どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第九章

 

 足早に協会本部の入口から外へ出て行く、桜色の髪。

 外の空気を吸って、ようやく徐々に足が遅くなっていく。

 

 ──まだ耳まで赤いのを自覚していた。全身がカッカと熱い。

 

 なんで、あんなこと言ったんだ俺……

 

 ほとんど初めて顔を合わせた相手、しかも子供に……性癖を洗いざらい暴露するような真似をして、心臓がバクバクいってる。

 

「はぐぅ……」

 

 身体の震えが止まらない。涙すら出てくる。あんな恥ずかしいことを、自分から進んでクチにしたなんて、いまだに信じられない。

 

 ……あの子もあのポスター、なんか事情あったんだろうな……

 

 正真正銘、あのポスターを恥ずかしがっているのを見てとれた。自分があのポスターを見た時、本当に羨ましく思ったものだ。……あれだけ女性的で、理想的な体型はちょっとお目にかかれない。

 実際に、彼女の身体を目の当たりにしたから、その直感が正しかったことを理解できた。

 

 でも、彼女はどうも……

 

 男性的な性格をしてるのかもしれない。……思い返せば、さっき着ていた衣服も男性が着るような運動着で、飾り気がなかった。

 

 分かってもらえると……思ったのか。

 いや、分かってもらえたから何だというのか……

 

 頭が混乱したまま、どことも知れず、火照りが冷めるまで、ただ歩いていく。

 

 

 

 ────我に返ると、どことも知れない閑散とした商店街をふらふら歩いていた。

 

 あ、れ……? 俺どこまで歩いてきたんだ?

 

 きょろきょろと見回す。スワルダニシティの地理は、それほど詳しくない。少なくとも現在位置が分からなくなってしまった。

 

 迷子とか、ハンター失格だろ俺……

 

 4年前に取得したプロハンターの証は、ハントの為のものではない。研究した神字で、資金稼ぎをする為のものだ。いつ追っ手が来ても撃退できるよう腕は磨いているが、何か狩る為に必要な資質には欠けていると自覚している。

 

 溜め息を吐き、来た道を戻る。……大体、なんで協会から出てきてしまったのか。他のハンターを勧誘することを考えなきゃいけない。あの子をアテにしたとしても、2人じゃどうしようもない。

 

 ざわっ……

 

 悪寒。視界の中に入った何かを認識し、全身のオーラが一瞬ざわついた。

 

 即座に静める。歩みはそのままに、ただ意識だけを鋭敏に尖らせる。こんな何でもない商店街に、なにが……

 

 少し前方から──

 

 茶色いツナギを着た、2人連れが歩いてきていた。フードを目深にかぶっており、ほぼ素肌は見えない。2人は手をつなぎながら、足早にこちらへ近づいてくる。

 

 お互いこの軌道だと、衝突してしまう。気づかれない程度に歩く軌道を徐々に調整し、横をすれ違える程度まで修正する。

 

 近くまで来ると、分かる。生命力精神力ともに、常人ではない。特に片方は、並大抵のプロハンタークラスですらない、相当なエネルギー量だ。

 

 すれ違う寸前──

 

 偶然か何か、ツナギのポケットから腕を引き抜こうとした。ぶつかりそうだったので、ひょいと避ける。

 

 すると、こちらを驚いた様子で見てきた。──人ならざる目で。

 

「……ぷはっ!!」

 

 突然そいつは大きく息を吐いた。こちらの腕をガッと掴んでくる。

 

「はぁ、はぁ……ちょっとアンタ。

 こっち来て!」

 

 ぐぃっと引っ張っていく。かなりの力──オーラ量だ。抗えないこともないが、敵意があるともないともつかない様子なので、ひとまず引っ張られるままに任せる。もう1人のツナギ姿もおろおろしながら、付いてきている。

 

 そのまま路地裏まで引っ張ってこられ。

 

 ワンピースの襟を掴んで、ドン! と俺を壁に押し付けた。

 

「……んだよ、苦しい。

 ナンパならお断りだぞ」

 

 軽口を叩いてみるが、シャレにならないパワーだ。真剣に『練』をする準備をした方がよさそうだな。

 

「なに言ってんの、アンタ……

 ん? 男なの?

 言っとくけどアタシは女よ」

「……

 だからナンパは」

「あーもう! 男とか女とか、どうでもいい!

 アンタ、なんで!?」

 

 ここまで顔を近づけられるとよく分かる。人間じゃない。顔だけでなく、全身がだ。

 爬虫類と人の合いの子のような姿だ。俺の目で見る限り、念能力ではない。間違いなく生身の姿だ。亜人型の魔獣か? こんな町の中に?

