どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第七十九章

 

 10分近く経ったけど、ウラヌスはまだ出てこない。

 シームは早々にジュースとクラッカーを平らげ、また観客の後ろに戻っている。

 メレオロンは……うん? ステージの袖か? ウラヌスと一緒にいるみたいだな。一体いつの間に、またそんなところへ。なんかやってて、それで時間かかってるのか?

 

 ライブハウスの出入口が開き、誰かが入ってきた。あ、やべ。プレイヤーか。まずい、いまバラけてて守りぐっちゃぐちゃだぞ。

 入場料を払い、きょろきょろしていたプレイヤーが、私に気づく。……あれ、この気配。

 歩いてくる、見覚えのある白髪のおじ様。

 私はカウンター席から腰をあげ、おじ様はサングラスを外す。

 

「ジェイトサリさん」

「アイシャくんか。ついさっきで、奇遇だな。

 彼らと一緒じゃないのか?」

「あ、はい。

 いまイベント中で……」

「そうか。タイミングが悪かったな。

 安全に取れるカードだから、先に挑戦しておこうかと思って来たんだが……

 遠慮した方がよさそうだな」

「ジェイトサリさんも狙ってたんですか」

「うむ。

 ……まぁせっかくだから、少し見物させてもらおう。構わないかな?」

「え、ええ。もちろん」

 

 そうか。イベントに変更入ってるかもしれないし、見物は確かに意味あるな。しっかりしてる。多分チームリーダーだもんな……ウラヌスとあれだけ話せてたから。

 

 私はカウンター席に戻り、おじ様も1つ空けて隣に座る。

 

「ご注文は?」

「何もいらない」

 

 ここはそれで断れるのか。バーテンダーもそれ以上尋ねない。そういえば私が代わりに注文した時も、シームに一度聞いてそれっきりだったしな。

 まぁ最初に入場料取られてるもんね……この席は休憩所も兼ねているんだろう。

 

「今はどういう状況なのかね?」

「ウラヌスが挑戦しています。

 いま8曲歌い終わったところで、休憩中です。見た感じ、残り半分くらいですね」

「順調だな。

 前と同じ入手条件なら、キミの見立て通りの進捗だろう」

 

 再びサングラスをかけるおじ様。ふむ……熟練の念能力者みたいだけど、やっぱり腕が立つようには見えないな。昔は使えたけど、なまってるタイプだろう。

 

「……。

 ぶしつけな質問だが、キミはウラヌスとどういう関係なんだい?」

「え? えっと……」

「都合が悪いなら答えなくてもいいが……

 会長に選出されるほどのルーキーと、あの天才少年がどういう関係なのか、少々興味が湧いてね」

 

 ……。ウラヌスって天才少年と思われてるのか。まぁ、天才なのは私も認めるよ。……なんで私の周りには、こんな天才がいっぱい居るんだ……

 

「……彼から、一緒にグリードアイランドへ入らないかと誘われまして。

 知り合ったのはごく最近です」

「ふむ。……ウラヌスはどうにも不思議な人間でね。

 力ある者を見抜くセンスを持っているようだ。とは言え、キミは会長に推されるほどの人物だから、特別見抜いたわけでもないかもしれないが」

「会長会長言わないでくださいよ……

 あなたも言っていたように、あんなの茶番ですから」

「……拒んでいるキミを無理に押し上げた連中も、何を考えていたんだろうな。

 壇上のネテロ会、いやアイザック氏までキミを推すのを聞いた時は、耳を疑ったよ」

 

 うーん……

 やっぱりあの会長総選挙の影響は、小さく見ない方がいいんだろうか。ボトバイがもう少し会長らしく振る舞えば私に向けられる関心も軽減されそうだけど、まだ遠慮があるんだよな。板に付くまでもうしばらくかかるか……いきなりネテロのようにできるわけないもんな。私も事前に相談もなく押しつけたし……

 

「……まぁ前々会長は、イタズラ好きなところがありましたから」

「確かにそうだが、アレは度が過ぎると思うがね。

 まったく……」

「……

 ちなみにジェイトサリさんは、誰に投票しました?」

「私か?

