでいいのか指定ポケットカード。
「それも、指定ポケットのイベントで必要なんですか?」
「うん。『超一流作家の卵』がそう。
えぇっと、確か……
この街に住む、最近スランプに陥ってる少年向け漫画雑誌の不人気作家の依頼を受けて、あちこちの本屋に並んでる民明書房シリーズの書籍を20種類探して渡すと入手できる」
ひどいな……なんだそれ。
本探し自体は普通だけど、そのイベントの導入はどうなんだ。
「あのさ。
ちょっと、あのCD屋に寄ってもいい?」
ウラヌスがそう尋ね、私達も2時間以上書店巡りをして少し飽きがきていたので、快く了承する。時間つぶし用の本は、もう数冊確保し終えたしな。
店内に並ぶCDの棚を眺めてはみたものの……うーん、さっぱり分からん。
聴いてみれば分かる曲かもしれないけど、曲名や歌手名では覚えてないんだよね。……玉姫様って、歌手なの曲なの? ……アルバム? 分かんないよ、こんなの。
メレオロンやシームは、それなりに熱心そうに眺めてるから、ある程度理解できてるんだろう。そもそも私、TVでニュース以外はあまり見ないからな……どんだけ音楽に縁がないんだ。
かろうじてゲームミュージックのコーナーで知ってるものもチラリとなくはないけど、基本分かんない。うーむ、私が持ってる格ゲーも古いからな……
ウラヌスは、視聴コーナーでヘッドホンを着けて、何やら真剣な表情で聴いていた。
ああ、そういうことか。カラオケの準備したかったのか。……ちょっと酷なこと頼んだかも。ウラヌスに頑張ってもらうしかないけど。
修行の時間に障らないようにって考えると、昼前の11時くらいには歌唱イベント始めた方がいいかな。だとすると、もうそろそろか。
デパートでちょこちょこと買い物を終え。
徐々に血色が悪くなっていくウラヌスが案内したのは、そこそこ大きなライブハウス。
なんというか……ディスコ的な雰囲気だ。薄暗い広間にゲームキャラがわんさかいて、ステージ上で演奏される音楽に合わせて、リズムをとったり踊ったり合いの手を入れたりしている。
正直言って騒がしい……。私は肌に合わないな。
シームとメレオロンも、あまりこういった場所に免疫がないのか、そわそわしている。
「ちょっと煩すぎない!?」
「ええ、そうですね! そういう場所ですし!」
「アイシャはこういう場所って来たりする!?」
「来ませんよ! 私、最近の曲に疎いですもん!」
演奏中なので、会話にも一苦労だ。シームの背丈に合わせて少し膝を曲げつつ、何とかやりとりする。
入場料もそこそこ取られたし、1回で終わらせたいな……
いちおうウラヌスから3人ともお金を預かっているので、このライブハウスでは自由に飲み食いできる。簡単なものはデパートでも買ってあるし、ひとまず準備は万端だ。
ウラヌス、大丈夫かな……。傍目に見てても具合悪そうだけど。ちょっと声かけとくか。
演奏が終わり、暗かった照明が明るくなる。合わせて、やや静かになるライブハウス。高い位置にあるステージを見上げて、落ち着かなさげな様子のウラヌスに話しかける。
「ウラヌス。
顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「う、うん……まぁなんとか。
歌いだしたら、後は勢いで何とかなるだろうし……」
その、歌いだす前に倒れそうなんだけど。……こりゃ無理かもな。
「無理しないでくださいね。
体調が悪いなら、日を改めても構いませんよ?」
「……ここまで来たら、その方が嫌かな。もうさっさと済ませたいし。
今は多分不安なだけだから。大丈夫だいじょうぶ」
大丈夫の根拠がさっぱり分からない。んー、精神的な不調だとは思うけど……
「このイベント、前にもやったことあるんですよね?」
「まぁね。
その時は1人だったから、別に気にしなかったんだけど……」
ああ、そういうことか……
私達がいるから何かとプレッシャーなんだね。歌ってるのを聴かれるし、手間取ったり失敗したら私達に迷惑をかけると考えてるんだろう。
背負っちゃう人だな、ホントに……
