どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第八十章

 

 ────アームストルにある、風間流合気柔術本部道場。

 

 自室もあり、すっかり慣れ親しんだこの道場で、ゴンは『堅』の修行中だった。

 

 本来なら組手をした方が少しでも足りない実戦経験を補えるのだが、あいにくと相手がいない。アイシャは当然不在。クラピカは緋の眼の交渉が難航しているらしく数日不在。レオリオは医大の単位取得の為にこちらも数日不在──もっとも夜には来てくれるのだが。

 ミルキはアームストルにはいるものの、野暮用があるらしく修行場には顔を出さない。本部道場内の自室に籠もりきりだ。

 

 よってここにいるのは、ゴンとキルアだけである。そのキルアも同じく『堅』の修行中。ゴンは必殺技ありの組手をしたいのだが、最近本部の念能力者は全く相手をしてくれない。「まだ死にたくない」と言って断られる。本当に必殺しかねないのだから、当然と言えば当然だが。

 キルアとは組手を行っていたが、あまり同じ相手とばかり戦っても仕方なく、そもそもキルアに「いい加減にしろ!」と何度も怒られているので自分からは声をかけづらかった。

 

「はぁ……」

「なんだ、ゴン?

 オレと一緒に修行すんのが、そんなに退屈か?」

「いや違うよ! 誤解だよキルア!」

「ふぅん。オレは退屈だけどな」

「えー……」

 

 雑談を交わしながらも、お互いの『堅』に乱れはない。もしここにアイシャがいれば、お喋りする余裕があるなら組手をしなさいと指導が飛んだかもしれないが、気楽なものである。朝食後にそんなゴリゴリ修行したくないというのが本音だ。これでも軽く流してる程度なのだから、修行中毒にもほどがある。

 

「別にゴンが悪いわけじゃないさ。

 アイシャがいねーと、やっぱ退屈だなって」

「うん……」

 

 結局修行に打ち込む為には、分かりやすい指標があるのが一番だ。ずっとこれまでそうだったことを考えれば、現状を退屈に感じるのは必然だった。

 

「……ゴン。

 おめー、ホントにアイシャの行き先、知らねーの?」

「知らないってば。

 何度も説明したじゃん」

 

 アイシャがアームストルから旅立ったのが9月14日。今日が9月19日だから、6日目になる。

 ただ、その前にもアイシャは世界樹へ旅行に出かけている。あれから道場に一度も顔を出してないので、ゴン以外の道場組は10日以上顔を合わせていないことになる。

 

 そしてゴンがアイシャから世界樹に呼び出されたことは皆も知っており、ゴンも彼女が世界旅行に出たことを皆に伝えている。

 当然ながらゴンは詰問を受けた。それはもう徹底的に問い詰められた。特にリィーナの追及は鬼の如しだった。

 それでもゴンは必死で隠し通した。互い違いに来る者達の絶え間ない詰問に対しても、なんとかしらばっくれ続けていた。

 

 ──あのアイシャが約束を守って、自分にだけ打ち明けてくれたのだ。ゴンにも意地がある。その信頼に応えようと全力で口を閉ざし抜いた。

 

 ゴンから聞き出しようがないと悟った者達は、それぞれにアイシャの行き先を探ろうとしていたが、そちらも徒労に終わったようだ。

 

「にしても、ぶらり旅ねぇ。

 あの修行マニアのアイシャが」

「……でも、前にも世界旅行してたみたいだしさ。

 旅行しながら修行するくらい、アイシャなら出来るだろうし」

「オレ達と知り合う前なら分かるけどよ。

 アイシャだって、オレ達と組手した方が修行になるに決まってんじゃん。

 オレ達より強い念能力者って、世界にそんなゴロゴロいるもんか?」

「う、うーん……」

 

 そもそも強い念能力者がいたところで、手合わせをすることなどそうそうないだろう。敵対するケースもさほどあるとは思えない。あの天空闘技場ですら機会は限られる。

 つまり修行に励むだけなら、どう考えても達人の集う本部道場に留まるのが一番効率的だった。

 