 一貫してアイザック氏に投票し続けたよ。

 あの人ほど、ハンター協会の会長が似合う男はおるまい」

 

 ……。

 なんでだろ。なんかすっごい申し訳無いことした気がするな……

 

「キミは誰に投票した? やはりボトバイ氏かね?」

「……そうですね。私は彼こそ会長に相応しいと思いましたので」

「ふむ。……適任ではないとまでは、私も言わないがね。

 だがアイザック氏よりも会長に相応しいとは思えないが」

 

 それは私も同感だったりする。ただ本人がもう辞めたがってるのに、無理やり続けさせたくはない。……だからって私も会長になるのはゴメンだけど。

 

「……アイザック氏を病院送りにしたという話は本当かね?」

 

 私は沈黙したまま、表情を変えないように努める。

 

 くそ! パリストンが選挙の最後に入れやがった一撃、ほんとシャレにならない……

 

「巨大キメラアントをハントした、という話については、私にも良く分からないからな。

 確かに脅威だったのだろうが、狂暴な獣には事欠かない世界だ。比較でもしない限り、キミの成し遂げた功績の大きさは私には理解できない。

 ……だが、アイザック氏と戦えると言うならば話は別だ」

 

 そうだよね……誤魔化しようがないくらい、ネテロは分かりやすい指標だからな。

 私も、人類の中で誰が最強か? と問われれば、ネテロと答えるしかない。実際にそうなのかが問題ではない。そう知れ渡っていることが肝要なのだ。私がネテロと答えざるを得ないのは、そういうことだ。

 私がリュウショウであったなら問題はない。ネテロと渡り合えるだけの力があったのは周知の事実なのだから。

 けれど私──アイシャは違う。ネテロを病院送りにするほどの実力を有すると知られるのは、皆が認識するパワーバランスを崩す行為だ。それがどんな結果をもたらすか……

 

「……。

 アイザック=ネテロが言っていた通りですよ。偽りではありません。

 ……けれど、言葉のカラクリには気づかれてますよね?」

「無論な。勝敗については触れていなかった。

 だがどうあれ、アイザック氏を病院送りにしたのが事実なら、それで充分すぎる」

 

 うん……そう返されると、もう言葉もない。

 

 せめて、私も病院送りにされたって言った方がいいのかなぁ。変な誤解広まるの嫌なんだよな。でもなぁ……それを言うと、より信憑性が高まりそうなんだよね。

 

 ネテロとの戦い、どうにか秘密裏にできないかな……。たった一度でこれなんだから、今後も問題になりそうだ。……ネテロには勝ちたいけど、最強の称号なんて別に要らないんだよ。少なくとも、そう思われたくはない。どれだけのしがらみに囚われるか分かったもんじゃないからな。私はネテロと気兼ねなく戦いたいんだ。

 

「……気分を害させたようで済まない。

 それで充分だと言うのに、詮索して悪かったね」

「いえ……」

 

 知りたい、という気持ちは私にも理解できる。もしネテロが誰かに病院送りにされたと聞いたら、私も同じことを思うだろう。

 ……モノのついでだ。誤魔化しがてら、私も気になってたことを聞いてみるか。

 

「興味本位でお尋ねしますが、ゲームハンターってどのような活動をされるんですか?」

「うん? ……また唐突な質問だな。

 私が言うのもなんだが、キミはゲームなんてものに興味があるのかね?」

 

 あー、そう返してきたか。ゲームのプロみたいな人に、誤魔化しは通じないだろうしな……。少なくとも疑われてる時点で、見透かされたと受け取っていいだろう。

 

「正直に言えば、強く関心を持ってるわけではありませんが、全くないということもないです。嗜む(たしな )程度にゲームはしますし、興味がなければグリードアイランドに入ってみようとは思いませんから」

「……なるほど、それも道理だな。

 ましてデスゲームとしても知られているのだから、ゲームに無関心な人間が入るはずもないか」

 

 実際の事情は少し違うけど、ゲームに興味があるのは本当だからね。……今はそこまで熱心ではないだけで。

 

