どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第八十七章

 

「あっ。帰ってきたよ」

 

 耳を塞いでアッチ向いてホイしていたウラヌスが、ワンピースをシームに引っ張られ、コッチを向く。

 

「アイシャ、その服着たんだ……」

 

 ここで着替えるつもりだったから、シームが背負っていた私のリュックはメレオロンが運んでいる。その中にある夏服は、これしかなかった……

 ウラヌスが着ているのとほとんど同じ、白いワンピース。

 

「ちなみに下は水着だから」

「言わなくていいじゃないですか、そんなこと……」

 

 メレオロンが余計なことを言う。着替えの手間を減らしたかったのは事実だけど……

 

「そっか。準備は済んだし、そろそろ行こっか」

「はっ?

 なに言ってんですか。次はあなたの番ですよね?」

 

 背を向けて歩き出そうとしたウラヌスの肩をがしっと掴む。

 

「い、いいじゃん、もう。

 アイシャも乗り気みたいだし、カード入手は任せるよ」

「眠たいこと言わないでください、往生際の悪い。

 メレオロン、後は頼みましたよ」

「ウラヌス。かもぉん」

 

 変態の呼び声に震え上がるウラヌス。

 

「早く行ってください、ね?

 それとも私も一緒に選んで差し上げましょう、か?」

「い、行ってきます!」

 

 私の脅しに屈し、メレオロンのところへ小走るウラヌス。

 

「それじゃ行きましょうか。

 アイシャに手間取ったから、アンタは手こずらせないでね?」

「お、お手柔らかにー……」

 

 処刑場に連行されるような面持ちで連れられていくウラヌス。文字通りだとは思うけど。

 

「まったく……」

 

 腕を組んで、溜め息を吐く。そばにいるシームが私を見上げ、

 

「アイシャ……

 ちょっと可哀想じゃない?」

「……」

 

 そうだね。私がしたのは八つ当たりだ。ウラヌスが水着をどうしても着たくないなら、拒否はできただろう。もう私が着てるんだし、彼が着る必要はない。

 でも、そんなのフェアじゃない。彼がどんな水着を着るか、拝ませてもらわないと気が済まない。……こんなの着させられたんだし。

 

「シームも、ウラヌスがどんな水着を選ぶか興味ありません?」

 

「……。あるけど」

 

 うむ、素直でよろしい。

 

 

 

 

 

 正直、目の毒な水着の群れに囲まれる中、

 

「で、なんで決められなかったの?

 男物か女物か、どっちかなら着れるんじゃないの?」

 

 変態から真面目に詰問される。俺は細く息を吐き、

 

「……そもそも、男物の水着も女物の水着も着たくない」

 

 はぁぁぁぁー……と心底呆れ返るように、メレオロンが嘆息する。

 

「アンタさ。

 普段あれだけ賢いのに、なんでこういうことになると頭使わないわけ?」

「ひどい言い草だな……」

「アンタ、水着を見たまんまのイメージで考えてるでしょ?」

「え? どういう意味だよ?」

「水着は下着じゃないの。泳ぐのに都合が良くて、他人に見られることを前提にした衣装なの。無闇に恥ずかしがる方がおかしいってどうして思わないの?」

「ぅー……」

「同じワンピースばっかり着てるアンタには分かんないでしょうけど、ファッションっていうのはトータルコーディネートが肝なのよ。

 工夫すれば恥ずかしくないようにいくらでも出来るのに、なんで少しは考えないの」

「……すいません……」

 

 なにも言い返す気力が湧いてこない。だって着たくないんだもん……

 

「これだから穿いてないアホの子は……」

「はいてないはいてない言うなよ、お前も。

 俺ホントそれキツいんだぞ」

 

 アホなのは認めるけど……

 

「事実じゃないの。

 普通なら無理してでも穿くでしょうに……これだから変態は」

「穿いてねーオマエにだけは言われたくねぇよ!」

「そんなこと言ったって、アタシは仕方ないわよ。

 まともな人体構造してないから、肌着下着が全然合わないんだもん」

「……そっか」

「アンタ達の服を見繕ってんのも、気を紛らわせてるのよ。

 いいから希望を言いなさい」

「希望って言われても……」

「別に否定でもなんでもいいから具体的に。

 何となくイヤ、じゃなくて」

「……。

 露出が多いのはイヤ」

「うん。それで?」

「……女性の下は穿けないし、男性の下は……」

「それ言うと、絶対水着なんて着れないって分かってるわよね?