「……キルア。アイシャのこと、心配?」

「バカなこと言ってんじゃねーよ。なんでオレがアイツのこと心配すんだ。

 つーか、どうやったらアイツがピンチになんだよ」

「あははは……まあね。

 でもアイシャって、結構ムチャするしさ」

「……。

 そういう意味じゃ、オレ達と完璧に連絡絶ってるのが不安だけどよ」

 

 巨大キメラアントの一件は、未だ記憶に生々しい。

 もし行き先を探り当て、駆けつけていなければ──想像に難くない結末を迎えただろう。

 あの時と違うのは、アイシャがゴンと話してから出かけた点だ。これがなければ、何をおいても捜索したに違いない。

 つまり、アイシャも分かっているのだ。黙って動けば皆が心配することを。だからこそ、今回は皆が心配するような理由で動いてるわけではない──そう伝える為、ゴンに伝言を頼んだ。

 第一NGLに行くわけでもないのだから、連絡は容易なはずだ。携帯電話自体は持って動いてるようだから、火急の事態があれば救援くらい呼ぶだろう。電波の届く地域なら、だが。

 

「……ゴン。今から話すのはオレの独り言だ」

 

 キルアの雰囲気が変わり、ゴンが緊張の色を強める。

 

「ミルキが、世界中の車両船舶の乗客名簿と渡航履歴をハッキングして調べまくってる。

 今のところ、どこにもアイシャの名前はないらしい」

「……」

 

 とんでもない物量を調べているようだ。ミルキの本気度合いが窺える。

 

「単に見つかってねーだけかもしれないけど、マジでどこにもないんだとしたら……

 可能性としては、身体一つで移動してるか、名簿や履歴に残らない個人所有の船や車をチャーターしてるとしか考えられないらしい。

 アイシャのことだから、修行兼ねて世界中走り回ってても不思議じゃねーけど、流石にそこまでバカじゃねーだろうし」

「キルア、バカって……」

「独り言に返事すんな。アイシャはかなりのバカだよ。……絶対本人には言うなよ?

 ……ともかく、まだ有り得そうなのは個人所有の船か車を使っての移動だ。世界旅行に車はアシとしちゃ遅すぎるから、オレの予想は船舶か飛行船、もしくはその両方。現実に有り得るのはこの辺だと思ってる。

 ──独り言はここまでだ」

 

 キルアは、しばし黙り込む。

 隣に立って『堅』を維持するゴンは、オーラに乱れが出ないよう細心の注意を払う。

 

「ゴン。

 オメー、アイシャから旅に出るって伝言を頼まれたんだよな?」

「うん……そうだよ?」

「どこでそれ聞いたんだ」

「……どこって」

 

「ゴン。お前、完璧に納得してるだろ?

 もしかしたらアイシャが嘘吐いてんじゃないかとか、そうやって疑ってる感じがしない。

 だから、旅に出る寸前で話を聞いたんじゃねーかと思ってな。呼び出しが朝ってことは、多分バタバタしてたんだろうし。

 で、その場所は飛行船発着場なんじゃねーかと兄貴はニラんでた。オレも同じ見解だ。

 アームストルは港から遠いしな。だとしたら一番ありそうなのはそこだ。アシとしても最適だからな。

 ……いちおう親父さんが持ってる個人所有の飛行船も調べたけど、そっちはここのトコ動いてねーらしいし。

 港でも駅でもタクシー乗り場でもない。道ばたでもメシ屋でもない。どうだ?」

 

「……。

 そうだよ。

 オレ、アイシャに電話で呼び出されて、行った先が飛行船発着場の前だった」

 

 プロハンターは、ハンターライセンスを使えば観光ビザを取得せずに、無期限で外国に滞在できる。つまり個人所有の飛行船があれば、やり方次第で足跡(そくせき)を残さず旅行が可能になる。

 