「ふーむ。そうだな……

 ハンターというのは概ね3つに大別される。

 何かを集める、何かを調べる、何かをする、だ。……何かをする、についてはその他という意味でしかないが。

 ともあれ、その3つのうちであれば、私は何かを集めるタイプだ」

「……

 つまり、ゲームを集める、ということですね」

「その通り。

 入手が困難、遊戯が困難なゲームを収集する。

 とは言え大半のゲームは金銭で取引可能なものだから、活動時間の多くはゲーム関連の取引による資産運用に費やしてきた」

「資産運用ですか……」

「単なるトレーダー、金儲けではないかと揶揄(や ゆ )されることもあるがね。

 真の狙いは、取引によって形成したコネクションを利用しての情報収集だ。何せ希少なゲームというのは、その所在を知ることすら困難だからね。当然プロハンターの肩書きも大いに役立ててきた。

 そのかたわら、クリアが困難と言われるゲームの攻略も行う」

「あ、ゲームはちゃんと遊ばれるんですね」

「無論だ。

 美術品のように鑑賞して終わり、というわけではない。ゲームは楽しんでこそだ。

 世界に1本しかないソフトを遊んでる時の感覚は、この歳になっても胸が躍るものだ」

 

 お、おぅ……

 分からなくはないけど、このおじ様も熱く語るな……まぁ情熱もなしにゲームハンターなんて名乗らないか。

 

「だが、違法なハックやコピーゲームも後を絶たない。ハードやソフトの盗難もだな。

 この辺りの取り締まりや予防も、私の活動範囲に含まれる。

 ……キミが知っているかは分からないが、ハッカーハンターのイックションペとも手を組んでハントすることもある」

 

 ……聞いたことあるな、そのけったいな名前。選挙で結構上位にいた人じゃないか?

 

「どんな人物なんですか? そのイックションという方は」

「私も直接会ったことはないな。

 素性や経歴は一切不明、徹底した顔出しNGでも有名なハンターで、電脳世界の住人とまで言われている。

 ……噂では、グリードアイランドの製作者の1人ではないかという話だ。私も彼から、グリードアイランドのソフトを買い取ったぐらいだからな。眉唾ではないかもしれん」

 

 ほぅ……謎すぎるな。ウラヌス知らないかな? 後で聞いてみよ。

 

 

 

 

 

「──イィーッキシ!」

 

 某所にて。けったいなクシャミをした人物が、目の前のモニターにツバを吐き散らかし、嫌そうにそれを拭き取っていた。

 栄養ドリンクを一息に呷り、汚くげっぷする。

 

 ──ジンの野郎に再勝負の条件として押しつけられた案件に改めて目を通し、うんざりする。

 ハッカーも、ここ最近活発に動いてやがるし、後から後から用事が増えていく……

 大量にあるモニターの1つに目をやり、

 

「……ちっ。サボッてやがんな」

 

 簡易チャットを飛ばす。メンション「@St.Syarnorke」。キーボードが、ガガガガガガと音を立て揺れる。

 

『──おいコラ、シャル! さぼってんじゃねーぞ!

 エラー案件溜まってんじゃねーか! さっさと処理しろや!』

『はいはい、ただいま!』

『テメーの繋げてるトコは全部こっち把握してんだからな!

 関係ねーもん見てんじゃねーぞ!』

『分かってます! 関係あるものしか調べてませんよ!』

『バカか!

 テメーの仕事とバストサイズの測り方なんざ何の関係がある!?』

『スタッフの子にちょっと質問されて』

『フザケンナwwww オマエちょっとその話kwsk』

『すいません。うそです』

『テメーマジか? 隠し事する気か? おいコラちゃんと雇い主に報告しろや』

『プライバシーです。仕事の邪魔しないでください』

『おまえwww 後で覚えてろよwwww』

 

 

 

 

 

「──くしゅん!」

「ふむ。風邪かね?」

「い、いえ。

 急に鼻がムズムズしただけです……失礼しました」

 

 なんだろ。誰かが噂した? 風邪じゃないと思うけど、ちょっと汗かいてるしな……

 

「それならいいが。

 もし風邪なら、魔女の森で魔女から風邪薬を購入できるから、行ってみるといい。

 高くつくが、市販薬よりは効く」

「あー。そうなんですか……

 ありがとうございます」

 

 そっか。回復アイテムは大天使の息吹しかないけど、医薬品は普通に売ってるし、より強力なのがあっても不思議じゃないか。指定ポケットカードにもそれらしいのあるもんな。

 

「……ずいぶん休憩が長引いてるようだが、大丈夫かね?」

「んー……

 確かにそうですねぇ」

 

 もう15分くらい経つかな? あんまり長引くようだと修行時間に影響するし、様子見に行った方がいいか?