 

「……ちょっと待ってくれ。

 聞きたいことがあるなら答える。だから放せ。

 いったい何をそんなに興奮してるんだ。俺が何かしたのか」

 

 そう告げると、ようやく少し落ち着いたのか、こちらを解放した。全くやめてほしい。気に入りのワンピースが伸びちまう。

 

「ええ、アンタが何をしたのか聞きたいのよ。

 アンタの質問にも答えるから、正直に答えなさい」

 

 真摯な目を向けてくるので、俺も真面目に相対した。

 

 

 

 

 

「アンタ……どうやってアタシの【神の不在証明/パーフェクトプラン】を見破った?」

 

 

 

 

 

 お昼過ぎになっても、ネテロから連絡が来ない。

 

「長期戦かもなー……」

 

 仕方なしに、昼食を摂りに協会本部の外へ向かう。この中でもゴハンは食べられるけど、ちょっとウラヌスさんの話で頭がごちゃごちゃだし、美味しいモノでも食べて気分を切り替えたい。

 

 入口のロビーへ繋がる廊下を歩いていると、探索向きなカッコウをした男性が壁を背に、こちらを見ていた。

 

 手練れだな……

 

 それも上から数えた方が圧倒的に早いほどの。纏ったオーラや立ち姿からもそれが感じ取れる。

 

 こちらから目を逸らそうとしない男性の前を、私がそのまま通り過ぎようとすると、

 

「よう。……ゴンが世話になってるな」

 

 私は、足を止めた。

 

「……」

 

 理由は分からないが、やけに不穏な気配をぶつけてくる。

 ふつふつと湧きあがってくる嫌悪感を隠さず、私はそちらを睨みつけた。

 

「……ジン=フリークス、ですか?」

 

「そうだ。

 アンタに用があってな。アイシャ=コーザ」

 

 ゴンの、父親だ……

 

 ハンターになったゴンが、ずっと探し続けている人。

 くじら島にいるミトさんの、いとこ。

 

「何の用ですか?

 ……あぁ、私もあなたに少し話があったんですが」

「なんだ」

 

 そう言って、彼は壁から背を離した。

 

 ……ポケットから手は抜かないけど、こちらを警戒しているのが見てとれる。立ち居を見ても、尋常ではない練度だと知れる。

 

「どうしてゴンから逃げるんですか?

 ……ゴンは、あなたに会いたがっていますよ」

「会いにくりゃいいさ。見つけられればな」

「……逃げる理由は?」

「ゴンが探しに来るからさ」

 

 ……こいつ、答える気がないな。

 

「……。

 くじら島に帰って、ミトさんに謝ってください」

「何で帰る必要がある。いったい何を謝る必要がある」

 

 ちらちらと、ジンのことを話すミトさんの顔が浮かぶ。

 私が口を挟むようなことではない。……それは分かっている。

 

「ゴンの……父親でしょう、あなたは。

 育児放棄しないでください」

 

 ゴンにとって、母親はミトさんだ。それも分かってる。

 でも……実の母親ではない。

 

「オマエには関係ないだろう。

 ゴンを育てたがったのはミトの方だ」

「……あなたが、くじら島に帰れば済む話です」

「何の為にだ」

 

 目の前の男は……

 ミトさんが、どんな思いでゴンを育ててきたか、分かってないのか。

 ゴンが後を追ってくじら島を出た時、一体どんな思いで見送ったのか。

 ゴンがいない間、どんな思いで、過ごしていたのか……

 

 わたしは……

 

 

 

「ミトが自分から、オレに会いに来てほしいとでも言ったのか?」

 

 

 

 その、あからさまな侮蔑の響きに。

 

 

 

 

 

 ────頭のどこかで、ブチンと音がした。

 

 

 

 

 

 意識せずに消えた【天使のヴェール】から解き放たれた、莫大な量の禍々しいオーラが一斉にジンへと殺到する。

 

 この男の顔面を全力で叩き潰す。──幻視。

 

 胸倉を掴みあげ、拳を握りしめたところで──本当に一瞬手前で、踏みとどまっていた。

 

「あ・な・た・はぁぁぁ……ッ!!」

 

 それ以上、言葉が出ない……

 今からでも殴り倒したいぐらい、ハラワタが煮えたぎっている。……ワケが分からないほどに。

 私のオーラに当てられたジンが、流石に顔色を変えていた。口許を笑みにゆがめながら、

 

「こいつはすげぇな……

 ネテロのジジイを差し置いて、単身で巨大キメラアントを狩りに行けたわけだ」

 

 ぎりぃっ……

 

 歯軋りする。挑発に乗ってしまった。……けど、さっきの暴言だけは。許せない……

 

「……次。

 彼女を侮辱するようなことを言ったら……

 必ず、病院送りにします。

 ゴンには、あなたをお見舞いする形で、会わせますから」

 