 じゃあもう結論出てるじゃない」

「だって着たくないし……」

「あーもう。まず1個1個考えなさい。

 女性用水着をアンタが着れないのは、収まりが悪いからでしょ?」

「収まりとか言うな!」

「で、男性用水着を着たくないのは、アンタが女の精神だからでしょ?」

「うん……」

「なら答えは1つよ。

 収まりのいい女性用水着にすれば解決じゃない」

「……あんの?」

「多分あるわよ。

 人それぞれ事情ってもんがあるんだから、水着水着したのは着れない人も当然いるわよ。

 なら、そういう人向けの水着だって当然あるわけで」

「うーん……

 そういう人はいるかもしれんけど、水着を着ること自体避けるんじゃね? 普通」

「みんながみんな、いつでもそれができるとは限らないでしょ。

 現にアンタは、今から着なくちゃいけないわけだし」

「あ……うーん……まぁ」

「で、そういう水着があったらアンタは着るのよね?

 探した後でやっぱりイヤ、とか言っても聞かないわよ?」

「……

 あれば着るよ」

「よし。じゃあ探すわよ」

 

 

 

「これだったら、アンタが着てるのとイメージ的に変わらなくていいんじゃない?」

「つか、水着かコレ?

 こんなの着て泳げるとは思えないんだけど」

 

 マジで俺がいま着てるのと大差ねーよ。多分素材が違うんだろうけど、布地が多すぎて絶対泳ぐのに邪魔だと思う。

 

「うーん……

 どっちかっていうと水遊び用かもね。

 本格的に泳いだり潜ったりするのには向かないかも。

 ……でもさ。水着が露出多い理由って、その方が泳ぎやすいからなワケでしょ?

 アンタ、露出は少ない方がいいって言ってるのに、どっちも取れるワケないじゃない」

「……」

「そりゃ身体にフィットするピッチピチのでもいいなら、肌の露出は少なくなるけども。

 アンタが言う露出が少ないは、そういう意味じゃないでしょ? 見られても恥ずかしくないのがいいんでしょ?」

「……オマエがそんだけ気を使ってくれると、俺気持ち悪いんだけど」

「なによ、その言い方。

 アンタのことは昨日散々からかったから、今日は真面目にやってあげてるのに」

「お前……」

「ま、他にも探すけど、とりあえずコレは後で試着しましょう。

 アンタそこそこ小っちゃいから、まあまあ探しやすい方よ」

「ちっちゃいって言うなー……」

 

 

 

 あれやこれやと水着についてメレオロンと話していると、どんどん気力がすり減ってくのが分かる。シームやアイシャもこんな気分だったんだな……

 

「うーん。

 そういえばアンタ、別に胸ないけどやっぱり隠したいわよね?」

 

 なんでこんなこと答えなきゃいけないんだ……もうやだ、おうちに帰して。

 

「……」

「答えないなら、トップレス」

「……隠したぃ」

「うん。でもアレでしょ?

 露骨に女性用のは抵抗あるのよね」

「まぁ……余るに決まってるし」

「じゃあアレかな……

 アイシャが着けてるスポーツブラみたいな、広い面積カバーするタイプがいいわよね」

「お前、さらっと個人情報洩らすなよ」

「アンタも知ってるでしょうが。

 ちなみにあの子、ブラはアレしか着けてないわよ」

「だから、そういうこと言うなよ……」

 

 

 

 メレオロンが手にした水着を広げて見せ、

 

「ふむ、下はこれでいいんじゃない?」

「……あるんだな、こういうの」

 

 正直、感心した。これならまぁ……いけるか?

 

「だから言ったじゃない、事情は人それぞれだって。

 泳ぎたいけど、恥ずかしい水着はイヤっていう人もいるに決まってるでしょ。

 これでいい?」

「うん……」

「オッケー。じゃあ、とりあえず試着ね。

 ──あ、待った。

 アンタ穿いてないから、試着ダメだわ」

「へ?」

「水着の試着は、直ばき禁止。……マナーとしてね。

 もういいから買っちゃいましょう。多分似合うわよ。それ着て行くわよ」

「サ、サイズ違ったらどうすんだよ……」

「だ・い・じょ・う・ぶ。

 アンタのスリーサイズは把握してるから、見立てに狂いはないはず」

「お、おまえ……」

「最悪、買い直せばいいじゃない。

 さっさと買って、着替え着替え♪

 あ、そうそう。アイシャのスリーサイズも知ってるわよ。上から──」

「おいバカ、やめろッ!」

 

 

 

 ──少年脱衣中──

 

 

 

「やっぱピチピチだし。

 なんでアンタ、ぷにぷにとか言われんの?」

「見るな触るなオイ!

 1人で着れっからアッチ行け!」

「そんなこと言って、アンタほんとに着方わかんの?