「やっぱりそうか……

 そこまで警戒されてるなら、ちょっと追跡は無理っぽいな。

 ……でもよ。個人所有ってことは誰かの飛行船ってことだろ? アイシャ、そんなアテいんのか? マフィアのツテなら、親父さんの船借りりゃ済むだろうし。

 そもそもアイツ、飛行船の操船なんて出来んのかよ……操船の為に誰かと一緒にいるんじゃねーの?」

「そ、そこまではオレも分からないよ」

「……まあいいけどよ。

 にしても退屈だな……

 ミルキもそう思ってるから、アイツの居場所探しで退屈しのぎしてるのかもな」

「そうかもね……」

「……ゴン。

 ほんとにアイシャのやつ、危ねーことに首突っ込んでないんだよな?」

「多分、大丈夫だと思う。

 もう絶対、勝手なことしないって約束したから」

「まぁ……ならいいや。

 旅行で1週間いなくなってるぐらいで、ジタバタしてんのもみっともねーしな。

 どこ行ってんのか、いつ帰ってくんのか分かんねーのが気持ちわりーけど」

「やっぱり心配してんじゃん、キルア」

「うっせーな。

 ……別にオレが心配してるわけじゃねーよ。

 兄貴がうるせーし、リィーナさんも兄貴に色々言ってくるから気になるだけだよ」

「……

 ほんとは、オレも付いていきたかったんだ。

 でもアイシャは、気兼ねなく自由に旅がしたいって言うから……」

「分かった、分かった。

 オメーがダメじゃ、誰も同行許してくれそーにねーな。

 ……ちぇっ。連れてってくれたって、よさそうなもんなのによ」

 

 ゴンは天を仰いで、静かに息を吐く。

 

 アイシャ……

 すぐには無理だと思うけど、できるだけ早く帰ってきてね。みんな心配してるよ?

 

 

 

 

 

 ────芸術都市ブンゼンのライブハウス。

 

『コングラ、チュレェーーーショーーーンッッ!!』

 

 ウラヌスが16曲目を歌い終えた直後、ライブハウスに称賛が響き渡った。

 観客がこれでもかというほど大騒ぎしてる。

 

 終わった……。ようやく終わったよ。

 時間は……午後1時の少し前か。全然問題ないな。シームは途中でカウンター席に来て食事してたし、問題ないだろう。……メレオロンは知らん。もし食べてなくても、知ったこっちゃない。

 

 ステージの上では、支配人のような姿のNPCが、ウラヌスにカードを手渡している。アイドルみたいな衣装を貫いたウラヌスは、くたくたに疲れた顔でも嬉しそうにカードを掲げた。

 急いでステージの方へ向かう。観客の波をすり抜け──

 

 私がステージ下まで辿り着いた時、ウラヌスはバインダーにカードを収め、膝を折ってヘタりこんだところだった。

 一息にステージへ飛び上がり、そばに駆け寄る。

 

「大丈夫ですかっ!?」

「…………ぅん。まぁ。

 ごめ、ちょっ……のど」

 

 ステージの袖からメレオロンが駆け寄ってくる。

 

「はい、水と喉アメ!」

「…………ぅん」

 

 力なくペットボトルを手に取り、キャップを開けてゆっくりと飲み始めるウラヌス。

 し、しっかし……

 改めて近くで見ると、すごいカッコだな……よく着たよ、こんなの。

 ペットボトルを置いて、喉アメの袋を開けて口に入れるウラヌス。アメをコロコロさせ、

 

「んぁー…………

 ちょっと、力任せに歌いすぎたぁ……」

「無茶苦茶しないでくださいよ……」

「うん……やりすぎた。

 ホントはもっと休憩挟んで、サビだけ高得点ってやり方が安全なんだけど……」

「ああ、もう。あまり喋らないでください。

 喉の回復に専念して」

「ぅん……」

 

 痛めた声帯にオーラを回せば、いくらかは回復するだろう。考えてみれば、ウラヌスの声は彼の命綱だ。万一、呪文詠唱を要する能力が必要な事態に見舞われたら、今の状態はヤバすぎる。

 

 心配そうにしているメレオロンの方を睨む。「ひっ」と声を上げたところを──

 

 ボコンッ! と頭上から叩いた。

 

「イィッッ!?