流石に気の毒になり、肩に手を置く。なんだろう? と思わしげに見返すウラヌスに、
「そこまで緊張しなくていいですよ。
あなたに任せてるんですから、私達のことは気にしないでください。……焦らずに」
「……
うん、善処する。ありがと、アイシャ」
そう答え、彼はステージへと近づいていく。いよいよか……
私はどこで聴こうか迷い、ステージから遠いバーカウンターへ向かう。目につくトコにいると気にするだろうから、せめて離れていよう。
おそらくイベント発生の為の条件を満たしていたのだろう、少ししてステージの袖からウラヌスが現れた。
一斉にステージ下の観客が声援を上げる。なんだ、この煽り。ただのカラオケイベントじゃないのか。まぁ景品が指定ポケットカードだし、こんなもんかもしれないけど……
ステージ中央にセットされたモニターを操作しているらしいウラヌス。多分あの機械で選曲するんだな。歌詞とかも表示されるんだろう。
元の世界にあったカラオケについては、正直覚えていない。けどグリードアイランドのクリア時のエンディングイベントでカラオケがあったから、どういうものかは知ってる。……ビスケが私も歌わないかって誘ってきたけど、最近の曲なんて全然知らないと言って断った。実際調べても、知ってる曲はなかったしな。
ビスケは楽しそうに歌ってたし、このイベントもビスケがクリアしたのかな……
長丁場になりそうなので、バーカウンターの椅子に腰掛ける。
「ご注文は?」
バーテンさんが尋ねてくる。んー……後ろの棚はお酒しか目に入らないな。ジュースもあるんだろうけど。
「ブック。
……氷水で。お釣りは預かってください」
カウンターにお金カードを置く。すぐにカウンターへ氷水の入ったグラスが置かれた。
おしゃれなグラスに入った氷をカランと鳴らし、軽く口をつける。
ステージ上では、ウラヌスが機械を操作し終えたようだ。さて、お手並み拝見といくか。
ライブハウス内に曲が流れ始めた。照明が薄暗くなる。うー、私も緊張してきたぞ。
曲調は結構強めの雰囲気だ。
『テステス。あ、あー、アーー♪』
マイクを通し、スピーカーから曲混じりにウラヌスの声。お、おぉ。いつもの中性的な声から、一気に高音の女性声になったぞ。綺麗だなー。
歌い始めるウラヌス。……中性的な声に戻り、淡々とした歌声が響く。
ふむ。これは……本人の言ってた通り、上手いってほどではないかもな。もちろん下手じゃないけど、カラオケが上手い人ぐらいの感じだ。これならビスケの方が上手いかも。
大丈夫かな……? いちおう観客からはブーイングなんて聞こえてこないけど、これで80点以上採れてるかはまた別だからな。どっかで分からないんだろうか。
曲のサビに入り、ウラヌスの歌声が強まる。お、ここは上手いな。観客も反応してる。なるほど、80点以上だとゲームキャラが反応してくれるのか。
間奏に入り、やがて歌詞の2番が始まる。……さっきより少し上手いな。
再び曲のサビへ。……うん、やっぱりここは得意なんだろう。観客がいい反応してる。
また間奏を挟み、サビが繰り返される。ウラヌスの歌声が更に強まって、観客の反応もよくなった。
……曲が終わった。広間が明るくなる。……はぁー、聴いてるだけで気疲れした……
うーん。この分だと、サビ歌ってるトコしか80点キープできてないんじゃないかな……
5分くらいの曲で、せいぜい2分か。不安なペースだな。
ステージ上のウラヌスが、機械を操作するのが見える。私はグラスに口をつけ、冷たい水の感触を口の中に行き渡らせる。
機械を操作し終えたウラヌスがマイクを手にし、
『──心配しなくても、今のは喉慣らしだから! こっからが本番!』
その大声にギョッとする。なんと。今のは1曲捨てた調整だったのか。
ノリの良い曲が流れ出す。広間が薄暗くなる中、ステージ上のウラヌスがワンピースの裾を揺らして、リズムを取っている。アレはビスケもやってたな。
ウラヌスの声が響き渡った。澄み切った高音がメロディアスに広がる。
う──……
うっまぁー!! なにこれ、スッゴイ上手いぞ! 素人の私でも分かるくらい、ビリビリ来たよ!