 いいから力抜きなさいって。

 伸び縮みする生地でも、着る時ムチャしたら傷むわよ。

 泳いでる時に破けたらどうすんの?」

「わ……

 わかってるよ。はぁ……」

「うわっ!?

 ホントだ、アンタすっごいぷにぷにしてる!

 ……これってアレよね。あの猫と同じ感触よね。ひゃー」

「も、もまないで、お願いだから……

 俺、くすぐったいのダメなんだよ……」

「ほら、通すトコ間違えてる。

 アタシが一度着せてあげるから、抵抗しない。覚えたら、次から1人で大丈夫よ」

「やだよー……

 そんなこと言って、キュマニャン着せる時もお前メチャクチャあちこち触っただろ」

「あの時も、アンタが力抜かないから、危うく衣装破けるところだったじゃない。

 ああいうコスプレ服って頑丈じゃないんだから、気をつけなさいよ」

「なんで俺が怒られんだよー……」

 

 

 

 ──少年着衣中──

 

 

 

 

 

「あ。戻ってきた」

 

 うむ。私もそっち見てたから、もちろん分かってる。ていうか、ずっと気配探ってた。

 

 んー……? いつものワンピースと違うな。

 

「お待たせ……」

「こいつの水着は、いま着てるやつね」

『へ?』

 

 デザインは確かに違う。けど、いつも着てるのと似たようなワンピースでしょ、これ? ひらひらが強調されて花柄だけど。

 

「ほら」

 

 言って、メレオロンがウラヌスの肩をずりっとさせる。あ、ブラ着けてる。

 

「おぉい!? ズラすな!」

 

 顔を赤くして肩を戻すウラヌス。うぅむ……これはつまり……

 

 穿いたな。

 

「それで泳げるんですか?」

「上に羽織ってるのは水遊び用だし、これじゃ泳げないでしょうね。

 本格的に泳ぐ時は、上のを脱ぐのが前提。

 つまりこれ、水着を2枚重ねてる状態なのよ。下は1枚だけど」

「だからそういうことを言うなよ……」

「ついさっきまで0枚だったヤツがなに言ってんの」

「やめてー……」

 

 顔を覆うウラヌス。う、ぅむ……

 

 

 

 ドタバタしたものの何とか衣服を整え、ソルロンドの暑い街並みを歩く私達。

 夏服に着替えたおかげで、さっきほど暑くは感じないな。何となくオマケで買った麦藁帽子がいい感じだ。

 でも……

 

 目の前を並び歩くウラヌスとメレオロン。ちらちら時々こちらに目をやるのが気になる。メレオロンはツナギのままだから相変わらず暑そうだ。

 ウラヌスの格好、いいな……。なんだアレ。うらましいなチクショウ。私もそっちのがよかったんだけど。

 

「私、そっちの水着の方がよかったです」

 

 思ってたことがつい口に出てしまう。

 2人ともこちらを見て、

 

「だってアンタ、胸大きいんだもの」

 

 ぐぎぎぃ。分かってるよ! それでいつも困ってんだから!

 

「それに比べて、こいつのスリムなこと。

 子供サイズでもいけるから、よりどりみどりなのよね」

「お前……

 それ言われて、俺が喜ぶとでも思ってんのか?」

「ふふん。

 案外気に入ってるくせに、なに言ってんのよ。

 足取り軽いわよ」

 

 顔を赤くするウラヌス。あ、図星なんだ。……チクショウ!

 

「なら、カード入手はウラヌスにお任せしますね」

「イヤちょっと待ってよ、アイシャ。

 まだ水着、見せてもらってないんだけど?」

「み……

 水着を見せ合うなんて約束してませんもん。

 着るって約束はしましたけど……」

「えー。ぼくも見たいんだけど」

 

 隣を歩くシームからも攻撃が来る。……。

 

「俺だけ見せて、キミだけ見せないとかズルイじゃん」

「……ズルイのはアナタの方ですよ」

「へ? なんで?」

 

 あ、しまった。理由を説明できない。……水着を見せない限り。

 

 変態カメレオンがニヤーっとイヤらしく笑う。

 

「それは見せてあげないと、納得してもらえないわよねぇ。アイシャ。

 ウラヌス、早速泳ぐ必要があるイベントしに行かない?」

「……そだな。気が変わらないうちに、さっさと取りに行くか。

 いちおう、そっちにはもう向かってるんだけど」

 

 あああ! 既に外堀を埋められてる……いやだいやだ。

 

「ぼく楽しみだなー」

「シームがなに期待してるか知らないですけど、ロクなもんじゃないですよ……」

「アイシャ、可愛いから大丈夫だって。

 今も可愛いじゃん」

 

 ……そ、そりゃどうも。

 

「そういうシームだって可愛いじゃないですか。

 旅館で浴衣着てる時もそうでしたけど」

「ホント?