 いったぁー……」

「なに考えてるんですか、あなたはっ!

 彼にこんなカッコさせて……冗談じゃすみませんよ!」

「わ、悪かったわよ、それは……

 でもちょっと待って。アタシ、こんなムチャしろなんて言ってないわよ?」

「……」

 

 そんなことは分かってる。けど、キッカケは完全にコレじゃないか。

 

「ぁー、ぅん。ムチャしたの俺だし……

 それはコイツのせいじゃないょ」

 

 うんうんうんと頷くメレオロン。……ちっ。

 ステージにシームも上がってきて、私達のそばまで来る。

 

「でも、コイツに無理やり着替えさせられた……

 脱がされて、全身の汗拭かれて、この服を着させられて……」

 

 ボグンッッ!! と変態に2撃目をくれてやる。

 

「ぎゃああああーーッッ!!」

 

 ステージを転げまわる変態。知らん。

 

「……おねーちゃん、ちょーさいてぇ」

 

 シームも容赦なく切り捨てる。うむ、悪は滅ぶべし。

 

「あはは……アイシャありがと。

 ちょっと、スッとした」

「あっちはアレでいいとして……

 ほんとムチャしすぎですよ。オーラはまだ残ってますか?」

「うん……オーラは大丈夫。

 でも身体が結構ガタガタかな。

 こんな消耗する気なかったから、強化オーラの配分間違えた……」

 

 やっぱりそうか……。歌っていただけならそこまでオーラを食うはずがないんだけど、あんなにぶっ通しで歌って踊ってしてたら、身体が頑丈じゃないウラヌスにはさぞ(こた)えただろう。

 

「この衣装、イヤだったんですよね?

 どうして抵抗しなかったんですか」

「ぁーぅん。

 ……抵抗したら、体力消耗してイベント失敗するって……アイツに脅されて」

 

 無性にもう1発殴りたくなった。まだ転げまわってるし、やめとくけど。

 

「まぁ……それとは別にさ。

 シームが、このキャラ好きだって聞いて。あーうん、それなら別にいいかなって……」

 

 ──っ!

 そっちか。あんなムチャした理由は。

 ぐっ、メレオロンのヤツ、それでこんな衣装を……

 

「それってやっぱり、キュマニャンのコスプレ?」

 

 シームが尋ねる。うぅむ……すごい名前だ。確かに、見るからにキュマニャンって感じだけども。ネコミミもそうだけど、しっぽの破壊力ががが。

 

「ま、そだな。

 俺もこのアニメは見てたけど……」

 

 そうでしょうね。アレだけ楽しそうに歌って踊ってたし。

 

「すっごい可愛い! アニメより可愛い!」

「ぇー? ぁーその……

 それは知らんけど、どうも……」

 

 シームのベタ褒めに、何とも言えない反応をするウラヌス。そりゃあシームからすればそうだろうなぁ……。にしても発汗すごいな。

 ウラヌスは水をぐびっと呷り、

 

「えっと……

 そろそろステージから退かないとマズいんだけど……」

 

 ウラヌスが注意を促す。……どうしよ。着替え、うぅーん……メレオロンにさせるのは絶対イヤだし、私も流石にそれは……シームに手伝わせるのが一番マシか。

 けど、ステージの袖なんかで着替えさせたくないしな。

 

「……

 ウラヌス、今は体力と喉の回復に専念してください。

 私が背負いますから、オータニアの宿で着替えついでにお風呂へ入りましょう。

 そんな状態で修行に付き合ってもらうわけにはいきませんから」

 

 私の提案に、なぜかウラヌスはぎょっとした顔を見せ、

 

「えっ?

 ぅ……え? いや、その」

「私が背負うしかないじゃないですか。

 メレオロンとシームはリュック背負ってますし、体格的にも私が適任です」

 

 シームだと身長が足りないし、メレオロンはしっぽが邪魔になる。リュック背負う時も、しっぽが邪魔にならないよう工夫してるみたいだしな。

 

「え、ええと。

 その、俺、このカッコで背負われるの?」

「そうですよ。ここで着替えます?