 

 

 

 

 

 その頃、ステージの袖では。

 

「ほぉら、早く出なさい!」

「だからヤダってば、こんなのぉ……」

「予定詰まってるでしょ! ケツカッチンなんだから、早く出なさい!

 グズグズしてたら、そのうちアイシャとシームが見に来るわよ!」

「やめろケツ叩くな! 分かったよぉ……

 くぅぅぅ……

 メレオロン、オマエ絶対覚えとけよ」

「えぇ。

 ウラヌスの色々、バッチリ目に焼きつけたわ」

「それは忘れろぉぉぉ……」

 

 

 

 

 

「あ。出てき……

 た?」

 

 思わず疑問形になる。ジェイトサリさんもサングラスを取り、ステージを凝視している。

 

 誰だ。

 

 い、いや。なんだあのカッコ。めっちゃフリフリで、ピンク色の……

 いや待て。

 なんだ頭に付いてる耳は。腰からシッポみたいなの出てないか? ──くそっ、照明がチカチカしてよく見えない。

 思わず、どんなカッコしてるか確かめに、カウンター席から離れてステージ下へ向かう。ジェイトサリさんも後からついてくる。

 シームも私達を見て、一緒についてくる。

 う、ぐ。観客が邪魔だな。ギュウギュウに詰めすぎだろ。わ、ちょっ、誰だ胸触ったのチクショウ!

 苦労して、ステージのすぐ下、最前列に辿り着く。ステージのウラヌスが私達に気づき、ずささっとステージ後ろへ下がる。

 

 ぅ、うわ、ウラヌスのカッコ……

 ね……ネコミミだ。ヘアバンドでネコミミくっつけてる。

 衣装のオシリからは、ゆるりと白いしっぽが伸びていた。猫のしっぽ……だよね?

 思わず隣のジェイトサリさんと顔を見合わせる。おじ様、面白いくらい目を丸くしてる。

 ウラヌスの服が、フリッフリの可愛らしいピンク色のドレスに。……ドレスか、これ? なんかおかしいぞ? プニップニのおなか丸出しですぞ。おへそメッチャ可愛い。

 

「わぁーっ! キュマニャンだーっ!!」

 

 ……はい? いまシーム、なんつった?

 

「知ってるんですか、シーム!?」

「うんっ!!

 絶賛アニメ放映中の、プニキュマファイブの1人!!

 変身するとキュマニャンってキャラになる子がいるの! そのコスプレッ!!」

 

 ……説明されたけど、よく分かんなかった。ほわい?

 

 い、いや。シーム、そのアニメいつ見たんだ? 絶賛放映中って、最近やってるアニメなんて見れる状況になかったでしょアナタ。

 

 ウラヌスは見たまんま小動物よろしくぷるぷるしながら、機械を操作し始める。しっぽ揺れまくってるぞ。顔真っ赤すぎるけど大丈夫か……

 

 しばらくして演奏がスタートする。

 おん? なんかバックコーラス、プニキュマプニキュマ言ってるぞ?

 

 突然ウラヌスが元気に歌いだした。うわっ、マイク越しじゃない肉声すげぇ!

 本っ気で上手いな……なんか振り付けまでやってるぞ。さっきまで恥ずかしがってた人、どこいった?

 シームがもう「キャーッ!」とか「ひゃーっ!」とか歓声あげてる。ふ、フード取れて袖めくれてんだけど……観客も騒いでるから、どさくさで分かんないとは思うけど。

 

 ……多分、衣装と同じアニメの曲を歌ってるんだろうということは分かる。

 分かるけど、どゆこと? その衣装、わざわざ用意して歌いたかったの?