ステージ下の観客の反応も、初っ端から全く違う。声を上げ、手を打ち、踊っている。ステージ上のウラヌスも、腰を振ったりしてメッチャノリに乗ってる。
面白いな……もちろん私の知らない曲だけど、知ってる人が上手く歌うだけでこんなに楽しいもんなのか。
気づくと、観客に混ざらず後ろの方で陣取っていたシームが、きゃっきゃと喜んでいる。メレオロンは見当たらないな。気配はするから、観客の中か。
まぁいいや。今は、彼の歌を素直に楽しもう。
にしても、ホント上手いなー……。高音も低音も見事に歌い分けてみせてる。マイクが拾う微かな呼吸音を聞き取る限り、歌う技量もそうだけど合間で呼吸する技量も絶妙だ。
でもなんだろ……
初めて聴いた気がしないんだよね。どっかで聴いたような……
二番のサビに入り、まるでアイドルのように歌うウラヌスの楽しげな声音が、ステージからライブハウス内に谺する。髪の毛をぴょんぴょん跳ねさせ、無闇に躍動感がすごい。
──分かった! 呪文詠唱だ。神字を高速で書いてる時の詠唱、アレが歌ってる感じと同じなんだ。なるほどなー……
そういえばスペルカード使う想定の組手でも、あんな感じだったな。はぁー、なるほどねぇ。
感嘆しながら聴き入っていると、気づけばウラヌスの5曲目が終わっていた。
途中でシームが私のトコへ来て教えてくれたんだけど、どうもウラヌスが歌ってるのは基本アニメの歌らしい。まぁ歌詞がそれっぽいなとは思ってたけど。
だからシームの知ってる曲が多く、聴いてて楽しいらしい。それは良かった。知らない私でも楽しめてるんだから、シームはさぞ愉快だろう。
8曲目が終わったところで、
『ちょっと5分休憩!』
言って、ウラヌスがステージの袖へ姿を消した。はー……。やっと休憩してくれたか。やたらぶっ飛ばしてるからちょっと不安だったんだよね。あれ、結構オーラ使ってんじゃないかな。
これが並の念能力者でも健康な人間だったら心配しないんだけど、おそらくウラヌスは常人より身体が弱ってるからな。大声で歌い続け、時に踊りすらしているウラヌスが消耗してないはずがない。まぁノリノリじゃないと恥ずかしいから、ぶっ飛ばしてるんだろうけど……
そりゃ勢いで誤魔化さないと、あんなのやってらんないよね。歌詞も結構恥ずいし……私、アレ苦手なんだよな。……愛してるとか、迷わないでとか、なかなか言えない。
シームがこっちへ来て、カウンター席に座る。
「ご注文は?」
問われて、棚を眺めて首を傾げるシーム。
「シーム、私が頼みますよ。ジュースでいいですか?」
「うん、じゃあオレンジで。あと何か食べるもの」
「ええ。
……すいません。オレンジジュース1つ、グレープフルーツジュース1つ。
あとフルーツクラッカーを2セット。お支払いは貯金からで」
「畏まりました。
フルーツクラッカーは、少々お時間いただきます」
「アイシャ、ありがと♪」
「いいえ」
笑顔でそんなやりとりをして、ステージに目を向ける。
「そういえば、メレオロンどこ行ったんでしょうね?」
「うん、見かけないね。
時々探してるんだけど、ボクも見つかんなくて」
観客の中に気配があったんだけど、今はないんだよな。ついさっきまでは居たっぽいんだけど。
────その一方、ステージの袖では。
遠目には分かりにくいものの、ワンピースを汗で貼りつかせたウラヌスが、バインダーから出したペットボトルで水分補給していた。