 急がないといけないのに、そんな余力あります?」

「ぅ……」

「ぁぃちちち……」

 

 変態が頭を撫でつつ、涙目でこっちに来る。

 

「あのさ、アイシャ」

「なんです? もう1発くらいます?」

「お願いだから、もう許して……

 そうじゃなくて、ホントにウラヌス背負うの?

 アンタ、なんか忘れてない?」

「へ? なにがですか」

「あーうん……その」

 

 メレオロンとウラヌスが顔を見合わせる。ウラヌスが目をつぶり、激しく首を横に振る。

 なにごとかを考えるメレオロン。やけに難しい表情をした後、

 

「……ま、ウラヌス。がんばんなさい」

「ぅぇぇー……」

 

 んん? なんだ? 私、なんか見落としてる?

 

 

 

 荷物をまとめ、私がウラヌスに肩を貸す。この時点で背負って、もし移動スペルに妨害されて弾かれたらシャレにならないからな。これくらいなら大丈夫だろう。

 メレオロンが移動スペルを使用する。

 

 

 

「──『同行/アカンパニー』オン! オータニア!」

 

 

 

 一瞬、景色が変わる。ライブハウスの外へ瞬間移動。直後、そこから空へ高速移動。

 なるほど、密閉空間だから一度外に出したのか。……これはレオリオさんのルーラでも出来ないんだよな。

 考えてるうちに、よく見知ったオータニアの入口へ到着した。

 

「さ、ウラヌス。私の背中に負ぶさってください」

「ぅ……ぅん」

 

 私はしゃがみこみ、後ろ髪を前へ回す。

 ……。うん? なかなか負ぶさろうとしないな。

 目を向けると、あのカッコのウラヌスが何やら恥ずかしそうにもじもじしている。……あなた、その衣装で堂々と歌って踊り抜いたじゃないか……今さら何が恥ずかしいんだ。

 

「ウラヌス?」

「ぁ、ぅん。じゃあ行くよ……」

 

 ようやく私に負ぶさってくるウラヌス。ゴンの時と違い、かなり密着する形で背負う。胸に触らないよう注意してくれてるし、特に言うこともない。けど……

 

「……」

 

 ウラヌス、マジで抱き心地いいな……。負ぶさってるからちょっと違うけども、腕と足以外は力抜けてて、ぷにぷにぷにぷにしてる。あなたホントに男の子? そりゃシームも度々抱きつくよ……

 ともあれ、ウラヌスを背負って立ち上がる。

 

「では行きましょうか。少し早めに行きますね。

 多少の揺れはガマンしてください」

「ぅん……」

「いいなぁウラヌス。おんぶしてもらって」

「……」

 

 彼の吐息が少し強まる。かなり恥ずかしいんだろな。まぁ少しの間ガマンしてもらおう。

 

 

 

「アイシャ……」

「はい?」

「もう大丈夫だから……下ろして」

「嘘つかないでください。身体が震えてるじゃないですか」

「……」

 

 

 

「その、アイシャ……」

「なんです?」

「いいよ、もう下ろして……」

「もうじき宿ですから、そこまで背負いますよ」

「……」

 

 

 

 オータニアで常泊している時雨紅葉の前に到着する。

 私が宿先でしゃがみこむと、大急ぎでウラヌスが離れた。

 見ると、まだフラフラして足元が覚束ない。

 

「大丈夫ですか? 公衆浴場まで背負いますけど」

「ぃぃぃいいっ、いいっ、いい!

 ぜんぜん大丈夫だから! もう自分で歩ける!」

 

 うーん。そこまで言うなら……

 メレオロンが、息の荒いウラヌスの肩に手を置き、

 

「よくがんばったわね。

 ナイスガッツ」

「ぅるせぇー……」

 

 なんのこっちゃ。

 

 

 

 

 

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