 でも可愛いって言われても、なんかなー」

 

 いや、ほんとアナタも可愛いよ。もちろん子供らしい可愛さだけど。可愛い盛りの少年って、こんな感じかな。なんだかんだでシーム美形だし。

 

 ふむ。試しに……

 

 麦藁帽子を外して、シームにかぶせる。

 

「んん?」

「やっぱり。お似合いですよ」

 

 ふふ、すっかり夏休みの少年みたいだ。どこかから聴こえてくる蝉の鳴き声と相まって、余計そんなふうに見える。麦藁帽子にリボンついてるけどねー。

 

「え? アイシャ、いいの?

 これ返すけど」

「かぶっててくれていいですよ。

 ……どうせ私は泳ぎますし」

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 

 手に感触。見ると、私の手をシームが握っていた。

 あー、うん……まぁいいか。

 シームの手を握り返す。……こうやって、手を繋いで歩くのも楽しいな。

 

 

 

 

 

「うらやましい?」

 

 後ろをちらりと見た俺に対し、隣の変態がそう尋ねてくる。

 2人に聞こえないよう小声で返す。

 

「……何がだよ。

 それはお前の方だろ?」

「そんな複雑な顔して強がってもねぇ」

「別に強がってない」

 

 自分で言って、強がりにしか聞こえないことを自覚する。

 ……仲良さそうで結構なことじゃないか。

 

「仲のいい姉弟みたいね」

「……。

 自分だってそうだろ?」

「アタシじゃどうしても、見た目がね。

 ……アンタもお姉さんいたんでしょ。仲よかったの?」

 

 沈黙する。……どう言えばいいんだろうな。

 

「……仲は、よかったと思う」

「色々あったのは分かるけど、あんまり難しく考えちゃダメよ。

 少しは今を楽しまなきゃ」

「楽しんではいるよ。

 ただ、思い出したくないこと思い出すと、どうしてもな。

 そのうち清算はしたいけど」

「……お姉さんにも復讐するの?」

「……。

 俺は──」

「あー、ごめん。

 やっぱいい。無理して答えないで」

「ちょっ。

 なんだよ、自分から聞いといて……」

「そんな深刻な顔されたら、聞きたくなくなるわよ。

 アンタもあんまり無理しちゃダメだからね」

「……アンタも、か。

 お前こそ、あんまり無理すんなよ。しんどいならしんどいって言え」

 

 今度はメレオロンが沈黙する。……俺は、昔やこれからのことを考えるとツライけど、いま本当に一番ツライのはこいつのはずだ。

 

「急いで整形したいなら、そう言え。

 すぐにでも整形マシーン取りに行ってやる。……他にも必要なモンあるけど」

「別にいいわよ。

 ……アンタやアイシャが我慢してるのに、アタシだけ優先してもらうわけにはいかないから」

「……。

 分かった。けど、無理すんなよ」

 

 メレオロンに釣られ、後ろを見る。2人とも会話を弾ませているようで、俺達が小声でしている会話を聞いてる様子はない。

 

「……アタシ達も、手ぇ繋ぐ?

 こんな手じゃ気持ち悪いだろうけど」

 

 ちらりとメレオロンの下げる手を見る。……馬鹿か、こいつ。

 

 こっちから手を取って、握ってやる。

 そんなこと言われて、拒否できるわけないだろ! くそっ!

 

 驚いたようにメレオロンが俺を見る。

 ぎゅっと、こっちの手を握り返してくる。

 

「ぷにぷにねぇ……あんたの手。

 握り心地すっごい良いわ」

「……お前の手も悪くないよ」

「まぁた、ウソばっかり」

 

 こいつの手は、とても人間の手とは言えない。確かに握り心地はよくない。

 

 そりゃ……ツライだろうな。

 俺やアイシャにやたらとスキンシップしてくるのは、うらやましいという気持ちもあるからだろう。……絶対それ以外の感情もあるだろうけど。

 俺にもアイシャのことをうらやむ気持ちはある。……けどこいつのそれは、俺と比較にならないはずだ。

 

「……。なんでアンタが泣くの?」

 

「泣いてない。あくびしただけだ」

 

 

 

 

 

 いつの間にか、前の2人も手を繋いで歩いていた。

 こそこそっとシームが、

 

「2人とも仲いいね」

 

 ……。ウラヌスとメレオロンがぎこちなく握り合う手から、切実な気配が伝わってくる。

 

 2人の間であったやりとりを想像し……

 改めて、私がどれだけしあわせなのかを実感する。

 

 うまくいくといいんだけどな。……ぜんぶ。

 

 

 

 

 

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