「はぁー……
やっと半分だよ。やっぱ連続だと喉いってぇー……けほ」
採点結果と80点以上の合計時間は、歌詞が表示されるステージ上のモニターで合わせて確認が可能だった。ついさっきの曲で、30分20秒。ライブハウスに入ってから約1時間、いま12時ぐらいだ。ペースは悪くない。
問題はここからだ。持ち歌をそれなりに消費して、体力も喉も磨り減っている。上手く最後まで保たせられるかどうか。……聴いてくれてる仲間が飽きないように、曲調の違う歌を交互に入れたりとか余計なことをする余裕はあるけどな。
ノド飴を口の中で転がしつつ休憩しながら、少しでもロスタイムを減らす為に頭の中で選曲しておく。
と、ステージに誰かよじ登ってきた。袖へとまっすぐ歩いてくる。
「お? なんだよ、メレオロン」
「ぷはっ。
……様子見に来たのよ」
わざわざ【神の不在証明/パーフェクトプラン】を発動してまで、ステージの袖を見に来たらしい。
「心配しなくても順調だよ。後1時間もかけずに、ケリはつけるさ。
終わったらすぐ修行なんだから、昼メシ済ませといてくれよ」
歌ってる自分だけは食べる時間がないので、昼食をデパートで先に買ってある。3人の修行中に食べるつもりだった。……今日はもう修行する気力も残らなさそうだ。
「それはともかく、アンタその服」
「う、うん……」
ワリとヤバメの状態だと自覚はしていた。どうせ離れてる皆からは見えないと思うが、休憩中に少し乾かしたかったのも事実だ。
「あ、もしかして着替え持ってきたのか?」
メレオロンが背負うリュックは、俺のヤツだ。当然、着替えの服も入ってる。
「ええ、そのつもりよ。ブック」
「うん?」
なぜブック? 疑問に思ってると、バインダーを開いたメレオロンがカードを1枚取り出し、
「ゲイン」
カード化を解除した。メレオロンの手に折り畳んだ服が現れ、それを両手で広げてくる。
「お、おあぁっ?!
ちょ、オマ、な、なんのつもりっ!?」
「もちろん。
着・替・え♪」
確かにデパートで、着替えが欲しいと言って、婦人服のコーナーで何か探していたのは知ってる。が、まさか俺の着替えを、汗だくになるのを見越して買っていたとは。
「ではアイドルのウラヌスちゃん、お着替えしましょーねぇ♪」
「──はぁっ!? アイドル!?
いや、ままま、ちょっタンマ!
ンなの着ないぞ俺、おかしいだろソレッ!?」
「だーいじょーぶよ。
絶対似合うって。アタシが保証するわ」
「似合う似合わないじゃねぇッ!!
嫌だっつってんだろ!」
「……じゃあ何?
アンタそのスケスケ寸前の状態で、ステージ立つの?
なかなかやるわねー。露出の趣味あったんだ?」
「あるかンなもんッ!!
いいから普通の着替えよこせっつーのッ!!」
「い・や。
これに着替えなさい。
あ、そーだ。汗拭きタオルもあるから、脱いだ後に拭き拭きしてあげるわねー♪」
「オ、オマエ、ふざけんなよ……
俺に何か恨みでもあんのか?」
「まっさかー。恨みなんてないわよー。
合法的なセクハラでーす」
「認めやがったコイツッッ!!
つか合法なもんかヤメロマジでッ!!」
「ほらほら、こんなことで消耗してたらイベント失敗しちゃうわよー?
大人しく覚悟決めなさいってばぁー」
「い、いや……
お願い、そ、それだけは……」
「ダメでーす♥」
「キャアーッ!!」