 

 ちらりとステージ袖を見ると、なんかメレオロンが笑い転げてる。……こいつだよね、ウラヌスをこんなんにしたの。

 そしてウラヌスは、ヤケクソで選曲して歌ってると。

 

 ──よし! メレオロンぶん殴ろう。決めた、後で絶対ぶっ飛ばす。

 

「くっくっく……

 ハーッハッハッハ!」

 

 突然大声で笑いだすジェイトサリさん。なんかツボったらしい。めっちゃ笑ってる。

 

 改めてステージのウラヌスを見る。その……スカート。短い。そんなフリフリさせたらスゴイ怖いです。多分、相変わらずだろうし……

 

 でも、楽しそうなんだよな。みんなもだけど、ウラヌスも終始笑顔だ。やけくそだけど。

 ……まあ、いっか。

 少なくとも、この1曲だけはここで聴こう。ノリ悪く、ただ突っ立ってたらウラヌスもイヤだろうから、リズムに合わせて軽く身体を揺らす。

 

 

 

 プニキュマなんとかの曲が終わり、流石にウラヌスが肩で息してる。

 

「ウラヌス、大丈夫ですかっ!?」

 

 ウラヌスは手を上げ、

 

『へーき平気……

 こっから最後まで一気に行くから』

 

 ま、まさかウラヌス、そのカッコのまま行くのか……

 

 不安が的中し、続けて機械を操作するウラヌス。

 何がそこまで彼を駆り立てるんだ。変なスイッチ入ったんじゃないだろうな。

 

 う、うん……可愛いんだよ。可愛いんだけど、ちがう。何か、なりふり構わなさ過ぎて不安になる。少なくともペース配分を間違えてる。

 

 曲が流れ出す。あああ、ダメだ。もう勢い任せだ……

 ステージの袖から爆笑が聞こえる。見ると、メレオロンが足をジタバタさせ、また笑い転げてた。あのヤロウ……

 肩にポンと手が置かれる。ジェイトサリさんが、ステージから離れていく。私も、彼が観客を押し退ける後ろからついていく。シームは……来ないな。まぁいいや。

 

「はぁー……」

 

 観客の山から抜け出し、カウンター席まで戻る。ジェイトサリさんも先にそこまで戻り、腰かけていた。

 

「……ジェイトサリさん、何か飲みます?」

「うむ……少し喉が渇いたな。

 水でいいんだが」

「オレンジジュース1つ、氷水1つ。

 支払いは貯金から」

 

 すぐに、ジュースグラスと氷水の入ったグラスがカウンターに並ぶ。

 氷水をジェイトサリさんの前に置く。

 

「すまないね。助かるよ」

「いえ……

 その、ああいうウラヌスって見たことあります?」

 

 ジェイトサリさんは氷水のグラスを呷った後、首を横に振る。

 

「いや、初めてだよ。

 ……あれだけ楽しそうにハッちゃけてるのを見ること自体ね」

 

 やっぱりなぁ。短い付き合いとは言え、私も初めてだもん。性格違いすぐる。

 

「……以前から心配していたんだが、彼は良い友人を得たようだな。

 安心したよ」

 

 え。安心? 私はむしろ猛烈に不安ですが。大丈夫なのかアレ。

 

「彼は生真面目すぎるからね。

 たまに会う程度の知人でしかないが、いつか潰れてしまわないかと心配していた。

 私から言うことでもないだろうが、これからも彼のこと、良くしてやってほしい」

「……はい。

 ただ、私の存在がかえって彼の負担になっている気もしますが……」

「そんなことはないさ。

 あの慎重なウラヌスが、あれだけ恥も外聞もおそれず好きに振る舞うなんて、キミ達を信頼していなければ出来ないだろう」

「……」

 

 そうなのかな。……私にはよく分からない。

 信頼、か。

 まだ友達になって日も浅いし、どうなんだろ。彼みたいな友達、いなかったからな……

 

「私はそろそろ行くよ。ウラヌスによろしく伝えてくれ」

「あ、はい。

 ジェイトサリさんもお元気で」

「ありがとう。

 ……彼もだが、キミも身体は大切にな」

 

 そう言葉を残し、ウラヌスの歌声を背景に、おじ様はライブハウスから出て行った。

 

 ステージ上で楽しげに歌うウラヌスへ目をやる。

 時に力強く、時に滑らかな歌声が、スピーカーを通して響き渡る。

 

 ……。

 

 ウラヌス。あなたは友達が居ないなんて言ってたけど────

 

 結構みんな、あなたのこと心配してたんじゃない?

 

 

 

 

 

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