 掴んだ胸倉を放し、にじんだ視界を指で拭う。もう【天使のヴェール】は再発動してる。……意味もなく、こんなところで出すべきオーラじゃなかった。あまり長居しないほうがよさそうだ。

 

「はぁ。……せいぜいゴンから逃げ回ればいいです。

 いずれ彼はあなたを越えて、悠々と見つけ出してみせるでしょう」

「そうか、楽しみだな。

 オマエみたいな仲間があいつに何人もいるなら、オレの助けなんていらねーだろ」

「……」

 

 パリストンもそうだけど、ジンには計り知れない部分がある。このまま会話を続けると、私の正体を見破られそうな危機感を覚える。

 

 乱れていた呼吸をようやく整え終える。

 

「……で、私に用ってなんですか。早く済ませてください」

「だったら喧嘩なんて売るなよ……

 ほれ」

 

 ジンがポケットから差し出してきた手には──

 

 見覚えのある指輪と、ジョイステーションのメモリーカード。

 

「……なんですか、それは」

「知ってるだろ?

 グリードアイランドに入る為のものさ。

 オレの仲間が、オマエに渡せと頼んできた。中身までは知らねぇな」

「……」

 

 グリードアイランドは、ゴンの父親であるジンと、ジンの仲間達が制作したゲームだ。

 

 おそらくは、ゴンを強く育てる為。……もっとも、ゴンがゲーム攻略で鍛えられた部分なんて、少ない実戦経験を多少底上げしてくれた程度だろう。ゴンは私達と修行を積み、ゲームに入る前の時点で、かなりの実力を身に付けていた。あの程度のモンスター達じゃ、ゴンの相手としては力不足だったからな。

 

「私が聞いてるのは、なぜそんな物を渡すのか、です。

 ……私が再びグリードアイランドに入るとは限らないでしょう。

 私はゴン達と一緒にゲームクリアし、クリア報酬も受け取っています。今更そんな物を渡されても……」

「そんなことは知らねーよ。

 オレの仲間は、オマエに渡せと言ってきたんだ。

 オレは、オマエにこれを手渡そうとしてるだけだ。

 受け取るかどうかは、オマエが決めろ」

「……」

 

 タイミングが良すぎる──私が警戒しているのはそれだ。さっきの会話を盗聴? いや、こんな準備よく立ち回れるはずはないか……全くの偶然とも考えにくいけれど。

 

「……いいでしょう。受け取ります。

 でもゲームに入るとしても、それを使うかどうかは分かりませんよ」

「別にどっちでもいいさ。

 オレの仲間がこれを渡してきたってことは、グリードアイランドのゲームマスターからオマエに何か伝えようとしてるってことだ。

 それでもゲームに入る時、使わねーと意地を張るなら好きにしな」

 

 ……無視していい情報だとは、確かに思わない。けど。

 

 この男に都合よく動かされているようで、気に食わない……

 

 ともあれ私は、ジンの手から指輪とメモリーカードをひったくる。

 

「オレが聞いてるのは、指輪とメモリーカードのプレイヤー名がアイシャになってるってことだけだ」

「……中身を知ってるじゃないですか。一体どういうつもりで……」

「ほんとに知らねぇよ。

 オレにいくら聞いたって仕方ないぞ」

 

 私が目にするジンのオーラや、立ち振る舞いの諸々は、あきらかに虚偽を口にしている気配だ。わざとそう見せてる気がするけど。

 

「……あなたの意見を聞かせてください。これは一体どういう意図のモノなのか。

 このままじゃ、気持ち悪くて使えません」

「ああ? めんどくせぇこと言いやがる……

 オマエ、変な能力持ってるだろ?」

「……」

 

 多分【ボス属性】のことだな。ゲームで何度も発動したから、ジンが知ってても不思議じゃない。

 

「それがどうかしましたか?」

「そいつが、相当に都合悪いんだろうぜ。

 オレは、ゲーム運営から手を引いてっから知ったこっちゃねーが、ヘタすりゃゲームをぶっ壊しちまう可能性があんだろ」

 

 ……都合が悪い?

 

 私にとってボス属性は、ゲーム攻略を妨げるマイナス要素でしかない。レオリオさんがいなければ、ゲーム内の移動やゲームからの脱出すら……

 

 ──脱出?

 

「あのゲームが、現実世界に存在することは知ってるな?」

「……グリードアイランドが、この世界のどこかにある島ってことですね。

 知ってます」

「島を探し出して、たまに直接乗り込んでくる連中がいる。

 ゲームマスターは、不正入島したやつらを専用の移動スペルで排除することができるんだが」

 

「────ッ!!」

 

 そうか。仮に私が不正入島しても、専用の移動スペルとやらで彼らは私を排除できない。それすらもボス属性は無効化してしまう。

 

 そうなれば、彼らは私を実力行使で排除するしかなくなるけど……

 

 もし排除に失敗すれば、私はグリードアイランドを蹂躙できてしまう。レオリオさんの【高速飛行能力/ルーラ】と組み合わせれば、島内外を自由に行き来して、際限なく指定ポケットカードのアイテムを入手できるかもしれない。

 

 ただ、ゲームマスター達がそれをそのままにするはずもない。

 

 結果……

 ゲーム全体が壊れてしまうことは大いにありえる。

 

「はっ。

 心配しなくてもオマエみたいな甘ちゃんが、ゲームを壊すような真似するとは思えねーけどな」

 

 こいつはこうやって、いちいち癇に障ることを言ってくるな……

 

「誰が甘ちゃんですか。知ったふうなクチを」

 

「……犠牲者を限りなく減らす為、巨大キメラアントを単身で狩りに行くようなヤツが、甘ちゃんでなければなんなんだよ」

 

「……

 何を言ってるんです。私は──」

 

 

 

「まるで、どれほどの被害が出るか分かってたような迅速な動きだ。

 オレは、不思議で、仕方ないね。

 巨大キメラアントが厄災級の危険を孕んでいたことを、オマエが『最初に』動き出した時点でどうやって知りえた?」

 

 

 

 ────ッッ!?

 

 こい、つ……!!

 

「……。

 答える義務は、ありません」

 

「そうかい。オレに対しちゃ、それでもいいがな。

 お前は自分の仲間に同じことを聞かれてもそう返すのか?」

 

「……!」

 

「オレが言ってやれるのはここまでだ。

 ……後は自分で考えろや。ハンターだろ?」

 

 そう言ってジンは、背を向けて歩き出した。

 私は手の中のメモリーカードと指輪を一瞥し、ポケットに収める。

 

 ……言い訳を用意しておけよってことか。腹立たしいほど先読みしてくるやつだな……

 

 これもう、私の正体きっちりバレてんじゃないか? なんなんだアイツは……

 

 はぁ……ゴハン食べてこよ。

 

 

 

 

 

 外へ向かいながらジンは、先ほど当てられたオーラを思い出し、ぶるりと身を震わせた。

 

 ポケットへ突っ込んだ手に、今さら汗がにじんでくる。

 

 ……とんでもなくヤベー女だな……

 

 危うく、一瞬で心をへし折られるところまで追い詰められた。ぎりぎりで自制したが。

 

 ……まあ、なに考えてんのか分かりやす過ぎて、読み甲斐はねーけどな……

 

 何となくミトを思い出して、やりづらい相手でもあったが。

 

 ……あれが人類最高の実力者、か。まったく、上には上がいるもんだ……

 

 

 

 

 

 私が多めの昼食を摂っている最中、ネテロから連絡が入った。すぐ飛行場に来い、と。

 

 とりあえず「タイミングが悪い!」と、怒っておいた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・アイシャの【ボス属性】と『排除/エリミネイト』問題



『-003:排除/エリミネイト』
 ゲームマスター専用
 遠距離特殊呪文 ランクなし カード化限度枚数なし
 G・Iに不当な方法で 侵入した者すべてを
 アイジエン大陸のどこかへ 飛ばす



 アイシャのボス属性は、グリードアイランドへ不当侵入した者達をアイジエン大陸まで飛ばす、ゲームマスター専用スペル『排除/エリミネイト』の効果まで打ち消してしまう。
 移動スペルを弾き、進入禁止プログラムをも突破する規格外な存在に、クリア後の指定ポケットカードのイベント再編成より、それにどう対処すべきかという話し合いでゲームマスター達は紛糾した。

 ……元々指定ポケットカードイベントのクリア後再編は、クリア前からそれなりに準備できていたので、グリードアイランド再開が遅れたのは、おおむねアイシャが原因である。スペル攻撃を消しまくったリィーナもだが。流石にチートすぐるだろう。大変迷惑な2人だったりする。何をおいてもボス属性、オマエほんといい加減にしろ。

 ボス属性「解せぬ」

 ちなみにレオリオの【高速飛行能力/ルーラ】で島外脱出によるアイテム持ち出し可能問題は、既に対策が存在する。



『-010:奪還/リキャプチャー』
 ゲームマスター専用
 遠距離特殊呪文 ランクなし カード化限度枚数なし
 G・Iから不当な方法で
 持ち出されたカード・アイテム すべてを
 G・Iに移動させる



 原作諸々には出てないですよ。こういうの無いとおかしいですけどね。そして、やっと仕事する『オリカ』タグ……




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